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抗生物質耐性 - ファクトシート

2009年03月16日
Dr. John Gammon
上級講師・アダルトナーシングスタディーズセンター長
ウェールズ大学
イギリス

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背景


今回のMICKSでは、抗生物質耐性という大きな問題について考えてみたい。様々な視点から考えた結果、今回はファクト・シートという形で簡潔にキーポイントを挙げながら、感染制御上の大きな意義を持つこの問題の概要について考察する。



抗生物質とは何か?

  • 抗生物質とは、他の微生物を殺生あるいは抑制する微生物により産生された抗菌薬である。抗生物質は二次代謝産物として主に土の中に生息する微生物により産生された低分子物質である。これら微生物の殆どは芽胞あるいは休眠細胞の形をとる。カビの中で抗生物質産生の有名なものはペニシリウム属(Penicillium)及びセファロスポリウム(Cephalosporium)であり、これらはβラクタム系抗生物質(ペニシリン及び類似種)の主な供給源である。細菌に関しては、放線菌類、特にストレプトミセス(Streptomyces)種が、アミノグリコシド抗生物質(例:ストレプトマイシン)、マクロライド(例:エリスロマイシン)、テトラサイクリンといった様々な種類の抗生物質を産生する。内生胞子形成バシラス属は、ポリミキシンやバシトラシンといったポリペプチド系抗生物質を産生する。
  • 感染の治療、場合により感染の予防にも使用される。
  • 同様に細菌を殺生する殆どの消毒剤とは違い、服用者への悪影響はない。これは“選択毒性”と呼ばれる。
  • 有機体が抗生物質に曝露すると、場合によっては死滅、または衰弱あるいは機能不全となり、動物本来の自然免疫能による殺生を容易にする、あるいは影響を全く受けない場合もある、といった様々な事態が発生する。
  • 人工的に合成された抗菌剤は、臨床現場において細菌性疾患あるいはウイルス性疾患の治療にも使用されている。



抗生物質耐性とは?

  • 一般的に抗生物質耐性とは、抗生物質の細菌殺生濃度が感染部位で達成されない状況を表す。
  • 全ての微生物があらゆる抗生物質の影響を受けやすいというわけではない。抗生物質により殺生あるいは抑制されない微生物は“抗生物質耐性”と呼ばれる。それらは抗生物質の存在下で成長、増殖を続ける。複数の抗生物質に耐性を持つ有機体を“多剤耐性”と呼ぶ。
  • 耐性とは通常であればその種の有機体にとって致命的な濃度の抗生物質の存在下で生存する有機体の能力である。
  • 細菌が耐性となるにはいくつかの方法がある。抗生物質を破壊する(例:酵素を産生)、抗生物質の細胞への進入を妨げる、抗生物質によるダメージを受ける前に抗生物質を細胞から追い出すなどである。
  • ある細菌がひとつの抗生物質に耐性があるとしても、全ての抗生物質に対して耐性があるというわけではない。しかし、ひとつ以上の抗生物質に耐性をもつ細菌も存在する。それらは多剤耐性と呼ばれ、最大の懸念事項となる。



抗生物質耐性はどのように発達するか?

  • 抗生物質に対する耐性を持つ細菌は抗生物質耐性遺伝子を持つ。異なる細菌遺伝子により異なる抗生物質耐性ができる。
  • もともと耐性を持つ細菌も何種類かある。突然変異により新たな耐性が自然にでき、これら耐性菌が増殖していく。
  • ひとつの細菌から別の細菌へ耐性が移動し、種の中で耐性を広げる。DNAの一部(プラスミド)により耐性遺伝子が細菌から細菌へ運ばれる。
  • 抗生物質が投与されると感受性菌は殺生されるが、耐性を持つものは生存、増殖する。これは選択的進化として知られている。抗生物質の使用量が増える(動物、農業、人間)と、“選択圧”もより大きくなり、耐性菌が優位な状況になる。これがダーウィンの進化論の適者生存の一例である。
  • 抗生物質が耐性の‘原因’となるわけではない。抗生物質はむしろ自然界に既存、あるいは偶発的に発生した耐性変異株の成長に優位な環境を作り出す。



抗生物質への菌耐性の原理

    1. 固有(自然)耐性 :細菌は生来抗生物質耐性を持つものもある。例えば放線菌の遺伝子は、その固有の抗生物質に対する耐性を持つ。あるいはグラム陰性菌は外側の細胞膜が抗生物質に対する透過障壁となる。またある有機体は抗生物質の運搬システムを持たない、もしくは抗生物質からの攻撃対象あるいは反応が欠落しているものもある。
    2. 獲得耐性: 細菌は抗生物質耐性を発達させることが可能である。例えば従来抗生物質に対して感受性がある微生物集団が耐性を持つ。このタイプの耐性は細菌ゲノムの変化により生じる。獲得耐性は細菌の2種類の遺伝過程によって決定される。
      • 垂直進化とされる突然変異及び選択。垂直進化とは自然淘汰の原則により決定される。細菌の染色体の偶発突然変異が、耐性を持つ細菌にしてしまう。その結果として突然変体細菌でないものは抗生物質の選択的環境では殺生され、突然変異耐性菌は抗生物質存在下での成長及び繁殖が可能である。
      • 菌株及び菌種間の遺伝子交換は水平進化と呼ばれる。水平進化とは遺伝子が別の有機体から耐性を得ることである。発現の可能性が最も高いのは、突然変異及び選択過程を通して遺伝子耐性を持った細菌が、この耐性遺伝子を遺伝子交換過程を通し他の細菌に‘提供’することが可能な場合である。
      • 細菌が実際に遺伝子交換が出来るプロセスは以下の3つである。
          1. 細胞同士の接触を含む接合。細菌のDNAはドナーとなる細菌表面の性線毛と呼ばれる毛髪状の構造から、受容体となる細菌の性線毛へ移動する。
          2. 形質導入-交配細菌間で遺伝子を移動させる能力をもった特殊なウイルス
          3. 変体-他の細菌から放出されたDNAを細胞外環境から直接獲得し、遺伝子組み換えが起こる。これは新しい遺伝子型(組み換え型)の出現を引き起こす。DNAがプラスミドとして交配細菌間を移動することは一般的である。



抗生物質耐性はどのように広がるか?

  • 耐性が一度確立されると、細菌は素早く増殖するため進化も急速である。耐性変異株は急速に微生物集団を侵略する。
  • 続いて耐性変異株は、他の細菌が広がるのと同様に、感染している人や動物との直接の接触を介し広がっていく。急速な発達の複合障害、高細胞密度、突然変異及び選択の遺伝過程、そして遺伝子交換能力は全て、細菌に見られる適応及び進化の異常な割合の原因となっている。以上のような理由から、抗生物質環境に対する菌耐性は進化時期に急速に起こり、それゆえ大きな臨床的影響及び意味を持つ。
  • 耐性は病院、特に救命救急診療や、非常に若いもしくは高齢者といった脆弱な患者に特異な問題である。
  • 抗生物質耐性は国によっては非常に一般的である(通常、抗生物質の使用制限があまり厳格ではない国)。また海外旅行の増加は、ある国で耐性菌に感染している人による他国への極めて急速な広がりを意味する。
  • 動物への抗生物質の広範囲に及ぶ使用により、何種類かの耐性菌が食品を通して人間に感染すると考えられている。



抗生物質耐性の影響とは?

  • 入院の長期化
  • 隔離予防策の必要性増加
  • コスト増加
  • 病気の長期化及びより高い死亡率


抗生物質耐性の制御

  • 抗生物質の使用を止めることが出来ない以上、抗生物質耐性はある程度不可避である。しかしその普及率の減速及び拡散の抑制のために出来ることは多数ある。あらゆる抗生物質の使用には慎重を期し、医療従事者は抗生物質に関する政策を順守せねばならない。
  • 耐性を持つ有機物の伝播を最小限にするための感染制御実践には以下のようなものがある。手指衛生、標準予防策及び感染経路別予防策、サーベイランス、環境消毒、場合により耐性細菌のスクリーニング等である。
  • 医療従事者及び患者に対して、抗生物質の不適切な処方を抑制するように教育する。
  • 抗生物質を処方された患者には、処方された量のみの服用を厳守させる。
  • 家畜への抗生物質の使用、特に成長促進目的での使用を低減する。
  • 将来の抗生物質耐性の出現及び拡散を最小限にするための国際協力が必要である。


Jg/2009

(翻訳:栗山千果)
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ギャモン博士は、多くの看護師および医療従事者に感染管理を指導。主な研究内容は「コミュニティおよび病院における手洗い」「隔離の実施とその心理学的影響」「病院内の感染管理教育」などがある。

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