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外科用ステンレススチール表面へのプリオンおよび組織蛋白質の吸着、および乾燥条件または湿潤条件下での保存後の汚染除去の効果

Adsorption of prion and tissue proteins to surgical stainless steel surfaces and the efficacy of decontamination following dry and wet storage conditions

T.J. Secker*, R. Herve, C.W. Keevil
*University of Southampton, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 251-255


感染性プリオン蛋白質(PrPSc)は、多くの化学的・酵素的汚染除去法に耐性を示すこと、およびステンレススチールに強力に接着する性質があることから、PrPSc の医原性伝播は潜在的な脅威である。術中・術後の外科用器具の取り扱い状態は、組織蛋白質やプリオンの接着量およびその後の汚染除去法の効果に影響を及ぼす可能性がある。本研究では、外科用ステンレススチールへの組織蛋白質およびプリオンアミロイドの接着を時間および種々の保存条件との関連で評価するとともに、その後の酵素洗浄剤の効果を調査した。ME7 感染脳ホモジネートで表面を汚染させ、乾燥または湿潤状態の室温で 0 ~ 120 分または 24 時間乾燥させた。高感度の蛍光染色法と落射型微分干渉/エピ蛍光顕微鏡(episcopic differential interference contrast/epifluorescence microscopy)を使用して、洗浄前後の残存汚染を可視化した。乾燥時間が長い場合は、蛋白質およびプリオンアミロイドのいずれも吸着レベルが増加し、評価した洗浄剤の効果に影響した。湿潤環境での汚染後は、外科用ステンレススチール表面への蛋白質およびプリオンアミロイドのいずれも接着レベルが有意に減少した。湿潤状態を維持することにより、再利用可能な手術器具のその後の汚染除去効果が改善し、処理時間および費用も減少すると考えられる。

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血液培養採血キットの血液培養サンプリングの質への影響:不安、および意図せざる結果の法則

Impact of a blood culture collection kit on the quality of blood culture sampling: fear and the law of unintended consequences

S. Thomas*, J. Cheesbrough, S. Plumb, L. Bolton, P. Wilkinson, J. Walmsley, P. Diggle
*Lancashire Teaching Hospitals, Royal Preston Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 256-259


血液培養は敗血症が疑われる患者の重要な検査方法であり、確定診断を得るための第一ステップとなる場合があるが、患者に深刻な悪影響を及ぼすこともあり得る。本研究の目的は、ランカシャー教育病院における血液培養のコンタミネーションの問題がどの程度であるかを明らかにするとともに、新規の血液培養採血キットの導入によるコンタミネーション率への影響を評価することである。当院の血液培養採血キット導入以前の血液培養コンタミネーション率は 9.2%であった。キットの導入後、コンタミネーション率は 3.8%に低下し、American Society for Microbiologists が勧告する標準値である 3%以下に近づいた。コンタミネーションの減少とともに、血液培養サンプリング総数が意図せず、しかも持続的に減少し、またグラム陰性菌菌血症の件数にも、望んでいない減少がみられた。このような減少は、導入時の教育・研修における問題を反映している可能性がある。また現在の「根本原因分析(root cause analysis)」の時代において、血液培養コンタミネーションへの責任が後に判明することへの若い医師の不安を反映している可能性もある。本研究から、血液培養キットの使用継続は推奨されるが、その実施に際しては責任の所在を問わないような運用が求められること、および定期的な教育・研修会が必要であることが示される。

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漏斗プロットおよびリスク補正度数データによる有害なアウトカムの表示:間接的標準化の限界

Funnel plots and risk-adjusted count data adverse events. A limitation of indirect standardisation

A. Morton*, K. Mengersen, M. Rajmokan, M. Whitby, E.G. Playford, M. Jones
*Princess Alexandra Hospital Brisbane, Australia

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 260-263


病院の有害アウトカムデータの報告の義務化が進んでいることから、一部の医療施設ではこれらのデータの解析・表示方法の検討が促されている。現在、多くの研究者が好む方法は漏斗プロットである。このプロットの作成には間接的標準化が行われることが多い。手術部位感染症や死亡などのバイナリ・データの表示には、この方法で十分であると考えられる。これらのデータはリスク補正が行われることが多くなっている。これらのデータのリスク補正では通常、同一または類似の処置を受けた個々の患者が対象であるため、この方法が誤謬につながることはないと思われる。一方、菌血症などの度数データを扱う場合にデータのリスク補正を行うと、この方法は誤謬をもたらすことがある。その理由は、情報として個々の患者ではなく、病院や診療科を単位としたデータを使用するからである。例えば、形成外科や心臓外科のように敗血症の発生が少ない診療科を擁する病院がある一方、腎不全の治療(移植を含む)を行う部門や大規模な血液・腫瘍科(移植も含む)などの菌血症の発生率が高いことが予想される診療科を設けている病院もある。さらに、病院および病院の診療科の規模は大幅に異なっていることがある。分母が大きく異なると、間接的標準化により結果にバイアスが生じ得ることはよく知られている。本稿では、Queensland Health Centre for Healthcare Infection, Surveillance and Prevention(CHRISP)データベースのリスク補正後の菌血症データを用いて、この問題を解説する。

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抗菌薬処方および既存の電子データの点有病率調査を利用したデバイス関連感染症有病率

Prevalence of healthcare device-associated infection using point prevalence surveys of antimicrobial prescribing and existing electronic data

R. Coello*, E. Brannigan, W. Lawson, H. Wickens, A. Holmes
*Imperial College Healthcare NHS Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 264-268


本研究では、抗菌薬処方および電子データの点有病率調査に基づく医療関連感染症の有病率に関して、以前報告した方法をデバイス関連感染症有病率の推計に応用した。6 か月ごとの抗菌薬処方の点有病率調査を、2009 年 6 月に欧州抗菌薬使用プロトコールサーベイランス(European Surveillance of Antimicrobial Consumption Protocol)に従って実施した。抗菌薬投与を受けている患者についてはデバイスの有無を記録した。同時に、関連病院でのデバイス使用状況の調査を実施した。対象は、入院後 48 時間以降に抗菌薬投与を開始した患者で、デバイスを使用しているか、デバイスは使用していないが血流感染症、尿路感染症、または肺炎の治療のために抗菌薬投与を受けていることを条件とした。微生物検査または画像検査の結果が陽性であることが報告されている患者を特定し、デバイス関連感染症の有無を事前の定義に従って評価した。調査対象患者 1,354 例中 253 例(19%)が抗菌薬治療を受けていた。このうちデバイスも使用しているのは 189 例であり、デバイス関連感染症の有無を個別に評価する必要があったのは 172 例(全調査対象患者の 13%のみ)であった。微生物検査または画像検査の電子報告書の確認に要する時間は、患者 1 例あたり約 5 分であった。23 例がデバイス関連感染症の基準に合致した。有病率は、カテーテル関連尿路感染症 3.9%、中心ライン関連血流感染症 3.1%、血管アクセス部位感染症 3.8%、人工呼吸器関連肺炎 11.6%であった。本法は、既存データを用いてデバイス関連感染症の有病率を推計するための簡便な方法であり、他の病院でも実施可能である。

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高齢者療養施設の看護師の空中レジオネラ菌によるポンティアック熱

Pontiac fever among retirement home nurses associated with airborne legionella

A. Hautemaniere*, T. Remen, L. Mathieu, M. Deloge-Abarkan, P. Hartemann, D. Zmirou-Navier
*Nancy University - School of Medicine, France

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 269-273


本研究の目的は、高齢者療養施設の入所者の入浴介助を行う看護師を対象として、ポンティアック熱に認められる症状の発生率を明らかにするとともに、レジオネラ菌への曝露との関連を評価することである。ポンティアック熱の非流行下で、高齢者療養施設 19 か所の看護師 104 名を平均 4 か月間追跡した。各対象者が症状、入浴介助回数、および使用したシャワーの位置についてデータを記録した。追跡終了時に、水中および空中の細菌の特性を培養および in situ ハイブリダイゼーション法により評価した。ポンティアック様エピソード 11 件中 8 件が本研究のポンティアック熱の定義に合致した。レジオネラ菌の水中濃度が 1 L あたり 103 cfu を超えることがポンティアック熱のリスク増加と関連しており、リスクは濃度依存性であった。レジオネラ菌の空中濃度とポンティアック熱イベントとの関連は確認されなかった。レジオネラ菌が存在する労働環境からの保護を考慮する場合に、レジオネラ菌水中濃度 1 L あたり 103 cfu という閾値を利用することができると考えられる。

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血液内科部門における汚染牛乳と関連したブラストシゾミセス・カピタツス(Blastoschizomyces capitatus)院内アウトブレイク

Nosocomial outbreak of Blastoschizomyces capitatus associated with contaminated milk in a haematological unit

M. Gurgui*, F. Sanchez, F. March, J. Lopez-Contreras, R. Martino, A. Cotura, M.L. Galvez, C. Roig, P. Coll
*Hospital de la Santa Creu i Sant Pau, Spain

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 274-278


2002 年 7 月、血液内科部門で好中球減少を呈する患者 4 例からブラストシゾミセス・カピタツス(Blastoschizomyces capitatus)が検出された。患者 2 例は播種性の感染症のため死亡し、他の 2 例は口咽頭に保菌がみられた。真菌の院内感染が疑われ、疫学的調査と環境調査を実施した。想定される真菌感染の感染源を特定するため、患者間の疫学的関連を調査した。全患者の監視培養を実施するとともに、空気、無生物表面、食品、血液製剤、および化学療法剤の環境培養を行った。患者間の直接接触感染は認められず、B. capitatus は朝食用の牛乳を配膳するために使用されていた魔法瓶のみから検出された。4 種類の異なる分子タイピング法(パルスフィールド・ゲル電気泳動法、DNA 制限酵素分析、randomly amplified polymorphic DNA(RAPD)法、および 1 つのミニサテライト DNA または 2 つのマイクロサテライト DNA に特異的な単一プライマーを用いた PCR フィンガープリント法)により、すべての分離株を比較した。いずれのタイピング法でも、牛乳用魔法瓶の菌株と臨床菌株とを遺伝学的に識別することはできなかった。牛乳用魔法瓶を病院の全部門から回収したところ、それ以降は B. capitatus は検出されなかった。本研究の結果から、牛乳配膳用魔法瓶に由来する B. capitatus 単一株のクローンの伝播が、今回の血液内科部門での院内アウトブレイクの原因であったことが示唆される。

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アイルランド共和国の 2 病院における B 型肝炎ウイルス感染症の院内アウトブレイク

Nosocomial outbreak of hepatitis B virus infection involving two hospitals in the Republic of Ireland

K. Burns*, J. Heslin, B. Crowley, L. Thornton, B. Ni Laoi, E. Kelly, E.Ward, B. Doody, M.M. Hickey
*Waterford Regional Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 279-283


B 型肝炎ウイルス(HBV)の院内伝播経路は、この何年かの間に変遷を遂げている。輸血関連および医療従事者から患者への HBV 伝播予防のための取り組みにより、これらの伝播経路を介した感染は改善されてきた。最近の HBV 感染症院内アウトブレイクの報告からは、標準予防策の不遵守が HBV 伝播の重要な原因であることが示唆されている。本報告では、2005 年 1 月から 2006 年 3 月の間にアイルランド共和国で発生した HBV 感染症の院内アウトブレイクについて述べる。このアウトブレイクが判明したのは、唯一のリスク因子が直近の外科手術である患者に HBV 急性感染症が確認された後である。その後、複数の施設の広範な調査により、この患者は HBV 急性感染症の 5 症例中の 1 例であること、および 15 か月間に 2 病院で 4 件の感染症症例間の伝播が時間的間隔を置いて発生していたことが判明した。各伝播イベントの明確な原因の特定には至らなかったが、標準予防策、安全な注射、および静脈切開手技の遵守が不十分であることが否定されなかった。院内感染症例 2 例との市中での接触による HBV 急性感染症の二次症例も 2 例確認された。プレコア領域変異を有する HBV の感染や、7 例の患者間でウイルスが伝播したことの確認には、系統解析が有用な手段であることが示された。曝露の可能性のある患者 1,028 例に通知を行ったが、その他の HBV 院内感染症症例のエビデンスは認められなかった。これらの結果から、標準予防策を一貫して実施することの重要性が明確になった。

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中国湖北省の集中治療室における人工呼吸器関連肺炎:多施設前向きコホート研究

Ventilator-associated pneumonia in intensive care units in Hubei Province, China: a multicentre prospective cohort survey

Duo-shuang Xie*, Wei Xiong, Rui-ping Lai, Li Liu, Xiu-min Gan, Xiao-hui Wang, Min Wang, Yuan-xia Lou, Xiang-yun Fu, Hui-fang Wang, Hao Xiang, Yi-hua Xu, Shao-fa Nie
*Tongji Medical College of Huazhong University of Science and Technology, China

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 284-288


中国湖北省の 3 次病院の 17 の集中治療室(ICU)を対象として多施設前向きコホート研究を実施した。人工呼吸器関連肺炎(VAP)の定義は、既報の文献の改訂基準に従った。人工呼吸器を使用した患者 4,155 例の VAP の粗発生率は 20.9%、発生率は 1,000 人工呼吸器日あたり 28.9 例であった。ロジスティック回帰を用いた多変量解析により、リスク因子は男性であること(リスク比[RR]1.5、P < 0.001)、昏睡(RR 2.1、P < 0.001)、慢性閉塞性肺疾患(RR 1.4、P < 0.001)、他の部位の感染症(RR 1.6、P = 0.001)、VAP 発症前の重篤な疾患(RR 1.6、P < 0.001)のほか、制酸薬投与(RR 1.4、P < 0.001)、抗菌薬投与(RR 5.1、P < 0.001)、気管支鏡検査(RR 1.5、P = 0.041)、気管切開(RR 1.4、P = 0.014)などの介入であることが明らかとなった。分離頻度が高い起因菌は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)およびアシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)であった。すべての黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)分離株のうち 45.7%がメチシリン耐性であった。湖北省の ICU における VAP の発生率、リスク因子、および起因菌は、先進国からの報告とは異なる。これらのデータは、中国湖北省ではより効果的な感染制御のための介入が必要であることを示している。

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感染症の疑いのために内科入院病棟または集中治療室に入院中の患者に対するプロカルシトニン検査による抗菌薬使用量の減少

Reduction in antibiotic use through procalcitonin testing in patients in the medical admission unit or intensive care unit with suspicion of infection

K. Saeed*, M. Dryden, S. Bourne, C. Paget, A. Proud
*Royal Hampshire County Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 289-292


臨床的に感染症が疑われるが診断が確定していない患者に対する抗菌薬の開始または見送り(withhold)の判断を支援する追加的診断ツールとして、血清プロカルシトニン値測定についての評価を報告する。6 か月の試験期間中に、血清プロカルシトニン検査依頼後 90 分以内に測定結果が得られた患者数は、感染症が疑われる内科入院病棟の患者 99 例、新規感染症の可能性を示唆する臨床的徴候または生理学的パラメータが認められる集中治療室(ICU)の患者 42 例であった。微生物検査・感染症チームが抗菌薬投与の判断を行う臨床コンサルテーション中に血清プロカルシトニン検査を開始させた。プロカルシトニン低値に基づいて抗菌薬投与を見送った件数は、内科入院病棟 52 件、ICU 42 件であった。患者を前向きに 1 週間追跡調査した。内科入院病棟または ICU で抗菌薬投与を見送り・中止とした患者の中で、抗菌薬投与を必要とする細菌感染症の増悪、または合併症・感染症関連死はみられなかった。プロカルシトニン検査を実施しない場合は、これらの全患者に対して経験的抗菌薬投与が行われていた可能性が高い。これらの患者では不必要な抗菌薬投与が有害な影響を認めることなく減少し、抗菌薬処方件数が顕著に減少するとともにコスト削減も示唆された。プロカルシトニン検査は、抗菌薬管理の有用なツールとなり得る。

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監訳者コメント
ここ 2、3 年、注目を浴びているプロカルシトニン検査に関する論文である。プロカルシトニン検査の有用性に関する結果が非常に明確でわかりやすい。プロカルシトニンは、陰性結果により細菌感染症をほぼ否定することができる。不要な抗菌薬の投与を避けることができ、菌交代による Clostridium difficile 腸炎や耐性菌の出現を抑えることができる。また、感染症の治療中の投薬終了の判断にも用いることができる。本検査は非常に有用であるが、多くの施設ではまだ院外検査に頼っているのも事実である。院内検査により迅速に結果を臨床にフィードバックすることで、初めて本検査が活用されると考え、今後の普及および院内での検査実施が期待される。

英国の地域総合病院における KPC 型カルバペネマーゼ産生肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae

Klebsiella pneumoniae producing KPC carbapenemase in a district general hospital in the UK

N. Virgincar*, S. Iyer, A. Stacey, S. Maharjan, R. Pike, C. Perry, J. Wyeth, N. Woodford
*Royal Berkshire NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 293-296


多剤耐性 KPC 型カルバペネマーゼ産生肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)による尿路感染症を認めた患者 2 例について報告する。PCR 法およびシークエンシングにより、両患者の分離株から blaKPC-2 遺伝子が検出された。これらの分離株はパルスフィールド・ゲル電気泳動パターンが一致しており、MLST 解析では ST11 型であった。初発症例はキュラソー島の病院に入院中に KPC 産生株を獲得し、その後当院で 2 例目の患者に院内伝播したと考えられた。急性期トラストおよび地域でのさらなる伝播を予防するために実施した介入について述べる。

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監訳者コメント
カルバペネム耐性をもたらす遺伝子のうち、KPC はクラス A に属し、KPC 産生の肺炎桿菌や大腸菌などによる医療関連感染が近年、懸念されつつある。アメリカやヨーロッパの一部の国では頻繁に分離されるが、それ以外の国や日本ではまだあまり分離されない。本論文は、比較的分離が少ないと思われるイギリスの病院での 2 症例が記述されており、日本の病院もこのような状況に遭遇する施設が今後、増加するものと思われる。外国や他地域での医療受診歴が本菌のリスク因子として注目されるべきである。

結腸直腸手術時の感染の減少を目的としたケアのバンドル:オーストラリアでの経験

A bundle of care to reduce colorectal surgical infections: an Australian experience

A. Bull*, J. Wilson, L.J. Worth, R.L. Stuart, E. Gillespie, B. Waxman, W. Shearer, M. Richards
*Victorian Healthcare Associated Surveillance System Coordinating Centre, Australia

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 297-301


患者の転帰を改善するために「ケアのバンドル」は広く使用されるようになってきたが、その世界的にみた使用頻度はオーストラリアよりも高い。本研究の目的は、結腸直腸手術を施行した患者を対象として、手術部位感染の減少を目的としたケアのバンドルの臨床適用可能性を評価することである。バンドルの各構成要素はエビデンスに基づき、正常体温、正常血糖値、酸素供給量、および適切な抗菌薬使用に焦点を当てたものであった。バンドルの実施に当たっては綿密な面接と教育を必須とし、各患者用のチェックリストにプロセスの遵守とアウトカムの達成について記録した。プロセスの遵守達成は困難であったが、一部に改善がみられた。加温器具の使用は、正常体温維持の改善と関連していた。感染率はプロジェクト実施前の 15%(95%信頼区間[CI]10.4% ~ 20.2%)からプロジェクトの 12 か月後は 7%(95%CI 3.4% ~ 12.6%)に低下した。標本サイズが小さいため明確な結論を下すことは困難であるが、これらの結果は有望なものであった。ケアのバンドルの個々の構成要素の遵守率が低かった理由について考察を行った。結論として、オーストラリアの単一の病院で結腸直腸手術を施行した患者に対してケアのバンドルを導入したところ、効果はわずかであった。しかし、感染率はバンドル導入後の 12 か月間にわたって低下した。

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監訳者コメント
すでにその有効性が明確である介入を「束」(バンドル)にして確実に実施する手法をバンドルと呼び、近年その有効性が注目されている。本論文はまだバンドルがあまり普及していないオーストラリアからの成功事例の報告である。日本においては、すでにクリティカルパスの形でバンドルが実施されている施設も少なくないが、両者の基本的な考え方は相通じるものがある。

集中治療室および手術室におけるパンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009:職員のワクチン接種に対する信念および姿勢

Pandemic influenza A (H1N1) 2009 in a critical care and theatre setting: beliefs and attitudes towards staff vaccination

H.M. Parry*, S. Damery, A. Fergusson, H. Draper, J. Bion, A.E. Low
*University Hospitals Birmingham, UK

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 302-307


英国、ウエストミッドランド州ではパンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009(pH1N1)の影響が顕著であった。現場の医療従事者に対しては、易感染性患者への伝播防止、病期欠勤の最少化、および職員の保護を目的としてワクチン接種が行われた。上気道の診療に当たる医療従事者は、特にエアロゾル曝露のリスクが高い。著者らは、これらの医療従事者の pH1N1 ワクチン接種に対する姿勢、すなわち接種を受ける主な理由、接種を阻む障壁、および pH1N1 に関する知識について評価した。ワクチン導入から 1 か月後に、ウエストミッドランド州の国民保健サービス(NHS)トラストの 2 病院で任意・匿名の質問票調査を実施した。評価可能な回答は合計 187 件(回答率 60.5%)であり、このうちワクチン接種を受けた、または受ける意思があるとしたのは 43.8%であった(82 名)。ワクチン接種の主な障壁は、長期的副作用への懸念であった(37.4%、70 名)。ワクチン接種を受ける主な理由は、自分自身の防御(36.9%、69 例)、家族の防御(35.3%、66 例)、および患者の防御(10.2%、19 例)であった。ワクチンに対して安全性確認のための厳格な臨床試験が適切に実施されたことに確信がもてないとした回答者は 76.5%、報告されている有効性を正しく把握している回答者は 20.9%であった。結論として、高リスクの医療従事者の pH1N1 ワクチン接種率は依然として低かったものの、季節性インフルエンザのワクチン接種率の最大値の 2 倍であった。医療従事者のワクチンの有効性に関する知識は不十分である。パンデミック宣言からワクチン導入までの期間が短かったため、安全性プロファイルへの懸念がワクチン接種の障壁の 1 つとなっていた。副作用は、急性と慢性のいずれもワクチン接種の重大な障壁であった。今後のパンデミックの際は、ワクチンの安全性と有効性に関する十分な保証と教育を実施することによって接種率が向上すると考えられる。

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監訳者コメント
日本と異なり、欧米諸国ではインフルエンザワクチンの安全性や副反応に対する懸念が非常に強く、医療従事者のインフルエンザワクチン接種率向上への大きな障壁になっている。この論文は、インフルエンザ(H1N1)2009 のワクチン接種の検討より、その傾向が新型インフルエンザでもみられることを述べている。接種率が向上しない場合は、ワクチンの安全性や効果とその限界について医療従事者への十分な情報提供が必要であろう。

香港のパンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009 の第 1 波後の医療従事者の抗体保有状況

Seroprevalence of antibody to pandemic influenza A (H1N1) 2009 among healthcare workers after the first wave in Hong Kong

Y. Zhoua*, D.M.W. Ng , W.-H. Seto, D.K.M. Ip, H.K.H. Kwok, E.S.K. Ma, S. Na, L.L.H. Lau,
J.T. Wu, J.S.M. Peiris, B.J. Cowling
*The University of Hong Kong, Hong Kong Special Administrative Region, China

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 308-311


インフルエンザパンデミックの第 1 波では有効なワクチンが利用可能になっていないため、医療従事者が新型インフルエンザウイルスに感染するリスクは特に高いと考えられる。パンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009(pH1N1)第 1 波後の 2010 年 2 月から 3 月における香港の医療従事者の抗体保有状況について、横断研究を実施した。医療従事者から血清を採取し、ウイルス中和試験による抗 pH1N1 インフルエンザウイルス抗体の検査を行った。抗体価高値に関連する因子を評価するとともに、医療従事者の抗体価を他の地域住民対象研究から得られた抗体価と比較した。合計 703 名の医療従事者を登録した。pH1N1 ワクチン接種を受けていないと申告した医療従事者 599 名のうち、12%はウイルス中和試験による抗体価が 1:40 以上であった。抗体価 1:40 以上のワクチン未接種の医療従事者の割合を年齢別にみたところ、pH1N1 第 1 波後の一般住民と比較して有意な相違はなかった。感染制御ガイドラインの遵守が良好であれば、医療従事者の pH1N1 感染リスクが職業曝露により大幅に上昇することはないと考えられた。パンデミック第 1 波後の医療従事者の多くは、抗体価が低値であった。

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監訳者コメント
インフルエンザに対する職業曝露による感染のリスクを低減させる方法は、ワクチン接種と、経路別予防策や咳エチケットなどの感染予防策である。本論文は、特にワクチンが利用可能でない新型インフルエンザの流行初期における後者の重要性を示したものであるが、基本的なインフルエンザ対策としては双方が重要であることはいうまでもない。

一般外科手術における感染予防:外科医に対する外科医による教育を通しての改善

Preventing infection in general surgery: improvements through education of surgeons by surgeons

S.M. McHugh*, M.A. Corrigan, B.D. Dimitrov, S. Cowman, S. Tierney, A.D.K. Hill, H. Humphreys
*Royal College of Surgeons in Ireland, Ireland

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 312-316


外科患者は、特定の医療関連感染リスク、すなわち手術部位からの手術部位感染(SSI)、および血管内アクセスを必要とすることに起因するカテーテル関連血流感染のリスクを有する。2 年間にわたる取り組みを開始し、まず外科実務の監査を行った。外科医がこの監査から得られたデータを用いて、特に外科研修医を対象とした目的を定めた教育的取り組みを策定した。初回監査時および教育的取り組み実施後の監査時に、パラメータとして術中・術後のSSI予防に関する項目、および外科患者の末梢静脈カテーテルのケアに関する項目の評価を行った。手術 360 件の術前予防的抗菌薬投与施行率は、初回監査時の 30.0%から教育的介入後の監査時の 59.1%に上昇した(P < 0.001)。手術部位のドレッシングは 234 例に実施され、術後 48 時間以内にドレッシングが交換された割合は、介入後のほうが有意に低かった(16.5%対 6.2%、P = 0.030)。この 2 年間で評価の対象となった末梢静脈カテーテルは合計 574 件であった。不必要な末梢静脈カテーテル留置(37.9%対 24.4%、P < 0.001)、72 時間を超える末梢静脈カテーテル留置(10.6%対 3.1%、P < 0.001)、および清浄かつ正常なドレッシングによる末梢静脈カテーテルの被覆(87.3%対 97.6%、P < 0.001)の割合には改善がみられた。外科医のために外科医が開発した、的を絞った教育的プログラムにより、SSI およびカテーテル関連血流感染の予防のための外科実務の大幅な改善が実現した。外科実務における感染予防のさらなる改善のためには、このほかにも特定の手法が必要であると考えられる。

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監訳者コメント
外科医は外科医の言うことであれば聞く傾向にあり、その点でこの取り組みは比較的受け入れられやすかったものと思われる。一方で、日本ではほぼ 100%の症例で行われていると思われる術前予防的抗菌薬施行率の低さ(介入後も)や、これらのプロセスの改善が SSI やカテーテル関連血流感染の低減につながったかどうかを検証するためのサーベイランスが行われていないなど、本研究が実施された医療機関の感染対策に関するレベルが少々気になるところではある。

多剤耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)アウトブレイク時の遺伝子型および感染部位

Genotypes and infection sites in an outbreak of multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa

A. Tsutsui*, S. Suzuki, K. Yamane, M. Matsui, T. Konda, E. Marui, K. Takahashi, Y. Arakawa
*National Institute of Infectious Diseases, Japan

Journal of ospital Infection (2011) 78, 317-322


日本の急性期病院で多剤耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のアウトブレイクが発生し、3 年以上持続した。2006 年 1 月から 2009 年 6 月に入院患者 59 例から多剤耐性緑膿菌が検出され、アウトブレイク前半は主として尿培養から、後半は気道サンプルからの分離が優勢となった。重複のない 51 例からの多剤耐性緑膿菌分離株が評価可能であり、いずれも blaVIM-2 陽性であった。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法により分離株は 3 つの主要なクラスターに分類され、8 株が A 型、19 株が B 型、21 株が C 型であった。アウトブレイクは PFGE A 型株を保有する患者から始まり、次いで B 型、さらに C 型が続いた。多変量解析から、PFGE C 型株は気道サンプルからの検出が多いことが示された(オッズ比 11.87、95%信頼区間 1.21 ~ 116.86)。無菌的尿路カテーテル管理の改善により A 型および B 型株は制御され、気道のケア手技の改善により最終的に C 型株の伝播も制御された。

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監訳者コメント
耐性菌の遺伝子型(PFGE)と検体の種類との関連を研究し、大変興味深い結論となっている。日本の研究者達によって行われた、対策につながる分子疫学的調査といえる。

発展途上国の小児集中治療室における医療関連感染の負荷:積極的監視培養を用いた単一施設の経験

Burden of healthcare-associated infections in a paediatric intensive care unit of a developing country: a single centre experience using active surveillance

A. Gupta*, A. Kapil, R. Lodha, S.K. Kabra, S. Sood, B. Dhawan, B.K. Das, V. Sreenivas
*All India Institute of Medical Sciences, India

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 323-326


医療関連感染(HAI)は、あらゆる年齢層の重症患者における合併症および死亡の重要な原因である。この前向きサーベイランス研究の目的は、発展途上国の小児集中治療室(PICU)における HAI による負荷の推定である。12 か月の研究期間中に、患児 187 例が PICU で 48 時間以上の治療を受け、このうち 36 例に 44 件の HAI エピソードが認められた。HAI の粗発生率は患児 100 例あたり 19.3 例、発生密度は 1,000 患者日あたり 21 例であった。HAI の 44事例中 27 件(61%)は医療関連肺炎、12 件(27%)は医療関連血流感染、4 件(9%)は尿路感染であった。HAI を発症した患児は平均入院期間が有意に延長し(25 日対 7 日、P < 0.0001)、死亡率が有意に高かった(50%対 27.8%、P < 0.005)。医療関連肺炎および医療関連血流感染の最も頻度が高い原因菌はアシネトバクター(Acinetobacter)属菌であった。発展途上国では、高リスク集団の HAI の負荷を減少させるうえで積極的監視培養が重要である。

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新生児集中治療室におけるグラム陰性菌による遅発性敗血症の予測のための粘膜の監視培養

Mucosal surveillance cultures in predicting Gram-negative late-onset sepsis in neonatal intensive care units

U. Parm*, T. Metsvaht, E. Sepp, M.-L. Ilmoja, H. Pisarev, M. Pauskar, I. Lutsar
*University of Tartu, Estonia

Journal of Hospital Infection (2011) 78, 327-332


本研究の目的は、腸内および鼻咽頭に保菌するグラム陰性菌のスペクトルと経時変化を調査すること、および新生児集中治療室に入室した新生児における遅発性敗血症の予測のための監視培養の有用性を明らかにすることである。出生後 72 時間以内に入室した早発性敗血症のリスク因子を有する新生児 278 例を対象として、入室時および入室後は週 2 回、鼻咽頭および直腸スワブを採取した。通常は無菌である体液の培養を、入室時および入室後は臨床的状態に応じて実施した。グラム陰性菌培養陽性の割合は、直腸検体(693/1,250、55%)および鼻咽頭検体(558/1,153、48%)のいずれも約半数であったが、無菌体液検体では 6%(32/555)のみであった。合計 2,108 組の侵襲的検体と粘膜検体の培養のペアを解析した。遅発性敗血症の予測のための粘膜検体の感度、特異度、陽性適中率、陰性適中率はそれぞれ 27%、66%、4%、94%であった。肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)(P = 0.011)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)(P = 0.002)、大腸菌(Escherichia coli)(P = 0.003)、ステノトロホモナス(Stenotrophomonas)属菌(P = 0.003)、およびシュードモナス(Pseudomonas)属菌(P ≦ 0.001)をすでに保菌している患児では、遅発性敗血症の発症リスクが高かった。このような関連はアシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)、セラチア(Serratia)属菌、またはエンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)では認められなかった。結論として、定期的な粘膜検体の培養は、新生児集中治療室におけるグラム陰性菌による遅発性敗血症の予測には有効ではない。しかし、アウトブレイク時のクレブシエラ(Klebsiella)属菌、大腸菌、Stenotrophomonas 属菌、Pseudomonas 属菌などの特定の菌種のスクリーニングにより、感染制御方法が改善され、適切な抗菌薬療法の適時の開始が可能になると考えられる。

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監訳者コメント
新生児は細菌叢の形成が未完成であり、小児や成人が通常もっている細菌であっても児自身の感染のリスクとなり得る。保菌の有無を調べるための監視培養の新生児における有用性については十分に検討されていない。本論文がその知見の 1 つとなり得る。すなわち、特定の菌が検出された場合に限って、その児自身の発症リスクおよび周辺への伝播リスクを下げる方策をとることができ、費用対効果的である。

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