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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

糞便検体中のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の検出におけるグルタミン酸脱水素酵素の意義:メタアナリシス

The role of glutamate dehydrogenase for the detection of Clostridium difficile in faecal samples: a meta-analysis

N. Shetty*, M.W.D. Wren, P.G. Coen
*University College London Hospitals, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 1-6


クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)は重篤な、時として致死的な病院感染を引き起こす。患者の至適管理、感染制御、および信頼性の高いサーベイランスを確実に行うためには、C. difficile 感染の高い臨床検査診断精度が必要である。C. difficile 毒素を対象とした市販の ELISA 法は、細胞培養による細胞毒性検査や毒素産生性検査培養と比較して感度が低い。著者らは C. difficile 感染の診断におけるグルタミン酸脱水素酵素(GDH)の意義に関するメタアナリシスを行った。21 報の論文を分析し、このうち 8 報を除外した。「ゴールドスタンダード」である標準検査法(細胞毒性検査または毒素産生性検査培養)を使用している原著論文を対象としたほか、ゴールドスタンダードではなくても標準検査法として分離株の毒性検査を実施せずに培養検査を行っている論文も対象とした。除外基準は、ゴールドスタンダードの標準検査法が用いられていないこと、およびその研究が目的としている検査(index test)がゴールドスタンダードである場合とした。研究結果間の不均一性が大きかったため、サマリー ROC 解析が必要であった。メタアナリシスから、C. difficile の糞便中の存在の GDH による診断精度は高いことが示され、培養検査と比較した場合の感度と特異度は 90% を超えていた。この結果は、サマリー ROC プロットによって確証された。毒素産生菌株と非産生菌株を検出するために毒素産生株の代替指標として GDH を用いた場合、特異度は 80% ~ 100%、偽陽性率は約 20% であった。しかし、GDH 検査は感度と陰性適中率が高く、毒素検出検査を併用する二重検査アルゴリズムでは強力な検査法になると考えられる。

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監訳者コメント:
我が国でも C. difficile の共通抗原であるグルタミン酸塩脱水素酵素(glutamate dehydrogenase;GDH)の 43 kD のサブユニットをポリクロナール抗体で検出するキットが発売されているが、A/B毒素を検出するキットのほうが汎用されている。感度を高めるためには培養検査も実施する必要があり、アウトブレイク調査向けには菌株の保存が欠かせない。

感染制御:欧州での研究の今後 10 年間の展望

Infection control - a European research perspective for the next decade

M. Dettenkofer*, A. Ammon, P. Astagneau, S.J. Dancer, P. Gastmeier, S. Harbarth, H. Humphreys, W.V. Kern, O. Lyytikainen, H. Sax, A. Voss, A.F. Widmer
*University Medical Center Freiburg, Germany

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 7-10


2009 年 6 月、ドイツのフライブルク近郊でシンポジウムが開催された。欧州各国から 29 名の出席者が参加し、その多くは研究および病院感染の予防・制御に積極的にかかわっていた。発表・議論されたトピックスは下記のとおりであった。「多剤耐性微生物の制御のための隔離とスクリーニング」、「医療関連感染に対する環境の影響」、「感染制御のための新たな技術:エビデンスの現状」、「医療関連感染のサーベイランス」、「感染制御と医療関連感染制御のための方法論的課題と優先的研究事項」、「欧州統合により相互に学んだこと」。本稿では、議論の主な論点と、代表者間で合意したいくつかのコンセンサスについて概説する。

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監訳者コメント:
シンポジウムの紹介記事である。

英国の国民保健サービス(NHS)Foundation Trust における 2002 年から 2008 年のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染患者の 30 日死亡率

Thirty-day mortality of Clostridium difficile infection in a UK National Health Service Foundation Trust between 2002 and 2008

A.P. McGowan*, L.C. Lalayiannis, J.B. Sarma, B. Marshall, K.E. Martin, M.R. Welfare
*North Tyneside General Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 11-15


クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症患者の死亡率については、標準化されたデータがほとんどない。文献の多くは、C. difficile 感染に「関連する(attributable)」死亡率を報告しているか、普遍性がない死亡の指標を採用している。本研究の目的は、C. difficile 感染症患者の大規模な非選択的コホートを対象として、全原因死亡率のパターンと傾向を調査することである。総合病院 3 施設と地域病院 7 施設からなる国民保健サービス(NHS)トラストで、2002 年から 2008 年に糞便の毒素検査陽性により C. difficile 感染症と診断された全患者を対象に、後向きコホート研究を実施した。2 つの情報源に基づいて患者の生存状況を判定した。合計 2,571 例の初回 C. difficile 感染症患者を特定した(女性 1,638 例、年齢中央値 82.1 歳)。累積死亡率は 7 日目 13.4%、14 日目 20.8%、30 日目 32.5%、および 1 年目 58.7% であった。死亡率には性別、診断年、または病院による有意差は認められなかった。30 日死亡率は、40 歳未満の 3.4% から 90 歳超の 41% に段階的に増加した。死亡率はこれまでの研究の報告よりも有意に高かったが、調査期間全体にわたり、またトラスト内の病院間で高度に一致していた。予後は年齢の上昇とともに悪化したが、30 日絶対死亡率が高かったことは、本研究コホートの年齢から説明できると考えられる。C. difficile 感染症は早期の死亡率が高い。死亡率を低下させるためには、新規の介入を診断後速やかに開始する必要がある。C. difficile 感染症の転帰に関する標準化されたデータが求められる。

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監訳者コメント:
我が国とは異なり、欧米には毒性の強い致死性感染症を引き起こす C. difficile 流行株があり、感染対策状の脅威となっている。この論文はこうした背景でまとめられている。

イングランドの 2004 年から 2005 年のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)菌血症患者の死亡率

Mortality in patients with meticillin-resistant Staphylococcus aureus bacteraemia, England 2004-2005

T.L. Lamagni*, N. Potz, D. Powell, R. Pebody, J. Wilson, G. Duckworth
*Health Protection Agency Centre for Infections, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 16-20


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)菌血症と診断されたイングランドの患者の短期死亡リスクを明らかにするため、地域住民対象研究を実施した。2004 年から 2005 年にイングランドで実施した定期的サーベイランスで血液培養が MRSA 陽性であった患者全員を、国内死亡の登録と照合した。血液培養により MRSA 陽性と診断されてから 7 日以内の全死亡率(全原因死)は 20% であり、30 日以内の死亡率は 38% に増加した。死亡リスクが最も高いのは、血液採取の翌日であった(4%)。7 日以内の死亡率は女性のほうが男性よりも 16% 高かったが(オッズ比 1.16、95% 信頼区間 1.04 ~ 1.29)、30 日以内では有意差は認められなかった。死亡リスクは年齢の上昇とともに増加し、85 歳以上の患者の 7 日以内の死亡率は 28%(1,513 例中 425 例)、30 日以内の死亡率は 57%(1,513 例中 859 例)であった。死亡率には季節性がみられ、冬季が最も高く、夏季は最も低かった。一般集団と比較した場合の 1 週以内の年齢調整死亡率比は、男性 180 倍、女性 225 倍であった。この比率は 10 週目以降に急速に低下し、男女ともに約 9 倍となった。2004 年と 2005 年の MRSA 菌血症発症後の推定死亡率は人口 100,000 人あたり 5.53 人であったが、本研究では MRSA 菌血症との因果関係やこれに起因する死亡率の推測はできなかった。10 週目以降の死亡リスクが一般集団との比較で一定して増加していたことは、その背景に MRSA 感染とは関連しない死亡リスクが存在することを示している。

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監訳者コメント:
MRSA 保菌者の発症率は健常人に比べて高く、保菌そのものが問題である。本データは MRSA 保菌から発症までに関するリスクの紹介となる。

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)臨床分離株に対する3種類の擦式アルコール製剤の殺菌効果の ex vivo での担体試験(carrier test)による評価

Evaluation of the bactericidal efficacy of three different alcohol hand rubs against clinical isolates of Staphylococcus aureus using an ex vivo carrier test

K.E. Cheeseman*, S.P. Denyer, I.K. Hosein, G.J. Williams, J.-Y. Maillard
*Cardiff University, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 21-24


黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対する 3 種類の擦式アルコール製剤の効果を ex vivo の担体試験(carrier test)により評価するとともに、擦式アルコール製剤の残存効果、および機械的な摩擦の効果を調べた。Ex vivo 検査で殺菌効果を得るために要する擦式アルコール製剤との接触時間(10 分から 20 分以上)は、in vitro 検査よりもはるかに長かった。機械的な摩擦を併用した擦式アルコール製剤の効果は、機械的摩擦のみの対照群よりも高かった。擦式アルコール製剤には残存効果は認められなかったため、蒸発時間(15 秒)よりも長い接触時間を採用した今回の ex vivo 検査でみられた殺菌効果を、実地臨床で得ることは困難であると考えられる。これらの結果を考慮すると、実地臨床において擦式アルコール製剤によって顕著な殺菌効果(4 log10 以上の減少)が得られる可能性は低く、医療従事者の手指汚染減少の程度は交差汚染や医療関連感染のリスクを払拭するほどではないことが示唆される。擦式アルコール製剤には残存効果が認められなかったため、医療従事者の手指に保菌が再度生じることを予防することはできないと考えられる。

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監訳者コメント:
ごもっともな考察であるが、クロルヘキシジン等の合剤による同様の比較試験も実施すると、これらの効果が検証できて良いだろう。

病院の清浄度のモニタリングのためのベンチマークの決定

Finding a benchmark for monitoring hospital cleanliness

D. Mulvey*, P. Redding, C. Robertson, C. Woodall, P. Kingsmore, D. Bedwell, S.J. Dancer
*University of Glasgow, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 25-30


本研究では、病院の清浄度の 3 つのモニタリング法を評価した。その目的は、汚染環境にある患者に対するリスク指標としてのベンチマークを決定することである。2 病棟の臨床環境表面 5 か所を対象として、洗浄剤による洗浄前後に視覚的モニタリング、ATP バイオルミネッセンス、および微生物学的スクリーニングを 4 週にわたり実施した。院内の定期的な清掃対象に指定されていないその他の 5 か所からも、試料を採取した。3 つの方法すべてについて、定期的なモニタリングに適した値を選択するために、それらの測定値を統合し比較した。視覚的評価は、ATP 値および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)などの微生物叢による環境汚染を反映していなかった。微生物増殖レベルのカテゴリーと、選択したベンチマークよりも ATP が高値である割合との間には関連が認められたが、いずれも黄色ブドウ球菌または MRSA の存在の確実な予測はできなかった。ATP 値は、測定ごとに変動がみられることが多かった。洗浄剤を用いた洗浄によって有機物汚染レベルが 32% 減少したが(95% 信頼区間 16% ~ 44% 、P < 0.001)、指標としたブドウ球菌を確実に除去することはできず、その一部は洗浄後も生存していた。ATP のベンチマーク値を 100 RLU (相対発光量)とした場合に、微生物増殖レベルが 2.5 cfu/cm2 未満であることと最も強く相関した(受信者動作特性[ROC]曲線による感度 57%、特異度 57%)。結論として、微生物学的モニタリングと ATP 値のモニタリングにより、環境汚染および病院内の病原菌の存続を確認できること、および環境に対する現行の洗浄方法の効果を評価できることが示された。本研究により暫定的なベンチマークが明らかとなり、将来的には病院の清浄度の評価に有用であると考えられる。実用的な試料採取法および選択するベンチマークを改善するためには、さらなる研究が必要である。

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監訳者コメント:
微生物学的モニタリングと ATP 値のモニタリングにより、環境汚染および病院内の病原菌の存続を確認できること、および環境に対する現行の洗浄方法の効果を評価できることが示されたことは大きい。さらなる検証が求められる。院内清掃業務における客観的指標としての有用性を示す結果として評価したい。

数値流体力学を用いた一般病棟の換気システムの設計の再考察

Rethinking hospital general ward ventilation design using computational fluid dynamics

R. Yam*, P.L. Yuen, R. Yung, T. Choy
*City University of Hong Kong, Hong Kong SAR, PR China

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 31-36

良好な空気質管理下での室内換気により、病院内の空気伝播による呼吸器感染やその他の感染の拡大を最小限に抑えることができる。本稿では、一般病棟での感染予防・制御における換気の意義を検討するとともに、交差感染の機会を減少させることが可能な簡易かつ費用効果の高い換気法を明らかにする。数値流体力学(computational fluid dynamics)を利用して、数種類の換気システムによる微生物除去のシミュレーションおよび比較を行った。多くの一般病棟で使用されている従来の廊下の空気を流入させる設計ではなく、病室内の空気を排出するように設計を変更した。換気量の増加が認められたほか、数値流体力学的評価の結果から、換気能および微生物除去が有意に改善したことが示された。このような改善により、極めて低コストでありながら、適切に建設された隔離室が維持すべき基準を満たすことが可能である。交差感染を最小限に抑えるために、本研究で新たに特定された換気パラメータを、一般病棟の新規設計の際には広く適用することを推奨する。また全面的な改修よりもはるかに小さな解体かつ低コストで、現存の一般病棟に今回の換気システムを設置することが可能である。

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監訳者コメント:
設計・施工時の管理はできていても、恒常的な空調メンテナンスに関して我が国ではいまだ十分とはいえない。工学設計、空調管理面からの重要性をこうした論文を通して学びたい。

末梢静脈カテーテル:品質改善とより安全な患者ケアへの道筋

Peripheral intravenous catheters: the road to quality improvement and safer patient care

S. Boyd*, I. Aggarwal, P. Davey, M. Logan, D. Nathwani
*University of Dundee/NHS Ayrshire & Arran, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 37-41


中心静脈カテーテルのための「ケアバンドル」を用いた集中治療部門でのカテーテル関連血流感染減少の大成功が世界的な注目を集めている。英国・ダンディーの Ninewells 病院の感染症部門の多職種チームは、スコットランド保健保護局(Health Protection Scotland)が作成した草案(詳細はオンラインで閲覧可能)に基いて末梢静脈カテーテル(PVC)のための「バンドル」を開発した。高学年の医学部学生が週ごとのデータを収集して、月に 1 回「計画・実行・評価・改善(PDSA)」サイクルを実施、リアルタイムで結果を病棟に掲示した。データの内容は、PVC の挿入(挿入日の記録、適応、部位)と維持(連日の必要性の評価、挿入部位の臨床所見、挿入期間が 72 時間未満であるか、適時の抜去)に関する客観的な臨床評価指標であった。ケアバンドルの遵守を患者ごとに評価して、遵守率を週ごとにプロットした。当初の遵守率は 54% であったが、週あたり 1.11% ずつ改善して、82% にまで到達した(95% 信頼区間 0.6% ~ 1.6%、P = 0.0001)。この改善は、PVC の必要性に関する連日の評価、週ごとの監査とフィードバック、遵守に関する問題点を議論する患者安全の月例会議、PVC のための新しいドレッシング材の導入、および新たな PVC ケア計画の推進などの複数の介入によるものであった。結論として、著者らは、単一診療部門の PVC 管理をケアバンドルアプローチによって著しく改善したことを示した。遵守率を改善するためには、病院が全体で PVC ケアバンドルの実施を進める必要がある。

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監訳者コメント:
末梢静脈カテーテル(PVC)の合併症として、挿入部位の静脈炎や蜂窩織炎から重症菌血症まで幅広い臨床像があるが、その頻度についてはデータが乏しい。一方、英国の統計では黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌血症の約 10% が PVC に関連しているとされており、また入院患者の 3 人に 1 人は PVC を留置されている。このような背景から継続的質改善プロジェクトとして PVC ケアの改善に焦点をあてた研究である。
英国は 2008 年までに MRSA 血流感染症を 50% に削減させるプロジェクトを国家的に掲げ、実際に 2003 ~ 2004 年に比較して 2008 年には MRSA 菌血症の 57% 削減を達成した。「数値化できなければ管理することはできない(Edward Demming)」
なお、PVC の留置期間については 96 時間や 1 週間までとするデータもあり、さらなる検討が必要な領域であると考えている。

高濃度二酸化炭素による医療器材の消毒

Medical device disinfection by dense carbon dioxide

G. Bertoloni*, A. Bertucco, M. Rassu, K. Vezzu
*University of Padova, Italy

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 42-46


医療器材を再使用するための消毒・滅菌の過程について、毒性の残存や素材の劣化・変性などの望ましくない影響がない手順の採用は、外科・内科処置のコスト削減を考える上で重要なポイントである。エチレンオキサイドガスは、医療施設における低温滅菌法として最も広く使用されているが、その毒性のため医療器具の再処理技術としての関心を下げている。この研究の目的は、人工的に汚染させたカテーテル類に対する高濃度二酸化炭素を用いた新規の低温消毒法の消毒効果を評価することである。得られた結果から、検査対象としたすべての細菌・酵母株がこの方法により完全に不活化されて、複数回の処理を行ってもカテーテル表面に明らかな変性は認められないことが示された。

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監訳者コメント:
単回使用医療器材(sinle-use only)の再利用(re-use)は(ディスポーザブル大国の米国を含めて)世界的な課題であり、医療費コスト削減の大きな流れの中で引き続き注目を集めている。この研究は高濃度二酸化炭素による低温消毒の効果を評価しようとするもので、エチレンオキサイドのような毒性対策が必要ない可能性があり、今後の展開が注目される。

給水システムのレジオネラ菌を制圧するための各種手法の有効性:イタリアの大学病院の 10 年間にわたる経験

Effectiveness of different methods to control legionella in the water supply: ten-year experience in an Italian university hospital

I. Marchesi*, P. Marchegiano, A. Bargellini, S. Cencetti, G. Frezza, M. Miselli, P. Borella
*University of Modena and Reggio Emilia, Italy

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 47-51


病院給湯システムのレジオネラ菌汚染を制圧するために、高濃度塩素処理、加熱ショック、二酸化塩素、モノクロラミン、給湯タンク、および採水口フィルターを使用した 10 年間の経験を報告する。加熱ショック消毒では 1 ~ 2 か月以内に処理前の汚染レベルに戻った。二酸化塩素では 100 cfu/L 未満のレベルを維持することができ、またモノクロラミンの予備的試験の結果は十分に良好であった。採水口フィルターの設置または 58℃を超える温度の電気給湯タンクの使用では汚染は認められず、院内感染レジオネラ症は 10 年間の観察期間で認められなかった。レジオネラ菌汚染の減少効果は高いほうから、フィルター、給湯タンク、二酸化塩素、高濃度塩素処理、加熱ショックの順序であった。二酸化塩素が最も安価な方法であり、次いで加熱ショック、高濃度塩素処理、給湯タンク、フィルターの順であった。二酸化塩素と電気給湯タンクの併用を推奨する。

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監訳者コメント:
レジオネラ症(legionellosis)は、レジオネラ(Legionella)属菌を起因菌とする感染症で、レジオネラ肺炎と、肺炎を伴わない自然治癒型のポンティアック熱の 2 つの病型がある。Legionella属菌は自然の土壌や淡水に生息しており、エアロゾルを発生する人工環境である循環式浴槽、冷却塔、加湿器、ネブライザーなどで菌が大量に増殖した場合、健康成人も含めたアウトブレイクが発生することが報告されている。医療環境においても水の管理には注意する必要がある。レジオネラ症の潜伏期間は一般に 2 ~ 10 日間である。診断には尿中レジオネラ抗原(ただし、肺炎の起因菌として最も多い Legionella pneumophila serogroup 1 にのみ対応しており、その他の Legionella 属菌は対象としていないので注意が必要)や特殊染色検査・特殊培養検査が必要であり、検査部門との連携が極めて重要である。
なお、Legionella 属菌がヒト-ヒト間で感染伝播したとの報告は認められない。

イタリアにおける感染予防制圧の進歩:全国的調査

Progress in infection prevention and control in Italy: a nationwide survey

M.L. Moro*, M. Marchi, R. Buttazzi, S. Nascetti on behalf of the INF-OSS Project Group
*Agenzia Sanitaria e Sociale Regionale Emilia-Romagna, Italy

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 52-57


イタリアにおける感染予防制圧プログラムの普及状態および特性を明らかにするとともに、その近年の進歩を評価することを目的として全国的調査を実施した。小規模な 1 州を除くすべての地域が参加して、回答率は 88% であった。回答した 278 の公衆衛生トラストのほとんどすべてが感染対策委員会を設置しており、回答した 615 病院の 80% が感染制御チームを組織し、79% は感染管理看護師が在籍すると報告した。しかし、実際の感染制御チームの活動状況を検討すると、その実態は一様ではなく、月に 1 回以上のミーティングを開催する感染制御チームは 27% のみであり、地域格差が極めて大きかった[変動係数(CV)1.06]。感染予防制圧プログラムで地域格差が大きい特性項目は、有資格看護師(CV 1.55)および感染制御担当医師(CV 1.39)の存在、感染予防制圧活動と臨床リスク管理の統合(CV 1.05)、地域活動までも対象とする感染予防制圧プログラム(CV 0.98)、就職時の職員教育(CV 0.82)、多剤耐性微生物の制圧に関する文書化された管理方針の存在(CV 1.08)であった。重要かつ統計学的に有意な南北地域差が認められ、南部は北部と比較して感染予防制圧スコアが平均で 23 ポイントも低かった。2000 年に実施された同様の調査と比較すると、いくつかの項目に関しては地域単位での普及状態が有意に改善していた。注目すべき経時的改善がみられたものの、感染予防制圧の組織およびイニシアチブの確立状況が地域ごと、病院の種類ごとに大きく異なることから、イタリアの現状は依然として十分なものではない。

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監訳者コメント:
ヨーロッパでは医療関連感染予防制圧のための推奨事項が議論されており(Council of the European Union. Council Recommendation on Patient Safety, including the Prevention and Control of Healthcare Associated Infections, 2947th Employment, Social Policy, Health and Consumer Affairs. Council Meeting Luxembourg, 9 June, 2009)、イタリアでも 1985 年および 2000 年に制定された医療法で感染予防制圧とサーベイランスについて推奨が与えられているが、まだ改善の余地があることが全国調査により示されたとする報告である。議論されるポイント(有資格看護師や感染制御担当医師の配備、感染予防制圧活動と臨床リスク管理の統合、地域活動までも対象とする感染予防制圧プログラム、就職時の職員教育、多剤耐性微生物の制圧に関する文書化された管理方針の存在)はいずこも同じである。

敗血症の転帰の早期指標としてのプロカルシトニン:前向き観察研究

Procalcitonin as an early indicator of outcome in sepsis: a prospective observational study

E.J. Giamarellos-Bourboulis*, I. Tsangaris, Th. Kanni, M. Mouktaroudi, I. Pantelidou, G. Adamis, S. Atmatzidis, M. Chrisofos, V. Evangelopoulou, F. Frantzeskaki, P. Giannopoulos, G. Giannikopoulos, D. Gialvalis, G.M. Gourgoulis, K. Kotzampassi, K. Katsifa, G. Kofinas, F. Kontopidou, G. Koratzanis, V. Koulouras, A. Koutsikou, M. Koupetori, I. Kritselis, L. Leonidou, A. Mega, V. Mylona, H. Nikolaou, S. Orfanos, P. Panagopoulos, E. Paramythiotou, A. Papadopoulos, X. Papanikolaou, M. Pavlaki, V. Polychronopoulos, A. Skoutelis, A. Theodotou, M. Vassiliaghou, E.E. Douzinas, C. Gogos, A. Armaganidis on behalf of the Hellenic Sepsis Study Group
*University of Athens, Medical School, Greece

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 58-63


この研究では、敗血症の転帰の予測指標としてのプロカルシトニン(PCT)の意義について検討した。前向き多施設観察研究を実施し、入院患者 1,156 例を対象として敗血症発症後 24 時間以内に血液を採取した。234 例は敗血症発症時に集中治療部門(ICU)に入室していたが、922 例は非 ICU 症例であった。血清における PCT レベルを超高感度 Kryptor 法を用いて二重盲検下で測定した。非 ICU 症例の死亡率は、PCT ≦ 0.12 ng/mL の患者は 8% であったのに対して、PCT > 0.12 ng/mL 群では 19.9% であった[P < 0.0001、死亡のオッズ比(OR)2.606、95% 信頼区間(CI)1.553 ~ 4.371]。ICU で敗血症を発症した患者の死亡率は、PCT ≦ 0.85 ng/mL の患者は 25.6% であったのに対して、PCT > 0.85 ng/mL では 45.3% であった(P = 0.002、死亡の OR 2.404、95%CI 1.385 ~ 4.171)。結論として、PCT カットオフ値は敗血症の転帰の予測に有用であり、ICU への入室が有益であることが想定される患者を特定する上で特に重要であると考えられる。

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監訳者コメント:
プロカルシトニン(PCT)は、本来的にはカルシウム代謝を調節する甲状腺濾胞 C 細胞で産生されるペプチドホルモンであるカルシトニンの前駆体であるが、一方、細菌感染症や真菌感染症では TNF-α などの炎症性サイトカインの刺激により肺・腎・肝・脂肪・筋肉などの様々な臓器細胞によって産生される炎症マーカーである。ウイルス感染症においてはインターフェロン-γ が PCT の産生を抑制するとされており、その他、非感染性疾患では PCT の上昇は軽微であるとされることもあって、特に重篤な細菌感染症のマーカーとして PCT の有用性が期待されている。複数の論文によって血清 PCT 値は、感染症によらない全身性炎症反応症候群(SIRS)よりも敗血症(すなわち感染症による SIRS)で高いとされたが、メタアナリシスではその有用性が確認されていない。
この論文はギリシャの ICU における敗血症で血清 PCT 値の測定が有用である可能性を示しているが、どの臨床検査も必ず症例の臨床像から結果を判断するための検査前確率の把握が重要であり、単一の検査結果だけで治療方針を決定するのは無謀であると考える。テクノロジーよりも使いこなすコンセプトが重要である。

セファロスポリン高度耐性腸内細菌科細菌性人工呼吸器関連肺炎:コホート研究に基づく予後因子

High level cephalosporin-resistant Enterobacteriaceae ventilator-associated pneumonia: prognostic factors based on a cohort study

C. Aubron*, A. Chaari, R. Bronchard, L. Armand-Lefevre, P. Montravers, B. Regnier, M. Wolff, J.-C. Lucet
*Universite Xavier-Bichat, France

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 64-69


I 型誘導性染色体性 β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌のセファロスポリン高度耐性が、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の転帰に及ぼす影響は依然として不明である。高レベル AmpC(HL-AmpC)産生腸内細菌科細菌による VAP の予後因子を特定するために、2 つの集中治療部門(ICU)で 4 年間にわたる後向きコホート研究を実施した。この研究の対象は I 型誘導性染色体性 β-ラクタマーゼを産生する腸内細菌科細菌による VAP 患者 75 例とした。これらの VAP エピソードの 3 分の 1 が HL-AmpC 産生腸内細菌科細菌によるものであった。ICU 入室時の人口統計学的特性および臨床的特性は、腸内細菌科細菌の感受性にかかわらず患者間で同等であった。しかし、HL-AmpC 産生腸内細菌科細菌による VAP 患者のほうが、発症前抗菌薬投与の頻度が高く、また疾患重症度および臓器機能不全スコアが高かった。エンテロバクター(Enterobacter)属が HL-AmpC を産生する主要な VAP の起因菌であった。HL-AmpC 産生腸内細菌科による VAP はまれである。セファロスポリン高度耐性は、VAP 発症時の疾患重症度が高いことと関連していたが、28 日死亡率が高いこととは関連していなかった。

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監訳者コメント:
腸内細菌科(Enterobacter)細菌とは、大腸菌(E. coli)などの腸内細菌に代表される通性嫌気性グラム陰性桿菌であり、分類上の 1 つのグループである。一方、β-ラクタム系抗菌薬を分解する酵素である β-ラクタマーゼは、アミノ酸配列に基づく Ambler 分類によりクラス A からクラス D に分類される。その中でクラス A、C、D に属する β-ラクタマーゼは、活性中心にセリン残基を有するセリンペプチダーゼであり、一方、クラス B は活性中心に亜鉛分子を要求するメタロ-β-ラクタマーゼである。クラス A および D の中で第 2、3、4 世代セファロスポリン薬までを分解する能力を獲得した場合を特に基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ(ESBL)といい、細菌の染色体のみならずプラスミド上にもコードされることから、異なる菌株や菌種にさえ耐性因子が伝播されてしまう特徴がある。また、これらに加えて、クラス C に分類される β-ラクタマーゼの中に、腸内細菌科やブドウ糖非発酵菌の染色体上に存在して、セフェムの存在下でその大量産生が誘導されることから第 2、3、4 世代セファロスポリン薬まで分解する AmpC があり、抗菌薬投与により誘導される耐性であることから注意が必要である。なお、わが国では現状で AmpC 産生菌は少ないと考えてよい。
なお、ESBL 産生菌および AmpC 産生菌に対して、ほとんどの場合でカルバペネム系が有効であるが、最近では北米大陸などからクラス A に属するプラスミド性のカルバペネム分解酵素 KPC が報告されており、肺炎桿菌(K. pneumoniae)による産生菌が多いが、その他の腸内細菌科にも耐性伝播を示しており、世界的にも拡大する傾向があることから注意が必要である。

幹細胞培養におけるシュードモナス・メンドシナ(Pseudomonas mendocina)の偽性アウトブレイク

Pseudo-outbreak of Pseudomonas mendocina in stem cell cultures

S. Tschudin Sutter*, J. Halter, R. Frei, A.F. Widmer
*University Hospital Basel, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 70-72


シュードモナス・メンドシナ(Pseudomonas mendocina)は、アルゼンチン・メンドーサ州で採取された土壌および水サンプルから 1970 年代に初めて分離された。この細菌がヒトの尿と下肢潰瘍を除く臨床検体から分離されたと報告されたのは、1992 年の P. mendocina による心内膜炎の症例報告が初めてであった。この論文は、血液内科部門における診断用幹細胞培養からの P. mendocina 検出について述べる。3 件の診断用幹細胞培養から P. mendocina が同定されたためにアウトブレイク調査を開始した。診断用幹細胞培養に用いる調整用試薬を培養して P. mendocina を検出した。試薬製造会社でさらなるアウトブレイク調査を実施したところ、試薬の汚染が確認された。これは市販の「無菌」試薬からの P. mendocina によるアウトブレイクの最初の報告である。結論として、この環境病原体は臨床の現場で使用される試薬の汚染を引き起こす可能性がある。P. mendocina を検出した場合、病院職員に試薬汚染の可能性があることを警告すべきである。

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監訳者コメント:
新たな医療技術は新たな感染症リスクを生じる。遺伝子治療や再生医療などの技術革新が現実化すれば、医療関連感染予防制圧プログラムがカバーしなければならない領域はますます拡大する。感染対策担当者は常にアンテナを広く拡げておかなければならない。

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