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急性期ケア時の接触予防策の多剤耐性病原体伝播に対する効果:文献のシステマティックレビュー★★

Effectiveness of contact precautions against multidrug-resistant organism transmission in acute care: a systematic review of the literature

C.C. Cohen, B*. Cohen, J. Shang
*Columbia University School of Nursing, NY, USA

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 275-284


多剤耐性病原体(MDRO)伝播の予防には、接触予防策が広く推奨されている。しかし、その効果に関するデータは相反するものである。これまでのシステマティックレビューでは、大きなバンドルアプローチの一部としての接触予防策について評価を行っているため、その効果を判定するには限界があった。本総説の目的は、急性期ケア時の成人患者における MDRO 伝播に対する接触予防策の単独での効果を明らかにすることである。2004 年 1 月から 2014 年 6 月に英文で発表された研究について、Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses(PRISMA)声明に従って 4 つの科学文献電子データベースの包括的検索を実施した。対象は、入院患者間の MDRO 伝播に対する接触隔離予防策の評価を行っている介入研究の原著論文とした。検索結果として 284 件の研究が得られ、このうち 6 件を本総説の対象とした。これらの研究は 4 種類の MDRO を評価しており、1 件の研究では伝播が減少することが示されていた。これらの研究はアウトカムの設定・記述や統計学的解析の質は高かったが、不十分な点として介入に関する記述、集団の特性評価、および潜在的なバイアスなどが挙げられ、全般的な質は中等度から低度であった。遵守状況の評価を実施していた研究(4 件)では、介入の一部のみ(21% ~ 87%)を評価項目としており、また研究の段階によって評価項目が大きく異なっていた(2 件)ため、その妥当性が懸念されるものであった。今回のテーマに関するエビデンスの質は低いため、これらのデータから解釈できることは依然として限定的である。したがって、相反する点があるこれらの文献は、接触予防策の適否のエビデンスとはならない。今回のテーマに関する今後の研究をデザインする際には、研究者は検出力の算出、遵守のモニタリング、および不等価同時対照群(non-equivalent concurrent control)について考慮することを推奨する。

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監訳者コメント
急性期ケア時の成人患者における MDRO 伝播に対する接触予防策の単独での効果を明らかにすることを目的としたレビューである。最終的に対象となった 6 報のうち、4 報はランダム化されていない quasi-experimental study(準実験的研究、疑似実験的研究などと訳される)で介入の前後で比較したもの、2 報は repeated treatment design(反復測定デザイン)であり、ランダム化比較試験はなかった。このことや、各論文の質の評価でスコアの低い部分は、感染症対策の評価の難しさを感じさせられるものであった。
論文をしっかり読み込みたい人や自施設で疫学研究を行いたい人にとって、論文の評価手法を知ることはとても大切である。

病原体の伝播における医療用衣服およびその他の医療用繊維の役割:文献レビュー

Role of healthcare apparel and other healthcare textiles in the transmission of pathogens: a review of the literature

A. Mitchell*, M. Spencer, C. Edmiston Jr.
*International Safety Center, FL, USA

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 285-292


医療従事者は、下記に示すようないくつかの理由でスクラブ(術衣)や白衣などのユニフォームを着用する。(1)医療従事者が自分らを病院職員として患者や雇用者と区別できるようにするため、(2)専門家らしい態度を示すため、および(3)勤務交代時の予期せぬ曝露から私服を防護するため。医療従事者の衣服は、感染症や疾患の原因となり得る微生物や病原体で汚染されている場合が多いことを示唆するエビデンスが増加している。大半のスクラブや白衣は現在も、私服の製作に用いられるものと同じ従来の繊維で作られているが、新しいエビデンスによれば、今日の革新的な繊維は工学的制御機能を有しており、バイオバーデンレベルや微生物の持続性を低下させることによって、感染性病原体の捕捉、保持、および伝播を最小化する。本稿では、医療環境で着用されている衣服が医療関連病原体の捕捉および伝播に果たす役割に関する最近の文献について、その概要を示す。また、医療環境に存在する微生物の伝播を減少させると考えられる解決法や技術的介入を提示する。医療用衣服は、疫学的に重要な環境表面に関する新たな研究領域である。

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監訳者コメント
医療者の衣服の汚染や洗濯に関する論文のレビューであり、情報集としても役立つ。ちなみに、「一般の事務職は、1 時間に 15.7 回、目、鼻、口を触っている」らしい。医療者はそれ以下であろうと思われるが、意識しないとつい触ってしまうのだろう。

戦争の負傷者:紛争地帯から治療のために海外の専門的医療施設に搬送された民間人の感染管理評価

Casualties of war: the infection control assessment of civilians transferred from conflict zones to specialist units overseas for treatment

H. Morton*, J. Gray
*Birmingham Children’s Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 293-298


国際的紛争での負傷者はメディアに注目され、市民、政府、および非政府の組織の同情を集める。専門医による再建術や 3 次医療サービスを提供する先進国の病院が、複雑な外科的処置やリハビリテーションのために海外の紛争地から民間人患者の受け入れを要請されることはまれではない。こうした患者がもたらす感染予防・管理のリスクにかかわる懸念や、適用される予防策には良好なエビデンス基盤が不足していることから、ゼロリスクの考え方を受容する予防原則に従うことが多くなる。本稿の目的は、海外の紛争地からの負傷者を治療する際に必要であると考えられる感染管理上の留意事項を示すことであり、その一部は著者らの経験に基づくものである。現在、これらの患者の管理方法に関して公表されているエビデンスおよび全国的なコンセンサスは不足している。予防原則には、従来のリスク管理へ移行するためのエビデンスや知識の継続的な探索が求められる。個々の多数の病院が、このような少数の患者の治療経験を蓄積することによってのみ、これらのエビデンスや知識が浸透していくものと考えられる。

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介護施設のインフルエンザアウトブレイクに対するオセルタミビル:実臨床での課題と有益性

Oseltamivir in influenza outbreaks in care homes: challenges and benefits of use in the real world

S. Millership*, A. Cummins
*Anglia and Essex Public Health England Centre, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 299-303


背景
インフルエンザなどの呼吸器ウイルス感染症は、高齢者の回避可能な入院の重大な原因である。最近の総説ではオセルタミビルの伝播予防効果に疑問が呈されているが、住居型介護施設での著者らのアウトブレイク制御戦略において、オセルタミビルはその中核を担っている。

目的
住居型介護施設における呼吸器ウイルス感染症のアウトブレイク制御について、特にオセルタミビルによる抗ウイルス薬予防投与のロジスティクスおよび効果に重点を置いて評価すること。

方法
北半球における 2010 年から 2013 年の 3 回のインフルエンザシーズンを対象として、地域のデータベースに保存された記録の後向き調査を実施し、記述的解析を行った。

結果
研究期間中に合計 590 の介護施設から 75 件の呼吸器系アウトブレイクが報告され、このうち 35 件のアウトブレイクでは病因がインフルエンザであることが確認された。インフルエンザによる全発症率は 29.7%、入院率は 5.3%、および死亡率は3.3%であった。さらに、10 件のアウトブレイクはパラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルス、もしくは RS ウイルスの単独、またはそれらのウイルスとライノウイルスとの重複が原因であり、6 件のアウトブレイクはライノウイルス単独が原因であった。残りの 24 件のアウトブレイクでは病因が特定されなかった。

結論
早期の公衆衛生的介入によって、住居型介護施設での呼吸器ウイルス感染症アウトブレイクの迅速な終息がもたらされると考えられる。オセルタミビルの使用には高い費用を要するが、データからは、本研究の条件下では予防法としての有益性がある程度得られることが示唆された。住居型介護施設でのアウトブレイクを制御し、入院を回避するためには、臨床的および費用対効果に最も優れた介入を明らかにするための研究が必要である。

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監訳者コメント
この研究は、保健所に報告されたデータを用いたものである。高齢者施設でのアウトブレイクは、1 週間以内に 2 例以上の呼吸器感染症症状を呈した、と定義された。75 件の冬季の呼吸器感染症アウトブレイクデータの解析はインフルエンザだけではないこと、入所者やスタッフの発症率などを明らかにしており、大変参考になる。

監訳者注:
ロジスティクス(logistics):本稿では薬剤の迅速・適切な入手・輸送・配布のほか、検体の採取・輸送のことも指しているようである。

人工呼吸器装着・気管切開患者に使用する蛇管のオゾンおよび超音波による消毒

Disinfection of corrugated tubing by ozone and ultrasound in mechanically ventilated tracheostomized patients

M.S. Lopes*, J.R.F. Ferreira, K.B. da Silva, I. de Oliveira Bacelar Simplício, C.J. de Lima, A.B. Fernandes
*Universidade Camilo Castelo Branco (UNICASTELO), Brazil

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 304-309


背景
傷のある皮膚や粘膜に接触する医療器具は、セミクリティカル器具に分類される。あらゆる侵襲的処置の中で最も重大なリスクは病院感染の原因となる病原性微生物をもたらしてしまうことであるため、これらの器具には最低でも高レベル消毒が必要である。

目的
感熱性のセミクリティカル器具に対するオゾンガスおよび超音波の消毒能を評価すること。

方法
集中治療室の人工呼吸器装着・気管切開患者に使用した蛇管を入手した。酵素洗浄剤で 15 分間洗浄後に、以下の種々の消毒法を評価した。A 群(0.2%過酢酸)、B 群(超音波 60 分間)、C 群(濃度 33 mg/L のオゾンガス 15 分間処理)、D 群(超音波 30 分間、オゾン 15 分間)、E 群(超音波 60 分間、オゾン 15 分間)。

結果
60 分間の超音波処理による微生物汚染レベルの低下は 4 log10 であったが、オゾン単独やその他の 2 種類(超音波とオゾン)の併用および過酢酸では微生物汚染レベルが 5 log10 低下した。

結論
処理時間、使用の容易さ、有効性、および費用を考慮すると、オゾンは最も有用な方法であった。セミクリティカル器具の消毒にオゾンガスを使用することは技術的に可能であり、極めて有望であることが示された。

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監訳者コメント
人工呼吸器回路に使用する蛇管の消毒におけるオゾンの有用性について検討した論文である。オゾンの有効性を十分に発揮するためには有機物の除去が必須であり、前処理として酵素洗浄剤による洗浄を行うことが重要である。またオゾンの使用にあたっては、吸入防止や適正濃度の管理などの注意が必要である。超音波処理だけでも相応の菌減少効果が得られるのは興味深い。

ポーランドにおける医療関連感染症および抗菌薬使用に関する ECDC による点有病率調査の 2 年間の経験に基づく医療関連感染症のリスク因子

Risk factors for healthcare-associated infection in light of two years of experience with the ECDC point prevalence survey of healthcare-associated infection and antimicrobial use in Poland

A. Deptuła*, E. Trejnowska, T. Ozorowski, W. Hryniewicz
*Nicolaus Copernicus University, Poland

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 310-315


背景
医療関連感染症(HAI)および抗菌薬耐性は、今日の医療における最も重要な二大脅威である。本研究の目的は、ポーランドの急性期病院の入院患者における HAI 有病率高値に関連する独立リスク因子について評価することである。

方法
本研究は、欧州疾病予防管理センター(ECDC)による HAI および抗菌薬使用の点有病率調査プロトコールに従って実施した。50 の病院から患者 16,598 例のデータを収集した。評価した独立リスク因子は、病院の規模および種類、擦式アルコール製剤の使用量、個室の割合、専従換算(FTE)による感染制御医師・看護師 1 名あたりの病床数、性別、年齢、入院した診療科、侵襲的処置の実施、および McCabe スコアとした。

結果
HAI 有病率が高かったのは、大規模病院(6.7%)、教育病院(7.4%)、1 歳未満の小児(13.3%)、および男性(7.2%)であった。強い関連がみられた侵襲的処置は、中心静脈カテーテル(30.2%)、挿管(41.6%)、尿路カテーテル(17.5%)であった。HAI 有病率が高かったのは、集中治療室(ICU)の患者(成人 39.8%、小児 30.8%)であった。HAI 有病率が低かったのは、感染制御看護師 FTE 1 名あたりの病床数が 200 床未満の病院(4.1%)であった。

結論
ICU の小児および成人患者は HAI のリスク因子への曝露が大きく HAI 有病率が高いため、ポーランドでは全国的に HAI 予防プログラムを導入すべきである。

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監訳者コメント
医療関連感染症に関する point prevalence survey(点有病率調査)は近年、欧米を中心に行われているサーベイランス形態の 1 つで、ある時点(ある 1 日や、ある時間など)における感染症患者やデバイスの有無、抗菌薬の使用状況等を多数の病院で調査するもので、メリットとしては 1つひとつの病院の負担が少なく済むことが挙げられる。日本でも様々な場面において利用できる調査法で、同様のデザインによってわが国における医療関連感染症の有病率やそのリスク因子などを明らかにすることができるだろう。

アイルランド共和国の 3 次紹介医療施設における cfr 介在性リネゾリド耐性表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)による初のアウトブレイクの発生、管理、および転帰

Incidence, management and outcomes of the first cfr-mediated linezolid-resistant Staphylococcus epidermidis outbreak in a tertiary referral centre in the Republic of Ireland

C. O’Connor*, J. Powell, C. Finnegan, A. O’Gorman, S. Barrett, K.L. Hopkins, B. Pichon, R. Hill, L. Power, N. Woodford, J.C. Coffey, A. Kearns, N.H. O’Connell, C.P. Dunne
*University Hospital Limerick, Ireland

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 316-321


目的
アイルランドにおける cfr 介在性リネゾリド耐性表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)による初のアウトブレイクについて報告すること。

方法
University Hospital Limerick で 2013 年 4 月から 6 月に血液培養 4 件、創部スワブ 1 件、およびスクリーニングスワブ 4 件(患者 9 例)から分離されたリネゾリド耐性表皮ブドウ球菌の特性を、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)、multilocus sequence typing(MLST)、およびブドウ球菌カセット染色体 mec(SCCmec)タイピングを用いて評価した。抗菌薬感受性を British Society for Antimicrobial Chemotherapy のガイドラインに従って明らかにした。リネゾリド処方・使用の禁止、感染予防・制御実践の遵守、環境清掃の強化、保菌患者の隔離、および全病院的な教育プログラムにより、アウトブレイクの制御を行った。

結果
PFGE により、9 株の全分離株が単一クローンであることが示された。分離株は MLST により ST2 に分類されること、また SCCmec タイピングにより SCCmecIII 変異体をコードしていることが示された。9 株の全分離株が cfr 陽性であり、8 株はリネゾリド耐性との関連が強い 23S rRNA の G2576T 変異陽性であった。分離株は複数の抗菌薬(すなわち、リネゾリド、ゲンタマイシン、メチシリン、クリンダマイシン、シプロフロキサシン、フシジン酸、およびリファンピシン)に対する耐性を示した。適用した感染予防介入は有効であり、アウトブレイクは患者が発生した集中治療室に限定された。

結論
本稿は、アイルランド共和国における cfr 介在性リネゾリド耐性表皮ブドウ球菌による初のアウトブレイクの報告である。それにもかかわらず、また既存のアウトブレイク管理プロトコールによって、原因菌および感染源の特定を効率的に行うことができた。しかし、抗菌薬感受性および適切な衛生実践に関する職員の知識がアウトブレイク時には不十分であったこと、ならびに抗菌薬耐性や本稿で報告したようなアウトブレイクの発生を回避するためには教育的介入(およびその再強化)が必要であることが明らかとなった。

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監訳者コメント
黄色ブドウ球菌におけるリネゾリド耐性が報告されているが、本報告はリネゾリド耐性「表皮ブドウ球菌」のアウトブレイクの報告である。患者 9 名中 5 名は血液培養もしくは創部からの検出であり、アウトブレイクに気づかれたものと思われるが、特殊な耐性を示す表皮ブドウ球菌の院内拡散は気づかれないうちに広がり得ることが予想され、他人事ではないと感じられた。

サーベイランス担当者による医療関連感染症の診断の正確度に関する症例報告を用いた評価

Case vignettes to evaluate the accuracy of identifying healthcare-associated infections by surveillance persons

C. Schröder*, M. Behnke, P. Gastmeier, F. Schwab, C. Geffers
*Institute of Hygiene and Environmental Medicine, Charité Berlin, Germany

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 322-326


背景
全国的なサーベイランスシステムでは、感染症の正確かつ再現可能な診断が重要である。

目的
医療関連感染症(HCAI)の診断の正確度が、全国的な医療関連サーベイランスシステムの HCAI 発生率に及ぼす影響を調査すること。

方法
ドイツの Krankenhaus Infektions Surveillance System(KISS;院内感染症サーベイランスシステム)の集中治療室(ICU)サーベイランスに関する検証プロセスから得たデータを用いて、ICU における HCAI サーベイランスでの個々のサーベイランス担当者の HCAI 診断の正確度を算出した。多変量解析により、サーベイランスの正確度に関連する因子を特定した。

結果
ICU 218 施設のサーベイランス担当者合計 189 名が、30 件の症例報告を評価した。正確度が高いサーベイランス担当者グループに属する割合が高かったのは、医師(オッズ比[OR]3.14、P = 0.02)および外部のサーベイランス担当者(OR 4.69、P ≦ 0.01)であった。ICU の HCAI 発生率は、ICU のサーベイランス担当者の診断感度(発生率比[IRR]1.28、95%信頼区間[CI]1.07 ~ 1.53、P ≦ 0.01)との関連がみられた。感度が高い場合は、医療関連尿路感染症発生率(IRR 1.33、95%CI 1.02 ~ 1.75、P = 0.03)および血流感染症発生率(IRR 1.33、95%CI 1.06 ~ 1.68、P = 0.01)が高かった。特異度が高いことは有意な因子ではなかった。

結論
症例報告を用いた HCAI 診断の感度と ICU における HCAI 発生率との関連から、この検証方法は他のサーベイランスシステムの検証にも推奨できる。

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監訳者コメント
時間的(施設内)および空間的(複数施設)に比較し、その違いあるいは変化をみて、感染症発生および感染予防対策の状況を評価するためのツールがサーベイランスである。比較のためには「一定の判定基準」が必要である。本論文では、医師が担当者として関与するとサーベイランスの感度が高くなること、また感度が高いと尿路感染と血流感染の発生率も高くなるという結果であり、標準化された定義を使用していても「正確な感染症の診断」がいかに重要であるかを指摘している。日本においてはサーベイランスの実施が必須となり広く実施されるようになったが、本論文にあるような「質保証」をいかに担保するかが今後の課題である。

集中治療室におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA):転帰への影響および獲得のリスク因子

Meticillin-resistant Staphylococcus aureus in the intensive care unit: its effect on outcome and risk factors for acquisition

J. McMaster*, M.G. Booth, A. Smith, K. Hamilton
*Glasgow Royal Infirmary, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 327-332


背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は、集中治療室(ICU)における院内感染症の原因として高い頻度でみられる。ICU で獲得した MRSA は不良な転帰と関連すると認識されているが、このことを支持するデータはほとんどない。

目的
ICU での MRSA 獲得が 180 日死亡率に及ぼす影響を明らかにすること、および獲得に関連するリスク因子を特定すること。

方法
2007 年から 2013 年にかけてデータを前向きに収集した。ICU 入室期間を通じて MRSA 陰性であった患者を、年齢、Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II(APACHE II)スコア、ICU 入室期間、および手術の施行/未施行について MRSA 獲得患者とマッチさせた。

結果
合計 2,405 例の患者を解析対象とした。ICU で MRSAを獲得した患者は、入院時に MRSA 陽性であった患者および ICU 入室期間を通じて MRSA 陰性であった患者と比較して、ICU 入室期間が有意に長かった(いずれも P < 0.001)。180 日死亡率は群間で有意差はなかった(P = 0.238)。ICU 入室後 48 時間以内に確認された非 MRSA 感染症は、MRSA 獲得リスク上昇と関連し(補正オッズ比[OR]2.57、P = 0.005)、ICU 入室後 48 時間以内に抗菌薬療法を受けたことは MRSA 獲得リスク低下と関連した(補正 OR 0.38、P = 0.014)。

結論
MRSA 獲得は重症患者の死亡に影響しない。これは、感染予防策として ICU における MRSA の制御を重視することついて、費用対効果の点で疑問を提起するものである。本研究コホートでは MRSA 獲得率が低く、またそのリスク因子が特定されなかったことは、全患者を対象とした標準的な感染制御策を継続的に改善する取り組みが必要であることを示している。

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監訳者コメント
MRSA は英国においても重要な院内感染の原因菌であり、死亡率や医療コストに大きく関与することが知られている。本論文では、ICU における MRSA の獲得と予後への影響を検討しているが、入室後 MRSA 獲得患者は、MRSA 未検出患者および既獲得患者との間に死亡率の差はなかった。その理由として、ベッド数 20 床の ICU での調査期間中の感染率は 3.1%とこれまでの報告(7% ~ 10%)よりもかなり低いことが、ICU 内での死亡率に影響しなかった可能性がある。得られた結果から、標準予防策のみで接触予防策などの追加予防策は不要と結論するのは短絡的であり、これまでの多方面にわたる感染対策の実施が、重症患者の死亡率に変化がなかったと考えるべきかもしれない。

冷却スプレーによる静脈内カニューレ挿入前の皮膚の無菌性への効果

Effects of vapocoolant spray on skin sterility prior to intravenous cannulation

J.G. Evans*, D. McD. Taylor, F. Hurren, P. Ward, M. Yeoh, B.P. Howden
*Austin Hospital, Australia

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 333-337


背景
冷却用アルカンスプレーは迅速に蒸発して皮膚温度を下げ、疼痛感覚の一時的な緩和をもたらす。このスプレーは、静脈内カニューレ挿入による疼痛を抑制する。しかしこのスプレーによって、滅菌したカニューレ挿入部位が再汚染する可能性が懸念される。

目的
冷却スプレーによるカニューレ挿入前の皮膚の無菌性への効果を明らかにすること。

方法
都市部の大規模 3 次病院の救急部門の患者 50 例を本研究に登録した。各患者の両手背から細菌培養のための皮膚スワブを採取した。一方の手から標準的なクロルヘキシジン消毒後にスワブ採取し、冷却スプレー噴霧後に第 2 スワブを採取した。もう一方の手からは前処置をせずに(消毒なし)皮膚スワブを採取し、冷却スプレー噴霧後に第 2 スワブを採取した。皮膚スワブを微生物学的培養および定量的比較のために送致した。

結果
皮膚消毒後の冷却スプレー噴霧による細菌コロニー数の有意な増加はみられず、中央値は 0.0(四分位範囲[IQR]0.0)対 0.0(IQR 0.0)であった(P = 0.71)。前処置なしの皮膚に対する冷却スプレー噴霧により細菌コロニー数は有意に減少し、中央値は 33.5(IQR 68)対 3.0(IQR 11)であった(P < 0.001)。

結論
冷却用アルカンスプレーにより消毒後の皮膚の再汚染は生じず、消毒後の静脈内カニューレ挿入前に鎮痛剤として使用した場合のリスク上昇はないと考えられる。このスプレーは殺細菌活性を有しているが、単独で消毒剤として使用するには不十分である。

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監訳者コメント
救急現場での末梢血管カテーテル挿入時の疼痛軽減に冷却スプレーを使用することが有効であるとの報告(Hijazi R, et al. BMJ 2009;338:b215)はすでにあるが、スプレー時の皮膚への細菌汚染が懸念されている。本論文は冷却スプレー時の皮膚への細菌汚染の影響を検証したものであるが、冷却スプレー使用による皮膚汚染の影響はないとする結果であった。冷却スプレーは、生検前の皮膚の局所麻酔の前処置として(Collado-Mesa F, et al. Clin Radiol 2015;70:938)も使用されており、医療処置時の疼痛軽減に有効とされている。本研究で使用された冷却スプレーはスポーツ等での筋肉痛や外傷時の応急処置に使用されているものである。日本でも同様の目的で頻用されているが、医療現場での穿刺時の疼痛軽減に関しては局所麻酔薬を含む皮膚貼付フィルム剤の使用が一般的である。

中国・内モンゴル農村部の医療従事者の自己報告による手指衛生実践、ならびに擦式アルコール製剤の実施可能性と受容性

Self-reported hand hygiene practices, and feasibility and acceptability of alcohol-based hand rubs among village healthcare workers in Inner Mongolia, China

Y. Li*, Y. Wang, D. Yan, C.Y. Rao
*Global Disease Detection Program, United States Centers for Disease Control and Prevention, China

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 338-343


背景
手指衛生の遵守は、医療関連感染症のリスクを減少させるために極めて重要である。中国農村部の医療における手指衛生実践に関するデータはほとんどない。

目的
中国農村部の医療従事者について、擦式アルコール製剤による手指衛生の実施可能性と受容性、ならびにその手指衛生実践について評価すること。

方法
擦式アルコール製剤のボトル 500 本を、中国・内モンゴルの農村部の医療従事者に提供した。標準化した質問票を用いて、医療従事者の業務負荷、手指衛生設備の利用可能性および使用状況、ならびに手指衛生に関する知識、態度、実践に関する情報を収集した。

結果
合計 369 名(64.2%)の参加者が質問票に回答した。擦式アルコール製剤の提供を受けた参加者の 84.5%は擦式アルコール製剤を受け取ることによって自分らの手指衛生が改善すると考えていたが、78.8%は自費では 1.5 米ドル以上は支払うつもりはないと回答した(実際の費用は 4 米ドル)。患者に在宅医療を提供している回答者の大半(77.2%)は、自施設から擦式製剤を持ち出さないと回答した。自己申告による手指衛生遵守は全般的に不十分であり、最も遵守率が低かったのは「患者に接触する前」であった。擦式アルコール製剤の使用に関する不満として報告された上位 3 項目は、皮膚の刺激、飛沫、および不快な残存であった。臨床経験の少ない農村部の医師は手指衛生実践が少なかった。

結論
農村部の医療従事者における擦式アルコール製剤の受容性は、製剤が無料または低価格で提供される場合は全般的に高いが、手指衛生実践状況は全体として不十分であった。通常の医療施設外の環境での手指衛生に関する教育および研修が必要である。

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監訳者コメント
本研究は、在宅診療に重きを置く中国農村部における、医療従事者の手指衛生遵守に関する調査結果を報告したものであり、現状を想起させる興味深い結果が得られている。本邦でも在宅診療に重点を置くべく、政策上の誘導が行われているが、在宅医療での感染対策にはまだ関心が低い状況といえる。本邦においても、在宅医療での手指衛生について調査と向上が進むことを期待したい。

ATP バイオルミネッセンス法を用いた適切な集中治療室の新規清掃プログラムの策定および評価

Applying ATP bioluminescence to design and evaluate a successful new intensive care unit cleaning programme

M.-C. Chan*, T.-Y. Lin, Y.-H. Chiu, T.-F. Huang, S.-K. Chiu, T.-L. Liu, P.-S. Hung, C.-M. Chang, J.-C. Lin
*National Defense Medical Center, Taiwan

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 344-346


本研究は、台湾の 1,800 床の公立病院の循環器集中治療室および内科集中治療室で実施した 2 段階の前向き介入研究である。第 1 段階では、毎朝の清掃後に ATP バイオルミネッセンス法により清掃の効果をモニタリングした。基準に到達したのは評価した 221 の環境表面のうち 43.9%のみであった。このベースラインデータを用いて、新規清掃プロトコールおよび新規教育・研修プログラムからなる介入を策定した。介入実施後の第 2 段階では、270 の環境表面のうち 88.1%が清潔であることが示された。循環器集中治療室と内科集中治療室を併せた感染症発生率は、統計学的に有意に 49.7%低下した。

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監訳者コメント
ATP バイオルミネッセンス法は、生物学的汚染度(生菌数)を簡便、迅速に測定する方法で、菌種を問わない。本研究では、新規の清掃プロトコールを導入した前後で、環境表面の汚染度の変化を調査した。元々は 1 枚の再利用可能な布で環境清掃を行っていたものを、場所・目的ごとに 3 種類のディスポ―サブルの布を使用するよう改めたところ、各環境表面の ATP 値はおよそ 10 分の 1 に低下した。低下した感染症の詳細は明らかにされていないが、興味深い結果であり、他施設での追試が待たれる。

バンコマイシン中等度耐性黄色ブドウ球菌(vancomycin-intermediate Staphylococcus aureus;VISA)の病院表面での生残

Survival of vancomycin-intermediate Staphylococcus aureus on hospital surfaces

M.N. Zarpellon*, A.C. Gales, A.L. Sasaki, G.J. Selhorst, T.C. Menegucci, C.L. Cardoso, L.B. Garcia, M.C.B. Tognim
*Universidade Estadual de Maringá, Brazil

Journal of Hospital Infection (2015) 90, 347-350


背景
医療関連感染症の原因となる病原体の中には、汚染された表面を介した伝播が重要な役割を果たすものがある。これまでの研究では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は室温の乾燥表面上でも生き残ることが判明しているが、バンコマイシン中等度耐性黄色ブドウ球菌(vancomycin-intermediate S. aureus;VISA)に関する公表データは現時点では存在しない。

目的
メチシリン感性黄色ブドウ球菌(meticillin-susceptible S. aureus;MSSA)、MRSA、VISA を対象として、種々の表面上での生残期間、細胞表面の疎水性、非生物表面への付着、およびバイオフィルム形成を比較すること。

方法
黄色ブドウ球菌株の生残を、ラテックス、綿布、ビニール床材、およびフォーマイカ上で調べた。細胞表面の疎水性は、hydrocarbon interaction affinity 法により測定した。非生物表面への付着については、花崗岩、ラテックス(手袋)、ガラス、ビニール床材、およびフォーマイカ上で調べた。バイオフィルム形成は 6、12、24、48 時間後に評価した。

結果
ビニール床材およびフォーマイカ上では全サンプルが 40 日間以上生残した。VISA は両方の表面上で 45 日を超えて生残した。すべての菌株に高度の疎水性が認められた。VISA はラテックス、ビニール床材、およびフォーマイカに付着した。バイオフィルム形成は供試した全菌株で 6 から 24 時間以内に増加がみられた。

結論
VISA は高度の生残、付着、および細胞表面疎水性を示した。VISA を保有する患者の治療は臨床医にとって重大な課題であり、種々の器具の表面が多剤耐性菌の重要なリザーバーとなる可能性があることから、これらの表面の清掃と消毒の強化が推奨される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
種々の器具・材料の表面を介した間接接触感染は、制御が容易でないものであるが、それは器具の材質や菌種に左右されるところが大きい。VISA は細胞壁が厚く、バイオフィルム形成能が高い特徴を有するとされるが、本研究では MRSA に比し、ビニール床材やフォーマイカ上での生存期間が長いことが判明した。

監訳者注:
Hydrocarbon interaction affinity法:Teixeiraら(Epidemiol Infect 1993;110:87)参照。

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