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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

糞便細菌叢移植における有害事象:文献レビュー

Adverse events in faecal microbiota transplant: a review of the literature

M. Baxter*, A. Colville
*Royal Devon and Exeter NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 117-127


背景
糞便細菌叢移植は、微生物多様性の改善を目的として提供者の糞便を腸内に注入することである。この施術は、近年、再発性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)の治療において多大な関心を持たれている。現在、それに関する文献は小規模の症例シリーズや単独の症例報告がほとんどを占める。方法およびアウトカムの記録は標準化されていない。

目的
これまでに英文文献で報告されている糞便細菌叢移植の実施と関連した有害事象を示すこと。

方法
Medline および Embase のデータベースを検索し、糞便細菌叢が移植された論文を特定した。総説は除外した。全体で、1,555 例への糞便細菌叢移植使用が記述された 109 報を特定した。

結果
小規模のランダム化対照研究 3 件以外は、小規模のシリーズおよび症例報告のデータであった。糞便細菌叢移植の最も多い適応症は CDI(1,190 例)であり、残りの症例の大多数は炎症性腸疾患に糞便細菌叢移植を実施している場合であった。糞便細菌叢移植は、少数ながら過敏性腸症候群、代謝症候群、便秘にも実施されていた。有害事象はあまり見られず、多くは軽度で自己限定的なようであるが、菌血症、穿孔、死亡を含む重篤な有害事象も報告されている。

結論
糞便細菌叢移植による有害事象の大部分は、軽度、自己限定的で、事実上胃腸に関するもののようである。一部の例で、対照データがないため確かな関連性は確定されなかった。糞便細菌叢移植に関連したリスクを定性的および定量的に明らかにするために、標準化したランダム化対照試験が必要である。

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監訳者コメント
最近、さかんに腸管内に常在する細菌叢と疾病の関係が研究されている。感染症領域では CDI の治療が脚光を浴びており、臨床研究と基礎研究の発展により発症のメカニズムや改善の糸口となる菌種も明らかになると思われる。

腹部手術後の術後感染症予防のためのプロバイオティクスおよびシンバイオティクス:ランダム化対照試験のシステマティックレビューおよびメタアナリシス

Probiotics and synbiotics for the prevention of postoperative infections following abdominal surgery: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials

L. Lytvyn*, K. Quach, L. Banfield, B.C. Johnston, D. Mertz
*McMaster University, Canada

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 130-139


背景
術後感染症、とくに手術部位感染症(SSI)は著しい罹患率および死亡率をもたらす。プロバイオティクスまたはシンバイオティクスは有力な予防戦略である。

目的
腹部外科手術後の術後感染リスクを低減するためにプロバイオティクス/シンバイオティクス1)の有効性を検討すること。

方法
待機的腹部外科手術患者がプラセボもしくは標準治療、またはプロバイオティクスもしくはシンバイオティクスの投与にランダム化された対照比較試験について、AMED、Central、CINAHL、Embase、Medline、灰色文献を検索した。主要アウトカムは SSI とした。副次的アウトカムは、有害事象、呼吸器感染症(RTI)、尿路感染症(UTI)、重複感染、入院期間、死亡とした。ランダム効果のメタアナリシスにより、相対リスク(RR)または平均差(MD)および95%信頼区間(CI)を推定した。不均一性を検定後、サブグループ解析および感度解析を実施し、全般的なエビデンスの質を評価した。

結果
術後感染症を報告した 20 試験(1,374 例)が特定された。プロバイオティクス/シンバイオティクスによる SSI(RR 0.63、95%信頼区間[CI]0.41 ~ 0.98、15 試験)、UTI(RR 0.29、95%CI 0.15 ~ 0.57、11 試験)、重複感染(RR 0.49、95%CI 0.35 ~ 0.70、18 試験)の低減が認められた。有害事象(RR 0.89、95%CI 0.61 ~ 1.30、6 試験)、RTI(RR 0.60、95%CI 0.36 ~ 1.00、14 試験)、入院期間(MD -1.19、95%CI -2.94 ~ 0.56、12 試験)、死亡率(RR 1.20、95%CI 0.58 ~ 2.48、15 試験)は群間に差がみられなかった。

結論
本総説から、プロバイオティクス/シンバイオティクスは、プラセボまたは標準治療と比べて、腹部手術による SSI および UTI を低減し、安全性リスクのエビデンスがみられないことが示唆される。全体的に、不正確性(患者数および事象数が少なく、CI が広い)により研究の質が低かったことから、この推定の確実性をさらに評価するために大規模な多施設共同試験が必要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
シンバイオティクスがうまく作用していると、腹部手術による SSI を減らせる可能性を示唆している。統一プロトコルによる大規模調査が必要である。


監訳者注:
1) シンバイオティクス:プロバイオティクス+プレバイオティクス
プレバイオティクスとは、①消化管上部で分解・吸収されない、②大腸に共生する有益な細菌の選択的な栄養源となり、それらの増殖を促進する、③大腸の腸内フローラ構成を健康的なバランスに改善し維持する、④人の健康の増進維持に役立つ、の条件を満たす食品成分のこと。

関節形成術後手術部位感染症の退院後サーベイランスのための医療保険データベース

Health insurance database for post-discharge surveillance of surgical site infection following arthroplasty

N. Le Meur*, L. Grammatico-Guillon, S. Wang, P. Astagneau
*French School of Public Health (EHESP), France

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 140-146


背景
手術部位感染症(SSI)サーベイランスは、治療および患者安全性の改善に重要である。多くの感染性事象が退院後に発現するが、大半の SSI サーベイランスシステムは病院に焦点を合わせている。

目的
退院後の患者治療軌跡を評価するために、退院データベースと National Health Insurance Cross-Schemes Information System(NHI-CIS)をリンクし、股関節または膝関節形成術感染症を追跡した。

方法
NHI-CIS データベース全体の 97 分の 1 をサンプリングした時系列データを用いて、後向き解析を実施した。2011 年 1 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日に股関節・膝関節形成術を受けた患者は合計 1,739 例であった。股関節・膝関節形成術感染症で再入院した患者は、公開されている特定のアルゴリズムを用いて確認した。再入院しなかった股関節・膝関節形成術感染症患者は、外来診療の利用(看護師による介入、抗菌薬および包帯の購入)に基づく新規の追跡アルゴリズムを用いて確認した。

結果
調査した患者 1,739 例中 20 例(1.1%)は、股関節・膝関節形成術感染症で再入院した。股関節・膝関節形成術感染症事象 14 件(70%)は手術後 2 か月以内に発現し、2 件は患者の手術入院中に発現した。外来診療データから、さらに 10 件は手術後の 1 年間に股関節・膝関節形成術感染症の発現が疑われた。その後、股関節・膝関節形成術感染症の発現率は 1.76%と推定された(95%信頼区間 1.14 ~ 2.38%)。

結論
試験標本はわずかであったが、本研究は、退院後に発現した股関節・膝関節形成術感染症それぞれの事象を院内の情報システムのみでは追跡できないことを示した。今回の結果は、NHI-CIS データベースなど退院後サーベイランスのための自動的なルーチン手法の必要性を強調する。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
フランスでは、医療保健に関する研究のために使用できるデータベースシステム(SNIIRAM)があり、この研究は、そのデータベースからサンプリングされたデータ(EGB)を用いた退院後の SSI サーベイランスの可能性について検討したものである。日本でもレセプトデータを用いた検討は様々な分野で行われているが、その使用が公的機関による使用に限られているとはいえデータベース化されている環境はうらやましい。

安全な医療器具による針刺し切創の低減:日本の多施設共同研究結果

Reducing needlestick injuries through safety-engineered devices: results of a Japanese multi-centre study

H. Fukuda*, N. Yamanaka
*Kyushu University Graduate School of Medical Sciences, Japan

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 147-153


背景
安全な医療器具の使用に関する決定を裏付けるため、安全な医療器具の有効性に関する定量的情報が必要である。

目的
翼状針、静脈留置カテーテルのスタイレット、および縫合針に安全な医療器具を使用したときの、日本の針刺し切創の発生率に対する効果を明らかにすること。

方法
2009 年 4 月 1 日から 2014 年 3 月 31 日まで、参加病院 26 施設からエピネット日本版調査データならびに従来の器具および安全な医療器具の使用データを収集した。翼状針、静脈留置カテーテルのスタイレット、および縫合針について、器具 100,000 個あたりの針刺し切創の発生率を、病院、年、および安全な医療器具の使用に応じて算出した。重み付け平均値および 95%信頼区間(CI)を用いて、全体の針刺し切創の発生率を算出した。

結果
合計して、針刺し切創の発生件数は、翼状針で 236 件、静脈留置カテーテルのスタイレットで 152 件、縫合針で 180 件あった。安全な医療器具を使用した場合と使用しなかった場合の器具 100,000 個あたりの重み付けした針刺し切創の発生率はそれぞれ、翼状針で 2.10(95%CI 1.66 ~ 2.54)および 14.95(95%CI 2.46 ~ 27.43)、静脈留置カテーテルのスタイレットで 0.95(95%CI 0.60 ~ 1.29)および6.39(95%CI 3.56 ~ 9.23)、縫合針で1.47(95%CI -1.14 ~ 4.09)および16.50(95%CI 4.15 ~ 28.86)であった。いずれの器具も、安全な医療器具の使用で針刺し切創の発生率の有意な低下が認められた(翼状針で P < 0.001、静脈留置カテーテルのスタイレットで P = 0.035、縫合針で P = 0.044)。

結論
安全な医療器具の使用によって、針刺し切創の発生率は相当に低下することから、医療従事者の職業感染を防止し、医療の安全性を改善するための手段として安全な医療器具の使用が推奨される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
日本からの投稿論文である。参加施設は 26 であり、代表性の課題はあるものの、使用デバイス毎に詳細な解析を行い、安全装置付き器具の有用性を数値で示した貴重な論文である。針刺し切創の発生状況については、職業感染制御研究会がエピネット日本版を使用している施設のデータを解析した結果をホームページ上で公開している。こちらも合わせてご参照いただくと、日本での針刺し切創の発生状況について、より理解が深まるものと思われる。
参考:職業感染制御研究会http://jrgoicp.umin.ac.jp/index.html

クロルヘキシジンの有効性の評価を目的とした複数菌によるバイオフィルムモデルの確立

Establishment of a multi-species biofilm model to evaluate chlorhexidine efficacy

R.E. Touzel*, J.M. Sutton, M.E. Wand
*Public Health England, National Infection Service, UK

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 154-160


背景
糖尿病足潰瘍のような慢性感染症は、患者の合併症発症率および死亡率に関して大きな影響を及ぼす。慢性感染症の創傷の特徴は複数菌による複雑な集合体であり、この集合体には根絶が困難な多剤耐性病原菌が含まれる場合がある。

目的
複数菌によるバイオフィルムの根絶におけるクロルヘキシジンおよびクロルヘキシジン含有製剤の有効性を検証するため、複数菌種からなるバイオフィルムモデルを確立すること。

方法
米国疾病対策センターのバイオリアクター1)を用いて、同数の肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、およびエンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)の複数菌からなるバイオフィルムを作製した。このモデルを用いて、あらかじめ形成されたバイオフィルムの制御におけるクロルヘキシジンの有効性を検証した。

結果
各種濃度のグルコン酸クロルヘキシジンをバイオリアクターに添加した。複数菌種からなるバイオフィルム内で肺炎桿菌および緑膿菌は 4%の濃度まで生存したが、黄色ブドウ球菌は 1%の濃度で検出レベルを下回るまで減少した。バイオリアクターから取り出したバイオフィルムを含む試片をクロルヘキシジン含浸医療用ワイプで拭き取った結果、いずれの菌種においても、24 時間後の log10 値の減少値は 3 超から 4 未満であった。寒天平板に形成した創傷床への試片の埋め込みでは、グルコン酸クロルヘキシジン含有ドレッシングは、黄色ブドウ球菌を完全に除去した(log10 値の減少値 8 超)が、他の対象菌種については効果はわずかであった(log10 値の減少値 3 未満)。

結論
本研究で、クロルヘキシジンの有効性は、複数菌種からなるバイオフィルムに作用する必要がある場合は限定的である可能性があることが示された。これにより、これらの病原菌の感染および拡散を制御するクロルヘキシジンの能力が損なわれる場合がある。

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監訳者コメント
クロルヘキシジンの有効性を、複数菌の集合体により形成されたバイオフィルムという、より生体内の複雑で現実的な状況に近似させた環境で検討した研究である。バイオフィルムの除去には拭き取りやぬぐい取りなど物理的な方法が有効であり、消毒薬の消毒効果を期待するには、まずは物理的に汚染を除去することの重要性を示唆する結果でもあろう。

監訳者注
1) バイオフィルム形成を測定する装置

クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症発生率:監査・フィードバックプログラムの室内清掃改善への影響

Clostridium difficile infection incidence: impact of audit and feedback programme to improve room cleaning

A. Smith*, L.R. Taggart, G. Lebovic, N. Zeynalova, A. Khan, M.P. Muller
*University of Toronto, Canada

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 161-166


背景
蛍光マーキングを用いた監査・フィードバックプログラムは、室内清掃の改善をもたらすが、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)発生率の低下とは関連していなかった。

目的
監査・フィードバックプログラムの病院感染型 CDI 発生率への影響を評価すること。

方法
2012 年、病院 1 施設全体で監査・フィードバックプログラムを実施した。高頻度接触面の蛍光マーキングを用いて、退院時清掃の徹底性を評価した。週 1 回の監査結果は清掃スタッフに提示した。中断時系列分析を用いて、介入前(2008 年 1 月から 2011 年 12 月)と介入後(2012 年 4 月から 2015 年 6 月)の病院感染型 CDI 発生率の傾向および値の変化を検証した。

結果
全体で、1,002 回の監査が実施され、室内清掃の徹底性は 49%から 90%に改善した。病院感染型 CDI 発生率は、介入後 100,000 患者・日あたり 54 例から 42 例に低下したが、病院感染型以外の CDI 発生率は100,000 患者・日あたり 43 例から 52 例に上昇した。しかし、いずれも介入後は減少傾向を示した。時系列分析では、介入前は病院感染型 CDI 発生率は、四半期につき 100,000 患者・日あたり 0.59 例の割合で低下していたことが示された。介入後は、四半期につき100,000 患者・日あたりさらに 1.35 例低下する割合で低下率が加速した(P < 0.05)。手指衛生遵守率は介入後にわずかに上昇した。

結論
蛍光マーキングを用いた監査・フィードバックプログラムを実施した結果、室内清掃の徹底性が改善し、CDI 発生率の低下傾向が高まったように思われる。ただし、この低下の一部は、地域の CDI 疫学の変化または手指衛生の改善による可能性がある。

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監訳者コメント
蛍光マーキングとその測定の病院清掃における有用性に関する研究は散見されるが、直接医療関連感染の発生率との相関をみた研究はほとんどない。本研究は蛍光マーキングとその測定、およびその結果のフィードバックが医療関連感染の低減に有効である可能性を示唆する貴重な研究である。

初回感染の臨床症状消失後の再発性感染または保菌が認められた患者における医療との接触と、異なるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)株獲得との関連性

Association of healthcare exposure with acquisition of different Clostridium difficile strain types in patients with recurrent infection or colonization after clinical resolution of initial infection

A.K. Thabit*, S.T. Housman, C.D. Burnham, D.P. Nicolau
*Hartford Hospital, USA

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 167-172


背景
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)エピソードの消失後、再発性感染または持続的保菌が認められた患者における異なる C. Difficile 株獲得と関連する因子の評価は行われていない。

目的
一連の治療全体に及ぶ長期追跡調査により、臨床的に CDI が治癒した患者における異なるC. Difficile 株獲得と相関する可能性がある因子を検討すること。

方法
CDI の治療が成功した患者および症状消失後に再発や保菌が認められた患者の糞便検体からベースラインおよび追跡調査時点(19 ~ 38日)で採取した C. difficile 分離株に対して PCR 法によるリボタイピングを実施した。異なる C. Difficile リボタイプ獲得と関連する因子を明らかにするために、診療録のレビューを実施した。

結果
当初 CDI が治癒した患者 25 例のうち、追跡調査時点で 5 例に再発が、8 例に保菌が認められた。患者は、年齢、性別、最初の感染が BI/NAP1/027 株によるものかに関して差がなかった。リボタイピング法により、5 例のうち 2 例は、異なる株が原因の再発であることが判明した。保菌が認められた患者のうち 3 例は株の交代を示したが、5 例はベースライン時点と同一の株を保菌していた。異なる C. difficile リボタイプが認められた患者(感染および保菌の両方)全員が、医療との接触があった。抗菌薬およびプロトンポンプ阻害薬への曝露は、株の交代と関連していなかった。

結論
医療との接触は、異なる C. difficile リボタイプの再発や保菌に一貫して関連していたが、抗菌薬やプロトンポンプ阻害薬は関連していなかった。

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監訳者コメント
欧米での強毒株 BI/NAP1/027 流行株による CDI の増加は、医療施設関連感染症として大きな問題となっている。CDIは、初発後の 2 か月以内の再発率は 15 ~ 35%と高く、再感染よりも再発がほとんどであると報告されている。本論文は CDI の症状が改善した患者の退院後の院外での経過を追跡し、医療との接触が、初発の株とは異なる株への獲得に関連するとしている。医療との接触とは、入院、慢性透析、観察のための救急室入室、長期療養施設への入所を指す。一方で、初発 CDI の危険因子として、PPI や抗菌薬投与が報告されているが、本論文での異なる株の獲得との関連性は見いだされていない。ただし、症例数が少なく、これらを結論づけるためには、より多くの症例での検討が必要である。

高リスクの抗菌薬投与を受けている患者におけるプロトンポンプ阻害薬の有無によるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の発生率★★

Incidence of Clostridium difficile infection in patients receiving high-risk antibiotics with or without a proton pump inhibitor

D. Gordon*, L.R. Young, S. Reddy, C. Bergman, J.D. Young
*Jesse Brown Veterans Affairs Medical Center, USA

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 173-177


背景
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)の発生率と重症度を考慮すると、リスク軽減戦略が極めて重要である。先行研究により、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の使用は、抗菌薬単独よりも CDI のリスクを上昇させる可能性があることが示唆されている。しかし、データとガイドラインは矛盾している。

目的
高リスクの抗菌薬投与を受けている患者における CDI 発生率を検討し、PPI の処方を受けた患者と PPI の重複曝露がなかった患者とを比べること。

方法
この後向きコホート研究では、高リスクの抗菌薬投与を受けている退役軍人を対象として約 3 年間にわたり CDI 発生率を評価した。高リスクの抗菌薬は、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、クリンダマイシン、セフトリアキソン、セフォタキシム、セフタジジム、またはセフィキシムと定義した。

結果
何らかの高リスクの抗菌薬の処方を受けた被験者のうち、PPI を同時併用していた 3,513例、PPI を使用していなかった 6,149 例を特定した。これらの被験者のうち、111 例が CDI と診断され、組み入れ基準を満たしていた。ベースライン特性、CDI の重症度、感染前の入院期間と抗菌薬治療期間は、両群で同様であった。CDI の発生率は、PPI の処方を受けた患者で有意に高かった(オッズ比[OR]2.2、95%信頼区間[CI]1.52 ~ 3.23、P = 0.0001)。PPI と、同時併用したフルオロキノロン類(P = 0.005)、クリンダマイシン(P = 0.045)とは強く関連していた。

結論
PPI と高リスクの抗菌薬との併用は、有意に高い CDI 発生率と関連していた。本研究は、特に高リスクの抗菌薬投与を受けている患者において、PPI を慎重に使用するという CDI 予防戦略にさらなる裏付けを与えるものである。PPI を賢明に避けることで、世界中で疾患および死亡の主な原因となっている CDI 発生率を低下させる可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本論文では PPI 単独あるいはフルオロキノロンあるいはクリンダマイシンとの併用が有意な危険因子であることを示している。胃酸の重要性が軽視されがちであるが、動物実験において胃酸の殺菌作用と毒素中和作用が確認されている。PPI の使用により CDI 発生率は 1.4 ~ 2.75 倍増加するとの報告がある一方で、関連性なしとするものもあり、2010 年の米国感染症学会と米国病院疫学学会のガイドラインにおいては、PPI 使用と CDI 発生についてはその関連性を結論づけていない。PPI はストレス潰瘍予防や逆流性食道炎に日常的に使用され、そのまま長期にわたり継続投与されており、投与継続の必要性の見直しがなされていないという現状がある。本論文は後ろ向きコホートであり、エビデンスとしての限界はあるものの、PPI の使用については、CDI 発生という別の観点から「PPI使用のスチュワードシップ(適正使用)」が必要と考える。

積極的監視培養:多剤耐性菌検出のための鼠径部と直腸部の比較

Active surveillance cultures: comparison of inguinal and rectal sites for detection of multidrug-resistant bacteria

C.J.N. Stier*, M.C. Paganini, H.H.M. de Souza, L.M.D. Costa, G.S. dos Santos, E.D.A. Cruz
*Hospital de Clínicas, Federal University of Paraná (UFPR), Brazil

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 178-182


背景
直腸スワブは、腸管内に定着した多剤耐性菌検出に最も広く用いられる監視法である。しかしながら検体の採取は患者にとって困惑するものでもあるし、不快でもある。先行研究では、直腸周囲スワブの感度および特異度は直腸スワブと同程度で、患者の許容度がより大きいことが示されている。

目的
腸管内に定着した多剤耐性菌の検出を目標とし、鼠径部スワブと直腸スワブを比較すること。

方法
ブラジル人患者 102 例を対象として、前向き比較対照疫学研究を実施した。鼠径部スワブと直腸スワブ両方を採取して培養結果を比較した。

結果
直腸スワブと比べて、鼠径部スワブの感度および特異度はそれぞれ 91.8%および 88.7%であった。直腸検体からのコロニー数が少ない場合でも、鼠径部検体からは 100 以上のコロニーが得られた。

結論
鼠径部は、腸管内に定着した多剤耐性菌の監視培養を目的とした場合、代替の検体採取部位になり得ると考えられる。鼠径部スワブ法は、多剤耐性菌の評価において、感度・特異度に優れ、採取に伴う気恥ずかしさも少なく、診療上容易に実施できるものといえる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
直腸スワブによる培養は腸管内の細菌叢を反映するが、多剤耐性菌の検出に関しては、鼠径スワブがその代替になりうることが示された。陰部、鼠径部の汚染が著しいことは、同時に接触感染による伝播のリスクが非常に大きいことも意味している。

医療関連メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の 2 つのメジャーなクローンは、異なった疫学的特徴を有する

Differing epidemiology of two major healthcare-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus clones

C.J. Jeremiah*, J.P. Kandiah, D.W. Spelman, P.M. Giffard, G.W. Coombs, A.W. Jenney, S.Y. Tong
*St Vincent’s Hospital, Fitzroy, Australia

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 183-190


背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)のクローンである ST(sequence type)22 と ST239 は、世界中に広まることに成功している。オーストラリア全体では、医療関連 MRSA の主要な型として ST22 が ST239 に置き換わった。この変化の根底にある理由を理解するために、オーストラリア・メルボルンの 3 次病院で分離されたST22 MRSAと ST239 MRSAについて、それらの疫学と臨床的特徴を比較した。

方法
6 か月以上にわたり、Alfred Health Pathology(AHP)に提出された検体から連続的に臨床データとともに MRSA 分離株を収集した。分離株は、Multilocus sequence typing(MLST:複数部位塩基配列タイピング)に基づく高解像度融解曲線解析法により遺伝子型を決定した。

結果
AHP で分離された 1,079 株の黄色ブドウ球菌のうち、328 株(30%)が MRSA であった。この中で313 株の遺伝子型が決定できた。78 株(25%)が clonal complex(CC)22(ST22 を表す)、142 株(45%)が CC239(ST239 を表す)であった。多くみられたのは、皮膚軟部組織感染症、呼吸器感染症、骨関節感染症であった。多変量ロジスティック回帰分析では、CC239 と比べ、CC22 は、年長の患者(各年の増加について補正オッズ比[aOR]1.04、95%信頼区間[CI]1.02 ~ 1.07)、亜急性期病院の患者(aOR 2.7、95% CI 1.2 ~ 5.8)または長期ケア施設(LTCF)の患者(aOR 5.5、95%CI 2.0 ~ 14.5)と関連していた。患者入院から MRSA 分離までの期間の中央値は、CC239 では 9 日、CC22 では 1 日(P < 0.01)であった。MRSA 株の疫学は病院部門によって異なっていた。

結論
MRSA の CC22 と CC239 は異なるニッチ(生態的地位)を有している。CC22 は LTCF入所中の高齢者と、CC239 は院内の獲得と関連していた。継続して MRSA の制御を達成するためには、LTCF とその入居者を含めた感染制御戦略が求められるようである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
オーストラリアでは、MRSA の疫学が、医療機関、地域、国いずれのレベルにおいても変化してきており、全体としての分離率の低下に加えて、ST239 が減少し、ST22 が相対的に増加している。本検討の結果からは、特に亜急性期病院や LTCF で CC22(ST22)が増加し、それが急性期病院に持ち込まれる一方で、ST239 が ICU や呼吸器病棟を中心に問題となっている状況が読み取れる。なお ST22 はSCC mec IV型、ST239 SCC mec III型の特徴を持つ。

皮膚の消毒処置の変更後に血液透析を受けた患者における黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌血症の発生率の低下

Reduction in Staphylococcus aureus bacteraemia rates in patients receiving haemodialysis following alteration of skin antisepsis procedures

B.J. Stewart*, T. Gardiner, G.J. Perry, S.Y.C. Tong
*Royal Darwin Hospital, Australia
Journal of Hospital Infection (2016) 92, 191-193


本研究では、オーストラリアの Royal Darwin Hospital において 7 年の期間にわたり、血液透析コホートにおける黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)菌血症(SAB)の全症例について調査した。この期間の途中、動静脈瘻および中心静脈カテーテル(CVC)に対する消毒法が、0.5%クロルヘキシジン溶液から 2%クロルヘキシジン溶液へと変更された。登録データを用い、SAB エピソードの発生率を算出した。分割時系列の回帰分析を用い、SAB の経時的傾向を分析した。2%クロルヘキシジンへの変更後、SAB の発生率は平均で 68%低下しており、1患者・年あたり 0.111 件の SAB 症例が予防できたものと推定される。CVC に関連する SAB の発生率は試験期間を通して低いままであった。これらの結果は、動静脈瘻が造設された患者の皮膚の消毒における 2%クロルヘキシジンの使用を支持するものである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
0.5%クロルヘキシジン溶液から 2%クロルヘキシジン溶液へと変更されただけで劇的な菌血症発生率の低下がみられている。個人的には 1%での影響をみてみたい。

集中治療室におけるカルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)のアウトブレイク:多水準の戦略的管理アプローチ

Outbreak of carbapenem-resistant Acinetobacter baumannii in the intensive care unit: a multi-level strategic management approach

G. Molter*, H. Seifert, F. Mandraka,G. Kasper, B. Weidmann, B. Hornei, M. Öhler, P. Schwimmbeck, P. Kröschel, P.G. Higgins, S. Reuter
*Klinikum Leverkusen, Leverkusen, Germany

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 194-198


複数の科にわたる集中治療室においてカルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumanni)のアウトブレイクが発生し、患者 10 例が罹患した。カルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニーの伝播が認められてから数時間以内に、入手可能なデータを収集し、意思決定を行い、さらに集団隔離、一時的な入院の停止、職員の教育、および感染制御対策の強化などのすべての介入について情報伝達しモニタリングするための介入チームが結成された。カルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニー保菌患者を集団隔離するためのエリアが規定され、別の看護チームと別の可動式機器一式が配置された。感染制御対策の強化の開始からわずか 4日後、新たな感染はもはや観察されなかった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
インデックスケースは ICU 入室時に耐性菌保有がわかっていたため、接触予防策がとられていたが、その後、感染伝播が見られ、12 日後に 9 例目が確認されアウトブレイクと判断した事例の対応がまとめられた論文である。早期発見、早期対応の重要性が再確認される報告であった。

脳室内投与中のバンコマイシンの脳脊髄液濃度に関する治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring)

Therapeutic drug monitoring of cerebrospinal fluid vancomycin concentration during intraventricular administration

D. Popa*, L. Loewenstein, S.W. Lam, E.A. Neuner, C.L. Ahrens, A. Bhimraj
*Cleveland Clinic, USA

Journal of Hospital Infection (2016) 92, 199-202


髄膜炎に対するバンコマイシンの脳室内投与については、入手されるデータに限りがある。本研究では、脳脊髄液濃度と相関する臨床的特性を探索した。9 年間にわたり、患者 13 例の脳脊髄液のバンコマイシン濃度を 34 回評価した。脳脊髄液の排出量および投与からの時間と脳脊髄液のバンコマイシン濃度との間に相関が認められた。脳脊髄液中の蛋白質、白血球数またはグルコースについては関連は認められなかった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌などによる髄膜炎に対してバンコマイシンが使用されるが、バンコマイシンは髄液移行性が不良であり、しばしば全身投与に加えて髄腔内投与が行われる。しかしバンコマイシンの髄腔内投与における薬物体内動態は明らかになっていない。本研究では脳脊髄液の産生量や、バンコマイシン投与からの経過時間などが脳脊髄液中のバンコマイシン濃度と相関することが明らかになった。実際にバンコマイシンの髄腔内投与を考慮しなければならない状況は少ないと思われるが、そういった際には薬剤師の協力を得て本研究結果を参考にできるかもしれない。

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Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.