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感染予防・制御のための銅の利用:その現状

Application of copper to prevent and control infection. Where are we now?

J. O’Gorman*, H. Humphreys
*Beaumont Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 217-223


背景
銅の抗菌作用はかなり以前から知られており、その環境汚染低減作用およびそれに基づく医療関連感染予防作用から、医療環境で利用できる可能性がある。

目的
銅を利用することの理論的根拠、銅の抗菌作用の機序、およびその有効性のエビデンスをレビューすること。

方法
PubMed を用いて公表文献の検索を行った。

結果
銅を接触表面の素材とした場合や、布や液体に含有させた場合の殺生物作用を調べるために、これまでに様々な実験室内研究が行われている。臨床的な試験はわずかであり、有望な結果は得られているものの、重要な諸問題が未解決のままとなっている。特に、有効性を発揮するために必要な銅合金の最小含有率、銅の殺生物作用に対する有機汚染物質の影響、および銅製表面の日常的な洗浄の最適な方法について、意見の一致は得られていない。銅製表面によるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の殺芽胞能力に関する情報は少ない。

結論
銅製表面の導入により医療関連感染発生率が低下することを示すさらなる研究が必要であり、このような介入の費用対効果を評価する必要がある。臨床環境での感染予防・制御を目的として日常的に銅を利用することの有益性を実証し、推奨するためには、多くの項目に関して研究を積み重ねる必要がある。

サマリー原文(英語)はこちら

高温多湿条件:シンガポールにおけるバチルス・セレウス(Bacillus cereus)アウトブレイクと建設工事および洗濯プロセスとの関連

Hot and steamy: outbreak of Bacillus cereus in Singapore associated with construction work and laundry practices

M.N.D. Balm*, R. Jureen, C. Teo, A.E.J. Yeoh, R.T.P. Lin, S.J. Dancer, D.A. Fisher
*National University Health System, Singapore

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 224-230


背景
シンガポールの National University Hospital でバチルス・セレウス菌群(Bacillus cereus group)による侵襲性感染症が突如増加したことを受けて、調査を実施した。

目的
アウトブレイクの調査と管理について述べるとともに、その後の管理の維持に関する問題点を報告すること。

方法
臨床サンプルから B. cereus group が回収された全患者を対象として、症例調査を実施した。広範囲の環境サンプルを採取し、病院の換気設備、院内清掃、および洗濯プロセスの精査を行った。

結果
病院に隣接して大規模な建設工事が行われていた 6 か月間に、171 例の患者から B. cereus group が回収された。大部分の患者が菌血症であり(171 例中 146 例、85.4%)、171 例中 46 例(26.9%)はバンコマイシンやその他の介入による長期治療が必要であった。サンプル採取の結果、隔離室や空調設備のある病棟を含めて、病院内の空気中に広範囲に拡散していることが確認された。病院のリネン類は高度に汚染されており(7,403 cfu/cm2、95%信頼区間[CI]6,349 ~ 8,457、サンプル採取したタオル 30 枚のデータ)、不適切な密封性ビニール袋で保管した場合(4,437 cfu/cm2、95%CI 3,125 ~ 5,750)は、通気性のある布袋で保管した場合(166 cfu/cm2、95%CI 76 ~ 256)と比較して汚染が高度であった(P < 0.001)。病院のリネン類やタオルの洗濯プロセス、移動、および保管の改善、漂白剤を使用した環境清掃、および病院全体の換気設備の改善などの介入を実施した。症例数は 3 か月以内でベースラインレベルに回復したが、洗濯プロセスを緩和したところ、再度増加した。

結論
シンガポールの当病院に隣接して行われた建設工事に伴い、本稿に述べたアウトブレイクの原因菌と推定される Bacillus 属菌による空気および環境の高度の汚染が引き起こされた。洗濯プロセス改善の継続が不十分となったことにより、症例数が、特に免疫不全患者において再度増加した。

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手術器具汚染に関連する手術部位感染

Surgical site infections linked to contaminated surgical instruments

S.J. Dancer*, M. Stewart, C. Coulombe, A. Gregori, M. Virdi
*NHS Lanarkshire, UK

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 231-238


背景
本研究は、「清潔」手術後の手術部位感染(SSI)発生率の急上昇に関する調査の報告である。アウトブレイク症例は金属挿入後の整形外科患者 15 例、および眼内炎を発症した眼科患者 5 例であった。

目的
SSI 発生率急上昇の原因を明らかにするため、アウトブレイク委員会を召集した。

方法
調査として疫学的分析、患者分析、病棟・手術室の環境監査および臨床監査を実施した。手術セットの汚染が報告された後、標準化された検査プロトコールを用いて手術器具とその包装の評価を行った。臨床職員による滅菌施設の訪問調査を実施した。

結果
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)およびバチルス(Bacillus)属菌を含む皮膚細菌叢が様々な患者検体から回収された。11 例の患者は追加的な外科処置が必要であった。包装された手術セットの細菌学的検査により、包装の内側と手術器具自体から CoNS および Bacillus 属菌が検出された。滅菌施設の視察からは、オートクレーブ区域の維持管理が不適切であること、および施設職員の取り扱い操作が不良であることが判明した。これらのことと、手術室職員による手術セットの点検の不備が複合的に生じていた。滅菌施設の作業者の研修、監督、および配置の見直しを行うと同時に、手術室職員による湿潤または変色した手術セットの検査・報告を規則化した後に、症例の発生は終結した。

結論
手術器具を含む手術セットの滅菌後の汚染は、整形外科および眼科の患者の深部 SSI 発生率の上昇と関連していた。この調査により、滅菌業者、病院管理者、および臨床職員の密接な協調・連携が重要であることが示されるとともに、滅菌済み手術器具の汚染リスク低減のための指針が提示された。

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蒸気化過酸化水素によるアシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)感染アウトブレイクの制御

Control of an outbreak of Acinetobacter baumannii infections using vaporized hydrogen peroxide

A. Chmielarczyk*, P.G. Higgins, J. Wojkowska-Mach, E. Synowiec, E. Zander, D. Romaniszyn, T. Gosiewski, H. Seifert, P. Heczko, M. Bulanda
*Jagiellonian University Medical College, Poland

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 239-245


背景
多剤耐性アシネトバクター・バウマニー(multidrug-resistant Acinetobacter baumannii;MRAB)は重大な院内感染病原体であり、無生物表面で長期間生存するという特性を有するためアウトブレイク制御が困難である。

目的
MRAB による 2 件の院内アウトブレイクを分析し、その疫学とカルバペネム耐性機序を明らかにするとともに、蒸気化過酸化水素(VHP)による表面消毒の有効性を評価すること。

方法
集中治療室(ICU)2 室の患者から MRAB 株を分離した。E-test を用いて抗菌薬感受性試験を行った。優勢に認められる A. baumannii 由来カルバペネマーゼをPCR 法を用いて検出した。疫学的分類を rep-PCR法(DiversiLab)とパルスフィールド・ゲル電気泳動により行った。感染がみられた ICU を VHP により汚染除去した。

結果
2009 年 1 月から 2010 年 9 月に 28 例の患者から MRAB が分離された。全分離株がシプロフロキサシン耐性およびゲンタマイシン耐性を示した。21 株はカルバペネム系にも耐性であった。カルバペネム耐性は主に獲得型 OXA-23-like 酵素と関連していた。遺伝子型判定により 3 つのクローンが判明し、優勢なクローンはinternational clone(IC)2 型に相当するものであった。分離株のタイピングから、感染源が単一ではない多発性のアウトブレイクであることが示唆され、優勢なクローンが ICU の患者間で水平伝播したと考えられた。厳重な隔離、職員の教育、手指衛生、および VHP を用いた表面の汚染除去を含む厳格な感染制御対策を併用することにより、アウトブレイクは終息した。

結論
本研究の結果から、MRAB アウトブレイクの制御には、厳格な感染予防・制御対策を VHP による汚染除去と併用することが重要であることが確認された。

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パンデミック患者の隔離急増に対応するための迅速な換気戦略

Fast-track ventilation strategy to cater for pandemic patient isolation surges

P.L. Yuen*, R. Yam, R. Yung, K.L. Choy
*City University of Hong Kong, Hong Kong, China

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 246-250


背景
2003 年の重症急性呼吸器症候群(SARS)パンデミックの際に、病院の隔離施設が不足することが判明した。しかし、将来的なパンデミックの性質や規模を正確に予測することはできないため、建設される隔離施設が適正であるかどうかの判定は困難である。既存の一般病棟を改修する迅速かつ費用対効果の高い換気戦略は、患者の急増への病院の対応を支援する可能性がある。

目的
本稿では、一般病棟内に陰圧気流を創出するための簡易な窓用換気扇の設置など、SARS アウトブレイク時に採用された迅速・仮設の隔離方法の有効性を評価した。

方法
この方法が米国疾病対策センター(CDC)による隔離病棟の適正建設要件に合致するかどうかを、数値流体力学(CFD)を用いたシミュレーションにより評価した。

結果
CFD シミュレーションの結果、この仮設による方法は隔離室の換気基準に合致することが判明した。SARS アウトブレイク時にこの方法を採用した病院で二次感染が報告されなかったことから、この方法が有効であったことは確実である。

結論
急増した患者を収容する隔離施設が不足した場合には、上述の換気装置を既存の一般病棟に迅速かつ広範に設置することが可能であると考えられる。

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欧州における MRSA の疫学の理解:従来とは異なる観点からの思考が必要か?

Understanding the epidemiology of MRSA in Europe: do we need to think outside the box?

M.A. Borg*, L. Camilleri, B. Waisfisz
*Mater Dei Hospital, Malta

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 251-256


背景
菌血症を指標としたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染の疫学は、欧州では顕著な地理的パターンが認められている。MRSA 菌血症有病率は北欧諸国では低く、中欧にかけて増加し、地中海地域で最大となる。これは感染制御・抗菌薬管理プログラムの実施レベルの相違に起因するとされてきたが、このような違いの理由は明確にはされていない。

目的
欧州における MRSA の疫学に対する各国の文化的特性の影響について調査すること。

方法
2010 年に EARS-Net サーベイランスネットワーク参加国の MRSA 菌血症有病率中央値を算出し、Hofstede らによる各国の文化的特性スコアとの関連を評価した。

結果
MRSA 菌血症有病率と、文化的要素である不確実性の回避(uncertainty avoidance;UAI)、男性らしさ(masculinity;MAS)、および権力格差(power distance)との間に有意な関連が認められた。重回帰モデルからは、UAI、MAS、および短期志向(short-term orientation)を組み入れたモデルにおいて有意な関連が認められた(補正 R2 = 0.475、P < 0.001)。このモデルにより、2006 年から 2010 年に欧州のいくつかの国でみられた MRSA の動向が予測できることが示された。

結論
感染制御・抗菌薬管理プログラムの実施にあたっては、行動変化が必要となることが多い。文化的特性は医療従事者の認識と価値観を左右する主要な因子であると考えられ、したがって、プログラムの遵守と理解のためには極めて重要である。地域の文化的背景を感染制御・抗菌薬管理に関する取り組みに反映させることによって、成功に至る可能性が高くなると考えられる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者注:
Hofstede G, Hofstede GJ, Minkov M. Cultures and organisations: software of the mind. New York: McGraw-Hill; 2010

スペイン南部で菌血症を引き起こしているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の臨床疫学および分子疫学

Clinical and molecular epidemiology of meticillin-resistant Staphylococcus aureus causing bacteraemia in Southern Spain

C. Velasco*, L.E. López-Cortés, F.J. Caballero, J.A. Lepe, M. de Cueto, J. Molina, F. Rodríguez, A.I. Aller, A.M García Tapia, J. Pachónc, Á. Pascual, J. Rodríguez-Baño; SAEI/SAMPAC MRSA-BSI Group
*Universidad de Sevilla, Spain

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 257-263


背景
侵襲性感染症の原因となるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)分離株の分子的特性の一部は、臨床的に重要であることが示されている。広範な地域で MRSA クローンが優勢になりつつあるが、クローンのシフトが生じる可能性があるため、分子的データと臨床的データを組み合わせてこれらの状況をモニターする必要がある。

目的
スペイン・アンダルシア地方の 10 病院の院内感染および医療関連感染による MRSA 菌血症患者 98 例の後向きコホートを対象として、疫学的特性および分子的特性を調査すること。

方法
分離株の関連性を、パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)、spa タイピング、および clonal complex(CC)assignment により調べた。ブドウ球菌カセット染色体 mec(SCCmec)のタイプおよび arg のグループを PCR 法により明らかにした。arg の機能を評価した。

結果
大半の分離株は CC5、SCCmec IV 型、arg グループ II であった。主な spa タイプは t067 であった。6 つの主要なクラスターが PFGE により特定された。同一の PFGE サブタイプの分離株に感染している疫学的関連性を有する症例の 6 つの小さなクラスターが特定された。E-test では分離株の 44%はバンコマイシンの最小発育阻止濃度(MIC)が 1 μg/mL を超えていたが、微量液体希釈法では分離株の 5%は MIC が 2 μg/mL であった。E-test で MIC > 1 mg/L と関連する独立因子は、現在の入院中の手術および Charlson 指数 ≧ 2 であった。

結論
スペインで過去 10 年間にわたって優勢であった特定の CC が、本試験の大半の症例の菌血症の原因であった。疫学的関連のある症例のクラスターを特定するためには、PFGE は spa タイピングよりも識別能が高かった。いくつかの患者特性が、E-test によるバンコマイシンの MICが 1 mg/L を超えることと関連していた。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
院内感染対策を目的とした MRSA の分子疫学解析は、感染源や感染経路の推測や確認に極めて重要である。本論文の結論にもあるように、PFGE は spa タイピングに比して検査に要する時間は長くなるものの、その解析能は高く、クラスターの検出に有用な方法である。ただし、疫学調査においては分子疫学は実地疫学の結果とともに解析されることでその有用性が発揮されることは覚えておきたい。また近年では、multilocus-sequence typing(MLST)法による型別に基づく clonal complex 解析という手法が広域の地域間での流行株の比較に汎用されるようになってきていることに注目したい。

監訳者注:
Charlson 指数(Charlson index):併存疾患の指標で、数字が大きいほど重症度が高くなる(0~33)。

感染制御およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)除菌:ナーシングホーム職員の視点

Infection control and meticillin-resistant Staphylococcus aureus decolonization: the perspective of nursing home staff

P. McClean*, M. Tunney, C. Parsons, D. Gilpin, N. Baldwin, C. Hughes
*Queen’s University Belfast, UK

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 264-269


背景
ナーシングホームでの感染制御やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の問題は、施設の業務や方針に重要であると認識され始めている。

目的
北アイルランドのナーシングホームにおける感染制御および MRSA 除菌について、ナーシングホーム職員の視点から調査すること。

方法
ナーシングホーム管理者との半構造化面接および職員とのフォーカスグループ・ディスカッションを実施し、逐語的な文書化とフレームワーク分析を行った。

結果
1 対 1 の面接を 6 回、フォーカスグループ・ディスカッションを 6 回(参加者はそれぞれ7 名、6 名、6 名、5 名、5 名、4 名)実施した。下記の3 つの包括的要因、および相互に関連する下位要因がナーシングホームにおける感染制御および MRSA 除菌に影響することが判明した。すなわち、組織的要因(時間、財源、環境、管理、文化など)、外的要因(病院、規制、一般開業医など)、および入居者・家族である。業務量が管理できない場合は、感染制御対策が十分に遵守されず、より多くの財源が必要であることが報告された。環境を「家庭的」かつ医療的に維持することは両立せず、また痴呆がみられる入居者、一部の家族、開業医、および変化を厭う職員は、良好な感染制御実践の達成を困難にしていた。MRSA 再保菌のリスク、特に病院への入院による再保菌のリスクは、ナーシングホームにおける MRSA 除菌の推進を抑制していた。

結論
ナーシングホーム環境での感染制御と MRSA 除菌は多くの要因に影響されると考えられ、その一部は職員が直接管理することができない可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
入院することもナーシングホームに入居することもともに MRSA 保菌のリスク因子と考えられている。アイルランドでは、2051 年までにナーシングホーム入居者は現在の 1.5 倍になると考えられているが、そこでの感染管理は病院などの医療施設とは異なり、十分ではない。本論文では時間と財源がその大きな障害になっていることを示唆している。日本においても、多剤耐性菌を保菌する患者が長期療養型施設から入院してくる「持ち込み」事例は少なくない。有効な感染管理のためには、地域連携の輪を長期療養型施設を含む方向に考える時期は遠くないと思われるが、財源面での何らかの解決が必要であろう。

監訳者注:
フレームワーク分析(framework analysis):質的データの分析手法の 1 つで、本研究では(1)データの取り扱いの習熟、(2)主題の特定、(3)比較、(4)データの統合、(5)結果の記述という、独立した 5 つのプロセスからなる。

英国の地域病院における基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌の疫学:観察研究

Epidemiology of extended-spectrum beta-lactamase-producing Enterobacteriaceae in a UK district hospital; an observational study

D.A. Enoch*, F. Brown, A.W. Sismey, D.A. Mlangeni, M.D. Curran, J.A. Karas, D.B. Cone, S.H. Aliyu, H. Dhanji, M. Doumith, S. Maharjan, D. Meunier, N. Woodford
*Peterborough City Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 270-277


背景
基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)は、グラム陰性菌の耐性の原因としての重要性が世界的に高まっている。

目的
英国の病院における ESBL 産生腸内細菌科細菌による感染症の臨床疫学および分子疫学を調査し、産生される ESBL の種類および耐性獲得のリスク因子を明らかにすること。

方法
2008 年 7 月から 2009 年 6 月に何らかの臨床検体から ESBL 産生腸内細菌科細菌が検出されたすべての患者を対象として、質問票による前向き調査を実施した。API20E を用いて菌の同定を行った。感受性試験は BSAC ディスク拡散法、ESBL 産生についてはセフポドキシム-クラブラン酸 double disc synergy test により評価した。PCR 法により、blaCTX-M 遺伝子を対象とした分離菌株サブセットのスクリーニング、大腸菌(Escherichia coli)分離株の系統発生群への分類、および尿路病原性 ST131 型に属する株の同定を行った。

結果
腸内細菌科細菌が認められた臨床検体からの ESBL 産生菌検出率は1%であった。患者 124 例から検出された ESBL 産生菌の内訳は、大腸菌(105 例)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)(12 例)、その他(7 例)であった。特定された主なリスク因子は、最近の抗菌薬使用(93%)および尿道カテーテル留置(24%)であった。優勢な ESBL は CTX-M-1 型であった(検査した分離株 78 株中 59 株、76%)。大腸菌の半数以上(検査した 56 株中 35 株)は系統群 B2 であり、このうち 23 株は ST131 クローンに属していた。系統群 D が 12 株、系統群 A および B1 がそれぞれ 4 株であった。

結論
ESBL 産生菌はケンブリッジシャー北西部では検出頻度は低いが重大な問題である。ESBL 陽性分離株の 75%に CTX-M 型 ESBL が認められた。2 例を除くすべての患者が、既知のリスク因子を 1 つ以上有していた。本研究は不適切な尿道カテーテル留置および抗菌薬処方を減少させる介入が必要であることを示している。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
ESBL 産生菌検出のリスク因子は、これまでの知見により、長期入院、尿道カテーテル、第三世代セフェム系抗菌薬の投与が知られており、本論文でも ESBL 産生菌検出率の減少には尿道カテーテル留置と抗菌薬処方への介入が必要であると示唆されている。とはいえ、院内での伝播を防ぐための接触予防策の徹底がまずありきであろう。

監訳者注:
BSAC:The British Society for Antimicrobial Chemotherapy

皮膚シーラント InteguSeal® は心臓手術後の縦隔炎の予防に影響しない★★

Skin sealant InteguSeal® has no impact on prevention of postoperative mediastinitis after cardiac surgery

T. Waldow*, M. Szlapka, J. Hensel, K. Plötze, K. Matschke, L. Jatzwauk
*Dresden Heart Center, Germany

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 278-282


背景
胸骨正中切開術後の手術部位感染症(SSI)は重篤な合併症であり、心臓手術後の有害な臨床転帰をもたらすリスクとなる可能性が高い。抗菌皮膚シーラント InteguSeal® は、SSI 発生を予防するための新たなツールとして導入された。

目的
この単一施設研究では、2 つの前向きレジストリを用いて、待機心臓手術後の縦隔炎または他のあらゆる胸部皮膚切開創 SSI の発生に対する、シアノアクリレートベースの抗菌皮膚シーラント(InteguSeal®)の予防効果を評価した。

方法
2010 年 10 月から 2011 年 4 月に、当施設で合計 998 例の患者が胸骨正中切開術による待機心臓手術を受けた。496 例に対して、胸部皮膚切開前の標準的な術前の前処置に InteguSeal® を使用した(第 1 群)。502 例に対しては、標準的な術前の皮膚の前処置に InteguSeal® を使用しなかった(第 2 群)。主要エンドポイントは術後 30 日間に縦隔炎が認められないこと、副次的エンドポイントは術後 30 日間に他のあらゆる SSI が認められないこととした。

結果
Per-protocol 解析の適格患者は合計 983 例であった(488 例対 495 例)。術後の縦隔炎の発生率は、第 1 群 2.3%、第 2 群 3.2%であった(有意差なし)。SSI の全発生率は、第 1 群 10.9%、第 2 群 11.5%であった(有意差なし)。周術期の患者特性、実施された外科手技の複雑さ、および入院期間は両群で同等であった。

結論
InteguSeal® を使用しても、胸骨正中切開術による心臓手術後の SSI および縦隔炎の発生率は影響を受けない。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
1 つの病院において、胸骨正中切開術による待機心臓手術を受けた患者を 2 群に分け、切開前に前処置として抗菌皮膚シーラントを使用した群と使用しなかった群で SSI の発生率を比較した論文である。同様の研究は以前にも報告があり、抗菌皮膚シーラント使用群でオッズ比 7.5 で SSI 発生率が低かったという結果が示されていたが、症例数も少なく、研究デザインとしては十分なものではなかった(J Hosp Infec 2009;72:119-126)。本論文では、ランダム化二重盲検試験ではないものの、サンプルサイズや割り付けの方法を明記し、背景に差がない 2 群で比較したところ、SSI 発生に差がないことを示した。研究手法にも学ぶところが多い論文である。

模擬手術条件下でのスクラブ法と擦式法を併用した 3 種類のレジメンの持続的抗菌効果および残留抗菌効果の in vivo 評価

In vivo evaluation of the persistant and residual antimicrobial properties of three hand-scrub and hand-rub regimes in a simulated surgical environment

C.M. Beausoleil*, D.S. Paulson, A. Bogert, G.S. Lewis
*BioScience Laboratories, Inc., USA

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 283-287


背景
術前の手指消毒用抗菌製剤の使用によって手術部位感染の発生率が減少することが示されている。このような製剤は、手指の微生物叢を即時的に減少させる効果が手袋装着中も持続する必要がある。

目的
本研究では、手術時に使用されている 3 種類の手指洗浄手順をシミュレーションし、その持続的抗菌効果と残留抗菌効果を比較した。手指洗浄手順の 1 つは、クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)含有製剤を用いてスクラブ法、次いで擦式法を実施するものであり、2 つはクレンジングソープによるスクラブ法の後に 2 種類のアルコール製剤のいずれかによる擦式法を行うものとした。

方法
本試験は 2 期に分けて実施した。第 1 期では、ボランティアの手指の常在微生物叢に対する持続的抗菌効果を評価した。第 2 期には、ボランティアの手指に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(ATCC 6538)を接種し、残留抗菌効果を評価した。

結果
第 1 期の試験では、CHG 製剤によるスクラブ法の後にアルコール/CHG 含有製剤による擦式法を行うほうが、石けんによるスクラブ法の後にいずれかの擦式法を行うよりも、常在細菌叢の有意な減少が持続することが示された(P ≦ 0.00)。第 2 期にはすべてのプロトコールで、CHG 製剤によるスクラブ法後のアルコール/CHG 含有製剤による擦式法により、石けんによるスクラブ法後のいずれかの擦式法と比較して、黄色ブドウ球菌数が有意に減少した(P ≦ 0.00)。

結論
CHG およびアルコールを含有する製剤を用いたスクラブ法と擦式法の併用により、常在細菌叢および手術用手袋内の皮膚を汚染する一過性細菌のいずれもが、有意かつ持続的に減少することが示された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
医療現場においては、いかに有効な手指消毒薬を適切に配置しても、適切な使用が実行されなければ、期待する結果を得ることはできない。現場のジレンマである。

監訳者注:
本論文の著者の所属施設である BioScience Laboratories は臨床試験の第三者評価機関であり、FDA の手指衛生認証基準である TFM のデータ作成受注を手がけている米国最大手の企業である。データの信頼性は高い。

血液培養コンタミネーション率低下のための効果的な戦略:退役軍人病院での経験★★

Effective strategy for decreasing blood culture contamination rates: the experience of a veterans affairs medical centre

D. Youssef*, W. Shams, B. Bailey, T.J. O’Neil, M.A. Al-Abbadi
*East Tennessee State University, USA

Journal of Hospital Infection (2012) 81, 288-291


血液培養のコンタミネーションは診断にかかわる問題の 1 つであり、医療システムに負荷をもたらしている。採血を担当した医療従事者のイニシャルを血液培養用ボトルに記載することをルーチン化し、その後個人にフィードバックすることが、血液培養コンタミネーション率に及ぼす影響を評価するために、後向き観察研究を実施した。手順変更前の施設全体のコンタミネーション率は 2.6%であったが、介入開始後 12 か月間のコンタミネーション率は 1.5%へ有意に低下した(P < 0.001)。採血を担当した医療従事者のイニシャルを血液培養用のボトルに記載することをルーチン化し、その後個人にフィードバックすることは、血液培養コンタミネーション率の低下に有効であった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
彼らの戦略は極めて明快である。「血液培養ボトルには、採取した人のイニシャルを記名する」。このことが、採血者に責任感と自立心を持たせ、コンタミネーション率は激減した、というのである。しかし、この成功の陰には、コンタミネーションの記録、実施者の上司へのレポート、スタッフへの個人毎の継続した教育というきめ細やかなサポート体制があった。

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Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.