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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

産科におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)スクリーニング:総説

Meticillin-resistant Staphylococcus aureus screening in obstetrics: a review

J. Gray*, S.C. Patwardhan, W. Martin
*Birmingham Women’s Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 89-92


イングランドでは、入院した成人を対象としたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の普遍的スクリーニングが導入されつつある。現在は、通常の産科患者はスクリーニングが免除されているが、「高リスク」例および待機的帝王切開術を受ける女性はスクリーニングプログラムの対象とする必要がある。産科のMRSAに関する最新データの多くは米国からのものであるが、普遍的スクリーニングまたは対象を絞ったスクリーニングのいずれかが母や子にとって有益であるとするエビデンスはほとんど示されていない。しかし、米国では市中獲得型MRSA株が多く、MRSAの疫学は英国とは異なる。本論文では、妊娠にかかわるMRSAスクリーニングの現時点の知見をレビューするとともに、現在の診療と今後の研究への提言を行う。

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監訳者コメント
産科患者に対するMRSA保菌のスクリーニングに関する総説。この領域におけるスクリーニングの有用性を検討した研究は決して多くない。そもそも、MRSAの普遍的スクリーニングの費用対効果面からの有用性は、国によって、地域によって、患者集団によって異なるので、明確に示すのは困難である。その他の入院患者と同様に、産科患者に対するMRSAのスクリーニングの是非については今後も議論が続くことだろう。

通常診療におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の標準的除菌プロトコールの効果

Efficacy of a standard meticillin-resistant Staphylococcus aureus decolonisation protocol in routine clinical practice

D.F. Gilpin*, S. Small, S. Bakkshi, M.P. Kearney, C. Cardwell, M.M. Tunney
*Queen’s University Belfast, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 93-98


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)保菌者の除菌により、MRSA感染症の発症リスクが低下し、他の患者への伝播が予防できると考えられる。今回の前向きコホート研究の目的は、標準的な除菌レジメンの長期効果を明らかにするとともに、除菌の不成功に関連する因子を特定することである。MRSA保菌患者に除菌を実施し、スクリーニングとして治療後に週1回、特定の部位からスワブを採取して、3回連続で増殖が認められない場合を除菌の成功と見なした。除菌が成功した患者に対しては、追跡培養検査を6か月後と12か月後に実施した。登録患者137例中79例(58%)で除菌が成功した。この79例中53例(67%)は6か月後、44例(56%)は12か月後に除菌が維持されていた。したがって、12か月後にもMRSA陰性であったのは、除菌を完了した137例中44例(32%)のみであった。これらの成績が特定のMRSA株に関連することはなかった。除菌成功率が低かったのは、ムピロシン耐性菌株保菌患者(補正オッズ比[OR]0.08、95%信頼区間[CI]0.02~0.30)、咽頭に保菌を認める患者(補正OR 0.22、95%CI 0.07~0.68)、および60歳から80歳の患者と比較した80歳を超える患者(補正OR 0.30、95%CI 0.10~0.93)であった。これらの知見から、今回使用したプロトコールにより除菌に成功する例はみられるものの、長期的には半数以上の患者でMRSA除菌を達成できないことが示唆された。

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監訳者コメント
MRSA保菌者のスクリーニングに関しては様々な研究や意見が出されているが、除菌の効果については知見が少ない。本論文は除菌後の追跡調査を行うことにより、除菌不成功の高リスク患者を同定し、除菌を効率よく実施するための一助となる可能性がある。

救急部におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の入院時スクリーニングが入院期間に及ぼす影響

Impact of admission screening for meticillin-resistant Staphylococcus aureus on the length of stay in an emergency department

P. Gilligan*, M. Quirke, S. Winder, H. Humphreys
*Beaumont Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 99-102


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の予防と制御には、早期検出・隔離などの対策が必要である。救急部ではこのような対策と、患者を緊急に治療し急性期病床に速やかに移動するための必要条件とを両立させなければならない。本研究は多忙で過密状態の救急部を対象として、患者がMRSAリスク群であると判定されていたこと、およびMRSA陽性であることが当院で以前に判明していた患者を対象とした再スクリーニングが、患者の入院期間に及ぼす影響を評価した。以前にMRSA保菌の診断を受けていた患者を救急部への到着時に自動的に「リスク群」に分類し、当院でMRSA感染・保菌が認められていなかった「非リスク群」と比較した。18か月の研究期間に16,456例が救急部を経由して入院し、このうち985例(6%)がリスク群であった。病棟への入院要請を行ってから病棟に移動するまでの推定時間中央値は、非リスク群10.4時間、リスク群12.9時間であった。女性であること、年齢65歳超、およびリスク群であることは、入院要請後にも救急部に滞在していた時間が統計学的に有意に長いことの独立予測因子であった。救急部や入院患者のための隔離設備が十分にない状況において、国や地方のMRSA施策は救急部の患者の利益と最善の診療を実施するための必要条件とを両立させる必要があると考える。緊急入院が必要なMRSA感染・保菌患者にはベッドの確保が必須である。

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監訳者コメント
MRSA保菌・感染患者への隔離を含めた感染対策と、迅速かつ適切な救急医療との両立は難しいという課題を突きつけた論文である。MRSA患者がそうでない患者よりも病棟への移動が2.5時間程度遅延しているという解析結果であるが、その間も救急部で必要な医療は施される。全体の6%の患者におけるこの程度の遅延が医療全体にどのような影響を与えるかについて、さらなる検討が必要であると考える。

急性期病院におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の入院時スクリーニングに使用した分子的検出法の迅速性

Speed of molecular detection techniques for meticillin-resistant Staphylococcus aureus admission screening in an acute care hospital

K. Flore*, A.-M. Van den Abeele, G. Verschraegen
*AZ Sint Lucas Ghent, Belgium

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 103-106


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)保菌者の積極的監視は、急性期病院におけるMRSA制御対策に不可欠な要素と考えられている。近年、MRSAスクリーニングに対してサンプル処理時間が大幅に短縮される分子アッセイが利用可能となっている。時間分析モデルを用いて分子アッセイ導入後の時間節約を調査し、従来の培養技術による時間を対照として比較した。4か月の試験期間中、高リスク患者(44例)およびMRSA陽性が判明している再入院患者(41例)すべてを対象として、入院時のMRSAスクリーニングを実施した。両群ともに、全処理過程の中で検査までの時間(入院から、検体採取または検体の臨床検査室への搬送までに要した時間)が長いことが律速要因になっていた。分子アッセイを使用すると、従来の培養法と比較してサンプル処理時間が大幅に短縮した。検査までの時間が長いことに加えてPCR法が高価であっため、分子アッセイは入院時のスクリーニングに導入されなかった。しかし、再入院患者群のスクリーニングでは、検査結果が早期に判明したことによって不要な隔離日数が大幅に減少し、結果的に病院に経済的利益をもたらした。PCR法は再入院時のスクリーニングには有益である可能性がある。結論として、高価なPCR法を導入する前に、病院のMRSAスクリーニングに関する施策を検討すべきである。

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監訳者コメント
本論文はベルギーの医療施設で実施されたMRSAスクリーニングの検査法に関する研究である。MRSA陽性患者だけでなく疑いの濃い症例に対して隔離予防策を実施する状況では、高価なPCR法によるスクリーニングがMRSA陰性患者の早期隔離解除につながり、費用対効果的に優れている可能性がある。しかしそのような指針を取っている日本の医療施設は多くないと思われ、本法は費用対効果的に優れているとはいえない可能性が高い。本法は迅速に結果を得ることができるが、その普及にはまだまだ様々な問題をクリアする必要があるだろう。

医療従事者の手指がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)陽性となるのはいつか?★★

When are the hands of healthcare workers positive for meticillin-resistant Staphylococcus aureus?

E. Creamer*, S. Dorrian, A. Dolan, O. Sherlock, D. Fitzgerald-Hughes, T. Thomas, J. Walsh, A. Shore , D. Sullivan, P. Kinnevey, A.S. Rossney, R. Cunney, D. Coleman, H. Humphreys
*Royal College of Surgeons in Ireland, Ireland

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 107-111


手指衛生は、感染の減少を図る上で重要な要素である。医療従事者の手指のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)保菌率に関する報告はほとんどない。本研究の目的は、病院臨床環境で医療従事者の指先がMRSAで汚染されているかどうかを明らかにすることである。本研究は、MRSAの疫学に関する大規模な調査研究の対象である3次急性期高次病院の4つのMRSA病棟、およびこの調査研究の対象ではない同病院の他の4病棟で実施した。全職域の医療従事者523名の指先をMRSA色素寒天培地に圧着させ、822件のサンプルを採取した。手指消毒薬を使用した場合は、その種類および医療従事者の直前の行動を記録した。全体で、523名の医療従事者から得た指先のサンプル822件中38件(5%)がMRSA陽性であり、内訳は診療後194件中12件(6%)、患者環境との接触後138件中10件(7%)、および特定の接触がない場合346件中15件(4%)であった。MRSAが検出されたのは、擦式アルコール製剤使用後61件中2件(3%)、4%クロルヘキシジン洗浄剤使用後35件中2件(6%)、石けんと水による手指消毒後210件中7件(3%)、および手指消毒を行わなかった場合は493件中27件(5%)であった。MRSAは8病棟中7病棟の医療従事者から検出された。指先のMRSA検出率は、4つのMRSA調査研究非対象病棟のほうが4つの調査研究対象病棟よりも高かった(それぞれ250件中18件[7%]、201件中3件[1%]、P ≦ 0.004)。手指消毒後も含めても、医療従事者の指先からMRSAが分離されたことから、手指消毒の質の向上を図りMRSA伝播を予防するためには、教育プログラムの強化が必要であることが示唆される。

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監訳者コメント
非常に興味深いデータである。まず、医療従事者の手指がこれだけMRSAに汚染されているというデータがあれば、医療従事者はそれを知らされただけでも手指衛生の遵守率が向上するであろう。医療従事者に対して手指衛生の必要性・重要性を説く上でこのうえなく説得力のあるデータである。さらに、手指衛生後の手指もMRSAに汚染されている場合が少なからずみられたが、これは、手指衛生の正しい方法に関する教育とその徹底に関する意識づけが必須であることを示している。調査のためのマンパワーと調査費用さえあれば、すべての医療施設でこのようなデータを収集することが望ましい。

持続的効果のある新規製剤を用いた病院環境における細菌による表面汚染の減少

Reduction of bacterial surface contamination in the hospital environment by application of a new product with persistent effect

G. Hedin*, J. Rynback, B. Lore
*Falun Hospital, Sweden

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 112-115


病院で表面消毒をルーチンに実施することの有益性については議論が続いている。本研究では新規製剤AppeartexRの評価を行った。本製剤の活性分子は正電荷を有するため、表面への使用後に残留効果が得られる。Appeartex使用から1日後の持続的効果を、検査室内の実験的研究および病棟での実地研究で検討した。ベッドサイドテーブルの表面を調査対象とした。実験的研究では、Appeartexで処理した、または未処理の表面の規定面積上に、106 cfu以上の大量の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)または腸球菌を接種した。1時間後、スワブリンス法でサンプルを採取した。Appeartexによる生菌数減少効果は10~103 cfuであった。実地研究では、自然環境下の低レベルでの汚染に対する効果を検討した。患者が使用したベッドサイドテーブルの一定の範囲をAppeartexで処理するか、未処理とした。1日後、接触平板培地でサンプルを採取したほか、フロック加工したナイロン製スワブを2段階で連続的に用いる新規スワブ法によるサンプル採取を行った。Appeartexで処理した表面の細菌数は、無処理の表面と比較して有意に少なかった。Appeartexで処理した表面の細菌数中央値は10 cfu/50 cm2、未処理の表面では20 cfu/50 cm2であった。接触培地法で採取したサンプルの培養で検出された細菌数は、フロック加工したナイロン製スワブを用いる方法で採取したサンプルと比較して有意な差は認められなかった。

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監訳者コメント
患者の療養環境の消毒は近年、MRSAやC. difficileの対策として見直されつつある。本論文のような消毒薬を用いる方法や、気体を部屋全体に充満させる方法などが提唱されている。いずれも一定の効果は認められるが、最大の問題はコストである。本論文で紹介されている消毒薬も、一定の効果、特に残留活性については良好な結果が得られている。しかしながら、他の方法とその費用や効果について比較されておらず、すでにある方法を凌駕する位置づけにあるかどうかを検証する、さらなる研究が必要であろう。

「肘から下を露出する」服装規定が地域総合病院の勤務医92名の手指汚染に及ぼす影響

Effects of ‘bare below the elbows’ policy on hand contamination of 92 hospital doctors in a district general hospital

C.A. Willis-Owen*, P. Subramanian, P. Kumari, D. Houlihan-Burne
*Hillingdon Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 116窶・19


院内感染発生率の低下を図るために、英国保健省はエビデンスがないにもかかわらず、「肘から下を露出する(bare below the elbows)」服装規定を導入した。本研究では、この服装と手指汚染との関連を調査した。地域総合病院に勤務する医師を対象として、前向き観察研究を実施した。左右の指先を培地に圧着させて培養し、そのコロニー形成単位および臨床的に重要な病原菌や多剤耐性菌の存在を評価した。これらの所見と、服装、職階、性別、および診療科との関連を調べた。医師92名中49名が「肘から下を露出する」服装規定に対して意義を唱えており、43名が唱えていなかった。コロニー形成単位数および臨床的に重要な細菌の有無のいずれも、「肘から下を露出する」服装規定不満群と非不満群との間に統計学的有意差は認められなかった。医師の手指の培養から多剤耐性菌は認められなかった。「肘から下を露出する」服装は、医師の指先の汚染の程度または臨床的に重要な病原菌の有無に関連していなかった。医師の服装や患者教育キャンペーンに投資する価値があるかどうかを判定するには、さらなる研究が必要である。

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監訳者コメント
この研究は、結論が先にありき(ネガティブキャンペーンを目的とした報告)でデザインされており、汚染を調べているのは指先のみであることに注目すべきである。つまり、実際の医療行為で生ずる接触伝播についてのすべての可能性に言及していない。よって、この研究を根拠に、肘から下をフリーにするというメッセージが否定されたわけではない。
しかしながら、このように合理的ではあるもののエビデンスが明らかでないことについては、医療従事者の良識としてキャンペーンすればすむ問題であるのに、法的拘束力のある保健省の通知通達として出したのは、医療政策としていかがなものであろうか?
これを他山の石として、我々が院内でさまざまな施策を出すときには、注意したいものである。

「Search and destroy」によりアイルランドの病院の院内感染メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)が減少するか?★★

Can ‘search and destroy’ reduce nosocomial meticillin-resistant Staphylococcus aureus in an Irish hospital?

A. Higgins*, M. Lynch, G. Gethin
*Mater Private Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 120窶・23


アイルランドの保健児童省(Department of Health and Children)は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)高リスク患者に対する入院時スクリーニング、これらの患者のMRSA陰性確定までの隔離、および同定されたすべてのMRSAの根絶を推奨している。これらの対策は、スカンジナビアでMRSAの減少に成功している「search and destroy」と呼ばれるプログラムの基盤となっている。しかし、アイルランドではsearch and destroyの実施に関して公表されている情報はほとんどない。本研究は、定量的な準実験的デザインを用いた介入コホート研究として実施した。一病院を対象として、確立しているMRSA入院時スクリーニングプログラムを用いて、MRSAスクリーニング検査結果が出るまでの所要時間の短縮(2007年)および暫定的隔離の導入(2008年)への効果を評価した。介入後にMRSA感染・保菌率を調査し、介入前(2005~2006年)のベースライン値と比較した。病院感染(院内感染)MRSA感染・保菌率は、2007年および2008年のいずれも低下していた。しかし、本研究は準実験的デザインを採用していること、およびこの病院のMRSA流行レベルが低いことから、その因果関係を示すことはできなかった。

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監訳者コメント
Search & Destroy (S&D) policyは、オランダ、スカンジナビア半島の北欧諸国で成功を収めている対策であるが、徹底したMRSAの捜索と除菌によりMRSAの総数を減らそうという考え方である。これを実施するには莫大な費用と手間がかかるので、米国や日本のようにすでに蔓延してしまっている国ではとてもまかない切れない。しかしながら、高リスクな患者に絞ってスクリーニングを行い、それ以外の保菌者については手指衛生と標準予防策で伝播リスクを最小化しようという考え方は、従来のrisk assessment(RA)policyに加え、S&Dの良い点を融合させた改良型RAとして今後の普及と発展が期待される

短期間の隔離策が入院患者に及ぼす心理的影響

Psychological impact of short-term isolation measures in hospitalised patients

M.W.M. Wassenberg*, D. Severs, M.J.M. Bonten
*University Medical Center Utrecht, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 124窶・27


長期間の隔離などの感染制御戦略の対象となる患者には、不安や抑うつなどの予期せぬ悪影響が生じることが報告されている。しかし、多くの隔離予防策は短期間である。そこで、短期間の隔離を受けた患者を対象として、不安と抑うつの程度およびQOLを判定した。大学病院で実施したマッチドコホート横断研究により、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS-A[不安]、HADS-D[抑うつ])、EQ-5DのVisual Analogue Scale(EQ VAS)、および隔離に関する評価質問票を用いて、感染制御のために隔離された患者を隔離開始から24~48時間以内に評価した。隔離患者1例に対して、マッチさせた対照2例を選択した。隔離患者(42例)および対照患者(84例)のスコアはHADS-A(4.5対5.0)、HADS-D(4.0対5.0)、およびEQ VAS(65対62)のいずれも同等であった。重回帰分析では、合併症とEQ VASの結果との間に関連が認められたのに対して(P = 0.005)、隔離されたことを含むその他のすべての変数と、HADSおよびEQ VASのスコアとの関連は認められなかった。患者は隔離策に対して肯定的な見方をしていた。隔離患者が認識する医師および看護師のケアの質に対する隔離策の悪影響は、それぞれ患者の74%および71%がないとした。結論として、短期間の感染制御対策は、入院患者の不安と抑うつの程度およびQOLに影響しなかった。実施した感染予防策に対する隔離患者の態度は肯定的なものであった。

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監訳者コメント
この問題は、感染対策にかかわる者であれば、時として現場から寄せられる陳情の1つとして頭を悩ませることが少なくないであろう。隔離は別の角度からみれば人権の一部制限を伴っているからである。しかしながら、個室隔離のために現在入院している非保菌患者を動かして調整することを嫌がり、「患者がかわいそう」という口実として隔離を拒否する場合がある。このような場合には、患者の理解が得られるように説明に同席するなど最大限現場を補助し、妥協したりあきらめたりしてはいけない。なお、本研究の対象はSearch & Destroy policyが一般市民にも浸透しているオランダであり、我が国の国民性とは異なっていることにご注意されたい。

高度保安精神病院Broadmoor Hospitalにおける手指衛生に関する監査

Audit of hand hygiene at Broadmoor, a high secure psychiatric hospital

K. Ahmed*
*Broadmoor Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 128窶・31


高度保安精神病院の保安措置の強化により、手指衛生が困難になることがある。今回の監査では、地域の手指衛生指針を比較標準として、Broadmoor Hospitalにおける適切な手指衛生用品の設置状況および良好な手指衛生の実践を評価した。この病院の23病棟の手指衛生用品を監査するために用いたデータ収集ツールから、病棟の手指衛生用品の供給が著しく不足していることが判明した。さらに、看護職員の認識、訓練、および手指の汚染除去の実践を評価するために作成した質問票を用いて、職員に対する調査を行った。この調査により、手指衛生指針、および手指の汚染除去を実施する適切なタイミングについての認知度を向上させる必要があることが明らかになった。監査の結果、適切な用品を発注するとともに、各病棟の感染制御リンクナースの責務を以下のように明確化した。すなわち、必要に応じて手指衛生用品を確認し発注すること、手指の汚染除去の実施を注意喚起するために定期的なミーティングを開催すること、および手指衛生指針の認知度の向上を図ることである。さらに、患者の手指衛生に対する認知度を向上させるために病棟の患者区域にポスターが掲示され、看護ステーションにアルコールジェルディスペンサーが設置された。他の精神病院でも、同様の監査を行うことは有益である可能性がある。

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監訳者コメント
精神障害者の入所施設や病棟では、感染予防策よりも患者の自傷行為や急性精神反応のほうに注意が偏りがちになり、また入所者や入院患者自体の了解に問題があり、協力が得られにくいこともあり、MRSAだけでなく結核なども問題になりやすい。このような障害者を社会へ受け入れて再教育を施す態勢の整備が進むような世の中になれば、ずいぶんと感染対策の問題も改善するであろうと考えられる。

監訳者注
イギリスでは、精神発達障害や知的障害者が罪を犯したとき、本人の責任能力の有無にかかわらず、精神科のケアが必要であると判断されれば、専門の治療施設に収容される。保安の必要性の程度によって、高度保安病院、地域保安ユニット、低度保安ユニットの3段階に分かれている。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染患者:21世紀のハンセン病★★

Patients with meticillin-resistant Staphylococcus aureus infection: twenty-first century lepers

K.L. Mozzillo*, N. Ortiz b, L.G. Miller
*Kaiser Permanente South Bay Medical Center, USA

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 132窶・34


近年は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染症、特に市中獲得型(CA)MRSAの発生率が急速に上昇している。メディアのMRSAに関する報道の多くはセンセーショナルな取り上げ方をしており、重篤な疾患である可能性や感染力の大きさが強調されている。著者らの目的は、CA-MRSA感染症患者5例を対象とした症例集積研究により、MRSA感染に伴う精神的・社会的な被害について述べることである。MRSA感染症と診断されたことで受ける不当な扱い(stigmatization)についても分析した。患者はMRSAの診断後、自宅や職場で疎外されるなどの様々な不当な扱いを受けていることが判明した。患者は、家族、同僚、および顧客から、MRSA伝播を防止するために破格の対策を講じることを求められていると述べた。MRSAの診断を受けた結果、重要な人間関係・業務関係の崩壊・終焉なども生じていた。結論として、MRSAの診断に伴う不当な扱いにより、深刻な個人的・社会的被害がもたらされることがある。メディアおよび公衆衛生当局のMRSA感染症に関する認識には、MRSA伝播は通常は簡易な衛生対策によって防止できるという情報も必要である。

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監訳者コメント
これはWassenbergらの論文と関連するところであるが、社会の無理解も、院内で隔離を行うことの困難さを増強している。MRSA保菌に対しての説明が、患者に受け入れられがたい感情的な要因は、「よくわからないために、排除する」という人間の本質的な行動と深く関係している。お互いを知ることが理解することにつながり、差別の解消につながることは、MRSAに限らず人の宗教や文化も同様である。今後は学会や政府機関からもMRSAに関する公式情報シートを一般向けに出していくべきであろう。

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Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.