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行動変容の心理学的枠組みの適用による医療従事者の手指衛生改善:システマティックレビュー

Applying psychological frameworks of behaviour change to improve healthcare worker hand hygiene: a systematic review

J.A. Srigley*, K. Corace, D.P. Hargadon, D. Yu, T. MacDonald, L. Fabrigar, G. Garber
*Public Health Ontario, Canada

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 202-210


背景
医療関連感染症の伝播予防には手指衛生が重要であるにもかかわらず、その遵守率は不十分である。手指衛生は複合的な行動であり、また医療従事者の行動に影響を及ぼすツールとして心理学的枠組みは有望である。

目的
(i)医療従事者の手指衛生遵守の改善を目的とした、行動変容の心理学的理論に基づく介入の効果をレビューすること、(ii)医療従事者の手指衛生遵守を予測するために用いられている枠組みを明らかにすること。

方法
複数のデータベースおよび当該研究の引用文献リストから、医療従事者の手指衛生を改善または予測するために心理学的理論が用いられている研究を検索した。2 名の評価者が、選択、データ抽出、および質の評価の全段階を独立して実施した。

結果
検索により 918 件の文献が特定され、このうち 7 件が適格基準に合致した。4 件の研究は、心理学的枠組みによる手指衛生介入を評価していた。介入は、目標設定、制御理論、オペラント学習、陽性強化、変容理論、予定行動理論、多理論統合モデルなどに基づくものであった。3 件の行動予測に関する研究は、予定行動理論、多理論統合モデル、および理論的ドメイン・フレームワークを採用していた。手指衛生遵守改善のための介入は有効であることが示されていたが、研究のバイアスは中等度から高リスクであった。多くの研究では、介入の特性に行動変容理論がどのようにかかわっているかについては明確ではなかった。行動予測に関する研究の結果は一致しなかった。

結論
行動変容理論は手指衛生改善のための有望なツールであるが、これらの理論は十全な検討は行われていない。本総説からは文献には大きな乖離がみられることが明らかとなり、新たな研究の方向性が示唆された。

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監訳者コメント
これまで多くの手指衛生改善のための研究がなされてきているが、ケア場面への手洗い製剤・手指消毒剤の配置、教育と訓練、注意喚起、病院管理側の支援、手洗い・手指消毒遵守率の測定などの多面的アプローチが主体であって、劇的あるいは持続的な改善は十分に得られていない。手指衛生行動は様々なプラス因子とマイナス因子が絡み合う複雑なものであり、心理学的なアプローチが必要とされている。しかしながら。これまで行動変容のための心理学的理論を論文中に明確に記載し、利用しているものはわずかであった。本レビューでは手洗い・手指消毒を適切に実施できるように職員の行動変容をもたらすための心理学的アプローチの可能性に言及するとともに、今後の研究の必要性を強調している。

病室の前利用者からの病原菌獲得リスク:システマティックレビューおよびメタアナリシス★★

Risk of organism acquisition from prior room occupants: a systematic review and meta-analysis

B.G. Mitchell*, S.J. Dancer, M. Anderson, E. Dehn
*Avondale College of Higher Education, Australia

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 211-217


以前の病室利用に伴う患者の病原菌獲得リスクを明らかにするために、システマティックレビューおよびメタアナリシスを実施した。また分析を拡大し、グラム陽性菌とグラム陰性菌の獲得リスクの相違についても調査を行った。Medline/PubMed、Cochrane、CINHAL を用いた検索により、1984 年から 2014 年の 2,577 件の文献を特定した。本レビューは international prospective register of systematic reviews(PROSPERO)に従って評価を行った。以下の組み入れ基準に合致した文献は 7 件であった。(a)ピアレビュー論文、(b)病原菌の保菌率の報告、(c)英文で執筆された論文、および(d)Newcastle-Ottawa Scale(NOS)※※に基づくバイアスリスクが極小またはなし。1 件は既報の研究の続報であったため除外した。研究間で (NOS)※※ の相違はほとんど認められず、5 件が星 8 つ、2 件が星 7 つの評価を得た。全体で、評価対象とした病原菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[meticillin-resistant Staphylococcus aureus]、バンコマイシン耐性腸球菌、クロストリジウム・ディフィシル[Clostridium difficile]、アシネトバクター[Acinetobacter]属菌、基質特異性拡張型 β-ラクタマーゼ産生大腸菌群、シュードモナス[Pseudomonas]属菌)獲得の統合オッズ比は 2.14(95%信頼区間[CI]1.65 ~ 2.77)であった。グラム陽性菌とグラム陰性菌のデータの比較では、獲得の統合オッズ比はグラム陰性菌 2.65(95%CI 2.02 ~ 3.47)、グラム陽性菌 1.89(95%CI 1.62 ~ 2.21)であった。現行の実践では獲得リスクが十分に低下していないため、これらの結果は感染制御専門家、環境清掃サービス業者、および患者にとって重要な意味がある。予防不可能な獲得源が存在する可能性はあるものの、このリスクを最小限にするためにはあらゆる関係職員が協力して実践を改善する必要がある。

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監訳者コメント
何らかの細菌が検出された患者が退院した病室に、次の患者が入室した場合に、前入室患者と同じ細菌に感染するリスクがどの程度あるのかを過去の複数文献について解析した論文であるが、結論は「前入室患者が病原菌に感染しているとその後に入院した患者の感染するリスクは約 2 倍になる」である。そして、ESBL 産生大腸菌を含め細菌の種類にかかわらず感染リスクが高いことも重要であり、患者退室後の最終清掃について見直しが必要であることを提示している。これらの菌は環境で長期間生存し、感染リスクをもっており、これまでの清掃方法に限界があることも示唆している。欧米では、耐性菌あるいはディフィシル菌の制御に関して、通常の消毒剤による清拭清掃ではアウトブレイクを抑えきれず、紫外線やオゾン等の新たな器具による病室内殺菌あるいは酸化チタンなどの環境表面処理の有効性が議論されていることも、この結果から頷ける。

監訳者注:
PROSPERO:医療や介護のケアの分野において、前向きに登録されたシステマティックレビューの国際的データベス。システマティックレビューを包括的に登録することで、新たなレビューでのプロトコールの重複を避け、報告されたレビューのプロトコールの比較が可能になることで、研究過程の透明性を確保している。英国ヨーク大学にあり、複数の政府機関から資金援助を受けている(http://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/)。
※※Newcastle-Ottawa Scale(NOS)※※:コクラン共同作業により推奨された、観察研究におけるリスクバイアス評価ツール。妥当性と信頼性は確立されており、最高点は星 9 つである。

バイオフィルムは病院表面の「エンバイロメントーム」が生命体で満ちていることを意味する

Biofilms mean that the ‘environmentome’ of hospital surfaces is teeming with life

J.A. Otter*
*Imperial College Healthcare NHS Trust, London, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 218-219


No abstract.

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監訳者コメント
本稿は、「ICU の環境表面は、バイオフィルム内に存在する複数の細菌(特に多剤耐性菌)によって汚染されている」と報告した Hu. H らの論文(J Hosp Infect 2015;91:35)に対するコメントである。遊離塩素溶液を用いた二段階の清掃・消毒後に採取したにもかかわらず検出されたこと、しかも 12 か月経過しても生菌であったことは、非常に興味深い結果であった。ここで用いられた「エンバイロメントーム」解析では、我々になじみのない様々な菌が、それぞれのニッチをもってマットレスや枕、床などに存在していることが明らかになった。この解析手法にはまだ改善の余地があるものの、乾燥した環境表面から検出可能であったことは、従来の清掃・消毒法に限界があったことに合致しているし、より重要なこととして、「バイオフィルムは病院内の乾燥した環境表面に高頻度に存在する」という認識をもつ必要性を訴えている。

監訳者注:
エンバイロメントーム(environmentome):環境中の微生物叢。

スウェーデンの病院における医療関連感染症の 2008 年から 2014 年の点有病率サーベイランス:手法の説明および結果の信頼性

Point-prevalence surveillance of healthcare-associated infections in Swedish hospitals, 2008-2014. Description of the method and reliability of results

A. Tammelin*, I. Qvarfordt
*Karolinska Institutet, Sweden

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 220-224


背景
Swedish Association of Local Authorities and Regions(SALAR)は 2007 年、入院患者の医療関連感染症(HCAI)の全国的な点有病率サーベイランス制度を確立することを決定した。サーベイランスは 2008 年に開始し、その後は 1 年に 2 回(4 月および 10 月)実施されている。HCAI の文書の作成は、各病棟の常勤医師および看護師が口頭および文書による指示により行う。スウェーデンの全公営病院(全病院の 95%を超える)が対象となる(2008 年 25,862 床、2013 年 24,905 床)。各回の調査で全入院患者の 88%から 92%が対象となっている。全体の HCAI 有病率(精神科入院患者を含む)は 7.8%から 10.0%の範囲である。

目的
SALAR は 2012 年、有病率データの信頼性を評価することを決定した。

方法
合計 1,216 例の患者の HCAI の有無を、常設のサーベイランスチームと HCAI に関する専門知識を有するチームがそれぞれ独立して評価した。

結果
HCAI 有病率は、常設チーム 8.3%(95%信頼区間[CI]6.7% ~ 9.9%)、専門家チーム 13.1%(95%CI 11.2% ~ 15.0%)であった。常設チームの点有病率サーベイランスの感度は 47%、特異度は 97%であった。

結論
スウェーデンの HCAI 点有病率の継続的な全国的サーベイランス制度では、これまでの入院患者の捕捉率は約 90%と高い。しかし、この調査は HCAI の真の有病率を過小評価している。

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監訳者コメント
スウェーデンの人口は 959 万人で、今回全ベッド数の 95%以上を占める 24,905 床を対象にサーベイランスが行われた。専門家チームの 13.1%を採用すると、3,237 人(人口 1 万人当たり 3.4 人)以上の患者が HCAI を有していたことになる。本邦での HCAI の発生数について、人口当たりで換算できるものは少ないが、仮に人口 50 万人をカバーする大規模病院を考えると、169 人以上となる。スウェーデンと本邦では病院の集約状況は異なっているが、今回の算定は非常に興味深い結果といえよう。

心臓弁膜手術または冠動脈バイパス術後の手術部位感染症(SSI):フランスにおける 2008 年から 2011 年の全国的な SSI の ISO-RAISIN サーベイランス

Surgical site infection after valvular or coronary artery bypass surgery: 2008-2011 French SSI national ISO-RAISIN surveillance

S. Cossin*, S. Malavaud, P. Jarno, M. Giard, F. L’Hériteau, L. Simon, L. Bieler, L. Molinier, B. Marcheix, A.-G. Venier, the ISO-RAISIN Steering Committee
*CHU, CCLIN Sud-Ouest, France

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 225-230


背景
多施設を対象とした心臓手術後の手術部位感染症(SSI)の発生率に関する情報を得ることは容易ではない。また転帰に影響を及ぼすと考えられる病棟の特性についても、これまで解析は行われてこなかった。

目的
冠動脈バイパス術および心臓弁膜手術後の SSI 発生に関連する、個人レベルおよび病棟レベルの因子を明らかにすること。

方法
フランスにおける全国的な SSI データベースである ISO-RAISIN の 2008 年から 2011 年のデータセットを使用した。成人患者のみを対象とした。統一した質問票を用い、手術を受けた各患者について回答を得、SSI の有無による患者特性を明らかにした。多段階ロジスティック回帰分析モデルを用いて、SSI を二値変数(2 段階:患者および病棟)とし、患者および病棟の SSI のリスク因子の解析を行った。

結果
39 病棟の患者 8,569 例の SSI 発生率は 2.2%であった。144 例(74%)から微生物が分離され、内訳はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌 35%(51 例)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)23%(33 例)、大腸菌(Escherichia coli)6%(8 例)であった。SSI 発生率が高まることと関連した因子は、術前の入院期間、経過観察期間、手術時間が 75 パーセンタイル値を超えること、および心臓外科病棟全体の SSI 発生率であった。病棟間でみられた残りの不均一性(オッズ比中央値 1.53)は、術前の入院期間と同程度であった(オッズ比 1.57)。

結論
本研究からは、SSI 発生との関連は患者のリスク因子のほうが強固であったものの、病棟レベルの影響が存在することのエビデンスが示された。是正のための介入を考慮する際は、このことを念頭に置く必要がある。

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監訳者コメント
これまでの検討で、心臓外科領域で明らかになっていた SSI のリスク因子には、肥満など患者側のものが主体であり、コントロールがつけにくいものも含まれていた。今回の多施設研究は、初めて病棟側のリスク因子を明らかにしたものである。病棟側のリスク因子をコントロールできる方法を詳細に解析し、実際に介入することで、SSI の低下に結びつく可能性がある。今後の検討ならびに情報に期待したい。

電子化医療データの自動編集により算出される病院感染による尿路感染症および血流感染症の発生率

Incidence rates of hospital-acquired urinary tract and bloodstream infections generated by automated compilation of electronically available healthcare data

J.D. Redder*, R.A. Leth, J.K. Møller
*Lillebaelt Hospital, Denmark

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 231-236


背景
登録データの自動編集を利用した病院感染(HAI)のモニタリングによって、労力を要し、コストがかかり、さらにデータの主観的サンプリングやしばしば無作為サンプリングが発生するといった手作業のサーベイランスの欠点に対処できる可能性がある。

目的
HAI による尿路感染症(UTI)および血流感染症(BSI)の自動モニタリングシステムの評価を行うこと、およびデンマークの病院トラスト 1 施設における 5 年間の発生率を報告すること。

方法
主に微生物学的検査結果および抗菌薬処方に関連する電子的に利用可能なデータに基づいて、HAI による UTI および BSI の自動モニタリングの検証を実施し、2010 年から 2013 年の過去 6 回の点有病率調査のデータ、および 2010 年 1 月以降の内科の 1 部門での手作業による評価のデータ(HAI による UTI のみ)と比較した。2010 年から 2014 年の発生率(1,000 病床日当たりの感染件数)を算出した。

結果
自動モニタリングによる検出感度は、点有病率調査との比較で全UTIで 88%、HAI による UTIで 78%、および全 BSIで 100%であった。月別の発生率にはばらつきがみられ、HAI による UTI は 1,000 病床日当たり 4.14 件から 6.61 件、HAI による BSI は 1,000 病床日当たり 0.09 件から 1.25 件であった。

結論
点有病率調査を HAI の自動モニタリングに置き換えることによって、より良好かつ客観的なデータが入手可能であり、患者個別リスクの分析および疫学研究の有望な基礎となると考えられる。微生物学的所見、入院データ、および抗菌薬処方についての電子データベースを有する病院では、多くの場合に自動モニタリングが適用できると考えられる。

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監訳者コメント
わが国ではサーベイランスはどこの病院でも悩みの種である。その最大の理由は「手間がかかる」ことに尽きる。わが国でもいくつかの感染管理プログラムが使用できるが極めて高額であることに加え、本研究のような評価が十分に行われていない。あらゆることが電子化されていく今日、そのデータを最大限に活用するために感染管理担当者からこのようなプログラムの開発に積極的にかかわっていく必要がある。その点で本研究の「評価方法」は参考になるのではないだろうか。

胃癌患者に対する術中腹腔内化学療法が臓器・体腔手術部位感染症に及ぼす影響

Impact of intra-operative intraperitoneal chemotherapy on organ/space surgical site infection in patients with gastric cancer

X. Liu*, X. Duan, J. Xu, Q. Jin, F. Chen, P. Wang, Y. Yang, X. Tang
*Affiliated Tumor Hospital of Guangxi Medical University, China

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 237-243


背景
手術部位感染症(SSI)の種々のリスク因子として、年齢、過体重、手術時間、および失血量などが特定されている。胃癌患者に対する手術中の腹腔内化学療法は高い頻度で行われる処置であるが、SSI への影響についてはこれまで評価は行われていない。

目的
術中腹腔内化学療法は、胃癌患者の臓器・体腔 SSI の主要なリスク因子であるかどうかを評価すること。

方法
当院の消化器外科部門で 2008 年 1 月から 2013 年 12 月に手術を実施した胃癌患者全例を研究対象とした。臓器・体腔 SSI 発生率を、術中腹腔内化学療法を受けた患者と受けなかった患者で比較し、単変量および多変量回帰分析により臓器・体腔 SSI のリスク因子を評価した。臓器・体腔 SSI の原因菌の同定も実施した。

結果
適格患者 845 例中 356 例が術中腹腔内化学療法を受け、臓器・体腔 SSI 発生率はこれらの患者のほうが術中腹腔内化学療法を受けなかった患者と比較して高かった(9.01%対 3.88%、P = 0.002)。単変量解析により、この結果は有意であることが確認された(オッズ比 2.443、P = 0.003)。術中腹腔内化学療法を受けた患者では入院期間が延長した(平均 20.91 日[95%信頼区間(CI)19.76 ~ 22.06]対 29.72 日[95% CI 25.46 ~ 33.99]、P = 0.000)。本研究の結果から、術中腹腔内化学療法はグラム陰性菌感染症の増加と関連する可能性も示唆された。

結論
胃癌患者に対する術中腹腔内化学療法は、臓器・体腔 SSI の有意なリスク因子である。

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監訳者コメント
進行胃癌に対する治療として術中の腹腔内温熱化学療法が試みられている。本論文は「腹腔内温熱化学療法を行った症例で SSI が多いような印象がある」ことをきっかけに行われた症例対照研究である。結果の重要性ももちろんであるが、日常臨床の疑問を研究成果としてアウトプットする見本としても参考になるだろう。

防護環境にある血液内科病棟の病室付設の浴室:糸状真菌の汚染源か?

En-suite bathrooms in protected haematology wards: a source of filamentous fungal contamination?

R. Picot-Guéraud*, C. Khouri, M.-P. Brenier-Pinchart, P. Saviuc, A. Fares, T. Sellon, A. Thiebaut-Bertrand, M.-R. Mallaret
*CHU Grenoble, France

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 244-249


背景
当大学病院では 2008 年に浴室を付設した防御環境にある高リスク者用の血液内科病室が 25 室建造されたにもかかわらず、これらの病棟では病院感染による侵襲性アスペルギルス症の散発例の発生が依然としてみられている。

目的
本研究の目的は、これらの病室内で糸状真菌の予想外の環境汚染源を特定することである。

方法
2 か月間にわたり、防護環境にある全病室 25 室とその使用中の付設の浴室で、サンプリング実施日に 2 回、空気中の環境内真菌叢(合計 150 サンプル)とともに空気中粒子計数および物理的環境パラメータ(流速、温度、湿度、気圧)の前向きモニタリングを行い、さらに浴室表面(合計 150 サンプル)のモニタリングを実施した。

結果
病室の層流中では、サンプリング実施時に患者が在室している状態で 2 サンプル(4%、50 件中 2 件)から真菌が分離され、その最大値は 2 cfu/500 L であった(アスペルギルス[Aspergillus]属はなし)。しかし、浴室の空気サンプルの真菌汚染率は 88%(50 件中 44 件)であり、中央値範囲(median range)は 2 cfu/500 L、最大値は 16 cfu/500 L であった(監修者注:median range が何を示しているか判然としないが、論文中の記載では中央値が 4 cfu/500 L、最大値が 32 cfu/500 L となっている)。Aspergillus 属は汚染サンプルの 24%(44 件中 12 件)に、アスペルギルス・フミガーツス(A. fumigatus)は 6%(44 件中 3 件)に認められた。浴室表面はサンプルの 5%(150 件中 8 件)が糸状真菌で汚染されていた。

結論
本研究から、防護環境にある病棟の付設の浴室は真菌の汚染源である可能性が示された。浴室の空気を対象とした処置の検討に先立って、技術者らはまず特定された問題点の是正、すなわち HEPA フィルタの交換、自動空気制御の改善、および技術的仕様の初期状態への復元を実施した。対策の有効性に関する評価が計画されている。

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監訳者コメント
アスペルギルス属は生活環境菌であり、いかなる空調設備や建築改修工事も汚染源となり得る。したがって、定期的な設備メンテナンスが重要である。

長期血液透析患者に対するメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)除菌の有効性:システマティックレビューおよびメタアナリシス

Effectiveness of meticillin-resistant Staphylococcus aureus decolonization in long-term haemodialysis patients: a systematic review and meta-analysis

H.M. Gebreselassie*, E. Lo Priore, J. Marschall
*Bern University Hospital, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 250-256


背景
長期血液透析患者は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)感染症の前駆状態である同菌保菌の高リスク集団である。

目的
血液透析患者に対する鼻腔(±全身清拭)MRSA 除菌の有効性について、システマティックレビューおよびメタアナリシスによりまとめること。

方法
Medline、Embase、Cochrane データベース、clinicaltrials.org、および学会抄録を使用して、血液透析患者の MRSA 除菌の成功についての調査を行っている適格な研究を特定した。統計学的解析には Stata 13 を用いて、各研究ごとの除菌成功率と 95%信頼区間(CI)を算出した。尤度比検定を用いて、研究間の不均一性を評価した。

結果
6 件の前向きコホート研究の既報および学会抄録として報告されている 1 件の研究が、組み入れ基準に合致した。これらの研究に登録された血液透析患者 1,150 例のうち、鼻腔スワブから MRSA が分離されたのは 147 例(12.8%)であった。対象とした試験中 6 件では、除菌のために鼻腔内ムピロシン軟膏とクロルヘキシジン全身清拭を併用していた。最も多く使用されていたプロトコールは、鼻腔内ムピロシン軟膏塗布 1 日 3 回 + クロルヘキシジン全身清拭 1 日 1 回の 5 日間コースであった。プールした除菌成功割合は 0.88(95%CI 0.75 ~ 0.95)であった。固定効果モデルとランダム効果モデルを比較した尤度比検定により、研究間に有意な不均一性が認められた(P = 0.047)。7 件の研究中 4 件では、合計 94 例の保菌者でその後の MRSA 感染症の確認を行っており、このうち感染症がみられたのは 2 例(2%)であった。

結論
ムピロシンと全身除菌の併用は、血液透析患者の MRSA 保菌の根絶に高い有効性を示した。しかし、現時点の文献には、この介入の有効性の比較研究が不足しているという特徴がある。

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監訳者コメント
MRSA 保菌者の除菌対応にムピロシン軟膏の塗布やクロルヘキシジンによる全身除菌の併用がある程度の効果を来すことは予想できるが、長期的にみて確実に除菌てきているかどうかという視点での研究成果の報告はほとんどない。また、こうした除菌を多くの保菌者に行うことで、消毒薬抵抗性菌や抗菌薬耐性菌の出現も起こり得るため、注意が必要である。さらなるエビデンスの構築が必要である。

透析患者におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)保菌のリスク因子:メタアナリシス

Risk factors for meticillin-resistant Staphylococcus aureus colonization in dialysis patients: a meta-analysis

S. Karanika, F.N. Zervou, I.M. Zacharioudakis, S. Paudel, E. Mylonakis
*Warren Alpert Medical School of Brown University, RI, USA

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 257-263


背景
透析患者は、特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)に易感染性であり、この集団では MRSA 保菌は重篤な感染症のリスク上昇と関連する。

目的
透析患者における MRSA 保菌のリスク因子を特定すること。

方法
本研究は、MRSA 保菌のリスク因子について報告している研究のシステマティックレビューおよびメタアナリシスである。PubMed および EMBASE の文献検索を実施し、透析を施行中の患者における MRSA 保菌のリスク因子に関するすべての研究を特定した。入院歴、透析アクセスのタイプ、併存疾患、透析期間、性別、透析時間、および抗菌薬使用歴を抽出し、この集団の MRSA 保菌との想定される関連を評価した。

結果
文献 8,252 件のうち 10 件を本研究の対象とし、これらには透析患者 2,364 例のデータが含まれていた。過去 12 か月以内の入院(オッズ比[OR]1.93、95%信頼区間[CI]1.04 ~ 3.58)および一時的透析アクセスの使用(相対リスク 1.66、95%CI 1.06 ~ 2.60)が、MRSA 保菌リスクの有意な高値と関連していた。MRSA 保菌患者は、保菌がない場合と比較して血清アルブミンが低値であり(OR 0.8、95%CI 0.68 ~ 0.95)、また慢性肺疾患患者では MRSA 保菌が多くみられた(OR 2.16、95%CI 1.04 ~ 4.51)。腹膜透析患者に関するデータはなかった。

結論
除菌戦略が含まれる場合もある積極的なサーベイランスを実施する場合には、過去 1 年間の入院、一時的透析アクセス、血清アルブミン低値、および慢性肺疾患の併存がみられる透析患者のサブグループに焦点を当てるべきであることが示唆される。

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監訳者コメント
MRSA 保菌の高リスク者を特定することで、より適切な予防策の徹底が図られる。同じブドウ球菌属の中でも、常在性が高くヒトに対する病原性の低い表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌は、保菌のリスクはもとより感染発症のリスクや長期予後に関しても大きく異なる。さらに、その黄色ブドウ球菌がメチシリン耐性であることは多剤耐性菌であることを意味しており、本来、誰においても常在化は歓迎されるべきものではない。

抗菌薬関連の投薬安全性インシデント:スコットランド西部の病院における地域的後向き研究★★

Antimicrobial-related medication safety incidents: a regional retrospective study in West of Scotland hospitals

J.R. Covvey*, A. Al-Balushi, A.C. Boyter, Y. Gourlay
*Duquesne University, PA, USA

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 264-270


背景
投薬関連インシデントは、病院の医療における患者の安全を向上させるための重要な検討事項である。この集団では抗菌薬療法が広く行われるため、抗菌薬投与には過誤や有害なイベントが生じやすい。

目的
2 次ケア病院の地域グループでの抗菌薬関連のインシデント報告の特性を解析すること。

方法
2010 年 4 月から 2013 年 12 月の抗菌薬関連のインシデント報告を、1 地域内の National Health Service Scotland に属する病院から入手した。報告のフルセット解析、および患者に害または傷害をもたらしたインシデントのサブセット解析を実施するとともに、抗菌薬の安全性の標的とするべき領域をより明確にするため、病床利用日および 1 日規定用量で補正した多変量回帰によるサブセット解析を行った。

結果
全体で 1,345 件のインシデントが報告され、報告の粗発生率は 0.98 件/日(95%信頼区間[CI]0.93 ~ 1.03 件/日)であった。インシデントへの関与が多かった抗菌薬クラスは、ペニシリン系(371 件、27.6%)、アミノグリコシド系(358 件、26.6%)、およびグリコペプチド系(210 件、15.6%)であった。多くのインシデント(514 件、38.2%)は害または傷害との関連はなかったが、72 件(5.4%)は患者に害をもたらした。リハビリテーション/アセスメント部門(相対割合[relative rate;RR]2.61、95%CI 1.70 ~ 4.03)および女性/小児部門(RR 2.04、95%CI 1.39 ~ 2.99)は、他の部門と比較してインシデント報告率が高く、おそらくリスク患者集団であることが関連していると考えられた。インシデント報告のタイプ別では、投与/供給の問題にかかわるものが最も多かった(RR 2.07、95%CI 1.51 ~ 2.84)。

結論
抗菌薬関連のインシデント報告により、病院環境での質改善のためのいくつかの主要な領域が特定された。これらは安全への取り組みの指針となるものである。

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監訳者コメント
抗菌薬関連のインシデントの発生率が高い薬剤はペニシリン系、アミノグリコシド系、グリコペプチド系薬であると、本論文では分析されている。ペニシリン系のインシデントが高いのは薬剤アレルギー関連であり、その割合は 4 割近くであったと説明されている。アミノグリコシド系、グリコペプチド系薬は投与設計が難しい薬剤であり、TDM(therapeutic drug monitoring)の実施などが関連していると思われるが、詳細なデータは示されていない。

水飲み器が関連する緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)院内アウトブレイク

Nosocomial outbreak of Pseudomonas aeruginosa associated with a drinking water fountain

D. Costa*, A. Bousseau, S. Thevenot, X. Dufour, C. Laland, C. Burucoa, O. Castel
*Université de Poitiers, France

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 271-274


当院耳鼻咽喉科で 4 か月間に患者 10 例が緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)院内感染を疑われた。環境分離株と臨床分離株の比較を行った。緑膿菌で汚染されていたのは水飲み器からの水のみであった。この分離株と患者 3 例の分離株の random amplified polymorphic DNA のプロファイルは、識別不能であった。これらの患者は重篤な腫瘍疾患を有していた。水飲み器は経皮的内視鏡下胃瘻造設術後の栄養補給の際に用いられており、アウトブレイクの発生源となった。先端の紫外線処理を行う別の種類の水飲み器を設置し、その後は飲用水に関連する新たな感染は認められなかった。

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監訳者コメント
配管系に関しては、末端塩素濃度の確認や清掃など日常的なメンテナンスが重要である。フィルターを介しているつもりでも、フィルター自体の破損による汚染も起こり得るため注意が必要である。また、使用頻度の少ない蛇口の運用にも配慮する必要がある。

エボラウイルス病の臨床的管理のためのシミュレーション研修における紫外線トレーサーの使用★★

Use of an ultraviolet tracer in simulation training for the clinical management of Ebola virus disease

K.A. Clay*, M.K. O’Shea, T. Fletcher, A.J. Moore, D.S. Burns, D. Craig, M. Adam, A.M. Johnston, M.S. Bailey, C. Gibson
*Heart of England NHS Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 275-277


エボラウイルス病に罹患した医療従事者のケアを行うために、2014 年 10 月に英国軍がシエラレオネに配備された。Army Medical Services Training Centre が立案した研修パッケージを用いて、必要となる感染予防・制御策のために配置する要員の準備を行った。研修では、エボラ患者を取り扱う際に必要な技術の検証を行うため、またその後の汚染除去の確認のために、紫外線トレーサーを使用した。この研修の内容構成は、臨床医に対する感染制御策に関する有用なフィードバックとなるものであり、また飛沫や媒介物により伝播するあらゆる感染症に関しても有用であると考えられる。

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監訳者コメント
蛍光物質を疑似患者に塗布して、対応した医療従事者の汚染状況を確認しリスク分析をしたり、課題を認識してもらうことでスキルアップが可能となる。

インフルエンザウイルスのエアロゾル中での生存、およびエアロゾル化による空気サンプル中の生残ウイルス減少量の推計値

Influenza virus survival in aerosols and estimates of viable virus loss resulting from aerosolization and air-sampling

J.R. Brown*, J.W. Tang, L. Pankhurst, N. Klein, V. Gant, K.M. Lai, J. McCauley, J. Breuer
*Great Ormond Street Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 278-281


ウイルス濃度の初期値が既知であるインフルエンザウイルス(A/Udorn/307/72 H3N2)のエアロゾルを、制御下にある実験チャンバー内で Collison 噴霧器を用いて発生させた。種々の懸濁時間後に採取した空気サンプルを、プラーク計数と PCR 法により定量的に検査し、生残ウイルスの割合を検出可能ウイルス RNA 量と比較した。これらの実験により、インフルエンザウイルスの RNA コピー数はよく保たれていたが、生残ウイルス量は 104 ~ 105 の単位で減少したことが示された。このことから、感染制御リスクの評価のためにインフルエンザウイルスの RNA の検出のみを行う空気サンプリングによる研究は、感染性を有する生残ウイルス量を大幅に過剰評価するものと考えられる。

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監訳者コメント
遺伝子量と感染性のある活性ウイルス量は必ずしも1:1で相関しないという、教科書的な事実を科学的に証明した論文である。

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Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.