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病院感染インフルエンザ:Outbreak Reports and Intervention Studies of Nosocomial Infection(ORION)の声明を用いたアウトブレイクにかかわる情報の統合

Hospital-acquired influenza: a synthesis using the Outbreak Reports and Intervention Studies of Nosocomial Infection (ORION) statement

N. Voirin*, B. Barret, M.-H. Metzger, P. Vanhems
*Universite de Lyon, France

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 1-14


院内感染インフルエンザのアウトブレイクは、ほぼすべての種類の病棟で発生しており、患者と病院に甚大な罹患、死亡、およびコストをもたらしている。あらゆる患者、医療従事者、および訪問者が病院内の感受性者にインフルエンザを伝播し得るため、感染源は不明であることが多い。院内感染インフルエンザのアウトブレイク調査により、感染源の特定、さらなる症例の発生予防、およびさらなるアウトブレイクに直面した際の疾患の制御に関する知識の増強に繋がるはずである。しかし、このようなアウトブレイクの検出と報告はおそらく十分には行われておらず、そのため伝播経路の追跡と正確な記述が困難となっている。さらに、文献中の情報の記載が標準化されていないことが、研究の比較と疾患動態の十分な理解の障害となっている。本研究では、院内感染インフルエンザのアウトブレイクに関する報告をORIONガイドラインに従って統合し、インフルエンザ症例の検出、患者と医療従事者間の伝播のエビデンス、および疾患の発生の指標に関する既存の知識について検討した。インフルエンザが病院内で蔓延していることは多くのエビデンスにより確認されているが、患者に対するリスク評価を目的とした発生率の算出のためには、臨床的およびウイルス学的判定法を改善し、アクティブ・サーベイランスと定量的研究を実施すべきである。

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監訳者コメント:
季節性インフルエンザの流行期間には医療従事者とて、罹患する。研修指定病院だと多くの職種の実習生や研修生も訪問しており、インフルエンザのような伝播力が強く、しかも健常者でも罹患する可能性のあるウイルス性感染症の場合、病院環境は伝播経路を特定するに容易な場所では全くない。地道な臨床実地疫学調査を行うしかない。

インフルエンザパンデミック時の個人用防護具:英国の模擬演習

Personal protective equipment in an influenza pandemic: a UK simulation exercise

N.F. Phin*, A.J. Rylands, J. Allan, C. Edwards, J.E. Enstone, J.S. Nguyen-Van-Tam
*Cheshire and Merseyside Health Protection Unit, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 15-21


英国のパンデミックインフルエンザ感染制御指針を適用することが、個人用防護具(PPE)の使用、患者、および医療従事者に対してどのような影響を及ぼすかについての検証は、実務的および経済的な影響のいずれに関しても限られている。イングランド北西部の病院で実地演習を行い、これらの問題を評価した。24時間の演習中に、救急総合内科病棟の医療従事者全員がPPEを装着し、英国のパンデミックインフルエンザ感染制御指針に記されている手技を適用した。感染制御看護師のチームが、演習期間中のPPEの使用に対する態度などの医療従事者の行動と実践を観察・記録した。世界保健機関(WHO)による高レベルPPE(FFP3レスピレータ)の適切な使用に関する勧告は過剰であることが判明したが、グローブとサージカルマスクの使用は予想以上に多かった。予行演習を実施したにもかかわらず、多くの医療従事者はPPEの使用および感染制御対策の遵守を自信をもって行うことができなかった。医療従事者はPPEの装着に違和感を覚えており、基本的な業務にも通常以上の時間を要した。また、1日あたり12袋(570 L)の多量の医療廃棄物が余分に排出された。大量の高レベルPPEが必要であるという想定は、医療予算に重大な影響を及ぼすものであるが、今回の演習中のPPEの推定使用量は、この想定に対して意義を呈するものであった。継続的な感染制御教育プログラムが必要である。パンデミック中の医療は、パンデミックインフルエンザに対する感染制御指針を現行の業務に適用する一事例であるにとどまらない。病院は、ケアやサービスの提供方法の修正を検討する必要がある。

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監訳者コメント:
新型インフルエンザについては、伝播経路が不明なためにウイルスの特性が明確になるまでは、過剰とも思える防護具装着が推奨される。しかし、平常時にこれら過剰なPPEを装着する機会が医療従事者全員に与えられている訳ではなく、技術水準としての防護性がすでに破綻している。

迅速PCR法を用いたスクリーニング法により院内感染メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の発生率は低下するか?

Can the use of a rapid polymerase chain screening method decrease the incidence of nosocomial meticillin-resistant Staphylococcus aureus?

M.A. Aldeyab*, M.P. Kearney, C.M. Hughes, M.G. Scott, M.M. Tunney, D.F. Gilpin, M.J. Devine, J.D. Watson, A. Gardiner, C. Funston, K. Savage, J.C. McElnay
*Queen's University, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 22-28


病院内のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)伝播を制御するには、迅速なMRSA検出が重要と考えられる。本研究の目的は、迅速PCR法を用いたスクリーニング法と、MRSA保菌を検出するための標準的培養法を比較し、2つの病棟でのMRSA発生率に対する影響を評価することである。研究の第1期(4か月間)では、外科病棟の患者に対しては迅速PCR法を用いたスクリーニングを行い、内科・循環器科病棟の患者には標準的培養法によるスクリーニングを実施した。研究の第2期(4か月間)では、病棟間でMRSAのスクリーニング法を入れ替えた。各期の終了時に、それぞれの病棟の感染制御の実務に関する監査を行い、MRSAの伝播リスクに影響を及ぼす可能性のある何らかの変化が生じたかどうかを調べた。迅速PCR法の使用により、スワブ採取から電話による病棟への結果報告までの時間の中央値(週末を除く)が、47時間から21時間へ有意に短縮した(P<0.001)。しかし、PCR法(20/1,000病床利用日)と培養法(22.1/1,000病床利用日)を用いた場合のMRSA発生率を比較したところ、外科病棟での発生率には有意差は認められなかった(P=0.69)。内科・循環器科病棟については、PCR法を使用した期のMRSA検出数が増加したため、データの解析は困難であった(P<0.05)。本研究から、迅速PCR法により回答時間は有意に短縮したが、スワブ採取から電話による病棟への結果報告までの時間の短縮は、MRSA伝播の低下を図るにはまだ不十分であることが示された。

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監訳者コメント:
監視検査の導入の是非は議論がつかない。比較対照研究を行う上で最も重要なことは、比較項目以外は条件を変えないことであるが、何も変えないで医療を推進することは難しく、行動学からすると接触予防策の遵守率もそろえる必要があろう。

英国の集中治療室におけるMRSAの局地的疫学研究を目的としたspaタイピングの有用性

Utility of spa typing for investigating the local epidemiology of MRSA on a UK intensive care ward

S. Khandavilli*, P. Wilson, B. Cookson, J. Cepeda, G. Bellingan, J. Brown
*Royal Free and University College Medical School, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 29-35


英国の集中治療室(ICU)では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の地域的流行が頻繁にみられるが、ICU内のMRSAの局地的疫学に対する理解は十分でなく、MRSA感染を予防する最善の方法については異論がある。新規の分子タイピング法が、局地的なMRSA菌株の疫学研究に有用である可能性がある。英国のICU患者から採取したMRSA菌株に対して、ブドウ球菌プロテインA(spa)タイピングを実施した。spaタイピングはmulticolus sequence typing(MLST)より識別能が高いが、菌株の73%はspaタイプt032またはt018(英国のMRSA流行菌株であるEMRSA-15およびEMRSA-16に関連する)であった。患者の72%はMRSA感染に先立って保菌状態にあり、このうち88%は保菌株と起因菌株のMLST型およびspa型が同一であった。spaタイピングは、まれなspa型を有する19菌株については患者間のMRSA伝播の解明に役立ったが、EMRSA-15型およびEMRSA-16型のt032とt018の頻度が高かったため、多くの菌株ではspaタイピングは使用できなかった。意外なことに、まれなspa型の分離後28日以内に生じた45株の新規MRSA分離株のうち、交差汚染による可能性があるものは4株(9%)のみであった。これらの結果から、当ICUでは、少なくともまれなspa型の菌株の場合は、患者間のMRSA即時伝播はまれであることが示唆される。

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監訳者コメント:
遺伝子多型性検査にはPFGE法以外にも多くの方法が試みられている。効率よく分類するには、これらを組み合わせて解釈するしかないと考えられる。

地中海南岸および東岸の病院におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の罹患率と感染制御イニシアチブとの相関

Correlation between meticillin-resistant Staphylococcus aureus prevalence and infection control initiatives within southern and eastern Mediterranean hospitals

M.A. Borg*, B.D. Cookson, O. Rasslan, D. Gur, S. Ben Redjeb, M. Benbachir, K. Rahal, D.P. Bagatzouni, Z. Elnasser, Z. Daoud, E.A. Scicluna
*Mater Dei Hospital, Malta

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 36-42


地中海地域は、多剤耐性院内病原菌の高度流行地と判定されている。こうした状況の背景にある潜在的要因への理解を深めるために、地中海地域抗菌薬耐性サーベイランスおよび制圧(Antibiotic Resistance Surveillance & Control in the Mediterranean Region;ARMed)プロジェクトに参加している27病院からのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に関する公表データと、同一施設からの感染制御および抗菌薬管理の様々な項目についての質問票への回答との相関を検討した。構造化質問票への回答スコアは、感染制御の態勢、手指衛生設備、および抗菌薬管理の実施については有病率の高い病院と低い病院との間に差は認められなかった。しかし、病床利用率と隔離施設のスコアでは差が認められ、過密状態が頻繁に発生し、特に複数の科に及ぶと報告した病院、および隔離ベッドの確保が日常的に困難である病院では、MRSAの割合が有意に高かった。この結果から、利用可能な病床数の不足に関連し、不適切な隔離設備により助長されるインフラの不備が、地中海沿岸南東部の病院におけるMRSAの高度流行を悪化させる可能性があることが示唆される。

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監訳者コメント:
設備の老朽化を理由に感染対策ができないとは限らない。手指衛生の遵守率をいかに高くし、維持させるかなど、検討すべき課題は山積しているはずだ。

リアルタイムPCRによる病院環境サンプルからのクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の定量的検出

Quantitative detection of Clostridium difficile in hospital environmental samples by real-time polymerase chain reaction

R. Mutters*, C. Nonnenmacher, C. Susin, U. Albrecht, R. Kropatsch, S. Schumacher
*Philipps University Marburg, Germany

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 43-48


クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連下痢症は病院内で頻繁に発生しており、疾患と死亡の重大な原因となっている。病院内の環境表面は院内病原菌で汚染されていることが多く、特に堅固なグラム陽性菌や芽胞形成菌が含まれる場合は交差伝播の原因となり得る。この研究の目的は、C. difficile陽性および陰性患者の周辺の病院環境において、リアルタイムPCR定量法によりC. difficileを定量することである。臨床環境から合計531件のサンプルを採取して、患者と病棟におけるC. difficileの状態(陽性・陰性)に従って3群に分類した。予期されたように、陽性患者周辺の床および隣接環境には、有意に多数のC. difficileが認められた。しかし、C. difficile陽性患者がいない病棟においても、床のC. difficile数と患者および医療従事者の手指のC. difficile数との間に有意な相関が認められた。このことから、患者および医療従事者の無症候性の保菌も、病院内のC. difficile伝播に寄与している可能性が示唆される。結論として、C. difficileは人的な接触および病院環境内の汚染区域を介して伝播する可能性がある。

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監訳者コメント:
抗菌療法関連下痢症の起因菌として臨床的に最も重要なC. difficileを取り上げている。C. difficileは偏性嫌気性菌でありながら芽胞を産生することから、環境を介して水平伝播することとなり、病院感染制御の観点からは最も対応が難しい病原体の1つである。この論文はC. difficile関連下痢症と呼んでいるが、C. difficileは偽膜性大腸炎のような激しい病態から軽症の下痢、さらに下痢を伴わないイレウスや中毒性巨大結腸症から大腸穿孔、原因不明の白血球数増加などの多彩な病態を呈することから、最近ではC. difficile関連疾患という用語が多く用いられるようになっている。芽胞産生菌であるためにアルコール抵抗性を示し、流水と石けんによる手洗いが必要となる。入院患者の下痢に対応する際には、常に流水と石けんによる手洗いが必要である。

クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の時空間確率論モデリング★★

Spatio-temporal stochastic modelling of Clostridium difficile

J.M. Starr*, A. Campbell, E. Renshaw, I.R. Poxton, G.J. Gibson
*University of Edinburgh, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 49-56


クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連下痢症(CDAD)の発生様式は散発性、または小規模の限定的なアウトブレイクである。確率論モデルは病院感染制御戦略へ情報を追加するのに有用であると考えられる。データ補完を用いたベイズ法およびマルコフ連鎖モンテカルロ法をCDADの時空間モデルに適用した。2か所の高齢者向け30床の内科病棟において17か月間にわたり収集した観察データに対して、モデルに基づいたシミュレーションの検証を行った。他の患者および環境からのC. difficile伝播率が半減するというシミュレーションにより、CDAD症例数は15%減少した。感受性である患者の割合を2倍にすると、CDADの推定発生数は63%増加した。一方、環境中の細菌数を2倍にしてもほとんど相違は認められず、CDADの発生はわずかに3%増加しただけであった。CDAD症例数を減少させるためには、同一程度の効果量を得ようとする場合、感染に対する患者の感受性を低下させるほうが伝播率を低下させるよりも有効であることが、種々の介入のシミュレーションから示された。

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監訳者コメント:
C. diffcile関連下痢症については前掲の論文への監訳者コメントを参照。
C. diffcile関連疾患では、抗菌療法などの影響でC. diffcileを保菌するようになり、そのC. diffcileが毒素(トキシン)を産生して、かつ、宿主(患者)がこの毒素に対して適切な免疫反応を生じない場合に発症するという複雑な病態を呈するため、理解が難しい。
この論文の結論によれば、抗菌薬適正使用徹底などによりC. diffcileを保菌するリスクを減少させるほうが、医療従事者の感染対策や環境整備よりもより有効であることを示唆しており注目される。引用している論文(Impallomeni M, Galletly NP, Wort SJ, et al. Increased risk of Clostridium difficile diarrhoea in elderly patients receiving cefotaxime. Br Med J 1995; 311: 1345-46)も参照されたい。

床の清掃:病室の細菌および有機物に対する効果

Floor cleaning: effect on bacteria and organic materials in hospital rooms

B.M. Andersen*, M. Rasch, J. Kvist, T. Tollefsen, R. Lukkassen, L. Sandvik, A. Welo
*Ulleval University Hospital, Norway

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 57-65


病院環境内の病原菌の拡散を制御するためには、表面の清掃をルーチンに行うことが推奨される。ノルウェーでは従来、病室の清掃は一般に洗剤と水で行われてきた。この研究では、アデノシン三リン酸(ATP)の生物発光を使用する2つのシステム(HygienaおよびBiotrace)により、モップによる床の清掃法について4種類(乾燥モップ法、撒きモップ法、湿らせモップ法、濡らしモップ法)を比較した。この2つのシステムにより、表面に残存する有機物汚染を評価した。モップによる床の清掃法については、清掃の前後に床と空気中から採取した微生物サンプルでも評価を行った。床の有機物はいずれの清掃法でも減少したが、湿らせモップ法と濡らしモップ法の効果が高いと考えられた(それぞれP<0.001、P<0.011、ATP Hygienaによる)。いずれのATP法も簡便であったが、測定値尺度はそれぞれに独自のものであった。清掃法にもよるが、有機物量は清掃によって清掃前のレベルの5%から36%にまで減少した。モップによる床の清掃法は4種類のすべてで、床の細菌数が20 cm2あたり約60~100コロニー(cfu)から30~60 cfuへと減少した。濡らしモップ法、湿らせモップ法、乾燥モップ法は、撒きモップ法と比較して床の細菌数の減少効果が高いと考えられた(それぞれP=0.007、P=0.002、P=0.011)。モップによる清掃直後は、いずれの方法でも空気中の細菌量が増加した。総合的に最も優れた清掃法は、湿らせモップ法と濡らしモップ法による清掃と考えられた。

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監訳者コメント:
アブストラクトだけではわかりにくいが、この論文でいうところの4つの方法を大まかに説明すると、(1)乾燥したモップでそのまま清掃(dry mopping)、(2)床に石けん水を撒いてからモップがけ(spray mopping)、(3)湿らせたモップをビニール袋に入れて冷蔵(moist mopping)、(4)40℃の石けん水に浸したモップをかけた後に乾燥したモップを使用(wet mopping)となる。やはり病院の床は湿式清掃が望ましい。ちなみに汚れたモップを何度も使用すると汚染を拡大することになるため、清潔な清掃用具を使用するように注意しなければならない。床清掃の具体的な方法に「1モップ2バケツ法」と「オフロケーション方式」などがある。「1モップ2バケツ法」とは、バケツをすすぎ用と清拭用に区分して使用したモップをすすぎ、その後に清拭用に浸してから床を清拭する方法である。また、「オフロケーション方式」は使用したモップを取り外して新しいモップを清拭用バケツに浸して清拭していく方法であり、この方法では清拭用バケツに使用済みのモップを浸漬することがない。使用後のモップは80℃、10分間以上の熱処理を含むのが適当であり、乾燥させなければモップそれ自体に菌が繁殖するために乾燥を保つように注意する必要がある。

国別にみたカテーテル関連血流感染発生率:ヨーロッパHELICSプロジェクトに参加した全国サーベイランスネットワークにおける実際

National influences on catheter-associated bloodstream infection rates: practices among national surveillance networks participating in the European HELICS project

S. Hansen*, F. Schwab, M. Behnke, H. Carsauw, P. Heczko, I. Klavs, O. Lyytikainen, M. Palomar, I. Riesenfeld Orn, A. Savey, E. Szilagyi, R. Valinteliene, J. Fabry, P. Gastmeier
*University Medicine Berlin, Germany

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 66-73


この研究は、HELICS(Hospitals in Europe Link for Infection Control through Surveillance;サーベイランスによる感染制御のためのヨーロッパ連携に参加する病院群)プロジェクトの一環として、欧州の集中治療室(ICU)での中心静脈カテーテル関連血流感染発生頻度と、施設特性および日常業務との関連を評価することを目的として実施された。2004年の全国病院感染サーベイランスネットワークに参加したICUに対して質問票を送付した。全国ネットワークには、2003年から2004年まで期間に参加したICUにおける中心静脈カテーテル関連血流感染発生率を照会した。単変量および多変量リスク因子解析を実施して、中心静脈カテーテル関連血流感染発生率に対する影響が最も大きい業務を判定した。10か国の526のICUから施設特性と業務に関するデータが返送され、その結果、ケアには大きなばらつきがみられることが示された。中心静脈カテーテル関連血流感染発生率のデータも5か国の288のICUから提供された。これを受けて、のべ1,383,444患者・日、のべ969,897中心静脈カテーテル・日、および中心静脈カテーテル関連血流感染症例1,935例を解析対象とした。補正ロジスティック回帰分析により、各国のカテゴリー変数(中心静脈カテーテル関連血流感染発生率が最も低い国を基準として、オッズ比(OR)2.3、95%信頼区間(CI)0.5~10.2からOR 12.8、95%CI 4.4~37.5の範囲)および大学病院(OR 2.08、95%CI 1.02~4.25)が、中心静脈カテーテル関連血流感染発生率が高いことの独立リスク因子であった。中心静脈カテーテル関連血流感染に対する予防策、監視方法、および中心静脈カテーテル関連血流感染推定発生率には、欧州の各国間でもかなりのばらつきがあった。文化的、社会的、および法的背景の相違は、医療システムの相違とともに、このばらつきを説明する重要な因子である。

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監訳者コメント:
本来的に医療関連感染症サーベイランスは現場におけるケアの実践レベルを保証するための継続的質改善活動である。サーベイランスの結果として得られた発生率を他施設と比較するためのベンチマークとして使用する場合、それぞれの現場で医療がどのような背景で実践されているのかを考える必要がある。

ハンガリーの全国病院感染サーベイランスネットワーク:2年間の手術部位感染サーベイランスの結果

The national nosocomial surveillance network in Hungary: results of two years of surgical site infection surveillance

E. Szilagyi*, K. Borocz, P. Gastmeier, A. Kurcz, E. Horvath-Puho
*National Center for Epidemiology, Hungary

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 74-80


2004年にハンガリーでインターネットを利用した安全性の高い全国的病院感染サーベイランスシステムが設立された。NNSR(Nemzeti Nosocomialis Surveillance Rendszer)と呼ばれるこのシステムは、全米病院感染サーベイランスシステム(NNIS)を基づいている。外科手技、疾病定義、サーベイランス手法、および患者のリスクインデックスはNNISで設定されたものを使用した。この論文では、外科患者を対象としたシステムの最初の2年間の結果を紹介する。この期間には41病院が参加して、11種の外科手技を選択してサーベイランスの対象とした。合計15,812件の手技を調査したところ、結果として360件の手術部位感染が記録された。全体の手術部位感染発生率は2.27%であった。選択された頻度が高い手技およびそれぞれの手術部位感染発生率は、帝王切開(1.31%)、ヘルニア縫合術(2.09%)、胆嚢摘出術(1.52%)、および人工股関節置換術(2.91%)であった。NNISが公表している発生率と比較するために、選択された手術手技に対する標準化感染比(SIR)を算出した。NNISに基づいて予測した発生率と比較して、結腸手術、帝王切開、および乳房切除術における手術部位感染発生率は低かったが、一方、胆嚢摘出術、ヘルニア縫合術、および人工股関節置換術における発生率は高かった。将来的にはより多くの参加病院を募り、ハンガリーの患者を対象とした感染制御介入に使用することができる強固な全国データベースを構築する予定である。

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監訳者コメント:
本来的に医療関連感染症サーベイランスは現場におけるケアの実践レベルを保証するための継続的質改善活動であるが、外科手術部位感染症サーベイランスについてはリスク調整の上で複数の施設のデータをベンチマークとして利用することも有用である。なお、“Nemzeti Nosocomialis Surveillance Rendszer”はハンガリー語であり、“Nemzeti”は英語の“National”、“Rendszer”は“System”を意味するらしく、米合衆国における“NNIS system”と同様のネーミングとなっている。

イタリアのリグーリアでの病院感染サーベイランス:成人および小児の急性期ケア病院における地域有病率調査の結果

Surveillance of hospital-acquired infections in Liguria, Italy: results from a regional prevalence study in adult and paediatric acute-care hospitals

P. Durando*, G. Icardi, F. Ansaldi, P. Crimi, C. Sticchi, F. Compagnino, P. Fabbri, I. Baldelli, D. Bellina, R. Sacco, M. Assensi, N. Cenderello, G. Orengo, P. Oreste, M. Nannini, C. Olivari, O. Campora, M. Vizio, the Collaborative Group for the Prevalence Survey on Hospital-Acquired Infections in Liguria
*University of Genoa and San Martino University Hospital of Genoa, Italy

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 81-87


2007年3月19日から4月6日に、イタリアのリグーリアで複数の病院を対象とした病院感染有病率調査を実施した。この調査は当該地域で実施された初めてのものである。現在29施設ある急性期ケア公立病院の25施設が調査に参加した(86.2%)。計3,176例の患者をこの調査に登録したが、この数字は地域の平均病床利用率の約70%に相当した。患者283例で310件の病院感染が診断され、全体の有病率は感染件数では9.8%、症例数では8.9%であった。有病率は病院間で大きく異なり、0%から24.4%の範囲であった[95%信頼区間(CI)15.53~33.27]。相対的な頻度が最も高かったのは尿路感染症(30.0%)と呼吸器感染症(26.1%)で、次いで血流感染症(14.8%)、手術部位感染症(11.6%)、消化管感染症(6.5%)であった。病棟別の病院感染症有病率が最も高かったのは集中治療室(42.5%、95%CI 34.48~50.52)および血液腫瘍科(13.3%、95%CI 6.28~20.32)で、頻度が高い感染症は呼吸器感染症および血流感染症であった。脊髄病棟(33.3%、95%CI 13.14~53.46)および機能回復リハビリテーション病棟(18.9%、95%CI 17.75~24.06)では、尿路感染症発症率が高かった。単変量解析および多変量解析により、全体または病棟ごとの院内感染に関連する主要なリスク因子と状態について評価した。この調査により、リグーリアの病院感染の疫学の全体像が明らかになり、将来のサーベイランスおよび感染制御プログラムを立案・計画するための出発点として有効に活用できると考えられる。

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監訳者コメント:
本来的に医療関連感染症サーベイランスは現場におけるケアの実践レベルを保証するための継続的質改善活動であるが、地域における医療関連感染症の実態を明らかにする目的からは、期間を限定して入院患者における感染症すべてを対象に調査することによって有病率を導く包括的サーベイランスの手法が用いられることがある。場合によっては1日限りの調査による点有病率を求めて指標とすることがあり、韓国などで全国調査が実施されている。これまでの調査によれば、一般的に急性期ケア病院の入院患者の5%から10%が何らかの医療関連感染症を経験するとされており、この論文も同様の結論となっている。

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Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.