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レーティング:[監訳者による格付け]
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医療従事者を対象としたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の日常的なスクリーニングを実施すべきか? エビデンスのレビュー

Should healthcare workers be screened routinely for meticillin-resistant Staphylococcus aureus? A review of the evidence

G. Hawkins*, S. Stewart, O. Blatchford, J. Reilly
*Health Protection Scotland, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 285-289


英国国民保健サービス(NHS)はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)が局地的流行の状態にあると認識しており、最近、スコットランドとイングランドでは入院患者に対する日常的な MRSA スクリーニングが導入された。英国国立スクリーニング委員会(National Screening Committee)は、「推奨されるスクリーニングプログラムの適格基準の強化を求める世論を予期しておくべきであり、またこれらに関連するあらゆる決定事項は科学的に正当なものでなければならない」と述べている。文献のレビューを実施し、スコットランドの MRSA スクリーニングの対象を医療従事者の日常的なスクリーニングまで拡張すべきかどうかを評価した。NHS 病院の医療従事者全体の MRSA 保菌率を報告した有病率調査は発表されていない。世界各国の文献に報告されている医療従事者の推定保菌率は、国、病院の専門科、および流行の状態(局地的流行、非局地的流行、またはアウトブレイク)によって大きく異なる。MRSA の局地的流行がみられる病院で実施された最近の研究によると、非アウトブレイク状況下の保菌率は 0%から 15%であった。MRSA の伝播における医療従事者の保菌の役割は十分に明らかにされていない。しかし、持続的な保菌は感染のリザーバとなる可能性があり、アウトブレイクに関する多くの報告では医療従事者が感染源となることが示唆されている。MRSA の局地的流行がみられる病院環境において、MRSA 感染予防・制御のための介入として医療従事者を対象とした日常的なスクリーニングを実施した場合の効果を評価した比較対照試験は報告されていない。医療従事者のスクリーニングに関するエビデンスの多くはアウトブレイクの報告から得られたものであり、これらの報告では、一連の感染制御対策の一環として職員に対するスクリーニングを導入した後、アウトブレイクが終息している。スコットランドの NHS 病院の医療従事者に対する日常的な MRSA スクリーニングの導入を推奨するためには、さらなる研究が必要である。

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手指衛生の直接的観察による日常的な監査:難題の登場か?

Routine hand hygiene audit by direct observation: has nemesis arrived?

D.J. Gould*, N.S. Drey, S. Creedon
*City University London, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 290-293


感染予防・制御の専門家は、医療従事者の手指衛生遵守を直接的観察により監査する手法を開発・実施するために、貴重な保健サービスの時間を費やしてきた。この方法は手指衛生の監査の「ゴールドスタンダード」とされているが、多大な労力を要するものであり、監査プロセスの質管理を確実に実施するために定期的なモニタリングを受けている熟練した職員が実施しない場合は不正確となる可能性がある。「リアルタイム」のデータを得るための新たな工学機器が開発されているが、これらの機器を導入し、定期的な患者ケアの際に使用した場合の費用評価は行われていない。また、手指衛生エピソードや前後の状況については、直接的観察ほどの情報量を得ることができない。手指衛生製品の使用量が直接的観察の安価な代用となる。製品の使用量からは、手指衛生エピソードまたは現場における手指衛生遵守の障壁についての詳細な情報は得られないが、継続的モニタリングのためのツールになり得ると考えられる。現場の問題を特定し実践を改善するために、高度な熟練スタッフが直接的観察による手指衛生実践の直接的評価やスタッフへの聞き取り調査をいつ、どこで実施すべきかは、感染予防・制御チームおよび臨床スタッフがデータを定期的に精査することによって示されるものと考えられる。

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国・地域レベルのキャンペーンによる医療環境での手指衛生の促進

Promoting hand hygiene in healthcare through national/subnational campaigns

E. Mathai*, B. Allegranzi, C. Kilpatrick, S. Bagheri Nejad, W. Graafmans, D. Pittet
*World Health Organization, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 294-298


世界保健機関(WHO)の First Global Patient Safety Challenge は 2007 年、医療環境での手指衛生の改善を目的とした大規模な共同活動に関するベースライン調査を実施した。2009 年には、現状の評価および成功に寄与する因子についての情報を得るために再調査を行った。WHO の地域事務局と当該領域の専門家が共同活動の特定を行った。2009 年 3 月から 4 月には、構造化質問票を用いてオンライン調査を実施した。2009 年の調査では合計 38 件のキャンペーンまたはプログラムの担当者が質問票に回答した。38 件中 29 件は国または地域レベルの進行中のイニシアチブであり、このうち22 件(75.8%)は 2005 年 10 月の First Global Patient Safety Challenge の発足後に開始したものであった。これらの共同活動の対象は主として総合病院、地域病院、および大学病院であったが、長期ケア施設およびプライマリ・ケア施設を対象とする割合は2007年の調査と比較して増加した。活動の進捗度は、認知度向上の段階から評価を実施中の大規模な公的活動まで様々であった。半数以上のイニシアチブ(29 件中 20 件)は複数の資金提供を受けており、また、政府は主要な資金提供者の1つであった。29 件のプログラム中 25 件(86.2%)は政府主導によるものであった。First Global Patient Safety Challenge の役割は、推進役としてツールや勧告を提供し、活動を主導・援助することであることが明確に示された。個別の障壁をどの程度重視しているかについては、イニシアチブによって大きな相違があった。いずれの地域でも、資金提供者からの融資に関連する障壁(優先項目とされていないこと、支援が不十分であること)および利用可能な医療資源が重大な問題であった。多くの国・地域の医療環境における手指衛生の促進は、明確な目標、戦略、および施策や医療資源の割り当てを介する政府支援に基づいて行われている。活動の継続にはこれらのことが重要であるが、医療資源の乏しい国々を含む各国間の共同活動を主導するためには、さらなる措置が必要である。

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手指衛生向上への患者の関与としての患者から医療従事者に対する手指衛生についての質問:英国患者安全機構(National Patient Safety Agency)のフィージビリティ・スタディ

Involving the patient to ask about hospital hand hygiene: a National Patient Safety Agency feasibility study

D. Pittet*, S.S. Panesar, K. Wilson, Y. Longtin, T. Morris, V. Allan, J. Storr, K. Cleary, L. Donaldson
*University of Geneva Hospitals and Faculty of Medicine, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 299-303


英国では毎年 300,000 例以上の患者が医療関連感染症に罹患する。医療関連感染症は医療システムの重大な負荷となっているが、その多くは予防が可能である。医療従事者の手指衛生は医療関連感染症の主要な予防法であるが、適切な手指衛生実践の遵守率は低い。英国患者安全機構(National Patient Safety Agency)は一般市民、入院患者、および医療従事者、特に急性期病院5施設の第一線の臨床部門のスタッフや感染制御看護師を対象として、患者の関与や取り組みの程度を高めることが手指衛生遵守の向上と医療関連感染症の減少に寄与するという考え方に同意するかどうかを調査した。一般市民の 57%(530 名中 302 名)は、医師はすでに手指衛生を実践していると考えられるため、医師に手指の清潔度について質問することはないであろうと回答した。入院患者の 43%(210 名中 90 名)は、医療従事者は手指を清潔にすべきことを認識しているはずであると考え、実践していることを信じると回答し、20%(210 名中 42 名)は、業務を適切に実践する医療従事者の能力を自分が疑問視しているように思われたくないと回答した。調査対象の医療従事者の多く(254 名中 178 名)は、患者との接触前に手指衛生を実践したかどうかを質問されれば、医療関連感染症は程度の差はあっても減少するであろうと回答した。患者と医療従事者のいずれもが、各患者に擦式アルコール製剤入り容器を支給することによって、患者による医療従事者に対する手指衛生への注意喚起を促すこと、また「どうぞ質問してください」という姿勢を積極的に支援することが、最も有用な介入であると考えていた。しかし、このような患者の関与は医師(または医療従事者)と患者との良好な関係を損なうという医療従事者の誤解を正すには、さらなる研究が必要である。

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中心静脈カテーテルの使用に関する全病院的調査

Hospital-wide survey of the use of central venous catheters

W. Zingg*, L. Sandoz, C. Inan, V. Cartier, F. Clergue, D. Pittet, B. Walder
*University of Geneva Hospitals and Faculty of Medicine, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 304-308


中心静脈カテーテル(CVC)の使用の適応に関するデータは、ほとんど報告されていない。留置期間中のカテーテル留置の適応を定量的に評価すること、および CVC の使用に関する医療従事者間での同意について調査することを目的として、全病院的な前向き観察コホート研究を実施した。カテーテル使用の観察を、医療機関への視察、医療従事者からの聞き取り調査、および患者カルテの調査により行った。CVC の挿入は患者 292 例に対して合計 378 回実施され、のべ留置期間は 2,704 カテーテル日であった。CVC の 93%はマルチルーメンカテーテルであり、70%は集中治療室(ICU)で留置されていた。留置期間中央値(および四分位範囲)は全病院 5 日(2 ~ 9 日)、ICU 4 日(2 ~ 7 日)、ICU 以外 8 日(3 ~ 15 日)であった。CVC 使用 1 日あたりの事前に規定した適応の平均件数は 1.7 件(ICU 1.9 件、ICU 以外 1.5 件、P < 0.001)であった。最も頻度が高いカテーテル使用の理由は長期(>7 日)の抗菌薬療法(49%)、次いで非経口栄養(22.3%)であった。不必要なカテーテル留置は合計 130 カテーテル日(4.8%)であり、ICU 以外のほうが高率であった(6.6%)。CVC の使用の適応について医療従事者間の同意が得られていた症例は 94%であった。しかし、ICU 以外の施設への視察のうち 35 回(8.3%)では、看護師および治療担当医師のいずれもカテーテル留置の理由を知らないことが判明した。ICU のほうがカテーテル留置期間は短いが使用頻度が高く、ICU 以外ではその逆であった。カテーテル使用を標的とする予防策は、ICU 以外の施設のほうが成功する可能性が高い。

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血管カテーテル先端部の選択的培養とルーチン培養との比較の前向き無作為化研究:患者の転帰、抗菌薬の使用、および微生物学的検査の作業負担

Prospective, randomised study of selective versus routine culture of vascular catheter tips: patient outcome, antibiotic use and laboratory workload

A. Perez-Parra*, M. Guembe, P. Martin-Rabadan, P. Munoz, A. Fernandez-Cruz, E. Bouza
*Hospital General Universitario Gregorio Maranon, Spain

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 309-315


血液培養陰性患者における血管カテーテル先端部の培養の意義を評価するため、入院患者から得たすべての先端部試料を、カテーテルの 2 種類のルーチン処理法に前向きに無作為割り付けし(1:1)、すべての患者の先端部を培養する群(ルーチン A 法)と菌血症または真菌血症を併発する患者の先端部のみを培養する群(ルーチン B 法)とを比較した。9 か月にわたり、ルーチン A 群には患者 318 例から得たカテーテル 426 本を、ルーチン B 群には322 例から得た 429 本を無作為に割り付けた(合計 640 例)。転帰およびコストを両群で比較した。人口統計学的データ、死亡率、入院期間、または抗菌薬の使用には、統計学的有意差はみられなかった。非菌血症/真菌血症患者(517 例)でのカテーテル抜去後の抗菌薬治療日数は、A 群(中央値 10.0 日、四分位範囲[IQR]6.0 ~ 14.0)のほうが B 群(8.0 日、IQR 4.7 ~ 12.2)よりも有意に長かった(P = 0.03)。抗菌薬の 1 日規定用量(DDD)は、A 群 10.8 DDD(IQR 2.4 ~ 26.9)、B 群 7.5 DDD(IQR 1.5 ~ 20.0)であった(P = 0.03)。治療を受けた患者 1 例あたりの抗菌薬の費用中央値は、A 群(222.30 ユーロ、IQR 20.30 ~ 1,030.60 ユーロ)のほうが B 群(109.10 ユーロ、IQR 10.90 ~ 653.20 ユーロ)よりも有意に高かった(P = 0.05)。すべての患者の血管カテーテル先端部をルーチン B 法で処理した場合の微生物学的検査による作業負担は、77%に減少すると考えられた。菌血症または真菌血症ではない患者に対しては、すべてのカテーテル先端部のルーチン培養による微生物学的検査を実施すべきではない。

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医療関連感染症の特定のための新たな方法の検証

Validation of a novel method to identify healthcare-associated infections

J. Lee*, Y. Imanaka, M. Sekimoto, H. Nishikawa, H. Ikai, T. Motohashi, Quality Indicator/Improvement Project (QIP) Expert Group for Clinical Evaluation
*Kyoto University, Japan

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 316-320


管理データを用いて医療関連感染症を特定するこれまでの試みは、大規模解析に使用できる可能性があるにもかかわらず不成功に終わっている。今回の研究では、管理データから得た抗菌薬の使用パターンに基づいて医療関連感染症を特定する新たな方法の精度を検証した。日本の4病院(584例)を対象として、カルテレビュー解析と新方法を同時に独立して実施し、医療関連感染症を特定した。新方法の精度を感度、特異度、陽性的中率、および陰性的中率を用いて定量化し、カルテレビュー解析と比較した。またCohenのκ係数を用いて、特定方法間の一致度を解析した。新方法では感度 0.93(95%信頼区間[CI]0.87 ~ 0.96)、特異度 0.91(95%CI 0.89 ~ 0.94)、陽性的中率 0.75(95%CI 0.68 ~ 0.81)、および陰性的中率 0.98(95%CI 0.96 ~ 0.99)であった。κ係数が 0.78であったことから、両方法の一致度は比較的高いことが示された。今回の結果により、新方法は大規模な患者群を対象とした医療関連感染症の特定に十分な妥当性を有していることが示されたが、陽性的中率が比較的低かったことから、個々の患者レベルでの感染症の特定に使用するには限界があることが示された。この新方法は、大規模な医療関連感染症の特定、疾患費用についての多施設共同試験のリスク補正、または医療関連感染症の制御方法の費用対効果分析の開始時などに適用できると考えられる。

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台湾の看護師による血液・体液曝露後管理の遵守意向:計画的行動理論の適用

Intention to comply with post-exposure management among nurses exposed to blood and body fluids in Taiwan: application of the theory of planned behaviour

N.-Y. Ko*, S.-H. Yeh, S.-L. Tsay, H.-J. Ma, C.-H. Chen, S.-M. Pan, M.-C. Feng, M.-C. Chiang, Y.-W. Lee, L.-H. Chang, J.-F. Jang
*National Cheng Kung University & Hospital, Taiwan

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 321-326


看護師は、針刺しや鋭利物損傷による血液媒介ウイルスの職業的感染リスクが極めて高い。本研究の目的は、看護師が職業曝露後管理を遵守する意向を、計画的行動理論(theory of planned behavior)を用いて予測することである。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)拠点病院に勤務する一部の正看護師に対して横断研究が実施された。計画的行動理論に基づいた無記名の自記式質問票を 1,630 名の看護師に配布し、1,134 名(69.5%)から回答を得た。これらの看護師のうち、2003 年から 2005 年に血液・体液曝露があったと報告したのは合計 802 名(71%)であり、この集団を解析対象とした。曝露を受け、感染症専門医による曝露後予防の処方を受けた看護師 121 名のうち、経過観察のために再度受診した看護師は 44.6%のみであり、また曝露した看護師のうち最終的な血清学的状態の確認を行った看護師は 56.6%のみであった。構造方程式モデリングにより計画的行動理論を評価したところ、行動統制感(perceived behavioral control)(曝露後予防による管理の難易度についての看護師の認識、β = 0.58)、主観的規範(subjective norm)(曝露後予防を遵守すべきとする社会的圧力についての看護師の認識、β = 0.15)、および姿勢(曝露源の血清学的状態を確認する必要性に対する看護師の認識、β = 0.12)は、看護師の曝露後管理を遵守する意向に、有意かつ直接的に影響することが示された。仮説モデル検定からは、このモデルは予測された関連性および理論的構成概念(theoretical construct)の方向性に適合することが示された(χ2[14、N = 802]= 23.14、P = 0.057、GFI = 0.987、RMSEA = 0.039)。看護師が曝露後管理を遵守する意向の分散値の 54%は、計画的行動理論モデルの構成概念(theory of planned behavior model construct)によって説明された。計画的行動理論は、看護師が曝露後管理を遵守する意向の予測に適したモデルである。医療施設は、看護師の曝露後管理の遵守を促すために、経過観察にかかわる負担を軽減するための指針を設けるべきである。

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病院に勤務する医療従事者のインフルエンザワクチン接種率の向上に必要な因子の特定

Determination of factors required to increase uptake of influenza vaccination among hospital-based healthcare workers

C.E. Hopman*, J. Riphagen-Dalhuisen, I. Looijmans-van den Akker, G. Frijstein, A.D.J. Van der Geest-Blankert, M.B. Danhof-Pont, H.J. De Jager, A.A. Bos, E. Smeets, M.J.T. De Vries, P.M.M. Gallee, A.F. Lenderink, E. Hak
*University of Groningen, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 327-331


病院に勤務する医療従事者のインフルエンザワクチン接種遵守の予測因子を明らかにするために、オランダの 8 つの大学医療施設を対象として質問票による研究を実施した。行動モデルおよび実践モデルに基づいて、人口統計学、行動、および組織に関連する決定因子の評価を行った。多変量回帰分析により、インフルエンザワクチン接種の独立予測因子を評価した。年齢 40 歳超、慢性疾患の存在、個人的リスクの認識、他の患者への感染リスクの認識、ワクチンが他の患者への感染リスクを低下させる効果を信頼していること、医療従事者は周囲に害を与えてはいけないという義務感、医療従事者は医療行為の継続を確実に行うべきという義務感、外部から常に人が院内に入ってくるにもかかわらずワクチン接種は有効であるという知識、オランダ健康審議会(Health Council)の勧告についての知識、社会からの影響、都合のよい時間にワクチン接種が実施されることは、いずれもワクチン接種と独立した関連があった。予測モデルの精度は極めて高かった(AUC = 0.95)。インフルエンザワクチン接種を受ける医療従事者の増加を図るための介入プログラムでは、本研究で特定された決定因子を標的とするべきである。

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監訳者コメント
医療従事者のインフルエンザワクチン接種率は、日本の医療施設において近年めざましい向上がみられる。背景には、その費用負担を主に医療施設としていること、日本人が組織の取り決めにあまり抵抗せず(疑いもせず)従う傾向にあること、などがあげられよう。これに対して欧米では接種率がなかなか向上しないという報告をよく目にする。本論文でも 1,300 名の回答者における接種率は 37%にとどまっている。その分、ワクチン接種と非接種の群における要因の相違に関する検討は容易であり、本論文ではそれが詳細に行われている。すでに高い接種率を得ている医療施設ではあまり参考にならないだろうが、これから接種率向上を目指す施設では参考になる結果である。

台湾の院内通行管理バンドルおよび医療従事者の院内重症急性呼吸器症候群の根絶

Taiwan’s traffic control bundle and the elimination of nosocomial severe acute respiratory syndrome among healthcare workers

M.-Y. Yen*, Y.-E. Lin, C.-H. Lee, M.-S. Ho, F.-Y. Huang, S.-C. Chang, Y.-C. Liu
*National Yang-Ming University, Taiwan, ROC

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 332-337


院内通行管理バンドルは、院内感染の流行を予防することを目的として策定された手段を組み合わせたものである。台湾で重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した 2003 年に、医療従事者の院内感染予防に最も有効であった因子を明らかにするために、一連の感染制御対策を後向きに評価した。発熱スクリーニングコーナー(fever screening station)、発熱患者のトリアージ、SARS 患者のその他の患者からの分離、患者と医療従事者の出入り口・通路を別にすること、および手洗い設備の増設は、いずれも医療従事者に対する予防効果が証明された(単変量解析、P < 0.05)。多重ロジスティック回帰分析では、(i)リスクの異なる区域間のチェックポイントに、手袋着用で擦式手指消毒を行うためのアルコールディスペンサーを設置すること、および(ii)救急外来の外部に発熱スクリーニングコーナーを配置して発熱のスクリーニングを行うことが、医療従事者の SARS 院内感染を効果的に最少化する有意な方法であった(P < 0.05)。今後の感染症流行時には、厳格な感染制御対策を達成する手段として、院内通行管理バンドルを適用すべきである。

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監訳者コメント
SARS に限らず、感染症の流行時には患者と医療従事者の動線を分離することの有効性は想像に難くない。本論文では、医療従事者の SARS 院内感染が 1 名以上発生した 19 施設と、発生しなかった 31 施設における感染制御対策の相違を検討している。効果がありそうな感染対策の有効性が有意差をもって証明されたことは望ましい。ただし、手袋を着用したままアルコール性手指消毒薬による手指衛生を行うという点については、他国で適切と考えられている手技との若干の乖離がある。本来、手袋を外して手指衛生を実施すべきところであろう。

リアルタイム PCR で確認された新生児集中治療室における RS ウイルスアウトブレイクの制御のためのパリビズマブ投与と感染制御対策★★

Use of palivizumab and infection control measures to control an outbreak of respiratory syncytial virus in a neonatal intensive care unit confirmed by real-time polymerase chain reaction

K. O’Connell*, T.W. Boo, D. Keady, U. NiRiain, D. O’Donovan, M. Commane, C. Faherty, M. Cormican
*University College Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 338-342


RS ウイルスは早産児の生命を脅かす感染症の病原体となり得る。当院の新生児集中治療室(NICU)で 2010 年 2 月に発生した乳児 4 例のアウトブレイクを報告する。RS ウイルス A 型感染症がリアルタイム PCR で確認された。NICU の全乳児にパリビズマブを投与した。新たな有症状者は認められず、反復的な RS ウイルスサーベイランスにより NICU 内にさらなる交差伝播はないことが確認された。今回のアウトブレイクから、NICU の病床利用率が非常に高い場合は感染制御が困難であること、および分子学的方法はウイルス検出および患児の管理を円滑に進めるうえで有用であることが明らかにされた。

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監訳者コメント
本事例の舞台となった NICU は 14 床で、2 床が個室、残り 12 床が 3 部屋(4 床室)に配置している。日本の大部分の NICU は大部屋であることが多く、本事例よりもさらに劣悪な環境に置かれている。その意味で、RS ウイルスのアウトブレイクのリスクはより高いと考えられる。パリビズマブの治療的および予防的投与は日本でも可能であり、高価な薬剤であるものの、本事例のような場合には費用対効果が高いと考える。それも含め、本事例で経験されたこと、およびその対処方法は大変参考になる。

フランス北部の病院における緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の薬剤耐性率高値と関連する因子としてのイミペネムおよびシプロフロキサシン使用量

Imipenem and ciprofloxacin consumption as factors associated with high incidence rates of resistant Pseudomonas aeruginosa in hospitals in northern France

K. Miliani*, F. L’Heriteau, L. Lacave, A. Carbonne, P. Astagneau, on behalf of the Antimicrobial Surveillance Network Study Group
*Regional Coordinating Centre for Nosocomial Infection Control (C-CLIN Paris-Nord), France

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 343-347


フランスでは、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は院内感染症から分離される微生物の中で 3 番目に多い。一部の抗菌薬の高い使用率が、緑膿菌のセフタジジム、イミペネム、シプロフロキサシン、およびアミカシンに対する耐性のリスク因子であるかどうかを明らかにするために、フランス北部の Antimicrobial Surveillance Network およびフランスにおける感染制御指標の公的報告システムから得たデータに基づいて研究を実施した。これらのデータは、病院の特性(規模、タイプ、非急性期病床の割合)、抗菌薬使用量、一部の主要な薬剤の耐性率、および医療関連感染の制御の質の指標に関連するものである。単変量解析では、全抗菌薬および個別の抗菌薬(アモキシシリン・クラブラン酸およびイミダゾールを除く)の使用量が多いことは、緑膿菌の薬剤耐性率高値と関連していた。多変量解析では、一部の主要な薬剤の耐性率が高いことは、イミペネムおよびシプロフロキサシンの使用量が多いことと関連していた(いずれもオッズ比 7.9、95%信頼区間 2.24 ~ 28.09、P < 0.05)が、医療関連感染の制御の質の指標との有意な関連はみられなかった。これらの結果から、イミペネムおよびシプロフロキサシンの使用は、その他の感染制御の質の指標とは独立して、緑膿菌の薬剤耐性発現に主要な役割を果たしている可能性が示唆される。

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監訳者コメント
緑膿菌の耐性化にどの抗菌薬が関与しているかを、抗菌薬使用と耐性菌の臨床データから検討したもの。メカニズムはともあれ、カルバペネムとニューキノロンの使用が緑膿菌の耐性を増加されるという結果は、緑膿菌感染症に対する治療に慎重さが求められることを示している。

教育的介入実施前の心臓胸部手術中の医療従事者の感染予防策遵守に関する調査:遵守率は低いが手術部位感染発生率は他国と同等である

Pre-educational intervention survey of healthcare practitioners’ compliance with infection prevention measures in cardiothoracic surgery: low compliance but internationally comparable surgical site infection rate

E. Tartari*, J. Mamo
*Mater Dei Hospital, Malta

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 348-351


手術部位感染(SSI)は、術後の重大な合併症や死亡をもたらす困難な問題であり、感染制御指針の遵守状況を反映すると考えられる。構造化した観察研究により、Mater Dei 病院での開心術時に、心手術室の外科医、麻酔科医、看護師、人工心肺技師、および病棟助手の感染制御実践のデータを収集した。バイアスを防止するため、外科チームのメンバーには観察の対象となる実践手技が何であるかを開示しなかったが、被験者は感染制御実践が観察されていることは認識していた。調査に同意した開心術後生存患者を対象として退院後に電話調査を実施し、術後 30 日間の SSI 発生率の評価を行った。無作為に選択した 30 件の手術中の感染制御実践を観察したところ、環境消毒、手指衛生、手術中の室内移動、および手術時手洗いを実施していない医療従事者(麻酔科医および人工心肺技師)の手術時の服装に関連する不適切な実践が高率に認められた。開心術を受けた 155 例中 140 例の追跡を行い、91.5%から回答を得た。SSI 発生率は、胸骨部位およびグラフト採取部位の双方を含めると、浅部 16.4%、深部 4.3%であった。心手術に関与した手術時手洗いを実施していない医療従事者の感染制御実践の遵守は不良であり、SSI の発生率は高く、伏在静脈採取後の下肢の創感染が多かった。

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監訳者コメント
SSI 発生率が他国と同等である、という論文タイトルであるが、開心術の SSI 発生率 20%は様々なデータに比べて明らかに高率である。また本サマリーでも SSI 発生率が高かったと著者自身が分析している。タイトルが事実誤認であると思われる。また、感染制御実践に関しては、121 項目について観察調査を行っているが、遵守が不良なものと良好なものがいくつか記載されているに過ぎず、詳細なデータは示されていない。遵守率が低かったものとして挙げられている環境消毒、手指衛生、手術中の室内移動、外回りの者の手術時の服装などは、SSI 発生に対する影響は比較的小さい。本研究における高率な SSI 発生は他に原因があると考えられ、結果の解釈には注意する必要がある。

神経外科における手術部位感染サーベイランスの効果★★

Impact of surgical site infection surveillance in a neurosurgical unit

S. Buffet-Bataillon*, C. Haegelen, L. Riffaud, M. Bonnaure-Mallet, G. Brassier, M. Cormier
*CHU Pontchaillou, France

Journal of Hospital Infection (2011) 77, 352-355


本稿では、神経外科手術後の手術部位感染(SSI)の 2 年間にわたるサーベイランス、および深部脳刺激療法を施行した症例における感染症アウトブレイクについて述べる。2008 年の 4 月から 12 月に、深部脳刺激療法施行後に 6 例の患者が SSI を発生した。手術にかかわる衛生実践、医療環境の感染制御、および術前の予防的抗菌薬投与の特性の監査を行った。その結果から、術前皮膚処置および抗菌薬予防投与が適切に行われていないことが示された。2008 年の全 SSI 発生率は 1.8%であった(1,471 例中 27 件)。術前入院期間は、感染発症患者(2.7 ± 2.9 か月)のほうが非発症患者(2.2 ± 4.6か月)より有意に長かった(P = 0.01)。これらの結果に基づき、神経外科チームとともに術前皮膚処置および抗菌薬予防投与を再検討した。2009 年の全 SSI 発生率は 1.1%(1,410 例中 SSI 16 件)であり、2008 年と比較して減少した(P = 0.12)。2008 年の全 SSI 発生率(1.8%)はこれまでに公表されているデータの範囲内であったが、今回の SSI サーベイランスによって、深部脳刺激療法のための手術後に SSI が認められた患者を特定することが可能であった。その後、SSI リスクを低下させる一連の措置が講じられた。今回の結果は、積極的サーベイランスプログラムによって臨床実践がいかに改善するかを示すものである。

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監訳者コメント
SSI サーベイランスを行って SSI を同定・監視し、それによって SSI のアウトブレイクを発見することが可能になり、その原因の調査を行い、問題点を明確にして改善していくという、サーベイランスのお手本のような報告である。フランスからの報告であるが、Infection Control Team(ICT)という言葉も使われており、感染制御担当者と外科医が全面的に協働して SSI 防止を目指している様子がうかがえる。模範的活動であり、また日本のサーベイランスの手法に近く、大いに参考になる。この手の論文で逃しがちな SSI の定義も明確に記されており、論文としての質も高い。是非ご一読をお勧めする。

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Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.