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★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

アフリカにおけるエボラウイルス病:疫学および院内伝播

Ebola virus disease in Africa: epidemiology and nosocomial transmission

P. Shears*, T.J.D. O’Dempsey
*Wirral University Teaching Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 1-9


西アフリカにおける 2014 年のエボラアウトブレイクは主にギニア、シエラレオネ、およびリベリアで発生し、症例数および国際的対応は過去のあらゆるエボラアウトブレイクを超えるものであった。2014 年のアウトブレイク以前には、サハラ以南のアフリカでエボラウイルス病の大規模アウトブレイクは 20 件発生しており、2000 年のウガンダにおける 425 例、死亡率 53%が最大のものであった。1976 年のスーダンおよびザイールにおける最初のアウトブレイク以降、医療施設内での伝播は重大な懸念事項であり、医療従事者に感染をもたらし、市中への拡散増幅装置として作用してきた。院内伝播の主な原因は感染制御のためのリソースおよび個人防護具の不足である。地域の感染制御改善戦略に加えて、地域社会におけるこの疾患のとらえ方を十分に理解することが、アウトブレイク制御の促進をもたらしてきた。これまでのアウトブレイクから推奨されることは、疾患サーベイランスの改善による保健対応の迅速化、個人防護具の利用可能性の拡大、および国際的な備えの強化などである。

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監訳者コメント
エボラ流行の惨事は、地域における文化・風習と医療機関における感染予防の知識と技術の遅れに加え、物資不足・人手不足という最悪のシナリオで進行した。今回の経験を今後の対策にどう生かすかが課題である。

スタンダードプリコーション:それは何であり、何でないのか

Standard precautions: what is meant and what is not

E.T. Curran*
*NHS National Services Scotland, Health Protection Scotland, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 10-11


No abstract.

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監訳者コメント
英国ではカルバペネム分解酵素産生菌の感染対策にからみ、標準予防策とは何かの記載について、WHO と CDC、スコットランド地方の保健当局ならびに英国のエビデンスに基づく感染予防ガイドライン(epic3 プロジェクト)との間で食い違いがあり混乱を招いていると指摘、概念の統一性と今後の進歩に期待を寄せている。

先進国における医療関連感染の義務的公的報告:発展途上国はいかに追随できるか?

Mandatory public reporting of healthcare-associated infections in developed countries: how can developing countries follow?

M. Biswal*, A. Mewara, S.B. Appannanavar, N. Taneja
*Postgraduate Institute of Medical Education and Research, India

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 12-14


医療環境内での、または医療環境から市中への薬物耐性病原体の伝播増大がもたらす脅威は、極めて現実的であり憂慮すべきものである。先進国ではこれらの脅威を阻止するために強力な対策を講じているが、発展途上国に対して何らかの是正措置を取らせるような圧力はほとんどなかった。インドやその他の多くの発展途上国の病院で、医療関連感染率が警戒を要する場合の報告が義務化されていれば、利害関係者(医療従事者、議員、行政官、および病院における方針立案者など)によるこの問題の認識および対応の支援につながったと考えられる。この報告の義務化によって、医療における長年軽視されていた分野に質管理がもたらされ、インドには実質的に存在しない患者の権利向上が可能になると考えられる。医療機関は、医療関連感染予防の欠落に対する「ゼロ・トレランス」の強化に注力すべきである。世論の圧力によってインド政府がこの問題を認識し、より多くの資金をリソースおよびインフラの改善に割り当てることになると考えられ、その結果、平均的なインド国民に提供される医療水準が大幅に向上し得る。多くの困難が伴うものの、医療関連感染に関する全国的な公的ベンチマークを設定することは、インドなどの発展途上国におけるこの脅威への取り組みに大きな役割を果たすと考えられる、優れた目標である。

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監訳者コメント
医療事情の異なる国の間で、他の国で成功したビジネスモデルが必ずしも成功するとは限らない。しかし目標を定めて取り組む姿勢を諦めてはいけない。

日本人患者における 2 種類の心臓手術後の手術部位感染に関連するリスク因子の相違★★

Differences in risk factors associated with surgical site infections following two types of cardiac surgery in Japanese patients

K. Morikane*, H. Honda, T. Yamagishi, S. Suzuki
*Yamagata University Hospital, Japan

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 15-21


背景
開心術および冠動脈バイパス移植術後の手術部位感染(SSI)のリスク因子の相違については、十分に説明されていない。

目的
開心術および冠動脈バイパス移植術後の SSI のリスク因子を特定し、比較すること。

方法
院内感染対策サーベイランス(JANIS)システムに 2008 年から 2010 年に提出された開心術および冠動脈バイパス移植術の SSI サーベイランスデータの解析を実施した。単変量モデル解析、次いで多変量ロジスティック回帰分析により、SSI に関連する因子を解析した。非 2 値変数については、まず初めに最適なカテゴリーを特定した。

結果
SSI 累積発生率は開心術 2.6%(151/5,895)、冠動脈バイパス移植術 4.1%(160/3,884)であった。両手術群ともに、手術時間および米国麻酔学会(ASA)スコア高値は各モデルの SSI リスクの有意な予測因子であった。創分類は、開心術後の SSI と独立した関連が認められたが、冠動脈バイパス移植術では関連はみられなかった。インプラント、複数回の手術、および緊急手術は開心術後の SSI を予測したが、冠動脈バイパス移植術ではこれらの因子はいずれも SSI を予測しなかった。

結論
2 種類の心臓手術の間には、SSI リスクの予測に関する著明な相違が認められた。現行のサーベイランスシステムから入手可能な変数を組み入れることによって、開心術のリスク分類を改善できると考えられる。SSI の有意な予測因子であることが示されたのは、評価した変数のうち 2 つのみであったことから、追加的な変数を収集することによって冠動脈バイパス移植術のリスク指標分類を強化することができると考えられる。

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監訳者コメント
山形大学の森兼啓太先生の論文である。冠動脈バイパス移植術のリスク指標分類を強化できる項目を見いだしている。

血液透析患者集団におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)およびメチシリン感性黄色ブドウ球菌(meticillin-sensitive Staphylococcus aureus;MSSA)のスクリーニング:保菌、人口統計学的特性、および転帰

Meticillin-resistant Staphylococcus aureus and meticillin-susceptible Staphylococcus aureus screening in a cohort of haemodialysis patients: carriage, demographics and outcomes

A. Price*, N. Sarween, I. Gupta, J. Baharani
*Heart of England Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 22-27


背景
血液透析患者は、病院との高頻度の接触、留置器材、および免疫障害のために黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を容易に保菌する。また、保菌は感染リスク上昇と関連する。

目的
当院の血液透析患者集団におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant S. aureus;MRSA)およびメチシリン感性黄色ブドウ球菌(meticillin-sensitive S. aureus;MSSA)の保菌率を明らかにすること、および保菌、再保菌、または除菌プログラム後の持続的保菌のリスク因子を特定すること。

方法
2009 年 6 月から 2011 年 5 月に黄色ブドウ球菌保菌のスクリーニングを受けた全血液透析患者を対象として、電子カルテを用いて 18 か月間の後向き追跡調査を行った。IBM SPSS version 19 を用いて統計解析を実施した。

結果
スクリーニングを受けた患者 578 例のうち、1 回以上スワブ陽性であったのは 288 例(49%)であった(MRSA 10%、MSSA 90%)。これらの患者のうち 265 例が除菌療法のコースを完了し、根絶に成功したのは 36%(根絶例)、不成功であったのは 64%(非根絶例)であった。患者の人口統計学的特性、血管アクセスの種類、18 か月死亡率、または入院件数は、2 群間に統計学的有意差はみられなかった。根絶が不成功であった患者は、除菌が成功した患者と比較して研究期間中の黄色ブドウ球菌菌血症の発生率が高かった(P = 0.003)。

結論
当院の血液透析患者集団の半数は、18 か月間のいずれかの時点で黄色ブドウ球菌を保菌していた。除菌後に 3 分の 1 の患者では、18 か月間の持続的根絶に成功した。非根絶例では菌血症のリスクが上昇しており、不良な死亡率と関連している。日常的なスクリーニングを実施し、積極的に除菌を行うことが推奨される。

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監訳者コメント
黄色ブドウ球菌の保菌者が長期的な予後において黄色ブドウ球菌による感染症を引き起こす可能性があることは、以前より指摘されている。一方で、除菌療法による選択圧で耐性菌が増える可能性や、除菌の永続性に問題がある。

英国・イーストミッドランドの国民保健サービス(NHS)の急性期病院における黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌血症発生率に対する感染制御介入効果の分割時系列分析

Impact of infection control interventions on rates of Staphylococcus aureus bacteraemia in National Health Service acute hospitals, East Midlands, UK, using interrupted time-series analysis

S. Newitt*, P.R. Myles, J.A. Birkin, V. Maskell, R.C.B. Slack, J.S. Nguyen-Van-Tam, L. Szatkowski
*Nottingham City Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 28-37


背景
医療関連感染の減少は英国の国家的優先課題である。減少を目的とした複数の全国的および地域的介入が全国保健サービス(NHS)の急性期病院で実施されているが、その効果の評価は方法論的に困難であった。

目的
イーストミッドランドの急性期病院で2004 年から 2008 年に行われた全国的および地域的介入が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)およびメチシリン感性黄色ブドウ球菌(meticillin-sensitive S. aureus;MSSA)菌血症の発生率に及ぼした影響を、分割時系列分析を用いて評価すること。

方法
急性期病院 8 施設で複合的介入を実施し、介入前、介入中、および介入後の各期間の MRSA および MSSA 菌血症発生率を、セグメント回帰を用いて比較した。

結果
MSSA および MRSA 菌血症発生率の変化は、多くの施設で介入中に認められた。介入中、急性期病院 8 施設中 7 施設で MRSA 菌血症は有意に低下し、四半期ごとにみた場合でも、4 施設では介入前に比較して急峻な低下がみられた。1 施設では介入前に上昇傾向であったものが逆転した。MSSA については 4 施設で有意な正の効果が認められ、このうち 1 施設では介入前の上昇傾向が逆転し、2 施設では上昇傾向がプラトーに到達し、1 施設では増減がはっきりしなかったものが有意に減少した。しかし、4 施設では介入中または介入後において、四半期ごとの菌血症発生率に有意な上昇傾向がみられた。

結論
介入の効果は施設によってばらつきがみられたが、全体的な結果からは、全国的および地域的キャンペーンはイーストミッドランドでの MRSA および MSSA 菌血症に対して有益な効果があったことが示唆される。

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監訳者コメント
全国的・地域的なキャンペーンと介入が、黄色ブドウ球菌菌血症の発生に及ぼした効果を明らかにした研究である。MRSA 菌血症では減少効果がみられたが、その反面、MSSA 菌血症では減少、不変、増加を含むより多様なパターンが認められた。この理由として、筆者らは MSSA 菌血症では市中感染由来が多いためと推測している。本試験で用いられた介入方法の特性がこの差異に及ぼした影響について、さらなる追究が必要かもしれない。

パルスフィールド・ゲル電気泳動を用いた階層的全ゲノムシークエンシング:MRSA の交差感染源の推定における本手法の有用性

Whole-genome sequencing in hierarchy with pulsed-field gel electrophoresis: the utility of this approach to establish possible sources of MRSA cross-transmission

G. Moore*, B. Cookson, N.C. Gordon, R. Jackson, A. Kearns, J. Singleton, D. Smyth, A.P.R. Wilson
*University College London Hospitals NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 38-45


背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)のミクロな疫学を効率的に調べるためには、用いる分子タイピング法によって、株の識別が可能でなければならない。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法はわずかな遺伝的相違でも検出することができるが、主要な系統に属する株間において区別しようとすると、その識別能には限界がある。一方、全ゲノムシークエンシングには、他の方法では識別できない株間の関連を裏づけたり、あるいは否定できる十分な分析能があるが、従来のタイピング法のような実用性には欠けている。

目的
集中治療室で分離された MRSA の交差感染源を推定することで、PFGE を用いた階層的アプローチにおける全ゲノムシークエンシングの有用性について評価すること。

方法
職員の手指や空気、環境表面を介して交差感染が生じたと想定した。これらの伝播経路を仮説とし、PFGE 法を用いて評価を行うとともに、共通する PFGE パターン(パルソタイプ)が関与していた場合には、全ゲノムシークエンシングを実施した。

結果
入院後に MRSA の保菌が新たに判明したのは 78 件であり、このうち38 件では臨床分離株を解析できず、評価困難であった。残りの 40 件中 26 件では、PFGE のパターン上、感染源(ドナー)である可能性は除外された。しかし 14 件の新規保菌では、感染源の候補を特定することができた。PFGE の結果を踏まえると、同一の多床室内、同一のベッドスペース、隣接する隔離室、および異なる病棟の入室患者間で関連があるという仮説が支持され、さらに感染源となった患者が特定されない場合でも、病棟環境や職員の手指を介した伝播が示唆された。しかしながら全ゲノムシークエンシングで解析を行うと、これらの伝播経路のうち 3 件が否定された。

結論
全ゲノムシークエンシングは、想定される MRSA の伝播経路(仮説)について、それを支持したり、または否定することによって、従来のタイピング法を補完し得る。そのプロセスでは疫学データが極めて重要である。

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監訳者コメント
本検討は、MRSA の保菌、伝播経路の分子疫学的解析において、全ゲノムシークエンシングが PFGE に勝る点を具体的に明らかにしている。実用性には劣るものの、全ゲノムシークエンシングによって PFGE の限界が判明したともいえる。今後の研究の進展と新たな知見が待たれる。

3 次病院における医療関連感染症発生率:3 年間の電子サーベイランスの結果

Incidence of healthcare-associated infections in a tertiary care hospital: results from a three-year period of electronic surveillance

T. Puhto*, H. Syrjälä
*Oulu University Hospital, Finland

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 46-51


背景
点有病率サーベイランスは医療関連感染症(HAI)のモニタリングに広く用いられている。発生率サーベイランスでは点有病率サーベイランスよりも正確な情報が得られるが、より多くの時間を要する。電子サーベイランスシステムによって、より広範な発生率サーベイランスが可能になると考えられる。

目的
フィンランドの 3 次病院における 2011 年から 2013 年までの 3 年間の HAI 発生率を、当病院の全電子データベースに接続している自動化発生率電子サーベイランスプログラムを用いて明らかにすること。

方法
プログラムを用いて、HAI 症例を抗菌薬投与開始から前向きに特定した。退院後に、これらの全症例の検証を手作業で行った。電子的方法による手術部位感染症の特定の感度を評価するために、心臓手術または全関節置換術を受けた全患者のカルテを後向きに評価した。

結果
研究期間中に合計 78,211 例の患者が 321,974 患者日にわたって病棟に入院し、抗菌薬治療開始は 29,694 件記録されていた。手作業の調査から、これらのうち 5,089 件(17.1%)が HAI に対する治療であることが判明した。病院全体(353 床)のサーベイランスを実施するために要した期間は合計 255 日であったが、これはほぼ看護師 1 名の 1 年間の労働時間に相当するものである。感度の評価により、手作業および電子的方法で特定された手術部位感染症の件数は同等であることが示された。HAI の 3 年発生率は 1,000 患者日あたり 15.8 であり、全退院患者の 4.9%であった。

結論
抗菌薬治療の開始に基づく継続的な発生率電子サーベイランスは、全病院的な HAI 発生率を評価するための実践的な方法であると考えられるが、この方法は依然として人的資源を必要とする。

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監訳者コメント
各病棟でトレーニングされた 2 名ずつのリンクナースが、抗菌薬が開始された症例をすべてレビューして医療関連感染かどうかを調べた結果、それに要した時間は延べ 255 日と、およそ 1 名の看護師の 1 年当たりの勤務時間であったとする結果。サーベイランスの完全電子化までの道はまだまだ遠いようだ。

水晶体ハンドピースの蒸気滅菌プロセス中の静置方向に関するケーススタディ

Case study on the orientation of phaco hand pieces during steam sterilization processes

J.P.C.M. van Doornmalen Gomez Hoyos*, R.A.C. van Wezel, H.W.J.M. van Doornmalen
*Eindhoven University of Technology, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 52-58


背景
蒸気滅菌は感染予防の不可欠な要素である。チャネルを有する医療器具の滅菌は軽視できないことが、文献から示されている。水晶体ハンドピースは単純な構造からなる、口径が一定のチャネルを備えたデバイスである。水晶体ハンドピースの内腔表面の滅菌条件が、ハンドピースの静置方向の影響を受けるかどうかを示した文献は見当たらない。

目的
水晶体ハンドピースの静置方向が、本デバイスの滅菌プロセスの効果に影響を及ぼすかどうかを明らかにすること。

方法
蒸気滅菌器、滅菌プロセス、水晶体ハンドピースの種類、水晶体ハンドピースの静置方向、およびラッピングをプロトコールに基づいて組み合わせて、実験的な定性的ケーススタディを実施した。

結果
本実験の特定のケースでは、ハンドピースの静置方向は蒸気滅菌プロセスの効果に影響を及ぼし、水晶体ハンドピースを垂直(直立)に静置して自然排水した場合に、再現性をもって滅菌条件に到達した。同一のプロセスでハンドピースを水平に静置した場合、または垂直に静置して自然排水しなかった場合は、これらの滅菌条件に再現性をもって到達することはなかった。

結論
評価を行った滅菌器、滅菌プロセス、処理量、静置方向、およびラッピングの組み合わせでは、内腔表面を蒸気滅菌条件に到達させるためには、水晶体ハンドピースを垂直(直立)に静置して自然排水する必要がある。構造と寸法が同等の機器であれば、同様の効果が得られると考えられる。したがって、医療器具の開発時や性能評価時には、これらの問題を考慮することが推奨される。

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監訳者コメント
Phaco hand piece は眼科領域の水晶体手術を行う時に用いる内腔のある医療器具である。このような内腔のある医療器具の蒸気滅菌を行う際に器具を縦にするか、横にするかというのは個人的工夫の範疇でもあったが、本研究では縦に静置し、中にたまった水滴が下に落ちるようにすべきであるとしている。実際には hand piece と滅菌器の組み合わせなど様々な考慮すべき因子があると思われるが、興味深い研究である。

医療環境におけるアデノシン三リン酸(ATP)を用いた清掃モニタリング:環境内 ATP の減少速度

Adenosine tri-phosphate (ATP)-based cleaning monitoring in health care: how rapidly does environmental ATP deteriorate?

M.J. Alfa*, N. Olson, B-L. Murray
*University of Manitoba, Canada

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 59-65


背景
表面消毒薬を適切に使用するためには、清掃職員の清掃遵守を確実なものとすることが不可欠である。アデノシン三リン酸(ATP)検査は、清掃遵守のモニタリング方法の 1 つとして推奨されているが、環境表面上の ATP の安定性についてはほとんど知られていない。

目的
医療環境の清掃・消毒の効果的な評価方法として、ATP の安定性が十分な期間にわたって持続するかどうかを明らかにするために、各種由来の ATP の安定性を評価すること。

方法
精製 ATP、ATS-T(血液含有試験用汚染物質)由来 ATP、および測定部位あたり 107 コロニー形成単位の微生物(緑膿菌[Pseudomonas aeruginosa]、エンテロコッカス・フェカーリス[Enterococcus faecalis]、カンジダ・アルビカンス[Candida albicans])由来 ATP の 29 日間の安定性を、懸濁液中および表面上の乾燥状態で評価した。乾燥させた表面に洗浄剤または消毒薬を噴霧して、拭き取りは行わずに、微生物の生存および ATP の安定性に及ぼす効果を評価した。

結果
緑膿菌、E. faecalis、および C. albicans を表面で乾燥させた場合は、29 日目には ATP は初期レベルの 65% ~ 96%が残存していたが、生菌数は減少するか、検出されなかった。表面で乾燥させた ATS-T は、4 日目には初期 ATP レベルの 100%、29 日目は 3%が残存していた。ATP シグナルの最も著明な減少は懸濁液中で認められた。精製 ATP は懸濁液中でも表面上の乾燥状態でも 29 日間にわたって安定していた。

結論
有機物質および微生物(死菌または生菌)由来の残存 ATP は、表面上の乾燥状態では安定していた。清掃および消毒を行わない場合は、相対発光量のシグナルの急速な減少は認められないため、ATP は清掃モニタリングの良好なマーカーとなる。

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監訳者コメント
近年、ATP が清掃の質評価のために使用されることが増えている。しかし、ATP が一般環境中でどのくらい安定なのかについてのデータがなかった。本研究では ATP は約 1 か月間、環境中で安定であることを報告している。掃除しなくても放っておいたら勝手に減ってくれる、わけではないようだ。

シュードモナス(Pseudomonas)属菌に汚染された内視鏡に曝露された患者に対するリスク評価に基づくアプローチ

Risk-assessment-based approach to patients exposed to endoscopes contaminated with Pseudomonas spp.

P. Robertson, A. Smith, A. Mead, I. Smith, N. Khanna, P. Wright, P. Joannidis, S. Boyd, M. Anderson, A. Hamilton, D. Shaw, A. Stewart
*Glasgow Royal Infirmary, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 66-69


緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に汚染された気管支鏡に曝露された患者は、シュードモナス(Pseudomonas)属菌の感染リスクが高い。曝露後リスクの管理および低減のための至適な方法については異論がある。本稿では、日常的なサーベイランスで検出された、1 台の内視鏡ウォッシャーディスインフェクターに起因する各種内視鏡 75 本の Pseudomonas 属菌による汚染後に実施した2段階のリスク評価について報告する。初回リスク評価により、潅注または生検に用いる内腔を有する 18 本の内視鏡が高リスクであると判定された。曝露があったことを患者を担当する臨床チームに伝達し、曝露された患者の臨床的リスク評価をさらに実施した。Pseudomonas 属菌感染に起因する合併症を発症した患者はなかった。

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監訳者コメント
緑膿菌汚染で汚染された気管支鏡を受けた患者の侵襲性感染症発症リスクは、①無菌部位からの洗浄・生検、②基礎疾患の有無に左右され、実施症例の9.25%に発生すると報告されている。本論文では定期的サーベイランスにより前向き調査を実施し、最終リンスに使用された水の汚染が判明した気管支鏡の使用状況に応じて、リスク評価している。この対応の中で重要なことは、高リスクと判定された症例に対しては、「曝露の可能性」を患者に開示し、曝露患者への告知後は経過を観察し、必要に応じて抗緑膿菌治療を行うこととしている。医療安全と感染対策の両面から、「患者への情報提供」は必要であるが、今後の課題である。

麻酔に関する臨床的操作が静脈内投与液および静脈内投与薬の細菌汚染に及ぼす影響の調査

Investigating the impact of clinical anaesthetic practice on bacterial contamination of intravenous fluids and drugs

N. Mahida*, K. Levi, A. Kearns, S. Snape, I. Moppett
*Nottingham University Hospitals NHS Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 70-74


手術症例 101 例からのシリンジ(N = 426)、人工呼吸器スワブ(N = 202)、および静脈内投与セット(N = 47)の細菌汚染の評価を行った。培養陽性率は、シリンジ先端の外側表面 46%、シリンジ内容物 15%であった。培養により同一細菌種が人工呼吸器とシリンジの両方に認められたのは症例の 13%であり、2 症例では静脈内投与セットからも検出された。緊急手術症例と汚染シリンジとの間に有意な関連が認められた(オッズ比[OR]4.5、95%信頼区間[CI]1.37 ~ 14.8、P = 0.01)。その他のリスク因子は、手袋の不使用およびシリンジのキャップの不装着などであった。

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監訳者コメント
手術時の環境汚染、すなわち麻酔時に使用される機器を介して、またはスタッフの不適切な手指消毒が供給源となり、医療関連感染に関与しているという認識が高まっている。本論文では、人工呼吸器回路、輸液回路および静注シリンジの汚染について培養により検討した。さらに、①緊急手術の有無、②手術の種類、③手指消毒後に手袋を着用してシリンジを使用した、④薬剤使用時には滅菌された針を毎回使用していた、⑤シリンジは単回使用か複数回使用か、複数回なら使用後キャップをして保管していたか、⑥静脈確保用のカニューレは手術室内に配置されているか、⑦側管からシリンジ注入開始前に手指消毒を実施し、手袋を装着していたか、⑧三方活栓のキャップは毎回新品と交換していたか、以上計8つの質問と同時に実施した。結果は、実際に無菌的な部位が汚染されているというものである。現場では何気なく実施している操作が、「無菌的操作として確実に実施されているか」を今一度確認する必要がある。

病院内の組織文化、および感染予防・制御戦略に対するその意義の定量的評価★★

Quantitative assessment of organizational culture within hospitals and its relevance to infection prevention and control strategies

M.A. Borg*, B. Waisfisz, U. Frank
*Mater Dei Hospital and University of Malta, Malta

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 75-77


これまでに、組織文化は医療従事者の感染予防・制御行動の重要な促進因子であることが示唆されている。本研究では、欧州の 7 病院の組織文化を、Hofstede モデルに基づく妥当性が検証された評価ツールを用いて調査し、組織文化スコアには大きなばらつきがあることを明らかにした。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の検出率が低い病院では、変革促進のスコアおよび変革への備えのスコアが高値であったのに対して、MRSA の検出率が高い病院ではこれらの決定因子のスコアは低値であった。病院内の組織文化を研究し、感染予防・制御行動の変革戦略についてさらに理解するために、非医療分野で利用可能なツールを用いることができる。

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監訳者コメント
Hofstede は、1991 年 IBM 社において実施した国民文化・組織文化に関する定量的研究で注目された学者である。この理論を病院における組織文化の評価に応用した研究が、本論文である。調査した病院数は少ないものの、興味ある結果が得られており、感染対策を推進するうえで、その病院の組織文化を考慮したアプローチが必要であることを示唆している。

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Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.