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集中治療における感染制御バンドル:低中所得国での国際的な横断的調査

Infection control bundles in intensive care: an international cross-sectional survey in low- and middle-income countries

E. Alp* , B. Cookson, H. Erdem, J. Rello, Survey Group
* Erciyes University, Turkey

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 248-256


背景
低中所得国では、国家的なサーベイランスシステム、標準化された感染症定義、感染予防・制御組織や法的基盤が十分でないため、医療関連感染症(HCAI)による負荷が知られていない。

目的
低中所得国における感染予防・制御バンドルの実施状況と最も頻度の高い介入変数を明らかにすること。

方法
感染予防・制御バンドルの実施/方針について自記式調査を行うために、Infectious Diseases International Research Initiative(ID-IRI)グループのメンバーと、低中所得国で感染予防・制御に従事する専門医に質問票を電子メールで配信した。回答のあった国の所得を、世界銀行の定義に従い、低・中・高所得に分類した。次いで、低中所得国の結果を、高所得国から成る対照群と比較した。

結果
今回の調査で、低所得国 1 か国、中所得国 19 か国(欧州 13 か国)から実施状況が報告され、高所得国 8 か国と比較した。中所得国のうち 18 か国(95%)は、院内に感染予防・制御委員会を設置しており、12 か国(63.2%)は、合意による年間計画を作成し、HCAIの報告を提示していた。高所得国では、中所得国よりも、合意による年間計画の作成(それぞれ、87.5%対 63.2%)、HCAI の年間報告(それぞれ、75.0%対 63.2%)の率が高かった。すべての高所得国が、1 つ以上の侵襲的デバイス関連サーベイランスプログラムを作成していた。中所得国のうち 7 か国(37%)では、侵襲的デバイス関連サーベイランスプログラムが存在せず、6 か国(32%)では人工呼吸器関連肺炎予防バンドルが、7 か国(37%)ではカテーテル関連尿路感染症予防バンドルが、5 か国(27%)では中心ライン関連血流感染予防バンドルが存在しなかった。

結論
低中所得国では、限られた資源に適応し、さらに感染率低下の妥当性が検証された低費用かつ高レベルのエビデンス変数に基づく独自のバンドルを開発する必要がある。

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監訳者コメント
感染予防のバンドルが効果的な手段であることが多くの論文で証明されている。バンドルは必須ではないが、ヒューマンエラーを減らし安全な医療提供を標準化するためのツールとして各国でわかりやすい形式で普及させていく必要がある。

看護師配置および看護業務量と、人工呼吸器関連肺炎、死亡率との関連:単一施設前向きコホート研究

Association of nurse staffing and nursing workload with ventilator-associated pneumonia and mortality: a prospective, single-center cohort study

Miia M. Jansson* , Hannu P. Syrjälä, Tero I. Ala-Kokko
* Medical Research Center Oulu, Finland

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 257-263


背景
看護師の配置不足および看護業務量の増加は、患者の有害転帰のリスクや、さらには死亡率の増加と関連している。

目的
看護師の配置および看護業務量が、人工呼吸器関連肺炎や死亡率と関連するかどうかを検討すること。

方法
この前向き観察コホート研究は、2014 年から 2015 年にフィンランドの単一の 3 次教育病院において実施した。1 日あたりの看護師‐患者比、Therapeutic Intervention Scoring System スコア、Intensive Care Nursing Scoring System スコア、Intensive Care Nursing Scoring System 指標を用いて、看護師配置および看護業務量と、予後の関連を検討した。人工呼吸器関連肺炎は、米国疾病対策センター(CDC)の基準に従って定義した。

結果
患者 85 例の評価可能なデータを入手した。全体で、人工呼吸器関連肺炎の発生率は 23.5%、28 日死亡率は 35.3%であった。1 日あたりの看護師‐患者比の最低値(P = 0.006)と Intensive Care Nursing Scoring System 指標の中央値(P = 0.046)で評価した看護師配置、は、人工呼吸器関連肺炎を有する患者のほうが有意に低かった。さらに、Therapeutic Intervention Scoring System スコアの中央値(P = 0.009)と Intensive Care Nursing Scoring System スコアの中央値(P = 0.03)で評価した看護業務量は、人工呼吸器関連肺炎を有する患者のほうが有意に高かった。Intensive Care Nursing Scoring System スコアの中央値(P = 0.02)と 1 日の最高値(P = 0.03)は、非生存者のほうが有意に高かった。

結論
看護師配置がより少ないことと看護業務量の増加は、人工呼吸器関連肺炎および死亡率と関連しており、これにより、十分なスタッフの配置は、救急ケアサービスの利用可能性と質向上の必須条件であることが明らかにされた。

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監訳者コメント
医療は人的資源により成り立っており、業務量が飽和すると目前の緊急度の高い作業に人は集中して取り組む傾向がある。その一方で標準的な業務手順がおろそかになる課題が残る。ようするに業務が飽和に達する前に人材の補充を行うシステムがない、医療の現実が課題である。

集中治療室においてオクテニジンを用いた全身清拭による消毒導入後の院内血流感染症および院内バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)の減少

Reduction of nosocomial bloodstream infections and nosocomial vancomycin-resistant Enterococcus faecium on an intensive care unit after introduction of antiseptic octenidine-based bathing

S. Messler* , I. Klare, F. Wappler, G. Werner, U. Ligges, S.G. Sakka, F. Mattner
* Medical Centre Cologne-Merheim, Germany

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 264-271


背景
ドイツの集中治療室(ICU)において、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)が出現している。大学病院の 32 床の外科 ICU では、手指衛生や環境消毒の強化に関わらず、院内症例数が増加している。

目的
バンコマイシン耐性 E. faeciumn の負荷を軽減するために、オクテニジンによる普遍的な全身清拭を導入すること。

方法
2012 年 1 月から 2014 年 3 月に、バンコマイシン耐性 E. faecium のスクリーニングを入院時と週 2 回実施した。バンコマイシン耐性 E. faecium 感染症/保菌、および病原体を問わずすべての血流感染症(BSI)について、積極的サーベイランスを実施した。今回の前後比較研究の介入は、標準化されたオクテニジンによる全身清拭とした。バンコマイシン耐性 E. faecium の保菌または感染症の異なるサブグループを設定して、頻度・有病率・罹患密度の統計解析に用いた。

結果
介入前の期間(2012 年 1 月から 2013 年 4 月)に、入院時のバンコマイシン耐性 E. faecium 有病率は患者 100 例あたり 4 例で、院内症例の平均罹患密度は1,000 患者・日あたり 7.55 であった。パルスフィールド・ゲル電気泳動分析では、vanA(3 株)および vanB(2 株)遺伝子クラスターの発現がみられた。介入後の期間(2013 年 8 月 から 2014 年 3 月)には、入院時のバンコマイシン耐性 E. faecium 有病率は患者 100 例あたり 2.41 例で、院内症例の平均罹患密度は 1,000 患者・日あたり 2.61 であった(P = 0.001[介入前対介入後])。介入前の期間にバンコマイシン耐性 E. faecium による院内感染症が 13 例で確認されたのに対し、介入後の期間ではバンコマイシン耐性 E. faecium による院内感染症は 1 例であった。BSI 罹患密度は、介入前は 1,000 患者・日あたり 2.98、介入後は 1,000 患者・日あたり 2.06 であった(P = 0.15)。

結論
新興バンコマイシン耐性 E. faecium の疫学は、入院症例と小集団内伝播が複雑に混在しているようであり、感染制御策を困難にしていた。標準化された清拭レジメンを併用したオクテニジンによる普遍的な全身清拭の実施は、院内バンコマイシン耐性 E. faecium の有意な減少をもたらした。

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監訳者コメント
クロルヘキシジン浴と同様にオクテニジン浴により VRE の制御が可能かどうかと言うチャレンジングな検討である。この中で、やはり人的資源がひっ迫し、適切な清拭消毒が行えなくなるとアウトブレイクの阻止には繋がらない。清拭消毒による業務量の増大への対応(つまり人材補充)が肝要である。

人工呼吸器関連肺炎に対する抗菌薬予防投与の有効性

Efficacy of antibiotic prophylaxis against ventilator-associated pneumonia

N. Mirtalaei* , A. Farazi, M. Ebrahimi Monfared, A. Jokar
* Arak University of Medical Sciences, Iran

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 272-275


集中治療室において、人工呼吸器関連肺炎(VAP)は最も重要な問題の 1 つである。急性期脳卒中を有する神経系障害患者 84 例(グラスゴー昏睡スコア 8 点以下)を二重盲検臨床試験に組み入れた。介入群の患者には、ピペラシリン/タゾバクタム(4 g / 0.5 g)を挿管時および 12 時間後に投与した。早期 VAP(挿管後 4 日以内)の発生率は、介入群では機械的換気 1,000 日あたり 9.2 エピソード、対照群では機械的換気 1,000 日あたり 26.9 エピソードであった(オッズ比[OR]0.217、95%信頼区間[CI]0.056 ~ 0.085、P = 0.028)。ピペラシリン/タゾバクタムの予防投与は、早期 VAP を減少させうるが、その有益性は晩期 VAP にまで及ばない。

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監訳者コメント
急性期脳卒中の患者を対象とした二重盲検臨床試験が行われた。患者背景にばらつきが大であるなかで、有意差を持った抗菌薬予防投与が VAP の減少に寄与したという結果は ICU 滞在日数の減少など、医療費の抑制にも寄与すると思われた。

インフルエンザの罹患率が高いシーズン中のポイント・オブ・ケア検査および患者コホーティングの実施:感染予防・制御および臨床転帰に及ぼす影響に関する後向き分析

Implementation of influenza point-of-care testing and patient cohorting during a high-incidence season: a retrospective analysis of impact on infection prevention and control and clinical outcomes

J. Youngs* , B. Marshall, M. Farragher, L. Whitney, S. Glass, C. Pope, T. Planche, P. Riley, D. Carrington
* St George’s University Hospitals NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 276-284


背景
インフルエンザの罹患率が高いシーズン中に、院内伝播を減少させるために堅実な感染予防・制御対策が必要である。

目的
救急外来でのインフルエンザのポイント・オブ・ケア検査と、インフルエンザ病棟における患者コホーティングが、感染予防・制御および臨床転帰に及ぼす影響を評価すること。

方法
研究対象の救急外来でインフルエンザのポイント・オブ・ケア検査を 2018 年 1 月 21 日から実施し、インフルエンザ病棟における患者コホーティングを 2018 年 1 月 25 日から実施した。介入前を 2017 年 11 月 1 日から 2018 年 1 月 20 日までと設定、介入後を 2018 年 1 月 21 日から 2018 年 4 月 30 日までと設定して、後向き「前後比較」分析を実施した。主要評価項目は、病院感染インフルエンザの発生率とした。副次評価項目は、抗ウイルス薬処方、入院期間などとした。入院患者のインフルエンザ陽性の持続期間をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって推定した。

結果
2017 年から 2018 年のインフルエンザシーズン中に、インフルエンザ確定の入院患者は 654 例で、このうち 223 例は介入前に、431 例は介入後に入院した。介入後のほうが、1 日あたりの病院感染インフルエンザの症例数は少なく(0.66 対 0.95、P < 0.0001)、入院期間中央値は短く(5.5 対 7.5 日、P = 0.005)、抗ウイルス薬の処方率は高かった(80%対 64.1%、P < 0.0001)。コホーティングによって、トラストの他の場所で 779 の個室が使用のために解放された。免疫能が正常な患者において、翌日までに PCR 陰性となる一定確率(P)は 0.14(95%信頼区間[CI]0.12 ~ 0.16)であった。これは、免疫能が正常な患者の半数が、診断後 5 日までに PCR 陰性となることを意味する(95% CI 5 ~ 6)。

結論
救急外来でのインフルエンザポイント・オブ・ケア検査およびインフルエンザ病棟での患者コホーティングは、インフルエンザ院内伝播の減少および患者入退院の改善と関連した。免疫能が正常な患者には診断後 5 日の時点で再検査するという対策によって、これらの患者の半数で、気道感染隔離をより早期に解除できるであろう。

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監訳者コメント
日本では、多くの病院で発症後 5 日間、かつ解熱後 2 日間を隔離期間、(職員の)休職としている。半数が 5 日後に PCR 陰性となることと、感染性の関連が気にかかった。

インフルエンザ罹患率が高いシーズン中における救急部への cobas Liat ポイント・オブ・ケア検査の導入:実臨床への導入後の後向き評価

Implementation of the cobas Liat influenza point-of-care test into an emergency department during a high-incidence season: a retrospective evaluation following real-world implementation

J. Youngs* , Y. Iqbal, S. Glass, P. Riley, C. Pope, T. Planche, D. Carrington
* St George’s University Hospitals NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 285-288


インフルエンザ A 型/B 型ウイルスおよび RS ウイルス検出用の cobas Liat influenza A/B & RSV アッセイ(Liat)を、2018 年 1 月21 日から 2018 年 4 月 14日にわたり、ロンドンの大規模病院の成人救急部で使用した。検査した検体 1,027 個中 308 個(30%)でインフルエンザウイルスが検出された。インフルエンザ A 型ウイルスは 157 個(15.3%)で、インフルエンザ B 型ウイルスは 149 個(14.5%)で検出され、RS ウイルスは 28 個(2.7%)で検出された。Fast Track Diagnostics Respiratory Pathogens 21 マルチプレックス PCR および Cepheid Xpert Xpress Flu/RSV アッセイと比較した場合、Liat のインフルエンザ A 型または B 型ウイルスの検出性能は、感度 85%(95%信頼区間[CI]76 ~ 92)、特異度 98%(95%CI 97 ~ 99)、陰性的中率 94%(95%CI 92 ~ 96)および陽性的中率 95%(95%CI 91 ~ 97)であった。

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監訳者コメント
小型遺伝子検査機器用試薬の cobas Liat influenza A/B & RSV アッセイ(Liat)の感度・特異度等を他社製品と比較検討した論文である。欧米では日本よりマルチプレックス PCR 等の多項目遺伝子検査機器試薬が普及している。こうした迅速診断機器試薬の我が国での普及が望まれる。

結腸直腸手術における感染性合併症の低減を目的とした術前の機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の比較:ガイドライン更新の必要性

Preoperative mechanical and oral antibiotic bowel preparation to reduce infectious complications of colorectal surgery - the need for updated guidelines

C.L.F. Battersby* , N.J. Battersby, D.A.J. Slade, M. Soop, C.J. Walsh
* Wrexham Maelor Hospital, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 295-299


背景
機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の併用により、結腸直腸手術における感染性合併症が減少することを示すエビデンスが増加している。事例的エビデンスから、英国および欧州では両処置の併用が用いられるのはまれであることが示唆されている。

目的
大腸外科医におけるこれらの腸管前処置の現在の使用状況およびベネフィットに対する認識状況を確認すること、ならびに術前腸管前処置を取り巻く意思決定に及ぼす影響を明らかにすること。

方法
Association of Coloproctology of Great Britain and Irelandの全会員に対して電子調査表を電子メールで送付し、ツイッターにより促進活動を行った。

結果
計 495 名が調査に回答し、413 名(83.2%)が英国、39 名(7.9%)がその他の欧州諸国、43 名(8.7%)が非欧州諸国であった。回答者は 12 ~ 20% の症例に対して経口抗菌薬を使用していた。機械的腸管前処置、リン酸浣腸、および前処置非実施はそれぞれ、9%から 80%の範囲であった。機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の併用は、5.5%から 18.6%の範囲であった。
53%(495 名中 260 名)が、機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の併用により手術部位感染症が減少することに同意し、32%(495 名中 157 名)が、この併用により吻合部漏出のリスクが低下することに同意した。
κ統計量が 0.06 から 0.27 の範囲であったことから、外科医の文献に関する認識および日常診療における不一致がかなり大きいことが示される。
24%(495 名中 96 名)は、機械的腸管前処置はEnhanced recovery after surgery(ERAS)プロトコールとは適合しないと考えており、41%(495 名中 204 名)は機械的腸管前処置により正常な腸管機能の回復が遅延すると考えていた。

結論
英国および欧州では、機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置が感染性合併症の低減に有効であるというエビデンスがあるにもかかわらず、これらを使用している大腸外科医は極めて少ない。このような結果は、ERAS プロトコールならびに英国および欧州のガイドラインの影響によるものと考えられる。英国および欧州とは逆に、北米のガイドラインでは、機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の併用を ERAS プロトコールに組み込むことを推奨している。本研究は、英国および欧州のガイドラインが、将来的に機械的腸管前処置と経口抗菌薬による腸管前処置の併用を ERAS プロトコールに組み込むことを示唆している。


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監訳者コメント
近年、機械的腸管前処置と経口抗菌薬の併用による腸管前処置が結腸直腸手術における感染性合併症の低減に寄与するというエビデンスが集積している。一方で本論文のように、ヨーロッパでは実際には腸管前処置の実施率が低いことも報告されている。本論文ではその要因として ERAS(ヨーロッパで考案された手術後の回復力強化プログラム)が腸管前処置に消極的なスタンスを取っていることを挙げている。わが国でも腸管前処置の実施率はまだ低いことが繰り返し報告されており、今後の方向性について様々な観点から検討が必要である。

食品について考えるべきである:栄養不良のリスクは医療関連感染症のリスクを高める

Food for thought. Malnutrition risk associated with increased risk of healthcare-associated infection

F. Fitzpatrick* , M. Skally, C. O’Hanlon, M. Foley, J. Houlihan, L. Gaughan, O. Smith, B. Moore, S. Cunneen, E. Sweeney, B. Dinesh, K. O’Connell, E. Smyth, H. Humphreys, K. Burns
* Beaumont Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 300-304


背景
感染症と栄養不良の間には相互関係がある。英国およびアイルランドのガイドラインでは、栄養状態のリスクのスクリーニングにMalnutrition Universal Screening Tool(MUST)を推奨している。MUST スコア 2 以上の患者は、栄養不良のリスクが高いと見なされ、栄養状態の評価への紹介が推奨されている。

目的
医療関連感染症と MUST スコアによる患者の分類との関連を検討すること。

方法
2017 年 5 月に、当院の代表的な 10 病棟で横断研究を実施した。患者の人口統計学的変数、MUST スコア、医療デバイスの有無、医療関連感染症および抗菌薬使用についてデータ収集を行った。

結果
患者 240 例において、医療関連感染症の有病率は 10.4%(25 例)であり、26%(63 例)で栄養不良リスクが高い(MUST スコア 2 以上)と判定された。医療関連感染症を有する患者では、手術の既往(オッズ比[OR]5.5、95%信頼区間[CI]2.1 ~ 14.3、P < 0.001)、中心静脈カテーテル(OR 10.0、CI 3.6 ~ 27.2、P < 0.001)または尿道カテーテル(OR 7.5、95%CI 2.8 ~ 20.0、P < 0.001)の留置、および栄養不良の高リスク(OR 4.3、95%CI 1.7 ~ 11.2、P < 0.001)を有する割合が高かった。MUST スコアが高いことは、多変量回帰分析でも、患者が医療関連感染症を有することの有意な予測因子であった(95%CI 0.2 ~ 0.6、P < 0.001)。

結論
MUST スコアによる評価で栄養不良のリスクを有する患者は、医療関連感染症を有する割合が高かった。ただし、MUST スコアと医療関連感染症との間の時間的関連を検討するため、また様々な医療環境において栄養不良のリスクと医療関連感染症の低減に取り組むための最良の介入法を明らかにするためには、前向き研究の実施が必要である。

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監訳者コメント
監訳者は知らなかったが、MUST という栄養障害のスコアリングシステムは日本でもある程度認知されているようである。本論文はその MUST スコアと医療関連感染症の関係を調べたものである。ただし、その因果関係や、MUST スコアを改善するための取り組みが医療関連感染症を減らすかどうかなどはまだこれからの検討であるとのことである。院内の各種チームとの連携は病院において非常に重要な課題であり、本論文は NST と ICT の協働を促す一助になるのではないだろうか。

2014 年から 2017 年に中国の病院 1 施設で発生した多剤耐性病原体に起因する医療関連感染症クラスターの抗菌薬使用データによる検出

Data on antibiotic use for detecting clusters of healthcare-associated infection caused by multidrugresistant organisms in a hospital in China, 2014 to 2017

Y. Fan* , J. Zou, X. Cao, Y. Wu, F. Gao, L. Xiong
* Union Hospital, Tongji Medical College, Huazhong University of Science and Technology, China

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 305-312


背景
医療関連感染症(HCAI)クラスターの検出は、疾患伝播を制御する上で極めて重要である。

目的
多剤耐性病原体(MDRO)に起因する HCAI クラスターを特定するために、抗菌薬使用に関するデータが代替指標として使用可能であるかどうかを検討すること。

方法
2014 年 1 月から 2017 年 1 月に中国の 3 次病院 1 施設の 4 つの独立した高リスク病棟において、MDRO に関連する HCAI と、抗菌薬使用に関する 10 の指標について後向きに分析を行った。Spearman の相関検定を用いて変数間の相関を評価し、シューハート(Shewhart)管理図アルゴリズムを用いてクラスター特定における性能を評価した。

結果
MDRO に関連する HCAI 症例 856 例を特定した。抗菌薬使用の指標は、一部の例外を除いてすべて、MDRO に関連する HCAI の発生と正の相関を示した(r = 0.2 ~ 0.5、P < 0.05)。例外は、単剤使用の抗菌薬使用率(r = -0.191、P = 0.017)および限定しない薬剤の抗菌薬使用率(r = -0.042、P = 0.601)であった。シューハート(Shewhart)管理図アルゴリズムにより、MDRO に関連する HCAI の 22 のクラスターが特定された。特別グレード抗菌薬の抗菌薬使用率、併用使用された 3 剤の抗菌薬使用率、および患者ごとに使用される抗菌薬の多様性は、MDRO に関連する HCAI のこれら 22 のクラスターの検出において最適な予測値を示した。許容可能であるとして規定した75%というレベルにおいて、これら 3 つの指標は MDRO に関連する HCAI のクラスター を検出する上で最適なサーベイランス指標であると考えられ、感度は 80.00%から 95.00%、陽性的中率は 71.05%から 77.50%の範囲であった。

結論
抗菌薬使用に関するデータの使用は、高リスクの病棟において MDRO に関連する HCAI のクラスターを特定する上で感度の高い方法であり、HCAI サーベイランスを補助する方法として有用となる可能性がある。

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監訳者コメント
ぱっと見によく分からない論文かもしれない。HCAI サーベイランスは細菌検査、あるいは症例定義に基づいた報告に基づくサーベイランスであり、確立されたサーベイランスの一つであるが、検査を出さなかったり報告を怠ったりすることによる症例の漏れや、結果を集計するまでの時間的問題などが指摘されている。抗菌薬の使用状況は、これらの HCAI の発生を感度良く捉える代替指標になるのではないか、という発想に基づく論文である。なるほど広域抗菌薬の使用量が急に増えたとなれば、「そこで何かが起きているのではないか」ということは確かに容易に予想されることであり、本論文では実際に抗菌薬の使用状況は HCAI サーベイランスを補助する方法として有用と結論づけている。ICT や AST でも抗菌薬の使用状況と HCAI の発生状況はしばしば「別々」に報告されているが、統合的に評価すると「あれ?この病棟、なんで抗菌薬の使用量増えているんだろう?」と、新しいものが見えてくるのではないだろうか。

Irish National Adverse Events Study(INAES)の医療記録の後向きレビューおよび欧州の点有病率調査の症例定義から院内獲得感染症を特定する

Identifying hospital-acquired infections using retrospective record review from the Irish National Adverse Events Study (INAES) and European point prevalence survey case definitions

N. Rafter* , R. Finn, K. Burns, S. Condell, R.M. Conroy, A. Hickey, P. O’Connor, D. Vaughan, G. Walsh, D.J. Williams
* Royal College of Surgeons in Ireland (RCSI), Ireland

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 313-319


背景
点有病率調査は、ある時点での院内獲得感染症のデータを収集するが、入院期間全体にわたる発生率や、患者または医療リソースに及ぼす影響に関する情報を提供するものではない。医療記録の後向きレビューは、入院期間全体を調べて、有害事象の有病率、発生率、予防可能性、身体障害および入院の延長期間を明らかにする。

目的
欧州の院内獲得感染症サーベイランス定義が Irish National Adverse Events Study(INAES)の医療記録の後向きレビューによる院内獲得感染症の負担を明らかにする上で適用可能かどうかを確認すること。

方法
INAES において、2 段階から成る方法を用いて入院 1,574 件のレビューを行い、有害事象 247 件を特定した。これらの有害事象を、欧州の院内獲得感染症の症例定義を基準として検討し、事象が院内獲得感染症によるものであったのかを判定した。これらの結果を、2011 年から 2012 年にわたる欧州における点有病率調査のアイルランドに関するデータと比較した。

結果
INAES における院内獲得感染症による有害事象の有病率は 4.4%(95%信頼区間[CI]3.1 ~ 6.1%)、院内獲得感染症による有害事象の発生率は入院 100 件あたり 3.8(95%CI 2.5 ~ 5.2)であった。点有病率調査によるアイルランドにおける院内獲得感染症の有病率は 5.2%であった。院内獲得感染症の種類と病原微生物は、INAES と点有病率調査において同様であった。INAES における院内獲得感染症による有害事象の約 4 分の 3 は予防可能なものであり、7%は永続的な身体障害を引き起こし、7%は死亡に寄与していた。平均で入院期間の 10 日の延長が、院内獲得感染症による有害事象に起因すると考えられ、事象あたり 9,400 ユーロの費用負担に相当した。

結論
医療記録の後向きレビューは、院内獲得感染症の発生率、予防可能性および影響に関する精度の高い情報源であり、点有病率調査による有病率を補うものである。院内獲得感染症による有害事象は、医療システムに対して他の有害事象と比べてより高額の費用負担をもたらす結果となる。

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監訳者コメント
近年の大規模サーベイランスの多くはある一時点に病院に滞在していた患者のみを対象として行う点有病率調査が主体となっている。本研究は従来から行われてきた後向きのカルテ調査によるサーベイランスと点有病率調査によるサーベイランスを比較し、データの一致性と、それぞれのサーベイランスのメリット・デメリットを検証したものである。そして、後向きのカルテ調査によって院内獲得感染症の発生頻度や影響、そしてその予防可能性など点有病率調査では得られない情報が得られると結論し、両方の手法によるサーベイランスを繰り返し行うことが重要としている。どちらかだけではいけない、ということだが、どちらも行うとなると…それはそれで大変だ。

産科病棟における再発性侵襲性 A 群レンサ球菌によるアウトブレイクの調査における全ゲノムシークエンシング

Whole-genome sequencing in the investigation of recurrent invasive group A streptococcus outbreaks in a maternity unit

H. Dickinson* , M. Reacher, B. Nazareth, H. Eagle, D. Fowler, A. Underwood, M. Chand, V. Chalker, J. Coelho, R. Daniel, G. Kapatai, A. Al-Shabib, R. Puleston
* National Infection Service, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 320-326


背景
A 群レンサ球菌(化膿性レンサ球菌)による臨床症状は多様で、無症状の保菌から重篤な侵襲性感染症まで広範囲にわたる。産科関連の侵襲性 A 群レンサ球菌感染症のクラスターは複雑で、とくに再発性の場合は調査および制御が難しい。

目的
4 年にわたり病院 1 施設の産科患者において発生した emm 75 遺伝子型のA 群レンサ球菌/侵襲性 A 群レンサ球菌による感染症エピソード 3 件(2 件は単一系統由来)を検討すること。

方法
エピソードについて記述し、あわせて全ゲノムシークエンシングによる分離株の分析も行った。一塩基多型の差異を、同時期のemm 75 遺伝子型と比較した。

結果
4 年の研究期間にわたり、妊娠女性 7 例が emm 75 遺伝子型 A 群レンサ球菌/侵襲性 A 群レンサ球菌感染症を発症し、1 例が emm 3 遺伝子型侵襲性 A 群レンサ球菌感染症(4 年目)(後に、関連ありとして除外)を発症した。emm 75 遺伝子型 A 群レンサ球菌陽性の女性から出生した児 7 例中 3 例(臨床サンプル/スクリーニングサンプル)およびスクリーニングを受けた医療従事者 3 名は emm 75 遺伝子型 A 群レンサ球菌陽性であった。全ゲノムシークエンシングによる類似性から、これらが共通の系統に由来すること、また共通の伝播源によることが示唆されたが、伝播の方向性は推測できない。しかし、これらの結果は、任意の環境で特定のクローンが長期にわたり持続して存在する可能性を示している。

結論
A 群レンサ球菌陽性のスタッフおよび患者に対して、職業的医療手順の強化、スタッフに対するスクリーニング、および抗菌薬療法を実施した。決定的な感染源の特定はできなかったが、スタッフと患者間の伝播が最も可能性の高い経路と考えられた。4 年の研究期間にわたる同一クローン性 A 群レンサ球菌の伝播パターンから、A 群レンサ球菌は長期にわたり持続して存在していることが示唆される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
A 群レンサ球菌(GAS)は、無症状保菌から侵襲性重症感染症まで臨床症状は多彩であり、呼吸器分泌物や皮膚病変から感染伝播する。5 ~ 12%程度の無症状咽頭保菌者がいることもわかっている。本事例での感染伝播は無症状保菌のスタッフからの伝播が疑わしいが、環境に6.5か月生存するとの報告もあり、職員 → 環境 → 職員 → 患者という経路も考えられる。また、GAS の無症状保菌者の検出も 100%ではなく、また抗菌薬による除菌は 100%ではないため、この様なアウトブレイクを発生させないためには、日頃からの手指衛生を含む予防策は極めて重要と考えられる。

全ゲノムシークエンス法は、パントン・バレンタイン型ロイコシジン陽性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)(USA300)の院内アウトブレイクの長期化および空間的な伝播を明らかにする★★

Whole genome sequencing reveals a prolonged and spatially spread nosocomial outbreak of Pantone-Valentine leucocidin-positive meticillin-resistant Staphylococcus aureus (USA300)

A. Kossow* , S. Kampmeier, F. Schaumburg, D. Knaac, M. Moellers, A. Mellmann
* University Hospital Muenster, Germany

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 327-332


背景
全ゲノムシークエンス法は、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)株の伝播および特性をよりよく調査するのに役立つ。

目的
パントン・バレンタイン型ロイコシジン陽性 MRSA ST8(USA300)の院内アウトブレイクの長期化および空間的な分布の検出と解明について記述した。

方法
アウトブレイクは、当院で多剤耐性菌のルーチンの調査として実施する全ゲノムシークエンス法に基づくタイピングと、綿密な疫学調査との組み合わせにより検出した。感染源を調査するため、手順の観察と環境サンプリングを実施した。アウトブレイクを封じ込めるため、医療従事者との定期的に直接個人との情報伝達は継続し、職員の教育を実施した。

結果
アウトブレイクは 2016 年 10 月から 2017 年 11 月の間に発生し、2 つの別の部門で入院患者および外来患者として治療を受けた 5 例の患者が含まれた。3 例は感染しており、2 例は保菌していた。さらに、医療従事者 3 名がアウトブレイク株を保菌していた。アウトブレイク株は病院環境では認められなかった。感染源が明らかになったのは情報メディアを使用しない情報伝達方法でのコミュニケーションを通してのみであった。医療従事者の除菌および感染管理策によりアウトブレイクは解決した。

結論
全ゲノムシークエンス法は、それがなければ未検出のままであったかもしれないアウトブレイクの解明に役立った。それでもなお、院内伝播を追跡するために疫学調査は必要である。感染管理における個人間(対面)のコミュニケーションの重要性はどんなに強調してもしすぎることはない。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
USA300 は市中感染型 MRSA(CA-MRSA)であり、パントン・バレンタイン・ロイコシジン(PVL)を産生し、パルスフィールド電気泳動(PFGE)の泳動パターンからそう呼ばれている。当初米国の皮膚軟部組織感染症の原因 MRSA として市中で拡がり、やがて全世界へと拡散していった。現在では、医療施設内においてもその原因菌として知られている。本論文はドイツの大学病院の婦人科と新生児室の 2 つの病棟に発生した MRSA アウトブレイクを、全ゲノムシーケンスという新技術を用いつつ、従来からの面談による疫学調査を併用することで、院内感染の全容が明らかとなった貴重な事例報告である。実施した感染対策は、手指衛生の指導強化、チェックリストによる消毒剤を使用した環境整備、保菌患者のムピロシンの鼻腔除菌、オクテニジンによる含嗽と洗髪・皮膚消毒を 5 日間実施している。その後除菌を確認するために除菌終了 3 日後に連続 3 日間培養検査を実施し、さらに長期除菌の確認のために、10 日後、1・3・6・12 か月後に保菌チェックを実施している。

オランダの血液透析室における C 型肝炎ウイルスの伝播:NS5A 遺伝子シークエンス法を用いた詳細なアウトブレイク調査★★

Hepatitis C virus transmission in a Dutch haemodialysis unit: detailed outbreak investigation using NS5A gene sequencing

E. Heikens* , D.J. Hetem, J.P.W. Jousma-Rutjes, W. Nijhuis, G.J. Boland, N.H. Hommes, O.H.D. Thang, R. Schuurman
* Haaglanden Medical Centre, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 333-338


背景
血液透析は C 型肝炎ウイルス(HCV)伝播のリスク因子の 1 つである。2016 年 12 月に、オランダ・ハーグの透析室 1 室で血液透析を受けている患者 2 例において、血液由来のウイルスに対する毎年のルーチンの管理後、HCV セロコンバージョンが認められた。推定される感染時間の後に、HCV に慢性感染している患者 3 例が可能性のある初発症例として特定された。

目的
患者間の伝播を確認し、感染源を特定すること。

方法
分子的研究および診療記録のレビューを行った。

結果
5’UTR シークエンス法に基づくと、インシデント症例も可能性のある初発症例 3 例のうちの 1 例も、HCV 遺伝子型 2b に感染していることが明らかになった。これらのウイルスの疫学的関連性は NS5A 領域のシークエンス法によりさらに検討された。系統発生解析により、インシデント症例および初発症例は、HCV 遺伝子型 2b を有する無関係の対照とは異なる集団であることが明らかになった。診療記録の詳細なレビューにより、HCV の伝播症例を引き起こした可能性のあるインシデント 2 例が特定された。それらは、高い静脈圧に起因する静脈圧検知式ポートの汚染、または初発患者とインシデント症例の両方が居合わせた 1 回の血液透析セッション中に同時に発生したインシデント 2 例の対応中に、透析室の職員による感染予防策の遵守が不完全であったことである。

結論
本研究により、詳細なインシデントの記録と NS5A 領域のシークエンス法のような最新の分子的研究の組み合わせが、血液透析室で発生した一連の HCV の伝播 2 例の解明をもたらしたことが明らかになった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
血液透析により感染した HCV の 2 例の報告であるが、HCV は血液媒介感染症が主体であり、性的接触、周産期感染、粘膜曝露、大腸内視鏡による感染がこれまでに報告されている。透析患者ではガイドラインに沿って年に 1 から 2 回の感染症検査が実施されるため、HCV 感染が発見される機会が当然増える。これらの原因の多くは職員の手指衛生の不備や手袋の不適切な使用により標準予防策が破綻した結果であることが多い。本例のジェノタイプは 2b であり、NS5A 領域のシーケンス解析によりこの 2 例と発端患者とが一致したことから、詳細な疫学調査を実施したところ、この 3 例が同一日に透析を実施し、その際に発端者の透析回路が凝固したこと、感染者 1 例が透析後に動静脈シャント部分からの出血、さらにもう 1 例の感染者の止血を同一のスタッフが実施していた可能性があり、手袋の交換ができていなかったことも一因として考えられた。透析室での感染対策が適切に実施されているかどうかを再確認する必要がある。

侵襲性ムーコル症の推定例および確定例の医療負担:2003 年から 2016 年の間に 3 次病院で治療を受けた患者の多施設疾病費用分析

Healthcare burden of probable and proven invasive mucormycosis: a multi-centre cost-of-illness analysis of patients treated in tertiary care hospitals between 2003 and 2016

S.M. Heimann* , M.J.G.T. Vehreschild, O.A. Cornely, W.J. Heinz, B. Grüner, G. Silling, J. Kessel, D. Seidel, J.J. Vehreschild
* University Hospital of Cologne, Germany

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 339-346


背景
侵襲性ムーコル症はまれな侵襲性真菌感染症の 1 つであるが、死亡率が高い。しかしながら侵襲性ムーコル症の臨床的および経済的な負担に関するデータは不足している。

目的
侵襲性ムーコル症患者の直接的な治療費および追加費用を評価すること。

方法
FungiScope から抽出した侵襲性ムーコル症症例に関し、後向きの疾病費用分析を行った。FungiScope は新興真菌感染症の世界的なレジストリであり、疫学調査プラットフォーム(www.ClinicalSurveys.net)よりアクセス可能である。侵襲性ムーコル症患者の結果は、ドイツ診断群(German Diagnosis Related Group)コーディングに基づき、同様の基礎疾患をもつ患者とマッチさせ、比較した。

結果
侵襲性ムーコル症の推定例および確定例の患者 46 例のうち、31 例(67%)は男性であり年齢中央値は 53 歳(年齢幅は 11 歳 ~ 88 歳)であった。42 例(92%)の患者は最も頻度の高いリスク因子として血液疾患を有していた。費用に関する因子を分析すると、侵襲性ムーコル症に対する抗真菌薬が主要なコスト・ドライバーとして特定され(22,816 ユーロ、95%信頼区間[CI]15,036 ユーロ ~ 32,346 ユーロ)、直接的な治療費全体の平均は 53,261 ユーロ(95%CI 39,660 ユーロ ~ 68,825 ユーロ)であった。マッチさせた患者と比較して、侵襲性ムーコル症患者は 26.5 日長く病院で治療を受け(標準偏差 31.8 日、P < 0.001)、結果として追加費用は平均で 32,991 ユーロ(95%CI 21,558 ユーロ ~ 46,613 ユーロ、P < 0.001)となった。化学療法の非実施、侵襲性ムーコル症に対する外科的処置の非実施、抗真菌薬の予防投与の非実施だけでなく、侵襲性ムーコル症の推定例であることも全体の費用の低下に関連していた。19 例(41.3%)の患者は入院中に死亡した。

結論
本研究により、侵襲性ムーコル症の医療負担は相当大きなものであることが明らかになった。なお治療としての抗真菌薬の選択は、全体の費用に影響を及ぼさなかった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
侵襲性ムーコル症では、抗真菌薬の大量投与を含む集学的な治療をすみやかに開始しなければならないが、それにもかかわらず予後は不良である。難治であるために医療費が高額になるのは予想できたが、本検討は多数の症例からデータを入手できた点も貴重である。なお本邦では現在、ムーコル症に対して有効である抗真菌薬は単剤ではリポソーマルアムホテリシン B のみであるが、本検討では本邦未発売のポサコナゾール posaconazole も含まれている。さらに海外では既に isavuconazole が発売されており、本剤が使用されるようになった後の、医療費用に関する検討の結果も注目される。

手袋廃棄時の床および環境の汚染

Floor and environmental contamination during glove disposal

K.M. Munoz-Gutierrez* , R.A. Canales, K.A. Reynolds, M.P. Verhougstraete
* University of Arizona Mel and Enid Zuckerman College of Public Health, USA

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 347-353

背景
これまでのエビデンスによって、使用した個人防護具(PPE)の取り外し時と、おそらくは廃棄時に環境が汚染される可能性が示唆されている。

目的
医療用手袋が不適切に廃棄される際の、周辺および床の汚染の可能性を確認すること。

方法
バクテリオファージおよび化学染料を接種した手袋を、医療従事者 15 名が 1.22 m 離れた場所にあるごみ箱に捨てた。各試験後に、あらかじめ定めておいたサンプル区域について、ブラックライトを使って蛍光染料による染まりの有無を目視で確認するとともに、バクテリオファージを定量する目的で 3M 社のレーゼンブロススポンジで拭き取った。

結果
医療従事者に最も近い区域(0.30 m未満)では、バクテリオファージの濃度が最も高かった(相乗平均 6.9 × 103 pfu/100 cm2、範囲 8.07 ~ 3.93 × 107 pfu/100 cm2)。医療従事者から 0.61 m 超の区域と比較して、0.61 m 以下の区域ではバクテリオファージの濃度が有意に高かった(P < 0.05)。最も遠い距離(1.22 ~ 1.52 m)ではバクテリオファージ陽性率は 14%、蛍光染色陽性率は 4%であったが、これら2つのトレーサー間の有意差はなかった(P = 0.069)。バクテリオファージ、化学染料の両方で、環境汚染は医療従事者の近くで最も大きいこと、ならびにこれらのトレーサーは PPE 廃棄に関するトレーニングに適していることが示された。

結論
医療従事者は日常的に手袋を使用しており、不適切に廃棄すればその際に周囲の環境表面や床を汚染する可能性がある。したがって病原体の伝播を最小限にするため、業界全体の方針の確立、十分なトレーニングおよび医療従事者への教育による、適切な廃棄法が必要とされる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
手袋を脱ぎ、廃棄する際に、汗とともに菌が飛散することは容易に想像できる。それを示した本検討はユニークであり、感染制御の本質的な部分を捉えてもいる。本研究のデータをもとにした今後の現実的な体制の構築と、本テーマに関するこれからの研究の進展が待たれる。

パーティクルカウントおよび培養プレートを用いた手術用滅菌ヘルメットシステムの微生物学的評価:手洗い中の安全な使用の推奨

A microbiological assessment of sterile surgical helmet systems using particle counts and culture plates:recommendations for safe use whilst scrubbing

T.S. Moores* , S.A. Khan, B.D. Chatterton, G. Harvey, S.C. Lewthwaite
* Robert Jones and Agnes Hunt Orthopaedic Hospital NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 354-360


背景
関節形成術の症例の 2 ~ 4%で感染症が発生しており、潜在的な感染源を特定することができれば感染率を低下させられる可能性がある。本研究の目的は、手術用滅菌ヘルメットシステムを使用しながら手洗いをする際の、手指およびガウンの汚染の可能性および影響を明らかにすることであった。

方法
コロニー形成単位(cfu)は 0.5 ~ 5 µm の病原性の粒子を表す。標準的な関節形成術のフードおよび手術用滅菌ヘルメットシステムについて、送風機のスイッチがオンおよびオフの状態で、被験者 3 名およびマネキン 1 体に3 分間の曝露(手洗い時間に相当)を行い、パーティクルカウント(粒子数)の測定と培養プレートの検査を行った。

結果
すべての手術用滅菌ヘルメットシステムからグラム陽性球菌が検出され、平均コロニー数は 410 cfu/m2 であった。バックグラウンド計数は、層流領域(平均粒子数0.7 /m3、95%信頼区間[CI]0 ~ 1.4)では手洗い領域(平均粒子数131.5 /m3、95%CI 123.5 ~ 137.9、P = 0.0003)より低かった。しかし、2 分間の曝露ではどちらの領域でも細菌が増殖することはなかった。送風機のスイッチがオンの状態ではバックグラウンド係数は 3.7 倍増加し(全体の P = 0.004、cfu P = 0.047)、すべてのヘルメットは培養陽性であった(平均 36 cfu/m2)。送風機のスイッチがオフの状態では、標準的な関節形成術のフード、手術用滅菌ヘルメットシステムどちらも培養陽性にならなかった。層流領域では、培養はすべて陰性であり、粒子数も少なかった。

結論
手術用滅菌ヘルメットシステムの送風機をオンにした状態で手洗いをする場合、滅菌手袋およびガウンは汚染される可能性がある。手洗いをする際はフードとガウンを装着するまで送風機のスイッチをオフにしたままにすることが推奨され、理想的には層流環境での手洗いが好ましい。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本検討では、①ヘルメットシステム:送風機付きのヘルメットと、それを覆うフードを着用し、ヘルメットを送風機用のバッテリーにつないでから手洗いする(風は頭部から下へ流れる)、対照として②関節形成術用フードをつけて手洗いする、の 2 法が比較された。試験を行う場所は、手術室近傍の層流領域と、層流のない手洗い場である。層流のない場所で送風機をオンにして手洗いを行えば、バックグラウンドとして存在していたパーティクル(この中には髪や頭皮由来のものも含まれる)がまいあがり、手洗いの効果が落ちるとともに、手洗いの環境も汚染されてしまう(培養も陽性となる)。そしてこの近傍で無菌セットを開封してしまうと、それらも汚染される。本検討は、我々自身が持っている細菌叢が、送風・気流によって清潔環境を汚染させてしまうリスクを再認識させるものといえる。

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Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.