JHIサマリー日本語版トップ

レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

低温大気圧プラズマと汚染除去:病院感染の予防に役立つか?

Cold atmospheric pressure plasma and decontamination. Can it contribute to preventing hospital-acquired infections?

N. O’Connor*, O. Cahill, S. Daniels, S. Galvin, H. Humphreys
*National Centre for Plasma Science and Technology, Ireland

Journal of Hospital Infection (2014) 88, 59-65


医療関連感染症は、欧州だけでも年間約 450 万人の患者が罹患している。「多剤耐性」微生物の増加が続いているため、感染予防・制御策の重要な要素として、より効果的な新たな環境汚染除去法の探索が行われている。その 1 つが、医療施設における低温大気圧プラズマ(CAPP)システムの臨床使用である。CAPP は抗菌、抗真菌、抗ウイルス作用を有することが示されているが、臨床医学分野ではこの 10 年間にその他の目的で利用されてきた。CAPP は、プラズマ生成機序の相違(プラズマジェット、誘電体バリア放電など)によって、その物理的・化学的特性が異なる。CAPP システムは、陽イオンや陰イオンおよび活性原子・分子(原子状酸素、オゾン、スーパーオキシド、窒素酸化物など)などからなる活性種の「カクテル」、強力な電磁場、および紫外線を生成する。これらのイオン類が微生物、皮膚、血液、および DNA に及ぼす作用の研究が行われ、その結果、表面汚染除去、創傷治癒、バイオフィルム除去、さらには癌治療など、CAPP の様々な実用化可能性が明らかにされている。本稿では、プラズマデバイスとその適用、作用機序、および特に医療関連感染対策にかかわる臨床環境表面に対する影響について評価する。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
「プラズマ」は固体・液体・気体に続く物質の第 4 の状態の名称で、一般的には「電離したガス」のことをいう。わが国では「プラズマ」といえば「プラズマ滅菌システム」であるステラッド®がよく知られ、また市販品としてはプラズマクラスター®が有名である。医療器具の滅菌や環境の除菌は近年、欧米でのトピックスとなっており、紫外線照射や過酸化水素などの研究開発や商品販売が盛んであるが、本稿は「低温大気圧プラズマシステム」による最近の研究に関する総説である。低温大気圧プラズマシステムは、従来の環境除菌や医療器具滅菌にとどまらず、止血・創傷治癒促進や皮膚の除菌など人体への応用も期待されており、わが国でも産学協同で研究が進められている。

カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌に対する直腸スワブを用いたルーチンの積極的サーベイランス:マルチプレックス PCR 法の診断上の意義

Routine active surveillance for carbapenemase-producing Enterobacteriaceae from rectal swabs: diagnostic implications of multiplex polymerase chain reaction

W. Lowman*, M. Marais, K. Ahmed, L. Marcus
*Vermaak and Partners Pathologists, South Africa

Journal of Hospital Infection (2014) 88, 66-71


背景
カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)保菌のスクリーニングは、重要な感染予防・制御戦略と考えられている。スクリーニングはこれまで主として培養に基づいて行われてきたが、PCR 法によるスクリーニングが主流となりつつある。現時点ではゴールドスタンダードのスクリーニング法は存在していないため、積極的サーベイランスでは複数の診断戦略の意義を考慮することが重要である。

目的
積極的サーベイランスの一環として、種々の病院の入院患者からの CPE 検出を目的としたマルチプレックス PCR 法によるスクリーニング戦略の有用性を評価すること。

方法
CPE 保菌リスクを有すると考えられる種々の病院の患者から、単回の直腸スワブ採取を行った。米国疾病対策センター(CDC)の修正培養プロトコールと、PCR 法による blaNDMblaKPCblaOxA-48-likeblaMP、および blaGES 遺伝子検出を比較した。

結果
連続的に採取した直腸スワブ 251 サンプル中 30 サンプルが、PCR 法により 1 つ以上のカルバペネマーゼ遺伝子陽性であった。15 サンプル(50%)は培養陽性であり、このうち CPE は 6 分離株のみであった。PCR 法による CPE 検出は、感度(100%)、特異度(89.8%)、および陰性的中率(100%)が良好であったが、陽性的中率はカルバペネマーゼ産生グラム陰性菌 46.6%、CPE 16.6%のみであった。

結論
直腸スワブを用いた PCR 法による CPE 検出性能は見かけ上は良好であったが、その評価にあたっては CPE 保菌率が高いことが事前に判明していたことを差し引く必要があり、また特定の疫学的状況に限定して解釈しなければならない。スクリーニングツールとしての PCR 法に基づく手法の臨床的有用性を培養と比較評価する、さらなる研究が必要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
肛門スワブを用いて抄録に示す 6 種類のカルバペネマーゼ産生遺伝子を、マルチプレックス PCR によって 1 度に検出するスクリーニング方法について評価した論文である。本研究では培養検査結果と比較すると、blaVIM 遺伝子が陽性になった検体の多くで腸内細菌ではなく緑膿菌が検出されたため、「カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌のスクリーニング方法」としては臨床的有用性に欠けると結論している。ただし、これはスクリーニングを行うセッティングによって異なるだろう。日本では blaIMP を保有するカルバペネマーゼ産生腸内細菌が問題になっているが、同遺伝子を保有する緑膿菌も報告されており、肛門スワブ検体を用いた PCR だけでは本研究と同様に腸内細菌科と緑膿菌を鑑別できないかもしれない。PCR 法を用いたスクリーニング法は MRSA では一定の成績が報告されているが、腸内細菌科ではまだ解決すべき問題が多いようだ。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の地域的流行の定着を低蔓延国で実証するためには spa タイピング単独では不十分である

spa typing alone is not sufficient to demonstrate endemic establishment of meticillin-resistant Staphylococcus aureus in a low-prevalence country

A.E. Fossum Moen*, M. Holberg-Petersen, L.L. Andresen, A. Blomfeldt
*University of Oslo, Norway

Journal of Hospital Infection (2014) 88, 72-77


背景
ノルウェーではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の蔓延はみられないものの、増加しつつある。この十年間に、多数のナーシングホームで MRSA のアウトブレイクが発生している。遺伝子型の 1 つである spa 型 t304 は多数のナーシングホームで同定されており、数年間に及ぶ大規模なアウトブレイクを引き起こしている。

目的
MRSA の低蔓延地域において、その拡散および地域的流行の定着を検出するためには spa タイピングで十分であるかどうかを、spa 型 t304 を試験菌として評価すること。

方法
ノルウェーの最も人口密度が高い地域で 1991 年から 2010 年に検出された spa 型 t304 の全分離株を対象とした。菌の採取日と場所を記録した。Multiple-locus sequence typing(MLST)法、ブドウ球菌カセット染色体(SCC)mec タイピング、lukS/F-PV 検出、およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法を用いて分離株の分析を行った。

結果
23 市町村のうち 3 市町村で合計 181 株の spa 型 t304 分離株が同定された。大半の分離株(91%)は 13 施設のナーシングホームとの関連が認められ、このうち 8 施設ではアウトブレイクが発生していた。PFGE 分析により、19 の PFGE パターンからなる 3 つの PFGE 型が判明し、95%の分離株が PFGE 2 型であった。ナーシングホームからの全分離株の 99%が PFGE 2 型および 3 型であり、種々のナーシングホームから、種々のアウトブレイクで、種々の期間に分離株が得られた。さらなる遺伝子解析を行ったが、spa 型 t304 分離株を細分類することはできなかった。

結論
MRSA の spa 型 t304 は、研究対象地域で地域流行性の遺伝子型として定着していたと考えられる。低蔓延地域において地域流行性の可能性のある遺伝子型の拡散を調査する場合に、spa タイピングは十分な分析法ではなく、別のタイピング法で補完する必要がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
MRSA の分子疫学の代表的解析方法として、PFGE 法、MLST 法、spa タイピング、SCCmec タイピングなどがあり、クローンの分子疫学解析に広く利用されている。黄色ブドウ球菌の病原因子の 1 つであるプロテイン A の遺伝子(spa)の多変領域の塩基配列を決定することで、MRSA のクローンを決定するのが spa タイピングである。本論文での解析では、この遺伝子領域に変化がないため十分な解析ができず、MRSA の全遺伝子を制限酵素による切断後に電気泳動解析する PFGE によりタイピングが可能であった。MRSA の蔓延が極めて低い地域で特定の遺伝子型が定着している場合には、1 種類の方法ではなく複数の手法を用いて解析しなければならない場合がある。

手指消毒の新規評価法により術前のアルコール/クロルヘキシジン製剤による擦式手指消毒の効果は従来のスクラブ法と同等であることが示された

New method for assessing hand disinfection shows that pre-operative alcohol/chlorhexidine rub is as effective as a traditional surgical scrub

J.D. Howard*, C. Jowett, J. Faoagali, B. McKenzie
*University of Queensland Southern Clinical School, Australia

Journal of Hospital Infection (2014) 88, 78-83


背景
クロルヘキシジンアルコール溶液による擦式手指消毒の微生物汚染除去能は、従来のクロルヘキシジン水溶液を用いたスクラブ法と同等であることが複数の研究から示されている。しかしこれらの研究は、実際の手術室環境には当てはまらない可能性があるという方法論的な欠陥があると考えられる。そこで、手術室で実際の業務にあたる職員を協力者として、日常的な手術室環境で製剤の比較を行う方法を開発した。

目的
クロルヘキシジンアルコール溶液による擦式手指消毒の効果は、従来のスクラブ法と同等であるかどうかを新規評価法を用いて明らかにすること。

方法
麻酔医 20 名のベースライン時の細菌数をグローブジュース法により測定した。次いで片方ずつ滅菌グローブに交換したが、一方の手指は 4%クロルヘキシジン水溶液で 3 分間のスクラブを行い、もう一方は 70%イソプロピルアルコール/0.5%クロルヘキシジン溶液で 60 秒間の擦式手指消毒を行った。30 分後に、それぞれの手指の残存細菌数をグローブジュース法により測定した。これらの細菌数を log10 値に変換し、ベースライン時の左右の手指の細菌数と比較するとともに、各溶液の効果を比較した。

結果
ベースライン時の細菌数平均値(± 標準偏差[SD])は、左手 4.42 ± 0.81 log10、右手 4.64 ± 0.60 log10 であった(P > 0.05)。ベースラインからの細菌数減少の平均値(± SD)は、4%クロルヘキシジン 1.45 ± 0.50 log10、クロルヘキシジンアルコール溶液 2.01 ± 0.98 log10 であった(P > 0.05)。

結論
30 分後の比較で、クロルヘキシジンアルコール溶液による擦式手指消毒の効果は、従来のスクラブ法と同等であることが示された。この研究は、業務環境で作業を行う麻酔科医の集団を対象として実施した点がこれまでの研究とは異なっている。今回の McKenzie 法を用いると、ベースライン評価と試験の評価を同一被験者で同時に行うことができ、各被験者自身が対照となる。McKenzie 法は消毒液の比較法として、標準的な方法よりも臨床的重要性が高い。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
手指消毒剤の評価方法としてこれまで米国と欧州の 2 つの方法があったが、評価に 2 週間以上の期間が必要、評価前に石けんで手洗い後をベースラインにするなど、実際の現場での評価を反映していない可能性があった。著者らは同一人で片手ずつ異なる消毒剤で消毒し、グローブジュース法により細菌数を測定する新たな評価方法として McKenzie 法を考案し、4%クロルヘキシジン(CHG)によるスクラブ法と 0.5%CHG + 70%イソプロピルアルコールによる擦式手指消毒法を比較し、その細菌減少効果が同等であることを報告している。本法は評価時間が 1 人あたり 45 分程度と短時間であり、指先のみの培養ではなく手指全体の細菌数を測定している点が特徴である。本論文では、「30 分以内の手技」に関しては、従来のスクラブ法と擦式手指消毒法とで、細菌学的に同等であることを証明している。

手指衛生遵守に関する視角的フィードバックを即時に行う接触モニタリングシステムの効果

Effect of a contact monitoring system with immediate visual feedback on hand hygiene compliance

S.J. Storey*, G. FitzGerald, G. Moore, E. Knights, S. Atkinson, S. Smith, O. Freeman, P. Cryer, A.P.R. Wilson
*University College London Hospitals, UK

Journal of Hospital Infection (2014) 88, 84-88


背景
これまで手指衛生遵守のモニタリングは、バイアスがかかりやすく時間と場所の制約が大きい視覚的方法によって行われてきた。感染制御および手指衛生実践の管理には、自動モニタリングがより効果的であると考えられる。

目的
手指衛生の自動接触モニタリングシステムの精度と受容性を明らかにすること。

方法
加工した ID バッジ、ベッドサイドの家具、シンク、およびアルコールジェルディスペンサーからなるモニタリング装置を、3 病棟の 55 のベッドに設置した。バッジはアルコール蒸気の検出が可能であり、皮膚に近接して装着した(制服の上から)。すべてのデバイスを Wi-Fi で接続した。患者に近づく際の職員の手指衛生実践状況を、バッジに設置した点灯システムによって職員および患者に即時にフィードバックするとともに、遵守状況を自動的に記録した。即時フィードバック実施後 2 週間は視覚的フィードバックを行わなかった。その後、赤色光と緑色光によるフィードバックを 10 日間実施し、次いで病棟へ遡及的(レトロスペクティブ)にフィードバックを行った。別途に観察者 1 名が手指衛生の検証を行った。

結果
積極的な即時フィードバック実施期間中に、手指衛生遵守率は 21%(手指衛生機会 1,665 回)から 66%(同 3,672 回)へ増加した。病棟への遡及的フィードバック実施期間中は、遵守率は低下した。6 名(26%)の職員が、バッジが重過ぎる、または病棟に終日いるわけではないという理由でバッジを装着しなかった。手指衛生を実施しなかった職員に対して注意をすると述べた患者は、30 例中 3 例のみであった。

結論
即時フィードバックを行う自動接触モニタリング法は、手指衛生遵守率の向上に効果があったが、遡及的フィードバックでは遵守率低下を防止することはできなかった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
手指衛生の遵守率を向上させるために、どのようにしたら意識や行動を変えられるか、何を工夫できるかは、感染対策上変わらない大きな課題である。遵守状況をリアルタイムにチェックし、その結果をすぐ本人に知らせることができたら、遵守率はどう変わるのか―本研究で得られた実践結果は非常に興味深い。

鼻腔の光殺菌およびクロルヘキシジンワイプにより手術部位感染が減少する:歴史的対照研究および傾向分析

Nasal photodisinfection and chlorhexidine wipes decrease surgical site infections: a historical control study and propensity analysis

E. Bryce*, T. Wong, L. Forrester, B. Masri, D. Jeske, K. Barr, S. Errico, D. Roscoe
*Vancouver General Hospital, Canada

Journal of Hospital Infection (2014) 88, 89-95


背景
クロルヘキシジンボディーソープや鼻腔内ムピロシン投与を用いた術前除菌療法により手術部位感染(SSI)が減少し得るが、遵守状況が不良であることが多い。

目的
鼻腔内光殺菌処置とクロルヘキシジンボディーワイプを併用した新しい迅速除菌療法を用い、SSI の減少効果を評価すること。

方法
2011 年 9 月 1 日から 2012 年 8 月 31 日に、心臓外科、整形外科、脊椎外科、血管外科、胸部外科、および脳神経外科の待機的手術患者 3,068 例を対象として、手術 24 時間前にクロルヘキシジン処置を実施し、さらに手術控え室で鼻腔内光殺菌処置を行った。SSI サーベイランス法は前年までと同様とし、患者の追跡を 1 年間行った。それらの結果を、4 年間の歴史的対照群 12,387 例および無処置の同時対照群 206 例の結果と比較した。

結果
処置患者では歴史的対照群と比較して SSI 発生率の有意な低下が認められた(1.6%対 2.7%、P = 0.0004、オッズ比[OR]1.73、95%信頼区間[CI]1.2815 ~ 2.3453)。この有意な低下は intent-to-treat 解析によっても同様に認められた(P = 0.021、OR 1.37、95%CI 1.9476 ~ 1.7854)。全体の除菌療法遵守率は 94%であった。処置患者と無処置患者を 1:4 でマッチさせた傾向スコア分析から、除菌療法は SSI リスクを有意に低下させることが示された(P = 0.00026、z = 3.65)。

結論
手術直前のクロルヘキシジンワイプと光殺菌処置の併用により SSI が減少し、その遵守状況は良好であり、術前のルーチンの処置に容易に組み入れることができた。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
鼻腔内光殺菌は、鼻前庭に光感受性のメチレンブルーを塗り、それに光を当てて活性化することで抗菌活性を期待するものである。これまで歯周炎の治療を目的として口腔粘膜に用いられたことがあり、安全性に問題はなかったとされている。今回、鼻腔内光殺菌とクロルヘキシジンワイプの併用で SSI 発生率が低下したことは、鼻腔内保菌を介した伝播の重要性をあらためて強調するものといえる。

心臓手術後の縦隔炎のリスク因子:肥満の管理の重要性

Risk factors for mediastinitis following cardiac surgery: the importance of managing obesity

S.M. Rehman*, O. Elzain, J. Mitchell, B. Shine, I.C.J.W. Bowler, R. Sayeed, S. Westaby, C. Ratnatunga
*John Radcliffe Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2014) 88, 96-102


背景
縦隔炎は心臓手術の深刻な合併症である。これまでの研究の多くは小規模集団の観察であり、後向きデザインを採用しており、縦隔炎の定義が一貫していない。

目的
縦隔炎のリスク因子と、その発生を最小限にする戦略を明らかにすること。

方法
2003 年 10 月から 2009 年 2 月に心臓手術を受けた成人患者 4,883 例を対象とした前向きコホート研究を実施し、術前および術中のリスク因子、病因微生物、再入院の必要性、入院期間、および死亡率を、縦隔炎の有無別に比較した。

結果
患者 90 例(1.8%)が縦隔炎と診断された。このうち 75 例で病因微生物が特定された。最も高頻度に分離されたのは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)であった(30 件、このうち 15 件はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌[MRSA])。単変量解析により特定された縦隔炎に関連する術前因子は、年齢、体格指数(BMI)、糖尿病、修正ロジスティック European System for Cardiac Operative Risk Evaluation スコア、緊急入院、および術前の長期入院であった(P < 0.05)。また縦隔炎に関連する術中因子は、冠動脈バイパス移植と大動脈弁置換の同時手術、長時間の大動脈遮断、および長時間の心肺バイパスであった(P < 0.005)。多変量解析により縦隔炎との関連が認められた因子は、BMI 高値、冠動脈バイパス移植と大動脈弁置換の同時手術、および高齢であった(P < 0.05)。縦隔炎は再入院、入院期間延長、および長期生存率低下と関連していた(P < 0.05)。

結論
縦隔炎は短期的アウトカム(再入院、入院期間)の悪化および長期生存率低下と関連していた。肥満は、縦隔炎の改善可能な唯一の術前リスク因子である。待機的手術前の減量プログラムによって、このリスクの低下を図ることができると考えられる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
心臓手術後の縦隔炎のリスク因子について検討した論文である。過去の知見として、患者に起因するリスク因子としては、糖尿病(術後の高血糖)、肥満、喫煙等がある。この論文でも改めて、肥満は縦隔炎の改善可能な唯一の術前リスク因子であることが指摘されているが、このことは、術前の体重コントロールが可能であっても困難であることを意味しているのであろうか。

集中治療室における緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)獲得のリスク因子:前向き多施設研究

Risk factors for Pseudomonas aeruginosa acquisition in intensive care units: a prospective multicentre study

A.-G. Venier*, C. Leroyer, C. Slekovec, D. Talon, X. Bertrand, S. Parer, S. Alfandari, J.-M. Guerin, B. Megarbane, C. Lawrence, B. Clair, A. Lepape, M. Perraud, P. Cassier, D. Trivier, A. Boyer, V. Dubois, J. Asselineau, A.-M. Rogues, R. Thiébaut and the DYNAPYO study group
*CHU, CCLIN Sud-Ouest, France

Journal of Hospital Infection (2014) 88, 103-108


背景
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は集中治療室(ICU)における主要な院内感染病原体であるが、汚染の由来が内因性か外因性かについては依然として明らかではない。

目的
ICU における緑膿菌獲得の患者および環境のリスク因子を特定すること。

方法
フランスの ICU 10 施設で 5 か月間の前向き多施設研究を実施した。ICU に 24 時間以上入室した成人患者を対象として、入室時、入室中週 1 回、および退室前に緑膿菌保菌のスクリーニングを行った。緑膿菌獲得の定義は、入室時にスクリーニングスワブ陰性で、その後に保菌・感染が認められた場合とした。ICU の水道から水サンプルを週 1 回採取した。患者特性、侵襲性器材の使用、抗菌薬療法、水および患者の緑膿菌保菌圧、および ICU 特性に関するデータを収集した。多変量 Cox モデルを用いてハザード比(HR)を推定した。

結果
ICU 入室時に緑膿菌保菌・感染がない 1,314 例のうち、201 例(15%)が入室中に緑膿菌を獲得した。緑膿菌獲得に有意に関連する患者特性は、以前の緑膿菌感染・保菌歴、人工呼吸器累積装着期間、および緑膿菌に対する活性がない抗菌薬の累積投与日数であった。緑膿菌獲得の環境リスク因子は、病棟の 1 日あたりの「nine equivalents of nursing manpower use score(NEMS)」の累積(30 ポイント以上のハザード比[HR]1.47、95%信頼区間[CI]1.06 ~ 2.03)および病室の水道水汚染(HR 1.76、95%CI 1.09 ~ 2.84)であった。

結論
緑膿菌獲得の介入可能な患者および環境のリスク因子が特定された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本論文では、緑膿菌獲得のリスクとして、患者個人に起因するリスク因子が環境に起因するリスク因子よりもハザード比が高かった。そのうえで、環境因子として、水の汚染とスタッフの業務負担がリスクであるとしている。水道管への対応とともに、アルコールによる手指衛生の推奨も必要であろう。リスクアセスメントのためのリスク分類の重要性を考えることができる論文である

監訳者注:
Nine equivalents of nursing manpower use score(NEMS):看護職員の作業負荷を評価するための 9 項目からなる簡易な指標(Reis Miranda D, et al. Intensive Care Med 1997;23:760)。

2005 年から 2011 年の英国の新生児室における侵襲性シュードモナス(Pseudomonas)属菌感染による負荷の特性解析

Characterizing the burden of invasive Pseudomonas infection on neonatal units in the UK between 2005 and 2011

S. Kadambari*, A. Botgros, P. Clarke, S. Vergnano, M. Anthony, J. Chang, A. Collinson, N. Embleton, N. Kennea, P. Settle, P.T. Heath, E.N. Menson, NeonIN Neonatal Infection Surveillance Network
*St George’s University of London, UK

Journal of Hospital Infection (2014) 88, 109-112


新生児室におけるシュードモナス(Pseudomonas)属菌感染に関する懸念事項は、主としてそのアウトブレイクである。本研究では、NeonIN Neonatal Infection Surveillance Network に参加している英国の 18 の新生児室における 2005 年 1 月から 2011 年 12 月の侵襲性 Pseudomonas 属菌感染症例の解析を行った。報告された症例は 39 例であった。ほとんどの症例(39 例中 36 例、93%)が遅発性であり(中央値 14 日、範囲 2 ~ 262 日)、発生率が最も高いのは超低出生体重児で、全症例が散発性であった。症例の 3 分の 1 では侵襲性感染症に先立って保菌が確認された。侵襲性感染症による死亡率は 18%であった。この重大な病原体による侵襲性感染症の予防機会を重視すべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
18 施設から集められた症例を丁寧に解析した論文である。背景に大きな違いがないにもかかわらず、参加施設中 6 つの NICU では調査期間中に対象となる症例がゼロであったこと、また、治療に苦慮する耐性緑膿菌の割合は低かったことが明らかになったが、いずれも明確な理由はわからなかった。1 施設ごとでは症例数が少ないためにこのような解析が困難であり、貴重な報告である。

局所抗菌薬の残留活性測定:クロルヘキシジンの残留活性は実験室検査のアーチファクトか?

Measuring residual activity of topical antimicrobials: is the residual activity of chlorhexidine an artefact of laboratory methods?

J.D. Rutter*, K. Angiulo, D.R. Macinga
*GOJO Industries, Inc., OH, USA

Journal of Hospital Infection (2014) 88, 113-115


クロルヘキシジングルコン酸塩で手指を前処置した後、ステンレススチール製ディスク上で乾燥させた黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に接触させて、クロルヘキシジングルコン酸塩の残留活性を評価した。この方法では、測定を行った曝露後 15 分までに細菌の減少は観察されなかったことから、手指に残留したクロルヘキシジングルコン酸塩では診療時の一時的な微生物汚染は防御できないことが示唆された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
消毒薬の有効性についてはこれまでも様々な実験系での検討がなされてきたが、その評価は容易ではない。日本環境感染学会では「生体消毒薬の有効性評価指針:手指衛生 2011」も公開されており、これらを参考にしながら、実験結果の臨床への応用は慎重に考えたいところである。

基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌(Escherichia coli)による尿路感染症の選択したリスク因子に関する service evaluation:症例対照研究

Service evaluation of selected risk factors for extended-spectrum beta-lactamase Escherichia coli urinary tract infections: a case-control study

T. Inns*, S. Millership, L. Teare, W. Rice, M. Reacher
*Anglia and Essex Public Health England Centre, Public Health England, UK

Journal of Hospital Infection (2014) 88, 116-119


基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌(Escherichia coli)感染症の発生率が上昇していることから、そのリスク因子を特定して地域の臨床実践に対する情報と指針を提供することを目的として、参加者数をマッチさせた前向き症例対照研究を実施した。症例 54 例および対照 58 例の合計 112 例の参加者を登録した。単変量解析により、過去 12 か月間の ESBL 産生大腸菌分離、および糖尿病の併存が、転帰と有意に関連することが示された。本研究から、臨床実践に有用な疫学的情報を提供するためには service evaluation研究が有用であることが示された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
尿路感染に限定した ESBL 産生大腸菌感染症のリスク因子を検討した論文である。自施設の耐性菌対策を評価するとき、対象を限定することはリスクとそれに対する対策を検討する上で有用であろう。

監訳者注:
Service evaluation:現行の特定の医療サービスを明確化する、または評価することのみを目的として、その医療サービスを受ける患者を対象として実施される研究。そこで用いられる介入は、現行の標準サービスである。

サイト内検索

Loading

アーカイブ

最新のコンテンツ

Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.