JHIサマリー日本語版トップ

レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

リソースが限られている医療施設の過密な環境での「私の手指衛生の 5 つのタイミング」の概念

The ‘My five moments for hand hygiene’ concept for the overcrowded setting in resource-limited healthcare systems

S. Salmon*, D. Pittet, H. Sax, M.L. McLaws
*UNSW, Australia

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 95-99


手指衛生は、医療関連感染症の予防を目的とした患者安全の中核的行動である。手指衛生実践を世界的に標準化するために、世界保健機関(WHO)は「医療現場における手指衛生ガイドライン(WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care)」を公表するとともに、手指衛生が必要な場面を明確化するために、医療従事者の手指によって微生物が伝播することのエビデンスベースのモデルに基づいて「私の手指衛生の 5 つのタイミング」の概念を導入した。この概念の中心にあるのは、医療環境を患者区域(patient zone)と診療区域(healthcare zone)という 2 つの空間的なケア区域に分けるというものであり、医療従事者に特定の手指衛生機会の遵守を求めている。リソースが限られた過密な医療環境では、病床同士の間隔が不十分であるか、全くない場合が多い。このような条件下では、医療従事者には患者区域を視覚化・明確化する能力が求められる。「私の手指衛生の 5 つのタイミング」の概念は、共用されている患者区域の不明確さを最小限にするため、および WHO ガイドラインが設定した最終的な目標、すなわち感染症リスクの低下を達成するために、手指衛生の教育者、監査者、および医療従事者を支援することを目的として、このような環境に適用されている。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
フィリピンやタイなどの発展途上国の一部の病院では患者数が非常に多く、1 つのベッドを 2 名の患者でシェアすることがある。WHO はこのような発展途上国においても可能な範囲で適切な感染対策が行われることを目標としている。本総説は D. Pittet ら WHO の「5 つのタイミング」の提唱者自身が、このような途上国における「5 つのタイミングの適用」について述べたものであり、「patient zone」を理解するのに、よい「頭の体操」になるだろう。

術前の除毛と手術部位感染症:ランダム化対照試験のネットワークメタアナリシス

Preoperative hair removal and surgical site infections: network meta-analysis of randomized controlled trials

A. Lefebvre*, P. Saliou, J.C. Lucet, O. Mimoz, O. Keita-Perse, B. Grandbastien, F. Bruyère, P. Boisrenoult, D. Lepelletier, L.S. Aho-Glélé on behalf of the French study group for the preoperative prevention of surgical site infections
*Service d’ épidémiologie et hygiène hospitalières, CHU de Dijon, France

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 100-108


術前の除毛は手術部位感染症(SSI)の予防のため、または体毛が切開部位の妨げになることを予防するために行われてきた。著者らの目的は、SSI 予防を目的とした除毛に関する公表されたランダム化対照試験の最新のメタアナリシスを行うこと、およびネットワークメタアナリシスにより直接的エビデンスと間接的エビデンスを統合し、化学的除毛とクリッピングの比較評価を行うことである。PubMed、ScienceDirect、および Cochrane のデータベースを用いて、同一の集団内で種々の除毛法と除毛を行わない場合の解析を実施しているランダム化対照試験を検索した。ペア解析およびネットワークメタアナリシスを実施した。選択した各論文における研究の限界について、2 名の独立した評価者が Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)法に基づき評価した。19 件の研究が組み入れ基準に合致した。クリッピングと化学的除毛を比較した研究はなかった。剃毛を基準としたネットワークメタアナリシスからは、クリッピング(相対リスク[RR]0.55、95%信頼区間[CI]0.38 ~ 0.79)、化学的除毛(RR 0.60、95%CI 0.36 ~ 0.97)、または除毛なし(RR 0.56、95%CI 0.34 ~ 0.96)は SSI が有意に少ないことが示された。除毛なしと、化学的除毛(RR 1.05、95%CI 0.55 ~ 2.00)またはクリッピング(RR 0.97、95%CI 0.51 ~ 1.82)との間、または化学的除毛とクリッピングとの間(RR 1.09、95%CI 0.59 ~ 2.01)には有意差は認められなかった。19 件のランダム化対照試験を対象とした本メタアナリシスにより、除毛には SSI 予防に関する有益性は認められないこと、および剃毛による除毛は SSI リスクが高いことが確認された。化学的除毛とクリッピングの比較評価が行われたのは初めてであり、SSI リスクは両法で同等と考えられた。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
近年、SSI 予防における除毛とその方法に関する研究が増えてきているが、本論文はそれらのメタアナリシスである。その結果からは剃毛は SSI のリスクが高いこと、そして化学的除毛とクリッピング、そして除毛なしの 3 群では SSI のリスクに有意差がないことが示されている。もはや剃毛を行っている病院はかなり少なくなってきていると思われるが、剃毛を廃止し、さらに手術手技的に必要のない除毛は不要であることを主張するためによい論文ではないだろうか。

監訳者注:
Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)法:Guyatt GH らの論文(J Clin Epidemiol 2011;64:407)参照。

血液培養の汚染率

Blood culture contamination rates

Susan Dawson*
*Great Western Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 109-110


No abstract.

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本論文は JHI に掲載された血液培養の汚染率を低下させるための取り組みに関する Park WB らの論文についてのコメンタリー(論評)である。Park らは内科研修医がローテーションを始める前に血液培養に関するオリエンテーションを行うことによって、血液培養の汚染率が低下したことを報告した。血液培養に限らず、院内感染対策における教育の重要性を再確認できる研究および論評である。

血液培養汚染の減少のための効果的なステップとしての教育的介入:前向きコホート研究

Educational intervention as an effective step for reducing blood culture contamination: a prospective cohort study

W.B. Park*, S.J. Myung, M.-d. Oh, J. Lee, N.-J. Kim, E.-C. Kim, J.S. Park
*Seoul National University Hospital, Republic of Korea

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 111-116


背景
血液培養汚染は診断の障害となり、医療サービスに負担をもたらしている。

目的
医師資格試験の一環として臨床能力試験を導入することの影響、および施設内教育プログラムが血液培養汚染率に及ぼす影響を明らかにすること。

方法
3 次教育病院 1 施設の全病棟で、2009 年から 2013 年に前向きコホート研究を実施した。2010 年の韓国医師国家試験(KMLE)に追加された臨床能力試験、および 2013 年に開始した当院の施設内教育プログラムの影響を評価した。培養用血液採取を行っている内科インターンを、臨床能力試験および施設内教育プログラムの有無によって 3 群に分けた。主要評価項目は各群の血液培養汚染率とし、Poisson 回帰モデルによりこれらを比較した。採血手順に関する参加者の自己評価スコアについても分析を行った。

結果
KMLE に臨床能力試験を導入することによって血液培養汚染率は低下しなかったが(1.36%対 1.35%、P = 0.734)、施設内教育プログラムにより汚染率は有意に低下した(1.35%対 1.00%、P < 0.0001)。ほとんどの参加者は、皮膚消毒薬の使用後に、推奨されている接触時間を待つことを除いて、各ステップに常に正しく従ったと回答した。

結論
教育的介入は全体的な汚染率低下に有効であったが、KMLE への臨床能力試験の導入は有効ではなかった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
KMLE(国家試験時)の「血液培養採取テスト」はあくまで試験上のもので、実際のトレーニングとは異なる。したがって、参加者の姿勢はおのずと試験合格であり、実地臨床での教育トレーニングとは結果が異なることは当然の結果といえる。本論文においては論じられていないが、成人教育における基本が推測される。特に、消毒剤塗布後の穿刺までの時間(1.5 分から 2 分)は十分な消毒効果と汚染率低減上、極めて重要であるが、そのことの教育が KMLE 前の参加者に理解されておらず、試験合格が目標になった可能性がある。成人の教育において、practical(実践的)、motivation(動機が必要)、automonous(自律的学習)、relevancy(仕事との関連性が必要)、goal-oriented(目的・目標が明確)、experience(自己の経験に即して)が重要とされており、KMLE における教育において、すべての 6 つの要素が欠けていた可能性がある。一方で、施設でのトレーニングは医師国家試験に合格後の研修医トレーニングであり、これらの要素が満たされていたことが、汚染率低減につながったと推測される。

フランスの急性期病院における再発の影響を含むクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の病院費用

Hospital cost of Clostridium difficile infection including the contribution of recurrences in French acute-care hospitals

A. Le Monnier*, A. Duburcq, J.-R. Zahar, S. Corvec, T. Guillard, V. Cattoir, P.-L. Woerther, V. Fihman, V. Lalande, H. Jacquier, A. Mizrahi, E. Farfour, P. Morand, G. Marcadé, S. Coulomb, E. Torreton, F. Fagnani, F. Barbut on behalf of the GMC study Groupy
*GH Paris Saint-Joseph, France

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 117-122


背景
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)の医療費への影響は、それに伴う入院患者のケアの超過費用のために甚大なものとなる。しかし、再発の影響に焦点を当てた研究はこれまでほとんどない。

目的
本研究の目的は、フランスの急性期病院の CDI による病院費用、および再発に起因する費用の割合を推計することである。

方法
12 の大規模急性期病院のサンプルに基づき、2011 年に後向き研究を実施した。CDI の費用を病院の視点と公的保険の視点の両方から推計した。CDI による追加費用の推計にあたっては、それぞれの入院ごとに、全国 DRG(diagnosis-related group;診断群)データベースから抽出した、DRG、年齢、および性別をマッチさせた CDI がない対照との比較を行った。CDI が主診断である場合は入院の総費用を使用した。

結果
微生物学的に確認された CDI 症例 1,067 例を特定し、重複のない 906 例が合計 979 件の入院をしていた。これらの入院のうち 118 件(12%)は再発例であることが確認され(複数回の再発もあり)、その 51.7%は初発エピソードと同一の入院で発生していた。それら(初発 + 再発)の平均入院期間は 63.8 日、初発エピソードのみの場合は 25.1 日であった。CDI による入院 1 件あたりの平均超過費用推計値は 9,575 ユーロ(中央値 7,514 ユーロ)であった。公立急性期病院における全国レベルでの CDI による超過費用は 1 億 6310 万ユーロと推計され、このうち 12.5%は再発に起因するものであった。

結論
フランスでは CDI による経済的負担は甚大であり、医療制度に直接的な影響を及ぼしている。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
近年、CDI は EU 諸国では強毒株 BI/NAP/01 が主流であり、フランスでも発生率は患者 10,000 人あたり 2.2(2009 年)から 3.6(2012 年)と増加している。CDI 発生にかかわる費用は在院日数の増加、再入院、検査コスト、治療にかかる費用として考えられる。今回は、CDI の発生とその再発による超過費用が莫大であることが証明され、感染予防対策と再発予防の重要性を再確認することとなった。

毒素産生性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)検出アルゴリズムのための病院レベルの費用対効果分析モデル

A hospital-level cost-effectiveness analysis model for toxigenic Clostridium difficile detection algorithms

E. Verhoye*, P. Vandecandelaere, H. De Beenhouwer, G. Coppens, R. Cartuyvels, A. Van den Abeele, J. Frans, W. Laffut on behalf of the Bilulu Study Group
*Onze-Lieve-Vrouw Hospital, Belgium

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 123-128


背景
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)検査および検査アルゴリズムの分析性能の詳細な解析は行われているが、病院レベルでの経済的影響については十分に報告されていない。そのようなモデルでは、発生率、要求行動(request behaviour)、および感染制御方針などの、施設に固有の変数を組み入れるべきである。

目的
種々の検査アルゴリズムでの総病院費用を算出すること。さらに、毒素産生株感染患者が隔離されていなかったために新規または二次院内感染リスクが生じた日数を算出した。

方法
フランドル地方の病院の検査室 7 施設(Bilulu Microbiology Study Group)のデータ(検査件数、施設の有病率、および病院の衛生策)を用いて、上述の変数を収集するための数学アルゴリズムを作成した。評価対象とした検査法の感度および特異度のデータを文献から得た。検査法のリスト価格および費用は製造者または施設が提供した。費用の算出にあたっては、試薬の費用、人件費、ならびに必要・不必要な隔離および抗菌薬療法による経済的負担を含めた。5 種類の検査アルゴリズムを比較した。

結果および結論
動的計算モデルを作成し、施設特異的および時間依存的な入力変数(有病率、費用の変動、および検査性能)のセットに対する各アルゴリズムの費用対効果比を評価し、その条件における最も有利なアルゴリズムが選択できるようにした。グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)および毒素の同時検査の後に迅速遺伝子増幅検査を実施する 2 段階の検査アルゴリズムが、最も費用対効果が良好なアルゴリズムであることが示された。この方法では、サンプル到着当日にほぼ全症例への対応が可能であり、不必要な隔離や隔離の不実行が最も少なくなる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
CDI の診断には、現在 GDH と毒素 A/B の検出が迅速検査として利用され、陰性例に対して培養が追加されているが、CD の培養には特殊な処理と培地を使用し、結果判明まで 5 日間程度かかる。迅速検査が偽陽性なら不要な隔離延長を、偽陰性なら必要な隔離遅延という結果をもたらし、効果的な感染対策を実施するうえで CDI の診断は重要である。本論文では、迅速検査や培養以外に、GeneXpert による迅速遺伝子増幅検査を迅速検査と同時に実施するアルゴリズムを作成し、これらを比較した結果、迅速検査に培養検査を併用するよりも、迅速遺伝子増幅検査を追加したほうが、結果を検体提出当日に返却することができ、費用対効果の面で優れているとしている。日本では GDH と毒素 A/B の同時迅速キットが広く使用され、GDH 陰性の場合は培養が実施され、CD 陽性であればさらに毒素産生検査が実施されるのが一般的であるが、培養が必要であり、培養結果報告の遅延が治療への貢献度を下げている可能性が否定できない。GeneXpert とその CD 検出試薬は、日本でも販売されているが研究段階であり、その簡便性や感度・特異度からは今後、有用なCDI迅速診断検査として期待される。

新生児黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌血症に対する抗菌薬療法の期間と合併症予防

Antibiotic treatment duration and prevention of complications in neonatal Staphylococcus aureus bacteraemia

S. Kempley*, O. Kapellou, A. McWilliams, J. Banerjee, A. McCorqodale, M. Millar
*Queen Mary University of London, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 129-135


背景
成人においては、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌血症に対し適切な抗菌薬が投与されても、その治療期間が短ければ、合併症および再発のリスクが上がってしまう。一方、新生児での至適な治療期間については不明であり、実臨床でのばらつきも大きい。

目的
新生児黄色ブドウ球菌菌血症における治療期間と、合併症および再発の予防との関連を評価すること。

方法
大規模 3 次新生児室 2 室で 10 年間に発生した黄色ブドウ球菌菌血症の確定診断例を対象とした後向きコホート研究。出生から新生児室退室までに黄色ブドウ球菌菌血症の確定診断を受けた新生児を、微生物検査記録から特定した。患者基本情報、抗菌薬投与期間、転帰などの詳細な臨床データをカルテから入手した。再発は検査結果と臨床状況により判断した。不良な転帰と抗菌薬療法の期間との関連を評価した。

結果
合計 90 例の新生児が黄色ブドウ球菌菌血症を発症しており、このうち 6 例(7%)がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)であった。在胎週数中央値は 27 週(範囲 23 ~ 41 週)、出生体重中央値は 846 g(範囲 434 ~ 3,840 g)、および生後日数中央値は 16 日(範囲 0 ~ 116 日)であった。44%は転帰が不良であり、死亡率は8%であった。適切な抗菌薬療法の期間中央値は 19 日(範囲 0 ~ 54 日)であった。抗菌薬終了後の菌血症の再発例はなかった。抗菌薬療法の期間と合併症との間に関連はみられなかった。

結論
新生児における黄色ブドウ球菌菌血症は主として早産児に認められ、罹患率、死亡率ともに高かった。菌血症の再発は、治療期間にかかわらずまれであった。新生児の黄色ブドウ球菌菌血症例で合併症がない場合、再発予防を顧慮した抗菌薬の投与期間は 14 日で十分であると考えられる。ただし感染源のコントロールが不十分な場合は、より長期の治療が必要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
後向きコホート研究ではあるが、新生児の黄色ブドウ球菌菌血症の治療期間について、本研究で得られた知見は興味深い。治療期間別に分けた前向き試験は行いにくくもある。この成績が新生児そのものの特性によるものか、菌側の因子によるものか、今後の追試に注意したい。

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌血症に関連する特定の系統に特徴的な遺伝子変異の同定

Identification of genetic variation exclusive to specific lineages associated with Staphylococcus aureus bacteraemia

D. Patel*, M.J. Ellington, R. Hope, R. Reynolds, C. Arnold, M. Desai
*Public Health England, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 136-145


背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)菌血症の症例は 2003 年以降減少しており、ほとんどは E15(MLST clonal complex CC22)および E16(CC30)の 2 種類の流行株に起因している。一方、メチシリン感性黄色ブドウ球菌(meticillin-susceptible S. aureus;MSSA)菌血症の発生率は概ね不変であり、これらの分離株に関する知識は依然として不十分である。

目的
流行している系統間で不均一性がみられる遺伝子領域の分布およびヌクレオチド配列を、2009 年に British Society for Antimicrobial Chemotherapy(BSAC)の Bacteraemia Resistance Surveillance Programme が収集した黄色ブドウ球菌の臨床分離株を用いて調査すること。

方法
MRSA 103 株および MSSA 99 株の合計 202 株の黄色ブドウ球菌分離株を蛍光増幅断片長多型(FAFLP)を用いて分析し、系統に特異的な配列モチーフおよび系統間の可動性遺伝因子の分布の相違に基づいて、ヌクレオチド変異を検出した。

結果
MRSA E15 および E16 株は、2009 年の分離株のそれぞれ 79%および 6%を占めていた。CC22 と CC30 を含む 6 種類の系統が、英国・アイルランドにおける MRSA 菌血症と関連していた。MSSA 分離株は多様性が大きく、19 種類の系統が検出された。FAFLP により、プロテアーゼやヘム生合成に関与する因子をコードする遺伝子座に、その系統に特異的な配列の変異が検出された。これらの因子はいずれも、メジャーな系統の流行に影響を及ぼすと考えられるものである。ある種の可動性遺伝因子がコードしている蛋白質、またはコバラミン生合成に関与する蛋白質が、CC8、CC22、CC30 に特異的に認められた。

結論
全体として、コアゲノム領域および可動性遺伝因子の遺伝的多様性によって、抗菌薬耐性が異なったり、流行と関連する病原因子や適合性因子の産生性が違ってくる可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本研究は、「ある流行株はどうして流行を起こしているのか」という問いに関して、微生物側からの解明を試みた研究といえる。今回の検討によって得られた結果は興味深いが、その背景に、菌のプロファイルは非常にバリエーションに富んでおり、複合的な因子が関連していることを垣間見ることができる。より精密な解析によって、各遺伝子の作用と相関に関する知見が集積され、総合的な理解が進むことに期待したい。

英国における医療用デバイスおよび処置による菌血症・真菌血症の入院患者の転帰

Outcomes in consecutive hospitalized UK patients with bacteraemia or fungaemia caused by medical devices and procedures

M. Melzer*, D. Wickramasinghe, C. Welch
*Barts Health NHS Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 146-152


背景
入院患者に生じた医療用デバイス・処置に起因する菌血症・真菌血症の転帰については、データは乏しく、不足してもいる。

目的
医療用デバイスまたは処置に起因する菌血症・真菌血症と死亡との関連を明らかにすること。

方法
2012 年 12 月から 2013 年 11 月に、菌血症・真菌血症入院患者の基本データ、および臨床的・微生物学的データを連続的に収集した。一般化推定方程式を用いた多変量解析を行って関連を明らかにした。

結果
患者 500 例に合計 594 件の菌血症・真菌血症エピソードが発生した。医療用デバイスまたは処置に起因するエピソードがみられた患者の 7 日死亡率は 167 件中 7 例(4.2%、95%信頼区間[CI]1.7% ~ 8.4%)、30 日死亡率は 167 件中 12 例(7.2%、95%CI 3.8% ~ 12.2%)であった。補正を行った後の、医療用デバイス・処置に関連する菌血症・真菌血症エピソードと死亡との関連は有意ではなく、7 日死亡のオッズ比(OR)は 2.86(95%CI 0.80 ~ 10.12)、30 日死亡の OR は 1.72(95%CI 0.71 ~ 4.16)であった。大腸菌(Escherichia coli)菌血症と黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌血症の 30 日死亡率には、有意に近い差が認められた(47 件中 6 例[12.8%、95%CI 4.8% ~ 25.7%]対 24 件中 0 例、P = 0.067)。菌血症・真菌血症に関連する 30 日死亡率は、カテーテル関連尿路感染症(多くは大腸菌関連)患者のほうが血管内デバイス関連感染症(多くは黄色ブドウ球菌関連)患者と比較して有意に高かった(51 件中 4 例[7.8%、95%CI 2.2% ~ 18.8%]対 62 件中 1 例[1.6%、95%CI 0.0% ~ 8.7%]、P = 0.028)。

結論
医療用デバイス・処置に関連する大腸菌菌血症を予防するために、特別な配慮が必要である。尿道カテーテルに起因する感染症の予防には、さらに注意を払うべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本研究の 594 件の菌血症・真菌血症エピソードのうち、医療用デバイス・処置に関連していたものは 211 件(36%)であった。しかも大腸菌菌血症が黄色ブドウ球菌菌血症よりも多く認められており、大腸菌菌血症の内訳も尿路・胆道・消化管・生殖器のみならず、中心静脈カテーテル関連由来など多彩であった。本邦と比較して非常に興味深い。

非侵襲的人工呼吸患者における院内肺炎:発生率、特性、および転帰

Nosocomial pneumonia in non-invasive ventilation patients: incidence, characteristics, and outcomes

Zuli Zhang*, Jun Duan
*First Affiliated Hospital of Chongqing Medical University, China

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 153-157


背景
非侵襲的人工呼吸患者には、しばしば院内肺炎が発生する。

目的
非侵襲的人工呼吸患者の院内肺炎の発生率、特性、および転帰について報告すること。

方法
呼吸器集中治療室(ICU)で前向き観察研究を実施した。入室後に非侵襲的人工呼吸を 48 時間を超えて実施した患者を登録した。非侵襲的人工呼吸開始から 48 時間以上後に発生した肺炎を院内肺炎とした。

結果
2012 年1 月から 2014 年 8 月に非侵襲的人工呼吸患者 520 例を登録した。院内肺炎は 16 例(3.1%)に発生した。1,000 非侵襲的人工呼吸日あたりの院内肺炎発生率は 4.5 件であった。最も多くみられた病原体はアシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)(81%)であった。非侵襲的人工呼吸開始時の患者の年齢、性別、診断、疾患重症度、動脈血液ガス所見には、院内肺炎の有無による相違は認められなかった。院内肺炎患者は、院内肺炎のない患者と比較して非侵襲的人工呼吸実施期間が長く(8.4 日対 5.0 日、P < 0.01)、ICU 入室期間が長く(10.8 日対 7.9 日、P = 0.01)、入院日数が長く(25.9 日対 15.3 日、P = 0.04)、挿管率が高く(63%対 21%、P < 0.01)、院内死亡率が高かった(75%対 25%、P < 0.01)。院内肺炎は、挿管(オッズ比[OR]6.74、95%信頼区間[CI]2.24 ~ 20.28)および死亡(OR 7.65、95%CI 1.34 ~ 43.72)の独立リスク因子であった。

結論
この集団の非侵襲的人工呼吸患者の院内肺炎発生率は 3.1%であった。院内肺炎により、非侵襲的人工呼吸を必要とする期間、ICU 入室期間、および入院日数が延長し、挿管率および院内死亡率が上昇した。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
一般に、非侵襲的人工呼吸は侵襲性人工呼吸器使用に比べ、肺炎発生率が低いとされている。この論文でも、侵襲性人工呼吸器使用時の肺炎の発生率(9% ~ 27%)よりは低かったとしているが、それでもリスクであることが明らかになった。ただし、筆者らは、今調査中にアシネトバクターのアウトブレイクが発生していた可能性があり、それにより院内肺炎の発生率が高くなった可能性があるとしている。単施設での研究の評価の難しいところである。

米国退役軍人省の脊髄損傷センターの職員におけるインフルエンザワクチン接種率向上のための拒否申請書プログラムの実践:パイロット研究

Implementing a declination form programme to improve influenza vaccine uptake by staff in Department of Veterans Affairs spinal cord injury centres: a pilot study

J.N. Hill*, B.M. Smith, C.T. Evans, H. Anaya, B. Goldstein, S.L. LaVela
*Edward Hines Jr VA Hospital, IL, USA

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 158-165


背景
脊髄に損傷または障害がある場合はインフルエンザ発症後の呼吸器およびインフルエンザ関連合併症のリスクが高い。これらの人は医療制度の利用頻度が高いことが多い。米国退役軍人省の脊髄損傷センターの医療従事者のワクチン接種率は、この数年間は約 50%である。脊髄損傷センターの医療従事者のワクチン接種率向上のための取り組みが必要である。拒否申請書プログラムとその他の戦略の併用により、医療従事者のインフルエンザワクチン接種率は有意に向上している。

目的
施設内チームや合意形成プロセスなどの内外のプロジェクト活動支援(ファシリテーション)を活用して、拒否申請書プログラムを米国退役軍人省の脊髄損傷センター 2 施設で試験的に実施すること、およびプログラム導入に影響を及ぼす因子を評価すること。

方法
施設の管理者とプログラム導入チーム員を交えてプログラム導入会議および合意形成プロセスを実施し、さらに導入後にプログラム導入チームの各員(7 名)に対して半構造化面接を行った。

結果
拒否申請書プログラムの受容は良好であり、利用は容易であった。管理者は拒否申請書プログラム導入のための重要な推進者(ファシリテーター)であった。障壁は早番/遅番勤務の医療従事者とのコミュニケーションが困難であることなどであった。申請書提出率は施設 1 が 100%、施設 2 では 48%であった。

結論
拒否申請書プログラム導入戦略を明らかにするための施設内チームおよび合意形成の活用は、中等度から高度のプログラム参加レベルを達成するには実施可能かつ有効である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本論文で実施された半構造化面接は、標準化された質問紙に沿ってインタビューを進めるが、回答により、さらに深く尋ねていくことができるインタビュー手法である。参加者 7 人に対する質問の回答を用いた質的研究であり、結果の判断は難しいが、勤務体系やコミュニケーションが障害となるというのは、理解できるところであった。

接触頻度が高い病院表面の「清浄度」の評価のための質管理ツールとしてのアデノシン三リン酸(ATP)法

The adenosine triphosphate method as a quality control tool to assess ‘cleanliness’ of frequently touched hospital surfaces

L. Knape*, A. Hambraeus, B. Lytsy
*Uppsala University/County Council of Gävleborg, Sweden

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 166-170


背景
スウェーデンの病院では、清掃請負業者を決定する際に求められる清掃仕様書の中で、視認評価を補うための質管理方法としてアデノシン三リン酸(ATP)法が広く採用されている。

目的
患者に近接する接触頻度が高い表面上の ATP 法で測定した生物学的負荷量が介入後に減少したかどうかを調査すること、同一表面上の視認評価と ATP 値との相関を評価すること、および病院の清浄度評価ツールとしての ATP 法の性能を明らかにすること。

方法
中部スウェーデンの地域病院の内科病棟および集中治療室(ICU)で、2012 年から 2013 年にかけて 3 期からなる前向き介入研究を実施した。従来の清掃手順を明確化し、病室の接触頻度が高い表面 10 か所を対象として、介入前後に視認検査および ATP 測定を行った。介入の内容は、看護職員に対する病院清掃の重要性に関する教育、および清掃前後の ATP 値の直接的なフィードバックとした。

結果
混合モデルにより、ATP 値は介入後に有意に減少したことが示された(P < 0.001)。相対発光量(RLU)は ICU のほうが低かった。視認評価により判定した清浄度は改善した。ロジスティック回帰分析により、視認評価と ATP 値との間に有意な関連が認められた。

結論
ATP 値の直接的なフィードバックと、教育および文書による清掃プロトコール導入の併用は、清浄度改善のための有効なツールであった。視認評価と ATP 値との間に関連がみられたが、相関は強固ではなかった。ATP 法は職員の教育ツールとなり得るが、広いエリアの限られた部分を対象としたものであるため、病院全体の清浄度を評価するためには十分なものではない。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
スウェーデンの 76 床の単施設での研究である。介入開始前は、病室の掃除に関するマニュアルはなく、特に教育も受けていなかった。フィードバックとして視認法と ATP 法の評価をしているが、いずれにしても、マニュアルを作成し、スタッフに教育を行ったことが清浄度改善に最も寄与したのではないだろうか。

サルモネラ・ハダー(Salmonella hadar)の歴史的アウトブレイク

Historical outbreak of Salmonella hadar

A. Deshpande*, E.T. Curran, S. Jamdar, T. Inkster, B.L. Jones
*Southern General Hospital, Glasgow, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 171-175


背景
本稿では、産科におけるサルモネラ・ハダー(Salmonella hadar)の歴史的アウトブレイクについて報告する。感染初発患者の入院後にアウトブレイクが発生し、3 か月間にわたって周産期母子部門の他の 11 例への伝播が生じた。

結果
診療法の厳格な評価、患者および職員のスクリーニング、消毒・滅菌方針の再検討にもかかわらず、アウトブレイクの制御は困難であった。このことは、当環境で十分に生残するとともに、長期的かつ無症状の保菌を引き起こし、間欠的な排菌を伴うという S. hadar の能力を示すものであると考えられる。

考察
初発症例は、疑わしい食品の摂取後に感染した母親であった可能性が高い。さらに、デジタル直腸体温計の潤滑用に黄色ワセリンのチューブを共用したために、感染が長期化したと考えられる。

結論
今回のアウトブレイクは、産科/新生児部門での S. hadar 感染のアウトブレイク制御は困難であること、また下痢症状を有するすべての患者を対象とした早期の便サンプル採取が重要であることを強く示している。

サマリー原文(英語)はこちら

便検体中ノロウイルス検出用の5種類の市販の免疫クロマトグラフィー検査の比較

Comparison of five commercially available immunochromatographic tests for the detection of norovirus in faecal specimens

K. Vyas*, C. Atkinson, D.A. Clark, D. Irish
*Royal Free London NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 176-178


CE マークが付与された 5 種類のノロウイルス迅速検出用免疫クロマトグラフィーキットを、急性ノロウイルス感染検出用のリアルタイム PCR 法を基準法として比較評価した。本法のリアルタイム PCR 法と比較した感度は 23%から 59%の範囲、特異度は 75%から 100%の範囲であった。これらのデータから、免疫クロマトグラフィー法で陽性の場合はノロウイルス感染を示していることが示唆される。しかし、本法を日常的な診断に適したものとするためには、また臨床検査室での迅速診断検査の代替法とするためには、感度を大幅に向上させる必要がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
CE マークは、EU が定めている基準を満たす製品につけられるマークである。この CE マークがついたノロウイルス診断キットを rRT-PCR の結果と比較した研究である。実際の利用現場では、食事や周囲の発症などの疫学情報に基づき、治療や感染対策が行われるが、それにしても感受性の低さが気になった。

サイト内検索

Loading

アーカイブ

最新のコンテンツ

Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.