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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

消毒:Spaulding 分類を見直すべき時期か?★★

Disinfection: is it time to reconsider Spaulding?

G. McDonnell*, P. Burke
*STERIS Limited, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 163-170


Spaulding 分類は 1957 年に最初に提唱されたが、表面の消毒および滅菌の方法、特に再利用可能な医療器材・外科用器材について、実際に利用可能な処理方法との組み合せを示しており、広く用いられている。Spaulding 分類では、器材の使用方法に関連したリスクを「クリティカル(高リスク)」から「セミクリティカル」、「ノンクリティカル(低リスク)」に分類して、これらに基づく器材の再処理時に考慮すべき処理方法を、低水準消毒から滅菌までに順位付けをしている。消毒水準の相違は、各種の病原体を代表する確立された指標微生物に対する抗微生物活性の評価に基づいている。現在でもこの分類システムは 1957 年の時点と同様に妥当であると考えるが、微生物学と微生物に関する知見は当時から変化している。この論文では、高水準、中水準、低水準の消毒に関する現在の定義と期待される効果の正当性に異論を唱える、ウイルス、細菌、原虫およびプリオンの消毒に関する研究の一部を取り上げて議論する。これらの研究の多くでは、試験対象となった微生物は消毒処理に対して非典型的な抵抗性または耐性の性質を示した。実験室レベルの研究だけではなく、少なくともこれらの微生物の一部で、殺生物剤耐性による予期しない消毒の失敗によって感染症アウトブレイクが生じた可能性がある臨床的なエビデンスが示されている。これらの報告は読者に対して、現在の定説に疑問を呈し、消毒・滅菌への期待を再考するべきであることを促すものである。

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監訳者コメント
一応、念のため、清潔要求度(Spaulding 分類)に応じた消毒薬の使い方を確認しておくと、クリティカル器具とは、体内の無菌部位に埋め込まれる器具や血液と長時間にわたり接触する器具で、原則としては滅菌が必要である。滅菌できない器具にはウォッシャー・ディスインフェクターによる高温洗浄処理が推奨される。専用の洗浄装置がない場合は、流水による用手的予備洗浄により血液などの有機物を可視的に完全に除去した後、2.25%(w/v)グルタラールに室温で 1 時間以上の浸漬消毒などの化学滅菌を試る場合が多い。セミクリティカル器具とは、粘膜および創のある皮膚と接触する器具であり、高水準消毒薬(フタラールや過酢酸)による処理が適当となる。セミクリティカル器具の代表である内視鏡の洗浄・消毒は、自動洗浄器の使用が一般的であるが、洗浄により有機物の汚染を除去した後、高水準消毒薬への浸漬消毒とする。消毒した後のすすぎは滅菌水を使うことが望ましい。創のある皮膚に接触する可能性がある体温計などには中水準消毒薬が必要で、消毒用エタノールや次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒する。また、ノンクリティカル器具とは創がない正常な皮膚とのみ接触する可能性がある器具で、聴診器、血圧測定用カフ、ベッド枠やリネン類、ベッドサイドテーブルなどが該当する。これらノンクリティカル器具から病原微生物が水平伝播される可能性は極めて低く、低水準消毒薬(両性界面活性剤、四級アンモニウム塩、クロルヘキシジンなど)による処理または水拭きでよい。
微生物の側から消毒薬への抵抗性を順に並べてみると、最も抵抗性が強いのはプリオンであり、以下、細菌芽胞(Clostridium 属や Bacillus 属など)、原虫接合子嚢(Cryptosporidium 属、など)、蠕虫卵(回虫や蟯虫など)、抗酸菌(結核菌[Mycobacterium tuberculosis ]など)、小型・非エンベロープ性ウイルス(ポリオウイルスやパルボウイルスなど)、原虫嚢(Giardia 属や Acanthamoeba 属など)、真菌胞子(Aspergillus 属や Penicillium 属など)、グラム陰性桿菌、生長期にある(vegetative)真菌、生長期の蠕虫・原虫、大型・非エンベロープ性ウイルス(アデノウイルスやロタウイルスなど)、グラム陽性球菌の順となり、最も消毒薬への感受性がよいのはエンベロープ性ウイルス(HIV、B 型肝炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス)とされている。高水準消毒は細菌芽胞までカバーすることが求められるが、中水準消毒は抗酸菌あたりまで、低水準消毒は一般細菌あたりまでのカバーが期待される。
臨床的に広く活用されており、体系的な理解も得やすい Spaulding 分類は、引き続いて消毒・滅菌の基本としての重要な位置を占めると考えるが、プリオンなどの新しい病原体や新しい知見に基づく知識のブラッシュアップが必要であることは言を待たない。

病院環境の消毒と感染制圧のための過酸化水素の空中散布:システマティックレビュー

Airborne hydrogen peroxide for disinfection of the hospital environment and infection control: a systematic review

M.E. Falagas*, P.C. Thomaidis, I.K. Kotsantis, K. Sgouros, G. Samonis, D.E. Karageorgopoulos
*Alfa Institute of Biomedical Sciences (AIBS), Greece

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 171-177


環境の消毒薬および臨床環境における感染制圧策としての過酸化水素の空中散布の有効性について文献レビューを行った。システマティックレビューにより対象に適格な 10 件の研究を特定した。過酸化水素は、7 件の研究では蒸気として、3 件の研究はドライミストとして散布されていた。評価の対象となった病原体は、5 件の研究でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)、3 件でクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)、および 2 件では複数の細菌種であった。該当データを個別に報告している 9 件の研究では、何らかの清掃介入を実施する前に採取した合計 480 か所の環境からのサンプルの 187 か所(39.0%、範囲 18.9% ~ 81.0%)が、研究の対象とした病原体に汚染されていた。6 件の研究では、最終清掃後に採取した 630 か所のサンプルの 178 か所(28.3%、範囲 11.9% ~ 66.1%)、10 件の研究では過酸化水素散布後に採取した 682 か所のサンプルの 15 か所(2.2%、範囲 0% ~ 4.0%)に汚染が残存していた。4 件の研究は、感染制圧のための過酸化水素蒸気の使用について評価を実施していた。この中の 2 件の研究では過酸化水素蒸気の散布により院内アウトブレイクが制圧され、残りの 1 件では MRSA による持続的な環境汚染が根絶されて、1 件では C. difficile 感染症が減少していた。

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監訳者コメント
過酸化水素蒸気による環境消毒は、カナダや米合衆国において、深刻な高病原性 C. difficile の流行への対策として開発が進んだ背景があり、その他にも医療環境の汚染が重要な位置を占める多剤耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)への対策としても注目されている。ただし、実際に臨床的な効果が認められるか実証的な研究を積み重ねなければならないと考える。

臨床現場における表面および用具の清浄度監査:誰が何を清掃しているのか?

Cleanliness audit of clinical surfaces and equipment: who cleans what?

R.E. Anderson*, V. Young, M. Stewart, C. Robertson, S.J. Dancer
*Hairmyres Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 178-181


現在のガイドラインは臨床設備の定期的な清掃を推奨している。外科部門における物品について、主な使用者、手指の接触頻度、清掃責任者、および有機物質汚染レベルを観察した。設備の清浄度を HygienaR ATP システムを用いて 3 回ずつ測定して、100 相対発光量(RLU)をベンチマークとして評価した。評価対象は 44 品目であり、このうち 21 品目は臨床補助員、5 品目はハウスキーピング担当者、3 品目は看護師、3 品目は医師が清掃を担当し、12 品目は清掃責任者が指定されていなかった。ハンドジェル容器、ベッドのコントローラ、血圧計のカフ、および診療録などの小型の設備の 100 cm2 あたり RLU の幾何平均は 60 ~ 550 であり、心電図装置、除細動器、カート、およびテーブルなどの大型の設備でも 80 ~ 540 とほぼ同様の数値であった。すべての表面における 100 cm2 あたり RLU の幾何平均は 249 で、84%の品目(44 品目中 37 品目)がベンチマーク 100 RLU を超えていた。医療従事者が清掃した 27 品目中 24 品目(89%)と清掃責任者が指定されていなかった 12 品目中 11 品目(92%)がベンチマークに到達しなかった。「清浄」な(100 cm2 あたり 100 RLU 未満) 7 品目中 3 品目はハウスキーピング担当者が清掃を行っていた。ハウスキーピング担当者が清掃した表面の平均 log10 RLU は、臨床補助員が清掃した表面と比較して 64%低かった(95%信頼区間 35% ~ 80%、P = 0.019)。結論として、臨床設備は、清掃責任者が指定されているか否かにかかわらず、高レベルの有機物質汚染が検出される頻度が高い。これらの知見から、清掃責任者を指定しつつ職員に対する教育を実施するとともに、臨床設備の清掃方法の評価を行う必要があることが示唆される。

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監訳者コメント
環境や器具の接触表面の汚染は医療関連感染症のリスクである。医療環境整備は看護業務の一部として取り扱われることが多いようであるが、病院清掃については担当者を明らかにして専門的に取り組まれる必要がある。
“整理・整頓・清掃・清潔・躾” による 5S 活動は、安全で作業効率のよい医療の提供に必須であるが、清掃は慣れた方へ任せることをお勧めしたい。

異なるマイクロファイバークロスによる医療関連感染症微生物の表面上からの除去に関する有効性の評価

Assessing the efficacy of different microfibre cloths at removing surface micro-organisms associated with healthcare-associated infections

D.L. Smith*, S. Gillanders, J.T. Holah, C. Gush
*Campden BRI, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 182-186


この研究は、10 種類のマイクロファイバークロスについて、管理された実験室の条件の下に、病院環境で一般的にみられる 3 種類の表面(ステンレススチール、家具用ラミネートシート、セラミック・タイル)から微生物汚染を除去する能力を評価した。試験には医療関連感染症の起因菌となることが知られているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)(芽胞)、および大腸菌(Escherichia coli)を使用した。クロスの初回かつ単回使用による汚染除去能力には、評価したクロスの間で相違がみられることを示す統計学的に有意なエビデンスが得られた(P < 0.001)。しかし、これらのうちで再利用が可能な 9 種類のクロスによる汚染除去による細菌数減少量の相違は log10 値で 1 未満で、全体的な汚染除去能力に実質的な差異はなかった。一方、使い捨て用マイクロファイバークロスによる汚染除去能力は顕著に不良であった。いずれのクロスによる汚染除去能力も、汚染表面上で連続的に複数回使用した場合は低下した。クロスの反復洗浄の影響については、再利用可能なクロスの汚染除去能力は 75 回の洗浄により改善したが、150 回の洗浄後は低下した。しかし、大半のクロスでは 150 回の洗浄後の汚染除去能力は初回洗浄後と比較しても良好であった。すべてのクロスにおいて、価格は汚染除去能力の指標とはならなかった。今回の実験室での知見から、結論として、評価したマイクロファイバークロスの使用は病院環境中の特定の表面上の MRSA、大腸菌、および C. difficile 芽胞のレベルを減少させるための有効な方法であり、病院環境において有益であると考えられる。

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監訳者コメント
マイクロファイバークロスは、少量の水に濡らすだけで、界面活性剤(洗剤)や消毒薬を添加することなく、毛細管現象と静電気の効果の組み合せによって汚れを取り除くことができるとされており、英国の病院では一般的に使用されているようである。しかし、感染防止対策では現場が重要であることから、研究に使用されたマイクロファイバークロスが本文中にすべて商品名で記載されているのは理解できるものの、いささか “market-based medicine (商品に基づく医学)” の印象を受けるところではある。

変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法を用いた医療環境表面のブドウ球菌汚染の検出と分類

Detection and differentiation of staphylococcal contamination of clinical surfaces using denaturing gradient gel electrophoresis

I.I. Kassem*, M.A. Esseili, V. Sigler
*University of Toledo, Ohio, USA

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 187-193


リスクが高い患者の環境からのブドウ球菌属の検出と同定は、病院感染症における環境の役割を明らかにするうえで重要なステップである。ブドウ球菌属の同定に使用される現行の方法は、その性能に限界があり、高価であり、煩雑であるなどの問題がある。著者らは、伸長因子 Tu をコードする遺伝子(tuf)の種特異的多型を利用して、ブドウ球菌属の検出・同定のための変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)解析プロトコールを作成した。27 種の異なるブドウ球菌の純粋培養から分離した DNA のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)-DGGE 解析によってプロトコールを最適化した。この結果、PCR 産物は 19 種類のバンドに分離され、これには黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・ホミニス(S. hominis)、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(S. lugdunensis)、スタフィロコッカス・ワーネリ(S. warneri)、スタフィロコッカス・カピティス(S. capitis)、スタフィロコッカス・カプレ(S. caprae)、スタフィロコッカス・サプロフィティカス(S. saprophyticus)などの重要な菌種に固有のバンドが含まれていた。この方法の有用性について、患者が入室している隔離病室の環境表面 15 か所を対象として、定期清掃の前後のスワブ採取により検証した。伸長因子 Tu 遺伝子 tuf の PCR-DGGE 解析により、環境表面は清掃にもかかわらず黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、S. lugdunensisS. hominis、スタフィロコッカス・ヘモリティカス(S. haemolyticus)、スタフィロコッカス・シムランス(S. simulans)などの複数種類のブドウ球菌属による汚染が残存していることが示された。結論として、tuf の DGGE 解析は、医療環境における複数種のブドウ球菌群の検出、特性評価、およびモニタリングのための手法として有望である。

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監訳者コメント
変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)は、電気泳動ゲル(通常はポリアクリルアミドゲル)に DNA 変性剤である尿素とホルマリンの濃度勾配を作製して、DNA は変性しやすさに差異があり、部分的に 1 本鎖となった変性 DNA は極端に電気泳動速度が遅くなる性質があることを利用している。DGGE では、DNA の分子量による泳動距離の差異だけでなく、さらに高い分離能が得られる。分離能の高さから、複数種の微生物群を対象としたメタゲノム解析にも利用されることがあり、環境に存在する多数の微生物種を培養することなく一斉に検出する手法の 1 つとなっている。

環境汚染と空中細菌数:ヒドロキシラジカル消毒装置の有用性?

Environmental contamination and airborne microbial counts: a role for hydroxyl radical disinfection units?

V. Wong*, K. Staniforth, T.C. Boswell
*Queen’s Medical Centre, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 194-199


環境汚染は病院内での感染伝播に一定の役割を果していると考えられており、感染防止における新しい空気消毒装置への関心が高まっている。この研究では、臨床的な環境においてヒドロキシラジカル空気消毒装置(Inov8 ユニット)による空中細菌数減少効果を評価した。環境汚染の評価は下記の 3 か所における静置培地および空気サンプルで実施した。(1)非臨床部門の部屋、(2)同一の非臨床部門の部屋で既定の動作を実行、および(3)個室の集中治療室である。空中細菌数および環境汚染率を Inov8 ユニットのオンとオフで比較した。Inov8 ユニットの使用により、各部位の空気サンプルおよび静置培地のいずれにおいても、細菌数は全体として減少していた(P < 0.001、Wilcoxon 符号付順位和検定)。空気サンプル中の細菌数減少の平均値は、部位 1、2、3 でそれぞれ 26%、39%、55%であった。対応する静置培地での減少は、それぞれ 35%、62%、54%であった。以上の結果より、このタイプの新しい空気消毒装置は、隔離病室内の空気の質改善および環境汚染減少に有用であると考えられる。さらなる研究により、特定の病原体に対する効果を評価するとともに、この装置により環境からのそのような病原体による患者や医療従事者の感染リスクが減少するかどうかを明らかにすることが必要である。

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監訳者コメント
空気汚染除去システムとしては、移動型 HEPA フィルタ装置や過酸化水素ドライミスト発生装置などがあるが、この研究は英国バッキンガムの Invo8 サイエンス社による新しいヒドロキシラジカル空気消毒装置の効果を検証している。落下細菌や空気サンプルでは効果が認められているが、さらに臨床的な効果が明らかにされる必要がある。

インド北部の総合救急部門における空調ダクトおよび病室の汚染除去のための過酸化水素蒸気:推進すべきとき

Hydrogen peroxide vapour for decontaminating air-conditioning ducts and rooms of an emergency complex in northern India: time to move on

N. Taneja*, M. Biswal, A. Kumar, A. Edwin, T. Sunita, R. Emmanuel, A.K. Gupta, M. Sharma
*Postgraduate Institute of Medical Education and Research, India

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 200-203


救急部門エリアが過密状態や患者過多である場合、当該エリアを閉鎖しなければならないことから、病室や空調ダクトの徹底的な清掃および消毒に対して十分な注意が払われなくなることがある。時間の経過につれて、糸くず、繊維、ほこり、増殖した真菌が蓄積する。この研究では、対象エリアの閉鎖を必要としない過酸化水素薫蒸による空調ダクトの汚染除去と病室の消毒効果を評価した。チャンディーガルにある医学教育研究大学院研究所(Postgraduate Institute of Medical Education and Research)の総合救急部門は、3 階建ての建物に 9 つの空調設備と 7 つの病棟がある。7 日間をかけて作業を実施し、空調ダクトと病棟の清掃、建具・設備の清掃・消毒、さらに空調装置、ダクト、室内気の排気・薫蒸を行った。薫蒸には、11%(w/v)過酸化水素を 0.015%(w/v)硝酸銀で安定化させた配合剤である Ecoshield fog 20%水溶液を使用した。薫蒸前後のサンプルを採取して細菌培養、空気サンプルも採取した。過酸化水素薫蒸による室内気、設備、およびその他の物品の消毒効果は高かった。また、空調ダクトを効果的に汚染除去し、迅速でホルマリンよりも安価であり、有害な影響は認められなかった。患者への支障は最小限であり、5 ~ 6 時間後には薫蒸エリアに再入室可能であった。過酸化水素は、インドで使用頻度が高いホルマリン燻蒸と比較して安全かつ刺激性が少ないという利点があり、1 回の処理に要する時間も短い。

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監訳者コメント
過酸化水素蒸気の薫蒸による環境消毒は、カナダや米国の北米大陸を中心として、深刻な高病原性クロストリディウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の流行への対策として開発が進んでおり、医療環境における汚染への対策が重要な役割を果す多剤耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)の対策としても注目されている。しかし、いくらなんでもホルマリン薫蒸は危険過ぎるのでやめていただきたい。言うまでもなく、ホルマリンは危険な物質であり、労働安全衛生法施行令および特定化学物質障害予防規則によって第 2 類物質・特定第 2 類物質とされて、労働者の安全を確保するため作業環境測定が必要とされている。これまでの医療の現場は、病理組織標本などに使用することもあり、ホルマリンに対する問題意識が低くなっている場合が少なくない。病理診断部門のようにホルマリンを多用する作業環境には、局所排気装置やプッシュプル型換気装置などの配備が必要であることを強調したい。

リモート非熱ガスプラズマを用いたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)および表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)バイオフィルムの消毒

Disinfection of meticillin-resistant Staphylococcus aureus and Staphylococcus. epidermidis biofilms using a remote non-thermal gas plasma

J.J. Cotter*, P. Maguire, F. Soberon, S. Daniels, J.P. O’Gara, E. Casey
*University College Dublin, Ireland

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 204-207


病院環境表面の効果的な消毒は、病院感染予防の重要な要素であることが知られている。本研究の目的は、新規のガスプラズマ装置による臨床的に重要なバイオフィルムの消毒効果を定量することである。表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の臨床分離株をバイオフィルムの状態でガラス表面に増殖させ、プラズマ発生源から離れた消毒槽の中で試験を行った。本研究で使用した菌株はバイオフィルム産生量が多いことが知られており、細菌数の平均 log10 値は表皮ブドウ球菌 9.0 cfu/cm2、MRSA 9.1 cfu/cm2 であった。曝露後 1 時間での細菌数の減少は、表皮ブドウ球菌、MRSA とも 4 ~ 4.5 log10 であった。さらに長い処理時間では、MRSA バイオフィルム中の細菌数は 90 分後に 5.5 log10 減少していた。また、バイオフィルムサンプルを医療器具包装袋内に入れた場合も、消毒効果は同等であった。

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監訳者コメント
本論文は Radica (Arann Healthcare 社、アイルランド、http://www.arannhealthcare.ie/solutions/products/)と呼ばれる酸化プラズマラジカルによるガスプラズマを用いた消毒システムの評価に関する論文である。消毒対象物はコンテナ内に収納され処理するシステムである。一定の効果は期待できるようであるが、病原体ごとの適正な水準の清拭消毒や滅菌との棲み分けが難しそうだ。

77 の細菌株に対する過酢酸、塩化ベンザルコニウム、およびオルトフタルアルデヒドの殺菌効果の比較★★

Comparative biocidal activity of peracetic acid, benzalkonium chloride and ortho-phthalaldehyde on 77 bacterial strains

A. Bridier*, R. Briandet, V. Thomas, F. Dubois-Brissonnet
*AgroParisTech, France

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 208-213


殺菌効果に関する報告は多いが、各試験が対象としている細菌株の数が限られていることや、検査方法が異なることが多いため、細菌の消毒薬耐性についての信頼性が高い適切な全体像を把握することは困難である。本研究の目的は、産業・医療環境で多く使用されている 3 種類の消毒薬(過酢酸、塩化ベンザルコニウム、オルトフタルアルデヒド)の殺菌効果を、由来の異なる 77 の細菌株を対象として、単一の標準的検査法(NF EN 1040)により評価することである。本研究の結果から、消毒薬耐性の菌種間の相違が大きいこと、また通説とは異なり、耐性はグラム陽性株のほうがグラム陰性株よりも概して高度である可能性があることが明らかになった。また、過酢酸に対する枯草菌(Bacillus subtilis)、塩化ベンザルコニウムに対する緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、およびオルトフタルアルデヒドに対する黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)など、同一菌種の中でも株間に耐性の相違が認められた。

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監訳者コメント
膨大な検証を行った価値の高い論文である。第三者評価的な、こうした消毒効果の評価論文の蓄積は大変重要である。

新生児集中治療室における汚染蒸留水によるフラボバクテリウム敗血症アウトブレイク

Flavobacterium sepsis outbreak due to contaminated distilled water in a neonatal intensive care unit

Z. Mosayebi*, A.H. Movahedian, T. Soori
*Tehran University of Medical Sciences, Iran

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 214-215


新生児集中治療室では、水や汚染器具による敗血症アウトブレイクのために死亡率および有病率が上昇することがある。著者らは新生児におけるフラボバクテリウム(Flavobacterium)属菌によるアウトブレイクに関して、感染した新生児の特性、抗菌薬感受性、およびアウトブレイクの感染源を調査した。フラボバクテリウム敗血症の診断を受けた新生児 45 例を評価し、記述的研究を行った。性別、経腟分娩/帝王切開、早産/満期産、出生時体重、血液培養結果、およびアンチバイオグラムなどのデータを記録し、死亡または回復まで追跡した。汚染源を特定するため、環境サンプルを採取した。患児 45 例の内訳は、男児 28 例(62.2%)、女児 17 例(37.8%)であった(P < 0.001)。最も頻度が高い臨床症状は呼吸困難であった(60%)。出生時低体重を認めた新生児は 18 例(40%)であった。帝王切開により出生した新生児は 37 例(82.2%)であった。早産児は 20 例(44.4%)、満期産児は 25 例(55.6%)であった(P < 0.001)。死亡率は 17.7%であった。すべての細菌株がアンピシリン耐性、アミカシン感性であった。アウトブレイクの感染源は汚染蒸留水であった。

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監訳者コメント
フラボバクテリウム属菌は水系からよく分離される。血液培養陽性例が複数出た場合は、偽アウトブレイクか真の菌血症で治療が必要かを見極めてから治療や詳細な疫学調査に望む必要がある。

エアロゾル中の表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)の生存

Aerosol survival of Staphylococcus epidermidis

K-A. Thompson*, A.M. Bennett, J.T. Walker
*Health Protection Agency Microbiology Services, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 216-220


最近の研究から、エアロゾルの拡散はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の伝播に関与している可能性が示唆されている。エアロゾル中のブドウ球菌の生存能に関する文献は比較的少ない。今回の研究では、黄色ブドウ球菌の代用としてエアロゾル中の表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)の生存率を測定するとともに、生存に対する相対湿度の影響を検討した。Goldberg ドラムを用いて、相対湿度が < 20%、40% ~ 60%、70% ~ 80%、および > 90%の場合の生存を評価した。表皮ブドウ球菌の回収率とエアロゾル中で安定なバチルス・アトロファエウス(Bacillus atrophaeus)芽胞の回収率との比を用いて表皮ブドウ球菌の経時的生分解率を推計し、エアロゾルの希釈および物理的崩壊の影響を補正した。すべての相対湿度において、5 時間(300 分)後には初回放出エアロゾルの 13%(95%信頼区間[CI] 10.1% ~ 16.2%)が回収された。5 時間後の平均生存率比(%表皮ブドウ球菌対%B. atrophaeus)は 47%(95%CI 33.5% ~ 60.5%)であった。各湿度における平均生存率比の 95%CI は部分的に重複していることから、湿度はエアロゾル中の表皮ブドウ球菌の生存に対して大きな影響を及ぼさないことが示唆された。長時間にわたる実験により、表皮ブドウ球菌は 76%の湿度では 5 日後にも回収されることが示された。細菌を含むエアロゾルの粒子径は、大半は吸入可能な範囲(< 2.1 μm)にあった。本研究により、エアロゾル中で表皮ブドウ球菌が生存することが確認され、病院内でブドウ球菌のエアロゾル伝播が生じる可能性が示唆された。

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監訳者コメント
人がいるところには常在菌があり、これらの一部は環境中に浮遊する。したがって、人そのものが環境の汚染要因である。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)保菌患者の短時間搬送後の救急車内の MRSA 汚染はストレッチャーに限定される

Meticillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) contamination of ambulance cars after short term transport of MRSA-colonised patients is restricted to the stretcher

S.J. Eibicht*, U. Vogel
*University of Wurzburg, Germany

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 221-225


入院患者を搬送する救急車内の表面は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)汚染のリスクが高い。本研究では、MRSA 保菌・感染患者の搬送直後の救急車における MRSA の有無を解析した(ストレッチャーの 2 か所、内壁の 3 か所)。搬送 100 件のうち、搬送時間 20 分未満という組み入れ基準に合致した 89 件について、詳細な解析を行った。8 台の救急車(9%、90%信頼区間 4% ~ 14%)が汚染されていた。搬送時間 11 ~ 20 分での汚染率は、より短い搬送時間である 1 ~ 10 分と比較して高くはなかった。MRSA が検出されたのはストレッチャー(ヘッドレストおよびハンドル)のみであった。車内の壁は汚染されていなかった。結論として、救急車には短時間の搬送であっても MRSA 汚染が認められた。MRSA 陽性患者の短時間の搬送後の消毒は、患者の位置のごく近い範囲の表面にのみとするべきである。MRSA の告知のない搬送 60 件の連続調査では MRSA は認められなかったが、メチシリン感性黄色ブドウ球菌が救急車 12 台から検出され、主な部位はストレッチャーのハンドルとヘッドレストであった。この結果は、患者の MRSA の状態に関係なく、患者周囲の表面の消毒が重要であることを示している。

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監訳者コメント
外来医療や救急医療における感染予防のエビデンスは少なく、貴重な成果が得られている。

アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)の環境疫学および臨床疫学:前向きサーベイランス研究からのデータ

Environmental and clinical epidemiology of Aspergillus terreus: data from a prospective surveillance study

M.J.G.T. Ruping*, S. Gerlach, G. Fischer, C. Lass-Florl, M. Hellmich, J.J. Vehreschild, O.A. Cornely
*University of Cologne, Germany

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 226-230


アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)はアムホテリシン B 耐性を示す場合があり、免疫不全患者の重大な合併症の罹患および死亡の原因となる。その局所的な環境中の発生率は、Aspergillus 属菌の空中浮遊胞子の濃度の影響を受けるが、これは気象因子に関連していると考えられる。ドイツのケルン大学病院の内外から環境サンプルを週 1 回前向きに採取し、血液内科部門の患者を対象として Aspergillus 属菌の鼻腔内保菌のスクリーニングを行うとともに侵襲性真菌症のモニタリングを実施した。すべての A. terreus 分離株に対して、RAPD (rapid amplification of polymorphic DNA)-PCR 法およびアムホテリシン B 感受性試験を実施した。合計 4,919 コロニー形成単位(cfu)を分離した(院内 2,212 cfu、院外 2,707 cfu)。詳細な同定により、アスペルギルス・フミガーツス(A. fumigatus)(73.5%)、アスペルギルス・ニガー(A. niger)(4.3%)、アスペルギルス・フラーブス(A. flavus)(1.7%)、A. terreus (0.2%)、および Aspergillus 属菌以外の糸状菌(20.3%)が認められた。RAPD-PCR 法では A. terreus 分離株間のクローン関連性は示されなかった。すべての A. terreus 分離株がアムホテリシン B 完全耐性を示した。ケルン大学病院内外の Aspergillus 属菌の胞子量は 6 月に最も少なく、11 月に最も多かった。胞子量は季節および相対湿度と関連し、乾期にはその数が増加した。鼻腔内スワブ 855 件中 1 件が A. niger 陽性であったが、この患者は侵襲性真菌症を発症しなかった。A. terreus はケルン大学病院では重大な病原体ではないと考えられる。RAPD-PCR 法の結果からは、各菌株には疫学的に大きなばらつきがあり、共通の汚染源はないことが示唆された。Aspergillus 属菌保菌の早期検出を目的とした鼻腔内スワブによる監視培養は、侵襲性真菌症の可能性のある患者の特定に有用ではなかった。ケルン大学病院の侵襲性真菌症のリスクは、秋および乾期に上昇すると考えられる。

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監訳者コメント
免疫不全患者における真菌対策は極めて重要であり、ことに工事中におけるシールドや作業員の管理が重要である。本研究では気候要因についても明らかにしている。

監訳者注:
完全耐性(complete resistance):MIC > 2 mg/mL。

微生物検査室内の手指および環境の細菌汚染

Bacterial contamination of hands and the environment in a microbiology laboratory

L.S.Y. Ng*, W.T. Teh, S.K. Ng, L.C. Eng, T.Y. Tan
*Changi General Hospital, Singapore

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 231-233


本研究では、検査技師の細菌による手指汚染に対する手袋着用の効果、および潜在的病原細菌による微生物検査室の環境汚染の程度について調査した。本研究に参加した検査技師を 2 群に分け、一方の群は細菌培養操作時に常に手袋を着用し、もう一方の群は手袋を着用しなかった。規定の勤務時間の前後に、技師の手指から半定量的に細菌サンプルを採取した。検査室内の接触頻度が高い部位から 4 週間にわたりサンプルを採取し、選択培地または発色酵素基質培地を用いてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、サルモネラ(Salmonella)属菌、および腸内細菌科細菌の同定を行った。手袋を着用しない検査技師は、勤務時間後の MRSA 獲得リスクが有意に高かったが、腸内細菌科細菌の獲得については手袋着用による保護効果はみられなかった。獲得した病原菌の除去における手洗いの効果は、両群で同等であった。環境サンプルについては、採取箇所の 5 分の 1 で MRSA の存在が確認され、最も回収頻度が高かったのはコンピューターキーボードであった。腸内細菌科細菌および緑膿菌は、環境からの回収頻度が少なかった。今回の研究により、手袋着用は MRSA 獲得に対する保護効果があり、MRSA は微生物検査室環境からの回収頻度が最も高い病原細菌であることが示された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
臨床微生物検査技師の手技が適切に実施されているかが問われる。ここでは記載されていないが、喀痰の一般細菌培養検査を侮り、バイオハザード対策を怠ると結核菌感染のリスクも被ることになる。

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Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.