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★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

携帯通信機器が院内感染病原体のリザーバとなる可能性に関する総説★★

Review of mobile communication devices as potential reservoirs of nosocomial pathogens

R.R.W. Brady*, J. Verran, N.N. Damani, A.P. Gibb
*University of Edinburgh, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 295-300


移動通信技術の革新は、医療を提供するための新しいアプローチと、日常的な医療情報を伝達するスピードと質の改善をもたらした。携帯通信機器の細菌汚染は効果的な感染対策の実施にかかわる重要な問題であり、交差汚染の減少を図るための取り組みに影響すると考えられる。この総説では携帯通信機器の細菌汚染について報告した最近の研究を調べたところ、その大半は携帯通信機器の9%から25%が病原性細菌で汚染されていることを示していた。携帯通信機器の表面の除染に関する研究に加えて、既存の研究から携帯通信機器汚染のリスク因子について調べた。汚染リスク減少のための推奨事項は、職員教育、厳格な手指衛生、機器洗浄のガイドライン、および手術室、集中治療室、熱傷集中治療室などの特定の高リスク区域における携帯電話の使用制限の検討などである。携帯通信機器の汚染に対するこれらの介入の効果を評価して、機器の汚染とそれに続く患者の感染との関係の有無を解明するためには、さらなる研究が必要である。

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監訳者コメント:
携帯機器の発達は医療の現場でもさまざまなメリットをもたらしているが、使用する器材が多くなれば環境からの病原体伝播のリスクも新たに生じる。テクノロジーの発達に頼らず、それを使いこなすコンセプトを磨く必要がある。

プロバイオティクス細菌とバイオサーファクタントによる院内感染制御:ある仮説

Probiotic bacteria and biosurfactants for nosocomial infection control: a hypothesis

M.E. Falagas*, G.C. Makris
*Alfa Institute of Biomedical Sciences, Greece

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 301-306


医療従事者が衛生管理方法を厳格に適用することは、適切な清掃や消毒方法の実践とともに感染制御策の基礎となる。しかし、詳細な感染制御プログラムを導入している病院でも、院内感染は重大な問題となっている。したがって、生物医学研究者は、新たな感染制御策の有効性と安全性の評価を推進する必要がある。プロバイオティクス微生物は、環境表面上での院内感染病原体の増殖と拮抗する可能性があるとする予備的エビデンスが得られている。そこで著者らは、環境内のプロバイオティクス微生物は、感染制御のための安全かつ有効な介入法となり得るとの仮説を提唱する。著者らは、院内感染病原体の定着の減少を図る目的から、プロバイオティクスまたはその産生物質(バイオサーファクタント)をチューブやカテーテルなどの医療用器材に使用できると考える。これにより、院内感染の発生機序の重要な段階を阻害できる可能性がある。

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監訳者コメント:
環境表面においても黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や腸球菌属(Enterococcus spp.)、大腸菌(E. coli)やクレブシエラ属(Klebsiella spp.)やアシネトバクター属(Acinetobacter spp.)、カンジダ属(Candida spp.)が生存することがあり、ここから感染伝播が拡大することがある。この対策として環境表面に乳酸桿菌(Lactobacillus spp.)などのヒトにとって有害性の少ないプロバイオティクス微生物を利用しようとする試みに関する総説である。腸内細菌叢ではなく病院細菌叢を整えようとする発想で興味深い。

急性期病院における医療関連感染:どの介入が有効か?

Healthcare-associated infection in acute hospitals: which interventions are effective?

A. Mears*, A. White, B. Cookson, M. Devine, J. Sedgwick, E. Phillips, H. Jenkinson, M. Bardsley
*Healthcare Commission, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 307-313


本研究では、国民保健サービス(National Health Service;NHS)の急性期病院における医療関連感染の発生率に関連する潜在因子を検討した。このために、義務的サーベイランスデータおよび保健医療委員会(Healthcare Commission)が利用可能な既存のデータを分析し、特製の質問票で補足した。医療関連感染の管理と制御に関連する重要な要素を対象とした質問票を作成した。他のデータ源からの追加データの照合を行った。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌血症およびクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連下痢症(CDAD)のアウトカムのデータを義務的サーベイランスデータから収集した。回答率は90%であった。MRSA感染率が低いことは手指衛生および隔離と関連し、CDAD有病率が低いことは清潔度、適切な抗菌薬の処方、および感染サーベイランスと関連していた。両方の感染率がともに低いことは、職員育成プログラムに感染制御を組み入れるなどの戦略的な計画的介入と関連していた。しかし、例えば訓練の水準を上げるなどの特定の介入は、高い感染率と関連した。MRSAとCDADに関する今回の知見は、感染制御に関する文献からのエビデンスにより支持される。介入と高い感染率との関連が認められたことは直観に反するものであるが、高い感染率へのいわゆる「反作用行為(reactive practice)」の例であると考えられる。このような介入は迅速・容易な導入が可能であるものの、低い感染率と関連する戦略的な計画的介入と比較すると持続性に欠けるのかもしれないという仮説には興味をひかれるが、最も可能性が高いのは、組織の体質が変化し始め、感染制御の実践が組み入れられつつあることの明確な表れではないかと思われる。

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監訳者コメント:
様々な医療関連感染対策と、そのアウトカムともいえるMRSAやCDADの率を検討したスタディである。MRSAでは手指衛生、CDADでは適切な抗菌薬の使用など、比較的妥当な関連因子があがってきており、これまでの知見を裏付けるものであろう。一方で、「反作用行為」と呼ばれる、感染対策を行っている施設の率が高いというデータが出ているが、これは例えば訓練の水準を上げたから感染率が上がったわけではなく、原因と結果が逆であり、感染率が上がったため直ちに訓練の水準を上げたためであると解釈できよう。こういった施設の対策と感染率の真の関連を見るためには、長期にわたり感染率を監視していく必要がある。さらに、訓練や教育だけでは感染率の低下という結果を得られないという報告もあり、注意が必要である。

一般集中治療室におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染発生率および菌血症発生率の1996年から2008年にかけての低下★★

Decline in the rates of meticillin-resistant Staphylococcus aureus acquisition and bacteraemia in a general intensive care unit between 1996 and 2008

D.S. Thompson*, R. Workman, M. Strutt
*Medway Maritime Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 314-319


ICUにて採取された入室の際と毎週のスクリーニング培養、およびその他の培養の分析により、1996年から2008年にかけて、推定MRSA獲得率が75%低下したことが明らかになった。この期間を、新規ICUの開設(1997年12月)、2床の病室の増設(2001年1月)、全入院患者に対するスクリーニングを含むICUおよび病院全体での追加的感染制御策の実施(2006年12月)という3つのイベントに基づいて4期に分類した。ICUの1,000床・日あたりのMRSA獲得率は連続した各期間で段階的に低下し、それぞれ49.0件(34.4~63.6)、28.3件(21.7~34.9)、19.3件(16.3~22.3)、11.8件(7.3~16.3)となり、また1,000床・日あたりのMRSA菌血症発生率は2期目から4期目にかけて低下し、それぞれ7.6件(4.7~10.5)、3.7件(2.6~4.8)、0.4件(0~2.9)となった。しかし、菌血症に進展した保菌患者の割合は変化せず、また、その他の病原体による菌血症発生率はわずかに上昇した。2006年12月以降は、一般病棟からICUに入室した患者のMRSA保菌率は13.5%(11.6~15.4)から6.4%(4.0~8.8)に低下したが、これはICU入室前の1,000床・日あたりの獲得率が26.0件(22.7~29.3)から9.4件(6.0~12.8)に低下したためと考えられる。これらの結果から、新規ICUの環境改善とICU増設、および最近の感染制御策の変化が、いずれもICU内のMRSA獲得とその後の菌血症の減少に寄与したことが示唆される。院内の感染制御策の改善は、一般病棟のMRSA獲得の減少と関連した。

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監訳者コメント:
MRSA獲得(=ほぼ「保菌」と同義)を減らすことにより、MRSA菌血症という生命に直結するアウトカムを減少させることができることを示した論文。一読の価値はある。

入院時のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の保菌率およびクローン構造の国境を超えた比較

Cross-border comparison of the admission prevalence and clonal structure of meticillin-resistant Staphylococcus aureus

R. Kock*, L. Brakensiek, A. Mellmann, F. Kipp, M. Henderikx, D. Harmsen, I. Daniels-Haardt, C. von Eiff, K. Becker, M.G.R. Hendrix, A.W. Friedrich
*University Hospital Munster, Germany

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 320-326


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の地域内伝播は、診療区域を共有する病院間での患者の転院によって助長されるため、入院時に保菌患者を確実に判定することが極めて重要である。このため、オランダ・ドイツ国境地帯のEUREGIO MRSA-netの病院では、未確認の病院間伝播だけでなく国境を超えた伝播を防ぐために、当該地域のMRSA管理基準の統一化を目指した。そのためには、入院時のMRSA保菌率と、MRSA保菌に関連するリスク因子についての知識を強化することが前提となる。著者らは、EUREGIO MRSA-netに属するドイツの39か所の病院(2006年11月1日から11月30日まで)およびオランダの1か所の病院(2007年7月1日から9月30日まで)の全入院患者に対して、MRSAの鼻腔内スクリーニングを実施した。スクリーニングを行った25,540例のうち、合計390例がMRSA症例と判定された。入院時のMRSA保菌率は、ドイツの国境地域では患者100例あたり1.6例(全黄色ブドウ球菌の6.5%)、オランダの国境地域では0.5例(全黄色ブドウ球菌の1.4%)であった。全体として、黄色ブドウ球菌プロテインA遺伝子(spa)の遺伝子型はt003、t032、およびt011が優勢であった。分離株1株(t044)は、Panton-Valentine型ロイコシジン(PVL)をコードする遺伝子を保有していた。ドイツおよびオランダの当該地域の全MRSA保菌患者のうち、従来の院内感染のリスク因子に基づく評価により同定できたのは、それぞれ79%、67%であった。評価したリスク因子が全く認められない患者では、優勢なspa型はt011およびt034であった(P<0.001)。

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監訳者コメント:
ヨーロッパでは隣接する国同士で、耐性菌を取り巻く環境が異なる。物流・交通がボーダレスな今、こうした国境を越えた連携が耐性菌征圧には必要である。

地域病院におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌保菌者の無作為サーベイランスおよび流行性の保菌者の減少を目的とした介入の効果

Random meticillin-resistant Staphylococcus aureus carrier surveillance at a district hospital and the impact of interventions to reduce endemic carriage

J.A. Karas*, D.A. Enoch, H.J. Eagle, M.M. Emery
*Hinchingbrooke Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 327-332


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)保菌は、その後の感染症のリスク因子とされている。MRSA保菌率は、1990年代に英国のほとんどの医療機関で流行レベル(endemic proportions)に達していた。MRSA菌血症は、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌と比較して死亡率および有病率の上昇と関連し、その減少は国の目標となっている。保菌者およびMRSA菌血症患者の減少を図るために、保菌状態の定期的な無作為サーベイランスおよびMRSA保菌者の計画的な除菌に関する5年間の知見を述べる。保菌率の低下のための介入として、確実な除菌と追跡、保菌率の最も高い病棟を対象としたスクリーニングと教育の強化、65歳未満の全入院患者のスクリーニングなどを実施した。サーベイランスの最初の24か月と直近の24か月を比較すると、患者の保菌率は14.6%から7.0%に(P<0.001)、菌血症の総患者数は42例から22例に(P=0.012)、いずれも統計学的に有意に低下した。MRSA保菌者の定期的なサーベイランスは、入院患者のMRSA保菌に対する管理方法の効果をモニタリングするうえで有用である。保菌者の減少を目的とする介入により、MRSA保菌者数を減少させ、その結果、菌血症の患者数を減少させることが可能である。

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監訳者コメント:
多剤耐性菌対策には、サーベイランスを実施し耐性菌事情を理解し改善策を練り、その効果を検証することが重要である。この際に持ち込み率が問題となる。持ち込まれても広がらない入院管理が重要である。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のmultiple-locus variable-number tandem-repeat analysis(MLVA法)により米国のパルスフィールド・ゲル電気泳動法型を識別できる

Multiple-locus variable-number tandem-repeat analysis of meticillin-resistant Staphylococcus aureus discriminates within USA pulsed-field gel electrophoresis types

S.A. Moser*, M.J. Box, M. Patel, M. Amaya, R. Schelonka, K.B. Waites
*University of Alabama at Birmingham, USA

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 333-339


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)分離株の多くは、標準的なパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)によるタイピング法を用いて比較しても識別不能である。このことは、医療環境でMRSA伝播の局地的アウトブレイクを調査する際に問題となり得る。これは、入院環境で広く蔓延し、従来の病院獲得型のPFGE型に取って変わりつつある、市中獲得型MRSA(USA 300-0114)の調査の妨げにもなっている。MRSAの疫学的特性を明らかにするために、multiple-locus sequence typing(MLST法)、spaタイピング、およびブドウ球菌カセット染色体mecSCCmec)タイピングが、PFGEと併用されるかあるいはPFGEの代わりに用いられている。これらの方法は技術的に難しく、時間と費用がかかり、3次医療施設の大規模な検査室以外ではほとんど実施不可能である。より単純で所要時間も少ない別の方法として、multiple-locus variable-number tandem-repeat analysis(MLVA法)がある。著者らは、一般的なPFGE型の識別を目的としたMLVA法の利用について検討した。その結果、同一のPFGE型を有する無関係の菌株の同定や、関連する分離株間で遺伝子配列が類似していることの確認にMLVA法が使用可能であることが示唆された。分離株の関連性を検証するためにMLVA法をPFGEと併用することが考えられるが、この手法を使用することの病院での疫学研究における適切な役割を明確にするためには、これらの関連性をさらに前向きに評価する必要がある。

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監訳者コメント:
分子疫学といわれる、細菌の遺伝子型などに関する技術革新はめざましい。一方で、臨床現場で最新の技術を用いた検索を行うことができるケースはまれであり、高額な試薬や検査機器などの壁に阻まれることも多い。本論文で紹介されているMVLA法はその解決策になり得る可能性を秘めているが、その有用性の検証は不十分であり、結果を待ちたい。

中等度リスクの新生児室における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)のアウトブレイク時の新生児保菌のリスク因子

Risk factors for colonisation of newborn infants during an outbreak of extended-spectrum β-lactamase-producing Klebsiella pneumoniae in an intermediate-risk neonatal unit

V.C. Cassettari*, I.R. da Silveira, M. Dropa, N. Lincopan, E.M. Mamizuka, M.H. Matte, G.R. Matte, P.R. Menezes
*University of Sao Paulo, Brazil

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 340-347


新生児の基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)保菌のリスク因子を明らかにすることを目的とした横断研究について報告する。本研究は、中等度リスクの新生児室でのアウトブレイク時に、保菌者である医療従事者への曝露後に行われた。3か月の間に入室した新生児連続120例に対して直腸スワブによるESBL産生K. pneumoniaeのスクリーニングを行ったところ、27例に保菌が確認された。多変量解析により、保菌は、抗菌薬投与および母乳哺育を行っていないことと独立して関連していることが示された。抗菌薬投与歴のオッズ比(OR)は12.3であった[95%信頼区間(CI)3.66~41.2、P<0.001]。最も投与の頻度が高い抗菌薬は、ペニシリンとアミカシンであった。母乳哺育は保菌のリスク低下と関連した(OR 0.22、95%CI 0.05~0.99、P=0.049)。その後、アウトブレイクの初期段階に回収した分離株9株、およびサーベイランス培養による分離株27株について、パルスフィールド・ゲル電気泳動法によるタイピングを行ったところ、6種類の異なるプロファイル(A~F)が検出された。クローンA、C、およびEはアウトブレイクの初期段階と関連していたが、サーベイランス培養で回収された27株では6種類のクローンすべてが確認された。クローンAは爪真菌症の看護助手の手指にも検出された。著者らは、抗菌薬投与歴が保菌の素因であると結論した。防御因子としての母乳哺育の役割については、さらなる解明が必要である。様々な遺伝子型のESBL産生K. pneumoniaeが検出されたことから、アウトブレイク時に単一クローンの拡散と、ESBL遺伝子を含む可動性遺伝因子の拡散が重複して生じた可能性があることが示唆される。

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監訳者コメント:
ESBL産生肺炎桿菌による集団発生は日本でも時々発生しているものと思われる。本論文はその詳細を症例に関する疫学的解析のみならず分子疫学的手法も併用して紹介している点で、有用であると考える。

遅発性病院感染肺炎の原因菌別の転帰

Outcome of late-onset hospital-acquired pneumonia related to causative organism

J.R. McClure*, R.P.D. Cooke, P. Lal, D. Pickles, S. Majjid, C.A. Grant, T.M. Jones, G.A. Dempsey
*University Hospital Aintree, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 348-352


シュードモナス(Pseudomonas)属菌による肺炎は、集中治療を受ける患者の死亡率の上昇と関連する。しかし、これまでの評価では、病院感染肺炎と関連するその他の病原体との転帰の比較は行われていない。1998年から2007年に、Pseudomonas属菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、または非シュードモナスグラム陰性(NPGN)菌の純粋な呼吸器系培養による遅発性病院感染肺炎(診断時の入院期間が72時間以上)の集中治療患者全員を対象として、後向き調査を実施した。カルテレビューにより、疾患重症度、臨床的肺感染症スコア法(clinical pulmonary infection scoring;CPIS)、集中治療室および病院における生存率、および集中治療室在室期間の評価を行った。252件中204件のカルテレビューを行った。肺炎の治療を実施した症例は186例であった。患者10例には同一の入院期間中にシュードモナス肺炎とNPGN菌肺炎の両方が認められ、患者2例には両方の菌による市中獲得感染がみられた。これらの12例は以降の解析から除外した。残りの174例中、80例はPseudomonas属菌、40例はMRSA、54例はNPGN菌に感染していた。3群の患者のマッチングは良好であり、年齢、性別、CPISスコア、菌血症発生率、および診断時のAcute Physiology and Chronic Health Evaluation II(APACHE II)スコアは同等であった。病院と集中治療室における生存率、および集中治療室在室期間に関する転帰は、各群間で差がなかった。今回の連続症例では、病院感染肺炎に関連するその他の病院感染菌と比較した場合、シュードモナス肺炎の生存率は劣っていないと考えられ、群間の疾患重症度は各群で同等であった。

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監訳者コメント:
ICUにおける病院感染肺炎の死亡率は40~50%と高率であり、これは起因菌が何であるかにあまり依らないことが本研究から明らかになった。ICUにおける病院感染肺炎はしばしば致命的であり、起因病原体が何であれ防止すべきものであることに変わりはなく、本論文で示された同等の生存率が臨床的に何を意味するかは不明である。

歯科診療所における感染制御マネジメント

Management of infection control in dental practice

A. Smith*, S. Creanor, D. Hurrell, J. Bagg, M. McCowan
*University of Glasgow Dental School, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 353-358


本研究は、179件の歯科診療所の感染制御および器具消毒に関連するマネジメント方針および手順について、訓練を受けた調査チームが実施した観察研究である。種々の感染制御対策のマネジメントに関する情報、特に歯科器具の消毒に関する情報を、面接および行動指針文書の調査により収集した。本研究から、大半の診療所(70%)には感染制御に関するマネジメント方針があると述べていたが、文書化されていたのはこのうち50%のみであることが示された。感染制御方針については、79%がBritish Dental Association Advice Sheet A12を利用していた。89%の診療所が感染制御手順があると述べていたが、文書化されていたのはこのうち62%であった。職員の77%が特定の感染制御訓練を受けたと述べていたが、器具消毒に関する訓練は主にデモンストレーション(97%)または実技観察(88%)の形式で実施されていた。多くの歯科看護師(74%)および歯科医(57%)は、単回使用器材であることを示す記号を知らなかった。感染制御または汚染除去の実践の監査を実施していた診療所は11%であった。大半の診療所には、歯科診療所による感染制御マネジメントのための方針および手順があったが、多くは文書化されていなかった。感染制御およびその文書化に関する職員訓練のマネジメントは不十分であり、歯科診療所用の品質管理システムの開発を検討する必要がある。

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監訳者コメント:
本研究は英国の実情を紹介したものであるが、日本をはじめ各国とも歯科診療所が小規模であるがために感染制御の指針作成や職員訓練などに問題を抱えていると思われる。示唆に富む論文である。

口腔外科手術時にエアロゾル化浮遊血液ミストが発生しているエビデンス

Evidence of aerosolised floating blood mist during oral surgery

K. Ishihama*, H. Koizumi, T. Wada, S. Iida, S. Tanaka, T. Yamanishi, A. Enomoto, M. Kogo
*Osaka University Graduate School of Dentistry, Japan

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 359-364


歯科手術には歯科用タービン、エアーモーター、マイクロエンジンハンドピースなどの高速器具を使用し、大量の飛散物や浮遊粒子が発生するが、それらは口腔内の微生物で汚染されている場合がある。このような微粒子ミストは血液成分を含んでいると推測される。本研究では、高速器具を使用した口腔外科手術を実施する部屋で、血液で汚染されたエアロゾルが存在するかどうかを調べた。口腔外吸引装置でサンプルを採取した(132例)。実験にあたっては、吸引装置のノズルに不織タオルをフィルターとして設置し、目にみえないミストを手術の場所から20、60、100 cmの距離で採取した。それぞれの抜歯後にフィルターに対してロイコマラカイトグリーンによる推定試験を行った。血液推定試験で陽性の粒子は、手術の場所から20 cmの位置で76%、100 cmの位置で57%であった。この結果から著者らは、血液汚染物質が血液汚染エアロゾルとなって空中を浮遊する可能性があると考える。以上の結果は、歯科診療時には免疫不全患者だけでなく健常者にも、交差感染のリスクがあることを示唆している。

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監訳者コメント:
歯科処置には高速で回転する器具を頻繁に使用し、周囲への飛沫・エアロゾルの発生が懸念される。そのことを定量的に示した論文である。

エストニアにおける院内血流感染の疫学

Epidemiology of nosocomial bloodstream infections in Estonia

P. Mitt*, V. Adamson, K. Loivukene, K. Lang, K. Telling, K. Paro, A. Room, P. Naaber, M. Maimets
*Tartu University Hospital, Estonia

Journal of Hospital Infection (2009) 71, 365-370


院内血流感染(BSI)の調査およびBSIサーベイランスの促進を目的として、2004年から2005年にエストニアにおいて多施設の前向き全病院的サーベイランス研究を実施した。2か所の紹介病院と1か所の中央病院の急性期ケア部門の全患者を対象とした。合計549件のBSIが患者507例で発生した(1,000患者日あたり0.6件)。このうち55%は集中治療室で発生し、47%はカテーテル関連感染であった。BSIの症例のうち24%は血液悪性腫瘍患者に生じていた。院内致死率は31%であった。原因菌のうち315件(53%)はグラム陽性好気性菌、232件(39%)はグラム陰性好気性菌、35件(6%)は真菌であった。嫌気性菌の割合は2%であった。頻度の高かった病原菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(26%)、腸内細菌科細菌(24%)、腸球菌(13%)、およびシュードモナス属菌(10%)であった。BSIの8%は複数菌によるものであった。また、黄色ブドウ球菌分離株の7%がメチシリン耐性菌であった。シュードモナス属菌分離株の耐性菌の割合は、セフタジジム19%、メロペネム25%、タゾバクタム・ピペラシリン30%、およびイミペネム44%であった。BSI発生率は、他の既報の研究と有意な差は認められなかった。シュードモナス属菌の抗菌薬耐性率が比較的高いことを除いて、エストニアの院内BSIの病原菌の全体的な耐性パターンは北欧諸国と同様であり、中欧および南欧よりも低かった。本研究は、エストニアの病院でサーベイランスを計画し、実施するにあたって有用である。

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監訳者コメント:
エストニアのBSIに関する研究。主に臨床検体分離菌に関する検討を加えている。著者自身も書いている通り、既報の論文とさほど差違はなく、同国の現状を明らかにしたという位置づけにとどまるであろう。

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