1. MICKS HOME  > 
  2. ギャモン教授のコラム  > 
  3. 病院環境の汚染除去および医療関連感染(Healthcare Associated Infections)

病院環境の汚染除去および医療関連感染(Healthcare Associated Infections)

2005年04月01日
Dr. John Gammon
上級講師・アダルトナーシングスタディーズセンター長
ウェールズ大学
イギリス

英語原文を見る

背景

医療関連感染(Healthcare Associated Infections、以後HAI’s と略します。)は、日本の医療 制度上、毎年多大な費用を要し、多くの患者に影響を与えている。国際的には、病院患者の 約10%が病院内で感染を受けることが認識されている(エマーソンEmmerson 1996 年)。

本号のMICKS においては、臨床環境と病院設備がのHAI’s 原因にどう関与するかに関す る調査について論ずる。また清掃と消毒が院内感染率に及ぼす影響も検討する。これはまさ に注目の話題であり、論議の的となっている問題でもある。

HAI’s の危険性について一般の認識が高まり、特に耐性菌 窶・Methicillin 窶・Resistant Staphyloccocus aureus (MRSA メチシリン耐性ブドウ球菌)のような「超強力細菌」の影 響についての関心は、病院の衛生管理基準および院内環境と設備が患者と医療労働者にもた らすリスクに集中するようになった。厚生労働省は、病院衛生管理を重要問題と捉え、感染 対策チームはそれを優先課題と見ている。

しかし、核心的問題は、HAI’s の原因を、どの程度病院設備の清潔度と汚染除去の基準の低 さに求めることができるのかということである。

院内環境がリスクをもたらしているのか?

多数の研究によって、臨床的に重要な病原菌は一般的な院内環境において生存可能であるこ と(Lemmen et al 2004 年) 、また極めて長時間生存可能であること(テイロンTalon 1999 年)が証明されてきた。諸研究によって、患者の周囲の臨床環境が、HAI’s を引き起こすこ とが知られている細菌で深刻に汚染されていることが判明した。しかし、汚染が感染の原因 であるのか、それとも感染の結果が汚染であるのかを決定するのは難しい。

MRSA(Methicillin 窶・resistant Staphyloccocus aureus) は、病院のマットレスやベッド枠 からドアの取っ手や水道の蛇口まで、種々の源から発見されてきた。また興味深いことに、 MRSA(Methicillin 窶・resistant Staphyloccocus aureus)はディエツ他(Dietze et al 2001 年) によると滅菌商品包装上で38 週間生存することが判明した。同研究では、生存期間が6 時 間から7 週間であることに注目する。クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の芽胞が寝具、床、血圧計、手についているのが発見され、また胃腸炎を起こすノロウィルス(Noro Virus)は、他の患者に感染するのに十分な時間、生存することがで きるダンサー(Dancer 1999 年)。この事実はリーメン他(Lemmen 2004 年)によって立証 された。リーメン他は、種々のグラム陰性およびグラム陽性菌を、院内環境内における生命 体ではない対象物(Inanimate Objects)から発見した。これらの細菌の生存時間は、分単位 から時間単位まで様々である(テイロン、Talon 1999 年)。

従って、臨床的に重要な微生物が、臨床環境において、相当程度の時間生存することができ、 それらを除去しなければ、結果的に患者に害を及ぼす可能性があることは明白である。

病院内の集団感染を調査した研究によって、院内感染の拡大に環境と設備が寄与しているこ とを示すエビデンスが提示された(ドーリングDalling 2004 年)。患者と、例えば粗悪な衛 生管理、ビニールエプロンや手袋または共有施設の使用法の粗雑さとの間には、通常、感染 拡大を説明する多数の変数が存在するので、感染が直接、環境汚染に起因することを立証す ることは難しい。しかし、病院環境と設備が、結果的に医療従事者の手を汚染し、ひいては 患者間の感染拡大に繋がり得る様々な微生物の保有体となっているとの主張である。

臨床環境と病院設備を清潔に保つ必要性は、従って当然と言える。本論では医療設備と臨床 環境の汚染除去は、感染を制御する上で不可避の部分であると主張したい。

清掃によって、医療関連感染の症例は減少するのか?

臨床環境の清潔さを保証することは、いくつかの理由によって重要である。ダンサー (Dancer 1999 年)は、病院の不潔さは、一般的な看護水準の低さとも関連するため、清潔さ は患者の信頼感にとって重要であると主張する。病院内の清潔度を改善することは、単に感 染を制御するための重要な方策であるばかりでなく、美的な意味でも目的に適う。粗悪な環 境衛生とHAI’s の間の関連を特定する膨大な量のエビデンスもある(プラット他 Pratt et al 2001 年)。その結果、院内環境は、視覚的にも清潔で、汚れや埃が無い状態にすべきだ という勧告がなされた。

清潔度が改善されると、HAI’s の率の低下につながることが証明された。積極的感染制御プ ログラムの一部に清掃が含まれた場合、医療関連およびクロストリジウム・ディフィシル (Clostridium difficile 胃腸急性感染性下痢)の症例の減少が見られたことに注目した研究 もある(ゼイファ他、Zafar et al 1998 年)。多数の研究において、臨床環境の徹底的清浄化 によって感染率は減少し、感染の集団発生は制御できるとの結論に達している。ランプリン グ他( Rampling et al 2001)は、MRSA(Methicillin 窶・resistant Staphyloccocus aureus)の 集団感染においてこの事実に注目している。

デントン他(Denton et al 2004 年)は、アシネトバクター・バウマニイス( Acinetobacter baumanniiis )の集団感染に関連して、クリスチャンソン他(Christianson et al 2004 年) は、VRE ( Vancomycin-resistant Enterococcus バンコマイシン耐性腸球菌)の集団感染にお いて、またテア他(Teare et al 1998)は、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile )の集団感染において、清掃の効果を立証した。

病院の「視覚的清潔さ」の重要性を唱える主張は多いが、それで十分というわけではない。 調査では、洗剤で清掃した後に臨床的に重要な微生物が見出されることが証明された。ヴェ リティ他(Verity et al 2001 年)は、洗剤による日常的清掃は、環境からクロストリジウム・ ディフィシル(Clostridium difficile)の芽胞の除去には非効果的であったことに注目する。 ダンサー(Dancer 1999 年)は清掃後の環境内に、VRE (Vancomycin resistant enterococci) が存在することに気付いた。調査では、清掃に使用された機器が汚染されている場合があり、 その結果として感染の拡大に結びついたことが判明した(エンゲルハート他、Engelhart et al 2002 年)。

病院が単に視覚的に清潔であるようにするだけでは不十分であり、表面や清掃機器にもまだ 感染の危険性があることから、この調査は実践方法に示唆を与える。病院の清掃によって HAI’s の率が低下する結果となるのであれば、消毒薬を使用したさらに徹底した汚染除去を 行うことが必要であろう。

滅菌消毒はHAI’s の症例の減少につながるか?

表面と機器の消毒は、環境汚染を通じた病原菌の蔓延を防ぐ上で最も基本的な要件のひとつ であるので、それゆえに病院で実施すべきだと主張する者は多い(エクスナー他、Exner et al 2004 年)。ただし、一部の感染制御の専門家は、洗剤の使用のみでは不十分であることを示 唆する。アメリカ合衆国の発行したガイドラインでは、すべての患者用機器と環境表面に消 毒薬を常用するよう勧告した(ルターラおよびウィーバー、Rutala and Weber 2004 年)。 現在英国では、一般洗剤のみを勧めているが、最近この問題がさらに進んだ研究の対象とな り注目を浴びるようになってきた。興味深いことにダーラン他(Dharan et al 1999 年)は、 洗剤を使用した清掃と消毒薬の常用を比較し、洗剤のみで清掃した場所の方が、明らかにバ クテリア汚染が高い水準にあったことを発見した。院内感染率に関する環境消毒の効果に関 する研究の再検討がディッテンコウファー他(Dettenkofer et al 2004 年)により行われた。 その結論は明確ではなかったが、埃の水準と環境の清潔度が、医療スタッフの手の汚染に関 連があり、さらに患者の感染の度合いにも関連することが有意な結果として示された。

環境の消毒は感染の集団発生を制御できるという意味で有益であることについては明白な エビデンスがある(コウザッドおよびジョーンズ、Cozad and Jones 2003 年)。しかし、 消毒が最初におきる感染を防ぐというエビデンスは示していないのである。

消毒薬の日常的使用についての決定的エビデンスはないようである。また、消毒薬の使用と 医療関連の感染の発生率の低下の直接的関連を示唆するエビデンスはないのである。しかし、 一定の状況下での消毒薬の使用が有益であることは判明している。

結論

病院の清潔度の改善は、重要な感染制御対策である。院内環境は、臨床的に重要な病原菌の 保有体の役割を果たす場合がある。しかしこれがどの程度患者にとってのリスクとなるかに ついては論争の余地がある。粗悪な手の衛生管理が、恐らく病原菌の環境汚染および患者へ の感染の道筋として最も可能性があるだろう。

集団発生の研究によって、清潔度の向上と消毒が、感染の集団発生を制御する上で重要であ ることが明らかとなった。

医療関連感染は、国際的に益々大きな問題となりつつあり、医療従事者および感染対策チー ムは、患者の看護を行う病院が、患者をそれ以上のリスクにさらすことがないよう保証しな ければならない。環境浄化と消毒は、医療看護に携わる者たちが感染率を確実に低下させる ために使用できる武器の効果的部分である。

参照文献

K.J.クリスチャンセン他(2004)「オーストラリア大規模大学付属病院における単一株バンB バンコマイシン・エンテロコッカス・フェイシウムの大集団発生の根絶」感染制御および病 院疫学25(5), pp.384-390

A.コウザッド、R.D.ジョーンズ (2003) 「消毒と感染病の防止」米国感染制御ジャーナル31(4), pp.243-254

J.ドーリング (2004) 「ノーウォーク様ビールス集団感染発生中の環境汚染の再調査」英国 感染制御ジャーナル5:2, pp.9-13

S.J.ダンサー (1999)「院内感染の一掃」院内感染ジャーナル43: pp.85-100 M. デントン、M. ウィルコックス、P. パーネル、D. グリーン(2004)「脳神経外科ITU 上 のアシネトバクター・バウマニーの集団発生制御における環境清掃の役割」病院感染ジャー ナル56(2), pp. 106-110

M. デッテンコウファー、S. ウェンツラー、S. アムサー、G. アンテス、E. モッチョール、 F. ダッシュナー(2004)「環境表面の消毒は、院内感染率に影響するか?系統的再検討」米 国感染制御ジャーナル32:2, pp. 84-89

S. ダーラン、P. ムールーガ、P. コピン、G. ベスマー、B. チャンズ、D. ピテット(1999) 「患者の環境表面の日常的消毒。神話か現実か?」病院感染ジャーナル42:, pp. 113-117 B. ディエツ、A. ラス、C. ウェント、マーティニ(2001)「滅菌商品包装上のMRSA の生存」 病院感染ジャーナル49: pp. 255-261

A. エマーソン、J. エンストン、M. グリフィン、M. ケルセイ、M. スミス、(1996)「第 二次全国病院内感染有病率調査-結果の外観」病院感染ジャーナル20: pp. 27-33

S. エンゲルハート、L. クリツェク、A.グラスマチャー、G. マークレイン、M. エクスナ ー、(2002)「汚染表面清掃機器に関連した血液腫瘍ユニットにおけるシュードモナス・エル ジノーサ集団発生」病院感染ジャーナル52, pp. 93-98

M. エクスナー、V. ヴァカータ、B. ホーネイ、E. ディエトレイン、J. ゲーベル (2004) 「家庭における清掃と表面消毒:新たな洞察と戦略」病院感染ジャーナル 56 (補遺) pp.70-75

S.W. リーメン、H. ハフナー、D. ゾルダム、S. スタンツェル、R. ルッティケン (2004) 「病院内の無生物環境における多剤耐性グラム陰性対グラム陽性バクテリア」病院感染ジャ ーナル 56 、pp.191-197

R.J.プラット、C. ペロウ、H.P.ラヴデイ、N. ロビンソン、G.W.スミス(2001)「EPIC プロ ジェクト:医療関連感染防止のためのエビデンスに基づく全国ガイドラインの策定」病院感 染ジャーナル 47 (補遺) pp.1-82

A. ランプリング、S.ワイズマン、L. デイヴィス、A.P. ヒェット、A.N.ウォルブリッジ、 G.C.ペイン、A.J.コーナビィ (2001)「MRSA 制御において病院衛生が重要であるというエビデ ンス」病院感染ジャーナル 49: pp.109-116

W. ルターラ、D. ウィーバー、(2004) 「表面消毒の利点」米国感染制御ジャーナル32(4), pp.226-231

D. テイロン (1999) 「多剤耐性バクテリアの疫学における病院環境の役割」病院感染ジャ ーナ 43:pp.13-17

E.L. テア、D. コーレス、A. ピーコック、(1998) 「地域一般病院におけるクロストリジウ ム・ディフィシル」病院感染ジャーナル 43 、pp.13-17

P. ヴェリティ、M.H. ウィルコックス、W. フォーリー、P. パーネル (2001)「隔離され た脇部屋におけるクロストリジウム・ディフィシルによる環境汚染の予測評価」病院感染ジ ャーナル

49:pp.204-209

A.B. ザーファ、L.A.サイドス、W.B. ファーロング、M.H.ニュエン、P.A. メノナ (1998) 「院内クロストリジウム・ディフィシル管理における感染制御プログラムの効果」米国感染 制御ジャーナル26: pp.588-593

院内感染対策に関するご相談承ります

英国ヘルスケア上級講師を務めるギャモン博士の最新コラムやレポートをご紹介します

ギャモン博士は、多くの看護師および医療従事者に感染管理を指導。主な研究内容は「コミュニティおよび病院における手洗い」「隔離の実施とその心理学的影響」「病院内の感染管理教育」などがある。

最新の記事をRSS購読

ギャモン博士への文献に関するお問い合わせ

日本の文献には記載されていないIC実践における運用の問題点並びに疑問点をギャモン博士が英国での運用例をベースにお答えします。
ご質問のある方はご意見・ご要望フォームよりお問合せ下さい。

ご意見・ご要望フォームへ