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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

脳内脊髄液シャント感染の予防および管理

Prevention and management of internal cerebrospinal fluid shunt infections

J. Dawod*, A. Tager, R.O. Darouiche, M. Al Mohajer
*University of Arizona, USA

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 323-328


脳脊髄液シャント感染は、脳脊髄液シャント留置の合併症であり、重篤で壊滅的となりうる。シャント感染の重要なリスク因子は、若年の脳脊髄液シャント感染歴または再留置歴、シャントの種類である。半数を超える症例で、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)およびコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が原因となる。その病因において、バイオフィルムが中心的な役割を果たしている。脳脊髄液培養は依然として脳脊髄液シャント感染診断のゴールドスタンダードである。脳脊髄液シャント感染予防の最も有効な方法は、滅菌方法の最適化と、適切かつ適時の抗菌薬予防投与である。脳脊髄液シャント感染の管理では、シャントのすべての部品の除去、外部装置の一時的留置、静注抗菌薬の投与と、その後のシャント再留置が必要になることが多い。本総説では、脳脊髄液シャント感染のこれまでの報告結果をまとめ、分析するとともに、この重要な事象の予防および管理について検討する。

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監訳者コメント
脳脊髄液シャントも体内挿入異物でありプラスチック製のチューブは病原菌の産生するバイオフィルムの温床となるため、シャント感染時にはチューブの抜去が治療の上での鍵を握る。バイオフィルム産生菌によるシャント感染の場合、治癒せしめるためにはチューブの抜去と抗菌化学療法の組み合わせが重要である。
他の体内挿入デバイス関連感染と同様人工の異物である脳脊髄液シャントのチューブはバイオフィルム感染の温床となる。従って長期留置目的の脳脊髄液シャントチューブの留置を行う際には衛生的な挿入手技の遵守が重要である。

手術中の高濃度吸入酸素が手術部位感染に及ぼす影響:ランダム化対照試験のメタアナリシス

Effect of intra-operative high inspired oxygen fraction on surgical site infection: a meta-analysis of randomized controlled trials

W. Yang*, Y. Liu, Y. Zhanga, Q-H. Zhao, S-F. He
*Second Affiliated Hospital of Anhui Medical University, China

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 329-338


背景
手術部位感染(SSI)は著しく高い死亡率および罹患率の原因となる。手術を受けた患者への高濃度吸入酸素(FiO2)の投与は潜在的な予防戦略となる可能性がある。

目的
手術を受けた患者において、高 FiO2 と通常 FiO2 とを比較したランダム化対照試験のメタアナリシスを実施し、高 FiO2 が SSI の発症に及ぼす影響を推定すること。

方法
全身麻酔下で手術を受け、SSI が認められた成人を対象に高 FiO2 と通常の FiO2 を比較したランダム化対照試験(2015 年 12 月まで)の包括的な検索を実施した。

結果
本研究は、ランダム化対照試験 17 試験の患者 8,093 例を対象とした。感染率は、対照群で 13.11%、高酸素群で 11.53%であり、全リスク比は 0.893 であった(95%信頼区間[CI]0.794 ~ 1.003、P = 0.057)。また、国、SSI の定義、手術の種類で層別化したサブグループ解析でも、同様の結果が得られた。しかし、高FiO2 は結腸直腸手術を受けた患者に大きな利益をもたらし、リスク比は 0.735 であった(95%CI 0.573 ~ 0.944、P = 0.016)。

結論
手術、とくに結腸直腸手術を受けた患者への高 FiO2 の投与が SSI リスクを低減することを示唆するエビデンスは中程度である。介入へのより良好な遵守を伴うさらなる研究は、今回のメタアナリシスの結果に影響を及ぼす可能性がある。

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監訳者コメント
高濃度吸入酸素を利用した手術において SSI のリスクが変わる。しかも術式によってそのリスク比が異なることは驚きである。さらなる検証が必要だろう。

Korean Nosocomial Infection Surveillance System による積極的サーベイランスによる 5 年間の胃切除術および人工関節置換術後の手術部位感染発生率低下

Five-year decreased incidence of surgical site infections following gastrectomy and prosthetic joint replacement surgery through active surveillance by the Korean Nosocomial Infection Surveillance System

H.J. Choi*, L. Adiyani, J. Sung, J.Y. Choi, H.B. Kim, Y.K. Kim, Y.G. Kwak, H. Yoo, Sang-Oh Lee, S.H. Han, S.R. Kim, T.H. Kim, H.M. Lee, H.K. Chun, J.-S. Kim, J.D. Yoo, H.-S. Koo, E.H. Cho, K.W. Lee, Korean Nosocomial Infections Sur-veillance System (KONIS)
*Ewha Womans University School of Medicine, South Korea

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 339-346


背景
医療関連感染のサーベイランスは手術部位感染(SSI)の低減と関連している。

目的
Korean Nosocomial Infection Surveillance System(KONIS)が SSI に及ぼす影響を評価するために、その導入以降の KONIS を検討すること。

方法
2008 年から 2012 年の胃切除術、人工股関節全置換術、人工膝関節全置換術施行後の SSI データを分析した。プールした SSI 発生率を年別に計算した。また、連続 3 年以上 KONIS に参加している病院についても同じ分析を行った。SSI のリスク因子を補正することにより標準化した年別の SSI 発生率を計算した。SSI の傾向について Cochrane‐Armitage 検定を用いて分析した。

結果
胃切除術後の SSI 発生率は 3.12%(16,918件中 522 件)であった。5 年間の SSI 粗発生率の有意な低下傾向が認められた。この傾向は 3 年以上参加した病院の分析でも明らかであった。人工股関節全置換術後の SSI 発生率は 2.05%(7,656 件中 157 件)であり、2008 年から 2012 年に有意に低下した。人工股関節全置換術後 SSI のリスク因子は、全米病院感染サーベイランスのリスク指標、外傷、再手術、および年齢(60 ~ 69歳)であった。人工膝関節全置換術後の SSI 発生率は 1.90%(7,648 件中 152 件)であり、この場合も 5 年間に有意に低下した。しかし、リスクを補正した SSI 分析ではいずれの外科手術についても有意な低下は認められなかった。

結論
KONIS による積極的なサーベイランスの結果、胃切除術後および人工関節置換術後の SSI発生率は 5 年間で低下した。

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監訳者コメント
各国のサーベイランスの情報を知るのは興味深いが、医療提供のありかたなどデータをみる上で必要な療養環境の内容やサーベイランスの方法が標準的なものかどうかを認知しておくことが重要である。

8 種類の消化器手術後の手術部位感染症における患者関連のリスク因子

Patient-related risk factors for surgical site infection following eight types of gastrointestinal surgery

H. Fukuda*
*Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Japan

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 347-354


目的
感染症サーベイランスの取り組みの一環として収集できた、8 種類の消化器手術後の手術部位感染症(SSI)における患者関連のリスク因子を明らかにすること。

デザイン
Japan Nosocomial Infections Surveillance(JANIS)および Diagnosis Procedure Combination(DPC)の両プログラムから成る既存のデータセットからの記録の統合。

方法
35 施設の病院の患者データを、2007 年から 2011 年について JANIS および DPC を用いて抽出した。患者関連因子と SSI 発生率を記録し、分析した。SSI に関連するリスク因子について、マルチレベル混合効果ロジスティック回帰モデルを用いて検討した。

結果
全体で、虫垂切除術 2,074 件、胆管、肝臓または膵臓の手術 2,084 件、胆嚢摘出術 3,460 件、結腸手術 7,273 件、食道手術 482 件、胃の手術4,748 件、直腸手術 2,762 件、および小腸手術 1,202 件を分析した。多変量解析を用いて、術中の輸血が、虫垂切除術と小腸手術を除くすべての種類の消化器手術後の SSI のリスク因子であることが示された。さらに、糖尿病が、結腸手術(オッズ比[OR]1.23、P = 0.028)および胃の手術(OR 1.70、P < 0.001)後の SSI のリスク因子であった。ステロイド剤の使用は、胆嚢切除術後(OR 2.83、P = 0.003)および結腸手術後(OR 1.27、P = 0.040)の SSI の発生率上昇と有意に関連していた。

結論
術中の輸血、糖尿病およびステロイド剤使用は、消化管手術後の SSI のリスク因子であり、これらの手術における SSI サーベイランスの一環として含めるべきである。

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監訳者コメント
本論文は、JANIS のデータと DPC を統合したデータセットの解析による日本の消化器手術での SSI のリスク因子を解析したものである。データ源の特性上、患者個人に基づく危険因子を拾い上げることはできないが、その一方、複数施設でのデータ解析で見える特徴があると考えられた。

タンザニアの 3 次病院における帝王切開後の手術部位感染症:前向き観察研究

Post-caesarean section surgical site infections at a Tanzanian tertiary hospital: a prospective observational study

P. De Nardo*, E. Gentilotti, B. Nguhuni, F. Vairo, Z. Chaula, E. Nicastri, M.M. Nassoro, N. Bevilacqua, A. Ismail, A. Savoldi, A. Zumla, G. Ippolito
*Dodoma Regional Referral Hospital, Tanzania

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 355-359


資源が限られた環境における帝王切開後の手術部位感染症(SSI)の決定因子および特徴に関して利用可能なデータはほとんどない。我々は前向き観察コホート研究を実施し、タンザニアの Dodoma Regional Referral Hospital(DRRH)の産婦人科における帝王切開後 SSI の発生率、決定因子、および微生物学的特徴の評価を試みた。3 か月の期間にわたり、帝王切開を受けたすべての妊婦を登録し、30 日間の追跡調査を行った。帝王切開後の SSI は 224 例(48%)の女性で発生した。10 例(2.1%)の女性のみが、切開前の抗菌薬予防投与を受けていた。感染症の予防と制御、ならびに DRRH において上昇中の帝王切開後 SSI の発生率を抑えるために、緊急の介入が必要である。

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監訳者コメント
医療水準が大きく異なる国では、感染対策のあり方も大きく異なる。医療支援のための情報源としては意義があろう。

オランダにおけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)拡散に関するリファレンス ラボラトリーを焦点に置いたモニタリング

Monitoring the spread of meticillin-resistant Staphylococcus aureus in The Netherlands from a reference laboratory perspective

T. Donker*, T. Bosch, R.J.F. Ypma, A.P.J. Haenen, W.M. van Ballegooijen, M.E.O.C. Heck, L.M. Schouls, J. Wallinga, H. Grundmann
*University of Groningen, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 366-374


背景
オランダでは、病院におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)を制御する取り組みは、入院時の厳格な患者スクリーニングと規定されたリスクカテゴリーに当てはまる患者の隔離によって、ほぼ成功してきた。しかし、オランダの病院で MRSA が発生しないわけではなく、いずれのリスクカテゴリーにも属さないかなりの数の症例が認められている。これらの症例には、検出されていない院内伝播によるものや、未知のリザーバから伝播したものが含まれる可能性がある。

目的
複数施設における MRSA 分離株のクラスターを明らかにして、オランダにおいて観察されていない可能性のあるリザーバの寄与を推定する。

方法
2008 年から 2011 年に Dutch Staphylococcal Reference Laboratory に提出されたすべての MRSA 分離株について利用可能なルーチンのデータに、時間、場所、および遺伝子データを組み合わせたクラスタリング・アルゴリズムを適用して、オランダにおける MRSA クローン系列の地理‐時間的分布のマッピングを行う。

結果
明らかなリスク因子を伴わない分離株 2,966 株のうち、579 株が地理‐時間クラスターの一部を占めていたのに対し、2,387 株は発生源不明の MRSA に分類された。また、multi-locus variable number of tandem repeat analysis(MLVA 法)による特定のクローン複合体の間で、地理‐時間クラスターに属する分離株の割合に顕著な差が認められ、系統特異的な伝播可能性が示唆された。クラスターを認めた分離株の大部分(74%)は、複数施設のクラスターに存在していた。

結論
明らかなリスク因子が認められない患者における発生源が未知の MRSA の頻度が高いことは、ほとんど規定されていない病院外の、ただし遺伝的多様性の高いリザーバの存在を示している。高リスクのクローンの発生および拡散について理解する取り組みには、ルーチンの疫学情報とタイピングデータの中央データベースへの統合が必要である。

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監訳者コメント
3 年間にリファレンス ラボラトリーで取り扱った MRSA のうち、リスク因子が明らかでない 2,966 株の時間、地理、遺伝子情報の解析結果をまとめた論文である。オランダは、入院時のスクリーニングやリスク因子を有する患者の隔離など、徹底した対策を取っており、MRSA 発生率の極めて少ない国である。それでも、病院外に未知の感染源の可能性があること、地理的な特徴を浮かび上がらせたことは、今後の対策にとって極めて重要な結果であると考えられた。

小児科でのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)のアウトブレイクにおけるクローン性の分析の標準法としての全ゲノムシークエンシング

Whole-genome sequencing as standard practice for the analysis of clonality in outbreaks of meticillin-resistant Staphylococcus aureus in a paediatric setting

E. Ugolotti*, P. Larghero, I. Vanni, R. Bandettini, G. Tripodi, G. Melioli, E. Di Marco, A. Raso, R. Biassoni
*Istituto Giannina Gaslini, Italy

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 375-381


メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)は、病院関連感染症の主要原因の1つである。本研究では、小児科入院患児で発生した過去のアウトブレイクに関連した MRSA 株を再検討することにより、サーベイランス目的での全ゲノムシークエンシングの使用の可能性を検討した。全ゲノムシークエンシングデータにより、以前に Sanger シークエンシングおよびパルスフィールド・ゲル電気泳動で得られた遺伝子配列プロファイルが改善され、アウトブレイクの関連株と非関連株が識別された。これにより、株のクローン性を、以前に達成されたよりも高いレベルの解像度で確定できた。本研究により、全ゲノムシークエンシングを用いて病院アウトブレイクを追跡できる可能性が示され、これにより全ゲノムシークエンシングがアウトブレイク調査における標準法となる可能性がある。

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監訳者コメント
全ゲノムシークエンシングにより、より細かな遺伝子変異も検出することができるようになる。しかし細菌は一定の確率で突然変異を繰り返すため、特にアウトブレイク調査の時に「同一の株かどうか」を判定する基準はまだ確立していない。全ゲノムシークエンシングにより、菌の様々な毒性因子なども同時に分かるなどの利点は多いが、その結果を感染対策にどのように活用するかについては、より慎重な議論が必要だろう。

スペインにおいて市中から分離されたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の分子的特性とクローン多様性:クローン配列型 72 の出現

Molecular characterization and clonal diversity of meticillin-resistant Staphylococcus aureus isolated from the community in Spain: emergence of clone sequence type 72

C. Potel*, S. Rey, S. Otero, J. Rubio, M. Álvarez
*Complexo Hospitalario Universitario de Vigo, Spain

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 382-385


配列型 72(ST72)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)が最近我々の病院で検出された。このクローンは欧州で検出されることはまれだが、韓国では市中感染型 MRSA 感染の主要な原因で、病院内にも拡散し、生肉から回収される主な MRSA クローンとしても出現している。スペインにおいて外来患者から分離される MRSA を 9 年間調査した。分離株の 70 %以上が病院で検出される優勢クローンに属していた。ST72 保菌率は有意に上昇していた。MRSA クローンのうちでいずれが優勢であるかが不明瞭になっているようで、継続的調査が求められる。

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監訳者コメント
元来韓国で流行していると報告されていた市中感染型 MRSA クローンの ST72 のスペインにおける流行についての報告である。ST72 は毒性が高いとされる USA300 と同様にSCCmec type IV を保有するが、PVL は陰性である点で USA300 とは異なる。ST72 は 2014 年に日本で報告されているが、バンコマイシンに低感受性であることが特徴であった。交通網の発達により、耐性菌は今後もより容易に国境を越えて伝播していくことが想定される。

配列型 72(ST72)の市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)が新たに入院した患者の鼻腔定着の優勢クローンとして出現した

Sequence type 72 community-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus emerged as a predominant clone of nasal colonization in newly admitted patients

S.Y. Park*, D.R. Chung, J.R. Yoo, J.Y. Baek, S.H. Kim, Y.E. Ha, C.-I. Kang, K.R. Peck, N.Y. Lee, J.-H. Song
*Sungkyunkwan University School of Medicine, Seoul, South Korea

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 386-389


入院患者における市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(community-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus;CA-MRSA)の保菌に関する現在の知識は不完全である。韓国で新規に入院した患者から得た鼻腔定着 MRSA 分離株 637 株の遺伝型特性を検討した。配列型(ST)72が、2007 年から 2008 年、2009 年から 2010 年、2013 年から 2014 年の分離株のそれぞれ 52.1%、46.3%、52.8%を占めた。ST5 および ST239 など医療関連感染症の原因である古典的 MRSA クローンではなく、市中型である遺伝子型 ST72 の MRSA が新規に入院した患者において年齢や出身を問わず優勢株であった。医療関連 CA-MRSA 感染を予防するため、積極的な戦略が必要である。

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監訳者コメント
韓国で流行しているとされる ST72 に分類される市中感染型 MRSA の鼻腔保菌率の増加に関する報告である。ST72 は毒性が高いとされる USA300 と同様に SCCmec type IVを保有するが、PVL は陰性である点で USA300 とは異なる。ST72 は 2014 年に日本で報告されているが、バンコマイシンに低感受性であることが特徴であった。わが国ではまだ韓国と同様の保菌率の上昇などは報告されていないが、ST72 に限らず、わが国でも継続的なサーベイランスにより動向を注視する必要がある。

病院内で起こることは病院内に留まらない:病院廃水システム内の抗菌薬耐性菌

What happens in hospitals does not stay in hospitals: antibiotic-resistant bacteria in hospital wastewater systems

D. Hocquet*, A. Muller, X. Bertrand
*Centre Hospitalier Régional Universitaire, France

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 395-402


病院は、抗菌薬耐性菌のホットスポットであり、その出現および拡散に主要な役割を果たしている。これら大量の抗菌薬耐性菌は、廃水システムを介して病院から放出される。本総説では、病院廃水中の基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌(Escherichia coli)、バンコマイシン耐性腸球菌(enterococci)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の定量的および定性的データを提示し、市中廃水と比較する。これらの抗菌薬耐性菌が廃水処理場と下流の環境において最終的にどのようになるのかも考察する。発表された研究から病院廃水に抗菌薬耐性菌が含まれていることが示されており、これらの菌から生じる負荷はその地域の有病率に左右される。廃水中に廃棄される大量の抗菌薬は継続的な選択圧をかける。病院廃水が、地方自治体の廃水処理場で処理を受けるために廃水本流に注ぐ前に一次処理をするよう推奨している国はごくわずかである。確実なデータはないが、一部の研究から、処理が抗菌薬耐性菌、特に ESBL 産生大腸菌に有利に働く場合があり得ることが示唆されている。さらに、処理場は、細菌種間で抗菌薬耐性遺伝子が移動するホットスポットといわれている。その結果、大量の抗菌薬耐性菌が環境中に放出されるが、この放出がこれら病原体の世界的疫学に寄与しているかどうかは不明である。それでも、世界的に進行する抗菌薬耐性に何らかの役割を果たしていると仮定するのは理にかなっている。抗菌薬耐性はいまや「環境汚染物質」とみなすべきで、新たな廃水処理工程が抗菌薬耐性菌を除去する能力、特に病院廃水から除去する能力を有するかどうかを評価しなければならない。

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監訳者コメント
本総論は病院廃水が環境への影響、とりわけ薬剤耐性菌の供給源となることに警鐘を鳴らしている。現時点で廃水がヒトにおける耐性菌獲得の原因であるとの明確な疫学的証拠はないが、病院の廃水と市中の廃水を比較すると、大腸菌や腸球菌の濃度は変わらないが、ESBL 産生大腸菌や VRE の割合が前者は後者の数倍以上あることが報告されている。折しも 2015 年 5 月に WHO 総会において薬剤耐性(AMR)に関する世界行動計画が出され、2016 年 4月、日本政府は AMR 対策アクションプランを決定し、本格的に耐性菌対策が開始されることになっているが、その計画のなかに病院廃水についての記載はなく、今後の検討事項かもしれない。

スロバキア共和国の急性期病院における抗菌薬使用の点有病率研究★★

Point prevalence study of antimicrobial usage in acute care hospitals in the Slovak Republic

M. Štefkovičová*, S. Litvová, V. Meluš, Z. Krištúfková, A. Bražinová
*Regional Public Health Authority, Slovak Republic

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 403-409


背景
抗菌薬の使用およびその結果生じる耐性の出現が、今なお世界的に増加している。この問題に取り組むには、綿密なモニタリングおよび方針の厳格な実施が重要である。

目的
スロバキア共和国の急性期病院での抗菌薬使用を評価すること。

方法
医療関連感染症の点有病率調査の一環として抗菌薬使用をモニタリングした。欧州疾病予防管理センター(ECDC)によって確立された標準方法に従い、スロバキア共和国の病院 40 施設でサーベイランスを実施した。標準プロトコールに従ってデータを収集した。

結果
スロバキア共和国の病院 40 施設で合計 8,397 例の患者を調査した。そのうち 30.7%が調査時点で抗菌薬の投与を受けていた。630 例は 2 種類以上の抗菌薬の投与を受けていた。抗菌薬使用率は、集中治療室で最も高かった(54.3%)。抗菌薬の処方の頻度は、市中感染の治療で最も高く(48.1%)、次いで医療関連感染症の治療で高かった(11.4%)。周術期の抗菌薬の予防投与は、処方された全抗菌薬の 22.2%で適応であり、投与期間は症例の 81.5%で 24 時間を超えていた。最も多く使用された抗菌薬はフルオロキノロン(20.9%)であり、特に手術以外の予防投与(26.8%)および治療(21.9%)で多く使用されていた。周術期の予防投与に対して高頻度で処方された抗菌薬は、第 1 世代セファロスポリン(23.0%)、フルオロキノロン(14.7%)、および第 2 世代セファロスポリン(11.4%)であった。抗菌薬使用率は侵襲性医療器材を有する患者でより高かった。

結論
本研究で、広域スペクトル抗菌薬の過剰使用、周術期の予防投与の長期化、非経口抗菌薬の高頻度の使用、および処方の適応に関する不十分な記録が判明した。これらの所見は、スロバキア共和国の病院における抗菌薬管理の改善機会を示すものである。

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監訳者コメント
抗菌薬は感染症患者の予後を改善する一方で、過剰使用により耐性出現が大きな課題である ECDC は、欧州における抗菌薬使用状況サーベイランスを継続的に実施し、耐性菌や抗菌薬使用に関する情報を ECDC のホームページで公開している。スロバキア共和国にある 114 の病院のうち急性期病院 40 施設を無作為抽出し、抗菌薬使用状況と院内感染状況について、2012 年の 1 日の点有病率サーベイランス(PPS)が実施された。スロバキア共和国における初めての大規模調査である。日本においても薬剤耐性アクションプランが 2016 年 4 月に出されており、日本全体での状況把握が必要であり、PPS の実施が期待される。

アイルランドの知的障害者長期ケア施設における医療関連感染症および抗菌薬使用の点有病率調査:2013 年

Point prevalence survey of healthcare-associated infections and use of antimicrobials in Irish intellectual disability long-term care facilities: 2013

F.M. Roche*, S. Donlon, K. Burns
*Health Protection Surveillance Centre, Ireland

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 410-417


背景
医療関連感染症(HCAI)および抗菌薬使用は、長期ケア施設(LTCF)で多くみられるが、知的障害者の LTCF でのこれらの問題の負担に関するデータはほとんど得られていない。

目的
アイルランドの知的障害者 LTCF における HCAI 有病率および抗菌薬使用を評価し、今後の HCAI 予防プログラムを計画すること。

方法
2013 年 5 月にアイルランドの知的障害者 LTCF で、欧州のプロトコールを用いて国内の点有病率調査を実施した。本調査は任意であり、知的障害者が全日居住するアイルランドのすべての LTCF に対し、本調査への参加を呼びかけた。データは、現地で収集し、国内のデータ管理センターで分析した。

結果
アイルランドの知的障害者 LTCF 24 施設が参加し、アイルランドの知的障害者 LTCF 入居者の 42%を占める 1,060 例が調査の対象となった。未補正の HCAI 有病率は 4.3%(中央値 2.2、範囲 0 ~ 46.7)であり、気道感染症(1.6%)と皮膚感染症(1.6%)が最も多くみられた。抗菌薬は、適格な入居者の 10%(中央値 7.5、範囲 3.2 ~ 13.9)に対して処方され、全処方の 49%が予防投与の適応であった。尿路感染症(38%)、気道感染症(36%)、皮膚感染症(27%)の予防が予防投与の理由として最も多かった。知的障害者 LTCF における予防投与を目的とした抗菌薬の処方率には相当のばらつきがあり(範囲 2 ~ 29%)、施設の抗菌薬ガイドラインが策定されていた施設は 17%のみであった。

結論
アイルランドの知的障害者 LTCF では、HCAI および抗菌薬使用の負担が相当に存在する(特に皮膚感染症、気道感染症に関して)。これらの感染症のリスクがある知的障害者 LTCF 入居者に対する予防策の指針を打ち出すには、この集団におけるさらなるサーベイランスが必要である。

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監訳者コメント
急性期病院と同様、長期療養型施設においても、医療関連感染、耐性菌と抗菌薬適正使用は大きな課題である。入所者は身体的機能障害、基礎疾患、経管栄養や尿路カテーテルなどの人工物の長期挿入などに加え、知的障害による衛生的行動が困難な場合もあり、その結果感染症を発症するリスクを潜在的にもっている。しかしながら、知的障害者 LTCF での、感染症発生状況や抗菌薬使用については不明の部分が多い。医療関連感染を減らし、ケアを充実させるためには、状況把握は必須である。アイルランドでは 2010 年から、欧州疾病予防管理センター(ECDC)が主導する点有病率調査を実施しており、本論文は 24 施設におけるサーベイランスのデータである。感染対策や抗菌薬適正使用の活動はまだまだ十分ではないことがうかがえる。日本の現状と比較するうえで、非常に参考になる論文である。

英国の病院において抗菌薬使用に関するアドバイスの受け入れを妨げる障壁:質的研究★★

Barriers to uptake of antimicrobial advice in a UK hospital: a qualitative study

J. Broom*, A. Broom, S. Plage, K. Adams, J.J. Post
*Department of Medicine, Sunshine Coast Hospital and Health Service, Australia

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 418-422


背景
病院での感染症専門医および臨床微生物学者の役割は、抗菌薬耐性の増加に伴って拡大しており、病院での抗菌薬適正使用プログラムが開発され、広く用いられることにつながっている。これらの抗菌薬適正使用には多くの場合、使用に関する承認が含まれているが、院内での不適切な使用が続いていることから、技術的なアドバイスと院内での抗菌薬使用についてのロジックがかけ離れている可能性がある。

目的
抗菌薬の適正使用に関するガイダンスの観点から、英国の病院に勤務する医師の経験を調査すること、および処方後の口頭による使用承認プロセスの経験についても調べること。

方法
英国の一教育病院に属する 20 名の医師に半構造化面接を行い、抗菌薬の使用とガバナンスに関する自身の経験について回答を得た。内容をテーマ別に分け、NVivo10 ソフトウェアを用いて系統的な解析を行った。

結果
本研究で、抗菌薬の処方に関し、感染症専門医/臨床微生物学者と医師との関係において次の 3 つの主要なテーマが特定された:(1)組織のヒエラルキーが影響したことによる、感染症専門医/臨床微生物学者への能動的なコンサルテーションの制限、(2)感染症専門医/臨床微生物学者以外のコンサルタントが、臨床上の意思決定において有する当事者意識、および臨床上の自主性に対し異議を唱えるのではないかという懸念、(3)エビデンスに基づくプラクティスと、経験した事例からの教えと間の葛藤。

結論
本研究は、病院における感染症専門医/臨床微生物学者とそれ以外の臨床医との関係を調査する重要性を示すものである。そして、医療従事者間の関係をマネージするよりも、アドバイスすることにのみ大きく焦点を当てた抗菌薬適正使用モデルは、抗菌薬使用を最適にしようとしている感染症専門医/臨床微生物学者の能力を制限する可能性があるといえる。抗菌薬適正使用、具体的には抗菌薬使用承認システムは、医療従事者間の関係の育成および維持に時間と資源を投資することで、より効果的なものとなると考えられる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
感染症のコンサルテーションを受け、同時に抗菌薬適正使用を推進する際、アドバイスしたコンサルテーション内容が的確に伝わり、実際に行われるかどうかは、コンサルタントと主治医との関係に大きく左右される。良好な、分け隔てのない関係を構築し、継続しようと努めるのは、どの医療機関でも、どの状況でも変わらない。重要なのは、アドバイス(リコメンデーション)を単に伝えるのではなく、主治医側の事情に配慮し、実行できる方向に持っていくことであるし、多大な時間と労力をかけねばそのための関係は構築できない。同時に、当事者として問題を共有し、尊重しながらともに解決してゆくという姿勢も欠かすことができない。本研究もまさにそのことを示しているように思える。

国内の抗菌薬予防投与ガイドラインの遵守が人工股関節全置換術や人工膝関節全置換の術後感染症に与える影響

Impact of adherence to local antibiotic prophylaxis guidelines on infection outcome after total hip or knee arthroplasty

J. Chandrananth*, A. Rabinovich, A. Karahalios, S. Guy, P. Tran
*Orthopaedics, Western Health, Australia

Journal of Hospital Infection (2016) 93, 423-427


背景
手術部位感染症(SSI)予防のための術前の抗菌薬投与に関して、国内のガイドラインが存在するが、これらのガイドラインの遵守率を示した研究はこれまで発表されていない。

目的
当病院内における国内ガイドラインの遵守状況、およびガイドラインの遵守が SSI 率に及ぼす影響を検討すること。

方法
本研究は、人工股関節置換術または人工膝関節置換術を受けた患者 1,019 例を対象とした後向き観察研究であった。オーストラリア、メルボルンの都市部の 3 病院で 2年半の間に実施された手術を対象とした。オーストラリア治療ガイドライン Australian Therapeutic Guidelines の抗菌薬予防投与に関するリコメンデーションを用いた。

結果
対象となった手術のうち 61.3%が予防投与ガイドラインを遵守し、38.7%は遵守していなかった。合計の SSI 率は 2.7%であり、ガイドラインを遵守した手術の SSI 率は 1.7%であったのに対し、不遵守の SSI 率は 5.0%であった(P < 0.01)。全体として、患者の 98.4%がガイドラインに記載された抗菌薬を投与されていた。手術のうち 1.7%が4 時間を超えていたが、2回目の投与が適切に行われていたのは 23.5%のみであった。体重が 80 kgを超える患者(手術の 49.5%)のうち、ガイドラインに沿った用量で抗菌薬投与が行われていたのは 58.7%のみであった。体重が 80 kgを超える患者で、ガイドラインに沿っていない用量で投与を受けた者の SSI 率は 6.6%であり、SSI のオッズ比は 3.89 であった(信頼区間 1.17 ~ 7.84、P = 0.01)。

結論
ガイドラインの不遵守は、人工膝関節全置換術または人工股関節全置換術を受けた患者の SSI リスクを増大させた。体重 80 kgを超える患者で用量調節を行うというリコメンデーションが遵守された割合は低く、これらの患者では結果的に感染のリスクが高かった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
SSI に対する予防的抗菌薬の投与については、エビデンスの蓄積、ガイドラインの作成と臨床応用、および評価が進んでいるが、まだ不明な点も多く、かつ臨床現場での浸透も不十分である。本研究は後向き観察研究ではあるものの、整形外科領域においてガイドラインに当てはまらない予防投与が行われた例において、SSI の発症率が高いことが示された。ただし体重で用量調節を行うこと以外に、不遵守のどの点が SSI 発症に強く関与したかはまだ不明であり、今後の検討が待たれるところである。

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