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臨床環境および調剤環境で無菌的に調製された経静脈投与薬剤の微生物汚染リスクのシステマティックレビューおよびメタアナリシス:最新情報

Systematic review and meta-analysis of the risk of microbial contamination of parenteral doses prepared under aseptic techniques in clinical and pharmaceutical environments: an update

P.D. Austin*, K.S. Hand, M. Elia
*University of Southampton, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 306-318


背景
微生物に汚染された経静脈投与薬剤の投与が感染性疾患や死亡をもたらす可能性がある。

目的
経静脈投与薬剤の無菌的調製または無菌製剤への添加剤の混和は、専用の調剤環境で行うほうが、臨床環境で行う場合と比較して投与剤の微生物汚染リスクが低いかどうかを調べること。

方法
システマティックレビューにより特定したデータをランダム効果のメタアナリシスにより評価し、投与剤の汚染頻度を t 検定を用いて比較した。

結果
34 件の研究(33 報)から 16,552 件の投与剤を特定した。全データを統合すると、投与剤の汚染頻度は臨床環境のほうが調剤環境で調製するよりも有意に高かった(3.7%[95%信頼区間(CI)2.2% ~ 6.2%、10,272 件の投与剤]対 0.5%[95%CI 0.1% ~ 1.6%、6,280 件の投与剤]、P = 0.007)。調剤環境での投与剤の汚染頻度は、個別のロットでの調製のほうがまとめて調製する場合よりも有意に高かった(2.1%[95%CI 0.7% ~ 5.8%、168 件の投与剤]対 0.2%[95%CI 0.1% ~ 0.9%、6,112 件の投与剤]、P = 0.002)。無菌経静脈投与薬剤への添加剤の混和は、臨床環境で行うほうが投与剤の汚染頻度が有意に高かった(リスク比 2.121[95%CI 1.093 ~ 4.114]、P = 0.026)。研究の全般的な質は低いと判定された。

結論
報告されている経静脈投与薬剤の汚染率は、許容される参照基準よりも大幅に高かったことから、感染リスクは高い可能性がある。汚染率に関する限定的なエビデンスからは、投与剤の調製は臨床環境よりも調剤環境で行うことが支持され、まとめての調製を臨床環境で行うことは支持されない。

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監訳者コメント
病棟での注射調製は薬剤部の調製室での調製と比較すると汚染率が高いのは明らかであるが、病棟調製をゼロにすることが容易ではない現状を考えると、その中でより安全な調製のための対策を検討するのが現実的であろう。本レビューの結果は、病棟での混合調製のリスクを明確にしているが、一方、1972 年から 2013 年までの論文が対象となっており、40 年前の無菌調製の状況と現在の状況を混ぜた比較であることが結果に影響しているのでは、と気にかかった。研究の質が低いことについては、このテーマで行われるほとんどの論文は観察研究であるため、ランダム化して行うことは現実には難しいこと、サンプルサイズが小さいことは仕方がないのでは、と思われた。

消毒薬ワイプは表面の微生物バイオバーデン制御に適している:効果の実証のための新規 ASTM 標準検査プロトコールの使用

Disinfectant wipes are appropriate to control microbial bioburden from surfaces: use of a new ASTM standard test protocol to demonstrate efficacy

S.A. Sattar*, C. Bradley, R. Kibbee, R. Wesgate, M.A.C. Wilkinson, T. Sharpe, J-Y. Maillard
*University of Ottawa, Canada

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 319-325


背景
医療環境における接触頻度が高い環境表面からの拭き取りによる汚染除去のために、消毒薬含浸ワイプの使用が広まっている。しかし、現場使用のシミュレーション条件での消毒薬ワイプの検査はほとんど行われておらず、また環境表面用消毒薬の説明書には拭き取り操作に関する記載はほとんどみられない。

目的
拭き取りに特化した新規標準検査法 E2967-15 の評価を、特に表面汚染の除去性能、および獲得した汚染の清浄表面への移行の性能の評価に焦点を当てて行うこと。

方法
ASTM Standard E2967-15 を用いて、独立した 3 か所の検査室で市販のワイプ製品 5 種類の効果を検査した。得られた全データを集約し、標準法の評価として異なる検査室での再現性および同一検査室内での反復性を調べた。

結果
検査したすべての市販消毒薬ワイプは、10 秒間の拭き取りによる黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびアシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumanii)の > 4 log10(> 99.99%)のコロニー形成単位(CFU)の減少を達成したが、他の表面への菌の移行が阻止されたのは 0.5%加速化過酸化水素を含有する消毒薬ワイプ 1 種類のみであった。

結論
この新たに導入された標準法は、消毒薬ワイプによる接触頻度が高い環境表面からの微生物汚染除去の評価について大幅な進歩がみられており、市販消毒薬ワイプの研究・開発や適切かつ信頼性のある説明書の作成を大いに支援するものとなるはずである。

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監訳者コメント
環境消毒の効果を評価する方法として、新規標準検査法 E2967-15 の有用性を検討した論文である。使用したワイプの種類により、菌の除去や他の場所への再汚染に、あまりにも大きな違いがあることに驚いた。

冠動脈バイパス術後の深部胸骨創感染症の減少のための衛生学的介入

Hygienic interventions to decrease deep sternal wound infections following coronary artery bypass grafting

B. Lytsy*, R.P.F. Lindblom, U. Ransjö, C. Leo-Swenne
*Uppsala University, Sweden

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 326-331


背景
Uppsala 大学病院の胸部外科部門は、合計 25 床(1病室当たり 1 ~ 4 床)および超清浄空気供給装置を備えた手術室 5 室からなる手術棟を有しており、年間約 700 件の関心術(このうち 250 件は単独冠動脈バイパス術[CABG])を実施している。衛生ガイドライン類が存在しているにもかかわらず、2009 年に深部胸骨創感染症の発生率が許容できないまで上昇した。

目的
根本原因分析とその後の質改善のための介入によって、CABG 後の深部胸骨創感染症の発生率が低下したかどうかを明らかにすること。

方法
単独 CABG を実施した患者のうち、深部胸骨創感染症のために再手術を必要とする患者のみを対象とした。再手術時にスワブ採取および組織生検を実施し、標準的な方法で分析した。深部胸骨創感染症は米国疾病対策センター(CDC)の定義に従い、前向きに登録した。2009 年 9 月から 2010 年 4 月に感染の根本原因分析を実施した。2010 年 4 月に根本原因分析の結果および全国的な推奨実践に基づく介入を決定し、2010 年 7 月 1 日までに本格的な導入を開始した。胸骨切開部位から 0.5 m 以内で能動的エアサンプリングを行った。

結果
CABG 実施当たりの深部胸骨創感染症発生率は、介入前の 5.1%から介入後には 0.9%に低下した。介入前の創培養陽性率は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)27.1%、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CoNS)47.1%、介入後は黄色ブドウ球菌 23.1%、CoNS 30.8%であった。空気中の菌数は 5 cfu/m3 以下であった。

結論
過誤の原因が複数である場合は、臨床職員と感染制御チームの両者が参加する根本原因分析は、医療関連感染症などの有害なイベントをもたらす原因を評価するためのツールとなり得る。根本原因分析に基づく質改善のための系統的介入により、CABG 後の深部胸骨創感染症の発生数が減少すると考えられる。

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監訳者コメント
根本原因分析(RCA;root cause analysis)の手法を用いた、術後創感染の発生の解析と対策について検討した論文である。本誌既報(J Hosp Infect (2015) 89, 331-334)に詳しい解説があるので参照されたい。

ノロウイルスアウトブレイクの分析により判明した適時かつ広範な微生物学的検査の必要性

Analysis of norovirus outbreaks reveals the need for timely and extended microbiological testing

F. Mattner*, A. Guyot, C. Henke-Gendo
*Hospital of the City of Cologne, Germany

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 332-337


背景
病院でのノロウイルスアウトブレイクは、近年、予防のための多くの推奨が発表されているにもかかわらず、依然として大きな脅威である。

目的
病院でのノロウイルスアウトブレイク発生に寄与する因子を解析し、新たな予防選択肢を明らかにすること。

方法
ドイツの病院 5 施設で 2002 年から 2012 年に発生した 71 件のノロウイルスアウトブレイクのデータを、開始時の下記の状況に焦点を当てて解析した。アウトブレイクが発生した曜日、症状を呈する患者が最初に認められてからアウトブレイク発生日までの期間、アウトブレイク時にノロウイルス検査で陽性結果が得られたタイミング、およびクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の併存。

結果
アウトブレイク 68 件(96%)で初発症例の特定が可能であった。初発症例が 1 例であったアウトブレイクは 44 件であり、このうち 30 件(68%)の初発症例は病院でノロウイルスを獲得していた。全アウトブレイクの 20%では、初発症例は病院職員であった。アウトブレイク 9 件は、患者が症状を有する患者へ曝露した後に、接触患者を潜伏期間中に隔離しなかったことが原因となっていた。ノロウイルスアウトブレイクの患者数は、アウトブレイク発生前にノロウイルス検査結果が得られていた場合に、より少数であった(P = 0.028)。C. difficile 感染症のデータが入手可能であったノロウイルスアウトブレイク 46 件中 30 件(64%)では、最大 10 例の C. difficile 毒素検査陽性患者が認められた。同一患者におけるノロウイルスと C. difficile の同時感染または逐次的感染は、アウトブレイク 9 件(20%)で発生していた。

結論
今後の予防戦略では、患者のみならず病院職員にも焦点を当てるべきである。アウトブレイクの制御には、新規下痢・嘔吐患者を対象とした持続的なサーベイランスと、すべての曝露患者に対する接触予防策の適時の適用が極めて重要であるとともに、広範な微生物学的検査が必要である。

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監訳者コメント
この論文では、ノロウイルス感染症アウトブレイクを「同一の病棟で、最初の発症者が出た後、少なくともさらに 2 例以上の入院患者が症状を呈し、そのうちの 1 名がテストで陽性を示すこと」と定義していた。初発症例の発症日からアウトブレイクの発生日までは中央値で 2 日、範囲はゼロ ~ 23 日となっており、症状が改善した後も便中にウイルスが排泄されることが原因なのだろうか、と気にかかった。なお、この初発症例の 20%は医療従事者であったことは他人事ではなく、体調不良時の対応についてのスタッフ教育の重要性を再確認させられた。

欧州の病院における感染制御の組織

Organization of infection control in European hospitals

S. Hansen*, W. Zingg, R. Ahmad, Y. Kyratsis, M. Behnke, F. Schwab, D. Pittet, P. Gastmeier on behalf of the PROHIBIT study group
*Charité - University Medicine Berlin, Germany

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 338-345


背景
Prevention of Hospital Infections by Intervention and Training(PROHIBIT)調査は、欧州全域の医療関連感染症予防の状況を調べることを目的として開始された。

目的
本稿では、PROHIBIT の定量的調査の方法を紹介するとともに、感染制御の体制および組織(各病院ごとの管理部門による支援を含む)に関する調査結果の概要を述べる。

方法
2011 年 9 月から 2012 年 3 月に 34 か国の病院に調査への参加を要請した。回答者は感染制御担当者や病院管理者などであった。

結果
24 か国の病院 309 施設からのデータを分析した。参加病院の1,000床当たりの感染制御担当看護師数の中央値(四分位範囲)は 4 名(2 ~ 6 名)、感染制御担当医師数は 1 名(0 ~ 2 名)であった。ほとんどすべての病院(96%)は感染制御の目標を設定しており、多くは手指衛生(87%)、医療関連感染症の減少(84%)、および抗菌薬管理(66%)などに関するものであった。約半数の病院では上級管理者が leadership walk round(指導者による巡回)を実施しており、東欧(65%)および北欧(64%)で実施率が高かった。半数以上の病院(71%)では、感染制御実践の逸脱の反復に対する処罰は実施していなかった。処罰の実施状況は地域によって有意なばらつきがみられたが(P < 0.001)、国の医療費ごとのばらつきはみられなかった。

結論
感染制御担当職員の配置および感染制御方針は、欧州全体では大きなばらつきが認められた。手指衛生などの一部の実践領域に対しては、抗菌薬管理などの同等の重要性を有する他の領域と比較して、極めて多くの注意が払われているようである。感染制御プログラムには、人的資源や病院の方針が不十分であることなど、感染制御の有効性に負の影響を及ぼす普遍的な因子による問題が認められた。欧州の病院では感染制御方針の強化を公衆衛生上の優先事項とすべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
「参加病院の 1,000 床当たりの感染制御担当看護師数の中央値(四分位範囲)は 4 名(2 ~ 6 名)、感染制御担当医師数は 1 名(0 ~ 2 名)であった」。やはり、1,000 床当たり中央値で 4 名(少なくとも 2 名)の感染管理看護師の存在は世界標準として考えていきたい、と再認識した。

複数の病院からなるフランスの大規模医療施設における排泄物管理の評価

Evaluation of excreta management in a large French multi-hospital institution

M. Lepainteur*, S. Nérome, G. Bendjelloul, C. Monteil, B. Cottard-Boulle, M. Nion-Huang, V. Jarlier, S. Fournier, the Network of Infection Control Teams of Assistance Publique - Hópitaux de Paris
*Siége Assistante Publique - Hôpitaux de Paris, France

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 346-350


背景
排泄物は、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生株を含む多剤耐性腸内細菌科細菌の主要な感染源である。Assistance Publique - Hôpitaux de Paris(AP-HP)で ESBL 産生腸内細菌科細菌の保菌率が上昇したため、排泄物廃棄に用いる器具および実践状況に関して評価が必要となった。

目的
排泄物を扱う器具の使用状況を評価すること、および排泄物の廃棄に関する医療従事者の実践状況を調査すること。

方法
2012 年に横断研究を実施した。

結果
AP-HP の 28 病院の 536 部門(急性期病院 342 部門、リハビリテーション・長期ケア病院 194 部門)の評価を行った。調査日に在院していた患者のうち、5,697 例(43%)がおむつを使用しており、1,767 例(13%)がベッドパンを使用していた。病床の 61%には共用トイレが設置され、トイレの 43%にはハンドスプレー(糞便物質で環境の汚染を起こしやすい器具)が設置されていた。各部門の 68%にはベッドパンのウォッシャーディスインフェクターが設置されていた。ベッドパンのウォッシャーディスインフェクターのうち、擦式アルコール製剤が利用可能な病室内に設置されていたのは 52%のみであった。各部門の 71%ではベッドパンの洗浄を消毒に先立って実施しており、また半数以上は患者の浴室で行っていた(62%)。質問を受けた医療従事者のうち、排泄物の廃棄に関する教育プログラムに従っていると回答したのは 9%のみであった。

結論
本調査により、多剤耐性腸内細菌科細菌の制御や擦式アルコール製剤による手指衛生推進に関して、排泄物の管理は懸念事項であるものの、なおざりにされていることが示された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
患者・医療従事者の両者において、糞便中の微生物が排泄行為に関連して手指や衣服、トイレなど周囲の環境を汚染し、医療関連感染の原因になることは、極めて重要な伝播経路であるにもかかわらず、それほど大きく意識されていない。事例の発生がないときにはなおさらであるが、日常的であることが、かえってなおざりになってしまう大きな要因であるかもしれない。本検討の結果を踏まえ、改めて見直し、対策の遵守と教育を考え直す機会にしたい。

社会的剥奪が急性期病院の医療関連感染症有病率に及ぼす影響の特定:関連づけをしたデータセットの多変量解析

Determining the effect of social deprivation on the prevalence of healthcare-associated infections in acute hospitals: a multivariate analysis of a linked data set

S.J. Packer*, S. Cairns, C. Robertson, J.S. Reilly, L.J. Willocks
*Health Protection Scotland, UK

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 351-357


背景
医療関連感染症(HCAI)により患者の罹患率、死亡率、および入院期間が増加し、安全が脅かされる。HCAI のリスク因子を特定するための研究では、より広範な公衆衛生上の決定因子までを対象とすることはまれである。しかし、社会的剥奪(social deprivation)の増加と健康状態の不良な転帰との間には関連が認められ、十分な評価が行われている。したがって、HCAI と社会的剥奪との関連の有無を明らかにすることは重要である。

目的
スコットランドの急性期病院 1 施設の全入院患者を対象として、2011 年 9 月から 10 月の特定の 1 日における社会的剥奪と HCAI 有病率との関連を明らかにすること。

方法
本研究では、2011 年に実施された欧州における HCAI 点有病率・抗菌薬処方調査からのスコットランドのデータと、全国的データセットである Scottish Morbidity Record 01(Scottish Index of Multiple Deprivation[SIMD]を含む)との関連づけを行った。多変量ロジスティック回帰を用いて、SIMD の五分位値に基づく HCAI 有病率の予測モデルを作成した。

結果
全入院患者を対象とすると、SIMD の五分位値と HCAI 有病率との間に全般的な関連は認められなかった。外科手術を受けた患者では、SIMD の五分位値ごとの HCAI 有病率には有意差が認められ、社会的剥奪が大きいほど有病率が高かった(P = 0.0071)。HCAI 有病率との関連がみられた変数は、診療科が集中治療部門、精神科、および内科であること、最小侵襲手術、ならびに全カテゴリーの入院期間であった。

結論
本研究では、手術を受けた患者集団の SIMD の五分位値ごとの HCAI 有病率には有意差が認められた。著者らの知る限り、本研究は HCAI と SIMD との全般的な関連を評価した初めてのものである。今回の知見により、健康状態のアウトカムの決定因子としての社会的剥奪の広範かつ包括的な特性が明らかにされた。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
これまで HCAI のリスク因子については、患者の医療上の状態や医療機関内の状況に焦点が当てられていたのがほとんどであった。しかしながら本検討では、より広い公衆衛生学的な意味で、社会的剥奪が HCAI と関連があるのではないかという仮説が検証された。結果として手術を受けた患者で有意差が認められ、関連が示されたが、この仮説は本質的な部分でユニークといえよう。今後の追試や、異なった角度からの検討が期待されるところである。

医療関連感染に関する患者教育のための文書と口頭による情報の比較:横断研究

Written versus verbal information for patients’ education on healthcare-associated infections: a cross-sectional study

M. Bo*, V. Amprino, P. Dalmasso, P.A. Argentero, C.M. Zotti
*University of Turin, Italy

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 358-361


イタリア・ピエモンテ州は 2008 年、医療関連感染(HCAI)に関する文書による情報をすべての入院患者に提供することを推奨した。文書による情報を受け取った患者はその他の患者よりも HCAI について熟知しているかどうかを評価するために、5 つの病院の入院患者 363 名を対象として面接を実施した。2 群間に統計学的有意差は認められなかった。HCAI の知識は女性のほうが有意に低く、学歴が高い患者および外科病棟に入院した患者のほうが有意に高いことが確認された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
感染管理において患者参画は重要な要素である。本研究はイタリア・ピエモンテ州で 2008 年から行われている、患者に対する HCAI に関する文書による情報提供の有用性を検証したものであるが、結果的には文書による説明を受けた群と口頭による説明を受けた群で HCAI に関する知識・理解に有意差はなく、その一因として学歴が示唆された。日本は諸外国と比べて識字率が高いことが知られているが、患者への情報提供は本当に理解してもらえるように慎重に行い、そしてその有効性を評価することが重要である。

術前の 0.2%クロルヘキシジン含嗽液の使用による心臓手術後人工呼吸器関連肺炎の発生の減少:単一施設単盲検ランダム化試験の結果

Reduced occurrence of ventilator-associated pneumonia after cardiac surgery using preoperative 0.2% chlorhexidine oral rinse: results from a single-centre single-blinded randomized trial

Y.J. Lin*, L. Xu, X.Z. Huang, F. Jiang, S.L. Li, F. Lin, Q.Y. Ye, M.L. Chen, J.L. Lin
*Fujian Medical University Union Hospital, China

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 362-366


心臓手術後の人工呼吸器の使用により人工呼吸器関連肺炎(VAP)リスクが上昇することから、術前の 0.2%クロルヘキシジンが術後 VAP に及ぼす影響を調査するための前向きランダム化対照試験を実施した。心臓手術が予定されている患者 94 例をクロルヘキシジン群(47 例)または対照(生理食塩液)群(47 例)にランダムに割り付けた。患者は手術前日、毎食後 30 分と就寝時の歯磨き後 5 分に 0.2%クロルヘキシジンまたは生理食塩液で 3 回うがいをした。VAP 発生率はクロルヘキシジン群 8.5%、対照群 23.4%であった。術前のクロルヘキシジン洗口液により、術後 VAP の発生が有意に減少した。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
VAP は心臓手術後の重大な合併症であり、その予防は極めて重要である。心臓手術後 VAP の発生率は 2.3%から 45.9%と報告により大きく異なっている。これまでに挿管後 1 ~ 4 回/日程度の「クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)」による口腔ケアが実施され、VAP 発生率を減少させることが報告されている。本論文は心臓手術の前日から CHG のうがいを実施することで、術後の VAP が減少できたとの報告である。挿管 4 日以内に発生する早期 VAP は、口腔や咽頭の常在菌叢が主な原因となるため、挿管前に口腔内の細菌数を減らしておくという発想は理にかなっているかもしれない。本論文は症例数も少ないので、結論を出すにはさらなる前向きの大規模研究が必要である。なお、本論文で使用されている CHG は、日本において「口腔等粘膜への適用は禁忌」である。

アイルランドの病院 1 施設で 2014 年 2 月から 9 月に発生したリネゾリド耐性バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)による初のアウトブレイク

First outbreak of linezolid-resistant vancomycin-resistant Enterococcus faecium in an Irish hospital, February to September 2014

C. O’Driscoll*, V. Murphy, O. Doyle, C. Wrenn, A. Flynn, N. O’Flaherty, L.E. Fenelon, K. Schaffer, S.F. FitzGerald
*St Vincent’s University Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2015) 91, 367-370


アイルランドの 3 次紹介病院の肝疾患病棟で、2014 年 2 月から 9 月にリネゾリド耐性バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)のアウトブレイクが発生した。リネゾリド耐性バンコマイシン耐性 E. faecium が患者 15 例から分離され、パルスフィールド・ゲル電気泳動により単一クローンの拡散であることが確認された。本稿は、アイルランドにおけるリネゾリド耐性バンコマイシン耐性腸球菌によるアウトブレイクの初の報告である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
アイルランドでは、E. faecium 菌血症における VRE の比率が、2013 年で 42.7%と他の EU 諸国の 8.9%に比較して極めて高く、日常的に VRE が分離されているものの、リネゾリド(LZD)耐性 VRE は 2008 年に単一例での報告のみで、集団発生は本事例が初めてである。このアウトブレイクの原因として、VRE 陽性患者に VRE スクリーニングの培養検査が繰り返し実施されていたが、同時に感受性検査が実施されていなかったことが LZD 耐性 VRE の早期検出を遅らせた原因と推測されている。日本での 5 類感染症「VRE 感染症」はまれであり、LZD の使用頻度も当然低い。しかし、MRSA 感染症治療において LZD は重要な治療薬であり、その使用頻度も高い。MRSA および VRE の感染症治療薬である LZD の後発品が、2015 年 6 月より販売されたが、「後発品は、VRE 感染症のみに適応をもつ」のであり、MRSA への適応はない。しかしながら、適応外使用や長期使用など不適切使用が実施された場合、本論文のような LZD 耐性の VRE の出現が危惧される。すでに LZD 耐性の MRSA は日本でも報告されており、LZD の適正使用が望まれる。

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Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.