JHIサマリー日本語版トップ

レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

壊死性筋膜炎の診断および管理:マルチパラメトリック・アプローチ★(ただし、医師には★★)

Diagnosis and management of necrotising fasciitis: a multiparametric approach

M.S. Morgan*
*Royal Devon & Exeter NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 249-257


壊死性筋膜炎は筋炎および筋壊死ととともに、皮膚・軟部組織感染症の病態の中で最も重度のものに位置づけられるが、丹毒、膿痂疹、および蜂巣炎とは大きく異なっている。特にレンサ球菌性壊死性筋膜炎に由来する外毒素やスーパー抗原が介在する合併症は、多様な感染所見を呈するため、経験の乏しい臨床医は判断を誤りやすい。生存率を改善するためには臨床所見から早期に疾患を疑い手術を施行することが重要であり、壊死性筋膜炎患者に対しては病原体、感染部位、および産生毒素の作用に応じた総合的な集学的管理が必要である。種々の臨床的パラメータおよび臨床検査パラメータを組み入れた多変量的アプローチは、積極的な管理の一助となると考えられる。本総説では主要なタイプの壊死性筋膜炎の診断と管理について述べ、過去の研究や適切な診断法の中から病因解明の重要な糸口を明らかにする。また、高圧酸素療法や免疫グロブリン静注療法などの検討が進められている治療法について、潜在的な有益性を考察する。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
医療関連感染症についての雑誌ながら、内容は感染症資料についてのレビューとなっている。医師には読んでも役立つ内容であるが、看護師のみなさんにはいかがであろうか。ゆえにレーティングも職種によって異なりますのでご注意を。

市中獲得型のPanton-Valentine leucocidin産生メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Pantone-Valentine leucocidin-positive meticillin-resistant Staphylococcus aureus;PVL-MRSA)の市中・院内感染:医療上の意義

Community and nosocomial transmission of Pantone-Valentine leucocidin-positive community-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus: implications for healthcare

J.M. Orendi*, N. Coetzee, M.J. Ellington, E. Boakes, B.D. Cookson, K.J. Hardy, P.M. Hawkey, A.M. Kearns
*University Hospital of North Staffordshire NHS Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 258-264


英国では、市中獲得型のPanton-Valentine leucocidin産生メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Pantone-Valentine leucocidin-positive meticillin-resistant Staphylococcus aureus;PVL-MRSA)感染症の散発例が報告されている。2006年9月に、帝王切開後のフィリピン人医療従事者に致死的なPVL-MRSA感染症が発生した。市中および病院の接触者から、咽頭および鼻腔スワブを採取した。PVL-MRSA株と同様の薬剤耐性パターンを示すMRSAに対しては、毒素遺伝子プロファイル、PCRとシークエンスタイピング(ST)法によるタイピングなどの評価を行った。保菌者には除菌治療を行い、医療従事者に対しては本人とその家族がPVL-MRSA陰性と判定されるまで患者ケアへの従事を制限した。ST30型PVL-MRSAはプロテインA遺伝子(spa)タイプt019、SCCmec-IVc、agr-3を有しており、β-ラクタム系抗菌薬のみに耐性を示した。さらに16例の市中・病院感染者から、同系統の代表株が同定された。12例でPVL-MRSAが原因と考えられる感染症が発生し、そのうち2例(1例は致死的)は病院感染、1例は医療従事者の職業感染と考えられた。9例が病院に勤務していた看護スタッフであり、このうち8例は過去5年間にフィリピンから移住し、社会的に強い関係があった。このように、英国の医療従事者からST30型PVL-MRSAが検出された。これは、英国における致死性のパンデミッククローンの院内感染の初めての報告である。この新たな脅威に対応するため、医療・市中環境で警戒を強化する必要がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
白血球溶解毒素であるPVLは、市中獲得型MRSAについては、米国で小児の命を次々に奪って有名になったUSA300株に見られて注目を集めた特徴的な毒素であり、壊死性肺炎など重篤な感染症に至らしめる。しかしながら、USA300はST8クローナルクラスター(CC)に属し米国に特異的に分布しているのに対し、今回英国で見つかったPVL産生MRSAは、英国ですでに広く分布しているEMRSA16と同じST30型のCCに属することが問題になっている。つまり、すでに遺伝子の乗り物であるMRSA自体が広まってしまっているために、今後、PVLを運ぶファージが溶原化することでPVLを産生するEMRSA16が猛烈な勢いで市中に増加する可能性があることを示唆している(科学者か、細菌学者でないとこれは理解が困難な論文です)。

Panton-Valentine leucocidinおよびγ-ヘモリシン産生黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の臨床分離株:その有病率および臨床的感染との関連

Clinical isolates of Pantone-Valentine leucocidin- and γ-haemolysin-producing Staphylococcus aureus: prevalence and association with clinical infections

I. Mesrati*, M. Saidani, S. Ennigrou, B. Zouari, S. Ben Redjeb
*Laboratory of Research, Resistance aux Antimicrobiens, Faculty of Medicine of Tunis, Tunisia

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 265-268


Panton-Valentine leucocidin(PVL)とγ-ヘモリシンは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が産生するsynergohymenotropic毒素ファミリーに属しており、それぞれpvl遺伝子とhlg遺伝子にコードされている。PVL毒素と皮膚や粘膜などの壊死病変との関連については多くの報告がある。本研究の目的は、pvlまたはhlg遺伝子を有する黄色ブドウ球菌株の保有率を判定し、pvlまたはhlg陽性黄色ブドウ球菌と特定の臨床症状との関連を調べることである。2005年1月から2007年7月に、黄色ブドウ球菌合計143株(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[MRSA]58株、メチシリン感性黄色ブドウ球菌85株)のpvlおよびhlg遺伝子を、多重PCR法によりスクリーニングした。これらの株が分離された患者141例の人口統計学的データと臨床データを記録した。pvl遺伝子陽性は31株(21.7%)、hlg遺伝子陽性は77株(53.7%)であった。pvl遺伝子陽性株のうち21株(67.7%)がMRSAであった(P = 0.001)。pvl遺伝子陽性株のうち16株(51.6%)が市中獲得型であった。pvl遺伝子は皮膚・軟組織感染症、特に膿瘍(分離株の60%、P = 0.008)やせつ腫症(分離株の55.5%、P = 0.036)と強く関連していた。これらの結果から、pvl遺伝子陽性株は皮膚感染症および黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性と関連することが確認された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
同じ病原微生物の菌種でも、菌株の中には毒素を持ち著しい病原性を発揮するものがいて、それをinvasive strain(侵襲株)と呼ぶという考え方がある。この考え方自体は疫学が盛んな欧州を中心に展開されているため、米国や日本などの学術圏では馴染みが少ないかもしれない。我々の学術圏の考え方は、pvl遺伝子をノックダウンさせた株を動物に感染させて、皮膚病変が軽微になることを証明するアプローチを考えるが、倫理上の問題があって実施が困難になるところである。このような違った角度からのアプローチは、米国だけの価値観で作られた学術圏でだけ勉強していてはなかなか発想しにくいところである。Look EU!

手順を定めた患者の手指消毒:市中病院のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染率への効果

Systematic patients’ hand disinfection: impact on meticillin-resistant Staphylococcus aureus infection rates in a community hospital

D. Gagne*, G. Bedard, P.J. Maziade
*Centre Hospitalier Pierre Legardeur, Canada

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 269-272


患者とその家族が、未確認の一過性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)保菌者として、または医療施設での伝播源として、どのような役割を果たしているかについての体系的な取り組みは実施されていない。患者やその家族の手指は、重要かつ「詳細不明の」伝播様式に関与していると考えられる。本研究の目的は、著者らの250床の市中病院でこの仮説を検証することである。1年間にわたって全患者および来院家族に、水を使用しないジェルによる手順を定めた指洗浄消毒を実施させ、院内感染率を後向きに比較した。感染制御担当者の監督下で、4名の常勤者と4名の非常勤者の参加者からなるチームに対して、全患者および来院家族に面会して、平日は連日1日2回のアルコールジェルによる手指洗浄を実践することを求めるよう指導した。全般を通じて、入院1,000件あたりのMRSA感染率、費用対効果分析、および職員の手指衛生遵守について監査を実施した。入院1,000件あたりのMRSA病院感染率は、対照年との比較で51%減少した。MRSA発生率が対照年から研究を実施した年まで一定であったと仮定すると、今回の介入により51件のMRSA感染が予防でき、それにより費用が大幅に削減されたと考えられた。従来はMRSA伝播予防を目的として、特に職員の行動に焦点が当てられていたが、潜在的な伝播様式への患者とその家族の手指衛生が見落とされていた可能性がある。手順を定めた患者とその家族の手指衛生は、MRSA院内伝播の安価で効果が高い予防策であると考えられる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
この論文の結論は、「そりゃ、言いすぎだろ?」というぐらいの思い切った論調である。まず患者自体は保菌者となりリザーバー(供給源)にもなるのであるから、患者への手指衛生教育をすれば、ある程度は水平伝播を抑えることが可能になるかもしれないが、患者対医療従事者のコンタクト様式と回数は、患者対患者のそれらと大きな開きがあると予想されるので、おそらくその効果はかなり限定されて低いのではないかと推測される。また患者家族にしても、より病院に長くいる患者本人よりも他の患者への接触回数が多いことなど考えにくい。よって、この論調を展開するのであれば、それぞれ分離された菌株のPFGE解析を行い水平伝播の可能性について議論した後とすべきである。あまり通り一遍に読んで、エビデンスがあるから「明日からうちもそうしよう」とは単純に考えないでいただきたいと思う。

人工関節感染症患者の治療不成功のリスク因子★★

Risk factors for treatment failure in patients with prosthetic joint infections

J. Lee*, C.-I. Kang, J.H. Lee, M. Joung, S. Moon, Y.M. Wi, D.R. Chung, C.-W. Ha, J.-H. Song, K.R. Peck
*Sungkyunkwan University School of Medicine, Republic of Korea

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 273-276


人工関節感染症の発生率および臨床的・微生物学的所見を明らかにし、その治療不成功に関連するリスク因子を評価するために後向き観察コホート研究を実施した。1994年から2008年に、当施設で人工膝関節全置換術または人工股関節全置換術を実施した全患者のカルテを後向きにレビューした。当施設は1,950床の大学附属3次紹介病院である。合計93例の人工関節感染症患者を特定したが、このうち当院で人工関節置換術を受けていた患者は68例のみであった。全感染率は0.63%であった。検出頻度が最も高い微生物はメチシリン耐性ブドウ球菌属を含むグラム陽性菌(76.5%)であった。48例(51.6%)の患者で二期的関節形成術、34例(36.5%)でデブリードマンと人工関節温存を実施した。患者43例を治療後2年以上追跡し、治療転帰を解析したところ、全体の治療不成功率は41.8%(43例中18例)であった。その他の変数を補正した後の治療不成功と関連する臨床的変数は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のみであった(オッズ比11.9、95%信頼区間1.07~133.9、P = 0.044)。結論として、黄色ブドウ球菌は人工関節感染患者からの検出頻度が最も高い病原体であり、人工関節感染症患者の治療不成功の独立リスク因子であった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
サムソンメディカルセンターのSong教授は、アジア太平洋地区でもよく知られたClinical Microbiologistであり、Infection Control Directorでもあり、Infectious Disease Physicianでもある。彼の書く論文は、アジア太平洋地区の院内感染研究の最先端を表しており、同じアジアの我が国にも非常に参考になる。特にmedical economicsについては、infection controlの強烈なドライビングフォースになることに着目しており、我が国のICDたちも見習うべき研究者である。

集団発生の早期特定と一連の標準的介入によるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の減少★★

Reducing Clostridium difficile through early identification of clusters and the use of a standardised set of interventions

K.J. Hardy*, S. Gossain, D. Thomlinson, D.G. Pillay, P.M. Hawkey
*West Midlands Public Health Laboratory, Heart of England NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 277-281


近年、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染率が世界的に上昇しており、英国でも複数の大規模なアウトブレイクが発生している。英国保健省の新たなガイダンスでは、C. difficile感染症発生率上昇期の調査法について述べており、職員への周知、分離株のリボタイピング、清掃の強化、抗菌薬処方の監査・モニタリングなどに言及している。本研究の目的は、一連の標準的手法を用いることによって、18か月間にわたり急性期病院のC. difficile感染症発生率を制御できるかどうかを判定することである。研究期間中、439例が関与した合計102件の発生率上昇期を調査対象とした。1か月あたりの発生率上昇期の件数は、2008年2月の14件から2009年6月の1件の範囲であった。分離株のリボタイピングは、2008年1月から9月までは10例以上の患者が関与した発生率上昇期のみで実施していたが、2008年10月以降はすべての発生率上昇期に行った。2008年10月から2009年6月に、21病棟の28件の発生率上昇期の調査を実施したが、このうち7病棟では2件の発生率上昇期がみられた。分離株のリボタイピングにより、これらのうち9件(32%)がアウトブレイクであること、これらのアウトブレイクの3件はリボタイプ027、2件はリボタイプ078、その他はいずれも異なるリボタイプによるものであることが確認された。一連の標準的介入の結果、発生率上昇期の件数および感染患者数が減少した。一連の標準的手段による早急な措置を取ることによって、C. difficile病院感染症発生率の低下を図ることが可能である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
英国では、我が国では稀な二元毒素(binary toxin)を産生する強毒型株が拡大を見せており、MRSAと並んで感染対策の最優先ターゲットとなっている。CDIの予防策については、長らく明確なガイドラインが出てこなかったが、現在もガイダンスにとどまっている。エビデンスが不足していることもあろうが、早期に対策が確立することを期待している。

監訳者注
発生率上昇期間(period of increased incidence):本論文では、入院から48時間以降のC. difficile感染症発生例が、1週間を単位として28日以内に2例以上認められた病棟を、発生率上昇期間の状態であると定義している。

英国におけるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の臨床検査診断の監査

Audit of the laboratory diagnosis of Clostridium difficile infection in the UK

R.P.D. Cooke*, J. Collins, A. Galloway, D. Holland, G. Trigg
*University Hospital Aintree, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 282-286


英国の臨床病理医協会(Association of Clinical Pathologists)および王立病理医協会(Royal College of Pathologists)がキール大学と共同して、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の臨床検査診断に関する全国的監査を実施した。すべてのConsultant Microbiologistに質問票を郵送し、解析対象とすることが可能な80件の回答を得た。臨床検査業務にはかなりのばらつきがあり、具体例として、毒素陰性検体の追跡検査に関する指導を行っている検査室は56%のみ、週7日間診断業務を行っている検査室は68%、入院患者の毒素検査陽性を病棟の看護師や医師にルーチンに通知している検査室は66%であった。C. difficile感染症の診断アプローチを一貫性のあるものにするには、現行のガイダンスよりも詳細かつ指示的なガイダンスが検査室に必要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
今回の調査では、CDIの対策が急務であるにもかかわらず、検査室における検査体制が十分整備されていないことが浮き彫りになった。ガイダンスはやはりガイダンスなので、もう少し突っ込んだ内容のガイドラインが望まれていることがわかる。

クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)リボタイプ078による感染:アイルランド共和国における初の症例報告

Infection due to C. difficile ribotype 078: first report of cases in the Republic of Ireland

K. Burns*, M. Morris-Downes, W.N. Fawley, E. Smyth, M.H. Wilcox, F. Fitzpatrick
*Beaumont Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 287-291


クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)は重要な医療関連病原体である。リボタイプ027などの強毒性株が近年、広く報告されるようになっている。そのほかの強毒性株にはリボタイプ078があり、これによるC. difficile感染症の割合が増加していると考えられている。本報告では、アイルランドの病院で検出された、この病院の管轄区域内のナーシングホーム1施設に発生した15例のリボタイプ078によるC. difficile感染症アウトブレイクについて述べる。リボタイピングを実施した全C. difficile分離株のうち、リボタイプ078は15%を占めていた。リボタイプ078によるC. difficile感染症患者の平均年齢は76歳であった。診断から8週以内に患者の46%に症状の再発が認められ、8件の死亡例中5例でC. difficile感染が直接関与していたと考えられた。DNAフィンガープリント変法を用いて15例のクラスターが同定でき、さらに一部のC. difficile感染症患者間にこれまで認識されていなかった関連性が存在することが示唆された。本アプローチにより、C. difficileの共通の感染源と伝播経路が解明されることが期待できる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
強毒型C. difficile感染症の襲来に備えて、これから報告されていくであろう症例報告をつぶさに見ていくことが、対策のアイディアを創出することにつながるので、興味のある方は読んでおくとよいでしょう。

迅速スクリーニングにより発見された新生児集中治療室におけるRSウイルスアウトブレイク

Respiratory syncytial virus outbreak defined by rapid screening in a neonatal intensive care unit

E.A. Dizdar*, C. Aydemir, O. Erdeve, F.N. Sari, S. Oguz, N. Uras, U. Dilmen
*Zekai Tahir Burak Women’s Health and Education Hospital, Turkey

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 292-294


パリビズマブは現在、慢性肺疾患、早産、または血行動態的に重篤な先天性心疾患を有する乳幼児に対するRSウイルス下気道疾患の予防薬として承認されているが、新生児集中治療室(NICU)でのアウトブレイク時のルーチンの使用は、現時点では推奨されていない。本稿では、迅速抗原検査(Respi-StripR)を用いたRSウイルス感染スクリーニング試験実施中に発見されたNICUでのアウトブレイクについて報告する。2009年1月に、当NICUで検査を受けた早産児11例がRSウイルス陽性であった。その後、NICUの他の乳児の検査を行ったところ、さらに2例が無症候症例であることが判明した。交差感染の予防とともに、残りの早産児37例にパリビズマブの予防投与を実施した。投与2日後に、さらに2例にRSウイルスが検出され、症状が発現した。今回のアウトブレイクは、著者らの知る限り、NICUで発生し、迅速検査により早期に発見され、感染制御対策とパリビズマブの予防投与により効果的に制御された、最大規模のRSウイルスアウトブレイクである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
RSウイルス感染症は、診断検査も治療・予防も日本の医療現場では一般的ではなく、比較的影の薄い病原体である。このような集団発生が今後増加することも予想される。

長期ケア施設でのロタウイルス性感染性胃腸炎の病院感染アウトブレイクに関連する直接費用

Direct costs associated with a hospital-acquired outbreak of rotaviral gastroenteritis infection in a long term care institution

E. Piednoir*, G.C. Borderan, F. Borgey, P. Thibon, P. Lesellier, R. Leservoisier, P. Verger, X. Le Coutour
*Centre Hospitalier Avranches-Granville, France

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 295-298


2008年1月に高齢患者用長期ケア施設で、ロタウイルス性胃腸炎アウトブレイク中に63例の患者が感染した。本研究の目的は、このアウトブレイクに関連した病院の直接費用を評価することである。カルテと病院財務部門の両方から費用に関するデータを収集した。アウトブレイクに関連する病院全体の費用は17,959ユーロ、1例あたりでは285.1ユーロであり、その内訳は、検査・治療費4,948ユーロ、隔離のための費用4,400ユーロ、感染制御スタッフ1,879ユーロ、その他のスタッフが4,170ユーロ、および病床使用日数の損失2,562ユーロであった。このアウトブレイクに要した費用から、アウトブレイク早期発見と感染制御対策の実施が重要であることが強調される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
ノロウイルス感染症やC. difficile感染症と異なり、ロタウイルス感染症の集団発生に関する報告は多くない。本論文でも述べられている通り、重症化例が少ないのがその一因であろう。本論文は、フランスの高齢者用長期ケア施設での集団発生に関して、主にコストの面から検討しており、興味深い論文である。

香港の病院の医療従事者・補助職員による感染制御の実践

Infection control practices among hospital health and support workers in Hong Kong

J.P.C. Chau*, D.R. Thompson, D.T.F. Lee, S. Twinn
*Chinese University of Hong Kong, Hong Kong SAR, China

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 299-303


香港政府の報告書は、病院の感染制御基準は不適切であり、その監査、策定、および実施が必要であると指摘している。また、病院職員には感染制御対策に関する教育が必要であるとしている。急性期ケア病院1施設およびリハビリテーション病院2施設の医療従事者162名(看護師109名、医師45名、セラピスト8名)と補助職員44名を対象として、感染制御の実践についての調査を非盲検の観察的デザインにより実施した。さらに、マスク、ゴーグル・フェイスシールド、およびガウンの適切な着用、患者のケア用機器、リネン、および洗濯物の取り扱い、ルーチンの清掃および最終清掃、隔離室の最終清掃などの、隔離予防策と感染制御ガイドラインの遵守状況を評価した。主要な不遵守の1つとして、血液・体液の飛散や噴出が生じやすい処置時に、長袖のガウンではなく、袖なしの使い捨てのプラスチック製エプロンを使用していたことが挙げられる。観察したエピソードの半数以上で、聴診器などの医療器材の再使用前に消毒が行われていなかった。また、ポータブル便器を別の患者に使用する際の完全な洗浄も不十分であった。内外の感染制御ガイドラインの全般的な遵守状況は良好であったが、改善を要する点もいくつか認められた。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
血液・体液の飛散が予想される際には、眼や体を防護する個人防護具(PPE)を着用するのが標準予防策であるが、体の防護として袖なしエプロンを使用する実践手技は日本でも広く行われている。理想的には長袖ガウンがよいが、エプロンと長袖ガウンの価格差(通常数倍以上)を考えると、そう簡単に長袖ガウンを標準とするわけにもいかないというのが多くの施設での実情であろう。アメリカなどのエプロンがそもそも存在しない文化と異なり、香港では日本と同様にエプロンが使われていることに親しみを感じさせられる論文であるが、これが経済的理由によるものかどうかは一切考察されておらず、若干不満に感じる。

台湾南部のナーシングホーム入居者のフルオロキノロン系耐性ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)保菌

Colonisation of fluoroquinolone-resistant Haemophilus influenzae among nursing home residents in southern Taiwan

C.-M. Chang*, T.-L. Lauderdale, H.-C. Lee, N.-Y. Lee, C.-J. Wu, P.-L. Chen, C.-C. Lee, P.-C. Chen, W.-C. Ko
*National Cheng Kung University Hospital, Taiwan

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 304-308


フルオロキノロン系は呼吸器感染症の治療に広く使用されているが、フルオロキノロン耐性ヘモフィルス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)はまれである。2007年に、台湾南部のナーシングホーム4施設の入居者150人を対象に、2か月ごとの咽頭スワブおよび喀痰の培養による前向きサーベイランスを実施した。入居者30人(20%)からH. influenzae分離株48株を採取した。分離株の血清型はいずれも非b型であり、27株(56.3%)はβ-ラクタマーゼ陽性であった。分離株20株(41.7%)はレボフロキサシン耐性(最小発育阻止濃度[MIC] > 2 μg/mL)、21株(43.8%)はモキシフロキサシン耐性(MIC > 1 μg/mL)であった。高度のレボフロキサシンおよびモキシフロキサシン耐性(MIC > 32 μg/mL)が、それぞれ19株(39.6%)と15株(31.3%)に認められた。入居者150人の中で、尿路カテーテル(P = 0.018)または気管切開チューブ(P = 0.029)の留置と、気道におけるモキシフロキサシン耐性H. influenzae保菌との間に独立した関連が認められた。H. influenzae保菌入居者30人の中では、モキシフロキサシン耐性と有意な関連のある因子はなかった。パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)により、分離株は14の型に分類された。29株は2つの主要なクローンのいずれかに属しており、このうち27株はナーシングホーム1施設の入居者13人から検出された。フルオロキノロン耐性分離株は、2株を除くすべてがこれらの2つの主要なクローンに属していた。本研究から、フルオロキノロン耐性H. influenzaeが出現していること、および台湾南部のナーシングホームの入居者に、そのクローン性の拡散がみられることが判明した。フルオロキノロン非感性およびフルオロキノロン耐性の臨床的意義とその程度について、さらなる研究が必要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
フルオロキノロン耐性H. influenzaeが保菌伝播によって拡散していることの意義は定かでないが、今後の薬剤耐性菌の動向に関する1つの懸念材料ではある。隣国である台湾での状況だけに、日本への影響が気になるところではあるが、台湾や韓国で日常的に検出されるバンコマイシン耐性腸球菌が日本ではさほど検出されないことを考えると、このことが我が国にとって直ちに脅威であるということにはならないだろう。

英国における医原性クロイツフェルト・ヤコブ病の現在のリスク:市販洗浄剤の有効性と脳神経外科用器具の再利用可能性

Current risk of iatrogenic Creutzfeld-Jakob disease in the UK: efficacy of available cleaning chemistries and reusability of neurosurgical instruments

R. Herve*, T.J. Secker, C.W. Keevil
*University of Southampton, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 309-313


再利用可能な外科用器具の初期洗浄は、その後の滅菌過程の有効性を確保するために非常に重要である。伝達性海綿状脳症は治療不能かつ致死的な神経変性疾患であり、その伝播は自己会合型のプロテアーゼ抵抗性プリオン(PrPSc)の吸収または摂取のみにより生じる。このプリオンはほとんどの標準的洗浄剤や熱による汚染除去法に強い抵抗性を示す。したがって、再利用可能な外科用器具に、滅菌サービス部門の標準的な再処理後に感染性物質が残存していれば、これらの器具を介する医原性伝播のリスクがある。匿名の滅菌サービス部門との共同で、外科用器具汚染除去の現状を評価することを目的とした。プリオンに感染した脳ホモジネートを外科用ステンレススチール表面に付着させ、滅菌サービス部門で現在使用されている酵素洗浄剤で汚染除去後、プリオンアミロイドやその他の蛋白質の残存量を落射型微分干渉/エピ蛍光(episcopic differential interference contrast/epifluorescence;EDIC/EF)顕微鏡を用いて測定した。「清浄かつ即時使用可能」とされた再利用可能な器具の染色も行い、実験室で得た所見と比較した。いずれの洗浄剤も推奨条件下での有効性は部分的なものであった。より重要なのは、PrPScがこれらの表面の残存汚染の主要成分であったことである。脳神経外科用器具にもアミロイドや通常の蛋白質による汚染が残存していた。今回の研究は、現在市販されている洗浄剤と現行の汚染除去プロトコールでは、医原性クロイツフェルト・ヤコブ病の脅威を完全には抑止できないことを示すものである。上述の所見を、リスク評価の目的や、器具の取り扱いと汚染除去実践の再評価に取り入れるべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
通常の洗浄や滅菌法ではプリオンが完全には除去できないことに関しては、すでに様々な報告がなされている。この論文は、染色法によって汚染の残存を可視化しているところがユニークである。一般に、プリオンの消毒滅菌に対しては、厳密性を求めると非現実的な側面が大きくなる。地域の有病率や部位ごとの危険度を評価する、リスクアセスメントが最も重要であろう。

ナイロン製フロックドスワブを用いた環境表面からのサンプル採取のための新しい技術

New technique to take samples from environmental surfaces using flocked nylon swabs

G. Hedin*, J. Rynback, B. Lore
*Falun Hospital, Sweden

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 314-317


感染・保菌患者周辺の病院環境表面は、病原性を有すると考えられる微生物に汚染されていることが多い。しかし現時点では、定量的培養のための表面からのサンプル採取方法は標準化されていない。通常は接触培地またはスワブを用いるが、これらの方法は異なる結果をもたらす可能性がある。綿やレーヨンなどの、従来のスワブ法による回収率は低い。フロックドナイロンを使用した新しいタイプのスワブによる回収率は、レーヨンスワブと比較して3倍にまで増加する可能性がある。本研究では、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびエンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)の標準株をベッドサイドテーブルに接種し、1時間後の接種菌液が乾燥した状態でサンプルを採取した。また、同一表面からの2回連続サンプル採取も行い、各サンプルに対して連続した2本のナイロンスワブを用いる新しいサンプリング技術について検証した。サンプル採取効率、接種菌回収率、および反復実験で得られた培養結果のばらつきについて述べる。サンプル採取に2本のナイロン製フロックドスワブを連続して用いることにより、採取効率と接種菌回収率が上昇することが示された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
多剤耐性グラム陰性桿菌においては特に、患者療養環境の汚染が患者間の耐性菌伝播に寄与すると考えられている。したがって、そのような伝播の集団発生における環境の汚染を調査するための環境からのサンプル調査は重要な要素である。環境サンプルには検出感度の問題があるが、本論文はその感度をできるだけ上昇させようという新たな試みであり、実用化が期待される。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)と「不潔な病院」に関する新聞報道★★

Newspaper reporting of meticillin-resistant Staphylococcus aureus and ‘the dirty hospital’

P. Chan*, A. Dipper, P. Kelsey, J. Harrison
*University of Sheffield, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 75, 318-322


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)に関する英国の新聞報道には、病院が清潔でないことおよび政府や国民保健サービス(NHS)の管理不足を強調するために「不潔な病院(the dirty hospital)」という比喩表現が多用され、特有の論調がみられる。公表されているデータからは、病院の清潔度とMRSA発生率との関連を示すような主要なエビデンスは見いだされなかった。そこで著者らは、この種の報道の情報源を調査した。英国の全国紙のMRSAに関するすべての記事(2000年から2007年)のテキスト解析を行い、MRSAについて報道する際に、一般に認められている他のMRSAのリスク因子の観点よりも病院の清潔度に関する内容を取り上げているというバイアスを検索した。これを補うために、8人のジャーナリストへの取材と、2000年2月に報じられた新聞およびその他のメディア報道の詳細な時系列により、病院の清潔度とMRSAが関連づけられた理由の探索を行った。MRSAに関する新聞報道には、MRSA感染と病院の清潔度を関連づける強いバイアスが認められた。不潔な病院がMRSAの原因と見なされたことについては、2000年2月の英国会計検査院(National Audit Office)による報告にかかわるイベントが、特に重要であったと考えられる。「不潔な病院」という比喩表現は政府部門の公式な報告に由来し、これを歪曲したものであった。この表現にはある種の扇情的な作用があり、公衆に受け入れられ、一方ではジャーナリストが、他方では政治家、官僚、および大臣が使用するようになり、相互に強化されていった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
メディアの報道に関するデータを収集し分析した、医療関連感染の分野では異色の論文である。医学生12名の教育もかねて新聞報道を解析しており、大変興味深い。MRSAは病院の清潔度だけの問題ではないにもかかわらず、この面が強調されていった経緯が明らかになっている。メディアの公衆に対する影響力の大きさを再認識させられるとともに、その影響に関与しているのがメディアだけでなく政治家や官僚なども含まれることに、この問題への対処の難しさを感じる。

サイト内検索

Loading

アーカイブ

最新のコンテンツ

Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.