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病院の清掃‐病院環境の汚染除去におけるマイクロクロスの役割

2011年08月11日
Dr. John Gammon
上級講師・アダルトナーシングスタディーズセンター長
ウェールズ大学
イギリス

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院内感染は未だ大きな問題であり、患者にとっても非常に高いリスクである(Dettenkofer and Spencer 2007)。予防策の中で清掃及び消毒はスタッフや患者がリスクにさらされていないことを再確認するものである(Dettenkofer and Spencer 2007)。効果的な院内清掃は質の高い患者ケアには必要不可欠であり、また患者の印象も向上させる。一般的には目に見えて汚れている病棟とMRSA発生率の増加は関連している(Dancer 2008)。

医療関連感染(HCAI)と関連している微生物の多くは病院の厳しい環境に耐えることができる(Dancer 1999)。Ramplingらが実施した系統的再調査によると、MRSA及びその他の病原菌は環境中に3カ月から5年もの間生存することができる(2001)。Frenchらもこの結果を支持しており、彼らの実施した対照臨床試験では最終清掃後でさえMRSAが残っていた(2004)。最も強い病原菌のひとつが嫌気性グラム陽性桿菌であり、抗生物質耐性の大腸炎と関連しているクロストリジウムディフィシルであり、これは極端な温度や乾燥、更には病院で使用されている消毒剤の多くにも耐えうる芽胞を形成する。芽胞は環境下に何カ月にも渡り存在し、多数の洗浄剤にも耐性を持つ(Wilcoxら 2003)。

清掃は科学的根拠に基づいているとは見なされてはおらず、それゆえ科学界からもあまり注目されていない。Dancerが指摘しているように清掃と病原菌の根絶を支持するような証拠を特定するのも極めて困難である(2002)。Boyceは環境の清掃あるいは消毒により病原菌の伝播率が減少したとし(2007)、Rutalaら(2007)及びWhiteら(2007)もこれを支持している。

ある特定の条件下では洗剤や消毒薬は清潔な環境の維持には重要な手段であるが、ヘルスサービスのコストとなることもまた事実である。消毒薬の薬剤には酸素を発生する過酸化物やアンモニアといった合成物が含まれており、健康を害する(Thorsteinsson ら 2003)ことから、消毒薬の使用自体に問題がある。更に洗剤の使用と抗菌薬耐性が関係する可能性を示す証拠も増えてきている(Boyce 2007, Fraise 2007, Russell 2003, Russell 2002)。

環境清掃では近年数々の発展が見られる。医療施設がその清浄度を改善するための新しい方法を見つけることが重要であり、これはスタッフや世間の感染に対する懸念を緩和するだけでなく、意欲にもポジティブな影響があり、入院の短期化や交差感染も減少させ、全体的な医療の提供を改善する。過去数年間で従来の清掃方法はその正当性が疑問視され、スチームクリーニング、マイクロファイバー、過酸化水素といったような新しい方法に切り替わってきている。

マイクロクロス

マイクロファイバークロスは近年英国や他の多数の国でも導入されており、病棟の表面清掃には効果的であることが実証されている(Hamiltonら 2010, Wrenら 2008, DOH 2007, ADM 2004)。マイクロファイバーは1990年代から流通しており、環境にやさしいと言われている。マイクロファイバーは球状繊維から派生したものと、油や埃を吸収するポリエステル、水を吸収するポリアミドのより太い合成繊維からできている(Nilsen ら 2002)。この繊維は人間の髪の毛の約16分の1の太さであり、表面積は従来のモップに使用されている綿繊維の40倍もある(Rutalaら2007)。高密度の素材は従来のモップの6倍の水分を吸収することができる。クロスは静電気的引力と毛管作用のコンビネーションにより微粒子を除去する(Hamiltonら 2010)。微生物や患者やスタッフから剥がれ床に落ちた細胞を含んだ埃がマイナスに荷電するのに対し、繊維はプラスに荷電するため、微粒子はモップに吸着する(Polonsky and Roill 2004)。

マイクロファイバーモップの使用についての研究は非常に少ないが、DoH(2007)はマイクロファイバーと蒸気(スチーム)を使用する清掃への統合的取り組みの影響とメリットについてのレポートを発表している。Grantら(2007)が引用している近年の報告によると、マイクロファイバーでできている布は従来の布に比べ優れたバクテリア除去性能を持つことが確認されている。Wrenら(2008)は別の病院の研究で最初に蒸気で表面清掃を行った後、ウルトラマイクロファイバークロスと従来のJクロスを試したが、彼らもGrantらを支持している。全ての表面を故意に汚染し、更に現実の環境により近付けるためにバクテリアで2時間おきに再度汚染させた。結果として、ウルトラマイクロファイバーはしばしばバクテリアを完全に除去する程に優れていることが実証された。

Nielsenら(2002)はマイクロファイバーシステムが感染制御の観点よりも環境に優しいことを利点として論じている。スタッフの洗剤への暴露、及び水と布の使用量も減少するからであろう。Rutalaら(2007)は従来のループモップと比較し、マイクロファイバーモップが洗剤使用時に微生物除去の点で優れていると実証した。しかしマイクロファイバーモップは、消毒薬使用時でも洗剤使用時とそのその効果に差がなく、一方従来のループモップは消毒薬との併用においては優れていることも確認された。

マイクロファイバーシステムは、薬品への暴露の減少といった安全衛生面でのメリットが多数あると、Desaら(2003)もその使用を推奨している。マイクロファイバーシステム賛成派のPolansky(2004)も、感染制御対策になるという点も含めそのメリットを多数述べている。だが一方で、彼らの研究ではそのような結果が導き出された経緯や、研究自体がどのように行われたか、ということに触れていない。患者ごとにきれいな水と新しいマイクロファイバーモップを使用したということは説明されているが、結果を正当化したことにはならない。例えば目視による評価や微生物数のカウントもされていないのである。

Bergenら(2009)は、マイクロファイバークロスを清掃に使用するとバクテリアを広げることになる、という仮説を検証した。これは比較実験であり、表面を2種類のバクテリアで汚染し、マイクロファイバークロスを16回折りたたみ、無菌状態の表面をいくつか拭いてみる。目視では表面は明らかに清潔であり、検査をしても汚染された表面の微生物の数の減少が実証されたが、バクテリアはマイクロファイバークロスを介し無菌表面に広げられた。これはMRSAといったような細菌がマイクロファイバークロスに付着するということを意味している。しかしこの実験はラボで行われており、実際の病棟で行われてはいなかった。

マイクロファイバーの大きなデメリットは塩素系消毒薬との併用ができないことである。前述したように消毒薬は微生物負荷を減少させるが、Hamiltonら(2007)はウルトラマイクロファイバークロスと水、銅基殺生物薬溶液を併用した場合の効果を比較実験した。この実験は4箇所の臨床現場で7週間にわたり実施された。そのデータは妥当性を確保するためにブラインド解析され、ウルトラマイクロファイバーと銅基殺生物薬を併用した清掃による微生物数の著しい減少が実証された。Grantら(2007)もこの結果を支持しており、銅基殺生物薬とマイクロファイバーの併用を推奨している。これは研究でもクロストリジウム・ディフィシルの頑丈な芽胞に対し有効であることが立証されており、また室温で保管されたモップにも生存細菌は確認されなかった。

有効な研究の多くがマイクロファイバーの環境への優しさを実証している一方、感染管理についての議論もいくつか存在する。しかしマイクロファイバーの導入は施設にとってはコストが掛かるのである。Lehman(2004)はそのシステムのメリットだけでなく、コストについても論じている。特に最近の資金繰りに苦労している施設にとっては初期費用も大変な課題となる。環境保護庁(EPA)は、マイクロファイバーモップは従来のモップの3倍程の費用が掛かるが、長持ちするため長期的に見るとコスト削減になると指摘している(2002)。DoH(2007)もこれを支持し、どのような施設にも導入時の初期投資は必要であり、恐らく最大の費用はランドリーサービス向けであろう、と説明している。

環境清掃の重要性と洗剤と消毒薬の使用については議論がなされている。殺生物薬を使用した場合はどちらの方法も効果的であるという説明がなされている一方で、マイクロファイバーは従来の方法よりも優れているという議論もされている。

マイクロファイバーシステムの使用についての質の高い研究文献の数は限られており、より科学的なエビデンスと特に定量的アプローチが取れるように制御された条件が要求される(Moore and Griffiths, 2006)。分析した研究の多くはマイクロファイバーの製造販売を行っている企業がスポンサーになっているため、研究結果については慎重に検討すべきであろう。MooreとGriffiths(2006)はマイクロファイバーは従来のモップとバケツと比較しても必ずしも優れた清掃用品ではないという点を明確にしている。Dancer(2009)も指摘しているように、清掃がエビデンスに基づく科学となるまでは、清潔な医療環境の重要性は常に理論の域を出ることはない。



(翻訳:栗山千果)
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ギャモン博士は、多くの看護師および医療従事者に感染管理を指導。主な研究内容は「コミュニティおよび病院における手洗い」「隔離の実施とその心理学的影響」「病院内の感染管理教育」などがある。

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