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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

カテーテル関連血流感染予防のための抗菌薬含有カテーテルロック溶液:無作為化対照試験のシステマティックレビュー

Antibiotic-based catheter lock solutions for prevention of catheter-related bloodstream infection: a systematic review of randomised controlled trials

M. Snaterse*, W. Ruger, W.J.M. Scholte op Reimer, C. Lucas
*University of Applied Sciences, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 1窶・1


カテーテル関連血流感染は高率な疾患原因となっている。本システマティックレビューでは、抗菌薬含有ロック溶液のカテーテル関連血流感染予防効果を評価する。また副次的な目的は、カテーテル関連血流感染の減少を図るうえで最も有効な抗菌薬含有ロック溶液を明らかにすることである。2009年4月までの該当する試験をMedlineおよびCochrane Libraryで検索した。論文に記載されたデータを用いて、カテーテル関連血流感染の全相対リスクを算出した。本解析には適宜、同様のアウトカムのデータをランダム効果モデルを用いて組み入れた。16報の試験を本レビューの対象とし、このうち9報は血液透析患者、6報は癌患者(主に小児)、1報は重症新生児を対象とした試験であった。血液透析患者では留置期間は平均146日(範囲37~365日)であり、ベースライン時のカテーテル関連血流感染発生の平均リスクが1,000カテーテル日あたり3.0件であったことから、1件のカテーテル関連血流感染を予防するためには3例に抗菌薬含有ロック溶液処置を行う必要があった。癌患者では留置期間は平均227日(範囲154~295日)、ベースライン時の平均リスクが1,000カテーテル日あたり1.7件であったことから、治療必要患者数(NNT)として、1件の血流感染を予防するためには8例に抗菌薬含有ロック溶液処置が必要であると算出された。血液透析患者のカテーテル関連血流感染予防については、抗菌薬含有ロック溶液のほうがヘパリンロック溶液と比較して有効であることが示された。癌患者を対象とした試験では、推定効果は抗菌薬含有ロック溶液のほうが良好であったが、その有益性の有意水準は境界域であった。今回のレビューは、抗菌薬含有カテーテルロック溶液のルーチンの使用は推奨されないという米国疾病対策センター(CDC)の見解を支持するものである。

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監訳者コメント
抗菌薬含有ロック療法は我が国ではまだコンセンサスが得られておらず、普及もしていない。耐性菌抑止の観点なども含めてさらなるエビデンスの創出が必要な領域である。

重症患者の敗血症の原因としての末梢動脈カテーテルの評価:記述的レビュー

Assessment of peripheral arterial catheters as a source of sepsis in the critically ill: a narrative review

J.R. Gowardman*, J. Lipman C.M. Rickard
*Royal Brisbane and Women’s Hospital, Australia

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 12窶・8


血管内留置器材は重症患者の管理に必須であるが、血管内留置器材関連敗血症は依然として重大な合併症である。動脈カテーテルは、重症患者において最も操作性に優れた血管内留置器材の1つである。血管内留置器材を留置中の患者に血流感染症(BSI)が疑われる場合、臨床医は動脈カテーテルにはほとんど注意を払わずに中心静脈カテーテル(CVC)に注意を向けていた。血管内留置器材関連敗血症またはカテーテル関連敗血症が疑われる場合は、CVCの培養をルーチンに行い必要に応じて交換するが、動脈カテーテルについては同様に扱われていない。その理由の一部として、研究対象となる患者集団が関連している可能性がある。留置期間が短く重症度の低い患者では動脈カテーテル関連敗血症の発生率は非常に低い。一方、重症度の高い患者では、動脈カテーテルは、留置期間の短いCVCと同程度以上に感染の原因となる可能性がこれまでの研究で示唆されていたが、その知見は臨床現場に十分に生かされてこなかった。動脈カテーテルに起因するBSIは米国だけで年間最大48,000件発生していると推定されており、これは臨床上重大な問題であることが示唆される。最近のエビデンスからは、保菌(これはBSIに先行する)およびBSIのいずれについても、動脈カテーテルの感染性は留置期間の短いCVCと同程度であることが示されており、これまでの研究を追認するものである。カテーテル関連BSIが疑われる重症患者では、動脈カテーテルとCVCの両方を評価する必要があることが示唆されている。

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監訳者コメント
CVCに加え、動脈カテーテル挿入に伴う感染予防の必要性を指摘している論文である。長期留置例での疫学情報が今後の検討課題であろう。

中心静脈カテーテル内腔面への沈着および細菌増殖★★

Deposits on the intraluminal surface and bacterial growth in central venous catheters

K. Nishikawa*, A. Takasu, K. Morita, H. Tsumori, T. Sakamoto
*National Defense Medical College, Japan

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 19窶・2


カテーテル関連感染の診断には、一般的に中心静脈カテーテル(CVC)先端部および血液の培養が用いられている。この方法では、CVC先端部以外の部位への細菌定着の有無を確認することができない。細菌定着の程度を評価するために、集中治療室入室患者からのカテーテル10本を精査した。CVCの複数部位(ハブ、留置部、および非留置部)の内腔から採取したスワブを培養し、走査型電子顕微鏡でカテーテル内腔面を観察した。カテーテル10本中5本(50%)から細菌が検出され、細菌汚染が多く認められたのはハブの部位であった。使用済みCVC内腔面に、細菌定着やバイオフィルムとは異なる沈着(結晶化)が観察された。走査型電子顕微鏡により、沈着部には強固に定着した細菌が確認された。送液システムを用いた実験から、沈着が生じる可能性は、完全静脈栄養液などへの曝露後のほうが蒸留水への曝露後よりも高いことが示された。このような沈着が認められたCVCへの定着細菌数は、沈着がないCVCの30倍であった。

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監訳者コメント
CVC感染におけるラインを走査型電子顕微鏡により調査した論文である。
具体的に画像で示されると説得力がある。

集中治療室内の抗菌薬耐性に対する病院全体の感染率、侵襲的手技の使用、および抗菌薬使用量の影響

Impact of hospital-wide infection rate, invasive procedures use and antimicrobial consumption on bacterial resistance inside an intensive care unit

T.S. Jacoby*, R.S. Kuchenbecker, R.P. dos Santos, L. Magedanz, P. Guzatto, L.B. Moreira
*Hospital de Clinicas de Porto Alegre, Brazil

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 23窶・7


病院全体の抗菌薬使用量、侵襲的手技の使用、および病院感染が集中治療室(ICU)内の抗菌薬耐性に及ぼす影響を明らかにするために、生態学的研究を30か月間にわたって実施した。研究期間を通して、病院感染症の確定診断を受けたICU患者由来の分離株を調査した。病院全体の100患者日あたりの抗菌薬使用量を1日規定用量(DDD)で表すと、ピペラシリン・タゾバクタムは1.9 DDDから2.3 DDDへ(P < 0.01)、フルオロキノロン系は4.7 DDDから10.3 DDDへ(P < 0.01)、セファロスポリン系は12.1 DDDから16.4 DDDへ(P < 0.01)増加した。ICU患者由来分離株の31.3%(466株)に多剤耐性が認められ、研究期間中にメロペネム耐性クレブシエラ(Klebsiella)属菌(P = 0.01)およびメロペネム耐性アシネトバクター(Acinetobacter)属菌(P = 0.02)が増加した。多剤耐性菌の割合とセファロスポリン系のDDD(P < 0.01)およびフルオロキノロン系のDDD(P = 0.03)との間に正の相関が認められた。セフタジジム耐性Klebsiella属菌の割合とフルオロキノロン系およびセファロスポリン系のDDDとの間、セフタジジム耐性シュードモナス(Pseudomonas)属菌の割合とセファロスポリン系の使用量との間、およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Pseudomonas aureus)(MRSA)の割合とフルオロキノロン系の使用量との間に相関が認められた。試験期間中のICU内の多剤耐性菌の割合の変動のうち、36.9%(P < 0.001)が侵襲的手技の使用、34.5%(P < 0.01)が病院感染の全発生率に関連していた。ICU内の多剤耐性菌の割合は、病院感染の全発生率の変動、病院全体(ICUを除く)の侵襲的手技の使用、および抗菌薬使用量に影響されることが示された。

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監訳者コメント
重症感染症を治療する専門病院において、WHOによる1日規定用量(DDD)を尺度として用いることが適切かどうかの議論は絶えずある。我が国においても同様の手法で多剤耐性緑膿菌とカルバペネム系抗菌薬との関係をもっと明らかにしていくべきである。

抗菌薬耐性グラム陰性菌の出現に対する全病院的な不均一な抗菌薬使用プログラムの影響

Impact of a hospital-wide programme of heterogeneous antibiotic use on the development of antibiotic-resistant Gram-negative bacteria

Y. Takesue*, K. Nakajima, K. Ichiki, M. Ishihara, Y. Wada, Y. Takahashi, T. Tsuchida, H. Ikeuchi
*Hyogo College of Medicine, Japan

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 28窶・2


抗菌薬耐性の出現を制御するための戦略として系統の異なる抗菌薬の使用が提案されているが、この考え方を検証するために実施された臨床試験はほとんどない。本論文では、耐性グラム陰性桿菌による感染症の減少を目的とした、全病院的な異系統の抗菌薬使用戦略を評価した。2006年9月から2008年2月にかけて、「定期的な抗菌薬のモニタリングと管理(periodic antimicrobial monitoring and supervision;PAMS)」と称する戦略を実施した。18か月の介入期間(6か月ごとに第1期~第3期)を、介入前の18か月(感染制御部設立前の12か月と準備期間6か月)と比較した。PAMS実施中は3か月ごとに、先行する期の抗各菌薬の相対的使用量およびこれらの抗菌薬に対する緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の耐性率に基づいて、より強力な耐性を有するグラム陰性桿菌に有効な抗菌薬の分類(推奨する薬剤、制限する薬剤、および管理外の薬剤)を修正した。抗菌薬を5系統に分類し、4名の専任職員がその使用を管理した。異系統の抗菌薬の使用の程度(抗菌薬使用のばらつき)を推計するために、Peterson指数(AHI)を使用した。AHI推計値は、感染制御部設立前0.66および準備期間0.74であったが、PAMS導入後は上昇した(第1期0.84、第2期0.94、第3期0.88)。耐性グラム陰性桿菌の検出率は有意に低下し(P < 0.001)、多剤耐性グラム陰性桿菌の検出率も1.7%から0.5%に低下した(P < 0.001)。基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌発生率には有意差は認められなかった。PAMS第2期には緑膿菌のイミペネム耐性率が改善した。PAMSの実施により、病院全体で不均一な抗菌薬の使用が進み、これに伴い耐性グラム陰性桿菌発生率が低下した。

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監訳者コメント
耐性菌を生みにくくする可能性のある投与方法がいくつか考案されてきた。選択圧を高めないために、ランダムな抗菌薬療法を試みる動きもあり今後注目される。

大学病院の内科および外科の可動式透析ユニットにみられた基質拡張型β-ラクタマーゼ産生エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae):症例対照研究

Extended-spectrum β-lactamase-producing Enterobacter cloacae in mobile dialysis units in the medical and surgical departments of a university hospital: a case窶田ontrol study

E.-B. Kruse*, A. Conrad, S. Wenzler-Rottele, D. Jonas, M. Dettenkofer, M. Wolkewitz, E. Meyer, A. Serr
*Beratungszentrum fur Hygiene, Germany

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 33窶・6


今回の症例対照研究の目的は、フライブルク大学医療センターにおける基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)アウトブレイク時の汚染源と、保菌・感染のリスク因子の調査である。ESBL産生E. cloacaeの保菌・感染がみられる内科および外科の患者23例を、病棟と入院期間をマッチさせた非保菌対照患者46例と比較し、リスク因子解析を行った。ESBL産生菌の感染源の疑いのある箇所を調査するとともに、職員に対して感染制御対策の研修を実施した。患者の保菌リスク上昇には可動式ユニットによる透析が寄与していた(オッズ比[OR]4.00、95%信頼区間[CI]1.05~15.234、P = 0.04)。透析ユニットを調べたが、汚染は認められなかった。透析の手技を改善し、職員の研修を追加実施し、新規に標準予防策の研修を行ったところ、症例数が大幅に減少した。リスク因子解析では、保菌患者群は対照群と比較して侵襲性器材の使用率が高く(中心静脈カテーテル:OR 2.50、95%CI 0.74~8.45、P = 0.14;フォーリーカテーテル:OR 5.08、95%CI 0.61~42.23、P = 0.13)、投与された抗菌薬の種類が多かった(ペニシリン系:OR 2.52、95%CI 0.71~8.89、P = 0.15;フルオロキノロン系:OR 2.37、95%CI 0.77~7.28、P = 0.13)。可動式ユニットによる透析の実施率および使用抗菌薬の種類数は、保菌患者群と対照群との間に大きな相違がみられたが、後者は統計学的有意差には到達しなかった。感染制御対策を強化し、業務に携わる職員の研修を行うことによって、高いESBL産生菌保菌・感染率を制御することができた。

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監訳者コメント
可動式ユニットが感染源として疑われ、調査したが疫学的解析結果は有意差を示さなかったという結果である。接触予防策の感染源として、日本では多剤耐性緑膿菌の感染源には尿路カテーテルが関係している場合が指摘されている。今後もESBL関連菌の伝播経路の調査・分析が必要であろう。

病院アウトブレイク時のアシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)分離株の疫学的分析のための全ゲノム高性能シークエンス法

High-throughput whole-genome sequencing to dissect the epidemiology of Acinetobacter baumannii isolates from a hospital outbreak

T. Lewis*, N.J. Loman, L. Bingle, P. Jumaa, G.M. Weinstock, D. Mortiboy, M.J. Pallen
*University Hospitals Birmingham NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 37窶・1


軍人と民間人の患者を同一施設内でケアすることにより、軍人負傷者から民間人への多剤耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)の伝播が生じる。現在の分子タイピング技術は、A. baumannii分離株間の関連性を示すのに有用であるが、小規模なアウトブレイク時の近縁分離株間の相違を解析できないため、伝播の連鎖が不明となることが多い。最近、バーミンガムで発生した病院アウトブレイクでは、6例の患者に標準的手法では識別不能な多剤耐性A. baumannii分離株の保菌がみられた。全ゲノムシークエンス法を用いてこれらの分離株の一塩基多型を判定することによって、本アウトブレイクの伝播に関する複数の疫学的仮説を検証することができた。

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監訳者コメント
Single nucleotide polymorphisms(SNPs)により識別解析を行った論文である。シークエンサーは気軽に使用できる器材ではないので、ハードウエア的な利便性が課題だろう。

ノロウイルス感染高齢者におけるノロウイルスの排出期間およびウイルス量の経時変化★★

Duration of norovirus excretion and the longitudinal course of viral load in norovirus-infected elderly patients

Y. Aoki*, A. Suto, K. Mizuta, T. Ahiko, K. Osaka, Y. Matsuzaki
*Yamagata Prefectural Institute of Public Health, Japan

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 42窶・6


高齢者ケア施設など半閉鎖的環境におけるノロウイルスの伝播を防止するためには、ノロウイルス感染者が感染性を有している期間を知ることが重要である。この研究では、ノロウイルス胃腸炎に罹患した60~98歳の高齢患者13例(高齢者ケア施設入所者11例、健常成人2例)を対象として、追跡して採取した合計63の糞便検体中のノロウイルスのウイルス量をリアルタイム定量PCR法で測定した。ノロウイルス排出期間の平均値は14.3日(範囲9~32日、中央値13日)であった。症状発現から7~10日後に採取した検体はすべて陽性であった。症状発現から14~18日後に採取した検体中のウイルス量を、陰性、糞便gあたり104コピー未満、糞便gあたり104コピー超の3群に分類した。104コピー/糞便g未満群は症状発現から21~24日後までにノロウイルス陰性となったが、104コピー/糞便g超群ではノロウイルス排出が長期化していた(最長32日)。排出されたウイルスが感染性を有している期間はまだ明確にされていないが、上記の結果から症状発現から少なくとも14日間は細心の注意を払うべきであり、症状発現から約16日後に糞便中のウイルス量を測定することは、ノロウイルス感染者のウイルス排出の経過を追跡する有効な方法であることが示唆された。

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監訳者コメント
HICPACガイドライン(隔離予防策[2007年]、多剤耐性菌管理[2006年])でも隔離を解除する基準が取り上げられているが、詳細に検討するとエビデンスが薄弱であったり、臨床の現場で実践するのが難しい内容であったりする。ノロイウルスについては“罹病期間に接触感染予防策が必要である”と記載されているが、この論文に示されているように下痢症状が消失してもウイルスは排出され続けており、実際的には高齢者や小児を中心に最長2週間ぐらい隔離延長を検討する必要がある。感染管理担当者は、病原体が他の入院患者へ水平伝播する潜在的リスクを検討して、感染制御リスクアセスメント(ICRA;infection control risk assessment)に基づく方針を施設ごとに確立しなければならない。ガイドラインは科学的根拠に基づいて作成されるが、現場で使えるマニュアルに落とし込むにはサーベイランスを含む感染制御リスクアセスメントが必須の過程であることを強調しておきたい。
ちなみに自治医科大学附属病院では、急性下痢症の場合、症状が消失してから1週間をめどに接触感染予防策を継続している。

中国の医学生における血液媒介感染予防のための教育的介入

Educational intervention for preventing bloodborne infection among medical students in China

Z. Zhang*, T. Yamamoto, X.N. Wu, K. Moji, G.X. Cai, C. Kuroiwa
*Nagasaki University, Japan

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 47窶・1


医学生に血液媒介感染リスクがあることは周知であるが、これまで中国には系統的な研究や有効な介入プログラム、血液媒介感染予防に関するガイドラインはなかった。著者らは予防ガイドラインを作成して、介入を実施するとともに、医学生における知識の有効性を評価した。この研究のデザインはクラスター無作為化対照試験である。同意文書を提出したすべての医学生を介入群あるいは対照群のいずれかに無作為に割り付けた。介入群では、ベースライン調査の後に、講義とビデオによる一連の教育的介入プログラムを実施した。対照群には研究が終了した後に同一の介入プログラムを実施した。最初の介入プログラムを実施してから3か月後および9か月後に25項目からなる質問票を参加者に送付した。アウトカムとして伝播経路、応急処置および曝露後予防に関する知識を介入の前後に評価した。バイアス補正の上でPearson χ2検定により医学生への効果を分析した。血液由来病原体に関する教育的な予防プログラムを1回で実施するという介入は、中国の医学生における知識に及ぼす効果がほとんど認められなかった。

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監訳者コメント
いくら教材に工夫しても座学だけで知識を定着させることは難しい。医学教育の領域では、“See one, do one, teach one(見て覚えて、実践して習得し、教えてさらに理解を深める)”というフレーズが頻用される。やはり実践を伴わなければ知識の定着から成人の行動変容へと至ることは難しい。
ちなみに、最近では“See one, do one, teach one”というのでは不十分であるとされており、“See one, stimulate many, do one completely, and teach everyone(見て覚え、シミュレーションを数多く繰り返し、医療行為は確実にできて、そしてみんなに教える)”というようである。

スペインの医療従事者に対するQuantiFERONR-TB Gold検査とツベルクリン皮内反応検査のコストの比較

Costs of QuantiFERONR-TB Gold versus tuberculin skin test in Spanish healthcare workers

R. Linertova*, E.E. Alvarez-Leon, L. Garcia-Perez, P. Serrano-Aguilar
*Canary Islands Foundation for Health and Research (FUNCIS), Spain

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 52窶・5


スペインの医療従事者134名における潜在性結核感染症のスクリーングを実施した際に、ツベルクリン皮内反応検査のコストをQuantiFERONR-TB Gold(QFT-G)検査と比較した。QFT-G検査のコストは医療従事者1名あたり42.5ユーロ、ツベルクリン皮内反応検査は39.5ユーロであった。コストの内訳は検査方法によって異なり、ツベルクリン皮内反応検査において最もコストを要した項目(70%)は参加者が検査に費やした時間であったが、QFT-G検査では消耗品がより高額であった(総コストの50%)。したがって、この結果は参加者の時間給と検査に費やした時間に依存した。スペインの医療システムにおいては、QFT-Gの社会的なコストはツベルクリン皮内反応検査と同等であったが、それらのコストの内訳には大きな相違があった。

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監訳者コメント
クォンティフェロン検査(QuantiFERON;QFT)では、結核菌群(Mycobacterium tuberculosis complex)に比較的特異的な蛋白質であるESAT-6とCFP-10により末梢血リンパ球を刺激して、産生されるインターフェロン-γ(IFN-γ)量を測定することから結核感染の有無を判定する。ツベルクリン皮内反応検査がBCG接種の既往歴に影響されるが、QFTでは交差反応は認められず、判定者の主観による結果の不一致も避けることができる。ただし、QFTでもM. kansasiiなどの一部の非結核抗酸菌に反応することが知られており、注意する必要がある。なお、QFTはわが国で最も多い非結核抗酸菌症である M. avium-intracellulare complex(MAC)とは交差しない。
この論文にもあるように、ツベルクリン皮内反応検査では複数回の受診が必要であるのに対して、クォンティフェロン検査は1回の採血で判定できる点も大きなメリットである。

表面消毒薬の有効成分の吸収は表面処理に用いる繊維の種類に依存する

Adsorption of active ingredients of surface disinfectants depends on the type of fabric used for surface treatment

R. Blos*, S. Meyer, G. Kampf
*Bode Chemie GmbH, Germany

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 56窶・1


入院患者を取り巻く直近の環境における表面消毒は、院内感染予防の重要な要素であると考えられる。しかし、著者らが知る限り、これまでモップの繊維の種類が表面消毒の効果に影響するとはされていない。そこで、この研究では4種類の異なる繊維(A:白色パルプ + ポリエステル、B:ビスコースレーヨン、C:ポリエステル、D:ビスコース・セルロース・ポリエステルの混合)を対象として、実際に使用されている3種類の表面消毒薬からの、塩化ベンザルコニウム、グルタルジアルデヒド、およびプロパン-1-オールの吸収を検討した。各繊維を各消毒薬の使用濃度の溶液に最長24時間にわたり曝露した。曝露の前後に繊維片を採取して、標準化した方法で絞った。絞り液を用いて、それぞれの有効成分の濃度測定を4回ずつ繰り返した。グルタルジアルデヒドおよび塩化ベンザルコニウムは高速液体クロマトグラフィーを用いて分析して、プロパン-1-オールの分析にはガスクロマトグラフィー法を用いた。塩化ベンザルコニウムでは白色パルプ繊維片への吸収が多く(最大値は30分後で61%)、次いでビスコースレーヨン繊維片(最大値は30分後で70%)、混合繊維片(最大値は7時間後で54%)であった。塩化ベンザルコニウム吸収量はポリエステル繊維片で最も少なく、最大値は15分後で17%であった。ポリエステル繊維片の場合のみで塩化ベンザルコニウム濃度が計算値に近かった。グルタルジアルデヒドおよびプロパン-1-オールはいずれの繊維にも吸収されなかった。効果的な表面消毒には、適切な繊維を選択することも必要である。

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監訳者コメント
モップの繊維と環境消毒薬の相性という視点は面白い。

新しい実験データに基づく再利用可能屎尿容器の熱消毒に関する現行の推奨A0値の再評価

Re-evaluation of current A0 value recommendations for thermal disinfection of reusable human waste containers based on new experimental data

M. Diab-Elschahawi*, U. Furnkranz, A. Blacky, N. Bachhofner, W. Koller
*Medical University of Vienna, Austria

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 62窶・5


再利用可能な医療器具の正しい洗浄および消毒に関する問題は、現場の感染制御チームにとって非常に大きな懸案事項である。この研究では、院内感染に関係する2種類の重要な微生物、腸球菌属(Enterococcus spp.)および枯草菌(Bacillus subtilis)(クロストリジウム・ディフィシル[Clostridium difficile]の代替)芽胞の耐熱性を検討した。A0コンセプト(EN ISO 15883-1)に基づいた湿熱消毒は、病院環境での屎尿容器の消毒法として最も一般的な方法である。この研究の目的は、上記の微生物の不活化に関するA0コンセプトを詳細に検討して、その障害となり得るものを探索することである。実験はリン酸緩衝生理食塩液、人工的汚染懸濁液、および人工的乾燥汚染を使用した。人工的汚染は便器の不十分な洗浄状態をシミュレートするために用いた。微生物を異なる温度と時間で処理した。その結果、汚染は熱から微生物を保護し、乾燥汚染ではおそらく断熱作用によりこの効果が高くなることが示された。今回の研究結果は、便器の消毒にA0値60を用いる一般的推奨を支持するものではないが、予想される微生物負荷量に応じて戦略を変更することの根拠となる。著者らは栄養型細菌に対する消毒手順としてA0値180以上を推奨する。また、熱処理による消毒の前に、汚染した屎尿容器を完全に洗浄することの重要性が明確に示されたことから、汚染便器を長時間にわたって放置して乾燥させてしまわないことが特に重要であることを強調したい。

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監訳者コメント
A0値とは熱水消毒のレベルを評価するための国際基準であり、A0値60は70℃ 10分間あるいは80℃ 1分間、A0値600は80℃ 10分間に相当する。適切な医療器具の洗浄・消毒のために、汚染を長時間にわたって放置しない、洗浄で汚染を除去してから消毒する、というのは基本中の基本である。

洗浄消毒器サイクルのシミュレーションによるステンレス製手術器具からの組織蛋白およびプリオンアミロイドの汚染除去を評価するための蛍光二重染色法の適用

Application of a fluorescent dual stain to assess decontamination of tissue protein and prion amyloid from surgical stainless steel during simulated washer-disinfector cycles

R.P. Howlin*, N. Khammo, T. Secker, G. McDonnell, C.W. Keevil
*University of Southampton, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 66窶・1


医原性クロイツフェルト・ヤコブ病を想定した手術器具の再処理に関する世界保健機関(WHO)の現行のガイドラインは多くの器材に適用できない。そのため様々な汚染除去法が新たに登場してきた。しかし、これらの新しい手法を適用しなくても、外科手術を介した医原性クロイツフェルト・ヤコブ病の発生が確認されることは少ない。この研究では、スクレイピーME7株感染マウスの脳ホモジネートによって汚染した外科手術グレードのステンレス製ワイヤーを用いて、ウォッシャー・ディスインフェクター(熱水洗浄器)のサイクルをシミュレーションして、滅菌サービス部門における現行の汚染除去手順を評価した。汚染乾燥時間の変化およびプリオン除去の前処理サイクルの選択による結果を評価した。高感度の蛍光染色法により総蛋白およびプリオン関連アミロイドレベルを判定して、各サイクル段階での残存汚染を評価した。その結果、前処理段階で酵素洗剤または固化防止予浸液のいずれを使用するかにかかわらず、汚染した後に直ちに再処理することが有効であった。サイクル終了時の最終総蛋白量は、汚染を乾燥させた場合にも有意な相違はみられなかった。また、酵素洗剤あるいは固化防止予浸液を用いた前処理を含むサイクルにより、乾燥の有無にかかわらず、検出可能なプリオンアミロイドは完全に除去された。この試験の結果から、現行の汚染除去法に加えて手術器具を直ちに処理することだけでも、クロイツフェルト・ヤコブ病の外科的伝播リスクを減少させる上で極めて有効である可能性が示唆される。

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監訳者コメント
クロイツフェルト・ヤコブ病などの原因とされるプリオンは、通常の消毒および滅菌では感染力を完全に除去することはできないと考えられているが、一方、証明された医原性のプリオン感染症はごくごくわずかであり、少なくとも発症前の患者から医療処置を介してプリオンが伝播した事例は確認されていない。なお、プリオン汚染器材の処理について、わが国のガイドラインでは、(1)アルカリ洗剤ウォッシャー・ディスインフェクター洗浄(90~93℃)+ 真空脱気プレバキューム式高圧蒸気滅菌134℃ 8~10分間、(2)適切な洗浄 + 真空脱気プレバキューム式高圧蒸気滅菌134℃ 18分間、(3)アルカリ洗剤ウォッシャー・ディスインフェクター洗浄(90~93℃)+ 過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌2サイクル(NXタイプでは1サイクル)などを挙げている。
適切な医療器具の洗浄・消毒のためには、汚染を長時間にわたって放置しない、適切な前処置により汚染を除去してから消毒する、というのは基本中の基本である。

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