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新型インフルエンザパンデミック

2008年05月07日
Dr. John Gammon
上級講師・アダルトナーシングスタディーズセンター長
ウェールズ大学
イギリス

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新型インフルエンザパンデミック 2008年4月

背景

今回のMICKSでは新型インフルエンザパンデミックをトピックとして取り上げる。これは非常に大きな公衆衛生上の問題となり得、また病院や広くは地域社会にとって感染管理上の重要な意味を持つものである。この問題は各メディアでも大きく取り上げられており、多くの専門家グループの中でも広く議論されている。今回私がこのトピックを選んだのも、MICKSの中で皆様と共に考えることが非常に有益であると信じているからである。

“フル(風邪)”という言葉は種々の一般的な症状を示すのに使われる一般的な名称であるのに対し、“インフルエンザ”はインフルエンザウイルスが原因の急性感染性呼吸器疾患であり、発熱、突然の寒気、頭痛、筋肉痛、極度の衰弱、そして通常喉の痛み若しくはその他の呼吸器症状を伴う(伴わない場合もある)咳が特徴である。一般的な潜伏期間は1~3日(典型的には2日)であり、急性症状が1週間程続く反面、完治にはより長い時間を要す。成人は発症してから4、5日間は感染し易くなる。インフルエンザ流行の原因は、主に感染者が会話、咳、くしゃみ(飛沫の直接拡散)をした際に出る感染性呼吸分泌物の飛沫による呼吸経路感染である。また人や感染性呼吸飛沫で汚染された表面に触れた手や顔を介して広まる可能性もある。細かい呼吸性エアロゾル(長期間空気中に浮遊するため感染拡大の効果を持つ)を通しての空気感染が起こる場合もある。

パンデミックとは、人口の大部分に影響を及ぼすような病気の広い地理的地域に渡る流行という意味である。それゆえ、パンデミックインフルエンザとは全人口の免疫が僅か、若しくは全く無いタイプの重大な新型インフルエンザAの発生を意味する。新型インフルエンザは通常のインフルエンザと同じように蔓延するが、重篤な病気若しくは死に至る可能性がより高い。

インフルエンザパンデミックの現実的なリスク!

現在のところはヒトインフルエンザウイルスのパンデミックは確認されていない。ヒトインフルエンザパンデミックのリスクは季節的な風邪や鳥インフルエンザとは異なる。アジアにおける鳥インフルエンザのヒトへの感染例は厳密な意味ではインフルエンザパンデミックではない。(WHOではフェーズ3:ヒト-ヒト感染は無いか、または極めて限定されている。)季節的なインフルエンザのアウトブレイクの原因は、既にヒトに流行しており、時折深刻な病気を引き起こすインフルエンザウイルスの亜型(サブタイプ)である。しかしながら、ワクチンの効果や、多くの人が既に免疫を持っていることから感染者は少数である。鳥インフルエンザとは、鳥の感染性の病気で、通常は気付かないような症状を引き起こすか、または全く無症状の場合もあるインフルエンザウイルスが原因であり、世界中で確認されている。しかし、H5N1といったようなウイルス株はより深刻な鳥の病気であり、致死率の極めて高い鳥インフルエンザウイルスであるH5N1の人間への感染は稀である。何よりも、今まで報告されているヒトのケースが全て、感染した家禽類と直接接触したヒトという訳ではない。鳥インフルエンザウイルスがパンデミックインフルエンザとなるような継続的なヒト-ヒト感染のエビデンスはない。

国際的には、パンデミックの恐怖に焦点を当て、また現在の鳥インフルエンザの増加はヒトの間でのパンデミックが近未来に発生するという前兆だとの仮説を立てているようなメディアの報道が数を増している。現在流通している菌株とは明らかに異なった新しいウイルスの出現により、人間に影響を及ぼすようなインフルエンザがパンデミックとなる可能性がある。そのような可能性のある条件を下に記す。

(a)鳥インフルエンザと通常のインフルエンザの結合(一体化)

(b)鳥インフルエンザウイルスの突然変異及びヒトからヒトへ直接感染する全く新種のインフルエンザ菌株の発生

(c)流通している菌株からの新しいインフルエンザウイルスの発生

これらはまだ発生していないが、万が一インフルエンザパンデミックが起こった場合は非常に大きな問題となる。稀に新しいウイルスに対する免疫を持っている人間がいたとしてもごく少数である。 そのため広範囲に渡って広がり、より多くの人間が感染することとなる。専門家は新しいパンデミックが起こると予言しているが、具体的にいつ起こるのかということについては解らないとしている。パンデミックに成り得る条件はそれぞれ異なっており、ウイルスが流通するまでその全体的な影響について予測することは不可能である。新種のウイルスがヒトの間に容易に伝播するということが判明した時のみに、インフルエンザパンデミックが迫っていると考えられる。つまり実際には、ウイルスの新しい菌株がヒトからヒトへ感染する病気連鎖の原因であることが識別された場合、もしくは明確な関連性もないのにも関わらず1カ国以上で病気が報告された場合を意味するが、このような状況もまだ発生していない。

将来ヒトインフルエンザウイルスが再び大きく変化することは避けることはできないが、実際にそれがいつなのか、またその病気がどれ程深刻なものなのかということは誰にも予測できない。現在の鳥インフルエンザがパンデミックとなるには、効率的なヒトヒト感染能力のあるタイプへと進化しなくてはならない。これは実際に起こるかも知れないし、起こらないかも知れない。

世界の一部で起こったアウトブレイクの際、ウイルスが他国へ急速に伝播した原因は、現代的な移動パターンである可能性が高い。ヒトがH5N1型に感染したのは、感染した家禽類、あるいは家禽生産食品類との密接且つ長期的な接触によるものである。H5N1型がヒトからヒトへ容易に感染する能力を持つことを示す証拠(エビデンス)はない。ヒトインフルエンザパンデミックはインフルエンザウイルスがヒトの間で効率よく且つ速く伝播する能力を得た時のみに引き起こされる。このような状況もまだ発生していない。

国家及び国際政府機関の計画

政府には人間の健康に対する責任があり、当然ヒトインフルエンザパンデミックへの対策にも責任を持つ。いかなるアウトブレイクの影響も予測できない以上、国家は下記に留意しなくてはならない。

・準備-十分な計画、例:インフルエンザパンデミックに対する国家戦略と運用政策、抗ウイルス薬及びその他の感染制御設備の備蓄、ワクチンの確保と新しいワクチンを早急に確保できる能力

・柔軟性-地域での緊急事態対策のためのしっかりとした一般的な準備。地方、地域、中央組織レベルで、ヒトインフルエンザパンデミックのアウトブレイクに対応するオプションと戦略を準備し、適切なアクションプランを確認する。

・決断力-パンデミックに対し断固たる指導、計画、対応をするための明確な準備がされていること。合意戦略はエビデンスベースであり、試行され、計画及び必要な対応作業をする指導機関及び指導責任者を含むこと。

・国際的-鳥インフルエンザ及びパンデミックインフルエンザは共に地球への影響があるため、地球規模で対処しなくてはならない。そのため疫学の有識者との国際協力が、国際的なコントロール及びアウトブレイクの管理には非常に重要である。世界保健機構(WHO)は以下の6段階(フェーズ)を定めている。

フェーズ1:新型インフルエンザウイルスの亜型(サブタイプ)がヒトに確認されていない。

フェーズ2:動物のインフルエンザウイルスの亜型(サブタイプ)に非常に高いリスクがある。

フェーズ3:新しい亜型(サブタイプ)のヒト感染があるが、密接な接触でのヒトヒト感染はない(もしくはまれである)。

フェーズ4:限られた集団の中でのヒトヒト感染はあるが極めて局地的なもので、ウイルスのヒトへの適応はない。

フェーズ5:ヒトヒト感染の集団は大規模であるが、地域的であり、ウイルスがヒトへより適応し始めている。

フェーズ6:一般の人々への感染が増加し、また持続的である。

世界各国では更に警戒レベルを追加している。例えば英国では1-4(DH 2007)があり、英国外のウイルスのみ(レベル1)から英国全体の蔓延(レベル4)である。これら伝播のフェーズやレベルの重要性というのは、それが各政府や国が要求している対応や計画範囲と直接関係しているという点である。対応や計画は一般的にインフルエンザパンデミックに対する国の方策やガイダンスの枠組みに詳述されている。

ガイダンスは 救急病院や地域のヘルスケア施設、学校、企業、輸送及び大規模な公のイベントへのアドバイスである。このような文書は政府のウェブサイトから入手しておくことを推奨する。しかし今回のこのMICKSでは、病院向けのガイダンスについてのみ検証し、地域や学校の管理対策については次の機会に検証したい。

医療従事者向けガイダンス:推奨される感染制御対策 基本的に採用すべき感染制御予防策は、標準予防策(スタンダードプリコージョン)と空気予防策を含む。

伝播の形態:

・接触を通してヒトからヒトへ

・大きな飛沫と間接的な接触

・空気中に拡散する、あるいは細かい飛沫、特にエアロゾルが発生するような処置時

パンデミックインフルエンザに関する一般的な感染管理

・どこであろうともインフルエンザの可能性のある患者は必ず患者の自宅で管理する。

・パンデミックインフルエンザの症状を発症している患者は非インフルエンザ患者から早急に隔離する。

・ITUの患者は診察室の横の定められた部屋でケアする。患者はサージカルマスクを着用する。患者にCxR(胸部X線)が必要な場合は、その部屋のポータブル胸部 X 線を使用する。

・患者の地域の医師と、患者が実際入院が必要なのか、更なる評価が必要なのかを確認する。

・入院が必要な場合は、パンデミックインフルエンザ行動計画により定められた箇所に直接入院させる。症状を発症している、またはラボ検査の結果インフルエンザに感染していることが判明した外来患者はパンデミックインフルエンザ用集団隔離エリアへ移動させる。

・院内で患者を搬送する場合は、患者にサージカルマスクを着用させる。

咳とくしゃみの管理

・患者には咳やくしゃみの際はディスポーザブルのシングルユーズのティッシュで鼻と口を覆う、または鼻をかむよう指導する。

・使用したティッシュは、ベッドの脇のゴミ箱へ捨てる。

・全てのゴミは医療廃棄物容器に廃棄する。

・患者にアルコールハンドジェルの使用を指導する。

・手で鼻や目の粘膜に触れない。

・病院内での移動や一般の待合室ではサージカルマスクを着用するよう患者に指導する。

手洗い

・手指衛生はパンデミックインフルエンザ伝播の危険性を減少させる最も重要な行動である。

・手指は石鹸と水、あるいはアルコールベースの手指消毒剤で汚染除去する。

個人防護具(PPE)

・スタッフは体液による汚染からの防護を目的としてPPEを着用し、患者とスタッフ、または患者間でのパンデミックインフルエンザの感染の危険性は減少する。

・PPEはすぐに入手難になる可能性がある。備蓄及び適切な在庫管理のためには事前の計画が必要である。

・PPEは汚染の危険を減少させるように着脱し、使用後は廃棄する。

・サージカルマスク或いはレスピレーターを使用している場合は、最後に外す。

・全てのPPEは関連した国際基準、または国の基準に準拠したものでなくてはならない。

・スタッフは適切なPPEの使用についてのトレーニングを受けなければならない。

・PPEは集団隔離エリアから去る前に外す。

サージカルFFP1マスク

・パンデミックインフルエンザの症状がある患者に1m以内で接触する場合は、医療従事者は必ず着用する。

・必ず鼻と口をカバーし、首から掛けてはならない。

・一旦着用したら触れないこと。

・マスクはシングルユースである。

・マスクの着用時間は最大でも4時間であり、その後は交換が必要である。

・マスクが湿った場合は、直ちに交換する。

・集団隔離エリアで働くスタッフはエリアへ入る際に着用し、エリア内での活動の間着用しているのが現実的であろう。

・必ず医療廃棄物として廃棄する。

・エリアの外へ出る際は、必ず最後に外す。

・マスクを外した後、必ず手指の汚染除去をする。

レスピレーターマスク

・医療従事者はエアロゾルが発生するような処置(挿管、鼻咽頭吸引、気管切開ケア、胸部理学療法、気管支鏡検査、噴霧器治療)の際は最も防護効果の高い(EN149:2001 FFP3)レスピレーターマスクを着用する。

・レスピレーターマスクは1回の使用毎に取り替える。

・レスピレーターが損傷、歪み、体液により汚染された場合は直ちに交換する。

・マスクを外した後は必ず手指の汚染除去をする。

・ハイリスクエリア(ICU、パンデミックインフルエンザ用集団隔離エリアなど)のスタッフは、FFP3マスクのフィットテストを行う。

グローブ

・グローブは標準的な感染制御予防策のみで必要とされているため、パンデミックインフルエンザ感染患者に対しては、標準予防策の一部として指示されない限りは使用する必要はない。

・呼吸分泌物に触れる可能性がある処置の際はディスポの未滅菌ソフトビニールグローブを着用する。

・呼吸分泌物に大量に血液が含まれている場合のみ、ラテックスグローブを着用する。

・グローブは使用後直ちに外し、医療廃棄物として廃棄する。

・グローブはシングルユーズであり、再使用してはならない。

エプロン

・着衣に血液或いは体液(呼吸分泌物を含む)が付着する危険性がある場合は必ずディスポーザブルプラスチックエプロンを着用する。

・エプロンはシングルユーズであり、使用後は必ず廃棄する。

ガウン

・着衣またはユニフォームが呼吸分泌物で広範囲に渡り汚染される可能性がある場合はガウンを着用する。

・撥水加工のガウンが望ましいが、入手が不可能な場合はプラスチックエプロンをガウンの下に着用する。

・CTには洗濯設備がないため、シングルユーズ、ディスポーザブルガウンが望ましい。 ・ガウンは防護する部位を全てカバーしていること。

目のプロテクション

・スプラッシュ、飛沫による目の汚染の危険性がある場合は標準的な目の防護具(ゴーグル或いはバイザー)を着用する。

リネン

・パンデミックインフルエンザ感染患者が使用したリネンは、感染性リネンとし他のものとは分けて洗う。使用時にアクアフィルムバッグ(水溶性ランドリーバッグ)に入れ、エリアから運び出す前に密封する。

・リネンは繊維用の最高温で洗う。

・地域のクリニックやデイケアセンターでは、同様の手順で家庭用洗濯機の熱湯洗濯を使用する。不可能な場合はディスポーザブル製品の使用を検討されたい。

食器類

・基本的に標準予防策を適用する。

・可能な場合は食器洗浄機を使用する。

・ディスポーザブル製品は特に使用する必要はない。

環境清掃

・毎回新しい中性洗剤とお湯を使用し、定期的に清掃を行う。

・ベッド脇のテーブルや医療機器といった頻繁に触れるものは、洗剤で拭き取る。

・掃除機の使用は避ける。

・血液・体液・嘔吐物などの汚染の取り扱いは地域の政策に従う。

・清掃スタッフは決められたエリアに配置し、インフルエンザエリアとそうでないエリア間を行き来しないようにする。

・清掃スタッフは、患者との距離が近い集団隔離エリアではグローブ、エプロン、サージカルマスクを着用する。

・清掃スタッフはPPEを外した後とインフルエンザ患者のいるエリアから出る際に手指の汚染除去をする。

・集団隔離病棟のベッドの回りの清掃には塩素1,000ppmの次亜塩素酸塩溶液を使用する。

・ベッド間のプライバシー用のカーテンは、汚染が目で確認できる場合、患者のパンデミック用集団隔離エリアへの移動の際に交換する。

訪問者

・近親者に限定する。

・インフルエンザの症状を発症している家族は訪問を控えさせる。

・集団隔離エリアへの訪問者には、手洗いと必要に応じて防護具の着用について指導する。

・訪問者、ボランティアがキャリアになった場合、感染制御の原則について指導する。

追加情報及びガイダンス

医療従事者、保健機関、国民が地域計画を立案するため、政府の多くは以下のような追加的なガイダンスを提供している。

1.パンデミックインフルエンザ-インフルエンザパンデミック対策の国家構想 英国保健省(2007) 

http://www.dh.gov.uk/pandemicflu

2.プライマリーケアトラスト及びプライマリーケア従事者のための、イングランドの社会環境におけるヘルスケア提供に関するパンデミックインフルエンザガイダンス 英国保健省(2007)

3.CDCパンデミックインフルエンザ業務計画(OPLAN)2008

http://www.cdc.gov/flu/pandemic/cdcplan.htm

この他にも専門機関や世界保健機構(WHO)や疾病対策センターといった国際機関からも情報は提供されている。

Jg/2008

(翻訳:栗山千果)

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ギャモン博士は、多くの看護師および医療従事者に感染管理を指導。主な研究内容は「コミュニティおよび病院における手洗い」「隔離の実施とその心理学的影響」「病院内の感染管理教育」などがある。

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