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基本に立ち返ろう  ~感染の原則と感染制御のコアとなる戦略 ~

2010年06月03日
Dr. John Gammon
上級講師・アダルトナーシングスタディーズセンター長
ウェールズ大学
イギリス

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今回のMICKSでは、感染制御の基本に立ち返ってみたい。
感染制御の原則を「感染のチェーン」の具体的要因の検証に基づき見直し、また感染制御の戦略により、病院、クリニック、あるいは家庭においてケアされるひとの安全がどのように保証されるかを再検証する。

感染とは?


健康上、我々は何百万という微生物との調和の中に存在している。これら微生物は環境中、皮膚、粘膜、消化管などに存在する。病原性(病気の原因となる)の微生物は非常に少数であり、この生態系は微生物及び人間の両者にとって有益なものである。感染が発生するのは、環境と人間の宿主、そして常在細菌(共生細菌)のバランスが崩壊した時のみである。

感染という語彙は、一定数の微生物が脆弱部に及ぶ場合に使用される。それら微生物は増殖、有害な反応を引き起こす。そのような有害反応が全くない、もしくはあってもごくわずかな場合をコロナイゼーションと呼ぶ。
コロナイゼーションや感染の原因となる微生物は2つのグループに分類される。内因性及び外因性である。内因性感染、あるいは自己感染とは人間の身体の一部に存在する無害な微生物を指すが、他のより脆弱な部分へ及んだ場合は病原性となり得る。例として、通常は病原性ではない表皮ブドウ球菌は皮膚に存在する無害な細菌であるが、静脈内挿管や整形外科で用いられる人工器官といったプラスチック製器具に対する特定の結合性を有する。しかしこの細菌は、人工股関節置換手術を受けた患者の関節部分の深刻な感染の原因となることも報告されている。

黄色ブドウ球菌といった細菌が患者に存在するものではなく医療従事者が保菌していたり、あるいは汚染された環境中に存在する場合、外因性感染(交差感染)と呼ばれる。水痘、麻疹、ポリオなどは外因性感染の典型的な例である。

正常な宿主防衛を持つ人間であれば、何種類かの微生物も通常は病気の原因にはならない。例えば緑膿菌は通常は病原性ではないが、免疫力が低下した入院患者の多くにとっては、深刻な病気の原因となる。これを日和見感染と呼ぶ。

感染のチェーン


感染のチェーンには基本的に3つの要素がある。

  • 感染源
  • 感染経路
  • 感受性宿主

感染管理の原則は、この事象のチェーンの分断あるいは破壊に基づいている。


1. 感染源あるいは原因物質


感染源あるいは原因物質は内因性もしくは外因性である。感染源としては他の患者、スタッフ、病院の設備等。原因物質は細菌、ウイルス、カビ、寄生生物といったような微生物である。病気(疾患)は必ずしも微生物の侵入が原因ではなく、実に様々な要因によって決まる。侵入した微生物の病原性、感染を引き起こすのに十分な微生物量、微生物の毒性及び特異性、そして感染源から離れた後に生き残る生命力の強さなどがこれら要因に含まれる。

(a) 病原性
微生物の病原性は病気の誘発力を指標とする。この病原性は、以下のような3つの要因によって変化する。
  • 病原性 - 微生物を原因とする病気の重症度
  • 侵襲性 窶桃ラ胞組織に侵入し、生体防御力を圧倒する能力
  • 毒性 - 毒素を産生し細胞組織を破壊する能力(例:クロストリジウムディフィシル)

(b) 量
感染を引き起こすのに必要な量、つまり必要感染用量である。例としては、大量の黄色ブドウ球菌(100,000 (105))でも臨床感染なしに正常な皮膚に塗布や注射が可能である。一方、サルモネラ菌は106であるが、胃酸が不足していると少量でも感染を引き起こす場合もある。制酸薬を定期的に服用している高齢患者においては、胃の中のpHが高くなっている(アルカリ性)ため、腸管感染症のリスクが高い可能性がある。

(c) 特異性
影響を受ける宿主の範囲に関しては特異である。例えば、ネズミチフス菌が影響を及ぼすのは人間のみである。

(d) その他の要因としては、生体防御を破壊するような酵素の産生、新しい変異体の産生、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のようにプラスミド伝達の過程での薬剤耐性などである。

2. 伝播形態


伝播は、感染のチェーンのもう一つのリンクであり、微生物の感染源から他への移動を表す。微生物には感受性宿主に何らかの方法で感染した時のみ感染のリスクがある。
有機体は感受性宿主に何らかの方法で伝播された場合のみ、感染のリスクを伴う。いくつかの例(C型肝炎)においては交差感染については不明であるが、拡散は様々なルートが考えられる。

有機体によっては伝播方法はひとつであったり、あるいは2つ以上の経路で伝播する場合もある。例えばMRSAは接触、あるいは空気感染である。サルモネラ菌種の伝播経路は接触、間接的接触、あるいは生物媒介である。特定の疾患の伝播方法についての知識は感染をコントロールする上で重要となる。

拡散方法の分類


  • 接触による拡散‐直接、間接
  • 空中浮遊‐人、環境、エアロゾル
  • 生物媒介

  • 接触による拡散
  • 直接、間接の場合がある。

    • 直接的接触
    • 交差感染は、感染性有機体との直接の身体的接触により起こる。拡散の方法としては、感染性体液との接触、あるいは医療従事者の手を介してなどである。特にMRSAといった有機体の交差感染において、最も重大なのが後者である。我々の手に存在するバクテリアは、もともと存在しているものか、あるいは一時的に存在しているもののどちらかである。もともと存在しているバクテリアは、皮膚の真皮もしくは表皮の奥深くで発見される。それらは、交差感染を日常的に引き起こすものではないと考えられている。一時的に存在するバクテリアは、手の皮膚の上層に存在する。これらの微生物はルーチンのケアの中で手に付着し、最も感染を引き起こす原因であると考えられているが、幸い十分な手洗いと乾燥によって容易に除去することができる。

    • 間接的接触
    • 間接的な接触は、しばしば拡散の一般的な方法とみなされ、食べ物、血液、血液製剤、消毒剤、液体、器材器具といった物質を含む感染源との間接的接触を意味する。

  • 空中浮遊
  • 空気感染とは、そのもともとの感染源から空気中に播種する微生物の拡散である。

    • * 人
    • 呼吸器系飛沫(例:肺結核、肺炎、麻疹) 皮膚の鱗屑(例:MRSA)

    • * 環境
    • ほこり、芽胞 水冷却塔やシャワー(例:レジオネラ菌)

    • * 器具器材
    • ネブライザー(例:グラム陰性緑膿菌) 加湿器(例:桿菌)


  • 生物媒介

微生物の体内もしくは身体表面、あるいは媒介生物の付属器官への機械的な移動を表し、例えば赤痢菌やサルモネラ菌はハエを媒介に伝播する。また、マラリア原虫が蚊の体内で生物学的変化を起こすように、伝播はまた生物の生物学的変化の過程でも起こる。感受性宿主への伝播に続き、有機体は宿主の体内へ入り込み、感染を引き起こすことができるような脆弱部へ到達する必要がある。


3. 宿主


宿主も感染のチェーンの重要なリンクのひとつである。感染性微生物の存在自体は必ずしも病的状態ではないが、人によっては病原菌のキャリアになる場合もある(HIV、B型肝炎ウイルス、MRSA)。無症状ではあるものの、有機体を他へ伝播することはできる。感染が起こる前に様々な要因を克服する必要がある。宿主の感染に対する耐性は以下に依存する。

  • 一般的な身体の防御メカニズム(例:皮膚)
  • 先天性(非特異性)免疫
  • 能動的、受動的後天性免疫

  • 全般的な身体防御
  • 以下を含む。
    • 傷のない表皮や粘膜といった物理的防御
    • 付着有機体を伴う表面細胞の落屑(脱落)
    • 咳やまばたき、器官の繊毛活動などによる無意識の除去
    • 汗、涙、唾液、組織液などに含まれるリゾチームのような抗菌性分泌物の産出。汗、胃液、膣分泌物の酸性度と、アルカリ性分泌物(胆汁)の産出。
    • 血清中の殺菌性免疫グロブリン
    • マクロファージや上皮細胞による貪食
    • 上気道、口、結腸、膣、皮膚、胃などの中に存在する共生生物
  • 先天性免疫
  • これは、個人が性別、年齢、人種、家系、貪食やインターフェロンといった細胞因子などの遺伝的要因の結果持っている免疫である。先天性免疫は、またその人の栄養状態や年齢、基礎疾患によっても影響を受ける。
  • 後天性免疫
  • 能動的

    後天性免疫は、人が独自の抗体を生成する際に能動的であると言われている。予防接種(B型肝炎ウイルス)あるいは亜臨床的、臨床的、感染(麻疹、水痘)の何れかの後に起こる。

    受動的

    受動免疫は、機能した抗体の移行を伴い起こる。経胎盤的に起こるか、あるいは免疫グロブリンの投与により起こる。受動免疫は短期間のみである。


感染制御の戦略


交差感染の防止を目的とする場合、感染制御の戦略を看護活動に組み込むことが必須となる。この戦略には多数の要素があるが、その全ては同等の重要性を持ち、順守及び責任が必要となる。しかし、この戦略には達成すべき3つの目的があり、何れも感染のチェーンの構成要素と関係している。

  • 感染源(有機体)の管理もしくは除去(例:病院の設備の汚染除去)
  • 潜在源から感染患者、もしくはスタッフへの有機体の移動経路の遮断もしくは妨害(例:隔離)
  • 患者の感染への耐性の強化及び易感染者の防護(例:スタッフのB型肝炎予防接種、子供への予防接種、保護隔離、十分な栄養)

感染制御戦略は、手洗いや汚染除去、効果的なリネン管理、隔離予防策といった数々の適切な感染制御対策の実施を通して順守される。効果的な教育、指針、管理体制、資源の提供により深い関与も得られる。

安全なケア環境の原則

安全な感染制御の実施は、個々の治療や処置だけでなく環境も含まれる。「安全なケア環境」とは、ヘルスケアの場で使用される言葉であり、人々が被害を受けることのない安全な環境を意味する。病院という環境の中では、結果として汚染の減少や破壊、潜在的被害の評価、リスクを最小限にするケアの実施となる一連の行為を指す。

安全な環境の開始及び維持は雇用者と被雇用者の責任である。

リスク評価

安全なケア環境の開発及び維持の中心となるのは、リスク評価であり、これは特に感染制御と関連する近代的な管理ツールである。効果的なリスク評価プログラムでもリスクを完全に排除することはできないが、感染制御のための良いリスク管理方法とは、スタッフが潜在的リスクを認識し、交差感染や他者への被害が発生する前に対処できることである。

潜在的リスクは、殆どの環境に存在しており、実際の環境、設備、人、実施されているシステムや業務と関係している。感染制御におけるリスク管理とは、前述のそれぞれのエリアにおいて感染制御の積極的な取り組みがなされていることを保証するために取り組まれるべきである。

感染制御におけるリスク管理は4つのステップのサイクルで構成されている。

  • リスク特定 例:リスクとは?悪い方向へ進む可能性のあるものは?何が起こりえるか?結果は?
  • リスク分析  例:起こる頻度は?コストはどれくらいかかるか?結果はどの程度深刻になり得るか?
  • リスクコントロール  例:どうすれば除去できるか?どうすれば避けられるか?どうすれば可能性を低くできるか?どうすれば低コストにできるか?
  • リスク財源  例:残存リスクへの取り組み及び既存リスクの管理のための財源の確保。つまり感染制御への投資が効果的なヘルスケアサービス管理のキーとなる。


上に述べたように安全な環境の構成要素とは、以下である。

  • リスク管理方法及び方針
  • 日常的な病院の清掃、消毒、滅菌
  • 医療廃棄物の管理
  • 滅菌業務
  • 安全衛生規定
  • 食品安全及び配膳の衛生
  • 厳格なケアの実施


ケアには様々なものがあるが、以下がその何例かである。

  • 効果的な手洗い
  • 標準予防策
  • リネン及び医療廃棄物の効果的な管理
  • 隔離システム
  • 特定の微生物(MRSAなど)の管理
  • 防護具


結論

今回のこのMICKSでは感染制御の基本原理についてまとめた。感染及び完成性疾患に関する主要な要素は以下の何れかである。


  • 感染源の除去
  • 伝播経路の遮断
  • 宿主の耐性の強化

全ての感染制御の実施は、この基本要素のひとつかひとつ以上と関係している。

JG/2010a



(翻訳:栗山千果)
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ギャモン博士は、多くの看護師および医療従事者に感染管理を指導。主な研究内容は「コミュニティおよび病院における手洗い」「隔離の実施とその心理学的影響」「病院内の感染管理教育」などがある。

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