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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

現在のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連下痢症の流行はプロトンポンプ阻害薬の過剰使用が促進しているのか?

Is over-use of proton pump inhibitors fuelling the current epidemic of Clostridium difficile-associated diarrhoea?

R. Cunningham*, S. Dial
*Derriford Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 1-6

近年、多くの先進国でクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連下痢症(CDAD)の症例が増加している。広域スペクトル抗菌薬のリスクに対する認識が高まり、抗菌薬の使用が全体的に減少し、病院衛生がさらに重視されているにもかかわらず、このような事態が生じている。症例の増加の一部は新規強毒株の登場に起因するが、症例の増加は強毒株の報告に先立っている。この流行はプロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用の増加と時期的に一致しており、英国や他国のガイドラインに照らすと、その使用の多くは不適切である。胃酸は消化器感染に対する主要な宿主防御の役割を担っており、疫学研究および動物実験から、CDAD発生率とPPIの使用との間には正の関連があることが示されている。PPIの使用は、CDADに対する初回治療成功後の再発と関連することも明らかにされている。C. difficileの栄養型は通常の胃内pHで速やかに殺菌されるが、PPI服用患者の胃内pHでは生存する。栄養型は、湿潤な表面上では患者間の伝播発生に十分な期間、生存することが、最近示されている。結論として、PPIの使用を適切な適応症を有する患者に限定することは、これらの薬剤の不必要な出費の削減につながるとともに、現在のCDADの流行を制御する新たな手段になると考えられる。

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監訳者コメント:
治療のための投薬が、CDADを引き起こす契機を生み出す可能性について示唆した論文である。CDADの発症には多くの因子が絡むが、過剰な投薬を避けることでCDADのリスクを少しでも回避できるのであれば、積極的に取り組むべきである。

新生児室におけるエンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)アウトブレイクの調査と文献レビュー

Investigation of an outbreak of Enterobacter cloacae in a neonatal unit and review of the literature

M. Dalben*, G. Varkulja, M. Basso, V.L.J. Krebs, M.A. Gibelli, I. van der Heijden, F. Rossi, G. Duboc, A.S. Levin, S.F. Costa
*University of Sao Paulo, Brazil

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 7-14

新生児室の重要な新興病原体であるエンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)による感染のアウトブレイクが複数報告されている。本研究の目的は、新生児室におけるE. cloacaeによる敗血症のアウトブレイクの調査、および関連文献のレビューである。後向きコホート研究により、新生児集中治療室(NICU)の症例患児と、48時間以上入室した全新生児を比較した。感染患児のコホーティングと業務の再編を行った。パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)を実施した。2006年4月にNICUに入室していた症例患児6例と対照患児13例を、後向きコホートの対象とした。単変量解析により、ドブタミン投与と感染との間に有意な関連があること(P=0.036)、および経腸栄養は防御因子であること(P=0.02)が示された。多変量解析では、独立した危険因子は見いだされなかった。2006年3月の病床利用率は109.6%で、過密状態にあった。PFGEパターンからは、全6例の新生児の分離株は識別不能であった。1983年1月1日から2008年1月15日の期間を対象として、検索語として「E. cloacae」、「outbreak(アウトブレイク)」、「clusters(クラスター)」に「neonate(新生児)」、「newborn(新生児)」、「infant(乳児)」を組み合わせて、PubMedとOvidの検索を行った。新生児のE. cloacaeアウトブレイクに関する26報の論文を見いだし、このうち16報(52%)は血流感染のアウトブレイクのもの、さらにこの中の2報(12.5%)は薬剤の反復投与に関するものであった。著者らの病院のアウトブレイクの感染源を特定することはできなかった。手指衛生の強化、新規入院の制限、および薬剤の単回投与の導入により、アウトブレイクの制御が可能となった。

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監訳者コメント:
Enterobacter cloacaeは欧米のNICUではかなり問題視されている病原体である。わが国でのアウトブレイク事例は少ないが、今後着目していく必要があろう。本論文ではアウトブレイクの事例紹介と文献調査による考察が記載されている。

院内感染クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連下痢症にかかわる費用

Costs of nosocomial Clostridium difficile-associated diarrhoea

R.-P. Vonberg*, C. Reichardt, M. Behnke, F. Schwab, S. Zindler, P. Gastmeier
*Medical School Hannover, Germany

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 15-20

院内感染クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連下痢症(CDAD)は、病院内で一般的にみられる感染症である。CDADによる病院全体の超過費用を評価するため、マッチド症例対照研究(matched case-control study)を実施した。2006年に大学附属三次病院で、病院全体の前向きサーベイランスにより症例の評価を行った。同年に同一の診断関連群を用いて、入院期間がCDAD症例の感染前のリスク期間と同一またはそれ以上、およびCharlson併存疾患指数±1という条件に基づいて、院内感染CDAD症例(入院後72時間を超えるもの)とCDADではない対照患者を1:3の割合でマッチさせた。症例1例あたりの総費用に関するデータを会計部門から得た。院内感染CDADの45症例に対してマッチングが可能であった。入院期間の差から、CDAD症例はマッチさせた対照より入院期間が有意に長いことが示された(中央値7日、P=0.006)。CDAD患者1例あたりの平均費用は33,840ユーロであった。1例あたりの費用の差から、CDAD患者の費用はマッチさせた対照より有意に高額であることが示された(中央値7,147ユーロ、95%信頼区間4,067~9,276ユーロ)。院内感染CDADは高額の医療費と関連している。臨床医はCDADの経済的影響を認識すべきであり、伝播を減少させるためには適切な感染制御策の適用が推奨される。

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監訳者コメント:
医療関連感染と医療経済を結びつけることにより、感染予防の重要性を強調することができる。医療関連感染は患者にとっての不利益に加え、病院にとっても大きなリスクであり、最小限に低減させるためのインセンティブの1つとして医療経済学的なアプローチも重要である。

監訳者注:
Charlson併存疾患指数(Charlson comorbidity index):併存症や合併症を評価するためのスコア(Charlson ME, et al. J Chronic Dis 1986;39:439-452)。

セフロキシム+ゲンタマイシンの単回投与により大腿骨頸部骨折患者のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連疾患が減少する

Single-dose cefuroxime with gentamicin reduces Clostridium difficile-associated disease in hip-fracture patients

I. Starks*, G. Ayub, G. Walley, J. Orendi, P. Roberts, N. Maffulli
*University Hospital North Staffordshire, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 21-26

抗菌薬関連のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)下痢症により、大腿骨近位部骨折手術からの回復が困難になることがある。著者らの診療科で実施した抗菌薬の予防投与法の変更を評価するために、4年間の症例対照研究を実施した。2003年1月から2005年1月までの期間は、患者にセフロキシム(1.5 g)の予防投与を3回実施した。その後、麻酔導入時にセフロキシム(1.5 g)とゲンタマイシン(240 mg)を単回投与する新規レジメンを導入した。予防投与の変更前には912例が大腿骨頸部骨折の手術を受け、2005年3月から2007年3月には899例が新規レジメンによる手術を受けた。C. difficile感染が発生したのは、変更前の患者群では38例(4.2%)であったのに対し、新規レジメン群では14例(1.6%)であった(P=0.009)。この期間中に同病院の他科ではC. difficile感染の発生率は上昇した。C. difficile感染患者では、抗菌薬投与日数、入院期間、合併症発生回数、および入院死亡率が統計学的に有意に増加した。抗菌薬予防投与法の選択に関する主な課題は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による感染症とC. difficile関連下痢症である。この高リスク患者群のC. difficile感染症を予防するためには、セファロスポリン系抗菌薬反復投与の代替法として、この新規レジメンの使用を推奨する。

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監訳者コメント:
セフロキシムナトリウム(cefuroxime sodium[CXM];ジナセフ[Zinacef])を採用することにより、周術期のC. difficile感染を減少させたとする論文である。C. difficile感染以外の感染症の発生割合など、検討すべき課題は多いが、常在菌叢を乱すことなく目的菌にターゲットした殺菌が可能であれば取り組むに値する試みである。

前鼻腔に定着したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の細菌数に対する抗菌薬の影響

Effect of antibiotics on the bacterial load of meticillin-resistant Staphylococcus aureus colonisation in anterior nares

V.C.C. Cheng*, I.W.S. Li, A.K.L. Wu, B.S.F. Tang, K.H.L. Ng, K.K.W. To, H.Tse, T.L. Que, P.L. Ho, K.Y. Yuen
*The University of Hong Kong, Hong Kong SAR, China

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 27-34

病院感染によるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の感染率や保菌率は、抗菌薬の使用と関連があるが、抗菌薬投与が鼻腔内保菌に及ぼす影響は明らかではない。鼻腔外にMRSAの感染または保菌を認める患者116例を対象として3か月間の前向き研究を実施し、3週間にわたる種々の抗菌薬療法中と療法後に、患者の鼻腔内のMRSA細菌数を測定した。患者周辺の環境からもスワブを採取した。鼻腔外にMRSAの保菌または感染を認める患者の76.7%が、同時に鼻腔内にMRSAを保菌していた。β-ラクタム系を投与中の患者の鼻腔内MRSA細菌数中央値は、21日間で2.78 log10 cfu/swab(範囲0~6.15)から5.30 log10 cfu/swab(範囲2.90~8.41)に有意に増加した(P<0.001)。フルオロキノロン系を投与中も、細菌数中央値は14日間で0 log10 cfu/swab(範囲0~4.00)から4.30 log10 cfu/swab(範囲0~7.46)に増加した(P=0.039)。β-ラクタム系またはフルオロキノロン系を投与中の患者の細菌数中央値は、抗菌薬投与を受けていない対照患者より有意に多く、7日目4.78 log10 cfu/swab(範囲0~7.30)、14日目4.30 log10 cfu/swab(範囲0~7.60)、21日目5.30 log10 cfu/swab(範囲2.90~8.41)であった(P<0.05)。抗菌薬中止2週間後に、これらの細菌数は2~5 log10 cfu/swab減少した。β-ラクタム系(相対リスク3.55、95%信頼区間1.30~9.62、P=0.018)またはフルオロキノロン系(4.32、1.52~12.31、P=0.008)の投与を受けている患者周辺の環境は、対照患者周辺の環境(0.79、0.67~0.93、P=0.002)よりもMRSA陽性率が高いことが示された。β-ラクタム系またはフルオロキノロン投与を受けている患者はMRSA保菌率が高く、鼻腔内の細菌数が多く、患者周辺の環境にMRSAを伝播していると考えられる。

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監訳者コメント:
MRSAに抗菌活性を持たない抗菌薬処方は、鼻前庭におけるMRSAの保菌率や保菌濃度を高めることを証明した論文である。保菌者は非保菌者と比較して入院期間中に発症する確率はMSSAよりはるかに高いことは他の研究により証明されており、保菌者を施設内で生まないためには、抗菌薬療法の対象者と処方期間を最低限にするべきであろう。

ドライミスト発生装置を用いた過酸化水素による環境中のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の消毒

Environmental meticillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) disinfection using dry-mist-generated hydrogen peroxide

M.D. Bartels*, K. Kristoffersen, T. Slotsbjerg, S.M. Rohde, B. Lundgren, H. Westh
*Hvidovre Hospital, Denmark

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 35-41

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は世界中の病院で重大な問題となっている。手指衛生はMRSA伝播の制御に不可欠であると認識されているが、無人の病院環境におけるMRSAのリザーバの役割についてはほとんど知られていない。2か所の実験的病院環境および2件のフィールド試験で、ドライミスト発生装置SterinisRで散布した過酸化水素蒸気によるMRSAに対する効果を評価した。SterinisRによる消毒工程の前後に、ディップスライドを用いてMRSAの検出と定量を実施した。第一の実験的病院環境では、MRSAの4流行株を5か所に接種し、1週間放置した。すべての菌株が1週間生存したが、消毒後には生存は認められなかった。第一のフィールド試験では、MRSA陽性患者の多い診療科の布張りの椅子14脚を、閉め切った部屋に1か月間放置した後に消毒を行った。14脚中4脚の布張り部分にMRSAが検出されたが、3脚は消毒直後、残りの1脚は24時間後にMRSA陰性となった。第二のフィールド試験はMRSA陽性の4人家族の自宅で実施した。MRSA陽性の場所が1か所見つかったが、SterinisRによる複数回の消毒工程後も依然として陽性であった。SterinisRは実験的病院環境および布張りの椅子のMRSAには有効であるが、重度のMRSA保菌患者の自宅では無効であることが判明した。

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監訳者コメント:
ドライミスト発生装置SterinisRで散布した過酸化水素蒸気の性能評価の論文である。消毒薬においてはいずれも、水準のほかに有機物に対する消毒能力の差が大きな因子である。一方で、人体に対する影響も絶えず検証する必要がある。

MRSAに関するメディア報道の一般市民による理解力

Audience readings of media messages about MRSA

P. Washer*, H. Joffe, C. Solberg
*Imperial College London, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 42-47

本論文では、全国紙によるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に関する報道が一般市民の認識と一致しているかどうか、およびどの程度一致しているかを調べた。MRSAに関するメディア報道の調査内容と、大ロンドン地域で取材した人口統計学的背景の多様な被験者60例から収集したデータを比較した。取材データから、多くの人はMRSAを抗菌薬の投与歴ではなく、不潔で管理が不十分な病院と関連があるという共通見解を有していた。MRSAの責任は国民保健サービス(National Health Service;NHS)の管理体質にあると予断するような、一部のメディア報道が流布しているようであるが、その一方で、特にMRSAの被害を受けた著名人などの報道は、一般市民の共感を呼んではいないようであった。また、微生物原因説や免疫システムなどの科学的理解に基づく考え方が、瘴気説のような俗説と共存していることも本研究から判明した。このように、メディアと認識の比較から、一般市民の認識には生物医学的な情報とともに、病原体、伝染病、原因などに関する前近代科学的理解が存在することが示された。今回の知見は、MRSA感染に関する一般市民および患者の見解の理解に寄与するものである。

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監訳者コメント:
メディア対策は我が国でも大きな課題である。情報の正確な周知徹底については、メディアと医療の専門家の両者による歩み寄りが重要であろう。また、広く市民向けの情報開示も行っていく必要がある。

病院災害後の心臓手術による手術部位感染

Surgical site infections in cardiac surgery after a hospital catastrophe

M. Fernandez-Ayala*, D.N. Nan, C. Farinas-Alvarez, J.F. Nistal, J.M. Revuelta, J. Gonzalez-Macias, M.C. Farinas
*University of Cantabria Santander, Spain

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 48-52

1999年11月2日、スペイン・サンタンデールにある900床の教育病院において、心臓血管外科に隣接する外部壁面の一部が崩落した。この研究の目的は、事故により院内感染および手術部位感染(SSI)のリスクが増加して、患者安全に影響を及ぼしたか否かを判定することである。直ちに院内感染防止策が強化された。1999年11月2日以前には連続217症例が手術を受け、それ以降は296例が手術を受けた。患者の疾患重症度、手術手技の複雑さ、入院期間は、いずれの研究期間も同等であった。この事故の前後における院内感染の発生率は、それぞれ28.1%、24.7%であった(P=0.381)。呼吸器感染、尿路感染、および菌血症の発生率も同等であった。事故後の研究期間におけるSSI発生率は、統計学的に有意に低下した(14.8%対4.4%、P=0.008)。外部壁面の崩落は、院内感染発生率の上昇と関連しなかったが、崩落後に実施した徹底的な感染制御策により手術部位感染の発生率は有意に低下した。

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監訳者コメント:
病院における建設工事や改修工事により医療関連感染のリスクが増加するとされているが、この報告では5名の医療従事者が犠牲となるような大規模な建物の一部崩壊があったにも関わらず、外科医に対するSSI発生率のフィードバックを含めて、感染予防策の徹底させたことによりSSI減少を達成した。なお、事故後、心臓血管外科の入院病棟と手術室は別館に移動されていた。

小児腫瘍科におけるムコール症アウトブレイクの調査および管理

Investigation and management of an outbreak of mucormycosis in a paediatric oncology unit

D. Garner*, K. Machin
*Nottingham University Hospitals NHS Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 53-59

ムコール症は、免疫不全患者に多くみられる進行性の感染症であり、通常の治療を行ってもしばしば致死的となる。この論文では、大学病院の小児腫瘍科において、リネン保管庫と保護者用シャワー室の漏水後に発生した鼻脳型ムコール症のアウトブレイクについて報告する。簡易な環境サンプリング法を用いて、アウトブレイクの発生源を特定することができた。サンプリングにより、発生源と患者保護の両面にわたる感染制御対策の適時かつ適切な施行ができた。2症例がポサコナゾール治療を受け、癌管理に明らかな影響を及ぼすことなく完全に回復した。その他の15例の小児が感染症発症リスクが高いと判定され、ポサコナゾールの予防的投与を受けた。小児(1例は5歳児)にポサコナゾールによる有害事象は認められなかった。

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監訳者コメント:
この論文では “ムコール症(mucormycosis)” と記載されているが、最近では “接合菌症 (zygomycosis)” とするのが一般的である。最も多い起因菌はクモノスカビ属(Rhizopus spp.)であり、実際にはケカビ属(Mucor spp.)は少ない。接合菌症には鼻脳型、肺型、消化管型、皮膚型などの病型が知られており、コントロールの悪い重症糖尿病を背景として鼻脳型接合菌症を認めることがあるが、ほとんどは血液疾患などの免疫不全症例で発症する。ポサコナゾールは日本国内ではまだ使用されていないが、接合菌症にも有効性が期待されている新しいアゾール系抗真菌薬である。
なお、環境からのサンプリングによる微生物検査は、ルーチンで実施する科学的な根拠は認められず、日常業務とするべきではないが、アウトブレイク調査としては有用であり、アウトブレイクを制圧するための対策を立案するのに有用な場合が少なくない。


ブルガリアの病院における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)アウトブレイク

Extended-spectrum β-lactamase-producing Serratia marcescens outbreak in a Bulgarian hospital

D. Ivanova*, R. Markovska, N. Hadjieva, I. Schneider, I. Mitov, A. Bauernfeind
*Second Multiprofile Active Treatment Hospital, Bulgaria

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 60-65

ブルガリアの大学病院の4病棟で9例の患者に発生した基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)による院内アウトブレイクを報告する。分離株の表現型解析および遺伝子型解析[プラスミド・プロファイル、ランダム増幅DNA多型性(RAPD)解析、およびリボソームDNA増幅制限解析(ARDRA)]から、単一クローンの存在が示された。この流行株はオキシイミノβ-ラクタム系、アズトレオナム、アミノグリコシド系、テトラサイクリン、およびクロラムフェニコールに耐性を示した。等電点電気泳動法、CTX-M PCR-RFLP(制限酵素断片多型性)、および遺伝子配列決定により、分離株はCTX-M-3型ESBLを産生することが示された。また、この分離株は環境中および看護師の手指からも検出されたことから、スタッフの手指を介した伝播が示唆された。今回のアウトブレイクは、患者の隔離と手洗いの強化によって制御することができた。この論文は、ブルガリアにおけるCTX-M-3型ESBL産生S. marcescensによる院内アウトブレイクの初めての報告である。

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監訳者コメント:
基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)は国内では幸いまだ少ないが、欧米ではTEM-1やTEM-2、SHV-1型に由来するタイプが多く、CTX-M型はToho-1型、Toho-2型とともに国内から認められる。第3世代セフェム系やモノバクタム系(アズトレオナム)に耐性を示す場合にはESBLを疑う必要がある。
ESBL産生グラム陰性桿菌は、この報告のように、その感受性によってカルバペネム系やキノロン系の抗菌薬で治療されるが、感染制御リスクアセスメントに基づき接触感染予防策の適応を検討しなければならない。

外科医による手術室での針刺し損傷の報告:過少報告されているのか?★★

The reporting of needlestick injuries sustained in theatre by surgeons: are we under-reporting?

E. Au*, J.A. Gossage, S.R. Bailey
*Maidstone Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 66-70

外科医は手術中に針刺し損傷を経験する頻度が高い。この研究の目的は、1施設における針刺し損傷の発生率と報告率を評価することである。英国の地域総合病院の全職階・専門科の外科医69名に匿名の質問票を配布し、42名(60.9%)が回答した。2年間で840件の針刺し損傷が発生しており、その126件は出血を来していた。1週間あたりの手術時間が長い年長の外科医は、若年の外科医と比較して針刺し損傷の発生率が高かった(2年間で1人あたり29.1件対6.59件)。針刺し損傷の全事例のうち、外科医の回答によれば19件(2.26%)が労働衛生部門(Occupational Health)に報告されたことになっていたが、労働衛生部門の記録では報告は6件のみであった。若年の外科医は年長の外科医よりも針刺し損傷の報告率が有意に高かった(9.82%対1.10%、P=0.0000045)。針刺し損傷を報告しなかった主な理由は、時間不足や過剰な事務処理であった。外科医の73%が手術中に二重手袋をルーチンでは使用しておらず、その主な理由は手の感覚が鈍るためであった。この施設の外科医による針刺し損傷の報告率は極端に低い。過去の研究では比較的高い報告率が示されていることから、血液媒介感染を認識しているにもかかわらず、外科医は依然として推奨プロトコールに従っていないことが示唆される。

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監訳者コメント:
医療従事者の職業感染対策において針刺し・切創による血液・体液曝露は極めて重大な課題でありながら、受傷者が報告しなければ発生を確認することができず、現在までその実態は明らかになっていない。とくに手術室からの報告は不十分であると考えられており、この報告でも明らかになっているように過少報告(under-reporting)であると推定される。
あなたの施設では針刺し・切創の何%が手術室から報告されているであろうか? また、職種別に外科医が占める割合はどれくらいであろうか?

義務的職域健診により医学生のワクチン接種率が増加する

Obligatory occupational health check increases vaccination rates among medical students

K. Schmid*, K. Merkl, K. Hiddemann-Koca, H. Drexler
*University of Erlangen-Nuremberg, Germany

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 71-75

2002年10月、エルランゲン・ニュルンベルク大学の臨床実習前のすべての医学生を対象として義務的職域健診を導入した。2005年から2007年の期間では約半数の医学生が臨床実習実施前に健診を受けた。この研究の目的は、臨床実習前の医学生に対する職域検診が、ワクチン接種率に効果を及ぼすかどうかを評価することである。臨床実習実施年の初頭に、連続した医学生242名(臨床実習前の職域健診実施121名および非実施121名)を調査した。医学教育の期間中のB型肝炎ワクチン接種率は女性で50%から96%、男性で58%から96%に上昇した。初期職域健診を受診しなかった医学生ではワクチン接種率が有意に低かった(女性85%、男性81%)。実習前検診が有意に有効であったのは、男性ではB型肝炎、破傷風、ジフテリア、ポリオ、風疹、および流行性耳下腺炎、女性でB型肝炎および風疹のワクチン接種であった。この研究では、特に男性のワクチン接種率の有意な増加を図ることができることを示している。臨床実習を開始した後の医学生でも、ワクチン接種率を向上させるためには個人単位の職域健診が必要である。ルーチンの職域健診は、ワクチン接種率の格差縮小に大きく寄与する可能性がある。

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監訳者コメント:
ワクチン接種は感染予防の基本であり、とくに医療従事者がB型肝炎ワクチンを未接種のまま医療現場に立つことは極めて危険である。ワクチン接種によりすべての医療従事者は護られるべきであり、医療機関による格差を許すべきではない。

最適なインフルエンザワクチン接種率の達成:ある都市型病院における医療従事者の調査に基づく研究

Achieving optimal influenza vaccination rates: a survey-based study of healthcare workers in an urban hospital

M. Mehta*, C.A. Pastor, B. Shah
*Bronxe-Lebanon Hospital Center, USA

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 76-79

米合衆国では、毎年、インフルエンザウイルスによって36,000例以上の死亡と114,000例以上の入院が発生している。医療従事者はインフルエンザ流行の主要な発生源であることが判明している。すべての医療従事者がワクチンを接種すべきであるという米国疾病対策センター(CDC)の勧告にもかかわらず、接種率は依然として低い。インフルエンザワクチン接種率および関連因子について、調査に基づく研究をある都市型地域教育医療施設で実施した。合計570件の調査から、参加者のインフルエンザワクチン接種率は56.5%であった。ワクチン接種を受けた参加者は、受けていない参加者と比較してインフルエンザに対する知識スコアの平均値が有意に高かった(P=0.003)。また、ワクチン接種者と、ワクチン接種の目的は患者をインフルエンザ曝露から防ぐことであるという認識との関連も認められた(P=0.001)。最後に、管理職がワクチン接種を積極的に奨励促進した病院の診療科では、一般に接種率が高かった。

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監訳者コメント:
医療従事者がインフルエンザワクチンを接種することは、自分を護るだけでなく、患者を護る観点でも重要であり、医療機関にあっては患者安全の重大課題であると認識すべきである。しかし、一般的には、わが国の医療従事者のほうがインフルエンザワクチン接種率が高いようであり、接種率90%を超える施設も少なくない。
毎年のインフルエンザワクチン接種は医療従事者のルーチン業務であるべし。

介護施設におけるペニシリン非感受性肺炎球菌感染症のクラスターの調査と管理

Investigation and control of a cluster of penicillin non-susceptible Streptococcus pneumoniae infections in a care home

W.J. Olver*, J. Cavanagh, M. Quinn, M. Diggle, G.F.S. Edwards
*Ninewells Hospital and Medical School, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 80-83

高齢者介護施設の入居者2名が肺炎のために1か月間入院して、両名ともにペニシリン非感受性肺炎球菌菌血症で死亡した。この介護施設のすべての入居者および職員に対して、鼻咽頭スワブによるペニシリン非感受性肺炎球菌のスクリーニング検査を実施したところ、入居者1名と職員1名が無症候性保菌者であると判明した。保菌者にはリファンピシンを経口投与した。全4株はいずれも血清型14であり、複数部位配列タイピング(MLST)法により、スコットランドで未検出のST2652であることが示された。介護施設の入居者の調査から、肺炎球菌ワクチンの接種率が低いことが明らかになった(63%)。この結果は、一般集団の65歳以上の高齢者の接種率と同等であり、改善が必要である。

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監訳者コメント:
ワクチンで予防できる疾患はワクチンで予防するべきである。成人では肺炎球菌多糖体23価ワクチン(PPV-23)、小児では肺炎球菌結合型7価ワクチン(PCV-7)が利用される。ワクチンによる予防は耐性菌に対しても有効であり、市中においてもペニシリン非感受性肺炎球菌が多いわが国では、肺炎球菌ワクチンの意義はさらに大きい。

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