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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

ヒータークーラーユニット:心胸郭手術に不可欠の装置における汚染★★

Heater–cooler units: contamination of crucial devices in cardiothoracic surgery

T. Götting*, S. Klassen, D. Jonas, Ch. Benk, A. Serr, D. Wagner, W. Ebner
*University Medical Center Freiburg, Germany

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 223-228


背景
マイコバクテリウム・キマイラ(Mycobacterium chimaera)感染症のいくつかの症例が、心臓手術を受けた患者で最近報告されている。心臓手術において用いられる、いわゆるヒータークーラーユニットが病原体の増殖および播種のリザーバであることが疑われる。

目的
当院におけるヒータークーラーユニットの汚染状況を評価すること。

方法
装置からの種々の距離において、また手術台周囲の区域において、マイコバクテリアを対象とした空気サンプリングを行った。水関連病原体の代理パラメータとして、非発酵菌についても空気サンプリングを行った。

結果
ヒータークーラーユニットの水タンクから M. chimaera が検出された。装置の作動時に、装置の排気中、ならびに手術台の周囲の区域でも M. chimaera が検出された。作動時のヒータークーラーユニットからの種々の距離において、また手術台周囲の区域において、非発酵菌が検出された。装置の電源を切った場合は、培養結果は陰性のままであった。

結論
ヒータークーラーユニットからの排気は、開胸心臓手術を受ける患者への病原体伝播の経路である可能性がある。技術的な理由からヒータークーラーユニットの位置を変えることは難しいが、手術室からのヒータークーラーユニットの厳格な分離のみが、患者の安全を高めるようである。代理パラメータとして非発酵菌を用いることは、適時のリスク評価のための有効な選択肢と考えることができるであろう。ヒータークーラーユニットのデザインを、汚染される可能性を最小限に保つために変更すべきである。

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監訳者コメント
人工心肺稼働時には冷温水槽による温度調節が必要になる。2015 年 1 月、日本体外循環技術医学会は本件に関連して安全性情報 No.16「手術室における冷温水槽など水路回路を備える装置の衛生管理」で公開されている(http://jasect.umin.ac.jp/safety/pdf/anzen16.pdf)。非結核性抗酸菌が栄養源の乏しい水の中で繁殖し、冷温水槽のコンプレッサーの振動等で発生したエアロゾル中にこれら汚染菌が混入することで手術環境中を汚染するリスクについて複数の報告があがっている。冷温水槽については、製造元より過酸化水素を保存剤として用いる一方、過酢酸あるいは次亜塩素酸ナトリウムによる消毒処理を定期的に設定している。しかしこの 2 工程あることがかえって混乱を生んでいる可能性がある(どちらか一方で他方を省くなど)。また、タンク内に水をいれたまま使用しないで器機を放置することが慣習化している場合も多く水の中で繁殖する細菌の汚染を助長している。さらにタンク間をつなぐチューブ内のバイオフィルムの付着にも注意が必要だ。

非結核性抗酸菌による汚染と関連するヒータークーラーユニットのコンタミネーション除去★★

Decontamination of heater–cooler units associated with contamination by atypical mycobacteria

M.I. Garvey*, R. Ashford, C.W. Bradley, C.R. Bradley, T.A. Martin, J. Walker, P. Jumaa
*Queen Elizabeth Hospital Birmingham, UK

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 229-234


背景
マイコバクテリウム・キマイラ(Mycobacterium chimaera)などの非結核性抗酸菌が、病院の給水システムで広く検出されている。侵襲性M. chimaera 感染症の原因が、心肺バイパス装置のヒータークーラーユニットにあることが最近明らかにされた。

目的
ヒータークーラーユニット内の微生物汚染の程度を評価すること、および微生物量を低減するためのコンタミネーション除去戦略に有用な情報を提供すること。

方法
University Hospitals Birmingham で心肺バイパス手術に用いられているヒータークーラーユニットから水サンプルを採取して、膜ろ過により微生物数を計数した。研究期間中に様々なコンタミネーション除去プロセスを用い、いずれも製造会社による指針に基づいて行った。

結果
ヒータークーラーユニット内の水から、幅広く多様な微生物を含め、生存微生物総数 > 300 cfu/100 mL という数値が得られた。製造会社と協働し、バイオフィルムで汚染された装置内チューブを除去し、その後に過酢酸を用いたコンタミネーション除去レジメンを毎週行うことにより、ヒータークーラーユニット内の水中における微生物数を大幅に減少させた。

結論
最初に装置内チューブを交換した後、週 1 回の微生物学的検査のための水サンプル採取を含めたコンタミネーション除去サイクルが、ヒータークーラーユニット内の水質を許容可能なレベルに維持するために必要である。

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監訳者コメント
人工心肺稼働時には冷温水槽による温度調節が必要になる。2015 年 1 月、日本体外循環技術医学会は本件に関連して安全性情報No.16「手術室における冷温水槽など水路回路を備える装置の衛生管理」で公開されている(http://jasect.umin.ac.jp/safety/pdf/anzen16.pdf)。非結核性抗酸菌が栄養源の乏しい水の中で繁殖し、冷温水槽のコンプレッサーの振動等で発生したエアロゾル中にこれら汚染菌が混入することで手術環境中を汚染するリスクについて複数の報告があがっている。冷温水槽については、製造元より過酸化水素を保存剤として用いる一方、過酢酸あるいは次亜塩素酸ナトリウムによる消毒処理を定期的に設定している。しかしこの 2 工程あることがかえって混乱を生んでいる可能性がある(どちらか一方で他方を省くなど)。また、タンク内に水をいれたまま使用しないで器機を放置することが慣習化している場合も多く水の中で繁殖する細菌の汚染を助長している。さらにタンク間をつなぐチューブ内のバイオフィルムの付着にも注意が必要だ。

心臓手術におけるマイコバクテリウム・ウォリンスキ(Mycobacterium wolinskyi)による手術部位感染症の感染源‐感染症例調査

Source-case investigation of Mycobacterium wolinskyi cardiac surgical site infection

C. Dupont*, D. Terru, S. Aguilhon, J-M. Frapier, M-P. Paquis, D. Morquin, B. Lamy, S. Godreuil, S. Parer, A. Lotthé, E. Jumas-Bilak, S. Romano-Bertrand
*University Hospital of Montpellier, Montpellier, France

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 235-239


非結核性抗酸菌(NTM)であるマイコバクテリウム・ウォリンスキ(Mycobacterium wolinskyi)は、心臓手術を受けた患者 1 例で術後 16 日目に菌血症と、大動脈グラフトにおける大量の定着を引き起こし、再手術と標的抗菌化学療法が必要となった。感染制御チームが、感染源と感染状況の調査を行った。患者の周術期管理は、推奨事項を遵守していた。環境調査では、M. wolinskyi は回収されなかったものの、多様な NTM 種が浄水器および体外循環用のヒータークーラーユニットから採取された水から検出された。この症例と、心臓手術における新興 NTM による感染症に関して増加しつつあるエビデンスから、心臓手術病棟において感染制御手順が導入されることとなった。

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監訳者コメント
環境の汚染が直接手術を受ける患者の感染に結びつくかどうかには、プロセスを含め、評価が必要だと思われるが、浄水器の汚染は非常に気になった。

バイオエアロゾルのサンプリング:サンプリングの機序、生物効率およびフィールド研究

Bioaerosol sampling: sampling mechanisms, bioefficiency and field studies

C.W. Haig*, W.G. Mackay, J.T. Walker, C. Williams
*University of the West of Scotland, UK

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 242-255

医療環境において、病原体の空気伝播が疑われた場合の調査は、研究者にとってこの 100 年以上にわたって課題となってきた。個々の病原体が、環境条件と、それが受ける機械的ストレスに対して特有の反応を示すため、サンプリング装置の選択は明確でない。本研究の目的は、バイオエアロゾルのサンプリング、サンプリング装置およびその方法論についてレビューすることであった。電子データベースを用いて包括的な文献検索を実施し、バイオエアロゾルのサンプリングに関する英文による文献を抽出した。本レビューでは、一般的なバイオエアロゾルサンプリング装置(インピンジャ、サイクロン、インパクタ、フィルタなど)の機序を記述し、それらの装置の長所と短所の両方について、また微生物に対する生物効率に及ぼす影響について説明する。多数の研究が成功した結果を報告しており、作業者の病原体曝露をモニタリングする小型の個人用サンプリング装置の使用から、様々な医療環境で空気中微生物を採集する大型の固定式サンプリング装置に至るまで、バイオエアロゾルサンプリングにおける最良の実践が明らかにされている。最も重要なのは、研究を開始する際には、選択したサンプリング装置の生物効率と、実験条件下で調査対象とする病原体を明らかにすべきである、という要件である。そのような基礎に基づいて、現場の複雑な条件下におけるバイオエアロゾル材料のサンプリングは、低濃度の空気感染病原体の捕捉に成功する確実性を高めてくれる。研究室での実験から現場での使用まで、このレビューは、研究者がバイオエアロゾルサンプリング装置の選択とその適用について、情報に基づいた決定ができるようにするものである。

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監訳者コメントエアーサンプリングの機序がイラストで示されており、とてもわかりやすかった。さらに、医療環境でのエアサンプリングに関するレビューも興味深かった。

標準検査プロトコールが殺芽胞効果に及ぼす影響

Impact of standard test protocols on sporicidal efficacy

R. Wesgate*, G. Rauwel, J. Criquelion, J.-Y. Maillard
*Cardiff University, UK

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 256-262


背景
利用できる市販の殺芽胞製剤が増加している。利用できる標準検査が多数あることと、多様な検査条件(細菌株や芽胞形成菌など)が使用されているため、文献により殺芽胞効果に関するデータの比較を行うことは困難である。

目的
殺芽胞効果の標準検査が、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)およびバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)を対象とした8つの殺生物剤の検出された活性に及ぼす影響を評価すること。

方法
8 つの殺生物製剤、すなわち 2 つの酸化製剤、2 つのアルデヒド剤、3 つの塩化ジデシルジメチルアンモニウム/アミンベース製剤、および次亜塩素酸ナトリウム製剤について、B. subtilis(ACTC 19659)芽胞および C. difficile(NCTC 11209)芽胞を対象とした 4 つの殺芽胞効果の標準検査(BS EN 14347、BS EN13704、ASTM E2197-11およびAOAC MB-15-03)を用いて評価を行った。

結果
用いられた方法を問わず、C. difficile 芽胞は B. subtilis 芽胞よりも殺芽胞剤に対する感受性が高かった。各方法の間で、5 分時点における殺芽胞活性に差はあったが、曝露 60 分時点では差はなかった。塩化ジデシルジメチルアンモニウム/アミンベースの製剤は、適切な中和を行えば殺芽胞作用を示さなかった。これらの殺生物剤について、中和作用のバリデーションは、BS EN 標準検査で記述されている報告書式を用いて確認されたが、生データでは中和が失敗したことが示されているようである。

結論
懸濁液または担体に基づくかにかかわらず、複数の検査において殺芽胞作用を示す不活化について同様のデータが得られた。本研究から、活性を有する芽胞の中和を効果的に行うためには、中和作用のバリデーションに関する詳細なデータを報告すべきであることが示唆される。こうした報告を行わないことは、誤った殺芽胞作用の主張をもたらす可能性がある。

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監訳者コメント
異なる文献や研究間で結果を比較するときに、検討方法が同一であったかどうかを確認することは非常に重要である。本研究では殺芽胞活性を検討するための複数の標準検査の比較を行ったもので、検討プロセスの一つである中和作用に関して十分な検証が行われていない可能性があることを示唆しており、複数の研究間で単純に結果を比較することに警鐘をならしている。

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の乾燥表面バイオフィルムは次亜塩素酸ナトリウムで殺菌されない:感染制御への影響

Staphylococcus aureus dry-surface biofilms are not killed by sodium hypochlorite: implications for infection control

A. Almatroudi*, I.B. Gosbell, H. Hu, S.O. Jensen, B.A. Espedido, S. Tahir, T.O. Glasbey, P. Legge, G. Whiteley, A. Deva, K. Vickery
*Macquarie University, Australia

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 263-270


背景
乾燥した病院環境はバイオフィルム中の病原菌で汚染されており、現在の清掃および消毒薬に問題があると考えられる。

目的
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の乾燥表面バイオフィルムに対する次亜塩素酸ナトリウム溶液の有効性を検討すること。

方法
米国疾病対策センター(CDC)の Biofilm Reactor を適応させ、12 日間にわたる増殖と脱水のサイクルを交互に行うことにより、試験片あたり黄色ブドウ球菌 1.36 × 107 が含まれる乾燥表面バイオフィルムを作成した。バイオフィルムの検出は、live/dead 染色による共焦点レーザー顕微鏡を用いて定性的に、超音波処理生菌数およびクリスタルバイオレット法を用いて定量的に行った。次亜塩素酸ナトリウム(1,000 ~ 20,000 ppm)を乾燥表面バイオフィルムに 10 分間適用し、試験片を 3 回洗い、バイオフィルムの残存生存率を CLSM、菌数、最長 16 日間の長期培養により決定した。曝露前後の分離株の最小発育阻止濃度および最小殺菌濃度試験を行い、1 組について全ゲノムシークエンシングを行った。

結果
次亜塩素酸塩曝露により、菌数は 7 log10 減少し、バイオフィルムバイオマスは 100 分の 1 に減少した。しかし、残存バイオフィルムの染色は、黄色ブドウ球菌生細胞が残存していることを示した。長期に培養すると、黄色ブドウ球菌は再増殖してバイオフィルムを形成した。最小発育阻止濃度および最小殺菌濃度は、曝露後の黄色ブドウ球菌分離株と親株で大きくは変わらなかった。曝露前後の 1 組の全ゲノムシークエンシングから、曝露前後の菌株は事実上同一であることが示された。

結論
次亜塩素酸塩曝露により7 log の殺菌が得られたが、菌は再増殖した。耐性突然変異は認められなかったことから、次亜塩素酸塩耐性は黄色ブドウ球菌のバイオフィルムに固有の性質であることが示唆され、その臨床的重要性をさらに検討する必要がある。

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監訳者コメント
本研究は、バイオフィルム中の黄色ブドウ球菌が20,000 ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム処理後にも残存していることを示したものである。結論にもあるとおり、このような残存微生物が臨床的にどのような影響を及ぼすかは今後の検討課題であるが、バイオフィルム感染症、あるいは環境中のバイオフィルムの感染管理上の問題を示唆する結果といえる。

中国・北京における医療関連感染の点有病率調査:2014 年の調査と解析

Point-prevalence survey of healthcare-associated infections in Beijing, China: a survey and analysis in 2014

J.Y. Liu*, Y.H. Wu, , M. Cai, C.L. Zhou
*Beijing Hospital, Beijing, China

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 271-279


背景
点有病率調査から感染制御の優先順位を決定することができる。

目的
2014 年 5 月、Beijing Nosocomial Infection Control and Quality Improvement Centre は、北京にある 124 の急性期病院を対象とする点有病率調査を組織した。中国の特定地域にある 2 次および 3 次急性期病院における医療関連感染症(HCAI)点有病率に関する調査結果と、点有病率に影響を及ぼす因子を分析し、多種多様な病院で HCAI のモニタリングを行う根拠および資料とすること。

方法
感染管理担当者により実施された疫学的横断調査に基づき、症例を検討し、ベッドサイドでの調査を実施することにより HCAI 点有病率を検討した。

結果
全体で 124 の病院および患者 61,990例を調査し、患者 1,294 例(2.1%)に HCAI 1,389 件(2.2%)が診断された。呼吸器感染症が最も多い HCAI(54.4%、51.7 ~ 56.9%)で、次いで尿路感染症(15.0%、13.2 ~ 16.9%)、消化管感染症(7.7%、6.3 ~ 9.1%)、手術部位感染症(6.3%、5.1 ~ 7.6%)、血流感染症(5.5%、4.3 ~ 6.8%)であった。今回の調査の 3 大病原菌は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アシネトバクター・バウマニー(Acinetobacter baumannii)、大腸菌(Escherichia coli)であった。中心静脈カテーテル挿入、導尿、人工呼吸の実施率は、それぞれ 9.9%、12.4%、3.8%であった。全体で、患者の 23.7%が、調査日またはそれ以前に手術を受けた。HCAI が認められた患者の割合は、集中治療室 14.5%、内科 2.3%、外科 2%であった。下痢が評価例の 0.8%で認められたが、中国ではクロストリジウム・ディフシル(Clostridium difficile)の検査はルーチンには利用できない。

結論
限られた人材およびリソースの地域では、HCAI のリスク因子および疾患負担を明らかにするために、総合的モニタリングの代わりとして HCAI 点有病率の定期調査を実施可能である。

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監訳者コメント
PPS(Point prevalence survey、点有病率調査)は比較的労力が少なく、安価に行えるサーベイランスの手法である。近年では抗菌薬の使用状況のサーベイランスなどにも用いられている。1 つの医療施設で経時的に、あるいはあるタイミングで地域で横断的にサーベイランスを行う時に今後はさらに注目される手法であろう。

オーストラリアにおけるクロストリジウム・ディフシル(Clostridium difficile)感染症の疫学:ビクトリア州における、2010 年から 2014 年までの疾患の時間的傾向および重症度を検討するための強化サーベイランス★★

Epidemiology of Clostridium difficile infections in Australia: enhanced surveillance to evaluate time trends and severity of illness in Victoria, 2010-2014

L.J. Worth*, T. Spelman, A.L. Bull, J.A. Brett, M.J. Richards
Victorian Healthcare Associated Infection Surveillance System Coordinating Centre, Australia

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 280-285


背景
クロストリジウム・ディフシル(Clostridium difficile)の流行株が国際的に多大な医療負担となっており、オーストラリアにおける C. difficile 感染症(CDI)事象の縦断的評価が必要である。

目的
オーストラリアの医療機関における CDI 事象に関して、疾患の時間的傾向および重症度を検討すること。

方法
2010 年 10 月 1 日から 2014 年 12 月 31 日にビクトリア州の公立病院に入院した患者のすべての CDI 事象を Victorian Healthcare Associated Infection Surveillance System に報告させた。CDI は、下痢の検体から毒素産生 C. difficile 菌が分離されることと定義し、市中感染型(CA-CDI)または医療関連(HA-CDI)と分類した。重症疾患は、集中治療室に入院、手術が必要、および/または感染症による死亡と定義した。時間的傾向は、混合効果の Poisson 回帰モデルを用いて検討し、季節性の Walter and Edward 検定を適用して潜在的な周期的パターンを評価した。

結果
全体で、89 の医療機関から CDI 事象 6,736 件が報告された。このうち、4,826 件(71.6%)が HA-CDI で、10,000 病床利用日あたり 2.49 件の率に相当した。HA-CDI の発生率は、第 5 四半期のサーベイランスで最も高く(10,000病床利用日あたり 3.6 件)、その後減少した。重症疾患は、1.66%の事象で報告され、その割合は CA-CDI で HA-CDI と比べて有意に高かった(2.21 対 1.45%、P = 0.03)。HA-CDI の発生率の最高および最低は、それぞれ 3 月および 10 月に認められた。

結論
ビクトリア州の HA-CDI発生率が米国/欧州のサーベイランス報告と比べて低いことを報告した。2012 年から 2014 年に HA-CDI の発生率の減少とともに、季節性が認められた。重症感染症が CA-CDI でより高頻度にみられたことは、市中における今後のサーベイランス強化の根拠となるものである。

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監訳者コメント
本論文は南半球にあるオーストラリア・ビクトリア州での CDI のサーベイランスである。すでにオーストラリアで強毒株が検出されているが、本サーベイランスでの強毒株(027 株のような)の状況は遺伝子解析されていないため、詳細は不明である。病院での(HA-CDI)発生率は2.49 / のべ10,000病床で、過去の米国(1.6 ~ 2.4 / のべ1,000入院患者)やドイツ(3.2 ~ 9.2 / 10,000入院患者)などの報告よりも少ない。オーストラリアにおいて欧米のように劇的な強毒株の拡大が起こらなかった理由として、強毒株の分離後の速やかな対応(CDI の管理ガイドライン、抗菌薬適正使用、手指衛生など)が精力的に実施された結果としていえる。市中感染の CDI が約 28%にみられたことを含め、今後の日本での CDI への対応を考えてゆく上で、有意義な情報である。

入院患者における初発および再発性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の経済的負担の比較:前向きコホート研究

Economic burden of primary compared with recurrent Clostridium difficile infection in hospitalized patients: a prospective cohort study

D.N. Shah*, S.L. Aitken, L.F. Barragan, S. Bozorgui, S. Goddu, M.E. Navarro, Y. Xie, H.L. DuPont, K.W. Garey
*University of Houston College of Pharmacy, USA

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 286-289


背景
再発性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)にかかる追加の医療費を検討した研究はこれまでほとんどない。

目的
初発 CDI のみの入院患者における CDI の入院治療費および入院期間を定量化し、再発性 CDI に罹患した患者と比較すること。

方法
本研究は、初発 CDI と診断された成人入院患者を対象とした前向き観察コホート研究であり、3 か月間の追跡調査によって再発性 CDI エピソードを評価した。合計入院期間、CDI に起因する入院期間、およびそれぞれの入院費を、再発性 CDI エピソードが 1 件以上発生した患者と発生しなかった患者とで比較した。

結果
全体で、62 ± 17 歳(男性 42%)の初発 CDI 入院患者 540 例が組み込まれた。そのうち 95 例(18%)に 101 件の再発性 CDI エピソードが発生した。CDI に起因する入院期間の中央値(四分位範囲)および費用(米ドル)は、初発 CDI のみの患者でそれぞれ 7(4 ~ 13)日および 13,168(7,525 ~ 24,456)米ドルであった。これに対し、再発性 CDI 患者ではそれぞれ 15(8 ~ 25)日および 28,218(15,050 ~ 47,030)米ドルと増加した(それぞれP < 0.0001)。合計入院期間の中央値および費用は、初発 CDI のみの患者でそれぞれ 11(6 ~ 22)日および 20,693(11,287 ~ 41,386)米ドルであった。これに対し、再発性 CDI 患者ではそれぞれ 24(11 ~ 48)日および 45,148(20,693 ~ 82,772)米ドルと増加した(それぞれP < 0.0001)。入院期間中の薬物治療費の中央値は、初発 CDI のみの患者(445 例)で 60(23 ~ 200)米ドル、再発性 CDI 患者で 140(30 ~ 260)米ドルであった(P = 0.0013)。

結論
本研究で、CDI 患者には CDI に起因する有意な医療経済的負担が生じることが示された。経済的コストおよび医療負担は、再発性 CDI 患者で有意に増加した。

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監訳者コメント
米国での前向きコホート研究である。CDI の初発と再発では、入院期間、医療費、薬物治療費のすべてにおいて、約 2 〜 3 倍の差が認められている。再発率は一般的に 25 〜 33%とされており、初発例の医療費は、再発例に比較すればはるかに低くおさえられるため、いかにして再発をさせないかが、医療経済的な課題としてあげられる。フィダキソミシンや便移植は再発率を大きく改善するが、その費用ははるかに高いことは明らかであるが、今後総合的な医療経済を考慮して、再発率の低い治療について「費用対効果」を検討すべきであろう。

デンマークにおける病院感染型尿路感染症の自動サーベイランスシステム

Automated surveillance system for hospital-acquired urinary tract infections in Denmark

O. Condell*, S. Gubbels, J. Nielsen, L. Espenhain, N. Frimodt-Møller, J. Engberg, J.K. Møller, S. Ellermann-Eriksen, H.C. Schønheyder, M. Voldstedlund, K. Mølbak, B. Kristensen
*Statens Serum Institut, Denmark

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 290-296


背景
デンマークの病院感染データベースは、病院管理データ、微生物学的データ、および抗菌薬治療データを用いた自動サーベイランスシステムである。

目的
病院感染型尿路感染症(UTI)の症例定義を定めて評価し、2010 年から 2014 年のサーベイランスデータを報告すること。

方法
病院感染型 UTI のアルゴリズムによって、UTI検査診断例は、2 種類以下の微生物に対して尿培養が陽性であり、少なくとも 1 種類は微生物数が 104 cfu/mL 以上であると定義し、UTI 疑い例は、尿培養が陰性かつ診断コードが UTI であるか、または抗菌薬治療が行われた症例と定義した。尿検体が入院後 48 時間以降および退院後 48 時間未満の間に採取された場合、UTI を病院感染型とみなした。病院感染型 UTI 発生率は、10,000 リスク日あたりの発生件数を算出した。妥当性を検証するため、各日の有病率を算出し、点有病率調査(PPS)データと比較した。

結果
病院感染データベースから、病院感染型 UTI 検査診断例の国内発生率は 10,000 リスク日あたり 42.2 件であり、増加傾向が認められた。PPS と比較して、病院感染型 UTI 検査診断例のアルゴリズムの感度は 50.0%(52 件中 26 件)、特異度は 94.2%(1,955 件中 1,842 件)であった。病院感染データベースと PPS の不一致にはいくつかの理由があり、それには、調査時点で臨床検査結果が利用不可能であったこと、尿道留置カテーテルまたは感染症の臨床的徴候の欠如により結果が調査者によって臨床的に関連がないと判断されたこと、および最初の検体が入院後 48 時間以内に採取されていたにもかかわらず PPS では UTI が病院感染型と判断されたことなどがあった。

結論
病院感染データベースのアルゴリズムは、妥当性が検証された貴重な情報を提供することが判明した。とりわけ、全人口を対象とし、病院感染型 UTI の標準化されたモニタリングを継続できるという利点があることが明らかとなった。

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監訳者コメント
1979 年 5.5%、1999 年 2.1%。2009 年以降手作業によるポイントサーベイランスが年 2 回実施され、病院感染型 UTI は1.6 〜 2.5%と推定された。これまでのサーベイランスは、あくまで自主的な活動であり、対象も病院全体ではなく一部の部署で実施されたもので、また手入力によるものであった。労力と時間のかかる割には、個人の判断に依存し標準化が困難である。本論文ではこれらのマイナス面を改善し、電子化された患者カルテおよび検査データ、処方データから必要な情報を自動的に収集し、サーベイランスするシステムを構築した。デンマークのすべての病院と診療科において実施され、UTI において検証し、その妥当性が確認された。将来日本でもこのような自動サーベイランスシステムは必須となるであろう。

無症候性細菌尿の過剰治療:質的研究

Overtreatment of asymptomatic bacteriuria: a qualitative study

M.M. Eyer*, M. Läng, D. Aujesky, J. Marschall
*Bern University Hospital, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 297-303


背景
無症候性細菌尿の過剰治療が広範に行われており、これによって抗菌薬の副作用、医療制度の過剰コスト、および抗菌薬耐性が引き起こされる可能性がある。国際的なガイドラインによると、無症候性細菌尿は抗菌薬治療の適応ではない(一部の例外を除く)。

目的
治療適応がない状況で、無症候性細菌尿に抗菌薬を使用する理由を明らかにすること。

方法
2011 年にスイスの3 次病院で質的研究を実施した。本研究の目的にかなったサンプリング法によって選ばれた 21 名の内科研修医および指導医に対し、半構造化質問票を用いてインタビューを実施した。専用ソフトウェア(MAXQDA®)を使用し、内容をテーマ別に分けた帰納的アプローチを行って回答を分析した。

結果
21 名のインタビューで、無症候性細菌尿に対する過剰な抗菌薬投与の理由として、以下のような回答が得られた(回答内容の頻度順に記載)。(1)臨床像を考慮に入れずに検査所見に基づいて治療を行っている(17 名)、(2)不安、過剰なまでの慎重さ、患者の予後によい影響が出ることへの期待などの心理学的要因(13 名)、(3)医療機関の文化、同僚からの重圧、患者の期待、適切な意思決定を妨げる過度の仕事量などの外部圧力(9 名)、(4)臨床症状・徴候の解釈が困難(8 名)。

結論
この質的研究で、不要な抗菌薬処方の動機として、医師主体の要因(過剰なまでの慎重さなど)と外部圧力(過度の仕事量など)の両方を明らかにすることができた。また、無症候の患者を検査所見のみに基づいて治療するという高い頻度で挙げられた慣行は、エビデンスに基づくベストプラクティスの認識不足と解釈できた。

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監訳者コメント
今回の検討では、無症候性細菌尿を対象とし、抗菌薬の過剰使用につながる医師の心理的動機・要因についてインタビューを行ったが、ここで得られた結果は、わが国で日常的にみられる医師の行動の現状とかなり共通するところがあるのではなかろうか。本論文は、抗菌薬の適正使用を推進するうえでの心理的課題を改めて明らかにしたといえよう。

非高度集中治療室におけるウイルス性出血熱伝播のリスク管理:スコットランドでのクリミア・コンゴ出血熱症例から得た経験★★

Managing the risk of viral haemorrhagic fever transmission in a non-high-level intensive care unit:experiences from a case of Crimean-Congo haemorrhagic fever in Scotland

K.M. Roy*, S. Ahmed, T. Inkster, A. Smith, G. Penrice on behalf of the Incident Management Team
*Health Protection Scotland, UK

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 304-308


背景
スコットランドでは 2012年、クリミア・コンゴ出血熱症の輸入例を経験した。

目的
本症例に対する公衆衛生の反応および 2 次伝播を防止するために取られた感染対策について検討すること。

方法
本症例の確定に続いて、以下の確実な実施を目的として緊急対策チームが招集された:(1)本症例に接触、あるいは血液・体液の曝露を受けた者全員の適切な評価および追跡調査、(2)治療に使用した器具、採取した検体、および環境の適切な消毒ないし処理。

結果
接触者の調査によって、追跡調査およびモニタリングを要する者 19 人を特定した。2 次感染例は発生しなかった。診断前に採取した検体を特定するのは非常に難しいことが判明した。大半の検体が追跡調査され、一時的に鋭利器材廃棄容器に保管された後、焼却された。少数の検体は回収できず、おそらく通常の院内廃棄のシステムによって廃棄されたと思われる。一方、生化学検査装置および血液検査装置は製造元の説明書に従って除染し、その廃液は下水として廃棄した。本症例のマットレス、血圧計、およびパルスオキシメータのプローブは焼却した。病室など患者環境の除染は国内の専門家のガイダンスに従って行った。

結論
ウイルス性出血熱(VHF)例の管理に関して、当時利用可能であった英国のガイドラインを参照したところ、2 次伝播のリスクを下げる方法について情報を得ることができた。しかしながら、高度でない隔離環境でVHF 患者を管理しなければならない状況での、様々な感染制御上の現実問題に直面した。国内の専門家と緊急対策チームとの緊密な連絡が、新たに出現する問題に対して適切に対応する鍵となった。

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監訳者コメント
監訳者コメント:本論文は、VHF 患者を実際に経験したスコットランドの病院の初動動作とリスクアセスメント・感染対策を具体的に述べたものである。ロンドンの専門病院に移送するまでの数日間が臨場感をもって述べられている。わが国で VHF 疑い患者が発生した場合、それも同様の施設で発生した場合の対応について、参考になるに違いないと思われる。一読をお勧めする。

サウジアラビア・ジェッダにおける医療従事者のMERSコロナウイルス(MERS-CoV)感染:初発症例の調査

MERS-CoV in a healthcare worker in Jeddah, Saudi Arabia: an index case investigation

S. Shalhoub*, S. Abdraboh, R. Palma, H. AlSharif, N. Assiri
King Fahad Armed Forces Hospital, Saudi Arabia

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 309-312


2015 年 9 月、サウジアラビア・ジェッダにおいて医療従事者の中東呼吸器症候群(MERS)感染が確定された。当時、ジェッダには MERS の確定例がなかったことを考慮し、初発症例の疫学調査を実施した。その結果、MERS のアウトブレイクの最中の2015 年 8 月にヨルダンの病院にいた者が、その後ジェッダで医療機関を受診し、初発症例の感染源となった可能性が高いことが判明した。

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監訳者コメント
サウジアラビアでは MERS の発生が続いていたが、確定例を丁寧に追跡していくことで、サウジアラビアの国内発生例からの感染ではなく、ヨルダンからの輸入例に職業的曝露を受けていたことが明らかになった。疫学調査の重要性を改めて強調するものであるといえる。

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Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.