JHIサマリー日本語版トップ

レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の医療コスト:システマティックレビュー

Economic healthcare costs of Clostridium difficile infection: a systematic review

S.S. Ghantoji*, K. Sail, D.R. Lairson, H.L. DuPont, K.W. Garey
*University of Texas School of Public Health, Texas, USA

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 309-318


クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染は、入院患者の感染性の下痢症の最多の原因である。C. difficile感染症によって入院期間の延長、再入院、臨床検査、および投薬が必要となるため、患者の医療費は増加する。しかし、医療制度の中でのC. difficile感染症のコストについては明らかではない。この研究の目的は、C. difficile感染症の医療コストを明らかにすることを目的とした現在入手可能な研究についてのシステマティックレビューを行い、その概要をまとめることである。C. difficile感染症関連コストを調査した研究のピアレビュー論文(1980年から現在まで)の検索を実施した。13報の研究が選択基準・除外基準に合致した。C. difficile感染症関連コストを、消費者物価指数を用いて2008年の米ドルに換算して算出した。C. difficile感染症の初発症例と再発症例の総コストおよび増分コストを推計した。13報の研究のうち10報は米国からのもので、残りはカナダ、英国、アイルランドが1報ずつであった。米国の研究ではC. difficile感染症1例あたりの増分コストは初発症例で推計2,871から4,846ドル、再発症例で13,655から18,067ドルであった。特定の集団(過敏性腸疾患症例、外科入院症例、および集中治療室で治療を受けた症例)を対象とした米国の研究では、増分コストは6,242から90,664ドルであった。米国以外の研究で示されたC. difficile感染症1例あたりの推計増分コストは初発症例で5,243から8,570ドル、再発症例で13,655ドルであった。C. difficile感染症の医療コストは、初発症例と再発症例のいずれも高価であった。C. difficile感染症関連コストは高額であるため、その予防・制御のために資源を投入するのが妥当である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
わが国における医療施設関連感染症に関連した過剰コストについての国際的な論文は乏しい。原因として、圧倒的なマンパワーの違い(劣勢)と、財務担当者によるデータ解析に基づくコストカット圧力が希薄であることが挙げられる。マンパワーの問題については、電子カルテ化の普及によりデータウェアハウスが利用できるようになれば、臨床データベースから医療費を割り出すことなどが比較的容易になると予測される。本格的なコスト解析の研究が望まれている。

病院内の疫学:「クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)への対策」のための戦略

Hospital-based epidemiology: a strategy for ‘dealing with Clostridium difficile

P. Shears*, L. Prtak, R. Duckworth
*Royal Hallamshire Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 319-325


クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連下痢症は、依然として感染制御における重大な問題である。その診断法および患者への感染源を特定する上での診断基準は確立していない。英国の大規模教育病院の検査室でC. difficile関連下痢症と診断された275例の新規症例(一般開業医の患者と病院入院患者)を対象として、その局地的な疫学の詳細を明らかにするため前向き疫学研究を実施した。最も発生率が高かった部門は血液内科と重症管理部門であり、またC. difficile関連下痢症の院内発生例の29%は、65歳未満の患者に発生しており、その割合は意外に高かった。入院後48時間以内にC. difficile関連下痢症と診断された症例は55例であった。この55例のうち「市中獲得型」とされた症例数は、感染した場所と下痢の発生時間に関する種々の基準によって9例から25例までばらつきがあった。同様に、市中発生症例48例のうち「市中獲得型」とされたのは19例から25例であった。このようなばらつきがみられたことから、国民保健サービス(National Health Service;NHS)トラスト間の比較は不正確なものであると考えられる。症例を診断から90日間追跡し、全原因死亡のデータを収集した。病院入院後に診断された227例中56例(25%)が30日以内に死亡し、このうち29%が65歳未満であった。死亡例の86%から死亡証明書のデータが入手できた。15例(31%)の証明書にC. difficileの記載があり、8例(17%)ではC. difficileが主要な死因(1aまたは1b)とされていた。今回の研究は、NHSトラスト内で感染の予防・制御戦略を策定するため、および国レベルでの標的と政策のエビデンスの基盤をもたらすために、局地的な疫学研究が有用であることを示している。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
C. difficile感染症の疫学研究の遅れは、症例定義が定まっていないために、有病率や死亡原因の特定が困難であるという背景がある。早期の症例定義の確立が望まれる

2つの内科病棟における抗菌薬静注療法の処方72時間後の標準化レビューの効果

Impact of standardised review of intravenous antibiotic therapy 72 hours after prescription in two internal medicine wards

O. Manuel*, B. Burnand, P. Bady, R. Kammerlander, M. Vansantvoet, P. Francioli, G. Zanetti
*Centre Hospitalier Universitaire Vaudois and University of Lausanne, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 326-331


病院で抗菌薬療法の処方後レビューを実施することは、抗菌薬の適正使用につながり得る。大学病院の2つの内科病棟において、抗菌薬静注療法の処方3日後の標準化レビューの効果を評価した。一方の病棟では、抗菌薬静注療法を受けている患者のカルテを標準化レビュープロセスに従って評価し、処方医にフィードバックした。もう一方の病棟では介入を実施しなかった。6か月後に、介入を行う病棟と非介入の病棟を入れ替えた。介入期間中に全体で204件の抗菌薬投与が対象となり、対照期間では226件が対象となった。処方後レビューにより変更の提案が行われたのは、抗菌薬投与件数の46%であった。処方変更までの期間は、介入期間のほうが対照期間と比較して22%短かった(3.9±5.2日対5.0±6.0日、P = 0.007)。介入群の患者の抗菌薬使用量は対照群と比較して少なかったが、両病棟の抗菌薬総使用量については、今回の介入によって有意な効果は得られなかった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
処方後のレビューを実施しても、実際には治療期間の短縮には至らなかったという結論である。論文作成の意図がよくわからないレポートであるが、処方を助言に基づいて切り替えた症例のほうが、臨床医が単独で投与を判断した症例よりも臨床経過、治療期間などが改善したのかなどを検討するようにデザインすべきであった。

早産新生児へのルーチンの抗菌薬使用:無作為化対照試験

Routine antibiotic use in preterm neonates: a randomised controlled trial

A. Tagare*, S. Kadam, U. Vaidya, A. Pandit
*KEM Hospital, India

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 332-336


早産新生児は免疫系が未熟であるため、新生児敗血症のリスクが高い。ルーチンの抗菌薬投与による早産新生児の臨床的敗血症発生への効果を比較するため、部分盲検無作為化対照試験を実施した。生後12時間以内に入院した、感染症に関連するその他のリスク因子がみられない早産新生児を、抗菌薬をルーチンに投与する群と対照群(臨床的適用がない限り抗菌薬を使用しない)に無作為に割り付けた。主要評価項目は臨床的敗血症発生率とした。副次的評価項目は血液培養陽性率、ステージII/IIIの壊死性腸炎発生率、死亡率、および入院期間とした。臨床的敗血症の発生率は両群で同等であった(介入群31.9%、対照群25.4%、 P = 0.392)。死亡率は両群で同等であった。対照群は血液培養陽性率が有意に高かった(P = 0.002)。壊死性腸炎の発生率および入院期間は両群で同等であった。低リスクの早産新生児では、ルーチンの抗菌薬投与に防御効果があるとするエビデンスは得られなかった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
ルーチンで抗菌薬投与を行うというまったくナンセンスなプラクティスの無意味さを証明したよい論文である。

重症患者におけるグラム陰性菌による院内肺炎に対する短期抗菌薬療法★★

Short course antibiotic therapy for Gram-negative hospital-acquired pneumonia in the critically ill

R.J. Pugh*, R.P.D. Cooke, G. Dempsey
*Glan Clwyd Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 337-343


院内肺炎は重症疾患の原因となることが多く、その罹患率と死亡率は高いが、抗菌薬療法の至適な期間は不明である。期間が短い場合は治療無効となる可能性があり、長い場合は抗菌薬耐性が生じて抗菌薬関連合併症と医療費の増加をもたらす可能性がある。当施設のグラム陰性菌院内肺炎に対する抗菌薬療法の標準的な期間は5日であり、現行の多くのガイドラインで推奨されている期間よりかなり短い。当施設の重症管理室で臨床的・微生物学的基準を満たしたグラム陰性菌院内肺炎の全症例を後向きに評価し、短期間の抗菌薬療法後の再発率と死亡率を調査した。グラム陰性菌院内肺炎の適格症例として79例を特定した。このうち79%は診断時に人工呼吸器を使用しており、42%は非発酵性グラム陰性桿菌が原因のグラム陰性菌院内肺炎であり、72%は推奨されている5日間の抗菌薬療法を受けていた。5日間の治療後に、肺炎から回復していないことを示す明確な所見がみられた患者は2例であった。全体の再発率は14%であり、非発酵性グラム陰性桿菌感染患者の再発率は他のグラム陰性菌感染患者と比較して有意に高かった(17%対2%、P = 0.03)。全体の再発率は、既報の再発率(17%縲・1%)を上回っていなかった。重症管理室における死亡率(34.2%)も、既報の死亡率(18%縲・7%)を超えなかった。この研究は限定的なものではあるが、治療終了までに肺炎から回復している場合は、グラム陰性菌院内肺炎に対する適切な抗菌薬を用いた5日間の治療によって、再発または死亡リスクが増加することはないと考えられた。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
現在までの臨床研究からは、最適な抗菌薬投与期間についての確立した結論が導き出せていない。これに挑んだレトロスペクティブ研究であるが、日本人医師が好きな「CRPの低下を抗菌薬中止の根拠になどしていない」ことがよくわかる。WBCやCRPの数を基に臨床経過を論じるのは、まさに木を見て森を見ずに等しい。

全国的なアウトブレイク時の入院患者におけるカルバペネム耐性肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)保菌率★★

Carriage rate of carbapenem-resistant Klebsiella pneumoniae in hospitalised patients during a national outbreak

Y. Wiener-Well*, B. Rudensky, A.M. Yinnon, P. Kopuit, Y. Schlesinger, E. Broide, T. Lachish, D. Raveh
*Shaare Zedek Medical Center, Israel

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 344-349


イスラエルにおけるカルバペネム耐性肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)の全国的なアウトブレイク時に、無症候性保菌者がどの程度存在するかを明らかにするために点有病率調査を実施した。次いで後向き症例対照研究を行い、保菌のリスク因子を明らかにするためにカルバペネム耐性K. pneumoniae保菌者と非保菌者を比較した。同意を取得した適格な入院患者全員から、口腔、肛門周囲、および直腸スワブを採取した。カルバペネム耐性グラム陰性菌用の選択培地を用いて、またパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)によりクローン起源を特定した。298例から培養結果が得られた。16例(5.4%)がカルバペネム耐性K. pneumoniae保菌者であり、内科病棟と外科病棟での保菌率が高かった。本調査前にカルバペネム投与を受けていたのは、保菌者の18%のみであった。保菌者16例中5例では、臨床検体中にカルバペネム耐性K. pneumoniaeが検出されたため、臨床的感染と無症候性保菌の比は1対3であった。最も感度が高い検査部位は直腸で、16例の保菌者中15例が直腸スワブ陽性であった。本法の全体の感度は94%、陰性適中率は99.6%であった。カルバペネム耐性K. pneumoniae保菌のリスク因子に関する多変量解析で保菌状態と有意な関連を示したのは、おむつの使用、長期間の入院、およびバンコマイシンの使用の3変数であった。PFGEにより、すべての分離株16株が同一であり、単一のクローン起源であることが確認された。カルバペネム耐性K. pneumoniaeアウトブレイク時に1つの病院で実施した点有病率調査から、保菌率は5.4%であることが示された。これらの分離株は単一クローン起源であったことから、隔離手順の厳格な遵守によって今回のアウトブレイクが阻止できる可能性が示唆される。


サマリー 原文(英語)はこちら

監訳者コメント
日本ではあまり問題になっていないカルバペネマーゼ(=メタロβ-ラクタマーゼ)産生肺炎桿菌の点有病率調査と、これに基づく多変量解析により保菌のリスク解析を行っている。肺炎桿菌は、呼吸器系および消化器系の常在菌の一部であるため、これらの取り扱いについての標準予防策と手指衛生の徹底が、MDRO(多剤耐性病原体)の管理には必須であることが読み取れる。

監訳者注
無症候性保菌の定義は原著に明示されていないが、臨床的感染が認められない保菌であると解釈できることから、その数は16例-5例=11例と算出される。したがって、臨床的感染と無症候性保菌の比は5対11、すなわち約1対2であると考えられる。

外科集中治療室におけるカルバペネム耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)感染アウトブレイク

Outbreak of carbapenem-resistant Pseudomonas aeruginosa infection in a surgical intensive care unit

A. Kohlenberg*, D. Weitzel-Kage, P. van der Linden, D. Sohr, S. Vogeler, A. Kola, E. Halle, H. Ruden, K. Weist
*Charite University Medicine, Germany

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 350-357


ドイツの大学病院の外科集中治療室(SICU)でカルバペネム耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)が分離される患者が集積していることを、サーベイランス活動を実施中の感染制御担当者が見いだした。アウトブレイクの調査として記述的分析、カルバペネム耐性緑膿菌が分離された患者15例とカルバペネム感性緑膿菌が分離された患者18例とを比較する症例対照研究、および環境サンプルの採取とパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による緑膿菌分離株のタイピングなどを実施した。2006年7月1日から10月31日までのアウトブレイク期間中にSICUで15例がカルバペネム耐性緑膿菌を獲得し、入手可能であった11分離株のPFGEタイピングの結果、2種類のアウトブレイク株のほか、散発性の分離株が存在することが判明した。2種類のアウトブレイク株は、ペニシリン系、セファロスポリン系、カルバペネム系、アミノグリコシド系、およびキノロン系耐性であり、コリスチンのみに感性であった。最も可能性の高い伝播方法は術後創傷ケアの間の患者間交差伝播であり、腹部や胸部ドレーン(オッズ比[OR]64.33、95%信頼区間[CI]5.32縲・99)とキノロン系薬剤による治療(OR 48.37、95%CI 3.71縲・99)がカルバペネム耐性緑膿菌耐性獲得に対する独立したリスク因子であった。接触隔離予防策を実施し、医療従事者が可能性の高い伝播方法を意識するようになってからは、カルバペネム耐性緑膿菌の症例の集積はそれ以上観察されなかった。本研究により、術後の創傷ケアに関連する2種類の菌株の交差伝播など、SICUにおけるカルバペネム耐性緑膿菌の複雑な疫学が示された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本事例で検出されている分離菌は多剤耐性緑膿菌(MDRP)と考えてよいような耐性パターンを示している。これほど耐性が進んでいなくとも、その一歩手前の耐性緑膿菌が臨床現場ではしばしば分離される。その治療に利用できる薬剤は限られており、ひとたび患者が感染症を発症すると治療に難渋することになる。本菌の交差伝播の防止は重要な課題であり、本研究のように集積が見られる場合は各施設で症例対照研究による疫学調査を行うのが望ましい。その際に参考になる文献である。

香港の医療圏における多剤耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)の疫学およびクローン性★★

Epidemiology and clonality of multidrug-resistant Acinetobacter baumannii from a healthcare region in Hong Kong

P.L. Ho*, A.Y. Ho, K.H. Chow, E.L. Lai, P. Ching, W.H. Seto
*University of Hong Kong, China

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 358-364


香港における多剤耐性アシネトバクター・バウマニー(multidrug-resistant Acinetobacter baumannii;MDR-AB)のリスク因子および分子疫学を評価した。2005年から2006年に、同一医療圏(healthcare region)の5つの病院で治療を受けた患者を対象とした。増幅リボソームDNA制限解析(ARDRA)によるゲノム解析を行い、表現型解析法および分子型解析法によりメタロβ-ラクタマーゼの存在および代表的なMDR-AB菌株のクローン性を調べた。MDR-ABが分離された45例を、対照(MDR-ABが分離されなかった患者)135例と比較した。ロジスティック回帰分析により、MDR-AB保菌・感染と関連する独立因子は慢性創(オッズ比29.5、95%信頼区間8.1縲・07.2、P < 0.001)のみであることが示された。ARDRAでは、MDR-AB分離株45株すべてが遺伝子種2TUであった。パルスフィールド・ゲル電気泳動法により、分離株2株を除くすべての分離株が2つのクローン型に分類され、内訳はHKU1が24株、HKU2が19株であった。HKU1株の主な特性はST26、adeB XII型、blaOxA-23-like遺伝子およびblaOxA-51-like遺伝子陽性、およびカルバペネム高度耐性であった。HKU1株の多くはゲンタマイシン、cotrimoxazole、およびミノサイクリンに感性であった。一方、HKU2株はST22、adeB II型を示し、ほとんどはblaOxA-51-like遺伝子のみ陽性で、ゲンタマイシン、cotrimoxazole、およびミノサイクリンに耐性であった。いずれのクローンも広く拡散していることが判明した。結論として、クローンの拡散が、香港のこれらの病院におけるMDR-AB増加の主な原因となっている。今回の知見は、感染制御対策の強化の必要性を示している。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
日本でも多剤耐性アシネトバクターが時々出現しているが、本論文のように地域に拡散している状況には、幸いにしてまだない。他山の石とすべき近隣諸国の状況を示した文献である。

動脈カテーテル関連感染発生率は大腿アクセスのほうが足背アクセスよりも高い

Higher arterial catheter-related infection rates in femoral than in dorsalis pedis access

L. Lorente*, A. Jimenez, J.J. Jimenez, J.L. Iribarren, J. Martinez, C. Naranjo, R. Santacreu, M.M. Martin, M.L. Mora
*Hospital Universitario de Canarias, Spain

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 365-369


動脈カテーテル関連感染については多くの研究があるが、カテーテルアクセス部位別の相対リスクに関する情報はほとんどない。著者らは以前の研究で、大腿動脈アクセスのほうが橈骨動脈よりも動脈カテーテル関連感染発生率が高いことを示した。今回の前向き観察研究は、集中治療室の患者を対象として、動脈カテーテル関連感染発生率を大腿アクセスと足背アクセスで比較するようにデザインした。延べ6,497日留置した1,085本の大腿動脈カテーテルを、延べ1,050日留置した174本の足背動脈カテーテルと比較した。大腿動脈アクセス群では33件の動脈カテーテル関連感染が認められた(菌血症11件およびアクセス部位感染22件、1,000カテーテル・日あたり5.08件)が、足背動脈アクセス群では全く認められなかった。年齢、性別、APACHE(Acute Physiological Assessment and Chronic Health Evaluation)IIスコア、診断群、動脈カテーテル留置歴、人工呼吸器の使用、抗菌薬の使用、およびカテーテル留置期間については、両群に有意な差はなかった。回帰分析から、動脈カテーテル関連感染発生率は大腿動脈アクセスのほうが足背動脈アクセスよりも高いことが示された(オッズ比7.6、95%信頼区間1.37縲怐〟AP = 0.01)。これらの結果から、動脈カテーテル関連感染症のリスクを低下させるためには大腿動脈アクセスよりも足背動脈アクセスを使用すべきであることが示唆される。

サマリー 原文(英語)はこちら

監訳者コメント
1本あたりの留置期間が大腿動脈・足背動脈とも平均6日とかなり長いことが、両群に感染率の差を出したものと考えられ、短期間の留置であれば挿入しやすい大腿動脈アクセスの使用を否定するものではないと考える。ともあれ、動脈だけでなく静脈も含めて、大腿部ではラインを挿入することは感染対策上不利であることを、すべての職員が明確に認識すべきである。

アウトブレイク後の新生児集中治療室由来バンコマイシン耐性腸球菌の根絶

Elimination of vancomycin-resistant enterococci from a neonatal intensive care unit following an outbreak

Z. Ergaz*, I. Arad, B. Bar-Oz, O. Peleg, S. Benenson, N. Minster, A. Moses, C. Block
*Hadassah-Hebrew University Medical Centre, Israel

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 370-376


当院では、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の便培養を週1回実施する指針を、2005年に新生児集中治療室(NICU)で発生したVREアウトブレイクの調査後に策定した。そのアウトブレイク時に感染・保菌した患児は18例中11例で、このうち3例に血流感染、1例に髄膜炎が認められた。本稿では、VREが存在しない環境を維持するためのサーベイランス指針の有用性について報告する。アウトブレイク調査により、VRE分離株はすべてvanA型エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)であることが示された。パルスフィールド・ゲル電気泳動では、アウトブレイクは単一株により引き起こされたことが示唆された。接触隔離予防策の強化、患児および職員のコホーティング、環境汚染除去の改善、および病棟への新規入院の停止により、アウトブレイク制御を達成した。血流感染患児および髄膜炎患児の治療にはリネゾリドが有効であった。アウトブレイクから約1年後、週1回のサーベイランスにより、入院期間が重複する患児2例の便中にVRE保菌が認められた。早期の集中的介入が、NICU由来菌の消失に寄与したと考えられる。その後の2年半の間に、新たな保菌・発症例は認められていない。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
NICUにおけるVREアウトブレイクの対応事例。日本では腸球菌に占めるVREの割合がいまだ低いが、VREのアウトブレイク事例は少なくない。参考になる文献である。

3次医療施設の入院患者から7年間にわたって分離されたバンコマイシン耐性腸球菌の特性

Characterisation of vancomycin-resistant enterococci from hospitalised patients at a tertiary centre over a seven-year period

C.-M. Chang*, L.-R. Wang, H.-C. Lee, N.-Y. Lee, C.-J. Wu, W.-C. Ko
*National Cheng Kung University Hospital, Taiwan

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 377-384


1999年から2005年に台湾南部の単一医療施設で、41例の患者からバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が分離された。これはEnterococcus属菌の臨床的保菌または感染を認める患者7,449例の0.55%に相当する。このうち9例(22%)はVREによる臨床的感染であった。VRE分離株のうち25株(61%)はVanA表現型およびvanA遺伝子クラスターを有するエンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)で、残りの16株(39%)はVanB表現型およびvanB(15株)またはvanA(1株)遺伝子クラスターを有するエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)であった。esp遺伝子クラスターはE. faecalis分離株6株(24%)およびE. faecium分離株14株(87.5%)に認められ、hyl遺伝子クラスターがE. faecalis分離株2株(8%)およびE. faecium分離株6株(37.5%)に認められた。パルスフィールド・ゲル電気泳動法によるSmaI切断DNAの解析では、E. faecalis分離株のほとんどが異なるクローンであったが、これはヒトからヒトへの伝播は限定的であること、または伝播が散発的であることを示している。一方、VanB表現型E. faecium分離株15株中10株(67%)は同一のクローンであり、これは病院内でクローンの潜在的および限定的な伝播が生じたことを示唆している。esp遺伝子またはhyl遺伝子の存在と、VREの病原性またはアウトブレイクとの関連はみられなかった。まとめとして、疫学的データおよび分子タイピングにより、外科ICUにおけるVanB表現型およびvanB遺伝子型を有するE. faeciumのクローンの潜在的な伝播、およびE. faecalisのヒトからヒトへの限定的な伝播または散発的な伝播が生じたことが示唆された。想定されるVRE伝播に対する感染制御対策が必要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
台湾におけるVREの分離頻度は低くない。2000年にはすでに院内分離菌の2%弱を占めており、単一施設からのデータではあるが2003年には6.1%という報告もあると本論文に述べられている。このような状況のもと、単一施設で分離されたVREを分子疫学的手法により院内伝播に関して検証している。予想されるとおり、VREの分離頻度がこれだけ高くなると、伝播が想定される事例とそうでない事例の双方がそれなりに見られた。伝播が想定されない事例は入院前から保菌者であったことが推定され、感染制御の困難さを感じさせる。日本はまだまだVRE分離頻度が低いので、台湾のような状況にならないよう、VREのサーベイランスとVRE保菌患者に対する厳重な接触予防策の必要性を感じる。

NHSダイレクトへの嘔吐の報告は病院におけるノロウイルスアウトブレイクの早期警告に利用できる

Vomiting calls to NHS Direct provide an early warning of norovirus outbreaks in hospitals

P. Loveridge*, D. Cooper, A.J. Elliot, J. Harris, J. Gray, S. Large, M. Regan, G.E. Smith, B. Lopman
*Health Protection Agency West Midlands, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 74, 385-393


ノロウイルスの活動は例年、冬季にピークを迎え、学校や病院などの施設に影響を及ぼす。ノロウイルスに対する従来の検査室情報およびアウトブレイクサーベイランスシステムは、報告が遅くなる場合が多いため、地域での活動を迅速に把握するサインとして用いるには不十分である。国民保健サービス(NHS)の電話サービスであるNHSダイレクト(NHS Direct)への報告を、公衆衛生上の目的で早期警告を発するために利用できる可能性がある。NHSダイレクトへの嘔吐の報告が、ノロウイルスの活動に対する信頼できる指標として利用できるかどうか、またその場合は報告数の増加が病院アウトブレイクの流行の前兆となるかどうかについて調査した。ノロウイルスの流行シーズンを規定するための参照標準として、検査室報告を用いた。2004年から2008年に、シーズン開始を予測する最良の指標を特定するため、NHSダイレクト報告データの4種類のデータ系列を健康保護局感染センター(Health Protection Agency Centre for Infections)が有する検査室データと比較した。4種類の系列データは以下のとおりである。(1)「非ロタウイルス性」胃腸炎と推定される報告の比率をモデル化し抽出、(2)5歳未満の小児の週別嘔吐報告数の平均比率、(3)全年齢の週別嘔吐報告数の平均比率、および(4)嘔吐報告データの増減の勾配。NHSダイレクトへの全年齢の嘔吐報告が2週連続して全報告の4%以上であった場合に警告を発し、最大4週先にノロウイルス流行が迫っているとの事前警告を医療施設に対し提供すべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
NHSダイレクトは、医療機関から自発的に症状のある患者を報告する症候群サーベイランスシステムである。これによる正確な感染症発生監視は困難であるが、流行の早期検知などには有用であると考えられており、本論文はNHSダイレクトのさらなる有効活用の方法を示唆するものである。

サイト内検索

Loading

アーカイブ

Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.