JHIサマリー日本語版トップ

レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

小児における抗菌薬適正使用支援プログラムの役割:システマティックレビュー

Role of antimicrobial stewardship programmes in children: a systematic review

A.R. Araujo da Silva*, D.C. Albernaz de Almeida Dias, A.F. Marques, C. Biscaia di Biase, I.K. Murni, A. Dramowski, M. Sharland, J. Huebner, W. Zingg
*Federal Fluminense University, Brazil

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 117-123


国連および世界保健機関は、薬剤耐性(AMR)を健康上の重要な優先課題としており、あらゆる医療環境において AMR を低減するための行動計画を策定した。施設における抗菌薬適正使用支援プログラムの確立が、病院における抗菌薬消費を抑制し、多剤耐性細菌の高い検出率に対処するための重要な介入として推奨されている。PUBMED および Cochrane Database of Systematic Reviews(2007 年 1 月から 2017 年 3 月)を検索して、一般小児科病棟および小児集中治療室(PICU)において抗菌薬消費、広域スペクトル抗菌薬/制限抗菌薬の使用、ならびに抗菌薬耐性および医療関連感染症を抑制するための抗菌薬適正使用支援プログラムの有効性を報告した研究を特定した。新生児病棟および抗真菌薬は除外した。2,509 件の論文および抄録のうち、9 件の論文を適格として最終解析の対象とした。すべての研究が、広域スペクトル抗菌薬/制限抗菌薬の使用または抗菌薬消費の減少を報告した。1 件の研究は、PICU における医療関連感染症の減少を報告し、別の 1 件の研究は細菌の耐性を評価して抗菌薬適正使用支援プログラム導入後に影響がなかったことを示していた。抗菌薬使用に関する前向きの監査が、抗菌薬適正使用支援プログラムで最も多くみられた中心的な要素であった(研究 9 件中 8 件)。抗菌薬使用の事前許可が 2 件の研究で報告されていた。報告されていた他の介入は、ガイドラインや書面による情報の提供(研究 9 件中 5 件)、および医療専門家のトレーニング(研究 1 件)であった。特に PICU において、抗菌薬適正使用支援プログラム導入後における抗菌薬消費、および広域スペクトル抗菌薬/制限抗菌薬の使用の減少を示したエビデンスは限られている。抗菌薬適正使用支援プログラムが PICU における医療関連感染症および抗菌薬耐性に及ぼす影響を評価したデータは不足している。PICU において、抗菌薬適正使用支援プログラムを成功させる効果的な要素に関する情報も限られている。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
抗菌薬適正使用支援プログラムも小児医療の背景に合わせた、至適化が必要である。しかも年齢でそのあり方も変化する。未熟児、新生児、乳幼児、学童など、小児期も様々である。

入院患者における抗菌薬療法の適切性を評価する:3 種類の方法の比較

Evaluating the appropriateness of antimicrobial treatment in hospitalized patients: a comparison of three methods

S. Reisfeld* , M. Assaly, E. Tannous, K. Amarney, M. Stein
* Hillel Yaffe Medical Centre, Israel

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 127-132


背景
入院患者における抗菌薬療法の約20% ~ 50%は不適切と考えられ、これは合併症および死亡の増加と関連する可能性がある。抗菌薬療法の適切性を評価するための最良の方法は確立されていない。

目的
2 次病院における適切な抗菌薬療法の実施率を、3 種類の方法を用いて評価すること、および異なる方法間の一致度を明らかにすること。

方法
2016 年中に全身抗菌薬療法を受けたすべての成人入院患者を対象として、単一の日にスクリーニングを行い、点有病率研究を実施した。患者ファイルから臨床データ、検査データおよび治療データを収集し、専門家の意見に基づいた定性的評価により適切性を判定した。さらに、各患者について判定した 11 の質的指標に従って定量的評価を実施した。適切性の厳格な定義は 6 つの重要な質的指標が満たされることとし、あまい定義は少なくとも 5 つの質的指標が満たされることとした。各方法間の一致度はκ統計量を用いて分析した。

結果
組み入れた患者 106 例中、抗菌薬療法が適切であった割合は、評価方法により 20% ~75%の範囲であった。厳格な定義と専門家の意見との間の一致度は非常に低く(κ = 0.068)、あまい定義と専門家の意見との間の一致度は中等度であった(κ = 0.45)。

結論
抗菌薬療法が適切であった割合には評価法によってばらつきがあり、異なる方法間の一致度は低度から中等度であった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
抗菌薬の適正さを確実に評価できる方法は臨床分離菌とその疫学的背景を照合したり、臨床分離菌を確保し具体的な感受性情報を入手できるからである。感染症のすべての場合に、臨床分離菌が特定できるわけではないので、その点に注意が必要である。

1 名の感染症専門医が抗真菌薬の使用に及ぼした影響:東京の 3 次病院における分割時系列分析

Impact of an infectious disease specialist on antifungal use: an interrupted time-series analysis in a tertiary hospital in Tokyo

D. Morii* , N. Ichinose, T. Yokozawa, T. Oda
* Osaka University, Osaka, Japan

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 133-138


背景
抗菌薬適正使用支援プログラムは、患者転帰の改善、有害な帰結の件数減少、耐性の予防、および費用効果的な治療の確実な実施を目的とした抗微生物薬使用の最適化にとって、極めて重要であると考えられている。

目的
抗真菌薬に関する抗菌薬適正使用支援プログラムの有効性および限界を評価すること。

方法
2010 年 10 月、感染症を管理するためのバンドルを当院に導入した。2006 年 4 月から 2016年 5 月における抗微生物薬使用密度に関するデータを収集した。抗微生物薬使用密度の傾向を、分割時系列モデルを用いてバンドル実施前、バンドル実施中、および長期追跡調査中という異なる 3 期間について評価した。主要転帰は静注抗真菌薬の抗微生物薬使用密度(1,000 患者日当たりの 1 日規定用量)、副次的転帰は会計年度当たりの抗真菌薬に対する支出とした。

結果
すべての静注抗真菌薬における抗微生物薬使用密度は、2006 年度の 26.1 から 2015 年度には 9.9 に低下した。バンドル実施前の期間における傾向の変化は有意ではなかった(傾き 0.062、95%信頼区間[CI]-0.180 ~ 0.305)のに対し、バンドル実施中の期間には有意な減少が認められた(傾き 0.535、95%CI:-0.907 ~ -0.164)。長期追跡調査の期間中には、傾向の減速が示された(傾き -0.040、95%CI:-0.218 ~ 0.138)。抗真菌薬に対する総支出は、2006 年度の 52,354,411 円から 2015 年度には 14,073,099 円へと 73%減少した。

結論
本バンドルにより、有意に抗真菌薬の使用が減少し、経時的に費用が節減されたが、3 年以内に一定に達したように、その効果は限定的であった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
著者らの述べている抗真菌薬バンドルには、①レジデント、フェロー、担当医に対して毎週 45 分間の感染症診療講習会の開催、②抗菌薬処方前に血液培養検体の 2 セット以上の提出、③喀痰・尿・はじめとする無菌的でない領域からの真菌検出時の抗真菌薬のルーチンの処方禁止、④抗菌薬適正使用支援チーム活動である。一般細菌とは異なる抗真菌薬処方についても、専門家の立場から適正使用の徹底をはかるべきである。

小児長期ケア施設における抗菌薬使用

Use of antibiotics in paediatric long-term care facilities

M.T. Murray*, C.L. Johnson, B. Cohen, O. Jackson, L.K. Jones, L. Saiman, E.L. Larson, N. Neu
*Columbia University Medical Center, USA

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 139-144


背景
成人長期ケア施設では抗菌薬使用の割合が高く、抗菌薬耐性に関する懸念を引き起こしている。小児長期ケア施設における抗菌薬使用を検討した研究はほとんどない。

目的
小児長期ケア施設 3 施設における抗菌薬使用を記述すること、および抗菌薬使用に関連する因子を記述すること。

方法
2012 年 9 月から 2015 月 12 月にかけて、小児長期ケア施設 3 施設において後向きコホート研究を実施した。医療記録を、人口統計学的データ、医療関連感染症(HAI)、抗菌薬使用および診断検査について精査した。ロジスティック回帰を用いて、抗菌薬使用の予測因子を特定した。感受性検査の結果と抗菌薬による適切なカバーとの関連を、カイ二乗検定により明らかにした。

結果
入居者の 58%(717 例中 413 例)が少なくとも 1 件の HAI を有し、またこれらの入居者の 79%(413 例中 325 例)が少なくとも 1 回の抗菌薬療法コースを受けており、合計で入居者 1,000 人日当たり 2.75 回の抗菌薬療法コースが実施された。1 年を超える登録期間、神経学的疾患の存在、気管切開の存在、および研究期間中における少なくとも 1 回の入院が、施設で補正後、抗菌薬療法を受けることと有意に関連した(すべて P < 0.001)。抗菌薬療法を受けていた HAI の 40%で診断検査が実施されていた。病原体として同定された細菌に対する抗菌薬療法コースの 86%(233 例中 201 例)では、適切なカバーが提供されていた。感受性検査の利用可能性は、適切な抗菌薬の選択と関連しなかった(P = 0.26)。

結論
小児長期ケア施設において抗菌薬の使用が広がっている。小児長期ケア施設における抗菌薬使用のさらなる評価が必要とされる。小児長期ケア施設における不適切な抗菌薬使用に関連する有害転帰(耐性微生物の検出率など)の評価が極めて重要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
小児長期ケア施設における抗菌薬処方の背景には、臨床検査診断の不足とエビデンスの構築自体も遅れている。また、個々の患者は身体的にハンディを背負っており誤嚥性肺炎、ウロセプシス等の合併時には速やかな対応が必要となる。

小児のグラム陰性菌による血流感染症に対する経験的抗菌薬療法を最適化する

Optimizing empiric therapy for Gram-negative bloodstream infections in children

Y. Chao*, C. Reuter, L.K. Kociolek, R. Patel, X. Zheng, S.J. Patel
*Northwestern University Feinberg School of Medicine, USA

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 145-147


グラム陰性桿菌(GNB)が原因の血流感染症の小児における抗菌薬管理は困難な場合がある。本後向きコホート研究では、電子カルテのデータ要素により、GNB が原因の血流感染症に対する経験的抗菌薬療法を最適化する方法を検討した。カテゴリーに基づく GNB 感染症について個々の患者に合わせた感受性パターンの構築、ならびに原因菌と抗菌薬のミスマッチを最小化し、また有効な治療を開始するまでの時間を短縮する機会の特定によって最適化が可能かどうかを調査した。本研究の結果から、抗菌薬療法の開始時、変更時および対象を絞る際に、処方における重要な決定時点に実施可能な潜在的戦略が示唆される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
28 床の小児病院における過去 1 年半に発生した 132 処方の解析である。解析の結果 10件の処方が原因菌と抗菌薬のミスマッチと判断された。自施設の感染症を丁寧に解析することがより最適な経験的抗菌薬療法に反映されることにつながると思われる。

培養陰性感染症における抗菌薬適正使用支援に対する 16S リボソーム RNA ポリメラーゼ連鎖反応検査の寄与の可能性

The potential contribution of 16S ribosomal RNA polymerase chain reaction to antimicrobial stewardship in culture-negative infection

S. O’Donnell*, L. Gaughan, M. Skally, Z. Baker, K. O’Connell, E. Smyth, F. Fitzpatrick, H. Humphreys
*Beaumont Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 148-152


広域スペクトル抗菌薬を用いた経験的療法により、得られた試料で培養陰性が示され、治療の根拠付けが困難になることが多い。本研究では、患者 60 例から得た試料 78 個における 16S rRNA PCR の結果を後向きに検討した。16S rRNA が 28 例(47%)で検出され、5 例(21%)で抗菌薬が de-escalation された。細菌 DNA は 32 例(53%)で検出されず、2 例(8%)で抗菌薬が中止された。脳神経外科患者では陽性結果(53%対34%)および治療の根拠付け(17%対12%)の割合が高かった。特定の患者群において、16s rRNA PCR は抗菌薬療法の対象を絞る上で有用な抗菌薬適正使用支援ツールである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

迅速分子診断グラム陽性血液培養アッセイを用いたバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)菌血症に対する抗菌薬療法の最適化

Optimization of antimicrobial therapy in vancomycin-resistant enterococcal bacteraemia using a rapid detection Gram-positive blood culture assay

R. Nakagawa, R. Jain, A.B. Bryan, J.D. Chan
Department of Pharmacy, University of Washington Medical Center, Seattle, Washington, USA

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 153-157


迅速分子診断グラム陽性血液培養(BC-GP)アッセイにより、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)血流感染症を迅速に同定することができる。本研究では、VRE 血流感染症患者について、Verigene BC-GP アッセイの導入前(44 例)および導入後(20 例)に評価を行った。VRE 検出までの時間の平均差は、Verigene BC-GP アッセイ導入後の初期では 25.9 ± 4.1 時間(95%信頼区間[CI] 17.6 ~ 34.1、P < 0.001)であった。Verigene BC-GP 導入前期間の患者と比較して Verigene BC-GP 導入後期間初期の患者では、VRE に対する抗菌薬療法開始までの時間の補正した平均差は 18.2 ± 7.8 時間(95%CI 2.5 ~ 33.8、P = 0.024)であった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本論文は Verigene BC-GP アッセイの導入により VRE 血流感染症に対する抗菌薬治療開始時間が変化したかどうかを調べている。処方決定に係る 18 時間の短縮は臨床では有意義であると思われた。

院内アウトブレイクにおける中東呼吸器症候群コロナウイルスの大きい再生産数:サウジアラビアおよび韓国における数理モデリング

High reproduction number of Middle East respiratory syndrome coronavirus in nosocomial outbreaks: mathematical modelling in Saudi Arabia and South Korea

S. Choi*, E. Jung, B.Y. Choi, Y.J. Hur, M. Ki
*Hanyang University Medical College, South Korea

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 162-168


背景
新興感染症の効果的な対策には、伝播率および基本再生産数(R0)の理解を要する。通常、重症急性呼吸器症候群の R0 は 1 を超えると考えられている一方で、中東呼吸器症候群(MERS)の R0 は 1 未満と考えられている。しかし、このことはサウジアラビア王国および韓国の病院で発生した MERS の大規模アウトブレイクについて明らかにするものではない。

目的
MERS の院内アウトブレイクにおける R0 を推定すること。

方法>
R0 は インシデンス減衰と指数関数補正モデルを用いて推定した。サウジアラビア王国および韓国でのアウトブレイクは、公的に入手可能な情報源から収集した MERS 症例のラインリストを用いて比較した。R0 を推定するための発症間隔は 6 日から 8 日と仮定した。試験パラメータ(R0 および対策[d])は、Matlab を用いてモデルを累積発生率の流行曲線に適合させ推定した。

結果
韓国の R0 推定値は、発症間隔 6 日 で最適モデルにおいて 3.9 であった。ピョンテクの病院 1 施設における最初のアウトブレイククラスターの R0 は 4.04 であり、サムスン病院 1 施設の最も大規模なアウトブレイククラスターの R0 は 5.0 であった。発症間隔を 6 日と仮定すると、サウジアラビア王国でのアウトブレイクの R0 はジェッダで 3.9、リヤドで 1.9 であった。

結論
サウジアラビア王国および韓国における MERS の院内アウトブレイクの R0 は 2 ~ 5 の範囲と推定されたが、これは以前の 1 未満という推定値より著しく大きい。したがってこれらの感染症に対処するため、より総合的な対策が必要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
基本再生産数は、「ある感染症の感染者が、その感染症に全く免疫を持たない集団で発生したとき、感染性期間に直接感染させる人数の平均」である。MERS はこれまでの中東のデータでは 1 よりも小さいと考えられてきた。韓国で発生したアウトブレイクでは、スーパースプレッダーと呼ばれる一人で多くの患者に感染させる感染患者が混み合った救急外来に長時間滞在したことがわかっている。基本再生産数はこのような状況により影響を受けることを理解することが、対策を考えるときに重要である。

季節性インフルエンザワクチン接種の臨床効果:免疫不全患者におけるインフルエンザ A(H1N1)のアウトブレイク 2 件の特徴

Clinical efficacy of seasonal influenza vaccination: characteristics of two outbreaks of influenza A(H1N1) in immunocompromised patients

I. Helanterä*, R. Janes, V.-J. Anttila
*Helsinki University Hospital, Finland

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 169-174


背景
インフルエンザ A(H1N1)は免疫不全患者において重篤な合併症を引き起こす。免疫不全患者における季節性インフルエンザワクチン接種の有効性は疑問視されてきた。

目的
免疫不全患者におけるインフルエンザ A(H1N1)のアウトブレイク 2 件について述べること。

方法
我々の施設でインフルエンザ A(H1N1)のアウトブレイクが 2 件発生した。2014 年には腎移植または膵腎同時移植後早期の患者を含む腎移植病棟で、2016 年には悪性腫瘍の化学療法を受けた患者を含む腫瘍病棟で起こった。これらのアウトブレイクを引き起こした要因および季節性インフルエンザワクチン接種の臨床効果を解析した。

結果
患者計 86 例がアウトブレイク中にインフルエンザ A(H1N1)に曝露され、そのうち季節性インフルエンザワクチンの接種状況が不明な患者は 10 例であった。ワクチン非接種患者 38 例のうちインフルエンザ A(H1N1)に感染した患者が 20 例であったのと比較して、ワクチン接種患者では 38 例中 3 例のみであった(P = 0.02)。インフルエンザに関連する死亡は非接種患者では 38 例中 7 例であったのと比較して、接種患者では 38 例中 1 例であった(P = 0.06)。アウトブレイク 2 件の共通の要因には、免疫不全患者の治療を目的として設計されていない古い施設が挙げられた。ワクチン接種はすべての患者に無料で提供されたにもかかわらず患者のワクチン接種率は低く、40 ~ 70%であった。移植病棟の医療従事者のワクチン接種率は低かったが(46%)、腫瘍病棟の医療従事者においてはワクチン接種率は高い(92%)にもかかわらずアウトブレイクが発生した。

結論
免疫不全患者において季節性インフルエンザワクチンは臨床的に有効であり、インフルエンザ感染のリスク低下および死亡率の低下傾向がみられた。これらのアウトブレイク 2 件に関し可能性のある複数の原因が明らかになり、さらなるアウトブレイクを予防するため医療従事者の継続的な意識が求められる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
抗がん剤などを投与されている免疫抑制患者において、ワクチン接種群と非接種群に分けてインフルエンザの罹患率を比較し、ワクチン接種の有効性を示した論文である。ただし本文には本研究の限界として、後向き研究であること、症例数が限られていること、個々の症例の背景が様々で二群間で調整されていないことなどが述べられている。

2011 年から 2015 年の 4 回のインフルエンザシーズンの間に介護施設で発生した呼吸器系アウトブレイクの特徴

Characteristics of respiratory outbreaks in care homes during four influenza seasons, 2011-2015

N. Gallagher*, J. Johnston, H. Crookshanks, C. Nugent, N. Irvine
*Public Health Agency Belfast, UK

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 175-180


背景
介護施設環境において、インフルエンザと他の呼吸器感染症は急速に伝播し、深刻な罹患率および死亡率の原因となる可能性がある。

目的
本研究は北アイルランドの介護施設で 4 年間に発生した呼吸器系アウトブレイクの特徴について記述し、インフルエンザ陽性として特定される可能性が高い呼吸器系アウトブレイクはどれか予測する因子を明らかにすることを目的とする。

方法
本研究期間中のアウトブレイクに関する疫学的、ウイルス学的および臨床的特徴を記述した。インフルエンザに陽性反応を示すアウトブレイクの予測因子を特定するため、届出時に収集した変数を比較した。t 検定を用いて平均値を、χ2 検定を用いて割合を比較し、有意水準は 95%とした。

結果
介護施設では 4 回のシーズンの間に呼吸器系アウトブレイクが 95 件報告され、そのうち 70 件がインフルエンザとして確認された。1,000 例超の症例が報告され、関連する入院は 135 例、死亡は 22 例であった。入居者のワクチン接種率は一貫して高かった(平均 86%)。しかし職員のワクチン接種の報告は不十分であり、報告された場合も一貫して接種率は低かった(平均 14%)。届出までの時間および届出時の症例数は、両方ともアウトブレイクの報告に関する国の推奨に従った予想を上回った。インフルエンザ反応陽性のアウトブレイクに関する臨床的に意味のある予測因子は特定されなかった。

結論
介護施設における呼吸器系アウトブレイクは、高いワクチン接種率にもかかわらず著しい罹患率および死亡率に関連していた。アウトブレイクの届出時にインフルエンザ感染を正確に予測するための指標の欠如は、迅速な報告および臨床検査の必要性を浮き彫りにしている。職員の意識を高めること、国のガイダンスに従った呼吸器系アウトブレイクの管理をトレーニングすること、および職員のワクチン接種率を改善することが推奨される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
イギリスの介護施設における呼吸器アウトブレイクの疫学的特徴を示した論文である。5年間に 1,000 例以上の患者、22 人の死者を含む 95 の呼吸器アウトブレイクが報告され、職員の低いインフルエンザワクチンの接種率など課題が浮き彫りになった。

医療従事者のインフルエンザワクチン接種:1 日の休暇は変化をもたらすか?

Vaccination of healthcare workers against influenza: does a day off make a difference?

H.C. Maltezou*, O. Christophilea, A. Tedoma, P. Katerelos, G. Dounias
*Hellenic Centre for Disease Control and Prevention, Greece

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 181-184


この論文では、ギリシャで 2016 年から 2017 年のインフルエンザシーズンの間に、医療従事者のインフルエンザワクチン接種率を上げるために行われた措置の結果を示す。医療従事者のインフルエンザワクチン接種率は上昇し、2015 年から 2016 年のシーズンには急性期病院で 10.9%、1 次医療病院で 24.3%であったが、2016 年から 2017 年のシーズンには急性期病院で 18%、1 次医療病院で 34.6%となった。医療機関内でのワクチン接種および報酬システムの活用は、インフルエンザワクチン接種率の上昇に有意に関連していた。ワクチンを接種した医療従事者に休暇 1 日を付与することは、インフルエンザワクチン接種率の上昇に最も大きく関連していた。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
医療従事者のインフルエンザワクチン接種率向上に向けたギリシャにおける取り組みの紹介である。ワクチンを無料にするだけではダメで、さらに 1 日休暇を提供するなどの「ご褒美」がないと接種率が上昇しなかった、とのことである。あまりアメを与えすぎるのもどうかと思うが…

下痢を伴う小児癌患者におけるロタウイルスの検出:ロタウイルスワクチンの影響

Detection of rotavirus in paediatric oncology patients with diarrhoea: the impact of rotavirus vaccine

T. Akhtar*, J. Cargill, C. Gerrard, F. Shaw, N.A. Cunliffe, R.P.D. Cooke, B. Pizer
*Alder Hey Children’s Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 185-187


2013 年 7 月に英国全体で行われたロタウイルスワクチン接種の導入前および導入後に地域の小児腫瘍科で治療を受けた患者を対象としたロタウイルスに対する便検査を検討するため、7 年間のデータをレビューした。ロタウイルス陽性の割合はロタウイルスワクチン接種の導入以来減少し、2010 年から 2012 年には 416 検体中 21 検体が陽性であったが、2015 年から 2016 年には 122 検体のうち 1 検体のみが陽性であった。これらの結果に基づくと、下痢を伴う小児および若年の癌患者においてルーチンのロタウイルス検査の有効性は乏しいようである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
ロタウイルスワクチンが普及した状況においては担癌小児患者の下痢の原因としてロタウイルスが検出される頻度が極めて低かったことが示された。わが国でも 2013 年にはロタウイルスワクチン接種率が 45%と報告されており、ロタウイルス検査の適応や有用性について継続的な評価が必要であろう。またワクチン接種歴を聴取することも重要である。

エボラウイルス病治療ユニットで行われた、表面の汚染除去用の塩素溶液に添加した新規の着色指標に関する実地試験

Field testing of a novel colour indicator added to chlorine solutions used for decontamination of surfaces in Ebola treatment units

J. Kang*, K.S. Tyan, K. Jin, A.M. Kyle
*Kinnos Inc., USA

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 188-191


西アフリカではエボラウイルス病の伝播予防のため、塩素溶液による消毒が用いられた。本研究では、リベリアおよびギニアの 94 名の医療従事者および地域社会のリーダーを対象に調査を行い、消毒への理解を評価した。また、塩素消毒の方法を改善するために考案された、新規の着色指標である Highlight の有用性の認識に関する意見を検討した。リッカート尺度による質問票を用いたところ、回答者は Highlight による塩素溶液の適用範囲の改善および信頼性の向上に関し、同意するまたは強く同意すると回答した(P < 0.0001)。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
エボラウイルス病(エボラ出血熱)は、感染症法で第一類に指定された感染症であり、致死率が高く、医療施設内あるいは医療従事者での感染が大きな問題となっている。本感染症は患者の排泄物や血液・体液との接触により感染するため、感染対策では体液等で汚染されないよう個人防護具(PPE)を適切に着脱することと環境表面の汚染除去が極めて重要となる。現地では、使用後の PPE 消毒は 0.5%次亜塩素酸による噴霧を行うため、PPE 全体に満遍なく噴霧できているかを確認することは液体が透明であるため不可能であり、そのことが汚染除去をより難しくしている。近年、新たな添加用の色素 Highlight が開発され、次亜塩素酸の消毒液に添加することで、汚染除去の適切性を青色に着色された消毒液により明確に視覚化できるため、教育訓練のみならず実践現場でも有用であることが本論文のアンケート調査により確認された。
注)リッカート尺度とは、人の態度や行動を調べようとするときに使用される信頼度の高い評価方法で、特に心理的な評価(強く同意するか全く同意しないなど)を段階的(通常は 5 から 7 段階)に実施するアンケートに使用される。

中心静脈カテーテル血培養と末梢血培養の陽性化までの時間差は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)による長期留置カテーテル由来敗血症を診断するのに不正確である★★

Differential time to positivity of central and peripheral blood cultures is inaccurate for the diagnosis of Staphylococcus aureus long-term catheter-related sepsis

H. Bouzidi*, A. Emirian, A. Marty, E. Chachaty, A. Laplanche, B. Gachot, F. Blot
*Gustave Roussy-Cancer Campus, France

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 192-199


目的
中心静脈カテーテルおよび末梢部位から同時に採取した血液培養の陽性化までの時間差は、カテーテルを抜去せずにカテーテル由来血流感染を診断するのに広く用いられている。しかし、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のような一部の病原体に対するこの手法の正確性は日常診療において議論されている。

方法
320 床のがん拠点病院において、6 年の間に、2箇所から同時に採取された一対の血液培養の中に、黄色ブドウ球菌陽性の血液培養検体が 1 つ以上あった患者のカルテを後向きに検討した。微生物学的データは前向きに収集された微生物検査室のデータベースから抽出した。カテーテル由来敗血症の診断を確立または否定するため、対象の 149 例の患者に関するデータを、陽性化までの絶対時間および時間差を知らされていない独立した医師が後向きにレビューした。データの欠損により 48 例のカルテは除外されたため、実際に分析された症例は 101 例であった。62 例は診断が確立され、15 例は否定され、残りの 24 例の診断は不確定であった。

結果
中心静脈カテーテル血および末梢血の両方の血液培養が陽性であった 64 例の患者に関して、黄色ブドウ球菌によるカテーテル由来血流感染患者の陽性化までの時間差は有意に大きかった(P < 0.02)。しかし偽陰性症例の多さが原因となり、黄色ブドウ球菌によるカテーテル由来血流感染の診断に関して標準的なカットオフ限界の 120 分は 100%の特異度を示したが、感度はわずか 42%であった。

結論
これらの結果から、陽性化までの時間差はその高い特異度にもかかわらず、黄色ブドウ球菌によるカテーテル由来血流感染を除外するのに信頼できない可能性が強く示唆される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
黄色ブドウ球菌による血流感染は、血管カテーテル留置中にしばしば発生し、カテーテル抜去に加え、心内膜炎や遠隔感染巣の検索が必須である。末梢血培養陽性の時間とカテーテル血培養陽性の時間との差、すなわち血液培養陽性化の時間差(DPT)は、これまで 2時間以上(つまり、血液培養よりもカテ血培養が 2 時間以上早く陽性になる)あればカテーテル由来の血流感染(CRBSI)が強く疑われるとされてきたが、本論文ではこれまでのDPT の 2 時間ルールは、黄色ブドウ球菌においては「適用できない」としている。DPT が 2 時間以内でもカテーテル感染の可能性があり、カテーテル抜去も視野に入れる必要があると結論づけている。

マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法を用いた AmpC β- ラクタマーゼ産生グラム陰性菌の検出★★

Detection of AmpC β-lactamase-producing Gram-negative bacteria by matrix-assisted laser dsorption/ionization time-of-flight mass spectrometry

C. Li*, S. Ding, Y. Huang, Z. Wang, J. Shen, H. Ling, Y. Xu
*Anhui Medical University, China

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 200-207


背景
AmpC 産生グラム陰性菌種の迅速検出は患者ケアに有用である。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS)は、抗菌薬とその分解産物の分子構造を解析することにより、菌種のβ- ラクタム系抗菌薬耐性を判定する新手法である。

目的
MALDI-TOF MS を用いた AmpC 産生グラム陰性菌の検出について試験するとともに、その方法が診療で使用可能かどうかを解明することである。

方法
菌種の表現型解析および遺伝子配列解析により計 105 菌種を検出した。耐性機序が特定されたAmpC 産生 69 菌種とAmpC 非産生 36 菌種について試験した。セフォタキシム(0.50 mg/mL)、セフタジジム(0.25 mg/mL)、セフトリアキソン(0.50 mg/mL)、セフェピム(0.50 mg/mL)、セフォキシチン(0.25 mg/mL、0.50 mg/mL)それぞれを含有する異なる反応緩衝液(10 mM NH4HCO3/0.005%ドデシル硫酸ナトリウム[pH 8.0])中で細菌を培養した。混合液を 30、60、90、120、240 分間の培養後、13,000 g で 2 分間遠心分離し、その上清をMALDI-TOF MS により解析した。抗菌薬の加水分解ピークと脱カルボキシル化ピークを同定した。

結果
90 分間培養した場合、加水分解されたセフォタキシムは 434 Da と 494 Da でピークを形成し、AmpC 産生菌種検出の感度は 85.5%(59/69)、特異度は 88.9%(32/36)であった。4 時間培養した場合、加水分解されたセフタジジムは 563 Da と 587 Da でピークを形成し、感度は 89.9%(62/69)、特異度は 94.5%(34/36)であった。加水分解されたセフトリアキソン(0.5 mg/mL)、セフェピム(0.5 mg/mL)、および 2 つの濃度のセフォキシチン(0.25 mg/mL、0.5mg/mL)について、解析可能なピークは同定されなかった。

結論
本研究では、 MALDI-TOF MS により AmpC 産生菌種を迅速に検出できることが確認された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
AmpC は、アンブラー分類のクラス C に属するβラクタマーゼで、セラチア、エンテロバクター、シトロバクターは染色体性に持ち、βラクタム薬の使用中に誘導がかかり AmpCが過剰産生し、3 世代セファロスポリンに耐性となるため注意が必要である。一方、クレブシエラなどの AmpC をもたない菌種でのプラスミド性 AmpC の検索は臨床的に極めて重要である。しかしながら、AmpC による耐性検出の CLSI 基準はなく、ボロン酸による阻止帯確認やホッジ試験など培地と試薬による方法が利用されている。本論文ではセフォタキシムとセフタジジムを使用して質量分析による AmpC 検出を実施し、これまでの培地を使用した方法と比較して、質量分析の機器さえあれば実施可能であり、時間および費用の削減にもなる有用な方法を提案している。しかしながら、感度(約 85 ~ 90%)と特異度(約 89 ~ 95%)においてさらなる改良の余地は残る。

repetitive element palindromic PCR 法を用いた院内におけるバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)の迅速モニタリング

Rapid monitoring of vancomycin-resistant Enterococcus faecium in hospital departments by repetitive element palindromic polymerase chain reaction

F. Froeschen*, M. Gajdiss, J. Uebele, A. Meilaender, A. Hoerauf, M. Exner, E. Molitor, G. Bierbaum, S. Engelhart, I. Bekeredjian-Ding
*University Hospital Bonn, Germany

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 208-217


背景
現在、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)による院内感染が増加しており、検出法および衛生対策の改善が必要とされる。医療従事者の衛生対策遵守のモニタリングには、地域での疫学情報が重要である。

目的
VRE の迅速分子タイピングのための半自動 repetitive element palindromic (rep) -PCR 法を評価することである。

方法
1 年の観察期間に VRE 初代分離株を収集し、rep-PCR 法により後向きにタイピングを実施した。VRE 感染率が高い 2 つの部門および全身性 VRE 感染症のリスクが高い患者由来の分離株で分子タイピングを実施した。タイピングの結果は、患者の移動に関する時空間的情報、VRE 検査結果、および multi-locus sequence typing(MLST)の結果と相関した。

結果
1 部門内の VRE 分離株の約 70%が類似クラスターに分類できた。VRE の拡散はそれぞれの部門内に限定された。病院の地理的管轄区域内で VRE 流行株が拡散したというエビデンスはなかった。本研究の結果は、部門レベルでの rep-PCR タイピングの有用性を立証するものである。とはいえ、類似性を求めるために Diversilab® の閾値 ≧ 98%を適用する必要があり、伝播の疑いは vanA /B 遺伝子タイピングおよび患者の時空間的接触に関する情報の集積によって確認する必要があった。MLST により結果が立証された。

結論
優勢に検出されたバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)の拡散は部門レベルに限定され、病院内で広範囲に伝播したというエビデンスはなかった。VRE 伝播の可能性を迅速に検出するために、十分に標準化され、妥当性が確認された(半)自動 rep-PCR 法が有用である。しかし、伝播の疑いは臨床・微生物学的パラメータにより確認する必要がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
VRE を対象とした場合、Diversilab を用いた rep-PCR は分別能が低いことが指摘されていた。本研究では 1,200 床の大規模病院で 1,300 株を超える VRE が検出される中、疫学的な調査、微生物学的な解析対象設定、va 遺伝子・MLST・rep-PCR による解析が包括的に行われ、閾値 ≧ 98%として rep-PCR の分別能を上げる必要性が明らかになった。大規模発生を解析していく際には、手間・コストが限られている中、手法の妥当性に配慮しながら複数の方法を使っていかねばならないが、本研究はその意味でも貴重な参考になると思われる。

「VIOLET」:個人防護具の使用に関する医療従事者のトレーニングを目的とした蛍光ベースの模擬演習

‘VIOLET’: a fluorescence-based simulation exercise for training healthcare workers in the use of personal protective equipment

B. Poller*, S. Hall, C. Bailey, S. Gregory, R. Clark, P. Roberts, A. Tunbridge, V. Poran, B. Crook, C. Evans
*Sheffield Teaching Hospitals NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 229-235


背景
重大な影響を及ぼす感染症(high-consequence infectious disease:HCID)の患者をケアする医療従事者は、個人防護具(PPE)を着用するなど、病原体の曝露からの防御が必要である。PPE のそれぞれの器具の安全性を組み合わせることでプロテクションが発揮される訳であるが、それらの安全かつ正確な使用には、十分なトレーニングと習熟が欠かせない。しかしながら HCID に備えて用いる PPE の組み合わせについては、エビデンスとなるデータもトレーニングも不十分であり、医療従事者間でもかなりのばらつきがある。

目的
HCID 疑い患者のアセスメントにおいて、使用する PPE の組み合わせや脱衣手順に関し、エビデンスに基づいた評価法やトレーニングツールを開発すること。

方法
VIOLET(Visualising Infection with Optimised Light for Education and Training)は、UV 蛍光トレーサーを含有する疑似体液を放出することができる医療用マネキンである。遠隔操作による指示に応じて、マネキンは吐物(青)や咳(赤)を出し、下痢を起こし(黄)、汗(オレンジ色)をかくことができる。医療スタッフは PPE を装着して「患者」のケアにあたり、これらの体液に曝露されながら HCID のリスクアセスメントを行うことになる。脱衣前後の PPE の汚染が UV 光線下で可視化され、ボディマッピングされる。使用時に観察された所見と参加者へのフィードバックも記録されるため、トレーニング演習の一環ともなる。

結果
さまざまな曝露イベントによってひどい汚染がみられ、使用した PPE と脱衣手順の評価が可能であった。観察データと参加者へのフィードバックにより、トレーニング法としてその利点と成功が立証された。

結論
VIOLET を用いた模擬演習は、PPE の組み合わせとその評価に関するエビデンスを提供でき、さらに医療スタッフの PPE 装着と安全な脱衣についてのトレーニングに際し、有用な手段となるといえる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
数種類の体液を出すことができる医療用マネキンを使用した、汚染の程度とプロテクションの効果の調査である。調査状況は抄録本文からは具体的に想像しにくいため、論文中の写真を参照いただきたい。体液の排出は実際の状況を反映するつくりになってはいるが、曝露量・感染性ともに高い状況での想定とみてよいであろう。紫外線による全身の汚染状況の可視化装置は大掛かりであり、実用化されても限られた施設になると予想する。

重大な影響を及ぼす感染症疑い患者の初期アセスメントとケアに用いる個人防護具:紫外線蛍光ベースのシミュレーションを用いた評価

Use of ultraviolet-fluorescence-based simulation in evaluation of personal protective equipment worn for first assessment and care of a patient with suspected high-consequence infectious disease

S. Hall*, B. Poller, C. Bailey, S. Gregory, R. Clark, P. Roberts, A. Tunbridge, V. Poran, C. Evans, B. Crook
*Health and Safety Executive, UK

Journal of Hospital Infection (2018) 99, 218-228


背景
重大な影響を及ぼす感染症(high-consequence infectious disease:HCID)を疑う患者のケアに際して、医療従事者が使用する個人防護具(PPE)の選択には、現在も英国全体でばらつきがある。

目的
HCID を疑う症例のアセスメントの際、現在のPPE の組み合わせを使った場合に医療従事者がどの程度防御されるか調べるとともに、医療従事者用の PPEとして英国全体で統一したものが作れないか、エビデンスの基礎データを提示することである。

方法
ボランティアに「基本レベル」用の PPE(予防策の強化)と、「疑い例」用の5種類のPPEを着用させ、「Violet」を用いて評価した。「Violet」は曝露/汚染イベントを可視化できる紫外線蛍光ベースのシミュレーション法である。汚染を撮影し、マッピングした。

結果
「基本レベル」の PPE の評価では、シミュレーション後に 147/980 の汚染イベント、脱衣後に 31/980 の汚染イベントがみられた。したがってこの PPE では、主に皮膚の露出部の直接的な汚染のため十分な保護作用が得られなかった。一方、「疑い例」用の 5種類のPPE では、シミュレーション後に 1,584/5,110 の汚染イベント、脱衣後にも 12/5,110 の汚染イベントが観察された(顔 2 イベント、首 1 イベント、前腕 1 イベント、下肢 8 イベント)。

結論
「疑い例」用の PPE のすべてで、脱衣後の汚染イベントなど、使用に伴う大きなデメリットが判明した。これにより、体の各部分を最も効果的にプロテクションできることを考慮しつつ、統一した PPEとその脱衣法を考案していく必要性が確認された。本研究自体は、統一したPPE案の策定に関与しているステークホルダーにも提示され、チェックされてきたものではあるが、今後さらなる検討が必要であるといえる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
体液を出すことができる医療用マネキンと、紫外線による全身の汚染可視化装置を組み合わせたシミュレーション「VIOLET」を、異なる PPE 装着状況で試した検討である。PPE装着状況は本文中に写真があるので参照いただきたい。脱衣に伴う汚染状況まで把握できる点は有用であるが、本装置の最大の課題は、大掛かりであるため設置できる施設に限りがあり、かつ大人数を対象とした調査やトレーニングができないことであろう。

サイト内検索

Loading

アーカイブ

最新のコンテンツ

Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.