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病院内の有害事象発生リスクの抑制:列車事故のような場合は集計・報告よりも回避することが重要である

Limiting risk of hospital adverse events: avoiding train wrecks is more important than counting and reporting them

A. Morton*, D. Cook, K. Mengersen, M. Waterhouse
*Princess Alexandra Hospital, Australia

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 283-286


これまでは、国や州レベルで導入される目標は、多剤耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌血症などの有害事象の大発生を受けて設定されてきた。病院の資源は有限であるが、このような目標設定の結果として、標的とした有害事象への対処に資源が転用されてしまう可能性がある。有害事象の発生数が減少に向かうと、当初は成功であると判定されるかもしれないが、根本的な問題に対処しているとは限らず、また、それ以外の非標的有害事象が増加し得るというエビデンスもみられる。さらに、個々の観測値は不規則変動の影響を大きく受けることがある。このため、医療施設が実践した対応についての結論を導き出すために、比較や目標を用いることは困難である。有害事象の発生数を集計することは不可欠であるが、患者の有害エピソードを回避するために重要なことは予防である。予防にはエビデンスに基づいたシステムを導入することが必要である。すでに多くの有害事象に対して、「バンドル」やチェックリストが適用できるようになっている。このようなシステムを適切に導入し継続すれば、予測し得る最低レベルにまで有害事象の発生を減少させることが可能である。残念ながら、知識の普及と積極的な促進策にもかかわらず、高い遵守率を達成し、持続させることは、多くの場合困難である。エビデンスに基づくシステムを持続させるための方法を十分に理解し、導入する必要がある。リーダーシップ・権限付与、エビデンスの適用、習慣の変革、および評価法などからなる全体的なシステムの一環としてチェックリストを活用することは、このような問題の克服に有用である可能性がある。

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説明責任のための病院感染集計データの解析

Analysis of aggregated hospital infection data for accountability

A. Morton*, K. Mengersen, M. Waterhouse, S. Steiner
*Princess Alexandra Hospital, Australia

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 287-291


病院感染に関する医療施設間の集計データの解析と報告が、透明性と説明責任の確保のために必要である。医療施設内の時系列分析の透明性と説明責任の確保には、異なる分析手法が必要である。さらに、計画立案や一般への情報提供にはバイアスのない情報の要約が求められる。著者らは、エビデンスに基づくシステムの導入が、医療施設のパフォーマンスと安全性の向上にとって重要であると考える。これには、コンプライアンス、アウトカムの監査、および統計的プロセス管理法などによるアウトカムデータの時系列分析が必須である。チェックリストは、エビデンスに基づくシステムの確実な導入を支援するのに有用であろう。透明性と説明責任の確保のためのアウトカム集計データの解析では、主としてアウトカムを高い精度をもって正確に提示することを重視すべきである。本稿では単純集計表、漏斗プロット法、およびランダム効果(shrinkage plot)解析について説明し、リーグ表、星評価、および信頼区間を用いた比較については取り上げない。

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感染制御の臨床監査のための無作為化および標本サイズ

Randomisation and sample size for clinical audit on infection control

I. Fournel*, M. Tiv, C. Hua, M. Soulias, K. Astruc, L.S. Aho
*Hopital du Bocage, France

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 292-295


臨床監査はクリニカル・ガバナンスの一部であり、感染予防・制御に不可欠な要素である。臨床監査はtarget populationの一部に対してしばしば実施される。標本は、source population※※を代表していること、統計解析に十分なサイズであることが必要である。病院では、感染制御業務が同一病棟内でほぼ同じであることが多い(クラスター効果)。このことを、必要症例数の算出時に考慮しなければならない。標本サイズの決定は、遵守率の推計に求められる精度、観測値と予測値の差、または介入実施前後の差に基づく。病院全体の遵守率をコスト増なしに推計するためには、たとえ各病棟で得ることができる観察データが少ない場合であっても、一部の病棟で多種類の業務を監査するよりは、多くの病棟で対象を絞った監査を行うことを推奨する。

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監訳者注:
Target population:研究対象として想定される全標本からなる集団。母集団。臨床試験では、当該疾患を有する全患者など。
※※Source population:研究対象となった標本(適格患者やITT集団など)を抽出する源となった集団。臨床試験では、試験実施施設を登録期間中に受診した当該疾患を有する全患者など。

重篤な外傷に合併した院内血流感染症の費用および転帰

Cost and outcomes of nosocomial bloodstream infections complicating major traumatic injury

D.J. Niven*, G.H. Fick, A.W. Kirkpatrick, V. Grant, K.B. Laupland
*University of Calgary, Canada

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 296-299


本研究の目的は、外傷関連の院内血流感染症(BSI)の発生率、転帰、およびコストの評価である。本研究は行政区域で集約化された成人外傷センターまたは小児外傷センターに、4年間の研究期間中に重度の外傷(外傷重症度スコア[ISS]12以上)のため入院した患者を対象としたマッチドコホート研究であり、事前に規定した基準に基づいて、院内BSI症例とBSIが認められない対照を1:3でマッチさせた。死亡率、入院期間、および院内BSIに起因するコストなどの転帰を評価した。57例のBSI症例を特定し、このうち3例ずつの対照とマッチさせることができたのは51例であった。BSI症例のISS平均値は30.3であり、最も分離頻度が高い病原体は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)であった(27%)。BSI症例群の入院期間は相対的に27%延長した(P = 0.02)。BSI症例群の30日死亡率のオッズ比は5.8(95%信頼区間[CI]1.1~30.8、P = 0.04)であった。生存者を対象とした群間比較では、BSI症例群の総医療費の相乗平均値は相対的に53%増加した(BSI症例群97,993ドル[95%CI 70,143~136,899ドル]、対照群62,297ドル[95%CI 52,155~74,411ドル]、P < 0.0001)。本研究から、重度の外傷に合併した院内BSIでは入院期間および医療費が大幅に増加することが初めて示された。このデータは、BSIによる外傷受傷者への有害な影響を軽減するための取り組みが必要であることを示すものである。

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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)による院内感染肺炎のコスト

Costs of nosocomial pneumonia caused by meticillin-resistant Staphylococcus aureus

E. Ott*, F.-C. Bange, C. Reichardt, K. Graf, M. Eckstein, F. Schwab, I.F. Chaberny
*Hannover Medical School, Germany

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 300-303


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)による院内感染症は医療費および経済的損失の増大をもたらす。本研究の目的は、MRSA院内感染肺炎に要するコストをメチシリン感性黄色ブドウ球菌(meticillin-susceptible S. aureus;MSSA)肺炎と比較することである。2005年1月から2007年12月に入院したMRSAまたはMSSAのいずれかによる院内感染肺炎患者を対象として、症例対照研究を行った。下記の特性に基づいて、症例(MRSA肺炎)に対照(MSSA肺炎)をマッチさせた。年齢、基礎疾患の重症度、集中治療室および非集中治療室への入室期間、同一年での入退院、および肺炎の診断前の入院期間がMRSA肺炎症例よりも長いこと。82例(症例41例、対照41例)の解析を行った。院内感染MRSA肺炎患者の総コストはMSSA肺炎患者よりも有意に高かった(60,684ユーロ対38,731ユーロ、P = 0.01)。MRSA肺炎に起因するコストは患者1例あたり17,282ユーロであった(P < 0.001)。経済的損失はMRSA肺炎患者のほうがMSSA肺炎患者よりも大きかった(11,704ユーロ対2,662ユーロ、P = 0.002)。入院期間中の死亡例は症例群のほうが対照群よりも多かった(13例対1例、P < 0.001)。病院職員はMRSA肺炎に起因するコストを認識し、MRSA伝播を予防するための制御対策を導入すべきである。

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イランの心臓外科部門における一般的な医療関連感染症に関連する追加コスト

Excess costs associated with common healthcare-associated infections in an Iranian cardiac surgical unit

M. Nosrati*, M. Boroumand, S. Tahmasebi, M. Sotoudeh, M. Sheikhfathollahi, H. Goodarzynejad
*Tehran University of Medical Sciences, Iran

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 304-307


開胸手術後の医療関連感染症は、死亡および罹患の主要な原因となるだけではなく、コストの増加をもたらす。非西洋諸国の医療関連感染症による追加コストに関するデータは限られている。イラン人集団を対象として4種類の一般的な医療関連感染症の直接コストを推計するために、待機的開胸手術のために入院した1,191例の調査を行った。医療関連感染症の定義には全米病院感染サーベイランス(NNIS)の基準(米国疾病対策センター[CDC]、米国、ジョージア州、アトランタ)を使用した。入院中の1日あたりの室料、臨床検査費、薬剤費、医療器具費、および手術室使用料を病院経理部門が提示した。医療関連感染症患者の直接医療費の追加コストに対する医療関連感染症の寄与を多変量線形回帰分析を用いて評価した。対象集団の平均年齢は57.3 ± 11.9歳、男性が857例(72.0%)であり、64例(5.4%)に医療関連感染症が発生した。全体で73件の感染症が認められ、頻度が高いものは手術部位感染症(49.3%)、次いで尿路感染症(20.5%)、血流感染症(16.5%)、および肺炎(13.7%)であった。その他の交絡因子の補正後も、医療関連感染症は直接医療費の追加と関連していた(β = 1,707.06、標準誤差 = 90.84、P < 0.001)。医療関連感染症患者の医療費は医療関連感染症がない患者の約2倍であった。入院期間の延長が追加コストの半分以上に寄与していた。

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スコットランドの集中治療室における医療関連感染症の有病率

Prevalence of healthcare-associated infection in Scottish intensive care units

S. Cairns*, J. Reilly, M. Booth
*Health Protection Scotland, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 308-310


2005年10月から2006年10月に、集中治療室(ICU)を含むスコットランドのすべての急性期病院を対象とした全国的な医療関連感染症の点有病率調査を実施した。この調査では、医療関連感染症の有病率を算出し、ICUにおける医療資源への負担を判定した。ICUでの医療関連感染症有病率を非ICU患者と比較した。ICU患者の医療関連感染症有病率は27.1%であり、非ICU患者(9.3%)と比較して有意に高かった。また、特定の感染症、すなわち肺炎・下気道感染症、血流感染症、および手術部位感染症の有病率も、ICU患者のほうが非ICU患者よりも有意に高かった。これらの結果から、感染部位にかかわらず、すべての医療関連感染症はICUの医療資源に対して負担となっていることが判明した。スコットランドのICUでは、医療関連感染症の有病率が高いことが患者の安全やICUの医療資源に大きな影響を及ぼしており、このことから集中治療専門医と感染制御チームが強い連携を継続する必要性が示された。

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ブラジル・サンパウロ州の医療関連感染サーベイランスプログラム:その実施および最初の3年間の結果

Surveillance Programme for Healthcare Associated Infections in the State of Sao Paulo, Brazil. Implementation and the first three years’ results

M.C. Padoveze*, D.B. Assis, M.P. Freire, G. Madalosso, S.A. Ferreira, M.G. Valente, C.M.C.B. Fortaleza
*Centro de Vigilancia Epidemiologica, State Health Department, Sao Paulo, Brazil

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 311-315


医療関連感染に関するデータの収集・分析には、政府がそのためのプログラムを開発する必要がある。本稿ではブラジルの医療環境について、およびサンパウロ州医療関連感染サーベイランスプログラム(Programme for Surveillance of Healthcare Associated Infections in the State of Sao Paulo;PSHAISP)の2004年から2006年におけるプログラムの実施とその中間結果について述べる。医療環境の特性の評価は全国的データベースを用いて実施した。PSHAISPは急性期病院または長期ケア施設の各部門を対象として実施した。急性期病院のサーベイランス対象部門は、外科部門、集中治療室、および高リスク新生児室とした。サーベイランス対象の感染症は、清潔手術での手術部位感染症、肺炎、尿路感染症、デバイス関連血流感染症とした。長期ケア施設部門については全入院患者を対象として、肺炎、疥癬、胃腸炎の報告を行った。プログラム実施1年目は457の医療施設が参加したが、これは全国的データベースに登録された病院の51.1%に相当する。本研究で得たデータは初期の結果ではあるが、すでに医療関連感染のサーベイランスと予防の両方の教育に活用されている。PSHAISPの結果は、多数の病院からデータ収集が実施可能であることを示しており、サンパウロ州による介入効果の評価、および資源配分にあたって有用であると考えられる。

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フランスの大学病院における多剤耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の分子疫学★★

Molecular epidemiology of multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa in a French university hospital

P. Cholley*, H. Gbaguidi-Haore, X. Bertrand, M. Thouverez, P. Plesiat, D. Hocquet, D. Talon
*Centre Hospitalier Universitaire Besancon, France

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 316-319


本研究の目的は、当大学病院における多剤耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosaの発生率および分子疫学の評価である。抗菌薬感受性プロファイリング、bla遺伝子の特定、およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による解析を行った。1年間の研究期間中に緑膿菌陽性サンプルが1回以上認められた患者は654例であり、このうち38例(5.8%)に多剤耐性株の保菌・感染が確認され、発生率は1,000患者日あたり0.1例であった。重複を除いた38株のパルスフィールド・ゲル電気泳動パターンは12種類であり、このうち3パターンはいずれも4例の患者の分離株、1パターンは15例の患者の分離株に認められた。2株は基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生株であった(1株はOXA-14、他の1株はOXA-28)。遺伝子タイピングにより、多剤耐性緑膿菌感染症例の約70%が交差伝播によるものであることが示されたが、時空間分析ではこれらの多くがいつ生じたのかを明らかにすることはできなかった。上記の大流行性クローンと主な3種類の小流行性※※クローンは、当院にすでに存在していたものと考えられ、感受性の高い遺伝子型を有していた。当院では何種類かの緑膿菌クローンが局地的に流行しており、抗菌薬の選択圧により、これらのクローン内で多剤耐性株が出現していると考えられる。以上の結果から、多剤耐性緑膿菌伝播の主な原因は交差伝播であることが示され、標準的な衛生学的予防策の改善を優先すべきことが示唆された。

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監訳者コメント
分子疫学のお手本的な論文。多剤耐性菌の院内伝播を明確にする点で参考になる論文である。結果自体は、おそらくどの施設でも発生している交差伝播であり特に目新しいものではないが、そのことを分子疫学的手法で示すことに意義がある。また、多剤耐性菌の伝播防止には、手指衛生をはじめとする標準予防策の重要性を改めて感じさせられる。

監訳者注:
多剤耐性緑膿菌(multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa):日本では一般にカルバペネム・キノロン・アミノグリコシドの3系統にすべて耐性のものを指すが、本研究ではこれらのうち1剤には感性、すなわち2剤耐性のものも含めて「多剤耐性緑膿菌」としている。
※※小流行性(micro-epidemic):本研究での定義は、同一のPFGEパターンの分離株が2~5例の患者に認められること。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)および基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生腸内細菌保菌・感染患者に対する手指衛生遵守

Compliance with hand hygiene in patients with meticillin-resistant Staphylococcus aureus and extended-spectrum β-lactamase-producing enterobacteria

S. Scheithauer*, A. Oberrohrmann, H. Haefner, R. Kopp, T. Schurholz, T. Schwanz, A. Engels, S.W. Lemmen
*University Hospital Aachen, Germany

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 320-323


手指衛生は、医療関連感染の予防法として唯一かつ最も効果的なものと考えられている。手指衛生の遵守に関する報告は多いが、特定の隔離条件下の多剤耐性菌保菌患者についてのデータは乏しい。そこで、外科集中治療室または外科中等症治療室のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)または基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌保菌・感染患者に対する手指衛生の機会および遵守の前向き観察研究を実施した。MRSA患者のケアの際に使用された手指消毒剤の量を測定した。観察された1日あたりの手指衛生機会の回数は、MRSAのために隔離された患者群のほうがESBLのために隔離された患者群よりも多かった。外科集中治療室および外科中等症治療室で観察された遵守率は、MRSA群ではそれぞれ47%、43%、ESBL群では54%、51%であった。患者との接触前または無菌操作前の遵守率(17%から47%)は、患者、患者の体液、または患者周辺への接触後(31%から78%)よりも有意に低かった。患者との接触前は、最大100%が消毒の代わりに手袋を使用していた。しかし、消毒剤の使用量から算出した遵守率は観察による遵守率の2分の1であった(集中治療室24%対47%、中等症治療室21%対43%)。本研究は、多剤耐性菌保菌・感染患者に対する手指衛生のデータを示した最初の研究であり、観察による遵守率と計算上の遵守率の比較を行っている。特定の隔離条件下の患者のような、医療関連感染の予防に最も重要な影響を及ぼす適応に対しても、遵守率は低かった。これらのデータは、多剤耐性菌伝播の減少および患者の安全の改善のための対策を絞り込むことに役立つであろう。

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監訳者コメント
一般に手指衛生の遵守率に関する数字は、病棟患者全体を対象に出すことが多い。しかし、多剤耐性菌保菌・感染患者に対しては、医療従事者もある程度高い意識を持って手指衛生を行っていると推測される。本論文は多剤耐性菌保菌・感染患者に限って手指衛生の遵守率のデータを出した点で興味深い。特に手指衛生遵守が必要なこれらの患者群においてすら遵守率が低いことは嘆かわしいが、我々の施設でも似たようなものかもしれない。

医療関連尿路感染症の原因となるグラム陰性桿菌のフルオロキノロン耐性のリスク因子

Risk factors for fluoroquinolone resistance in Gram-negative bacilli causing healthcare-acquired urinary tract infections

P. Rattanaumpawan*, P. Tolomeo, W.B. Bilker, N.O. Fishman, E. Lautenbach
*University of Pennsylvania School of Medicine, Pennsylvania, USA

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 324-327


フルオロキノロン耐性グラム陰性桿菌による尿路感染症の有病率が上昇している。フルオロキノロン耐性のリスク因子について調査したこれまでの研究は、大腸菌(Escherichia coli)に起因する尿路感染症のみを対象としているか、保菌と感染とを区別していなかった。グラム陰性桿菌による医療関連尿路感染症におけるフルオロキノロン耐性のリスク因子を特定するため、University of Pennsylvania Health System附属の2施設で症例対照研究を実施した。尿培養でグラム陰性桿菌陽性、かつ米国疾病対策センター(CDC)の医療関連尿路感染症の基準に合致した患者を適格とした。症例はフルオロキノロン耐性グラム陰性桿菌による尿路感染症患者とし、対照はフルオロキノロン感性グラム陰性桿菌による尿路感染症患者として、対照と症例を菌株検出月および感染菌種によりマッチさせた。2003年1月1日から2005年3月31日までに、合計で症例251例と対照263例を研究対象とした。フルオロキノロン耐性の独立リスク因子は、男性(補正オッズ比[OR]2.03、95%信頼区間[CI]1.21~3.39、P = 0.007)、アフリカ系米国人(OR 1.80、95%CI 1.10~2.94、P = 0.020)、慢性呼吸器疾患(OR 2.58、95%CI 1.18~5.62、P = 0.017)、長期ケア施設入居者(OR 4.41、95%CI 1.79~10.88、P = 0.001)、過去2週間以内の入院(OR 2.19、95%CI 1.31~3.64、P = 0.003)、内科系病棟への入院(OR 2.72、95%CI 1.63~4.54、P < 0.001)、および最近のフルオロキノロン投与(OR 15.73、95%CI 6.15~40.26、P < 0.001)、最近のcotrimoxazole投与(OR 2.49、95%CI 1.07~5.79、P = 0.033)、および最近のメトロニダゾール投与(OR 2.89、95%CI 1.48~5.65、P = 0.002)などであった。

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監訳者コメント
耐性菌感染症のリスク因子を明らかにすることは、耐性菌感染症を減らすために必要な研究である。本研究はその点で意義深い。明らかにされた独立リスク因子は、人種を除いて日本でもあてはまるものが多いと思われ、参考になる。

血管カテーテルへの細菌定着の評価におけるトリプシンの増感作用

Efficacy of trypsin in enhancing assessment of bacterial colonisation of vascular catheters

M.D. Mansouri*, V. Ramanathan, A.H. Al-Sharif, R.O. Darouiche
*Baylor College of Medicine and Michael E. DeBakey Veterans Affairs Medical Center, Texas, USA

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 328-331


医療器具器材から分離される微生物量は、器具関連感染の可能性を評価するうえで非常に重要である。このため、本研究では、in vitroの血管カテーテルと患者から抜去した血管カテーテルを対象として、カテーテルの超音波処理前にトリプシン存在下でインキュベートすることによって表面の定着細菌量が増加するかどうかを調べた。ポリウレタン製およびシリコン製のカテーテルにin vitroで別々に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および大腸菌(Escherichia coli)の各臨床分離株を定着させた。次いで、細菌が定着した各カテーテルの1 cm断片を同数ずつトリプシン含有溶液またはトリプシン非含有対照溶液中でインキュベートした。さらに、カテーテル断片入りの各溶液を超音波処理後、定量培養した。臨床群でも、患者から抜去した留置カテーテルを1 cmの断片に切断し、同様にトリプシン含有溶液または対照溶液中で懸濁させ、超音波処理後、定量培養した。トリプシン処理後の超音波処理により、ポリウレタン製およびシリコン製のin vitro細菌定着カテーテルから検出される黄色ブドウ球菌はそれぞれ14倍、30倍(P = 0.03、P = 0.04)、大腸菌はそれぞれ3倍、6倍に増加した(P = 0.04、P = 0.05)。超音波処理のみと比較して、トリプシン処理後の超音波処理により、患者から抜去した留置カテーテル上に高度な細菌定着が検出される率は10%増加し、定着細菌の平均コロニー数は11%増加した(P = 0.04)。カテーテルの超音波処理前のトリプシン処理により、超音波処理後の検出感度およびカテーテルへの高度な細菌定着の評価の精度が向上する。

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台湾におけるCitrobacter freundiiおよびCitrobacter koseri以外のシトロバクター(Citrobacter)属菌による菌血症

Bacteraemia caused by non-freundii, non-koseri Citrobacter species in Taiwan

C.-C. Lai*, C.-K. Tan, S.-H. Lin, W.-L. Liu, C.-H. Liao, Y.-T. Huang, P.-R. Hsueh
*Chi Mei Medical Center, Taiwan

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 332-335


本研究では、まれなシトロバクター(Citrobacter)属菌による菌血症の臨床的特性を解析した。シトロバクター・フレウンディー(C. freundii)およびシトロバクター・コセリ(C. koseri)以外のすべてのCitrobacter属菌分離株の種の同定を、2種類の市販同定システムと16S rRNA遺伝子配列解析により行った。2000年1月から2009年12月に、Citrobacter属菌による菌血症患者を合計306例特定した。4例(1.3%)がシトロバクター・ブラアキー(C. braakii)による菌血症、1例がシトロバクター・アマロナティカス(C. amalonaticus)による敗血症、1例がシトロバクター・セドラキー(C. sedlakii)による敗血症であった。C. freundiiおよびC. koseri以外のCitrobacter属菌であると誤同定された分離株は、Phoenix自動システムPMIC/ID-30では8株、Vitek IIシステムでは3株であった。C. freundiiおよびC. koseri以外のCitrobacter属菌による菌血症患者6例中5例(83.3%)は医療関連感染症であり、また5例(83.3%)は腹腔内感染からの続発症であった。頻度の高い基礎疾患は癌および肝硬変であった。6例中2例(33.3%)が死亡した。抗菌薬感受性検査から、Citrobacter属菌の種によって耐性パターンが異なることが示された。C. freundiiおよびC. koseri以外のCitrobacter属菌は同定が困難であり、免疫不全患者において二次性医療関連菌血症を引き起こす腹腔内感染症のまれな起因菌である。

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監訳者コメント
まれな起因菌による感染症の論文である。この領域に興味のある方は一読されてもよいかもしれない。また、臨床検体分離菌の同定が容易でないことを知る上でも興味深い結果が示されている。

中国・安陽の食道癌コホート研究における精度管理方法の評価

Evaluation of quality control procedures in an oesophageal cancer cohort study in Anyang, China

Z. He*, K. Chen, Y. Liu, M. Sun, F. Liu, H. Cai, Y. Ke
*Peking University School of Oncology, People’s Republic of China

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 336-339


本研究の目的は、中国・安陽で実施されている食道癌の主要なリスク因子としてのヒトパピローマウイルス(HPV)についてのコホート研究における内部精度管理方法の有効性を評価することである。サンプル採取対象の器具上の14か所から得た環境・器具スワブおよび模擬的サンプルの合計2,395の精度管理評価用サンプルを用いて、ヒトβ-グロビンおよびHPVのDNAの検出を行った。ヒトβ-グロビンDNAはサンプルの3.88%に認められたが、HPV DNAは検出されなかった。著者らが実施中のコホート研究での厳格な精度管理下でのサンプル採取・処理においては、HPV DNA汚染のエビデンスはみられなかった。本研究の結果から、使い捨て器具の使用、厳格な環境洗浄、および再利用可能な器具の高水準滅菌が、汚染予防に重要であることが示された。

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器具の汚染除去を考慮した歯科診療室の設計

Design of dental surgeries in relation to instrument decontamination

A.J. Smith*, D.E.A. Lockhart, E. McDonald, S. Creanor, D. Hurrell, J. Bagg
*University of Glasgow, UK

Journal of Hospital Infection (2010) 76, 340-344


最近のガイドラインは歯科用器具の汚染除去を診療エリア外で行うことを推奨している。本研究の目的は、歯科診療所の器具汚染除去設備の物理的な配置状況について、診療エリアの内外に分けて明らかにするとともに、診療所のレイアウトや換気法に関連するその他の要因を明らかにすることである。英国・スコットランドの歯科診療所の歯科医療従事者を対象として、面接と観察によりデータを収集した。室内のレイアウトを床の高さ、作業台の高さ、および作業台より上の高さで計測し、記録した。器具汚染除去処理を診療エリア内で行っている13の診療室および診療エリア外で行っている7の診療室を無作為に選択し、室内の寸法を詳細に分析した。調査を行った179の歯科診療室の55%は居住用施設を改装したものであり、また、ほとんどの歯科医師(91%)は建物を他の職種の医療従事者と共用していなかった。診療所内の部屋数の中央値は8(範囲2~21)、診療室数の中央値は3(範囲1~6)であった。器具汚染除去設備が診療エリア内に設置されているか否かにかかわらず、診療エリアがある部屋の面積の中央値はいずれも15.8 m2(範囲7.3~23.9 m2)(P = 0.862)であり、診療室面積の20%が作業エリアとして利用可能であった。7つの器具汚染除去専用室(診療所内汚染除去部門)の面積の中央値は7.6 m2(範囲2.9~16.0 m2)であり、床面積の平均63%が作業面として使用されていた。今回の調査から、居住用施設を改装した歯科診療室の配置には、医療施設としての適切な設計にあたって多くの制限があることが示唆される。

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監訳者コメント
英国の歯科診療の場におけるガイドラインと現実の乖離をデータで示した論文。英国は日本と同様、医療設備が古く狭い傾向にあるとされるが、歯科クリニックも同様であり、適切な感染対策の実施に対する阻害要因になっていることは興味深い。

汚染された内視鏡内のバイオフィルムの消毒・乾燥手順のシミュレーション

Mimicking disinfection and drying of biofilms in contaminated endoscopes

J. Kovaleva*, J.E. Degener, H.C. van der Mei
*University of Groningen, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2010) 76,345-350


汚染された軟性内視鏡から分離される菌種であるカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、およびステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)のバイオフィルム中の1菌種または2菌種に対する過酢酸系(PAA)消毒薬の効果を、追加手順として乾燥を行った場合と行わない場合で検討した。細胞培養用の滅菌ポリスチレン製96穴マイクロタイタープレートにバイオフィルムを形成させ、テトラゾリウム塩(MTT)還元法、および寒天平板を用いたバイオフィルムの連続10倍希釈法による酵母・細菌のコロニー形成数の測定により、バイオフィルムを定量化した。内視鏡チャンネル内のバイオフィルム形成、および軟性内視鏡の再処理に用いる消毒・乾燥手順をシミュレートするため、in vitroバイオフィルムモデルを使用した。過酢酸系消毒薬は、浮遊およびバイオフィルム中の細菌・酵母に対して消毒処理の直後には有効であったが、乾燥手順を省略した場合はいずれのバイオフィルムも再増殖を示した。乾燥後のマイクロタイタープレートでは、1菌種または2菌種のいずれのバイオフィルムにおいても再増殖は認められなかった。正しい乾燥手順を実行しないと、日常的な洗浄手順では内視鏡チャンネルからバイオフィルムを確実に除去することはできない。このことは、内視鏡再処理過程での汚染除去失敗の原因である可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
過酢酸系消毒薬の効果を最大限に引き出すためには、処理後の乾燥が必須であることを示した論文である。内視鏡管理業務の適正化に関する示唆に富む結果は非常に興味深い。しかし、乾燥条件が50℃、2時間となっており、やや非現実的な感じがしなくもない。

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