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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

医療関連感染症の疫学の歴史と変遷★★

Historical and changing epidemiology of healthcare-associated infections

A. Pearson*
*Centre for Infections, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 296-304


本総説では、医療関連感染症の歴史的経緯を、現代の変遷する医療関連感染症の疫学像と比較する。疫学像の変遷を裏づけるエビデンスの例として、英国のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)菌血症による死亡率の推移の変化が挙げられる。また、これらの感染症やこれ以外の医療関連感染症を対象とした現行の国家的介入プログラムの影響について考察するとともに、英国国民保健サービス(NHS)において、医療関連感染症のさらなる減少を図るための公衆衛生戦略の変更に必要な知識のギャップや意見についても言及する。

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監訳者コメント:
英国では健康政策(というより公衆衛生政策)の大改革の目玉として、2003年から5年間でMRSAの血流感染症を半減させ、クロストリジウム・ディフィシル感染症についても有意に減少させる目標を国家政策として発表した(Winning ways, working together to reduce healthcare associated infection in England)。この達成のために、上記感染症のサーベイランス実施を法律で義務化し、公衆衛生年報で病院ごとの成績を公表することになった。この努力により2008年までにNHSで運営されているほとんどすべての病院で数値目標を達成した。これは感染制御を現場の努力目標とするのではなく、国民から医療界への具体的な改善成果を客観的数値で要求するという大政策転換であった。この政策は、「医療者の良心だけでは、もはや改善は難しい」という問題点をあぶりだす結果となった。

医療関連感染症予防における手指衛生の役割★★

Role of hand hygiene in healthcare-associated infection prevention

B. Allegranzi*, D. Pittet
*World Health Organization, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 305-315


医療従事者の手指は、医療環境中において、医療関連病原体を患者から患者へ伝達する最もありふれた媒体である。手指衛生は、抗菌薬耐性の拡大防止および医療関連感染症の減少のための主要な予防手段であるが、医療従事者の適切な手指衛生の遵守率は、多くの医療現場では依然として低い。本稿では、手指衛生の遵守に影響を及ぼす因子、医療関連病原体の交差感染と感染率に対する手指衛生プロモーションの影響、および手指衛生プロモーションを成功させるための重要なシステム変更である擦式アルコール製剤の一斉採用に伴う課題を取り上げる。得られたエビデンスからは、複数の介入戦略によって手指衛生の改善および医療関連感染症の減少がもたらされるという事実が浮き彫りにされている。しかしながら、特にリソースが限られた環境では、各戦略の構成要素の相対的有効性を評価し、最も有効な介入策を特定するためには、さらなる研究が必要である。世界保健機関(WHO)により発足したThe First Global Patient Safety Challengeの主な目的は、世界規模で手指衛生行動の改善を達成することであり、患者の安全を目指す強力な文化を推進することを最終目標としている。また、「医療における手指衛生に関するWHOガイドライン(WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care)」に提唱された多様な戦略を実施することで発生する懸念事項と解決策についても報告する。

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監訳者コメント:
スイスのジュネーブ大学の感染制御の教授であるProf. Pittetは、WHOと共同で医療資源(リソース)の限られた発展途上国においても医療従事者の手指衛生を推進すべきという固い信念に基づいて、世界中でプロモーションを展開しており、まさにGlobal Infection Control Doctorである。その情熱は60歳を過ぎた現在も絶えることがなく、ますます燃え盛っている。いつか日本の感染制御系の学会に招聘したい人物である。是非一度は読んでいただきたい講演記録である。

手術部位感染症の予防:その現状★★

Preventing surgical site infection. Where now?

H. Humphreys*
*Beaumont Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 316-322


手術部位感染症(SSI)は患者ケアの質の評価指標であるという認識が、外科医、感染制御専門家、ヘルスプランナー、および一般市民の間に広まりつつある。外科医間、施設間、および国家間のSSI発生率の比較を実施すべきとの機運が高まっている。これを有意義なものとするには、データを標準化するとともに、手術を実施した施設では表在性SSIが顕在化しないことが多いため退院後サーベイランスのデータを収集する必要がある。最適な退院後サーベイランス実施方法を明らかにするには、さらに研究が必要である。2008年に、SSIに関する2件の重要なガイドラインが米国医療疫学学会(Society for Healthcare Epidemiology of America)/米国感染症学会(Infectious Disease Society of America)および英国国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence, UK)から発表された。いずれも術前・術中・術後の患者ケアにおける重要項目について述べている。これらのガイドラインでは、手術日まで手術部位の剃毛をしないことなど、特定の時期に重要性が増す効果的な介入に加えて、血糖値、酸素分圧、体温などの生理学的パラメータが重視される傾向にある。腹腔鏡手術の普及に伴ってSSI発生率は減少しており、またメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)保菌者のスクリーニングおよび除菌処置は特定の外科手術に有効であるが、費用およびムピロシン耐性リスクとのバランスをとる必要がある。最終的には、SSIケアバンドルを厳格に適用することにより、理論を実践に移す必要がある。最近の研究からは、集学的アプローチによる簡便な方法がSSI発生率の減少に有効となり得ることが示唆されている。

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監訳者コメント:
コンパクトにまとまっており、これからSSIサーベイランスを導入しようとするすべての人に読んでいただきたい。

監訳者注:
英国では、手術は大学病院や総合病院で実施されるが、その後の創部ケアは患者居住区の最寄りのGeneral Practitioner(GP)が引き継いで行う。よって、表在性SSIの発生および治療はGPの管轄となっており、退院後サーベイランスを実施しないと本当の発生率は不明である。

血管内留置カテーテル感染症★★

Intravascular catheter infections

J. Edgeworth*
*Guy’s and St Thomas’ Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 323-330


カテーテル関連血流感染症(CRBSI)は、かつては医原性感染症としての認識は高いものではなかったが、今日では重要な予防戦略の中核に位置づけられている。入院患者の感染巣の特定は困難であるためCRBSIの明確な臨床的定義は確立していないが、サーベイランス上の定義は、院内CRBSI発生率のモニタリングと比較、および感染制御のためのリソースの有効利用に有用であることが判明している。カテーテルの抜去を必要としない新しい診断技術が開発されており、これは状態の悪い急性期の入院患者よりも、単一のトンネルカテーテルを長期間留置している安定した外来患者の感染の評価に適切であると考えられる。院内CRBSI発生率を減少させるうえで有用な基本的な感染予防策の適用、サーベイランス、および監査を促進するためのエビデンスは極めて多数存在する。国際的なガイドラインではカテーテル部位に予防的な抗菌薬を用いる戦略が推奨されているが、長期使用により耐性菌の選択が生じるという当然の懸念が払拭できない。この懸念については、これまでの研究では十分に検討されていない。経済分析においては、有益性を適切に評価するためにCRBSIの臨床的影響に関するデータが必要であるが、併存疾患の寄与の評価が困難であることからこのようなデータが少ないため、得られた成績は相反する内容となっている。全体として、病院においては予防的抗菌薬投与という戦略を追加的に導入することが有効であるかどうかを評価する前に、まず、CRBSIに対する基本的な感染予防策の強化のための持続的プログラムの有効性を評価することが妥当であろう。

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監訳者コメント:
カテーテル関連感染症についての良いレビューである。包括的に知識を得るのに役に立つ講演記録である。

監訳者注:
抗菌薬を含有した樹脂を用いたカテーテルなど。

医療環境におけるノロウイルス:取り組むべき課題

Noroviruses in healthcare settings: a challenging problem

M. Koopmans*
*Erasmus Medical Centre, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 331-337


医療関連感染症としてのノロウイルスに関する現行の知見は表層的なものに過ぎない。データのほとんどはアウトブレイクに基づく研究に由来するものであり、ジグソーパズルの一部のピースに過ぎない。とはいえ現行のデータからは、ノロウイルスの臨床的影響は特に医療環境におけるアウトブレイクでは深刻であり、しかも増加傾向にあることが示唆される。65歳を超える人口、とりわけ医療を必要とする集団が著しく増加していることを考慮すると、医療関連感染症をめぐる議論においてノロウイルスを取り上げることは、時宜にかなっている。特に、抗菌薬耐性の問題への対処の際に生じる新たなリスクを回避するためには、微生物学的問題に傾注した議論からは視野を広げて、医療関連感染に対処するためのより包括的なアプローチを採用する必要があると考えられる。

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監訳者コメント:
この講演については、特段に目新しい議論や知見は見当たらなかった。

緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa):絶えず存在する強敵★★

Pseudomonas aeruginosa: a formidable and ever-present adversary

K.G. Kerr*, A.M. Snelling
*Harrogate District Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 338-344


緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は多様な感染像を示す病原体であり、ヒトの広範な感染症に関与している。緑膿菌は、医療現場においては、熱傷や好中球減少症、または集中治療在室中などの脆弱な患者に対する、重要な感染症の原因の1つである。このような集団では、緑膿菌感染症による罹患率と死亡率が高い可能性がある。緑膿菌は多くの抗菌薬に耐性を示すので、感染管理が難しい。さらに、治療選択肢として残されている数少ない薬剤に対する耐性が出現し拡大しているため、治療はますます困難になっている。近年の注目すべき現象として、一部の緑膿菌株にみられるカルバペネマーゼの獲得が挙げられる。これらの問題に関しては、入院患者の菌獲得を予防するための戦略を明確にすることが妥当と思われる。緑膿菌の環境リザーバの特定は容易であり、環境中の感染源からのアウトブレイクに関する報告は多数あるが、散発的な緑膿菌感染症における環境ソースの役割はあまり解明されていない。しかし、集中治療室などの医療環境での散発的な緑膿菌感染の疫学においては、特に水をはじめとする環境ソースが重要であることが、前向き研究による新たなエビデンスから示唆されている。緑膿菌感染における環境リザーバの役割の理解を深めることにより、これらの感染源から患者への感染を防ぐための新たな戦略の開発と現行アプローチの改善が可能となるであろう。

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監訳者コメント:
多剤耐性緑膿菌(MDRP)などのuntreatable infectionの管理においては、抗菌薬の適正処方だけではその拡大を抑止することは困難である。なぜなら、メタロβ-ラクタマーゼなどの耐性遺伝子はプラスミド上にコードされており、菌種を超えてプラスミドの授受を行っているからである。抗菌薬適正化と同時に、環境リザーバの駆逐を行うことが多剤耐性遺伝子を環境から駆逐することにつながるのである。

基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌

Extended-spectrum β-lactamase-producing organisms

M.E. Falagas*, D.E. Karageorgopoulos
*Alfa Institute of Biomedical Sciences, Greece

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 345-354


基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)は広域スペクトルのセファロスポリン系抗菌薬を加水分解し、クラブラン酸により阻害され、腸内細菌科細菌に広く認められる。特に大腸菌(Escherichia coli)による市中感染症では、ESBLの流行型としてはCTX-M型酵素がSHV型およびTEM型酵素に取って代わりつつある。これらが関与する感染症候群にはまず尿路感染症が挙げられ、次いで血流感染症と腹腔内感染症であり、重篤化して入院を要することもある。罹患患者は一般に種々のリスク因子を有している。ESBLは院内感染菌にも観察される。いくつかの国々では、腸内細菌科の院内感染菌分離株、特に肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)におけるESBLの発現率が大幅に上昇している。院内におけるこれらの感染の疫学は複雑である場合が多く、局所的なアウトブレイクを引き起こす複数のクローン株が孤発性のクローン株と共存していることがある。これらに対する感染予防策は、無生物環境、病院職員、および医療機器を介する患者間伝播の減少に焦点を当てるべきである。抗菌薬の賢明な使用も重要である。ESBLによる薬剤耐性のほかに、セファマイシン系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、およびトリメトプリム・スルファメトキサゾールなどの様々な種類の抗菌薬に対する共耐性が高頻度に観察されるため、ESBL産生菌感染の治療選択肢は限られている。ESBL産生菌感染に対する種々のレジメンの有効性に関する臨床データも少ない。一部のセファロスポリン系抗菌薬はin vitroで活性を示すようであるが、その臨床転帰は最善ではないことが多い。β-ラクタム薬とβ-ラクタマーゼ阻害薬の併用が有効である可能性があるが、これを支持するエビデンスは弱い。カルバペネム系抗菌薬は治療選択肢とみなされており、重篤な感染にはフルオロキノロン系抗菌薬よりも有効であると考えられる。チゲサイクリン(監訳者注:本邦未承認)およびポリミキシン系抗菌薬のESBL産生腸内細菌科細菌に対する抗菌活性はかなり大きく、ホスホマイシンとともにさらなる評価が求められている。

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監訳者コメント:
この講演でも、医療従事者を介した直接的伝播経路および環境リザーバを含めた間接的伝播経路の制御を行うことが、より重要であると述べている。

アシネトバクター(Acinetobacter):旧知の友にして新たなる敵★★

Acinetobacter: an old friend, but a new enemy

K.J. Towner*
*Queen’s Medical Centre, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 355-363


アシネトバクター(Acinetobacter)属菌は、重大な院内感染病原体として1970年代後半に出現したが、その原因の一部として、病院での広域スペクトル抗菌薬の使用増加が想定されている。臨床的に重要な分離株のほとんどはアシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)またはその近縁種に属しており、感染の多くは重症患者または衰弱した患者を対象としている集中治療室、熱傷治療室、または高度治療室に集中していた。このような治療室では、特定のA. baumannii流行株による多数の患者の感染または保菌などの大規模なアウトブレイクが発生する恐れがある。近年、特に懸念されている問題は、世界の戦闘地域(イラクやアフガニスタンなど)から帰還する傷病兵の交差感染である。これまではカルバペネム系抗菌薬が感染患者に対する至適な治療法であったが、今日では既存のすべての抗菌薬療法に耐性を示すA. baumannii分離株の報告が増加している。これらの病原体に対してin-vitro活性を示す数少ない新しい抗菌薬(チゲサイクリンなど)による治療を支持するデータは、まだ非常に乏しい。Acinetobacter属菌の多剤耐性株によるアウトブレイクの予防・制御に関する詳細な勧告として、英国健康保護局のものが利用可能である。これらの対策では、抗菌薬処方の方針と監査に加えて、標準的な感染制御手順および予防策の強化を重視しており、乾燥状態および不十分な消毒後にはAcinetobacter属菌が長期間生存することを考慮して患者区域の徹底的な清掃に特に留意している。このような対策にもかかわらず、問題は拡大し続けており、現在世界中の多くの病院からAcinetobacter属菌多剤耐性株によるアウトブレイクが報告されている。

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監訳者コメント:
Dr. Townerは、監訳者の留学先で共同研究やアウトブレイクリサーチなどを行ったclinical scientistであるが、彼の話は非常に魅力的で、またEnglish sense of humourにあふれている。お話として読むのでも、将来の多剤耐性A. baumannii(MDR-AB)の来襲に備えるためにも十分ためになる。

病院感染症の起炎菌としての市中獲得型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus★★

Community-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus as a cause of hospital-acquired infections

R.L. Skov*, K.S. Jensen
*National Centre for Antimicrobials and Infection Control, Denmark

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 364-370


過去10年間に市中獲得型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(CA-MRSA)が世界的に出現したことにより、MRSA菌株は大幅な生物学的変化を示しており、MRSA感染症の疫学も変容しつつある。CA-MRSA感染症は、医療関連MRSA(HA-MRSA)とは異なる遺伝子系統の菌株が引き起こす。CA-MRSA菌株は市中において、主に小児と若年成人の皮膚・軟部組織感染症を引き起こす。しかしCA-MRSA菌株は、手術部位感染症、人工呼吸器関連肺炎、および菌血症などの医療関連感染症の起炎菌となることが増えている。病院のMRSA保菌率に対する市中のMRSA伝播の影響を示した数学的モデルが公表されている。市中のMRSA保菌率上昇は、黄色ブドウ球菌菌血症やその他の侵襲性感染症における市中発症型MRSA(CO-MRSA)の増加ももたらしている。このような患者には一般的なMRSAのリスク因子が認められない。こうした変化は、黄色ブドウ球菌が原因と考えられる重篤な感染に対する経験的治療法の選択に大きな影響を及ぼす可能性がある。畜産動物による新たなMRSAリザーバは非常に大規模なものとなる可能性があり、ヒトへの伝播を介在するため、一般的なMRSAと医療関連感染症の原因菌としてのMRSAのいずれの制御に対しても、さらに深刻な脅威となっている。したがってCA-MRSAは重大な懸案事項であり、制御の対象とすべきである。

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監訳者コメント:
Dr. SkovはデンマークにおけるCA-MRSAのコミュニティーアウトブレイクを追跡調査し、健康な成人にも濃厚接触により伝播しうることを突き止めて報告している。彼はヨーロッパにおけるCA-MRSA研究の第一人者であり、順天堂大学の研究グループとも国際的共同研究を行っている。非常にためになる講演記録である。

感染制御のためのスクリーニングおよび隔離

Screening and isolation for infection control

E. Tacconelli*
*Universita Cattolica Sacro Cuore, Italy

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 371-377


医療関連感染の有病率低下を目的とした制御対策には、積極的監視培養、疫学的に重要な病原体を保有している患者の接触隔離、およびハイリスク患者の暫定的隔離などがある。しかし、これらの対策の有効性には疑問の余地がある。隔離方針に関するシステマティックレビューからは、隔離策を含む集中的な協調介入によってメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)院内感染が大幅に減少することが示されている。介入のモニタリングは必須となる。サーベイランスデータの適切な公開とフィードバックを実施すべきである。国際的なガイドラインでは、徹底的な積極的監視培養は集中治療室のみで実施すべきであることが提案されている。しかし、多くの国では入院時のスクリーニングを義務づける法律を導入している。対象限定スクリーニングは、入院時に抗菌薬耐性病原体の保菌が特に疑われない患者から病原体が拡散する可能性を除外する目的で利用できると考えられ、すでに入院している患者を対象としたスクリーニングプログラムとは対照的な戦略である。早期検出は、抗菌薬耐性病原体が病院に流入する点は同様であるものの、これにより保菌患者から病原体が拡散する期間は短縮すると考えられる。近年、MRSAの迅速分子検出法が開発された。MRSA保菌率に対するこれらの検査法の効果についてのデータは、ばらつきが大きい。既報の研究では、評価を実施した環境、スクリーニング対象として選択した患者集団、採用したその他の感染制御対策、および最も重要な点として研究デザインとベースライン時のMRSA保菌率が異なっている。これらの研究に基づいて最終的な推奨を行うことはできない。

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監訳者コメント:
薬剤耐性菌の伝播減少を目指して積極的監視培養を行い、保菌者を把握して隔離するという手法をとることがある。本レビューはその有効性に関する疑問を示したものであり、様々な論文に言及して要約のような結論に達している。一読の価値はあるが、要約だけでも構わないかもしれない。

病院感染制御における環境清掃の役割★★

The role of environmental cleaning in the control of hospital-acquired infection

S.J. Dancer*
*Hairmyres Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 378-385


この10年間、病院感染の増加が大きな注目を集めている。一般市民はいわゆる「スーパーバグ(superbug)」を、汚れた病院に関して自分たちの見聞した経験と結び付けてきたが、これらの微生物の制御における環境清掃の正確な役割は依然として不明である。清掃がエビデンスに基づく科学として認められ、その評価法が確立するまでは、清潔な環境の重要性は推論の域を出ないものと考えられる。本総説では、病院環境と種々の病原体、すなわちメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、バンコマイシン耐性腸球菌、ノロウイルス、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、およびアシネトバクター(Acinetobacter)属菌などとの関連を検討する。これらの微生物は医療環境で生存する能力があるが、清掃過程で脆弱化することを支持するエビデンスが得られている。消毒薬の使用の有無にかかわらず、病原体の除去は患者への感染率の低下に関連すると考えられる。残念ながら、清掃はアウトブレイクに対する感染制御対策の一環として実施されることが多く、単独の介入としての重要性には依然として議論がある。手の触れる場所は常に病院感染病原体に汚染されており、その病原体は患者の手指に伝播することが最近の研究で示されている。手の触れる箇所に関する詳細な研究は少ないため、これらの箇所の清掃を重点的に行うことは、現在重視されている手指衛生にも効果的に寄与する可能性がある。さらに、提唱されている病院衛生基準を用いることによって、清掃は病院感染制御のための費用対効果に優れた介入であることのエビデンスをさらに提示することができると考えられる。

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監訳者コメント:
環境清掃の効果と意義に関する総説。冒頭に、その正確な役割は依然として不明であるとあるが、同時に本総説においては利用可能なエビデンスを提供している。環境清掃を考える上で手元に置いておきたい論文である。

感染に関する論争:医療関連感染を制御するのは感染制御そのものか、あるいは抗菌薬使用の管理か?

Controversies in infection: infection control or antibiotic stewardship to control healthcare-acquired infection?

I.M. Gould*
*Aberdeen Royal Infirmary, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 386-391


医療関連感染の制御に関する情報資源は豊富であるにもかかわらず、その発生率はかつてないほど高い。Alexander Gordonによる産褥敗血症が伝染性であることの発見は、細菌学および抗菌薬の黄金時代の到来を告げたが、このことは感染症が撲滅されたという信仰を招来し、次いで我々を誤った安全意識と抗菌薬に対する過度の依存へと導いた。現代医療は、抗菌薬を用いることで多大な進歩を遂げてきたが、その成功自体が甚大な過量投与をもたらし、薬剤耐性の問題に至った。抗菌薬の適切なパイプラインが枯渇していることと併せて、我々は現在、抗菌薬の矛盾-すなわち、抗菌薬が実際に多くの医療関連感染症を引き起こしているかもしれないということ-に対処せざるを得ない状況に陥っている。クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染のみならず、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染をはじめとする多くの感染症は、程度の差はあるものの抗菌薬処方に完全に依存している。我々が医療関連感染に立ち向かう方法として、処方の管理は従来の感染制御対策と同等の有効性を有すると思われる。従来の感染制御が「消火活動」であるとすれば、抗菌薬使用の管理は「防火活動」といえる。

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監訳者コメント:
感染制御の有効性と抗菌薬の管理の有効性を比較した総説というよりは、抗菌薬の管理が感染制御にどれほど役立つかに関して述べた総説であり、多分に筆者の考えが反映されている。しかし、一読の価値はある。

感染制御は病院運営組織のどこに組み入れるべきか?

Where does infection control fit into a hospital management structure?

E.T. Brannigan*, E. Murray, A. Holmes
*Imperial College Healthcare NHS Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 392-396


感染予防・制御対策を有効なものとするには、これらを病院運営組織における複雑で重層的なシステムの連携の中に組み入れる必要がある。各システムに関係する活動をどのように至適化すれば患者への感染リスクが最小になるかを、システムごとに検討する必要がある。本稿では、質の保証および患者の安全に関する目標を達成するために必要となる、病院組織の構成要素について論じる。また、感染制御基準に関連するパフォーマンス・マネジメントツールの利用についてレビューするとともに、システム管理の欠陥の代用指標として病院感染を使用することについて考察した。感染予防・制御は個人または少人数の専門チームの役割や責任で対応するのではなく、あらゆるレベルで優先すべきものであり、研究や教育計画を含むすべての運営システムの中に組み入れる必要がある。

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監訳者コメント:
感染制御の組織論。実務にはあまり参考にならないが、総説としてはよくまとまっている。

監訳者注:
システム(system):ここでは、組織を運営するための制度やルールという意味合いを含ませている。

手指衛生と病院における感染:一般市民は何を知っており、何を知っているべきか?

Hand hygiene and infection in hospitals: what do the public know; what should the public know?

M. Fletcher*
*National Patient Safety Agency, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 397-399


医療関連感染の問題は、一般市民、特に医療サービス利用者の関心が増大している。これと同時に、医療分野全体の開放性と透明性の向上を図ろうとする動きがある。かくして我々は、医療関連感染の発生率や感染制御の実践に関連する成績の公的報告が、英国国民保健サービス(NHS)においてますます確立されていくのを目にしている。では、これらによって何が変わったのであろうか? そして「一般市民の知る権利」はどの程度定着したのか? 本稿では、一般市民が医療関連感染の発生率を知る権利については十分に周知されているものの、このような情報の意義に関するエビデンスの基盤は限定的であることを論じる。また、その意義を強化するために医療機関の理事会や幹部が講じることができる措置について提起する。手指衛生を例に取ると、患者が自らの感染リスク低下を図るために、医療従事者に対して問いかける権利をもつと感じる環境にはまだ至っていないと考えられる。

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監訳者コメント:
日本では医療関連感染の発生率の公的報告や一般市民の知る権利といった考え方は未発達であるが、近い将来英国やアメリカの動きに追従すると考えられる。その際、本総説にも書かれているが、一般市民が知り得た情報を正しく解釈する力がないうちにこのような制度を設けることは、不要な混乱を招くことを十分に留意しなければならない。

英国のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のメディア報道の発信を推進するもの、相互関係および相対的影響はどのようなものか?

What are the drivers of the UK media coverage of meticillin-resistant Staphylococcus aureus the inter-relationships and relative influences?

T. Boyce*, E. Murray, A. Holmes
*The King’s Fund, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 400-407


英国では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)感染がメディアの大きな注目を集めている。報道の質、政治的対応、および解決策の提言に対しては疑問が呈されており、医療従事者、メディア、および政府の政策の相互の関係をより深く理解する必要がある。著者らは、1994年から2005年に英国の新聞12紙に掲載されたMRSAに関する記事2,880件を特定し、米国の主要6紙の記事21件と比較した。相対的影響と相互関係をさらに調査するため、1990年から2004年にかけての68週分の報道を分析した。対象とした期日は、MRSAに関する論文のうち ISI Web of Scienceによる調査で引用回数が上位の10報が発表された日付、および1997年以降に英国保健省がMRSAに関するプレスリリースを発表した日付に基づいて選択した。この期間中に351件の記事が新たに報道され、このうち一般市民および政治家を情報源とする記事は60%であった。学術論文は引用回数上位のものであっても、新聞報道への影響はごくわずかであった。新聞記事に記載されている単純な解決策は、ほぼ例外なく清掃に焦点を当てたものであった。英国の報道機関は米国に比べ、MRSAに強い関心を寄せている。医療従事者、専門家、および専門機関はメディア報道の質を批判しているが、報道機関への影響力や関与はわずかである。このため、報道記者、著名人、一般市民、および政治家がチェックを受けずにこのような記事を執筆し、そこに述べられた短絡的な解決策のみを政策が取り上げるようになっている可能性がある。


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監訳者コメント:
MRSAに関する英国のメディアを分析した興味深い論文。メディア論に興味のある方はご一読をお勧めする。

国としての標的を定めることは感染制御の実践を改善するための正しい方法であるか?

Are national targets the right way to improve infection control practice?

M. Millar*
*Barts and The London NHS Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 408-413


「感染制御の実施を改善する正しい方法」は費用対効果に優れるとともに、感染制御の財源を公平に分配するものでなければならない。費用対効果は「利益」の総体を評価する指標であり、公平性においては同様の状況にある患者に対して同様の治療を実施することが重視される。英国ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)血流感染(bloodstream infection; BSI)がその標的とされているため、英国国民保健サービス・トラストはMRSA BSI予防を目的とする戦略を優先させている。財源が限られた状況下では、MRSA BSIを標的とすることによって、標的以外の医療関連感染のリスクを有する患者は必然的に優先順位が下がるが、これらの医療関連感染の中にはMRSA BSIと同等かそれ以上の不良な転帰に関連するものもある。Health Foundationが提唱するPDSA(Plan, Do, Study, Act)サイクルのような確立された医療改善戦略では、目標(または標的)の設定が必要である。感染制御の実践を改善するためには、何を指標としてそれをどのように評価するか、何を改善する(標的とする)べきかを決定する必要がある。感染予防の標的を選択する際には、不良な転帰全体への医療関連感染の寄与を考慮すべきである。人的なリスク補償行動と微生物の適応はいずれも、全体の転帰とは無関係に感染の標的にかかわる効果全般を妨げる可能性がある。リスクを取るということは健全な医療システムの一環である。医療関連感染の転帰を全体の転帰から遊離させないように、あるいは「リスクを負う者」を「リスク管理者」から切り離さないように注意を払わなければならない。人的なリスク補償行動の余地を制限するとともに、微生物の適応を警戒する必要がある。標的は、公平性と費用対効果を勘案しつつ、地域レベルで設定すべきである。地域に適した情報が重要であり、明確な動機付けがあると非常に効果的である。

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医療関連感染の管理責任:どこに責任があるのか?

Responsibility for managing healthcare-associated infections: where does the buck stop?

B.I. Duerden*
*Department of Health, UK

Journal of Hospital Infection (2009) 73, 414-417


医療関連感染の予防・制御には、保健医療福祉界全体を通じた医師・医療提供者、経営(管理)者、および政府・保健省の三者の協調が必要である。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌血症およびクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症を対象とした義務的サーベイランスにより、これらの疾患の症例数はそれぞれのピークであった2003~2004年および2006年から著しく減少しており、現在は予防可能な感染および不良な臨床実践を対象としてゼロ・トレランス方式を採用している。これまでの成功事例は、経営公約(senior management commitment)、即時サーベイランスの強化、臨床プロトコール(大きな影響を及ぼす介入、適正な処方)の実施、手指衛生と環境清掃の改善、および訓練・監査に基づいており、これらには目標と法律(実施基準[Code of Practice])を介するパフォーマンス・マネジメントの強化という裏付けがあった。保健省の改善班は臨床実践の改善のために英国国民保健サービス・トラストを支援してきた。医療関連感染の管理責任は、手順やプロトコールの実施が遵守されることの保証を基本とした管理者責任と、すべての医師およびその他の医療従事者の専門家としての個人の責任の両方から成り立っている。

サマリー 原文(英語)はこちら

監訳者コメント:
英国の医療関連感染制御に関する国の関与や義務的サーベイランスに関する総説。それに興味ある方はご一読願いたいが、要約に記されている内容自体はそれほど目新しい考え方ではない。

監訳者注:
ゼロ・トレランス方式(zero tolerance):ここでは、感染症を完全になくすことを目指すのではなく、予防・回避可能な感染や不良な臨床実践(手指衛生の遵守、無菌操作、不用意な抗菌薬処方など)を厳格に排除する方針を称している。

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