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★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の院内管理:文献レビュー★★

Hospital management of Clostridium difficile infection: a review of the literature

N. Khanafer*, N. Voirin, F. Barbut, E. Kuijper, P. Vanhems
*University of Lyon, France

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 91-101


背景
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)流行株である 027 型の登場が、感染制御実践の分野で再び関心を集めている。

目的
非アウトブレイク時の院内 C. difficile 感染症(CDI)の減少を図るための様々な実践の有効性をレビューすること。

方法
英語とフランス語による MEDLINE の検索を行い、データソースを特定した。ORION 声明を用いて、CDI 管理のための介入について報告している文献から主要データを抽出した。

結果
1982 年から 2013 年 12 月に発表された 21 報の研究をレビューした。ほとんどの研究は前後比較介入であり、少数の研究は事前に計画された公的な前向き研究であった。以下の介入の単独または併用での実施後の効果について、報告が行われていた。抗菌薬管理、環境消毒・清掃、手指衛生、清拭、サーベイランス、コホーティング、および感染患者の個室への隔離。

結論
多くの方法論的な欠点や若干の不適切な研究報告が認められ、観察された CDI の減少が完全に介入に起因すると見なすことはできないと考えられる。教育や手洗い・手袋装着プロトコールを含む感染制御プログラムは CDI 発生率の低下に寄与したことが示されたが、これらの手法の多くは、個々の因子の相対的な効果を評価することができない多面的介入の一部の要素であった。適切な環境消毒および抗菌薬管理によって、最も効果的な有益性が得られると考えられた。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
CDI は、北米および欧州において強毒株 BI/NAP1/027 の流行と便移植という画期的な治療法とが相まって、基礎的研究から感染対策を含む臨床研究にいたるまで幅広く研究が行われている。本論文は、CDI の感染制御策に関する論文をレビューしており、CDI の感染対策に関する研究の問題点を知るうえで一読の価値がある。疾患定義や抗菌薬適正使用の国ごと、地域ごとの多様性、感染対策の多面的アプローチ(手洗い、環境整備、接触予防策、教育訓練、職員の行動など)は多数の交絡因子の関与を排除できず、十分なエビデンスを作るところまで至っていない。多くの研究が介入の前後での比較であることも一因である。今後は ORION 宣言に基づいた研究デザインの標準化が必要となる。

監訳者注:
ORION 声明(Outbreak Reports and Intervention Studies of Nosocomial Infection statement):病院疫学に関する研究および論文の標準化を図り、エビデンスの統合と報告の透明性を推進することを目的として発表された提言(J Antimicrob Chemother 2007;59:833)。

アイルランドの 3 次病院の高リスク患者における基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌の検出および特性評価

Detection and characterization of extended-spectrum beta-lactamase-producing Enterobacteriaceae in high-risk patients in an Irish tertiary care hospital

N. O’Connell, D. Keating, J. Kavanagh, K. Schaffer
*University College Dublin, Ireland

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 102-107


背景
基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌科細菌はグラム陰性の多剤耐性菌であり、病院環境の高リスク区域の免疫低下患者において臨床的に重要である。アイルランドでは ESBL 産生腸内細菌科細菌血流感染症が増加している。

目的
高リスク区域(集中治療室[ICU]、肝移植病棟、および血液・腫瘍内科病棟)の免疫低下患者における ESBL 産生腸内細菌科細菌の保有率を調査すること、PCR 法により検出したすべての ESBL 遺伝子の特性を評価すること、およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法を用いて疫学的タイピングを行うこと。

方法
高リスク病棟の患者から採取した重複のない合計 317 の直腸スワブを匿名化して、ESBL 産生腸内細菌科細菌の保有状況のスクリーニングを行った。PCR 法を用いて ESBL 産生腸内細菌科細菌の blaCTX-MblaTEMblaOXA-1、および blaSHV の検出を行い、陽性分離株の特性を評価した。これらの分離株のクローン関連性を PFGE 法を用いて調べた。

結果
高リスク患者 50 例(15.8%)に ESBL 産生腸内細菌科細菌保菌が認められた。ESBL 産生腸内細菌科細菌の保有率は肝移植病棟 21.9%(28 例)、ICU 14.3%(15 例)、および血液・腫瘍内科病棟 8.3%(7 例)であった。ESBL 産生腸内細菌科細菌分離株の 70%は、2 つ以上の耐性遺伝子を保有していた。PFGE タイピングの結果、ESBL 産生大腸菌(Escherichia coli)分離株 25 株のうち 2 組の 2 株間に、また ESBL 産生エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)分離株 5 株中 4 株間に 80%を超える相同性が認められ、クローン関連性および患者間の交差伝播の可能性が示唆された。

結論
スクリーニングを実施した患者の多くに ESBL 産生腸内細菌科細菌保菌が認められた。タイピングにより、3 件の交差感染の可能性が示唆された。したがって、高リスク病棟の患者を対象とした ESBL 産生腸内細菌科細菌の適時の検出は、治療および感染制御の点で極めて重要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
ESBL 産生腸内細菌科細菌(ESBL-E)は日本においても、その検出率は増加している。本論文での高度医療を実施する病棟における ESBL-E の保菌率の高さと交差感染の少なさは、患者の持ち込み(市中感染として)と広域抗菌薬を長期に使用する病棟での抗菌薬による菌交代現象を表していると考えられる。実際、ヨーロッパでの入院患者での ESBL-E 保菌率は 5% ~ 15%と報告され、市中感染が ESBL-E の供給源となっている。アフリカでの入院患者での研究から、50%の保菌率との報告もある。PFGE により分子疫学的解析により一部の交差感染が証明できたが、PFGE は労力と時間的な面からルーチンでやれる検査ではない。一方で、アウトブレイク時には実施し、交差感染の有無を明らかにしなければならない重要な疫学調査ツールでもある。今後懸念されることは、ESBL-E の増加により、腸内細菌科細菌の治療がカルバペネム系薬にシフトすることによる、カルバペネム耐性菌の増加である。耐性菌と抗菌薬はイタチごっこである。

全ゲノムシークエンシングにより再発性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症患者の再燃と再感染との鑑別が向上し、伝播イベントが特定できる

Whole-genome sequencing improves discrimination of relapse from reinfection and identifies transmission events among patients with recurrent Clostridium difficile infections

M. Mac Aogáin*, G. Moloney, S. Kilkenny, M. Kelleher, M. Kelleghan, B. Boyle, T.R. Rogers
*Trinity College Dublin, St James’s Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 108-116


背景
再発性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)は医療における大きな課題である。再発には、初発時の菌株が再度 CDI を生じる場合(再燃)と、院内で新たに獲得した別の菌株による場合(再感染)とが考えられる。

目的
3 次紹介病院で再発性 CDI を引き起こした C. difficile 分離株の特性を全ゲノムシークエンシングを用いて解析し、高レベルの遺伝子解像度で分離株の類似性を評価するとともに、再燃、再感染、および推定される伝播イベントを正確に検出することを目的とした。

方法
18 か月間にわたって再発性 CDI の症例を前向きに収集した。臨床的に定義した CDI のエピソードが 2 回以上みられたすべての患者から、便検体を経時的に採取し、C. difficile 培養を行った。患者特性と臨床情報を記録するとともに、分離株の関連性を PCR 法を用いたリボタイピングおよび全ゲノムシークエンシングの両方法により調べた。

結果
臨床的に定義した CDI エピソードを 2 回以上生じた患者は 19 例であった。これらの患者の再発性 CDI エピソードの累積件数は 39 件(合計エピソードは 58 件)であった。入院期間の中央値は 144 日、患者あたりの CDI エピソード数は 2 ~ 7 件であった。リボタイピングからは、27 件は同一株による明らかな再燃であること、5 件は再感染であること、リボタイプ 078(ST-11)と 020(ST-2)が優勢であることが示された。全ゲノムシークエンシングでは再燃の特性評価における確実性が向上し、同一株に発生した一塩基変異を特定することができたが、これらの変異は様々な遺伝子に対する機能的影響が想定されるものであった。再発性 CDI 患者 14 例に共通するリボタイプから、患者間の伝播イベントが 10 件生じていた可能性があった。しかしながら全ゲノムシークエンシングを行うと、4 件を除くすべての伝播イベントで、リボタイプよりも下位のレベルにおいて大きな多様性がみられることが判明した。

結論
再燃と再感染との鑑別、患者間伝播イベントの特定、および再発性 CDI の疫学に関する詳細な構造特性の解析に関して、全ゲノムシークエンシングには PCR 法によるリボタイピングと比較していくつかの利点が認められた。全ゲノムシークエンシングによって、再発性 CDI 患者間の菌株伝播を根絶する焦点を絞った感染制御戦略が可能になると考えられる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
これまで再発性の CDI の分子疫学的解析にはリボタイピングや MLST 法が用いられてきたが、今回全ゲノム―シークエンスにより詳細な解析結果が得られ、同一株の伝播過程において、遺伝子の変異が経時的に蓄積していくことが明らかになった。菌の進化と伝播における適応を反映しているのかもしれないが、このようなメカニズムの解明は、将来、感染経路を遮断する有効な方策につながると期待される。

クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症におけるクリニカル・ニーズの明確化:欧州の第一線の医療関係者の見解

Highlighting clinical needs in Clostridium difficile infection: the views of European healthcare professionals at the front line

J.M. Aguado, V.J. Anttila, T. Galperine, S.D. Goldenberg, S. Gwynn, D. Jenkins, T. Norén, N. Petrosillo, H. Seifert, A. Stallmach, T. Warren, C. Wenisch, CDI Consensus Consortium
*University Hospital 12 de Octubre, Spain

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 117-125


背景
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)は、欧州における院内感染性下痢の主要な原因である。注目が高まっているにもかかわらず、欧州各国の多くではその発生率および重症度は上昇している。

目的
CDI の診断および管理におけるアンメット・クリニカル・ニーズを明らかにするために、一連の合意声明(コンセンサス・ステートメント)を作成した。

方法
専門家による協議会によって、欧州における CDI の診断および管理に関する共同的見解を含む 29 のステートメントが作成された。ステートメントは以下の 6 つの大きなテーマに分類される。診断、重症度の定義、治療不成功、再発とその転帰、感染予防・制御介入、教育・抗菌薬管理、および各国の CDI 臨床指針・方針。CDI の管理に携わる臨床医 1,047 人に質問票を配布してこのステートメントのレビューを行い、それぞれの内容についての同意レベルを提示した。

結果
29 のステートメントのうち 27(93.1%)において、同意レベルはコンセンサスの閾値とした 66%を超え、強い支持が得られたことが示された。国および専門分野でのばらつきを分析したところ、これらは全体的な合意スコアと強く一致していた。

結論
回答者グループの合意スコアに基づいて、伝播および再発の減少を図るとともに、適切な診断・治療戦略をあらゆる医療環境で確実に実施することを目的とした、CDI 管理強化のレコメンデーションを提示した。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
CDI 管理に関する様々な課題の克服を目指し、欧州で国をまたいだコンセンサス・ステートメントの作成と評価が行われたことは、それに関する意見を統一していく過程において、非常に重要なステップと考えられる。状況と価値観の異なる国々で、多角的な意見交換が行われ、現状で最も建設的、実際的、普遍的な対策が立案、施行されることに期待したい。

医療従事者の行動の変革に向けて:感染予防・制御実践の評価による不遵守の定性的研究

Towards changing healthcare workers’ behaviour: a qualitative study exploring non-compliance through appraisals of infection prevention and control practices

N. Shah*, E. Castro-Sánchez, E. Charani, L.N. Drumright, A.H. Holmes
*Imperial College London, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 126-134


背景
感染予防・制御実践における行動改善は依然として困難な課題であり、医療従事者の行動の決定因子を解明することは、効果的かつ持続的な行動変革のための介入を策定するうえで必須である。

目的
感染予防・制御に関する職務や社会・環境状況の評価が、どのように不遵守行動をもたらし、また不遵守行動に影響するかに注目して、感染予防・制御実践の不遵守を促進する医療従事者の行動を特定すること。本研究の目的は、(1)医療従事者が自分の行動や他人の行動をいかに正当化しているかを明らかにすること、(2)感染予防・制御の遵守において課題が存在する領域を明らかにすること、および(3)感染予防・制御実践のばらつきの説明になると考えられる労働環境の状況について記述することである。

方法
英国・ロンドンの国民保健サービス(NHS)病院グループの臨床職員を対象として、2010 年 12 月から 2011 年 7 月に定性的手法による面接を行った。主題構造を用いて回答を分析した。

結果
医療従事者が自分の行動を評価する際の 3 つの方法が、感染予防・制御の方針および実践に関する回答によって特定された。(1)責任の転嫁(特定の感染予防・制御実践に関する責任のあいまいさを伴う)、(2)優先順位の決定およびリスク評価(一部の感染予防・制御の方針・実践に対する価値観が異なることが示された)、および(3)職場の階層の影響(これにより、従来の臨床的役割が業務上の関係性に困難をもたらしていることが明らかになった)。

結論
全体として、行動は、方針に示された規則から完全に独立したものではなかったが、施設での標準的実践、個人の好み、および職種毎の独立性の程度が混在していることが多かった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
感染予防・制御実践として、「何を」行えばよいのかについて、数多くのエビデンスやガイドラインが示されてきた。しかし、それを実際に行動に移すことがいかに困難であるかもよく知られている。これからの時代は、より「行動変容」にスポットライトが当てられていくだろう。本論文は医療従事者が手指衛生などの感染防止策を遵守しない理由として、各部署でアレンジされた標準的な手法や個人の好み、職種の違いなどを挙げている。イギリスでの研究だが、およそこれらは日本でも当てはまる。これからの問題は、こういった理由を踏まえて「どうすれば改善するか」である。

内科における血管内留置カテーテルの使用に関する全国的調査

Nationwide study on the use of intravascular catheters in internal medicine departments

M. Guembe*, M.J. Pérez-Granda, J.A. Capdevila, J. Barberán, B. Pinilla, P. Martín-Rabadán, E. Bouza, on behalf of the NUVE Study Group
*HGU Gregorio Marañón, Spain

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 135-141


背景
集中治療室(ICU)における血管内留置カテーテルの使用については、近年、十分な評価が行われている。しかし、これらのデバイスの多くは ICU 以外の患者、特に内科部門で留置されており、ケアの質に関するデータは少ない。

目的
スペインの内科部門における血管内留置カテーテルの使用および管理について評価すること。

方法
2013 年 6 月のある 1 日に、種々の規模の病院の 47 の内科部門の全成人入院患者を対象として点有病率調査を実施した。各施設で担当者を指名し、患者の評価およびデータ収集を行った。

結果
調査日に入院中の成人患者 2,080 例中 1,703 例(81.9%)が 1 本以上の血管内留置カテーテルを使用していた(このうち 95.4%は末梢カテーテル)。92 本(5.0%)のカテーテル挿入部位に感染が認められ、患者 87 例(5.2%)に敗血症の症状がみられたが、カテーテル関連と判定された症例は 1 件のみであった。施設担当者は、留置カテーテルの 19%はすでに不要であると判定した。カテーテルの必要性に関する連日の記録は 40.6%のみの症例で利用されていた。

結論
本研究から、スペインの内科部門におけるカテーテルの使用とケアについては、明らかに改善の余地があることが示された。ICU で適用されているものと同様の戦略を、内科部門でも実施するべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
集中治療室などではなく、一般内科病棟における血管内留置カテーテルの使用状況に関するデータは少ない。本研究は点有病率調査という調査施設における負担が少ない手法を用いて行った全国調査である。日本でもこのような手法を用いて様々な感染防止策の現状を調査することが可能であろう。

病院ベッドの機械洗浄と用手洗浄の比較:前向き介入研究

Mechanical vs manual cleaning of hospital beds: a prospective intervention study

J. Hopman*, M. Nillesen, E. de Both, J. Witte, S. Teerenstra, M. Hulscher, A. Voss
*Radboud University Medical Centre, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 142-146


背景
高度耐性微生物の保菌率上昇や医療システムに対する財政的締め付け強化を受けて、病院ベッドの洗浄方法の評価が行われている。オランダの病院は、国の指針で推奨されている標準化されたベッド洗浄機による機械洗浄と、用手洗浄のいすれかを選択する必要がある。

目的
機械および用手によるベッド洗浄方法の質を評価すること。

方法
このベッド洗浄方法の多面的分析は 3 段階からなる。ステップ 1 では、病院家事サービスチームの研修について評価した。ステップ 2 では、用手および機械による洗浄方法の質を評価した。様々な診療部門からランダムに選択した汚れたベッドを微生物学的分析(40 台)および ATP レベル(20 台)により評価した。ATP レベルおよび微生物汚染の測定は、いずれも事前に規定した 5 か所で行った。ステップ 3 では、外科短期入院ユニットで 2 か月間のパイロット研究として用手洗浄を導入し、他科のベッドは「ゴールドスタンダード」である機械洗浄処理を行った。ATP レベルを洗浄後のベッド 300 台の 3 か所で評価した。

結果
研修により洗浄の質が有意に改善することが示された。機械洗浄では、用手洗浄と比較して ATP レベルが有意に低下した。

結論
機械洗浄の効果は用手洗浄と比較してばらつきが小さいことが示され、ATP レベルは一貫して低かった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
ベッドの洗浄を機械で行うか手で行うかによる効果の違いを比較した論文である。オランダのガイドラインでは、ベッドを丸ごと洗浄する機械を使用することが、手洗いよりも推奨されている。本論文の考察によると、実際、国内の 8 つの大学病院の 63%(5 つ)、26 ある教育病院の 4%(1 つ)が機械洗浄を実施しており、両方の 13%が機械洗浄と用手洗浄を組み合わせていた。この結果で示された、研修を行うことで用手洗浄のレベルが上がるが、機械洗浄のほうがばらつきが少なく清浄度が高いことを考えると、機械洗浄がよいと感じるが、要する時間やコストについては今後の検討課題となっていた。また、機械洗浄をこれから導入する場合には、ベッドを搬送する経路やスタッフなど、構造や仕組みも含めて検討が必要となると思われた。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)クローンの同定のための新規マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型マススペクトル(MALDI-TOF-MS)に基づくタイピング法の開発★★

Development of a novel matrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight mass spectrum (MALDI-TOF-MS)-based typing method to identify meticillin-resistant Staphylococcus aureus clones

O. Ueda*, S. Tanaka, Z. Nagasawa, H. Hanaki, T. Shobuike, H. Miyamoto
*Siemens Healthcare Diagnostics KK, Japan

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 147-155


背景
マススペクトル解析は、種および亜種レベルの同定が可能となるため、アウトブレイク管理における疫学的ツールとして利用できる。しかし、そのクローンレベルでの信頼性については、いまだ明確にされていない。

目的
パルスフィールド・ゲル電気泳動/phage open-reading frame typing(PFGE/POT)と同等の正確度による細菌のクローン同定が可能な、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型マススペクトル(MALDI-TOF-MS)に基づく方法を確立すること。

方法
本研究では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)を使用した。黄色ブドウ球菌の標準株(ATCC29213)、および POT により分類した臨床分離株 57 株のマススペクトルを得た。MRSA クローンの同定に関連するピーク(N = 67)を抽出した。このピーク情報に基づいて、MRSA クローン同定の実施可能性をクラスター分析により評価した。

結果
ピーク抽出に用いた 58 株のほか、臨床分離アウトブレイク株 24 株のマススペクトル分析から、ピークデータはクローン同定に使用可能であることが示された。これらのタイピングの結果は、PFGE および POT の結果と十分に一致していた。

結論
この新規方法は、簡便かつ迅速なタイピングが可能であり、正確度は PFGE/POT と同等である。この方法は、感染症に対抗するための正確な情報を提供するものであり、アウトブレイクの迅速な解析に適していると考えられる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
新規性の高い研究であること、しかもそれが日本人研究者による研究であること、身近で有用なタイピング手法が 1 つ増える期待から★★をつけた。これまでは、菌株のタイピングには、PFGE 法や最近は POT 法などが用いられてきた。MALDI-TOF-MS は菌種レベルの同定には使えるものの、株レベルでの判定は困難と考えられてきた。本論文は、MALDI-TOF-MS の波形パタンを利用したクローン同定が可能であることを示した。考えられる有用性としては、時間の短縮、費用の軽減、手技の簡便性である、とされているが、MALDI-TOF-MS の設備投資を考えると、しばらくは研究分野での応用が主体となるのだろうか。

的外れなデータの収集:手指衛生監査データの妥当性

Collecting the data but missing the point: validity of hand hygiene audit data

A. Jeanes*, P.G. Coen, A.P. Wilson, N.S. Drey, D.J. Gould
*University College London Hospitals, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 156-162


背景
感染制御実践を確実に行うために、医療施設では 10 年以上にわたって観察による手指衛生遵守のモニタリングを行っている。このようにして得た情報の妥当性はほとんど検証されていない。

目的
遵守状況の直接的観察に基づく手指衛生遵守データの収集・報告について、そのプロセスおよび妥当性を評価すること。

方法
大規模な国民保健サービスの病院トラスト 1 施設で 5 年間にわたって日常的に収集した手指衛生遵守データを調査した。データ収集プロセスを、監査者の調査および面接により精査した。この期間中に実施された他の研究目的で収集した手指衛生遵守データと、施設のデータセットとの比較を行った。

結果
報告された手指衛生遵守率は早期に上昇し、その後の期間中は目標値付近で変化なく推移した。データ収集プロセスの調査から、各病棟・部門におけるデータ収集システムの解釈の変化など、いくつかの変化が認められ、これは研究結果の妥当性を損なうものであった。観察に関する公式な研修を受け、結果をフィードバックしていた監査者は少数であった。

結論
手指衛生遵守状況の観察は現時点のゴールドスタンダードであるが、データ収集の定義および方法が、あいまいさがなく、公表され、注意深い管理を受け、かつ定期的にモニタリングされている場合を除いて、データの妥当性に影響を及ぼすような変化が生じる可能性がある。手指衛生遵守のモニタリングの目的が実践の改善および感染伝播の最小化であるならば、焦点を目標への到達ではなく、徐々に改善が進む実践に向けるほうが、目的が達成される可能性が高くなると考えられる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
1,000 床規模の 1 つの病院での取り組みである。報告された手指衛生遵守率データは、研究目的で得られた結果よりも低いものだったという。その背景を探るべく手指衛生モニターの担当者を対象としたアンケートが実施された。モニタリングの訓練や結果のフィードバックの方法、具体的なモニタリングの方法など、いくつかの項目で問題点が明らかになった。本文中に記載されているアンケートの設問は我々が自施設の評価を行う際にとても参考になると思われた。

小児科の医療従事者における百日咳菌(Bordetella pertussis)感染

Bordetella pertussis infection in paediatric healthcare workers

K.S.A. Cunegundes*, M.I. de Moraes-Pinto, T.N. Takahashi, D.A.B. Kuramoto, L.Y. Weckx
*Federal University of São Paulo, Brazil

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 163-166


近年、成人に百日咳の発生が増加しているため、医療従事者は乳児へ伝播をもたらすリスク群であると考えられている。ブラジルの 3 次病院の小児科の医療従事者を対象として、百日咳菌に最近感染した割合を評価した。血清中の抗百日咳毒素 IgG 抗体を ELISA で測定した。評価対象の医療従事者 388 名のうち 6.4%で最近の感染が血清学的に示唆された。レジデント(オッズ比[OR]4.15、95%信頼区間[CI]1.42 ~ 12.14、P = 0.009)、および労働時間が 40 時間を超える医療従事者(OR 3.29、95%CI 1.17 ~ 9.26、P = 0.024)は、百日咳菌感染のリスクが高かった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
日本でも、思春期以降の年齢層の防御抗体価の保有率が低いことから、2007 年には複数の大学でのアウトブレイクが発生した。大人向けの百日咳ワクチン(三種混合ワクチン)は認可されていないため、いくつかの医療機関では、医療従事者に三種混合ワクチン(DTaP)を半量接種するなどの対策がとられている。本論文の結果は、我々にとっても無関係ではないと思われた。

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Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.