1. MICKS HOME  > 
  2. ギャモン教授のコラム  > 
  3. 術前の皮膚の消毒:手術部位感染予防のための重要な因子に関する国際的動向について

術前の皮膚の消毒:手術部位感染予防のための重要な因子に関する国際的動向について

2005年10月01日
Dr. John Gammon
上級講師・アダルトナーシングスタディーズセンター長
ウェールズ大学
イギリス

英語原文を見る

緒言

Healthcare Associated Infections (HAI: 以降院内感染とする) へ罹患する患者数の増加は継続し、多大な医療費コストを費やしている。急患の患者10人のうち1人は、院内感染が原因であり(DoH/PHLS 1995年)、入院患者の7.8%が1種類以上の感染症に罹患している。英国での調査によると、院内感染の20% (Burke 2003年)、外科手術の約4.2%が手術部位感染を起こしていると推定されている( ナショナル・サーベイランス・サービス、2001年)。

手術部位感染を発症することを予測する因子(Cruse および Ford 1980年、 Mangram 1999年)および術前、術後の因子(Briggs 1997)は数多く存在する。

因子は内因性または外因性のものがある。研究によると、感染症の原因となるバクテリアは、患者自身の微生物叢からのものであり、約95%の術後感染症が内因性のバクテリア汚染によるものであり(HIS 2003年)、空気を媒体とする外因性の微生物による感染症は、3%以下であると指摘する報告がある(Nichols 1982年)。

本稿では、外科分野特に皮膚の消毒における準備やメンテナンスに関連した感染症コントロールの問題について考察し、関連する研究文献の批判的な検証や分析も行う。 本稿の目的は、術前のバクテリア数および術中の手術創のバクテリア汚染を低減する最も効果的のある局所的な皮膚の抗菌処理法を評価することである。

術前局所皮膚用抗菌

皮膚の局所抗菌とは、一過性の微生物叢を除去し存在する微生物叢を減少させる目的を持つ。術前の皮膚抗菌の目的は、不純物と一過性の微生物を除去し、在駐する微生物を減少させ、微生物の急な反動の増殖を抑制することである(AORN 基準 1997年)。清潔な外科手術において分離された最も一般的な病原体は、黄色ブドウ球菌であり (Cooke および Taylor 1991年)、これは患者自身の微生物叢または外的な環境から分離されたと報告されている(Nichols 2001)。

英国では、手術の直前に皮膚の消毒を実施している。この選択肢として、複数の適用可能な局所投与皮膚用抗菌剤が挙げられるが、臨時的に使用される場合もしばしば報告されている(National Association of Theatre Nurses 2005). 全ての病院へ、選択肢の決定のため、皮膚消毒の実施のガイドラインが常備される予定である。現在一般的に使用されている抗菌剤は、クロルヘキシジンおよびイオドフォール(ポビドンヨード)である。

米国では、他にイソプロピルアルコール、エチルアルコール、トリクロザンおよびパラクロロメタキシレノール (PCMX) が使用されている (Fortunato 2000年)。一般に、米国では英国とは異なる術前皮膚消毒方法が適用されている。まず、術前24~48時間に抗菌性溶液を入れた浴槽へ入浴またはシャワーを浴びる方法が実施されている。複数の研究によると、この方法は、術後72時間まで通常の又は在駐する微生物叢を低下し、低いレベルへ維持するのに有効であると示す研究がある (Seal & Cheadle 2004年)。

Garibaldi らは (1988年) 、術前にクロルヘキシジンでシャワーを浴びると皮膚の汚染を低減させたと報告している。さらに大規模な詳しい研究において、Cruse および Ford (1980) は、ヘキサクロルフレン(クロルヘキシジンとは異なる化学物質)でシャワーを浴びると手術部位の感染が低下したと報告している。さらに他の大規模な研究では、Hayek および Emerson (1988年) は、術前にクロルヘキシジンで入浴すると術後の手術部位感染の発症率を低減するのに効果的であることを発見した。同様に、Tunevall (1988年) の研究では、クロルヘキシジンによるシャワーを3回浴びると術後の感染症の発症率が低減したと報告し、これを受けて指針が改定され、現在ではスウェーデン国内の病院でこの実行が推奨されている。

米国と同様にスウェーデンでは、患者は家庭用クロルヘキシジンのスクラブセットを薬局で購入するように推奨、促進している。この勧告の是非については、議論がなされるところだが、患者が自らの治療に参加し、感染症のコントロールへの認識を向上させ、患者の自信を回復させる良い方法である。しかし、Mayらの研究では(1993年)術前48時間に皮膚の消毒を1日2回受けた患者群において、術後の感染症の発症率には何ら効果は見られなかった。同じく、Earnshaw ら(1989年)の早期の研究では、術前にクロロヘキシデンによって入浴を実施しても術後の手術部位感染は反対に増加し、何ら効果を示すことはできなかったと指摘されている。しかし、これらの2つの研究(May ら1993 年、Earnshaw ら 1989年) は、いずれも症例数わずか64例の小規模試験であり、CruseおよびFord(1980年)らの大規模な試験と比較することができるかどうか、検討の余地があるだろう。

注目すべきことは、Hospital Infection Society Working Group (英国院内感染学会ワーキンググループ)(2003年)は、クロロヘキシデンによるシャワーの効果について推奨は行っておらず、英国では一般的な方法として認められていない。

効果的で経済的かつ時間を節約できる最良の方法を評価するために、複数の皮膚の消毒方法を比較、検証する複数の研究が存在する。Workman (1995年)は、ポピドンヨードを皮膚へ添加し、後に空気乾燥法とブロット乾燥法を実施し、この2つの手法の間にはバクテリアのコロニー数に、何ら有意な差が得られなかったことを示した。また、同等に効果的な新しい方法として、術後の手術部位へポピドンヨードスプレーを手術の切開創へ添加したところ、3分間のスプレーで通常のスクラブ・ペイント法と同様に効果が得られた (Moen ら、2002年)。この新しい手法では、皮膚をこする動作が不要であるため、皮膚への創傷を最小限に押さえ、感染症へ罹患する可能性を低減できたと著者らは結論付けている。この結論は、複数の皮膚消毒方法の効果を研究し、皮膚の消毒方法へ擦るプロセスも含まれる Messenger らの研究 (2004年) 、つまりバクテリア濃度の著しい減少を示した結果と対照をなすものである。

英国院内感染学会ワーキンググループ(2003年)では、皮膚の消毒においてアルコール溶液が他の溶液に比して効果的であるとし、アルコールの使用を推奨している。しかし、この方法では電気製品などからの引火の危険性があるために、アルコールを完全に乾かすように十分に注意しなければならない。しかし、術後の切開部の手術創へのポピドンヨードによる消毒法はクロルヘキシジンよりもより一般的な方法であると思われるが、Mackenzie (1988年) は、正常な皮膚への抗菌効果を考えると、この2種類の抗菌剤の間にはほとんど差がないであろうと推測している。

ヨウ素は、明らかに効果的な皮膚の消毒剤であるが、その効果と作用は術前にいかに不純物が除去されているか否かに依存する。Ostrander らは (2003年) 、手術による手術創の汚染を予防するのは、術前に手術部位をスクラブすることが重要なステップであり、切開部位をヨウ素を浸透させた接着フィルムで隔離する方法は、有効な補助療法であると報告している。この試験は、比較的小規模試験であるが(50例の連続する被験者を登録)、整形外科の例では非常に重篤な転帰となる可能性もあり、この予防は非常に価値のある発見である。この研究は、将来への試金石となる貴重なものであるが、この小規模試験を基に最も有効で害の少ない指針を確立するためにはさらなる研究と議論が必要となるであろう。

結論

手術部位の管理は、感染症の予防において非常に重要である。手術室における抗菌剤による皮膚の消毒は、儀式や歴史に基づくものではなく確かなエビデンスに基づくものでなければならない。 皮膚の消毒の選択は、通常、個人的な決定によるものである。クロルヘキシジンおよびヨウ素は、共に皮膚の局部用抗菌剤として効果的であり、両者にはあまり差はない。

しかし、アルコールをベースとするポピドンヨード消毒剤は水溶液のものよりもより効果があり、ポピドンヨード消毒剤は、手術による切開部の手術創を消毒する場合にはクロルヘキシジンよりも効果が高い。さらに、術前のクロルヘキシジンによるシャワーは、皮膚の汚染を減らし、術後手術部位の感染の発症を低減させるのに有効である。しかし、これらのエビデンスは未だ論議がなされており、いずれの方法が最も効果的であるのかを確定するのは非常に難しい。

参照:

AORN (1997) Standards 窶・recommended practices and guidelines (標準-推奨方法とガイドライン) AORN Denver

Burke, John P. (2003) Infection Control - A Problem for Patient Safety (感染コントロール-患者の安全性に関する問題) NEJM 348(7) 651-656 http://www.medical-journals.com/r037.htm [accessed 13.03.05]

Cooke, E M & Taylor, A (1991) Hare’s Bacteriology and Immunity for Nurses (Hareの看護師のためのバクテリア学と免疫学)Churchill Livingstone, Edinburgh. P 33.

Cruse PJ and Foord R (1980). The epidemiology of wound infection : A 10-year prospective study of 62,939 wounds (手術創感染症の疫学: 62,939例の手術創を評価する10年間の前向き試験) Surgical Clinics of North America, 60:27-40.

DoH/PHLS (1995) “Hospital Infection control, Guidance on the control of infection in hospitals” (「院内感染コントロールのための指針」)The Hospital Infection Working Group of the Department of Health and Public Health Laboratory Service, London(ロンドン健康および公衆衛生研究サービス部院内感染ワーキンググループ)

Earnshaw J, J, Berridge D, C, Slack R, B, C, Makin G, S, and Hopkinson B, R,.(1989) Do Preoperative Chlorhexidene Baths Reduce the Risk of Infection after Vascular Reconstruction? (術前のクロルヘキシジンによる入浴は血管再建術後の感染症のリスクを低減するか?)European Journal of Vascular Surgery 3 323-326

Fortunato N H (2000) Berry & Kohn’s operating room technique 窶・9th edition (BeryyおよびKohnの手術の技術) Mosby Inc, Missouri.

Garibaldi R, A, Skolnick D, Lerer T, Poirot A, Graham J, Krisuinas E, and Lyons R,. (1988) The impact of preoperative skin disinfection on preventing Intraoperative wound contamination(手術中の手術創汚染の予防に対する術前皮膚殺菌の効果) Infection Control Hospital Epidemiology (感染症コントロール病院疫学)9 109-13

Hayek L J and Emerson J M (1988) Preoperative whole body disinfection 窶・a controlled clinical study (術前の身体全体の殺菌 - 対照臨床試験)Journal of Hospital Infection (院内感染ジャーナル)11 (supp B) 15-19

Hospital Infection Society (Hospital Infection Society Working Party (院内感染) (2003) Behaviours and Rituals in the Operating Theatre. (手術室内での行動と儀式)Hospital Infection /Society (院内感染学会)London

Mackenzie I (1988) “Preoperative skin preparation and surgical outcome” (術前の皮膚の消毒と手術結果)Journal of Hospital Infection (院内感染ジャーナル)11(supp B) 27-32

May J, Brooks S, Johnstone D & Macfie J (1993) “Does the addition on pre-operative skin preparation with Povidone-iodine reduce groin sepsis following arterial surgery?”(術前のポピドンヨードの皮膚消毒によって鼠径部の敗血症は減少するか否か?) Journal of Hospital Infection (院内感染ジャーナル)24, 153-156

Messenger S, Goddard P A, Dettmar P W & Maillard J Y (2004) “Comparison of two in vivo and two ex vivo tests to assess the antibacterial activity of several antiseptics” (複数の消毒剤の抗菌活性を評価する2件のin vivoおよび2件のex vivo試験の比較)Journal of Hospital Infection (院内感染ジャーナル)58, 115-121

Moen M D, Noone M & Kirson (2002) II “Povidone-Iodine spray technique versus traditional scrub-paint technique for preoperative abdominal wall preparation” (術前腹壁消毒におけるポピドンヨードスプレー技術と従来のスクラブ貼付技術の比較)American Journal of Obstetrics and Gynaecology (米国産婦人科ジャーナル)187(6) 1434-1437

National Infection National Surveillance Service (2001) (英国感染症ナショナル・サーベイランス・サービス)Surveillance of Surgical Site Infection in English Hospitals 1997 - 2001 (英国の病院における手術部位感染症についてのサーベイランス 1997-2001)London Public Health Laboratory Services (ロンドン・パブリック・ヘルス・ラボラトリー・サービス)

Nichols R, L (1982) Techniques know to prevent postoperative wound infection Cited in Nichols R L (2001) (術後の手術創感染症予防のために知るための技術)Preventing Surgical Site Infections: A Surgeon’s Perspective (手術部位の感染症の予防:外科医の考察)emerging Infectious Diseases 7(2) (新興感染症)http://www.cdc.gov/ncidod/eid/vol7no2/nichols.htm

[Accessed 13.03.05]

Nichols R L (2001) Preventing Surgical Site Infections: A Surgeon’s Perspective (手術部位の感染症の予防:外科医の考察)emerging Infectious Diseases 7(2)

http://www.cdc.gov/ncidod/eid/vol7no2/nichols.htm

[Accessed 13.03.05]

National Association of Theatre Nurses (1998) Principles of Safe Practice in the Perioperative Environment (手術中の環境における安全な手術の実行の論理)Herts NATN

Ostrander R V, Brage M E & Botte M J (2003) “Bacterial Skin Contamination After Surgical Preparation in Foot and Ankle Surgery”(「足および足首手術後の皮膚消毒後のバクテリアによる皮膚汚染 」)Clinical Orthopaedics and Related Research (臨床整形外科および関連研究)406, 246-252 Seal L & Cheadle P (2004) “A systems approach to preoperative surgical patient skin preparation” (「術前皮膚消毒の統合的な方法」)American Journal of Infection Control (米国感染症コントロールジャーナル)32(2) 57--62

Tunevall T G (1988) Procedures and experiences with preoperative skin preparation in Sweden (スウェーデンにおける術前皮膚消毒の方法と経験)Journal of Hospital Infection (院内感染ジャーナル)11 (supp B) 11-14

Workman L M (1995) “Comparison of Blot-drying Versus Air-Drying of Povidone-Iodine 窶・Cleansed Skin” (「ヨウ素化ポビドンによって清浄した皮膚のブロット乾燥法と空気乾燥法の比較」Applied Nursing Research (応用看護研究)8(1) 15-17

院内感染対策に関するご相談承ります

英国ヘルスケア上級講師を務めるギャモン博士の最新コラムやレポートをご紹介します

ギャモン博士は、多くの看護師および医療従事者に感染管理を指導。主な研究内容は「コミュニティおよび病院における手洗い」「隔離の実施とその心理学的影響」「病院内の感染管理教育」などがある。

最新の記事をRSS購読

ギャモン博士への文献に関するお問い合わせ

日本の文献には記載されていないIC実践における運用の問題点並びに疑問点をギャモン博士が英国での運用例をベースにお答えします。
ご質問のある方はご意見・ご要望フォームよりお問合せ下さい。

ご意見・ご要望フォームへ