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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)感染による死亡に関連する危険因子:システマティックレビュー

Risk factors associated with mortality of infections caused by Stenotrophomonas maltophilia: a systematic review

J.I. Garcia Paez*, S.F. Costa
*University of Sao Paulo Medical School, Brazil

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 101-108


本総説の目的は、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)感染による死亡に関連する危険因子に関する入手可能な論文の質を評価することである。1985年3月から2008年3月の範囲でPubMedとOVIDを検索した。S. maltophilia感染と死亡に関連する危険因子との関係を調べたもの、患者特性を詳細に記載したもの、および転帰と死亡に関するデータを提示した研究を対象とした。S. maltophiliaに言及している研究は38件であった(4件は多変量解析、10件は単変量解析)。本総説にはいくつかの限界があり、その主な原因は患者の不均一性、適切な統計学的解析が行われていないこと、および院内感染の研究か市中感染の研究かといった定義を行っていないことである。検討したデータから、S. maltophilia感染による死亡率が高いこと、死亡に関連する危険因子は初期の臨床状態と患者のタイプに関係があることが示唆された。基礎疾患として血液悪性腫瘍がある患者および集中治療室への入室は、死亡に関連する独立危険因子であった。ショック、血小板減少、およびAPACHE(Acute Physiological Assessment and Chronic Health Evaluation)スコア>15が、血流感染患者および肺炎患者の転帰に関連する独立危険因子であった。スルファメトキサゾール耐性S. maltophilia感染による死亡と関連する唯一の独立危険因子は、臓器不全であった。適切な抗菌薬治療および中心静脈カテーテルの抜去が死亡に及ぼす影響については、さらなる臨床研究が必要である。

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監訳者コメント:
S. maltophiliaによる感染症はそれほど頻繁に遭遇するものではないが、その分、文献に乏しい。本論文はその意味で、利用可能なS. maltophiliaに関するエビデンスを集約し解析した点で評価される。ただし、本論文はS. maltophiliaによる死亡に対する危険因子のみが解析されている点に限界がある。またその結果も概ね想定されるものであり、免疫状態の低下した患者において死亡のリスクが高いといったものである。

英国のケンブリッジにおける多剤・カルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)アウトブレイクの調査および制御

Investigation and management of an outbreak of multidrug-carbapenem-resistant Acinetobacter baumannii in Cambridge, UK

D.A. Enoch*, C. Summers, N.M. Brown, L. Moore, M.I. Gillham, R.M. Burnstein, R. Thaxter, L.M. Enoch, B. Matta, O. Sule
*Addenbrooke’s Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 109-118


英国の多くの病院で、カルバペネム耐性の多剤耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)(MRAB-C)が流行している。ORION(Outbreak Reports and Intervention studies Of Nosocomial infection)の基準を使用して、2か所の集中治療室(ICU)で発生したMRAB-Cアウトブレイクを報告する。MRAB-C保菌・感染患者全員を対象とした。アウトブレイクの第1期に感染制御予防策の強化を導入した。第2期には成人脳疾患集中治療室(NCCU)の一部を封鎖し、患者の厳重な隔離、バリアナーシング、および週3回のスクリーニングを導入した。制御達成時にNCCUを再開し(第3期)、退院後の蒸気洗浄および月1回の排気・給気孔の清掃を行った。症例は19例で、その内訳はNCCU 16例、一般ICU 3例であった。患者の平均年齢は52歳で、6例が女性であった。全患者が人工呼吸下にあり、10例は脳室ドレナージを行っているか、頭蓋内圧モニタリング装置を装着していた。4例が菌血症を、他の1例は脳室炎を発症していた。9例には感染の臨床所見は認められず、4例は初回スクリーニング時に診断された。10例が治療を受け、8例が死亡した。環境検体から、NCCU全体が高度に汚染されていたことが示された。MRAB-Cは重症患者に感染・定着し、高い死亡率と関連する。今回のアウトブレイクは、早期の制御開始、患者の隔離、患者と環境のスクリーニング、および手指衛生、環境清掃、臨床的監視の強化により制御された。アウトブレイクの制御には多面的なアプローチが必須である。

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監訳者コメント:
アシネトバクターは環境中に長期にわたり生存する厄介なグラム陰性菌である。今後日本でも集団発生の原因病原体として問題になってくると思われる。

パレスチナのガザ市の新生児集中治療室におけるセラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)敗血症のアウトブレイク

An outbreak of Serratia marcescens septicaemia in neonatal intensive care unit in Gaza City, Palestine

A.M.Kh. Al Jarousha*, I.A. El Qouqa, A.H.N. El Jadba, A.S. Al Afifi
*Al Azhar University, Palestine

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 119-126


2005年1月から12月にかけて、ガザ地区にある国営病院の新生児集中治療室でセラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)感染症の症例対照研究を実施した。院内感染による敗血症であることが確認された159例の新生児の血中からS. marcescensが検出され、このうち70例(44%)がS. marcescens感染症により死亡し、89例が回復した。主な臨床症状は低体温(38%)、黄疸(42%)であり、29%が1分後のアプガースコア4点、5%が5分後のアプガースコア5点であった。S. marcescens感染と有意に関連する危険因子は、出生時体重1,500 g未満(OR 1.7、P=0.026)、在胎期間37週未満(OR 2.0、P=0.002)、および人工呼吸器の使用(OR 2.3、P=0.001)であった。寒天拡散法による感受性検査から、S. marcescensは全般的にイミペネム感性であり、次いでシプロフロキサシンとオフロキサシンに感性であることが示された。著者らは、新生児の敗血症の発症と関連する可能性がある危険因子を同定したが、重篤な感染症を予防するためには適切な感染制御対策が重要であることを強調したい。

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監訳者コメント:
要約には書かれていないが、本事例ではタイトルにあるようにアウトブレイク事例の報告でもある。2005年4月~6月の間に100例近いS. marcescens検出患者が集中しており、その後減少しているが、3か月もの間に月30例以上の患者が発生している状況は決して好ましくなく、集団発生対応としては標準的とはいえない。一方で、これだけ多くのS. marcescens検出症例が集まることも少なく、その意味では貴重な報告ともいえる。S. marcescens感染症のリスク因子として挙がってきたものの多くは、介入が困難なものであり、その意味でも手指衛生や接触予防策などの基本的な感染対策が重要といえる。

病棟獲得メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の減少を目的とした統計的工程管理チャートおよび構造化診断ツールの多施設無作為化対照試験の結果:CHARTプロジェクト

Results of a multicentre randomised controlled trial of statistical process control charts and structured diagnostic tools to reduce ward-acquired meticillin-resistant Staphylococcus aureus: the CHART Project

E. Curran*, P. Harper, H. Loveday, H. Gilmour, S. Jones, J. Benneyan, J. Hood, R. Pratt
*Health Protection Scotland, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 127-135


統計的工程管理(SPC)チャートは、感染制御の質の向上を目的として以前から奨励されてきた。その有効性を判定するために多施設無作為化対照試験を実施し、感染制御看護師(ICN)から医療従事者に対して病棟獲得メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)保菌率および感染率のSPCによるフィードバックを毎月行うことにより、発生率が低下するかどうかを調べた。英国の24病院の75病棟を以下の3群に無作為化した。(1)SPCチャートのフィードバックを受けている病棟、(2)SPCチャートのフィードバックに構造化診断ツールを組み合わせた病棟、(3)いずれのタイプのフィードバックも受けていない対照病棟。病棟獲得MRSA感染に関する介入前25か月間のデータを、介入後24か月間のデータと比較した。3群すべてで、病棟獲得MRSA保菌・感染率が統計学的に有意かつ持続的に減少した(P<0.001、P=0.015、P<0.001)。平均減少率は、SPCフィードバックを受けている病棟で32.3%、SPCと診断法のフィードバックを受けている病棟で19.6%、対照病棟で23.1%であったが、対照群と介入群に有意差は認められなかった(P=0.23)。介入後は、対照群で「管理限界を超える」エピソードが有意に多くみられた(平均値は対照病棟0.60、SPC病棟0.28、SPC+診断法の病棟0.28、P=0.021)。参加施設はSPCチャートを有効なコミュニケーションツールであり病棟獲得MRSAのデータの伝達に有用であるとしている。

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監訳者コメント:
SPCチャートによるサーベイランスデータのフィードバックは、日本でも少しずつ普及してきている。その効果について本論文で検討したが、SPCを使用しない群においても病棟獲得MRSAの率が低下してきており、限定的と解釈するのが妥当である。しかし無駄ではなく、またデータの解釈がより容易に行えることから、本法によるフィードバックが推奨される。

高齢者ケア病棟のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)による環境汚染に対する過酸化水素ドライミスト発生装置による消毒システムの効果

Activity of a dry mist hydrogen peroxide system against environmental Clostridium difficile contamination in elderly care wards

S. Shapey*, K. Machin, K. Levi, T.C. Boswell
*Nottingham University Hospital NHS Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 136-141


クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)は重篤な医療関連感染を引き起こす。感染制御は困難であるが、その原因の1つとしてC. difficile芽胞による環境汚染が挙げられる。これらの芽胞は清掃や消毒に対して比較的耐性がある。3か所の高齢者ケア病棟で、C. difficileによる環境汚染に対する過酸化水素ドライミスト発生装置による消毒システム(SterinisR)の効果を評価した。BrazierのCCEY(シクロセリン-セフォキシチン-卵黄)寒天培地を用いて、種々の病棟および診療科の16室でC. difficileの初回サンプル採取を行った。高齢患者用の10室(隔離室8室および汚物室 2室)で、過酸化水素ドライミストによる汚染除去の後、再度サンプルを採取した。PCR法を用いたリボタイピングにより、典型的なC. difficile分離株の遺伝子型を判定した。C. difficileが回収率は、低リスク、中等度リスク、高リスクの部屋のサンプルでそれぞれ3%、11%、26%であった。高リスクの高齢者ケア室10室では、サンプルの24%(203件中48件)がC. difficile陽性であり、過酸化水素による汚染除去前のサンプル10件あたりの平均コロニー形成単位(cfu)は6.8であった。リボタイピングにより、英国の主要な流行菌株である3株(リボタイプ001、027、および106)が同定され、4室では菌株が混在していた。過酸化水素による汚染除去を1サイクル行った後には陽性サンプルは3%(203件中7件)のみとなり(P<0.001)、サンプル10件あたりのcfuは0.4となった(約94%の減少)。これらの高齢者ケア室では、過酸化水素発生装置による消毒システムSterinisRC. difficileによって環境汚染の程度が有意に低下した。この技術は比較的動作が迅速で操作が簡易であり、他の消毒剤による手動の消毒法と比較して、隔離室を洗浄剤による清掃後に最終的に消毒するうえで信頼性の高い方法と考えられる。

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監訳者コメント:
感染対策上、閉鎖空間内に消毒効果のある気体を充満させる方法は通常用いられず、高頻度接触面を中心とした清拭による消毒が基本である。しかし、本事例にみられるような広範囲のC. difficileによる汚染の場合などには、そういった方法も考慮すべきかもしれない。過酸化水素発生装置による消毒システムの有用性を示す本論文は、一読の価値があると考える。

広域スペクトル抗菌薬投与を受けている入院患者のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染を予測する臨床的リスクインデックス★★

A clinical risk index for Clostridium difficile infection in hospitalised patients receiving broad-spectrum antibiotics

K.W. Garey*, T.K. Dao-Tran, Z.D. Jiang, M.P. Price, L.O. Gentry, H.L. DuPont
*University of Houston College of Pharmacy, USA

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 142-147


クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染の高リスク集団を判定することにより、C. difficile感染予防戦略の策定が可能になる。本研究の目的は、C. difficile感染高リスク者を予測する臨床的リスクインデックスの開発である。そこで、広域スペクトル抗菌薬投与を受けた患者コホートに基づき、開発コホートと検証コホートに分けて、C. difficile感染リスクインデックスを作成した。ロジスティック回帰式により、C. difficile感染の有意な予測因子を特定した。特定した危険因子を用いてC. difficile感染リスクのスコアリングアルゴリズムを作成し、4つのC. difficile感染リスクカテゴリーを設定した。受信者動作特性曲線下面積(aROC)で適合度を評価した。患者54,226例中392例がC. difficile感染陽性であった。C. difficile感染と有意に関連していた因子は、年齢50~80歳[オッズ比(OR)1.5、P<0.0116]、年齢>80歳(OR 2.5、P<0.0001)、血液透析(OR 1.5、P=0.0227)、非外科部門への入院(OR 2.2、P<0.0001)、および集中治療室入室期間が長いこと(OR 2.1、P<0.0001)であった。有意な関連があった因子の有無に基づく簡易リスクインデックスは、開発コホート(OR 3.57、P<0.001、aROC 0.733)および検証コホート(OR 3.31、P<0.001、aROC 0.712)のいずれにおいてもC. difficile感染リスクの増加と有意に関連していた。ORに基づいて作成したリスクインデックスの性能は、簡易リスクインデックスに及ばなかった。この簡便なリスクインデックスは、患者をC. difficile感染のリスクカテゴリーに層別化することが可能であり、予防戦略の策定に有用である。

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監訳者コメント:
本論文で提唱されている、C. difficile感染のリスクカテゴリー層別化は、患者管理上非常に有用である可能性がある。点数をつける方法は、年齢(50~80歳は1点、81歳以上は2点)、血液透析(1点)、内科系入院(1点)、ICUの入院日数(週単位)という非常にシンプルなもので、臨床応用も容易である。今後、多くの患者のコホートで検証されることが期待される。

手術室のコンピューターキーボード汚染への麻酔医の関与★★

Anaesthetists’ role in computer keyboard contamination in an operating room

T. Fukada*, H. Iwakiri, M. Ozaki
*Tokyo Women’s Medical University, School of Medicine, Japan

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 148-153


麻酔医が、麻酔処置の記録をコンピューターに保存するときには、通常は汚れて濡れた手袋を装着したままでデータ入力をしている。手術室のコンピューターの汚染、または麻酔医による手洗いや手指消毒の重要性の認識についての研究は行われていない。我々は、キーボード汚染の4つの要素、すなわち(1)汚染の程度、(2)エタノールによる清掃の効果、(3)キーを叩くことによる手袋とキーボードの間の細菌の伝播、および(4)麻酔医の手指消毒の頻度について調査した。キーボード上の細菌の多くはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌およびバチルス(Bacillus)属であったが、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌も検出された。エタノールによるキーボードの清掃により細菌数は効果的に減少した。濡れた汚染手袋とキーボードの間のメチシリン感受性表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)伝播は、乾燥した汚染手袋とキーボード間よりも容易であった。手指消毒を行った麻酔医は、麻酔処置後は64%、昼食前は69%であったが、麻酔処置前では17%のみであった。交差汚染を防止するためには、製造者の取り扱い説明書に従いキーボードを定期的に掃除し、1日1回、または血液や分泌物で肉眼的に汚染された場合には消毒を実施する必要がある。さらに麻酔医は、手術室における医療関連感染の原因菌を、自身が伝播させる可能性があることを認識する必要がある。麻酔医は麻酔処置の前後に手指消毒を行い、各処置後にコンピューターを使用する前には手袋を外す必要がある。

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監訳者コメント:
東京女子医科大学からの報告で、この状況は日本全国の多くの病院に当てはまるのではないでしょうか。私も読みながら、大きくうなずいてしまいました。今までは「外国のデータだから」といって取り合わなかった麻酔科の責任者に見せても、今度は「これは女子医のデータだから、うちとは違います」と言われるかも知れませんね。

塩素処理サイクルの反復にもかかわらず、mip遺伝子を有するLegionella pneumophilaの単一株が市営のシャワー設備で長期持続した例

Long-term persistence of a single Legionella pneumophila strain possessing the mip gene in a municipal shower despite repeated cycles of chlorination

I.R. Cooper*, J. White, E. Mahenthiralingam, G.W. Hanlon
*University of Brighton, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 154-159


家庭用給水システムへのレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)の定着は、ヒトのレジオネラ症アウトブレイクの主要な原因となっている。世界保健機関(WHO)のガイドラインは、飲用水を0.2~1 mg/Lの塩素で処理することを推奨しているが(Chlorine in drinking-water. Guidelines for drinking-water quality, 2nd edn. Geneva: World Health Organization; 1996)、塩素処理した給水システムからL. pneumophilaが反復して分離されることから、この処理は細菌定着の効果的な予防法ではないことが示唆される。英国の現行のガイドラインでは、細菌除去のために20~50 mg/Lの遊離塩素による単回処理を推奨している。本調査では、2年半にわたり50 mg/Lの塩素に1時間曝露する処理サイクルを反復したにもかかわらず、家庭用シャワー設備でL. pneumophila血清グループ1型が持続したことを報告する。持続分離株に対して、in vitro表現型解析、および毒素をコードするmip遺伝子のPCR法による解析を実施した。異なる機会に採取した分離株が同一株であるかどうかを調べるために、DNA多型性ランダム増幅(RAPD)タイピングも実施した。その結果、2年半にわたって採取したL. pneumophilaの7分離株は遺伝的に同一株であると判定されたことから、分離のたびに塩素処理サイクルを反復しても、この細菌は持続的に存続可能であることが示された。

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監訳者コメント:
塩素による除菌以外にも、高温水によるフラッシングも有効である。特に末端で65℃以上の温水が供給できるような給湯システムでは、レジオネラが生息することは不可能である。また給水システムに構造上の盲端を極力作らないようにすることは、レジオネラ予防の第一歩である。

バルバドスのクイーン・エリザベス病院の医療従事者による携帯電話の使用:有益性と有害性のエビデンス

Use of mobile phones by medical staff at Queen Elizabeth Hospital, Barbados: evidence for both benefit and harm

J. Ramesh*, A. O. Carter, M. H. Campbell, N. Gibbons, C. Powlett, H. Moseley Sr, D. Lewis, T. Carter
*University of the West Indies, Barbados

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 160-165


学生を含む医療従事者全員に、携帯電話の使用パターンとケアに関する自記式質問票への記入を依頼した。参加者の携帯電話の微生物培養を実施した。これとは別に、携帯電話の影響を受けやすい医療機器に近接して業務を行う医療従事者を対象として、携帯電話による有害な現象について調査した。また電話交換手に、種々の方法で医療従事者に連絡を試みた場合の所要時間の調査を依頼した。医療従事者および調査時点で学生であった266名のうち116名が質問票の全項目に記入した(回答率44%)。ほぼ全員(98%)が携帯電話を使用しており、67%が病院関連業務に、47%が患者のケア中に携帯電話を使用していると報告があった。使用後に手を洗うと回答したのは3%のみであり、53%が携帯電話を洗浄したことがないと回答した。携帯電話101台の微生物培養の結果、45%が培養陽性となり、15%でグラム陰性菌が認められた。携帯電話の影響を受けやすい機器に近接して業務を行う医療従事者に対する調査では、救命装置の軽度の障害が1件報告されたのみであった。電話交換手が医療従事者に2分以内に連絡をとることが最も容易にできたのは携帯電話であった。携帯電話は医療従事者に広く使用されており、多くの参加者が最も効率的な連絡手段であると考えていた。しかし、携帯電話の洗浄が低いことは微生物汚染のリスクと関連している。病院は、携帯電話の衛生に関する指針を策定する必要がある。

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監訳者コメント:
実に視野の狭い、ミクロ的視点で語られた研究である。たとえグラム陰性菌で汚染されたモバイルを使用しても、とにかく患者へコンタクトする前後で手指衛生を行っていれば、まったく問題は起きないはずである。それなら、我々の衣類にいる微生物は、モバイル上にいる菌数よりきっと多いでしょうけれども、これはリスクとはならないのでしょうか?

帝王切開後の強化した手術部位感染症サーベイランス:多施設共同退院後システム(multicentre collaborative post-discharge system)の経験★★

Enhanced surgical site infection surveillance following caesarean section: experience of a multicentre collaborative post-discharge system

V.P. Ward*, A. Charlett, J. Fagan, S.C. Crawshaw
*Health Protection Agency, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 166-173


英国での帝王切開の実施率は過去20年間で2倍以上となり、現在も上昇が続いている。帝王切開関連感染症の発生率を同定するために実施された研究の多くは、対象を入院中の患者に限定しているため、正確な結果が得られていない可能性がある。帝王切開を実施した女性は、退院後に地域助産師によるルーチンの訪問を受ける。これは、病院と地域スタッフとの共同サーベイランスアプローチが、ルーチンに入手できる情報を利用しながら実施可能かどうかを評価する好機となる。パイロット研究の成功を受けて、英国のイースト・ミッドランドの11の産科部門が拡大研究に参加した。完全な診療記録を5,563名(88%)から得ることができた。全体で758名(13.6%)に創感染症が報告され、このうち84%は退院後に発生していた。そのうち488件(8.9%)が英国の手術部位感染症の定義に合致していたが、発生率には施設間に2.9%から17.9%の範囲で顕著な相違が認められた。統計学的モデルを用いて12の危険因子について施設間の相違を検討したところ、体格指数(BMI)、年齢、出血量、創閉鎖法、緊急手術の5つの危険因子が手術部位感染症の発生に有意に関連することが示された。この結果は、帝王切開は高い感染率と関連することを示唆しており、退院後のモニタリングなしでは感染率はかなり過小評価されていると考えられる。創感染症が発生した女性のほとんどが、感染症が軽度であっても抗菌薬治療を受けており、その97%は地域内で処方されていた。このことから、地域における抗菌薬処方を再検討する必要性が示唆された。

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監訳者コメント:
SSIは術後30日以内に発生した創部感染症であるから、post-discharge surveillance(PDS)は、入院期間が短い施設では特に重要である。しかしながら、退院後に患者の主治医とのコラボレーションが可能なセッティングでなければ過小評価につながる。わが国でもこのまま入院期間の短縮が続くと、PDSの重要性が今よりもっと出てくる。

種々の医療処置中の血液含有エアロゾルによる汚染の評価

Evaluation of contamination by blood aerosols produced during various healthcare procedures

F. Perdelli*, A.M. Spagnolo, M.L. Cristina, M. Sartini, R. Malcontenti, M. Dallera, G. Ottria, R. Lombardi, P. Orlando
*University of Genoa, Italy

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 174-179


本研究の目的は、歯科処置、顎部顔面手術、および剖検中に生じるエアロゾル中の血液含有量を測定し、血液含有エアロゾル曝露による感染リスクが最も高い処置を同定することである。数か所の歯科処置用個室、1か所の顎顔面手術室および剖検室から、合計132の空気サンプルを採取した。サンプル中のヘモグロビン(Hb)濃度を測定し、採取日ごとに吸引空気1 m3あたりの血液濃度(血液μL/空気m3)を算出した。Hbは38.64%のサンプルから検出された。サンプル中の平均Hb濃度は吸引空気1 m3あたり0.10±0.19 μg Hbであった(範囲0~0.72 μg Hb/m3)。調査した3種類の処置中の吸引空気1 m3あたりの血液含有エアロゾル濃度には、統計学的有意差は認められなかった(P>0.05)。現在のところ、血液含有エアロゾルを介した感染リスクは明確には示されていないが、エアロゾルおよび飛沫の産生や飛散を最小限に抑えることが強く推奨される。

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監訳者コメント:
エアロゾルに含有された血液よりも、エアロゾルに混入している微生物のほうが感染症のリスクとなるはずである。耳鼻咽喉科領域で使用しているノズル類には無数のエアロゾルが付着しているはずであるが、なぜか医療器械でノズルがディスポーザブルである製品を開発しているメーカーは見当たらない。不思議ですね。

人工呼吸器関連肺炎予防のためのエビデンスに基づくガイドライン:欧州の集中治療室看護師に対する知識判定試験の結果★★

Evidence-based guidelines for the prevention of ventilator-associated pneumonia: results of a knowledge test among European intensive care nurses

S. Labeau*, D. Vandijck, J. Rello, S. Adam, A. Rosa, C. Wenisch, C. Backman, K. Agbaht, A. Csomos, M. Seha, G. Dimopoulos, K.H. Vandewoude, S. Blot, for the EVIDENCE study investigators
*University College Ghent, Belgium

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 180-185


感染予防に関するeラーニング・プラットフォームの開発に先立ち、必要性分析の一環として、欧州の集中治療室(ICU)の看護師を対象に、人工呼吸器関連肺炎予防のためのエビデンスに基づくガイドラインについての知識判定試験を行った。2006年10月から2007年3月に、検証済みの多肢選択式質問票を欧州22か国で配布した。人口統計学的データとして、国籍、性別、ICU勤務年数、ICUのベッド数、集中治療の専門学位の取得などを尋ねた。3,329部の質問票を回収した(回収率69.1%)。平均スコアは45.1%であった。回答者の55%は挿管には経口ルートが推奨されていること、35%は人工呼吸器回路は新規の患者ごとに交換すべきことを知っていた。熱・湿気交換器としては加湿器型が推奨されることを知っていたのは38%であったが、1週間に1回交換すべきことを知っていたのは21%のみであった。閉鎖吸引システムが推奨されるとしたのは46%、新規の患者ごとに交換すべきことを知っていたのは18%のみであった。声門下ドレナージとカイネティックベッドは人工呼吸器関連肺炎の発現率を低下させることを認識していたのはそれぞれ51%、57%であった。回答者の大半(85%)は、半臥位が人工呼吸器関連肺炎を予防することを知っていた。ICU勤務年数が長いことおよびICUベッド数が多いことは、良好な試験スコアと独立して関連していた。さらなる研究により、試験スコアが低いことは、知識の欠如、訓練不足、何を適切な医療行為とするかの相違、一貫した方針の欠如などと関連するかどうかが判明すると考えられる。

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監訳者コメント:
大変重要な報告である。果たしてわが国の集中治療室の看護師は、この質問用紙でどれぐらいの正解率を得られるであろうか。1度は翻訳して使用してみたいものである。

監訳者注:
カイネティックベッド(kinetic bed):ベッド自体に移動機能が備わり、体位変換に準じ理学療法を行うことのできるベッドのこと。

家畜との接触がある医療従事者におけるMRSA保菌

MRSA carriage in healthcare personnel in contact with farm animals

M.W.H. Wulf*, E. Tiemersma, J. Kluytmans, D. Bogaers, A.C.A.P. Leenders, M.W.H. Jansen, J. Berkhout, E. Ruijters, D. Haverkate, M. Isken, A. Voss
*PAMM Laboratory for Medical Microbiology, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2008) 70, 186-190


オランダでは、ブタとの接触がある人は一般集団と比較してメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)保菌リスクが高いことが示されている。Multilocus sequence type(MLST)法によるタイピングでST398に相当するspa型に近縁の分離株がブタ飼育場従事者、ブタの獣医、およびブタから検出された。本研究の目的は、ブタや食用子ウシなどの家畜との接触が、オランダの医療従事者のMRSA保菌の危険因子であるかどうかを検討することである。4か所の総合病院と1か所の大学病院の医療従事者に対して、動物との接触に関する質問票の記入、および咽喉と鼻孔のMRSA培養を依頼した。家畜と接触のある医療従事者については全員の培養を行い、家畜と接触のない医療従事者のサンプルを対照とした。医療従事者1,721名のうち77名(4.4%)がブタおよび/または食用子ウシと直接的または間接的な接触があると報告し、145名がその他の家畜との接触を報告した。ブタまたは食用子牛接触群のMRSA保菌率は1.7%、対照群は0.15%であった。他の家畜との接触がある医療従事者には保菌者はいなかった。オランダのガイドラインによると、農村住民集団に医療を提供しているオランダの病院の医療従事者のうち、推定3%はMRSA保菌の高リスク群に属する。家畜と接触のある医療従事者のMRSA保菌率はその他の医療従事者と比較して10倍高かったが、この差は統計学的に有意ではなかった。

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監訳者コメント:
商業立国であると同時に、名だたる農業国であるオランダでは、院内感染についての疫学調査も非常にintensiveに実施されており、疫学的調査に基づいたMRSA保菌のリスクファクターをもとに基準を作成し、国全体でMRSAのsearch & destroyを実施している。養豚家に市中型MRSAが高頻度に分離された後から、このような興味深い研究がされたとのことである。

手指衛生遵守のモニタリング:米合衆国から現在の展望

Hand hygiene compliance monitoring: current perspectives from the USA

John M. Boyce*
*Hospital of Saint Raphael, Connecticut, USA

Journal of Hospital Infection (2008) 70(S1) 2-7


手指衛生遵守のモニタリングと医療従事者への手指衛生活動に関するフィードバックは、手指衛生を推進するプログラムの成功に不可欠な要素であると考えられている。現時点でゴールドスタンダードとされるのは、訓練された職員による医療従事者の直接観察である。その利点としては、手指衛生が適切なタイミングで実施されているかを判定できること、医療従事者の職種別に遵守率を確認できること、さらには手指衛生の方法それ自体を評価できることなどがある。しかし、観察調査には時間がかかり、観察可能なのは手指衛生の機会の一部に過ぎず、評価者間の信頼性に左右される可能性がある。また、遵守の基準や観察方法が標準化されていないため、観察調査から得られた遵守率の比較には問題がある。手指衛生遵守の自己報告は信頼性が不十分であり、調査を有意義なものとすることはできない。手指衛生製品使用量のモニタリングに要する時間ははるかに少なく、継続的な実施が可能であり、より簡便である。しかし、手指衛生実践の適切性および質に関する情報や、医療従事者の職種別の遵守率は得ることができない。さらに、製品の使用量が観察調査で確認された遵守率とどのように相関するのか明らかではない。また、電子機器による遵守のモニタリング方法をルーチンに推奨できるようになるためには、さらなる評価が必要である。効率的で信頼性があり、再現可能な手指衛生遵守のモニタリング法を開発するには、さらなる研究が必要であることは明らかである。

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監訳者コメント:
感染管理は “手指衛生に始まって手指衛生に終わる” といってもよいかもしれない。感染管理にとって手指衛生はフナ釣りのようなものであるが、その遵守実践率を確認することすら難しい。ところで、患者に対する服薬指導など、継続性を維持すべき場面において、最近ではコンプライアンス(compliance)よりもむしろアドヒアランス(adherence)という用語が使用されることが多くなっている。文字通りの意味は “接着性・粘着性”ということであり、より積極的で主体的な実践が念頭に置かれている。遵守(compliance)から習慣(adherence)へ、医療従事者の動機付けは今後も重大な課題であり続けるであろう。

消毒薬評価の欧州規格

European norms for disinfection testing

Adam P. Fraise*
*Hospital Infection Research Laboratory, UK

Journal of Hospital Infection (2008) 70(S1) 8-10


No abstract.

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監訳者コメント:
欧州連合EU(European Union)では市場に製品を上梓する際に、一定の基準を満たすことを意味するCEマーク(Conformite Europeene)を獲得しておく必要がある。欧州統一基準はブリュッセルに本部をおく欧州規格委員会(CEN;Comite Europeen de Normalisation)で決定されるが、国際標準化機構(ISO;International Standards Organization)などとも協調して活動している。CENにはいくつかの技術委員会(TC;Technical Committee)があり、消毒薬についてはTC 216が担当している。手順を追って欧州規格(EN;European Norm)が決定されるが、これらの基準はヨーロッパ各国においても認証される必要があり、イギリスBSI、ドイツDIN、フランスANFORなど、国内機関でも統一基準となる。消毒薬に関するENは一般細菌、真菌・酵母、結核・抗酸菌、ウイルス、芽胞に分類して基準が設定されているところも興味深い。

KISSの10年間:成功のための最重要要件

Ten years of KISS: The most important requirements for success

Petra Gastmeier*, Dorit Sohr, Frank Schwab, Michael Behnke, Irina Zuschneid, Christian Brandt, Markus Dettenkofer, Iris F. Chaberny, Henning Ruden, Christine Geffers
*University Medicine in Berlin, Germany

Journal of Hospital Infection (2008) 70 (S1), 11-16


10年前の1997年1月にドイツにおける国家的な病院感染サーベイランスシステムが創設された。このシステムはKISS(Krankenhaus Infektions Surveillance System)という略称でよく知られている。その後、KISSは人工呼吸器関連肺炎、原発性(すなわち血管内留置カテーテル関連)血流感染症、外科手術部位感染症に関する継続的なサーベイランス活動および利用者への適切なフィードバックの有用性について、ベンチマークとして参照するべきデータとともに示してきた。集中治療部門および、手術部門、新生児集中治療部門の領域では、3 年間で20%から30%という顕著な感染率の低下が認められている。
これらの経験から、長期間にわたりサーベイランスシステムの成功を維持するためには、参加施設間の密接な連絡、新たな動向の検討、データの適時かつ定期的なフィードバックとデータ提示方法の継続的再評価、データの妥当性、および医療関連感染の減少に寄与していることの実証、などの要件を満たす必要がある。この論文は、これらの要件を満たすためにKISSがいかに努めているかを詳細に記載している。

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監訳者コメント:
国家的な医療関連感染症サーベイランスシステムとしては、米合衆国におけるNNIS(National Nosocomial Infection Surveillance)が有名であったが、2004年からは透析医療関連サーベイランスネットワーク(DSN;Dialysis Surveillance Network)、医療従事者職業安全関連サーベイランスシステム(NaSH;National Surveillance System for Health Care Workers)とともに、国家的医療安全ネットワーク(NHSN;National Healthcare Safety Network)に統合されている。わが国でも厚生労働省によるJANISや外科手術部位感染症サーベイランスとして成果を挙げたJNISがあり、さらにJNISは2009年からJHAIS(Japanese Healthcare-Associated Infections Surveillance)として医療器具関連感染サーベイランスも含めた体制に移行している。このようなサーベイランスシステムの構築は患者安全・医療安全の推進および政策立案の基礎データとして極めて重要である。その一方、サーベイランスの本来的な目的は現場への情報還元・フィードバックによる継続的な質改善運動であり、数字が独り歩きしないように注意しなければならない。
ちなみにsurveillanceの発音からすると、”サーベイランス”ではなく“サベイランス”と記載した方が納得できるような気もするが。

フランスにおける医療関連感染の制御:2005年から2008年度の国家プログラム

Healthcare associated infection control in France: 2005-2008 national program

J. Hajjar*
*General hospital, France

Journal of Hospital Infection (2008) 70(S1) 17-21


No abstract.

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監訳者コメント:
フランスでは20年前から医療関連感染対策への関心が高まり、保健省(Ministry of Health)が中心となった国家的なプログラムと大規模調査が実施されており、2005年からは病院における医療関連感染対策チームの活動、外科手術部位感染症サーベイランス、手指消毒薬の消費量、MRSA陽性率、抗菌薬使用量を指標の5項目が指標となって、医療関連感染症とMRSAの減少を達成していることが報告されている。
医療関連感染対策は患者安全の重要な課題であり、国家行政による政策的な介入が有効な場合があることが示されている。

手術用手指消毒薬のためのTentative Final Monograph(暫定的最終モノグラフ;TFM)およびEN 12791の試験法の比較検討★★

Comparative review of the test design Tentative Final Monograph (TFM) and EN 12791 for surgical hand disinfectants

P. Heeg*, C. Ostermeyer, G. Kampf
*University of Tuebingen Medical Centre, Germany

Journal of Hospital Infection (2008) 70(S1) 22窶・6


外科チームの術前手指消毒は、手術部位感染リスクを低下させるために世界中で実施されている標準的処置である。擦式アルコール製剤と抗菌剤入りの液体洗浄剤(「石けん」)の2種類の生体消毒薬が市販されている。生体消毒薬の抗菌効果を評価するための基準として、2005年に最終的に施行された欧州統一規格のEN 12971や、これに相当する米国の規格である医療用消毒薬のためのTentative Final Monograph(暫定的最終モノグラフ;TFM)(1994年)が策定されている。いずれの試験法でも、手指常在細菌叢の減少量を抗菌効果の定量的パラメータとしているが、試験デザインは大きく異なっている。欧州の試験法は無作為化比較対照クロスオーバーデザインであるのに対し、米国の試験法は無作為化盲検並行群間比較デザインである。いずれの基準でも処置の即効性と持続性の両方を対象としているが、ENでは試験製品の効果が対照処置よりも有意に劣ってはならないとしているのに対し、TFMでは片手あたりの細菌数減少の絶対値が1、2、5日目でそれぞれ1、2、3 log10以上であることを求めている。
様々な研究の結果から、同一製品が両方の基準で定義された規格を満たす場合もあるが、一方の基準の規格を満たしても、必ずしも他の基準要件を満たすわけではないことが示されている。両試験法には多くの顕著な相違が存在するために、不一致が生じると考えられる。多くの理由から、欧州の試験法は米国の試験法よりも臨床診療に近く、患者に対する安全性が高いと考えられる。しかし、現在入手可能な試験データからは、手術時の手指消毒の臨床的影響や、特定の製品による術後創感染率への影響を評価することはできない。

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監訳者コメント:
わが国には手指衛生剤の評価に関する公定法がなく、わが国の手指衛生剤の製品評価ならびに認可については米国・EUの基準を参考に早急に基準を策定する必要がある。TFMはなぜか暫定のまま今日に至っている。一応、EN基準は定期的な改訂が予定されている。

クロルヘキシジンによる手指消毒を正当化するものは何か?

What is left to justify the use of chlorhexidine in hand hygiene?

Gunter Kampf*
*BODE Chemie GmbH & Co. KG, Germany

Journal of Hospital Infection (2008) 70 (S1), 27-34


手指衛生のためのCDCガイドラインには、グルコン酸クロルヘキシジンは「かなりの残留活性」を有する消毒薬であると記載されている。しかし、すべての試験でこの考えが支持されているわけではない。懸濁試験(EN 13727など)および実用条件下試験(EN 1500など)ではいずれも、曝露後にサンプル液中のあらゆる残留活性を中和して、生存細胞が引き続いて損傷を受けないようにすることが重要である。また、中和手順についても質の保証をする必要がある。以上のことが実施されていない場合には、有効性が著しく過大評価される可能性があり、医療従事者が一部の消毒薬については真の有効性を示していないデータに依拠してしまうことになる。「かなりの残留活性」を裏づけるものとして引用されている8試験をレビューした結果、質的に保証された中和手順により実施された試験は1つもなかった。このうち7試験は、グルコン酸クロルヘキシジンの残留活性を示していなかった。1試験のみは一部の残留活性を報告しているが、中和剤を全く使用していなかったため、試験デザインの妥当性からこの試験の主張は是認できない。消毒薬の使用を正当化するためには、その効果があらゆるリスクを上回る必要がある。手指消毒でグルコン酸クロルヘキシジンに真の有用性が認められない場合は、皮膚過敏症、アナフィラキシーショックなどのアレルギー反応、細菌の獲得耐性などのすべてのリスクがなおさら重要となる。グルコン酸クロルヘキシジンによる手指消毒の効果を明確に裏づける、妥当性のある新しいエビデンスがない限り、医療従事者はグルコン酸クロルヘキシジンを含有しない製剤を選択すべきである。

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監訳者コメント:
グルコン酸クロルヘキシジンは生体消毒薬としてカテーテル刺入部の消毒に欧米では広く使用されている。わが国では、過去に高濃度の製剤を粘膜面に使用しショックを起こした事例があることから、欧米ほどその使用が普及していない。

手術時手指消毒法の遵守改善★★

Improving adherence to surgical hand preparation

A. Kramer*, N. Hubner, H. Below, C.-D. Heidecke, O. Assadian
*Ernst Moritz Arndt University Greifswald, Germany

Journal of Hospital Infection (2008) (S1), 35-43


現在、手術時手指消毒の詳細な実践法に関する一般的な合意はない。これを補うため、広く受け入れられる欧州の勧告策定に向けた第一段階として、手術時手指消毒に関する仏独の勧告が2002年に発表された。必須要件、洗浄・消毒段階、および実用的な推進方法などを含む、エビデンスに基づく標準的処置法の勧告を行うことを目的として、手術時手指消毒手順のプロトコールを現行の文献評価に基づいて論じている。
Hygienic hand disinfectionと比較して、手術時手指消毒は例外なく行われる儀式的なものと考えられているため、コンプライアンスは問題とはならない。それにもかかわらず、以下の要因は受け入れと効果を左右する。すなわち、皮膚の耐性、実践の簡便性、処置に要する時間と推奨時間、不正な処置方法による効果の低下の可能性、使用製剤による全身性のリスクの可能性と過敏症の恐れ、宗教的な制約、環境面の問題、費用、および安全性である。
本論文では上記を踏まえて、当大学病院ですべての手術に新規の手指消毒手順を導入した経験を報告する。
以下の記載について評価した。


  • アルコール製手指消毒薬使用直後の効果は、事前の10分間以下の手洗いで減少する。したがって、目に見える汚れなど、手洗いが必要となる理由がない限り、消毒の前に手をルーチンに洗うべきではない。

  • 使用時間を短縮しても(1.5分)、効果は3分間の場合と同等である。

  • 手袋を装着する前に手を空気乾燥すべきであり、そうしない場合は手袋の穿孔率が上昇する。

  • 洗浄段階後と消毒段階前の1分間、手を乾燥すると、アルコール製消毒薬の効果が著しく上昇する。

変更方法の策定に先立ち、上記の問題を明らかにするために手術チームを会議に召集した。その結果、手術部門の責任者は新しい方法を支持し、自分たちの実践方法を変更することを決定した。

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監訳者コメント:
アルコール系手指衛生剤を使用する前に流水手洗いを行うと、手に残った水分でアルコールの消毒効果が減少することが論文で公開されている。したがって、汚れを落とすための適度の予備洗浄を行ったら、よく乾かすことが重要である。

監訳者注:
Hygienic hand disinfection:EN 1500で推奨されている擦り込み式手指消毒薬を用いた手指消毒法

手指消毒:アルコール製剤の皮膚刺激性はどの程度か?

Hand disinfection: How irritant are alcohols?

Harald Loffler*, Gunter Kampf
*SLK-Kliniken Heilbronn GmbH, Germany

Journal of Hospital Infection (2008) 70(S1) 44-48


刺激性接触皮膚炎は医療従事者の手指に高い頻度でみられ、水および洗浄剤との接触によるものと説明されることが多い。皮膚刺激性の程度は、洗浄剤よりアルコールを使用した後のほうが有意に軽度であることが、皮膚忍容性の研究により明確に示されている。フォームローラーを用いた標準的な洗浄試験でも、洗浄剤による手洗いの直後にアルコールまたは水を使用すると、皮膚刺激性の程度が有意に減少することが示されているが、おそらくは残存する洗浄剤が洗い流されるためと考えられる。看護師の研修の早期にエビデンスに基づいた手指衛生について指導することにより、刺激性接触皮膚炎が大幅に減少し、医療従事者における一次予防を主導するようになると考えられる。手指消毒薬として一般に用いられているアルコールの刺激性はごくわずかである。皮膚が洗浄剤や水などによってすでに炎症を起こしている場合、アルコールにより灼熱感が生じることがあるが、これはアレルギー反応ではなく、それ以上皮膚を障害することはない。いままでのところ、アルコールに対する真のアレルギー反応は確認されていない。皮膚科学の視点からみると、手指衛生のためのアルコールの使用には、水と洗浄剤による手洗いに優る明確な利点がある。

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監訳者コメント:
手荒れは手指衛生上最大の課題である。アルコール系手指衛生剤においても保湿剤やエモリエント、セラミドなどの手を保護する成分を含んだ製品が、わが国でも台頭している。

アルコール製消毒薬の品質と法的位置づけ:開発および販売承認

Quality of alcohol-based hand disinfectants and their regulatory status: Development and marketing authorisation

Michael Stengele*
*BODE Chemie GmbH & Co. KG, Germany

Journal of Hospital Infection (2008) 70 (S1), 49-54


2005年の調査で、欧州連合(EU)には手指消毒薬に少なくとも4種類の法律上の製品分類、すなわち医薬品、殺生物製剤、化粧品、医療器材があることが示されている。国際的な統一分類はなく、これらの製品の法的位置づけは国ごとに定められている。法令遵守を推進するために、4種類の製品分類ごとに異なるレベルの公的サーベイランス方法が定められているが、これには個々の製品ごとの販売承認・製造施設の監査から、特定の一般ガイドラインに準拠した作業の義務に至るまで、様々なものがある。
殺生物製剤に関する法令は、環境毒性学および毒性学の領域を対象としているが、利用者側の品質や有効性に対する要望については、それほど指向していない。一方、医薬品に関する法令は最も大規模なものであり、品質、安全性、有効性、および関連当局による独立したリスク便益評価を義務づけている。規模に関しては、残り2種類の製品カテゴリーである化粧品と医療器材は、殺生物製材と医薬品の中間に位置する。医療器材では、製品の品質、安全性、および性能が規定の要件に適合しているかどうかを確認し、第三者機関の管理のもとで適切な品質保証システムを運用するのは、製造者の責任である。化粧品では、ある程度の法的規制はあるものの、その枠の中で、製品の安全性および要件への適合を確認することのみが、製造者の責任である。
本論文では、この複雑性を増しつつある状況から脱する方法、すなわち、特定の販売国とは無関係に、利用者の要望と法的要件をともに満たすような単一の品質規格の策定について述べる。製品に関するこの国際的な品質規格は、利用者の利益という点で、各国の個別の基準を上回るものと思われる。

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アルコール製手指消毒薬の品質と法的位置づけ:製造、販売、および市販後調査

Quality of alcohol-based hand disinfectants and their regulatory status: Production, sales and post-marketing surveillance

Klaus Michelsen*
*BODE Chemie GmbH & Co. KG, Germany

Journal of Hospital Infection (2008) 70(S1) 55-57


医薬品に関するドイツの法律に従った手指消毒薬の開発、製造、および流通により、高水準の手指衛生が達成されている。これにより、感染から患者および医療従事者を至適に保護することが可能となる。さらに、製品が使用される場所にかかわりなく、あらゆる地域的要件が自動的に満たされることになる。利用者の期待を満たすために、利用者と供給者間の緊密な協力によって継続的な改善が促進されることが示されている。

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医療従事者は何を求めているか―理想的な手指消毒薬

What healthcare workers want ― The ideal hand disinfectant

Heike von Baum*
*Ulm University, Germany

Journal of Hospital Infection (2008) 70 (S1) 58-59


理想的な手指消毒薬の特性に関する、匿名の任意調査の結果を報告する。対象者は、ドイツの大学病院の医療従事者475名であった。

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監訳者コメント:
南ドイツ・ウルム大学病院は1,100床あまりの施設であるが、すべての医療従事者の中からランダムに1,500人にアンケートを配布した。看護師が半数、医師と技術職が残りのおよそ3分の1ずつであった。大勢の希望を反映する理想的な製品とは、特別な臭いや色がなく、液体の形で壁掛けまたは留置式ディスペンサーを用いるものであり、微生物に対する十分な殺滅効果をもち、かつ皮膚に優しいものであった。ドイツの医療従事者も手指消毒薬に関して日本と同様のことを考えていることがわかる。

気管支鏡の消毒のためのエビデンスに基づく抗菌活性スペクトル

Evidence-based spectrum of antimicrobial activity for disinfection of bronchoscopes

Constanze Wendt*, Birgit Kampf
*University of Heidelberg, Germany

Journal of Hospital Infection (2008) 70 (S1), 60-68


ヒトの体に対する検査後の気管支鏡の処理は、気管支鏡を汚染した可能性があり、次に検査を受ける患者に有害となる可能性があるすべての微生物を除去しなければならない。本解析の目的は、検査中に気管支鏡を汚染して他の患者に疾患を引き起こす可能性がある微生物を明らかにすることである。
方法:文献検索および検査データの解析。
結果:気管支鏡は気道を通過する際に口腔、鼻咽頭、気管、気管支、および肺組織の生理学的微生物叢により汚染されると考えられる。口腔、鼻咽頭、および咽頭は極めて多様な細菌の生息場所であるのに対し、下気道には微生物はほとんど存在しない。しかし、人工呼吸器を装着した患者では繊毛上皮の洗浄機能を横から通り抜けてしまうため、気管および気管支が保菌状態になり得る。さらに、免疫不全患者や、本来は健常である人に気管支炎や肺炎を引き起こし得るあらゆる微生物が、気管支鏡の汚染源となる可能性がある。このような微生物には、細菌、マイコバクテリア、酵母・カビ、エンベロープウイルスと非エンベロープウイルス、およびまれであるが寄生虫がある。
気管支鏡の使用により上皮が損傷を受け、その結果出血を来すことがある。したがって、HIVやHBVなどのすべての血液媒介性病原体も気管支鏡の汚染物となる可能性がある。
気管支鏡の不完全または誤った洗浄・消毒に起因する微生物伝播の報告はいくつかある。このような事例には、寄生虫やウイルスを除くほとんどすべての微生物種が含まれる。しかし、ウイルスは潜伏期間が長いため、気管支鏡と感染との関連は明確ではない。
内生胞子形成菌と寄生虫は気道の常在微生物叢に含まれず、疾患を引き起こすことはまれであり、通常は重度の免疫不全患者のみで疾患の原因となるが、気管支鏡がこのような微生物を伝播したとする報告はない。
結論:内視鏡に対する化学的消毒などの消毒処理の抗微生物活性の対象としては、細菌、真菌、およびウイルスを含める必要がある。殺芽胞活性は、炭疽病が疑われる患者に対する気管支鏡検査後、または重度の免疫不全患者の検査前など、特定の患者集団の場合のみ必要となる。

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監訳者コメント:
気管支鏡の洗浄消毒に関する総説。新たな所見を述べるものではないが、近年の多くの論文をレビューしており、一読の価値はある。

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Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.