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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

聴診器と医療関連感染症:身を潜めた敵か、無関係な第三者か?

The stethoscope and healthcare-associated infection: a snake in the grass or innocent bystander?

N. O’Flaherty*, L. Fenelon
*St Vincent’s University Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 1-7


聴診器は、医療関連感染症(HCAI)の原因となり得る感染性病原体を伝播する可能性が懸念される。本総説の目的は、HCAI 発症における聴診器の役割に関する入手可能な文献を評価することである。複数のデータベースを用いて、関連する研究・報告の文献検索を実施した。聴診器は、細菌の温床となっていることが一様に示されていた。28 件の研究の聴診器の平均汚染率は 85%(範囲 47% ~ 100%)であった。分離細菌の大半は非病原性であった。分離頻度が最も高い微生物はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であった。汚染レベルの定量的評価を行っている 6 件の研究すべてにおいて、平均汚染レベルは French Normalization の清浄度基準(膜 1 枚あたり 20 コロニー形成単位未満に相当)を超過していた。聴診器から培養された病原性を有すると考えられる微生物は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci)、およびクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)などであった。患者の皮膚から聴診器へ、また聴診器から皮膚へ細菌が移行することのエビデンスが得られた。しかし、これらの研究デザインは、聴診器汚染とそれに続く HCAI との相関を検出するためのものではなかった。洗浄の実践を評価した調査では、聴診器の消毒に関する医師および医学生の責任が不十分であることが判明した。聴診器の最適な消毒法は明確にされていなかったが、アルコール製消毒薬は細菌汚染の減少に有効であった。結論として、汚染した聴診器と HCAI との関係は依然として確証されていないが、皮膚と聴診器との間で細菌が移行することは示された。入手可能な情報からは、聴診器の汚染除去を患者と患者の使用の合間に行うべきであることが示唆された。

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監訳者コメント
医療環境での病原体伝播には、医療従事者の手指ならびに共有する可能性のある聴診器などの医療器具がある。聴診器の問題は、かねてより指摘され数々の論文が出ているが、実際の臨床の現場では聴診器単独で病原体の接触伝播が起こるわけではないので、研究デザインの設定が重要となる。

エボラへの備え:著者らの視点

Ebola preparedness: a personal perspective

E.P. Yiannakis*, T.C. Boswell
*Nottingham University Hospitals NHS Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 8-10


西アフリカにおけるエボラウイルス病のアウトブレイクと、これに伴う医療サービスへの影響は、世界中の感染予防・制御チームに特異的かつ複雑な課題をもたらすこととなった。感染予防・制御チームは、時に矛盾し、しばしば直ちに改定される国内外の指針に直面し、患者と同僚の両者を適切に保護するという極めて重い責任を負わされた。本稿では、著者らの地域における経験について考察するとともに、われわれの組織がエボラウイルス病に備える際に直面した障壁のいくつかについて報告する。

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監訳者コメント
発展途上国における医療水準が向上して同等の水準が確保されれば、たとえ患者が発生してもこれだけの規模にはならなかっただろう。そういう意味では支援ではなく、現地で自立できる医療水準の確保が課題なのだ。

イングランドの国民保健サービス(NHS)病院トラストにおけるエボラウイルス病への備えに関する横断研究

Cross-sectional study of Ebola virus disease preparedness among National Health Service hospital trusts in England

T.C.S. Martin*, M.A. Chand, P. Bogue, A. Aryee, D. Mabey, S.D. Douthwaite, S. Reece, P. Stoller, N.M. Price
*Guy’s and St Thomas’ NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 11-18


背景
最大規模のエボラウイルス病アウトブレイクが西アフリカで進行している。航空旅客データからは、アフリカ以外では英国がエボラウイルス病症例の流入リスクが最も高い国の 1 つであることが示唆される。そのためイングランドの病院は、エボラウイルス病の疑い例の評価および早期管理に備えるように指導を受けた。しかし、イングランド全域の病院の対応は明らかではない。

目的
イングランドの急性期病院の準備状況を評価するとともに、エボラウイルス病の疑い例への備えの際に経験した課題についいて述べること。

方法
イングランドのすべての急性期の国民保健サービス(NHS)病院トラスト(病院トラストは、1 つの地理的地域で 1 つまたは複数の NHS 病院を管理している)を対象とした、半構造化電話面接およびオンライン調査による横断研究。

結果
合計 112 の病院トラストが調査に回答した。面接を行ったすべての病院トラストが、エボラウイルス病の疑い例に備える活動に着手していると報告し、97%は疑い例の評価ができる状態にあると回答した。ほとんどの病院トラストが救急救命部門でのシナリオを考慮していた(97%)。しかし、産科部門(61%)および小児科部門(79%)に特化したシナリオ、換気サポートもしくは腎臓サポートの提供(75%)、または心肺停止時の蘇生法(56%)を考慮している病院トラストはそれよりも少なかった。34 の病院トラストがサンプル輸送に関して、カテゴリー A の病原体輸送の適時の実施には問題があると報告した。課題は、個人防護具の選択・使用法・調達(71%)、国内指針の解釈(62%)、リソース配分および疑い例の管理の支援(38%)などであった。

結論
イングランドの病院トラストによるエボラウイルス病への備えに関する取り組みは十全なものであった。その後の全国的指針では、本調査で明らかにされた課題のいくつかを取り上げているが、エボラウイルス病の疑い例に遭遇する急性期医療部門では、特に実務的な点で、さらなる改善の余地がある。

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監訳者コメント
英国では出血熱対策マニュアルがよく整備されている、また大型のテント式陰圧室を国が提供して稼働できる状況にある。しかし、いざというときの備えについては絶えず定期的な実地訓練が必要であろう。

胃腸炎アウトブレイクの負荷:要介護者のケアを行う施設に固有の疫学

Burden of gastroenteritis outbreaks: specific epidemiology in a cohort of institutions caring for dependent people

P. Gaspard*, K. Ambert-Balay, A. Mosnier, S. Aho-Glélé, C. Roth, S. Larocca, L. Simon, D. Talon, C. Rabaud, P. Pothier
*Rouffach Hospital Center, France

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 19-27


背景
要介護者のケアを行う施設ではウイルス性胃腸炎が高頻度に発生し、その伝染性は高い。高齢者では、これらが入院や、時には死亡をもたらすことがある。

目的
要介護者のケアを行う施設で胃腸炎アウトブレイクが及ぼす影響について調査すること。

方法
本研究は、18 施設の 4 領域(老年病・リハビリテーション科、老年精神医学科、高齢者ナーシングホーム、身体的・精神的障害を有する成人の専門的介護施設)の 35 ユニットで実施した。6 回の冬季中の胃腸炎アウトブレイクの時空間解析を実施し、施設の構造的特性(施設の規模および食堂の構成[個室または共用])、ウイルスの疫学およびアウトブレイクの時系列、ならびに施設の領域について、臨床的データおよびウイルスのデータの解析を実施した。

結果
全 35 ユニットで合計 98 件のアウトブレイクを記録した。胃腸炎アウトブレイクのリスクは、国内の流行期以外でも高かった。86 件のアウトブレイクでウイルス検索を実施し、このうち 96.5%(86 件中 83 件)で同定された。内訳はノロウイルス遺伝子型 GII.4(59.0%、83 件中 49 件)、およびその他のウイルス(41.0%、83 件中 34 件)であった。胃腸炎アウトブレイクの頻度および発症率、ならびにウイルスの種類については、サーベイランスの時期によってばらつきがみられた。食堂の構成は、施設内の交差感染の要因であると考えられた。

結論
要介護者のケアを行う施設では、感染症の管理および医療従事者への情報を改善するために、正確な疫学に基づく特異的なサーベイランスを実施する必要がある。

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監訳者コメント
想像を絶するウイルス性胃腸炎のアウトブレイクの実態報告である。集団生活を行う、いかなる施設においてもノロウイルスを始めとする感染性腸炎のリスクマネージメントは常に必要である。

Korean Nosocomial Infections Surveillance System 設立後の集中治療室におけるデバイス関連感染症発生率の動向

Trends in the incidence rate of device-associated infections in intensive care units after the establishment of the Korean Nosocomial Infections Surveillance System

J.Y. Choi*, Y.G. Kwak, H. Yoo, S.-O. Lee, H.B. Kim, S.H. Han, H.J. Choi, Y.K. Kim, S.R. Kim, T.H. Kim, H. Lee, H.K. Chun, J.-S. Kim, B.W. Eun, D.W. Kim, H.-S. Koo, G.-R. Bae, K. Lee
*Yonsei University College of Medicine, South Korea

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 28-34


背景
医療関連感染症の継続的な全国的サーベイランスの有効性を各国で調査すべきである。

目的
Korean Nosocomial Infections Surveillance System(KONIS)設立後の集中治療室(ICU)におけるデバイス関連感染症の発生率を評価すること。

方法
KONIS に参加する全病院が報告した ICU におけるデバイス関連感染症発生率に関する全国的データを入手した。下記の 3 つの主要なデバイス関連感染症、すなわち人工呼吸器関連肺炎(VAP)、中心ライン関連血流感染症(CABSI)、およびカテーテル関連尿路感染症(CAUTI)について調査を実施した。これらのデバイス関連感染症の 2006 年から 2012 年のプールした発生率および 1 年ごとの発生率(1,000 デバイス日あたりの症例数)を明らかにした。さらに、KONIS に連続して 3 年間以上参加した施設のデータを別途に解析した。

結果
KONIS 参加 ICU の数は、2006 年の 76 から 2012 年の 162 へ漸増した。2006 年から 2012 年にかけて、VAP 発生率は 1,000 デバイス日あたり 3.48 から 1.64 へ有意に低下し(F = 11、P < 0.01)、CAUTI 発生率は有意ではないが 1.85 から 1.26 へ低下し(F = 2.02、P = 0.07)、CABSI 発生率も有意ではないが 3.4 から 2.57 に低下した(F = 1.73、P = 0.12)。KONIS に連続して 3 年間以上参加した 132 の ICU では、VAP 発生率は 1 年目から 3 年目にかけて有意に低下したが(F = 20.57、P < 0.01)、CAUTI 発生率(F = 1.06、P = 0.35)および CABSI 発生率(F = 1.39、P = 0.25)に有意な変化はなかった。

結論
韓国の ICU における VAP 発生率の低下は、KONIS が実施している継続的な前向きサーベイランスと関連していると考えられる。

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監訳者コメント
サーベイランスの参加施設数の増加に伴い、デバイス感染率が低下しているとの報告である。感染率を知ることで、自施設のデバイス関連感染予防策の実施による改善効果を確認できることが追い風となっている。

集中治療室の環境表面はバイオフィルム内の多剤耐性菌により汚染されている:通常の培養法、パイロシークエンス法、走査電子顕微鏡、および共焦点レーザー顕微鏡の併用による結果

Intensive care unit environmental surfaces are contaminated by multidrug-resistant bacteria in biofilms: combined results of conventional culture, pyrosequencing, scanning electron microscopy, and confocal laser microscopy

H. Hu*, K. Johani, I.B. Gosbell, A.S.W. Jacombs, A. Almatroudi, G.S. Whiteley, A.K. Deva, S. Jensen, K. Vickery
*Macquarie University, Australia

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 35-44


背景
病院感染は多くの疾患および死亡を引き起こし、その治療は高価である。このような感染症の原因微生物は、患者の周囲の無生物環境に由来する場合がある。これらの微生物を環境から根絶することが困難であるのは、乾燥表面のバイオフィルム内に生息しているためであろうか?

目的
3 次紹介病院の廃止された集中治療室(ICU)で臨床表面の破壊的サンプリングを実施し、多剤耐性菌が廃止プロセス中に生残しているか、またバイオフィルム内に存在しているかについて調査した。

方法
この ICU は、500 ppm の遊離塩素溶液を用いた二段階「最終清掃」を実施していた。切断器具を用いて寝具類、周囲環境、および取り付け材からサンプル採取を行った。切断片をトリプトンソーヤブイヨン中で超音波処理し、発色酵素基質平板培地に接種して多剤耐性菌を検出し、Vitek2 システムを用いて確認を行った。ICU のサンプルからゲノム DNA を直接抽出し、femA に対する PCR 法による黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の検出、および bacterial tag-encoded FLX amplicon pyrosequencing(bTEFAP)による微生物叢の評価を行った。共焦点レーザー顕微鏡および走査電子顕微鏡により、環境サンプルを調べた。

結果
多剤耐性菌は、培養サンプルの 52%(44 件中 23 件)で陽性であった。黄色ブドウ球菌の PCR 法では 50%が陽性であった。バイオフィルムは、共焦点レーザー顕微鏡および/または走査電子顕微鏡によりサンプルの 93%(44 件中 41 件)に認められた。パイロシークエンス法により、バイオフィルムには複数の細菌が認められ、また多剤耐性株を含む細菌種も存在することが示された。

結論
塩素溶液による最終清掃を実施していたにもかかわらず、ICU の乾燥表面からは多剤耐性菌を含むバイオフィルムが検出された。どのようにしてこのようなことが生じるのか、またどうすればこれらの除去が可能であるかのかについては、さらなる研究が必要である。

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監訳者コメント
バイオフィルムは、細菌が産生する多糖体を主成分とする構造体である。バイオフィルム内の細菌に対しては、抗菌薬や消毒薬の効果は著しく減少するため、バイオフィルム形成による感染症が血管留置カテーテルや人工関節などの人工物上に起こると、極めて難治性となり、器材の抜去が完治のための唯一の方法となる。本論文は、ICU 環境での二段階最終清掃方法(中性洗剤による清拭後にさらに 0.05%のジクロロイソシアヌル酸ナトリウムによる清拭をする方法)でのバイオフィルムの除去効果をみている。二段階の清掃を実施しても、バイオフィルム内の細菌の除去はできなかったとの結論である。バイオフィルムを含む汚染の程度と院内感染の発生との直接的な関連性を見いだすことは困難であるが、環境で汚染された器材や手指を介した感染を防ぐためには、徹底した環境整備は必要である。バイオフィルムを破壊し、病原体を確実に除去する製剤の開発が望まれる。

ベトナムの過密な病院で患者区域と診療区域が分離されていないことの環境的な問題点

Environmental challenges of identifying a patient zone and the healthcare zone in a crowded Vietnamese hospital

S. Salmon*, M.L. McLaws
*UNSW Australia, Australia

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 45-52


背景
世界保健機関(WHO)の「手指衛生の 5 つの機会」については、病床同士の間隔や病床稼働率が先進国の通常の水準にある医療環境での適用を想定して考案されたものである。しかし、ベトナムの過密な医療施設や問題を抱えるその他の環境では、それぞれの必要性に合致するように「手指衛生の 5 つの機会」を修正する戦略が求められる。

目的
「手指衛生の 5 つの機会」の指示を遵守することに対する環境的な問題点を特定すること。

方法
ベトナムの大規模教育病院の 2 つの診療部門で、WHO の手指衛生監査ツールを用いて overt observation を実施した。診療行動および「5 つの機会」の指示を、イラストにより示した。

結果
ベトナムでは集中治療室を除いて 1 つの病床の複数患者による共用が一般的に行われており、WHO の指示に沿った患者区域の可視化が困難である。また、過密な医療施設で患者が共用している病床同士の間隔が狭いことは、共用診療区域への患者の近接につながる。これらの 2 つの障壁は、「5 つの機会」を正しく適用する取り組みを阻害する。

結論
「手指衛生の 5 つの機会」に沿った手指衛生実践および監査は、患者とそれぞれの診療区域とが分離していることが前提となっている。「5 つの機会」の適用の障壁は、患者区域と共用診療区域との分離帯がないこと、および改善のためには現在の慢性的なリソース不足の問題を上回るリソースが必要になることなどである。環境的なリソースが「5 つの機会」の原則を適用するために必要となる西側諸国の基準に合致するまでは、医療従事者による遵守が可能となるような詳細な修正指針を明らかにすることが緊要である。

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監訳者コメント
本論文に記載されているベトナムの教育病院での病棟の患者配置をみると、ベッド間隔が極めて狭いあるいは隣接している、同一ベッドに 2 名が寝ているなど、現在の一般的な日本の病院ではあり得ない状況が報告されている。WHO の手指衛生 5 つの機会を適用するには、患者域と医療域との区別が明確にできていることが必須条件となる。前述のように必須条件を満たすことができないため、結果として手指衛生の 5 つの機会をうまく定義できず、不十分な手指衛生の状況をつくりだしている。5 床ある ICU でさえも、1 か所にしか手指消毒剤は配置されていない状況であった、多剤耐性菌が東南アジアでも拡大しており、病院環境、特に患者ベッド環境の改善は急務であるが、経済的な壁が立ちはだかっている。

新規四級化合物およびその N-クロラミン有機誘導体により緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の耐性変異株の選択は生じないことを示すエビデンス

Evidence that a novel quaternary compound and its organic N-chloramine derivative do not select for resistant mutants of Pseudomonas aeruginosa

M. De Silva*, C. Ning, S. Ghanbar, G. Zhanel, S. Logsetty, S. Liu, A. Kumar
*University of Manitoba, Canada

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 53-58


背景
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、病院感染を引き起こし、抗菌薬に対する高度の自然耐性および獲得耐性を有することから、その治療はしばしば困難であることがよく知られている。Resistance-nodulation-division(RND)型薬剤排出ポンプは、この菌の自然多剤耐性の主要な原因の 1 つである。病院環境では様々なバイオサイド(殺生物剤)が用いられているが、それらは RND ポンプを過剰発現する緑膿菌変異株を選択してしまい、臨床的に重要な抗菌薬との交差耐性を来すことが判明している。したがって、緑膿菌などの拡散を制御するためには、多剤耐性変異株を選択しない殺生物剤を開発することが重要である。

目的
新規の四級アンモニウム化合物およびその N-クロラミン誘導体が、緑膿菌の多剤耐性変異株を選択し得るかどうか評価すること。

方法
四級アンモニウム化合物およびその N-クロラミン誘導体について、それぞれの濃度を漸増させた培地中で緑膿菌 PA01 を培養し、変異株を 1 株ずつ選択した。そしてこれらの変異株が、両化合物および抗菌薬に対するどのくらい感性を示すかを調べた。RND ポンプを欠失している緑膿菌株についても同様に、両化合物に対する感性を調べ、これらの化合物が RND ポンプの基質であるかどうかを明らかにした。変異株の mexBmexD、および mexY 遺伝子の発現量を定量的逆転写 PCR 法により解析し、これらの化合物によって、ポンプを過剰発現している変異株の選択が生じるかどうかを明らかにした。

結果
両化合物ともに MexCD-OprJ ポンプによって排出され得るが、RND ポンプを過剰発現している変異株または抗菌薬に交差耐性を示す変異株のいずれについても、選択は生じないことが示された。

結論
これらの化合物は、病院環境で使用する消毒薬の有望な候補である。

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監訳者コメント
消毒薬と抗菌薬の両方に交差耐性を来すメカニズムとして排出ポンプがあり、RND ファミリーはグラム陰性桿菌における排出ポンプに相当する。本研究は、これらの 2 化合物が RND ファミリーに属する MexCD-OprJ ポンプによって排出されるにもかかわらず、2 化合物に耐性となった株でも mexBmexDmexY 遺伝子の発現量には変化が生じなかったことから、2 化合物は MexAB-OprM/MexCD-OprJ/MexXY を過剰発現する株(つまり抗菌薬にも耐性となる株)を選択しないと結論づけている。交差耐性株の選択に関しては、さらに追加の知見が必要であろうが、新規バイオサイドの発見における重要なステップとして本研究は意義深い。

監訳者注:
MexCD-OprJ ポンプ:RND ファミリーとして現在、12 種類のポンプが同定されており、そのうち MexCD-OprJ は MexAB-OprM および MexXY と並んで、臨床分離株で過剰発現が認められることが多いものの 1 つ。

自己報告による手指衛生行動の心理社会的決定因子:集中治療室の医師と看護師との比較調査

Psychosocial determinants of self-reported hand hygiene behaviour: a survey comparing physicians and nurses in intensive care units

T. von Lengerke*, B. Lutze, K. Graf, C. Krauth, K. Lange, L. Schwadtke, J. Stahmeyer, I.F. Chaberny
*Hannover Medical School, Germany

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 59-67


背景
心理学的行動変容理論を手指衛生遵守に適用した研究はわずかであり、特に医師を対象としたものは少ない。

目的
集中治療室(ICU)の医師および看護師の自己報告による手指衛生行動の心理社会的決定因子を特定すること。

方法
Health Action Process Approach の概念を hygienic hand disinfectionに適用した自記式質問票を用いて、ドイツの Hannover Medical School の ICU 10 室および 2 つの造血幹細胞移植部門で横断研究を実施した。自己報告による遵守の評価は、感染リスクを有する業務を実践する際に「常に」自分の手指を消毒するかどうかを尺度とした。心理学的因子として、行動計画、自己効力感の維持(maintenance self-efficacy)、および行動制御について、7 点リッカート尺度による評価を行った。主観的な環境因子として、人的および物的リソース、組織の問題、および病棟での協力について評価した。多重ロジスティック回帰分析を使用した。

結果
合計で、医師 307 名および看護師 348 名が本研究に参加した(回答率はそれぞれ 70.9%、63.4%)。自己報告による遵守には群間で差がなかった(72.4%対 69.4%、P = 0.405)。看護師による報告では行動計画、自己効力感、および行動制御がより強固であり、医師の回答では人的リソースおよび病棟での協力がより良好であった(P < 0.02)。医師では自己効力感(オッズ比[OR]1.4、P = 0.041)、行動制御(OR 1.8、P < 0.001)、および病棟での協力(OR 1.5、P = 0.036)と、手指衛生行動との間に正の関連がみられたが、看護師では行動制御(OR 1.6、P < 0.001)のみが手指衛生行動と正の関連を示した。

結論
行動制御(ガイドラインを規範とした行動評価を継続的かつ自動的に実施する自己制御戦略)と遵守との間に関連がみられたことは、手指衛生行動は自己モニタリングを必要とする習慣であることを示している。医師において病棟での協力の自覚が手指衛生行動と関連する唯一の環境因子であったことは、チームを標的とした介入が重要であることを明示している。

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監訳者コメント
文中にあるとおり、職種ごとに手指衛生を徹底する行動に意識の差があることは、これまでも指摘され、解析されてきた。ただし本研究では、心理学的行動変容理論を基礎に評価した点が興味深い。ドイツで行われた研究であるが、日本での現状と似通ったところがあるように感じられる。


監訳者注:
Hygienic hand disinfection:当サイト既報の監訳者注参照(Kramer A, et al. J Hosp Infec 2008;70(S1):35)。

フルオロキノロン制限(2007年から2012年)による腸内細菌科細菌の耐性への影響:分割時系列分析

Effects of fluoroquinolone restriction (from 2007 to 2012) on resistance in Enterobacteriaceae: interrupted time-series analysis

J.B. Sarma*, B. Marshall, V. Cleeve, D. Tate, T. Oswald, S. Woolfrey
*Northumbria Healthcare NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 68-73


背景
抗菌薬管理(antimicrobial stewardship;ASP)は、医療関連感染症の減少のための取り組みにおける主要な要素である。

目的
フルオロキノロン制限の実施について述べるとともに、その腸内細菌科細菌の耐性への影響を、基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌(Escherichia coli)(これまでは、ほとんどがフルオロキノロン耐性である)の尿分離株を中心に解析すること。

方法
2009 年 4 月から 2012 年 3 月に、重複のない連続した尿サンプルから回収した ESBL 産生大腸菌の病院分離株および市中分離株を対象として、Poisson 分布モデルに基づく分割時系列分析を実施した。フルオロキノロン制限の前後の期間で比較を行った。2009 年から 2013 年のすべての腸内細菌科細菌の尿分離株(1 年当たり約 20,000 株)および大腸菌の血液培養分離株(約 350 株)についても、フルオロキノロン耐性の動向を分析した。

結果
ESBL 産生大腸菌の尿分離株のシプロフロキサシン耐性率の大幅な低下が、病院環境(リスク比[RR]0.473、95%信頼区間[CI]0.315 ~ 0.712)および市中環境(RR 0.098、95%CI 0.062 ~ 0.157)のいずれにおいても認められた。耐性率の低下は、すべての腸内細菌科細菌の尿分離株および大腸菌の血液培養分離株でもみられた。

結論
フルオロキノロンの 100 病床日当たりの使用量を 1 日規定用量で 2 以下にまで減少させることによって選択圧が十分に除去され、4 か月という短期間で、耐性腸内細菌科細菌、特に ESBL 産生大腸菌の英国流行株のフルオロキノロン感受性が回復したと結論される。これに伴って、全般的な ESBL 負荷の減少も同時にみられた。

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監訳者コメント
フルオロキノロン系薬は静注よりも経口薬で使用されることが多いが、経口フルオロキノロン系薬に対する介入を行っている病院は日本では少ないだろう。
本論文はフルオロキノロン系薬の使用制限によってキノロン耐性のみならず、ESBL 産生大腸菌の分離率も減少したことを示している。また同じ号には同一著者によりフルオロキノロン系薬の使用制限による Clostridium difficile 感染症の減少が報告されている。これらの研究結果は日本における ASP の戦略に一石を投じるものといえよう。

フルオロキノロン制限(2007 年から 2012 年)によるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症への影響:分割時系列分析

Effects of fluoroquinolone restriction (from 2007 to 2012) on Clostridium difficile infections: interrupted time-series analysis

J.B. Sarma*, B. Marshall, V. Cleeve, D. Tate, T. Oswald, S. Woolfrey
*Northumbria Healthcare NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 74-80


背景
抗菌薬管理は、医療関連感染症、特にクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)の減少のための取り組みにおける主要な要素である。著者らは、セファロスポリン、次いでフルオロキノロンの使用制限に成功した。当施設の CDI 症例数は、2007 年から 2008 年は 1 年あたり 280 例を超えるという高い流行レベルにあったが、2011 年から 2012 年には 72 例にまで減少した。

目的
フルオロキノロン制限の実施、およびその CDI への影響について述べること。

方法
本研究は、60 か月間のフルオロキノロン制限の前後の Poisson 分布モデルに基づく分割時系列分析である。

結果
2008 年 6 月には、100 病床日当たりのフルオロキノロン使用量は 1 日規定用量(DDD)で約 5 へ半減した。これに続いて CDI 症例数は大幅に減少し(率比[RR]0.332、95%信頼区間[CI]0.240 ~ 0.460)、その後は症例数が少ない月が持続した。その後の 2010 年 6 月には、フルオロキノロン使用量はさらに 100 病床日当たり約 2 DDD まで減少し、これに伴って CDI 発生率もさらに低下した(RR 0.394、95%CI 0.199 ~ 0.781)。単変量 Poisson モデルでは、CDI 発生率はフルオロキノロンの使用と関連していた(RR 1.086、95%CI 1.077 ~ 1.094)。

結論
セファロスポリン使用量がすでに少ない環境において、さらにフルオロキノロン使用量を減少させることによって、CDI 症例数が迅速かつ大幅に有意に減少したと結論される。

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監訳者コメント
フルオロキノロン系薬は静注よりも経口薬で使用されることが多いが、経口フルオロキノロン系薬に対する介入を行っている病院では日本では少ないだろう。
Clostridium difficile 感染症のリスク因子としてはクリンダマイシンの使用が有名であるが、本論文はフルオロキノロン系薬の使用制限に伴う C. difficile 感染症の減少を示したものである。同じ号には同一著者によりフルオロキノロン系薬の使用制限によるキノロン耐性大腸菌および ESBL 産生大腸菌の減少が報告されている。これらの研究結果は日本における ASP の戦略に一石を投じるものといえよう。

直接的な個人的フィードバックが手指衛生技術に及ぼす影響の定量的評価

Quantitative impact of direct, personal feedback on hand hygiene technique

Á. Lehotsky*, L. Szil á gyi, T. Ferenci, L. Kov á cs, R. Pethes, G. Wé ber, T. Haidegger
*Semmelweis University, Hungary

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 81-84


本研究では、客観的、個人的、かつ定量的なフィードバックを提供する新規研修デバイスを用いて、手指衛生技術に対する効果を調査した。ハンガリーの病院 3 施設の医療従事者 136 名が、手指衛生技術の反復的評価に関する研究に参加した。紫外線ラベルを含有する擦式手指洗浄剤を各手指洗浄イベントで使用し、その後、紫外線照射下で手指のデジタル画像を撮影した。客観的な視覚的フィードバックを参加者に即時に提供し、手指上の洗浄されていない部分を提示した。不適切な手指洗浄の発生率は、50%から 15%へ低下した(P < 0.001)。しかし、この低下した発生率を維持するためには、電子機器の継続的な使用が必要であると考えられる。

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監訳者コメント
グリッターバグ®など、専用ローションと紫外線ライトを用いた手指衛生評価ツールを用いた手指衛生教育は、日本でも多くの医療施設で行われている。本研究はそういった手指衛生教育の効果について「状態遷移図(transition diagram)」や「一般化推定方程式(generalized estimation equation)」を用いて評価したものである。よく行われているプラクティスが、異なる領域の専門家とのコラボレーションによって「科学」に昇華され得る好例であるが、アブストラクトはシンプルに記載されているものの、本文は非専門家にとって理解するのは極めて困難である。

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