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★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

手術室環境における水を使用しない手指擦式製剤、クロルヘキシジンスクラブ剤、ポビドンヨードスクラブ剤の消毒効果:無作為化対照試験のメタアナリシス

Antiseptic efficacies of waterless hand rub, chlorhexidine scrub, and povidone-iodine scrub in surgical settings: a meta-analysis of randomized controlled trials

Y-H. Ho*, Y-C. Wang, E-W. Loh, K-W. Tam
*Taipei Medical University, Taiwan

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 370-379


背景
術前の手洗いは、手術部位感染症(SSI)の予防に重要である。クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)製剤とポビドンヨード製剤は、術前手指消毒のスクラブ法として従来から使用されてきた。一方で、水を使用しない手指擦式製剤が、手術室スタッフ用に開発されている。

目的
本研究の目的は、手術室環境において、水を使用しない手指擦式製剤、CHG、ポビドンヨードの消毒効果を、システマティックレビューおよびメタアナリシスにより比較することである。

方法
2018 年 10 月以前に発表された研究を、PubMed、Embase、Cochrane Library のデータベース、および ClinicalTrials. gov registry で検索した。術前手洗いにおいて、水を使用しない手指擦式製剤、CHG、ポビドンヨードの使用による臨床成績を比較した無作為化対照試験を選択した。ランダム効果モデルを用いてメタアナリシスを実施した。効果を評価するために、コロニー形成単位(cfu)、SSI 発生率、製品の好み、遵守率を調べた。

結果
参加者 5,135 名を含む無作為化対照試験 11 件を対象とした。水を使用しない手指擦式製剤群および CHG 群では、残存する cfu 数がポビドンヨード群よりも有意に少なかった。水を使用しない手指擦式製剤群と CHG 群の cfu 数の差は有意ではなかった。水を使用しない手指擦式製剤群と従来の手指スクラブ(CHG、ポビドンヨード)群間で、SSI 発生率に有意差はみられなかった。また、水を使用しない手指擦式製剤は、もっとも有益とみなされ、他の製剤よりも遵守率が高かった。

結論
水を使用しない手指擦式製剤と CHG は、ポビドンヨードよりも消毒効果が高いことが示された。とはいえ、包括的な結果を得るために、一貫した評価項目や的確なグループ分けによるさらなる研究が必要である。さらに、製品の好み、遵守、費用によって、手指洗浄剤の選択も定められる。

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監訳者コメント
従来から報告されていた内容をシステマティックレビューおよびメタアナリシスにより比較した論文である。いかなる場合も見た目に汚れている場合には、まず流水と石けんで予備洗浄が必要であるが水を使用しない手指擦式製剤を使用する前の流水と石けんによる手洗い後は手を十分に乾燥させることが重要である。

病院における手指衛生:改革の分析

Hand hygiene in hospitals: anatomy of a revolution

T. Vermeil*, A. Peters, C. Kilpatrick, D Pires, B. Allegranzi, D. Pittet
*University of Geneva Hospitals and Faculty of Medicine, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 383-392


医療関連感染症(HAI)は、世界的に数億の人々に影響を及ぼす。HAI を予防するための感染予防・制御の重要な戦略として、手指衛生の実施が広く認められているが、これは、医療従事者の汚染された手指が、医療における病原体の交差伝播にもっともよく関係する媒体であるためである。ここ 20 年間で、手指衛生にパラダイムシフトが起こっている。すなわち、石けんや水による手洗いから、擦式アルコール製剤の使用への変化である。この改革を背景の中で捉え、非常に多くの異文化や地理的地域において、そのような変化がいかに起こりえたかを理解するために、一般的に衛生という概念、とくに手指衛生という概念が、どのように進展したかを理解することは有用である。本稿は、衛生および手指衛生についての考え方が、古代から現代までに、また、ある地域の一連の概念から世界的な現象にまで、いかに進化したか調査することを目的とした。知られる限り最初に記されたバビロン文明下での石けんの作り方から、塩素の発見まで、そして Antoine Germain Labarraque、Alexander Gordon、Oliver Wendell Holmes、Ignaz Philip Semmelweis、Louis Pasteur、Joseph Lister など先駆者による大きな貢献まで、歴史上の画期的な事象についてレビューする。HAI 予防のために、1980 年代に石けんや水による手洗いがガイドラインに登場したことを振り返り、次いで多面的改善戦略における実践の中心的な手段として擦式アルコール製剤が、石けんや水による手洗いに取って代わった理由を述べ、そして世界保健機関や他の熱心な利害関係者、政府、感染予防・制御の専門スタッフが、どのように手指衛生を支持しているかに着目する。

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監訳者コメント
ジュネーヴ大学の Pittet 教授のグループによる手指衛生に関する総説である。歴史的な変遷を辿り今日の状況を認知する良い機会である。

Theoretical Domains Framework の適用により、長期ケアにおける手指衛生遵守に影響する因子を特定する

Application of the Theoretical Domains Framework to identify factors that influence hand hygiene compliance in long-term care

J.D. Smith*, K.M. Corace, T.K. MacDonald, L.R. Fabrigar, A. Saedi, A. Chaplin, S. MacFarlane, D. Valickis, G.E. Garber
*Public Health Ontario, Canada

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 393-398


背景
医療従事者の手指衛生遵守は患者の安全のために重要であるが、遵守は不十分である。それにもかかわらず、長期ケア施設では手指衛生遵守について十分には研究されていない。

目的
行動変容のフレームワークである Theoretical Domains Framework を適用し、長期ケア施設における医療従事者の手指衛生遵守の修正可能な促進因子および阻害因子を特定すること。

方法
カナダ、オンタリオ州の長期ケア施設において、医療従事者の手指衛生遵守の促進因子および阻害因子について、医療従事者への質問票を用いて調査した。質問票の結果の説明は、複数の関連する心理学的行動変容理論の構成概念の統合に基づく Theoretical Domains Framework による。

結果
質問票により特定された阻害因子は、Theoretical Domains Framework の領域の環境文脈と資源(時間的制約、仕事量、環境規制)と整合した。質問票の結果から特定された促進因子は、Theoretical Domains Framework の領域の社会的/専門的役割とアイデンティティ(医療従事者に期待されること)、結果に対する信念(自身または他者への微生物伝播のリスク)と整合した。

結論
長期ケアにおける手指衛生遵守に対していくつかの阻害因子が存続している。Theoretical Domains Framework などの、行動変容の理論を説明するフレームワークは、それらの阻害因子の特定に有用となり得る。本研究によって、Theoretical Domains Framework と整合したいくつかの重要な行動の構成概念が特定された。これは、新たな手指衛生介入を策定する際に目標とすることができる。

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監訳者コメント
Theory Domains Framework: Michie S, et al. Appl Psychol: Int Rev 2008;57:660 を参照のこと。

手指衛生促進の要因として成績フィードバックおよび目標設定を用いた準無作為化前後比較研究

A quasi-randomized controlled before-after study using performance feedback and goal setting as elements of hand hygiene promotion

S. Diefenbacher*, P.M. Fliss, J. Tatzel, J. Wenk, J. Keller
*Ulm University, Ulm, Germany

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 399-407


背景
手指衛生は、感染予防に重要な役割を果たすが、不十分であることが多い。

目的
手指衛生の改善において、目標設定と成績フィードバックの可能性を検証すること。

方法
ドイツの病院において前向き比較介入研究を実施した。研究は 4 期からなり、新規カウントディスペンサーおよび観察者への馴化(T0)、ベースライン(T1)、介入(T2)、介入後(T3)とした。目標設定、成績フィードバック、目標設定と成績フィードバックの複合、いずれもなし(対照)の 4 つの条件の 1 つに、集中治療室以外の 4 病棟を割付けた。4 期を通して、ディスペンサーの使用を電子的に連日 24 時間記録した。さらに、4 期の各段階において、無作為抽出による直接観察を、訓練を受けた外部の観察者が実施した。主要評価項目は、電子的に計測した病室あたりの手指衛生イベントの 1 日平均とした。

結果
成績フィードバック条件において、T1 から T2 への手指衛生イベントの増加に有意傾向がみられた(平均[M]T1 = 7.3、MT2 = 10.3、MT3 = 8.2)。目標設定条件では、T1 から T2 への手指衛生イベントは記述的な増加にとどまった(MT1 = 6.8、MT2 = 8.7、MT3 = 7.8)。複合条件では、T1 から T2 への手指衛生イベントの有意な増加がみられ、T3 においても依然として有意に増加した(MT1 = 7.9、MT2 = 17.0、MT3 = 12.9)。すべての病棟および 4 期の試験段階を通して、カウントディスペンサーの使用頻度は、手指衛生遵守と高い相関を示した(相関係数 = 0.766、P < 0.001)。

結論
本研究より、目標設定およびフィードバックの複合条件が、手指衛生の改善に向けた有用なアプローチであることが示唆される。

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監訳者コメント
手指衛生遵守率向上のための介入を評価した論文である。準備期間の後、約 4 週間の介入、その後約 4 週間の介入後の評価を行い、目標設定とフィードバックを合わせて行うことが有効であるという結果を得た。介入後の期間に遵守率が低下していくことが結果からうかがえた。必要なのは、長期間にわたり遵守率を保つことができるプログラムであろうと思われる。

手洗い後の乾燥に使用する方法は、皮膚に残存する一過性細菌および常在菌の数と種類に影響する

The method used to dry washed hands affects the number and type of transient and residential bacteria remaining on the skin

R. Mutters*, S.L. Warnes
*Philipps University of Marburg, Germany

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 408-413


背景
広範囲抗菌薬耐性は、ポスト抗菌薬時代に入りつつあるという恐怖をもたらしており、細菌やウイルスの伝播の低減を図るための手洗いという比較的単純な条件が、かつてないほど重要になる。重要視されていることの多くが、手洗い法、石けんの種類、遵守の維持に関するものであるが、手指の効果的な乾燥も同様に重要である。

目的
手洗い後のジェット式空気ドライヤーまたはペーパータオルを用いた手指乾燥が、一過性細菌汚染の除去に及ぼす効果を比較することと、常在菌叢に及ぼす影響を明らかにすること。

方法
80 例のボランティアを募集した。ボランティアの手指の全表面を大腸菌(Escherichia coli)で人工的に汚染させてから、洗浄・乾燥させた。次いで、皮膚に残存する細菌を採取し、計数した。試験の第 2 段階では、洗浄・乾燥させた手指表面に残存する常在菌叢を形成する細菌の数と種類を確認した。

結果
ジェット式空気ドライヤーで手指を乾燥させた場合、皮膚表面に残存する一過性細菌および常在菌は有意に少なかった(P < 0.001)。ペーパータオルで乾燥させた場合、ジェット式空気ドライヤーと比較して、ボランティアの皮膚から採取された、病原となりうる菌種を含む常在菌の数が増加した。

結論
洗浄後の手指に残存する細菌の数と種類は、乾燥法により影響された。ジェット式空気ドライヤーで乾燥させた手指の方が、採取された生菌数が少なく、接触による感染症伝播のリスクを低減させる。このことは、多数の脆弱な患者と常に接触する医療従事者にとってはとくに重要であろう。

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監訳者コメント
手を洗った後の「乾燥」の重要性を検討した論文である。1 分間手洗いをした後、1 分間ジェット式空気ドライヤーで乾燥させると、ペーパー 2 枚で拭くよりも明らかに手の表面の細菌数が少なかったという結果である。大変興味深いが、1 分間の手洗い、1 分間の乾燥の遵守はなかなか難しいであろう。

医療従事者の服装における細菌数および病原性菌種:擦式アルコール製剤使用、職種、および勤務時間の影響

Bacterial load and pathogenic species on healthcare personnel attire: implications of alcohol hand-rub use, profession, and time of duty

A. Ambrosch*, K. Wahrburg, F. Klawonn
*Barmherzige Brüder Hospital, Germany

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 414-421


背景
手指衛生によって、医療従事者の服装からの細菌伝播のリスクが回避され得る。よって、本研究では、擦式アルコール製剤の使用が、医療従事者の服装の細菌数や病原性菌種に及ぼす影響を検証する。

方法
医師および看護師の服装の細菌汚染について勤務後に調査した。医療従事者の服装の異なる部分からサンプルを採取し、細菌数および菌種を分析した。標準化された質問票により、勤務時間および職種に関して調査し、各病棟の擦式アルコール製剤の使用を国内基準に従い計測した。

結果
医療従事者の服装の細菌数(医療従事者の服装 200 着からサンプル 700 個)は、2 回以上のシフトで同じものを着用していた場合、4 倍に達することが確認された。さらに、医師は、看護師と比較して、服装の細菌数が少なかった。多変量線形回帰モデルにおいて、医療従事者の服装の細菌数は、擦式アルコール製剤(t = -2.080、P = 0.0379)、医師であること(t = -6.009、P < 0.0001)と負の相関を示し、勤務時間(t = 10.572、P < 0.0001)と正の相関を示した。医療従事者の服装においてもっとも優勢な病原体として黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が検出され、これは勤務時間に影響された(オッズ比[OR]3.27、95%信頼区間[CI]1.93 ~ 5.72、P < 0.0001)が、擦式アルコール製剤により影響されなかった(OR 1.22、95%CI 0.30 ~ 3.42)。

結論
擦式アルコール製剤、職種、勤務時間は、医療従事者の服装の細菌数に有意に影響する。勤務時間が細菌数にもっとも強力に影響を及ぼすので、医療従事者の服装を毎日交換することが推奨される。

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監訳者コメント
日本では、多くの病院で白衣の洗濯は職場が対応していると思われるが、自分で対応しているところもあるであろう。いずれにしても、交換頻度を上げていく必要性を説明する際に引用できる論文が出てくることは大変ありがたい。手指衛生アルコールの使用が白衣の汚染と負の相関を示すと言う結果は大変興味深い。

個人におけるリスクと社会におけるリスクのバランスをとること:病院における抗菌薬処方行動に関する定性的研究のシステマティックレビューおよび統合

Balancing the risks to individual and society: a systematic review and synthesis of qualitative research on antibiotic prescribing behaviour in hospitals

E.M. Krockow*, A.M. Colman, E. Chattoe-Brown, D.R. Jenkins, N. Perera, S. Mehtar, C. Tarrant
*University of Leicester, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 428-439


背景
抗菌薬耐性は健康に対する世界的な脅威であり、その一部は病院における急性内科患者に対する不適切な抗菌薬処方に起因している。

目的
世界の病院における抗菌薬処方(広域スペクトル抗菌薬使用を含む)決定に関する定性的研究のシステマティックレビューを実施すること。

方法
2007 年から 2017 年の間に発表された、成人入院患者における抗菌薬処方に関する定性的研究の系統的検索を行った。Health Belief Model を利用して、フレームワーク法による統合を行い、抗菌薬耐性に関連する脅威に対する認識、ならびに抗菌薬の適正使用支援に関連すると認識されている利益と阻害因子について評価を試みた。

結果
全般的に抗菌薬耐性のリスクが深刻であるとの認識が認められたが、その帰結が理論上のものであり長期的なものであることから、医師は個々の患者のリスクの受けやすさを疑う傾向があった。処方者は処方を最適化することで利益が得られると考えていた一方で、過剰処方と抗菌薬耐性との直接的な関係には疑問を持っており、抗菌薬耐性という複雑な問題と取り組む場合に、処方者の行動を変えることは無益だと考えられていることが多かった。個々の患者のリスクを重視することが、より控えめな抗菌薬処方を行う上での主要な阻害因子であった。医師は、広域スペクトル抗菌薬が効果的でリスクが低いと認識していた。広域スペクトル抗菌薬の処方は、認知要求度が低く、医師にとって患者の期待に応えることを容易にするものであった。低所得国における抗菌薬処方の決定は、微生物学的検査および感染制御のサービスの不確実性が高いという背景によって影響を受けていた。

結論
抗菌薬耐性に取り組む場合、個人における即時のリスクと、集団における長期のリスクとのバランスを考慮する必要がある。診断上の不確実性を低減し、リスクに対する認識を変える取り組みが、診療習慣を変えるうえで決定的に重要となろう。

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監訳者コメント
抗菌薬の適正使用は「頭で分かっていてもいざとなるとできない」ことも多く、これはまさに本研究で示されているように「広域抗菌薬を処方することが、短期的には目の前の患者にさも良いことをしているように思え、かつ耐性菌の出現は時間が経ってからのことになるのでその直接的な因果関係が目に見えにくい」ことがその一因である。本研究は何となくイメージされている AMR の背景をシステマティックレビューで浮き彫りにしたものである。このような研究を踏まえ「ではどうすれば良いか」という議論が進むことが期待される。

地域病院および遠隔地病院において抗菌薬適正使用支援プログラムの提供に影響を及ぼす因子に関する定性的研究

Qualitative study of the factors impacting antimicrobial stewardship programme delivery in regional and remote hospitals

J.L. Bishop*, T.R. Schulz, D.C.M. Kong, K.L. Buising
*Peter Doherty Research Institute for Infection and Immunity,Australia

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 440-446


背景
多くの地域および遠隔地([地方])病院には、大都市の病院のような抗菌薬適正使用支援を実施する専門サービスがない。こうした状況は、地方病院において抗菌薬適正使用支援を実施する能力に影響を及ぼす可能性がある。

目的
地方病院において抗菌薬適正使用支援プログラムの提供に影響を及ぼす因子を明らかにすること。

方法
Australian Statistical Geography Standard の遠隔性分類における地域内、地域外、遠隔地または超遠隔地内の 1 つの医療施設または複数の医療施設において抗菌薬適正使用支援の主たる責任を有する、または抗菌薬適正使用の支援を提供する臨床家を作為的にスノーボールサンプリングを用いて募集した。一連のフォーカスグループおよび面接を実施し、議論の内容を録音して文字化した。文字化した記録を 2 名の研究者がコード化し、フレームワーク法を用いてテーマ分析を行った。

結果
4 回のフォーカスグループと 1 回の面接を実施した(参加者 22 名)。抗菌薬適正使用支援プログラムの提供に影響を及ぼしていた以下の 6 つの主要テーマが特定された:施設の臨床家における独立性および自立性の文化、人間関係、抗菌薬の選択に影響を及ぼす病院の地理的立地、施設内の事情、成績について基準に基づいた意味のある評価ができないこと、ならびにリソースの不足。地方病院において抗菌薬適正使用支援プログラムの提供を実施するために考えられる戦略として参加者から提案されたものは、以下の 2 つの主要テーマに分類された:中央機関により最適に開発または管理されると考えられる戦略、ならびに各施設の責任において開発または管理されるべき戦略。

結論
地方病院における抗菌薬適正使用支援プログラムの提供は、大都市の病院には存在しない因子によって影響を受ける。本研究の結果は、地方病院が持続可能な抗菌薬適正使用支援プログラムを実施するための戦略を開発する上で、強力な基盤となるものである。

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監訳者コメント
専門家の存在しない地方の病院における ASP に関する質的研究で興味深い内容である。本研究はオーストラリアにおける研究であるが、微生物検査が外注で結果が返ってくるまでに時間がかかることや薬剤師の交代が激しいことなど、ASP に関する問題は世の東西を問わず共通していることが分かる。日本での課題抽出や研究の参考になるのではないだろうか。

反復点有病率調査による地域レベルでの医療関連感染症および抗菌薬使用のモニタリング:得られる教訓は何か?

Monitoring healthcare-associated infections and antimicrobial use at regional level through repeated point prevalence surveys: what can be learnt?

L. Arnoldo*, C. Smaniotto, D. Celotto, L. Brunelli, R. Cocconi, D. Tignonsini, A. Faruzzo, S. Brusaferro, on behalf of the FVG Regional ‘Safety Care’ Group Department of Medicine
*University of Udine, Italy

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 447-454


背景
医療関連感染症(HAI)のサーベイランスは、あらゆる感染予防・制御プログラムにおいて不可欠の部分を成す。欧州疾病予防管理センター(ECDC)のプロトコールに従った反復点有病率調査が、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア全域(イタリア)の急性期病院において HAI を抑制し、管理する目的で実施されるようになっている。

目的
1 つの地域医療システム内で反復点有病率調査を用いて、感染予防・制御プログラムを促進および評価すること。

方法
ECDC 点有病率調査プロトコールの標準版を用いて、全 4 回の調査を行った(2011 年、2013 年、2015 年、2017 年)。地域医療システム内のすべての公立および私立の認定病院を、「セーフケアネットワーク」プログラムに組み入れた。

結果
4 回の点有病率調査の対象となった患者数はそれぞれ 3,172 例、3,253 例、2,969 例、および 3,036 例であった。HAI の有病率および抗菌薬使用の実施率は、2011 年から有意に低下し、 HAI (P < 0.05)はそれぞれ 7.1%、6.3%、5.5%、5.8%、ならびに抗菌薬使用(P < 0.01)はそれぞれ 40.4%、39.2%、36.0%、37.2%であった。手術時予防投与の期間の適切さは有意に上昇した(2011 年の調査と比較して 24 時間未満の投与が全調査において増加した:それぞれオッズ比[OR]1.29、95%信頼区間[CI]0.92 ~ 1.81;OR 1.95、95%CI 1.31 ~ 2.91;OR 1.78、1.20 ~ 2.64)。検出された HAI で頻度の高かったものは、血流感染症、尿路感染症、肺炎、および手術部位感染症であった(各点有病率調査において HAI の 70%超であったもの)。

結論
フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア地域を対象とした HAI および抗菌薬使用サーベイランスのアプローチにより、有病率および使用率が 7 年間にわたり低下した。さらに、サーベイランス期間を通じて病院の注意を HAI および抗菌薬使用に向けさせることができ、また全地域医療システム病院において HAI および抗菌薬使用の負担の標準化および比較評価を確実に実施することを可能にしたとともに、HAI および抗菌薬使用に関する地域プログラムに影響を及ぼすことができた。

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監訳者コメント
HAI でのサーベイランスを実施し、結果を共有することは、以前から感染予防対策の重要な課題として実施されてきているが、同時に世界的な耐性菌の増加は抗菌薬の適正使用を推進することは吃緊の課題でもある。常時サーベイランスを実施することは時間と人など労力がかかるが、ECDC はポイントサーベイランスで、1 病棟 1 日で集計し、1 病院ですべての病棟を 12 日間程度でデータ収集を実施する。このデータの公表により、各国ごとの HAI と AU の情報がわかるとともに、経時的な変化がわかるため、感染対策スタッフのみならず病院管理者にもその状況が明らかとなり、その地域あるいは病院での感染対策を考えてゆく上で非常に有用である。しかしながら、データ収集には統一した判断基準が求められるため教育訓練が必要である(次の論文参照)。

欧州の急性期病院を対象とした医療関連感染症および抗菌薬使用の点有病率調査のための国内バリデーションチームにおける評価者間のばらつきについて評価することを目的とした症例ビネットの作成

Development of case vignettes for assessment of the inter-rater variability of national validation teams for the point prevalence survey of healthcare-associated infections and antimicrobial use in European acute care hospitals

E. van Hauwermeiren*, E. Iosifidis, T. Kärki, C. Suetens, P. Kinross, D. Plachouras
*Spedali Civili Hospital, Italy

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 455-460


背景
2016 年から 2017 年にかけて、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は欧州の急性期病院を対象に、医療関連感染症(HCAI)および抗菌薬使用に関する 2 回目の点有病率調査を計画した。今回の調査には、症例の同定および分類の正確度を最大化するための精度保証研究が含まれた。

目的
ECDC は、国内精度保証チームの成績を評価するための症例ビネットを作成した。

方法
HCAI 治療および抗菌薬管理の経験がある 2 名の内科医が症例ビネットを作成した。症例ビネットは、実際の臨床症例に基づくものであった。症例ビネットにおける HCAI の分布には、前回の点有病率調査における HCAI の分布を反映させた。すべての症例ビネットについて、3 名の専門評価者が予備評価を行った。専門評価者間の一致度を、κ統計量を用いて評価した。

結果
症例ビネット 60 件を作成した。そのうち 29 件は HCAI 症例、31 件は HCAI ではない症例であった。κ統計量による評価者間信頼度は、HCAI の存在について 0.78、抗菌薬使用について 0.89 であった。

結論
専門評価者間の一致度は、抗菌薬使用については非常に良好、HCAI の存在については良好であった。症例ビネットは、サーベイランスの標準化を助けるツールとして利用可能であり、データの妥当性および比較可能性を高める。

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監訳者コメント
ECDC による点有病率調査は 2011 年に初めて開始された、それ以前には標準化された定義や方法論もなく、HAI や抗菌薬使用の調査が統一して実施できていなかった。したがって、欧州関係国間での比較ができなかった。一方で標準化した場合でも、多国で実施するため国毎のリファレンスチームで解釈が異なる可能性があるため、代表症例(ケースビネット)を作成し、これを利用して定義の解釈のばらつきをなくす工夫がなされた。
サーベイランスをする際に、定義を決めることは重要であるが、その定義が正しく理解され、データが正確に収集されているかは、ケースビネットにより統一された解釈をもつ判定者により実施されることが重要である。

小児病院での抗菌薬処方のパスウェイにおける決定的ポイント:Antibiotic Mapping of Prescribing(ABMAP)研究

Critical points in the pathway of antibiotic prescribing in a children’s hospital: the Antibiotic Mapping of Prescribing (ABMAP) study

A. Bashir*, J. Gray, S. Bashir, R. Ahmed, E. Theodosiou
*Aston University, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 461-466


背景
世界保健機関は、抗菌薬耐性を、現代医学が直面している最も重大な世界的リスクの 1 つであると見なしている。抗菌薬処方を改善するための介入は、これまでのところその効果が限られていた。

目的
効果的な抗菌薬処方を妨げる阻害因子について理解すること。

方法
複数の方法を混合して用いて、処方行動を調査し、入院患者に対する抗菌薬処方のパスウェイにおける決定的ポイントの特定を試みた。処方者の知識、経験またはエンパワメント、組織的因子、ならびに検査の利用について評価した。第 1 相では、オンライン調査によって抗菌薬処方に対する阻害因子と促進因子のマッピングを行った(参加者 56 名)。第 2 相では、処方者の行動についてさらなる理解をするためのフォーカスグループおよび面接を実施した(参加者 10 名)。第 3 相では、可能な解決策に関する意見を得るためにオンライン調査を行った(参加者 22 名)。

結果
処方に対する阻害因子を挙げたのは、検査に関する因子が 71.6%、リソースに関する問題が 40%、時間の制限が 17.5%、他者からのプレッシャーが 52%であった。処方者らの 93%が抗菌薬耐性について懸念を抱いていた。3 つのシナリオにおいて、細菌感染症のない患者に対して確信を持って抗菌薬を処方しないとしたのはわずか 9%であり、53%は肺炎に対して不必要な広域スペクトル抗菌薬を処方すると回答した。細菌学的検査で菌血症が確定された場合に、抗菌薬の de-escalation を行うとしたのはわずか 5%であった。抗菌薬耐性に対する懸念を持っているにもかかわらず処方者らは、個々の患者に抗菌薬を使用し続けることで耐性を促進する可能性があることを認識していなかった。処方者らは、勤務時間外に抗菌薬を変えたいとは思っておらず、また抗菌薬処方について専門的なサポートを望んでいた。

結論
処方者間で、自己報告による処方行動および臨床シナリオに対する反応には大きなばらつきがあった。トレーニングのみで行動が変わるかどうかは明らかでなかった。処方者らは、抗菌薬処方および抗菌薬管理を支援してくれる指導システムを求めていた。

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監訳者コメント
薬剤耐性と抗菌薬適正使用は吃緊の課題であり、ほとんどの医師がそれを意識しているにもかかわらず、実際の行動が伴っていない。学生時代から適正使用についての教育訓練を受けていても、それが実際の行動につながっていないことも今回の調査で判明している。患者を前にして処方を変更する自信が十分にないことが原因にあった。したがって、これらの抗菌薬適正使用を妨げている因子を改善するための方策は、必要時に抗菌薬処方について支援してくれる感染症専門家の存在であり、多くの医師がそれを望んでいる。実際には抗菌薬適正使用チーム(AST)がこれを担うこととなる。

ペニシリンアレルギーの記録がカルバペネム系薬の処方に及ぼす影響:後向き観察コホート研究

Impact of penicillin allergy records on carbapenem prescribing: an observational retrospective cohort study

N. Powell*, R. West, J. Sandoe
*Royal Cornwall Hospitals NHS Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 467-470


ペニシリンアレルギーがあるという記録は、次に選択される抗菌薬に影響を及ぼす。本研究では、ペニシリンアレルギーの記録がメロペネムの処方に及ぼす影響について調査した。メロペネムの処方率を、ペニシリンアレルギーの記録がある患者とない患者とで比較し、考え得る交絡因子についても情報を収集した(すなわち、年齢、性別、および併存疾患)。メロペネムの処方を受けていたのは、ペニシリンアレルギーのない患者 21,272 例中 225 例(1.06%)に対し、ペニシリンアレルギーの患者では 3,443 例中 240 例(6.97%)であった。メロペネムの処方は、患者のペニシリンアレルギーの記録と相関する。多くのペニシリンアレルギーの記録が不正確であることを考えると、誤ったペニシリンアレルギーの記録という問題に取り組むことで、メロペネムの処方を減らせる可能性がある。

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監訳者コメント
ペニシリンアレルギーがあるという申告と記載には、しばしば誤りが含まれている。このような不正確な情報に基づいてペニシリン系を避け、広域抗菌薬を選択してしまう症例も実際多い。中にはカルバペネム系が選択されてしまうケースさえあり、その使用増加によるデメリットも大きい。本検討にはペニシリンアレルギーの内容と強さ、回避した理由の詳細は含まれていないが、ペニシリンアレルギーそのものの扱いを不適切な抗菌薬の使用を避けるという意味からも見直すという認識が、今後広まってほしいものである。

広域スペクトルの抗菌薬の処方の中止は 1 週間の中で均一ではない

Broad-spectrum antibiotic prescriptions are discontinued unevenly throughout the week

R. Kokado*, H. Hagiya, D. Morii, H. Okuno, N. Yamamoto, S. Hamaguchi, H. Yoshida, Y. Miwa, K. Tomono
*Osaka University Hospital, Japan

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 471-474


院内での広域スペクトルの抗菌薬(抗 MRSA 薬、カルバペネム系抗菌薬、ピペラシリン/タゾバクタム)の処方パターンを調べるため、大阪大学医学部附属病院で 1 週間を通じた抗菌薬開始および中止の分布に関するデータを収集した。開始数には平日の曜日間で有意な差は認められなかった。しかし、広域スペクトルの抗菌薬の中止は火曜日または休日後 2 日目に偏っていた。本研究は、広域スペクトルの抗菌薬は週末や休日をまたいで継続され、その後中止される傾向があることを示唆している。これは、おそらく医療上の適応以上に行動要因によるものであり、今後の抗菌薬適正使用のイニシアチブにおいて取り組む必要があるといえる。

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監訳者コメント
抗菌薬の中止時期を決めるにあたり、週末や休日が影響することは、多くの医療従事者が経験、あるいは首肯することではないだろうか。本研究はそれを明らかに「見える」ものとして提示することができたといえよう。

レバノン初の抗菌薬啓発週間キャンペーン:抗菌薬に対する知識、態度、実践

First Lebanese Antibiotic Awareness Week campaign: knowledge, attitudes and practices towards antibiotics

S. Al Omari*, H. Al Mir, S. Wrayde, S. Merhabi, I. Dhaybi, S. Jamal, M. Chahine, R. Bayaa, F. Tourba, H. Tantawi, A. Al Atrouni, K. El Omari, O. Ayash, N.S. Zeidan, H. Mallat, F. Dabboussi, M. Hamze, M. Osman
*Faculté de Santé Publique, Université Libanaise, Lebanon

Journal of Hospital Infection (2019) 101, 475-479


抗菌薬耐性は、治療失敗のリスクと医療費を増大させる、地球規模の保健衛生(グローバルヘルス)上の重大な脅威といえる。抗菌薬耐性が拡がる要因として最も多いものの一つは、セルフメディケーションである。一般市民、そして臨床医学・獣医学の医療従事者が、適切な抗菌薬の使用に反する誤った慣行を行ってしまうことが、耐性の拡散を促している。このため、レバノン初の抗菌薬啓発週間キャンペーンが、人を中心としたインタラクティブな手法を用いて開始された。得られたデータからは、抗菌薬への認識が極めて低いレベルにあることが判明した。抗菌薬耐性の問題をコントロールし、克服するには、関連する利害関係者、政策立案者、医療における当事者の連携が極めて重要である。

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監訳者コメント
抗菌薬耐性(AMR)対策の推進にあたり、どの集団にどのようなアプローチで行っていくかは様々であり、数多くの施行例とその成果が報告されている。本検討ではセルフメディケーションが行きわたっているレバノンにおいて、母親や大学生を主対象とし、レクチャー、インタビュー、ポスター、フェイスブック等を組み合わせた啓発、教育活動を行った。一般市民の認識を具体的に把握することは、AMR 対策の基本をなすといえるが、その手法、および得られた情報についての解析、ならびに対策の立案と実行は、AMR 対策が推進されていく過程においても、見直しやフィードバックがなされるものであろう。レバノンでの AMR 対策について、今後の推移が注目される。

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