JHIサマリー日本語版トップ

レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

無症状の毒素産生性クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)保菌者における全ゲノムシークエンシング:伝播に影響を及ぼす可能性に関する洞察

Whole genome sequencing of toxigenic Clostridium difficile in asymptomatic carriers: insights into possible role in transmission

F.D. Halstead*, A. Ravi, N. Thomson, M. Nuur, K. Hughes, M. Brailey, B.A. Oppenheim
*University Hospitals Birmingham NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 125-134


背景
長期ケア施設の高齢患者における無症状のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)保菌の有病率は、推定で 0%~ 51%である。無症状の保菌は感染症発症のリスク因子である可能性が示され、無症状の保菌が伝播に及ぼす影響に関して議論が続いている。

目的
中間ケア(介護)施設に入所している患者において無症状の保菌の有病率を調査することと、無症状の C. difficile 株保菌が、院内 C. difficile 感染症(CDI)の一因となるかどうかを検討すること。

方法
中間ケア(介護)施設の無症状の適格患者から便を採取し、中間ケア(介護)施設以外で 1 次ケアまたは 2 次ケアを受けている有症状患者の検体も採取した。C. difficile 検出のために全検体を培養し、生じたコロニーを全ゲノムシークエンシングにより分析した。

結果
全体で、無症状の患者 151 例の便検体を採取し、培養によって、そのうち 22 例が C. difficile 陽性で、保菌率は 14.6%であった。これらの分離株のシークエンシング、ならびに有症状の患者の ポリメラーゼ連鎖反応および培養による C. difficile 陽性分離株 14 株によって、無症状の患者全員が、毒素産生性 C. difficile を保菌しており、これらの株は有症状の患者の分離株と遺伝学的に同一であることが示された。

結論
無症状の保菌に関する今回の小規模な研究により、中間ケア(介護)施設でケアを受ける患者において、無症状の直腸内保菌率が 14.6%であること、そして、これらの分離株は有症状患者から採取した分離株と遺伝学的な同一性が高いことが示された。したがって、無症状の保菌は有症状の CDI の伝播において重要かもしれない。ただし、本研究は小規模であり、また、C. difficile の無症状の保菌あるいは症状の誘発には、他の多くの因子が影響することは確認されている。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
C. difficile、15%という保菌率はこれまでに指摘されている。
C. difficile は原始的な菌で有り多型性に乏しい傾向があるので、具体的な分析結果の評価に関しては慎重であるべきだろう。

米国における 2012 年から 2016 年の入院期間中のクロストリジウム(クロストリジオイデス)・ディフィシル(ClostridiumClostridioidesdifficile )感染症による負担★★

Burden of Clostridium (Clostridioides) difficile infection during inpatient stays in the USA between 2012 and 2016

S. Mollard*, L. Lurienne, S.M. Heimann, P-A. Bandinelli
*Da Volterra, France

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 135-140


背景
クロストリジウム(クロストリジオイデス)・ディフィシル(ClostridiumClostridioidesdifficile)感染症(CDI)の医療負担は大きいが、十分に認識されているわけではない。

目的
米国における 2012 年から2016 年の全国的な退院記録を分析することにより、CDI に起因する入院費・入院期間・院内死亡率を評価すること。

方法
Truven Health MarketScan Hospital Drug Database を用いた後向き観察研究を実施し、CDI と診断された入院患者 46,097 例について分析した。CDI の主診断または副診断(併存疾患)を受けた患者、および CDI により再入院した患者を対象に、費用、入院期間、院内死亡率を調査した。CDI が併存疾患の場合、CDI と 2 次診断された入院患者 17,273 例を、CDI と診断されていない対照群の入院患者 84,164 例と比較する Coarsened Exact Matching により、CDI に起因する負担を推定した。

結果
CDI が入院の主な理由であった入院患者は、平均費用が 10,528 米ドル、平均入院期間が 5.9 日であった。CDI が併存疾患であった入院患者は、平均費用が 11,938 米ドル増加、平均入院期間が 4.4 日延長した。さらに、CDI による院内死亡率は平均して 4.1%増加した。

結論
本研究の結果は、医療施設および健康保険制度における CDI の大きな経済的負担について明らかにした既報と一致している。CDI が併存疾患として記録されている場合、病院費用と入院期間が有意に増加した。これらの結果は、CDI の予防と治療のための革新的なアプローチの必要性を強調するものである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
日米では CDI の流行株の有無が異なり、米国では CDI に罹患すると重症化することもあるため対策は非常に大きな課題である。医療経済に与える影響も多く見過ごすことができない課題となっている。医療経済的な背景を明確化することで、施策に反映し対策が進むことで患者にとっても病院にとっても改善となる。

医療関連クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症:施設における原価計算法による分析

Hospital-acquired Clostridium difficile infection: an institutional costing analysis

K.B. Choi*, K.N. Suh, K.A. Muldoon, V.R. Roth, A.J. Forster
*University of Ottawa, Canada

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 141-147


背景
医療関連クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(HA-CDI)は、一般的な感染症であり、医療制度に経済的負担を課している。

目的
費用は全入院期間によるものとする時間固定型の統計モデルと、入院、HA-CDI 診断、退院までの期間を調整し、HA-CDI の費用は診断後の期間によるものとする時間依存型の統計モデルを比較することにより、HA-CDI による病院の財務費用を推定することである。

方法
Ottawa Hospital に 72 時間を超えて入院した患者(15 歳以上)の臨床データおよび入院原価計算データを用いて、後向きコホート研究を実施した(2008 年 4 月から 2011 年 3 月)。Kaplan-Meier 生存曲線を用いて、通常の最小二乗回帰モデルおよび一般化線形回帰モデルによる 2 つの時間固定分析を、2 つの時間依存分析と対比させた。

結果
入院は計 49,888 件で、366 例(0.73%)が HA-CDI を発症した。時間固定モデルによる推定総費用(カナダドル)は、1 例あたり 74,928 ドルであったのに対し、時間依存モデルでは 28,089 ドルで、この数値は HA-CDI を発症していない患者よりも 1.47 倍多かった(増分費用は 1 例あたり 8,997 ドル)。Ottawa Hospital における HA-CDI と関連する年間の総施設費は、時間固定モデルでは 1,007 万ドル、時間依存モデルでは 162 万ドルであった。

結論
HA-CDI と関連する費用を計算する場合、入院、診断、退院までの期間を調整すると、HA-CDI と関連する推定施設費は大幅に低減される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント

スペインにおける 2001 年から 2015 年のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)関連の入院および院内死亡の危険因子

Clostridium difficile-related hospitalizations and risk factors for in-hospital mortality in Spain between 2001 and 2015

M.D. Esteban-Vasallo*, J. de Miguel-Díez, A. López-de-Andrés, V. Hernández-Barrera, R. Jiménez-García
*Madrid Regional Health Authority, Spain

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 148-156


目的
2001 年から 2015 年のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)による入院の発生率・特徴・院内アウトカムの傾向を調査すること、CDI の診断順位(1 次診断または 2 次診断)に基づき患者間で臨床変数を比較すること、および院内死亡率と関連する因子を特定することである。

方法
2001 年から 2015 年の Spanish National Hospital Discharge Database を用いて、後向き研究を実施した。研究集団は、退院報告において CDI の 1 次診断または 2 次診断を受けた患者とした。年間の入院率を算出し、Poisson 回帰モデルおよび Jointpoint 分析により傾向を評価した。院内死亡率と関連する変数を特定するために、多変量ロジスティック回帰モデルを用いた。

結果
全体で、49,347 件の退院が確認された(女性 52.31%、CDI の 1 次診断 33.69%)。入院率は、2001 年から 2003 年には住民 100,000 人あたり 3.9 例であったのが、2013 年から2015 年には住民 100,000 人あたり 12.97 例に増加した。CDI の重症度の高い患者は 6.36%から 11.19%に増加、患者 1 例あたりの平均費用は 3750.11 ユーロから 4340.91 ユーロに増加した一方で、院内死亡率は 12.66%から 10.66%に低下した。年齢、Charlson 併存疾患指数、重症度、入院期間、平均費用は、CDI の 1 次診断を受けた患者のほうが有意に高値を示した。CDI の診断順位にかかわりなく、院内死亡率は、男性、高齢、併存疾患、再入院、CDI の重症度と関連した。CDI の 1 次診断は、院内死亡率が低いことと関連した(オッズ比 0.60、95%信頼区間 0.56 ~ 0.65)。

結論
CDI 関連の入院率は増加傾向にあり、高額の費用負担につながっているが、院内死亡率は近年、低下している。CDI の予防と管理を図る対策において、院内死亡率と関連する因子について考慮すべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
スペインの National Hospital Discharge Database を用いた CDI のリスク分析の論文である。著者らもリミテーションとしてあげているが、15 年の間に病名コードの変更だけでなく、診断法、検査法の変化もあり、結果をそのまま受け取るのは難しいと思われた。

クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)伝播の数理モデルにおける季節性および地域介入

Seasonality and community interventions in a mathematical model of Clostridium difficile transmission

A. McLure*, L. Furuya-Kanamori, A.C.A. Clements, M. Kirk, K. Glass
*Australian National University, Australia

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 157-164


背景
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)は、晩冬または初秋に発生率がピークとなる抗菌薬関連下痢症の主要な原因である。CDI は病院に関連していることが多いが、市中伝播は重要である。

目的
CDI の季節性の潜在的な推進因子、ならびに伝播の減少を目的とする地域密着型の介入の効果を調査すること。

方法
病院 1 施設および周辺地域における C. difficile 伝播の機構的コンパートメントモデルを用いて、これらの環境における伝播減少効果または抗菌薬処方の低下効果を明らかにした。季節的な抗菌薬処方および季節的な伝播を考慮に入れるため、本モデルを拡張した。

結果
抗菌薬の季節性のモデリングは、およその大きさ(年平均を 13.9 ~ 15.1%上回る)およびピークの時期(抗菌薬のピークの 0.7 ~ 1.0 か月後)を含む、CDI の季節性を再現した。季節的な過剰な処方を半減させると、CDI の発生率は 6 ~ 18%低下した。地域の保菌率において、季節的な伝播は、季節的な抗菌薬の処方によるピーク(平均を 0.2 ~ 1.7%上回る)と比較して、より大きな季節的ピーク(平均を 14.8 ~ 22.1%上回る)をもたらした。症候性患者または入院患者からの伝播を減少させることは市中獲得型の CDI にほとんど影響を及ぼさないが、地域における伝播を 7%以上減少させるか乳児からの伝播を 30%以上減少させることにより、病原体が除去された。抗菌薬の処方率を低下させることにより、ほぼ比例的な感染症の減少につながったが、保菌率の低下は限定的であった。

結論
抗菌薬の処方率における季節変動は、観察された C. difficile の季節性の大きさおよび時期の要因となる可能性がある。入院患者または症候性患者からの伝播を完全に予防しても病原体は除去できないが、地域住民または乳児からの伝播を減少させる介入により、病院感染と市中感染の両方に大きな影響を及ぼす可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
CDI の季節性変動の因子、病院感染の市中感染による影響を調べた論文である。この研究で、筆者らは抗菌薬の適正使用は CDI 感染症の減少に寄与すると思われるが、市中での無症候の保菌者からの感染伝播を防ぐ方法を検討する必要があるとしているが、具体的な方法に関する提案はされていなかった。

クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の再発性感染に対するフィダキソマイシン使用の効果

Effect of using fidaxomicin on recurrent Clostridium difficile infection

M. Biggs*,, T. Iqbal, E. Holden, V. Clewer, M.I. Garvey
*,University Hospitals Birmingham NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 165-167


フィダキソマイシンはクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症(CDI)の治療に認可された大環状抗菌薬の 1 つである。英国では、フィダキソマイシンは重度の CDI または再発のために確保されていることが多い。バーミンガムのクイーン・エリザベス病院において、2017 年から 2018 年の間のフィダキソマイシンの全経過をレビューした。38 例の患者がフィダキソマイシンの投与を受け、軽度の CDI の初回エピソード中にフィダキソマイシンを投与された場合は 64%が治療に反応した。逆に、すべての再発性 CDI 患者はフィダキソマイシンによる治療に失敗した。重度の CDI へフィダキソマイシンを使用すると、42%の患者しか反応せず、結果に一貫性はなかった。これらの結果により、フィダキソマイシンは患者の初回エピソード中の軽度の CDI の治療として最も適していることが示唆される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
わが国で 2018 年に発表された CDI 感染症診療ガイドラインでは、フィダキソマイシンは重症例、再発例、難治例などに推奨されている。ところが本研究ではフィダキソマイシンはこれらの CDI において十分な有効性が期待できないとしている。またアブストラクトには記載されていないが、本文中では糞便移植がコストパフォーマンスも高くて良いと主張している。わが国でも今後フィダキソマイシンの使用知見が集積され、その位置付けが徐々にはっきりしてくるだろう。

腸内の抗菌薬耐性菌の除菌を目的とする糞便細菌叢移植:システマティックレビューとメタアナリシス

Faecal microbiota transplantation for the decolonization of antibiotic-resistant bacteria in the gut: a systematic review and meta-analysis

V. Tavoukjian*
*King’s College London, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 174-188


抗菌薬耐性は、疾病率および死亡率の増加に関連する深刻化しつつある世界的な問題の 1 つであり、医療へ財政的・経済的な著しい負担を与えている。糞便細菌叢移植(FMT)は再発性のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症の治療に対して効果的であることが証明されてきたが、腸管の抗菌薬耐性菌の除菌への有効性に関して取り組んだシステマティックレビューはこれまでにない。本研究の目的は、保菌している成人の腸管の抗菌薬耐性菌を、FMT によって除菌できるか明らかにすることであった。データベース(MEDLINE、Embase、CENTRAL、PubMed、CINAHL)で 2018 年 5 月までのエビデンスの包括的な検索を行うことにより、システマティックレビューを実施した。成人における抗菌薬耐性菌の腸内での保菌に対する FMT の効果を評価した、無作為化および非無作為化試験を適格とした。Joanna Briggs Institution の批判的評価チェックリストを用いて研究を評価した。報告の質は、PROCESS および CARE チェックリストを用いて評価した。データは主要評価項目の割合のメタアナリシスとともに、記述的に統合された。

計 52 例の参加者による 5 試験が含まれた。質の低いエビデンスによって、FMT の 1 か月後に半数の症例で除菌が達成され、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)に対してより高い反応が認められ、耐性メカニズムとしてニューデリー・メタロ-β-ラクタマーゼ 1(NDM-1)および基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)を有する肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)に対してより低い反応が認められたことが示された。成功した症例では、除菌例の 70%がFMT 後の最初の 1 週間以内で達成した。一過性の有害事象はほとんど特定されなかった。

含まれた試験の制約にもかかわらず、本レビューのエビデンスは除菌介入としての FMT の潜在的な有益性を示しており、今後、適切にデザインされたランダム化比較試験によってのみ裏付けることができる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
FMT は出てくる研究のほとんどがポジティブデータである。日本ではまだ広く行われてはいないが、日本人の腸内細菌にどのような特性があり、治療的有効性がどのくらい期待できるのか、非常に興味のあるところである。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)の疫学の理解および制御に対する全ゲノムシークエンス法の寄与

Contribution of whole-genome sequencing to understanding of the epidemiology and control of meticillin-resistant Staphylococcus aureus

H. Humphreys*, D.C. Coleman
*Royal College of Surgeons in Ireland Education and Research Centre, Beaumont Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 189-199


近年、アウトブレイク管理の一環としてメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)の伝播を追跡するための取り組みに、パルスフィールド・ゲル電気泳動および spa タイピングを含む、従来の DNA に基づく方法が使用されてきた。しかし、優勢クローンが存在する場合、これらの方法は識別力が不十分な可能性がある。全ゲノムシークエンス法(WGS)によって、院内伝播および地域の MRSA を含む MRSA のアウトブレイクの調査にいかに大きな変化がもたらされたかを浮き彫りにするため、またその将来性をレビューするため、文献検索を行った。WGS は、分離株のゲノム全体の DNA 配列を迅速に決定し比較できるように、分離株の識別の強化をもたらす。WGS のデータの解析に使用するソフトウェアパッケージは、以前より利用できるようになってきている。しばしば長時間継続し、従来的な分子タイピングで以前は検出されていないアウトブレイクの確認において、現在までのところ、WGS はより高感度であった。地域から病院への、病院内および病院間の、病院から地域への、伝播の変化する動態は、WGS の研究によってのみ明らかになり、かつ、広く認識されているよりもさらに複雑で入り組んでいる。また、分離株が異なる場合、WGS は交差伝播を除外することができる。現在の課題は、WGS の技術をルーチンでの使用においてより受け入れやすくすること、ならびに長期化したアウトブレイクを含む、同じアウトブレイクの一部と見なされる分離株の配列の違いの閾値に対するエビデンスに基づいた合意を得ることである。そのようなデータを適切なタイミングで用いることにより、初期段階での交差伝播事象の検出における感度を上げられ、アウトブレイクを防ぐ可能性があり、また感染制御に対して良い影響を与える可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
アウトブレイクした菌株の相同性の比較方法として、様々な方法が試みられてきた。WGSはその最終形といってもいいだろう。ところが一方で、「実は水平伝播しているが、WGS で見ると多少の遺伝子の変化がある」という現象も十分に想定しうる。WGS で比較したときに、どのくらいの差なら同一と見なせるのか、おそらく遺伝子配列のみならず、臨床的な背景なども定量化して加味する必要があるのではないだろうか。技術が進化する中で、それを解釈する方法がまだ追いついていない印象である。

あらゆるケア環境の高齢者における尿路感染症および大腸菌(Escherichia coli)菌血症を減少させるための行動介入の有効性:システマティックレビュー

Effectiveness of behavioural interventions to reduce urinary tract infections and Escherichia coli bacteraemia for older adults across all care settings: a systematic review

L.F. Jones*, J. Meyrick, J. Bath, O. Dunham, C.A.M. McNulty
*Public Health England, UK

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 200-218


背景
英国では大腸菌(Escherichia coli)菌血症の発生率が上昇しており、高齢者においてもっとも高くなっている。リスク因子は、尿路感染症(UTI)の既往およびカテーテル留置である。

目的
高齢者において大腸菌菌血症および/または症候性 UTI を減少させるための行動介入の有効性を調べること。

方法
16 件のデータベース、灰色文献、および参考文献リストに基づいて検索を行った。標題および/または抄録をスキャンし、選択した論文の全文を読んで適格性を確認した。論文の質の評価を、Critical Appraisal Skills Programme のガイドラインおよび Scottish Intercollegiate Guidelines Network 判定法を用いて行った。

結果
21 報の研究をレビューし、いずれも方法論的な質が低かった。6 報の研究において、多面的病院介入(教育、監査およびフィードバックまたはリマインダーを含む)の実施によりUTI が減少したが、3 報でのみ有意性が報告されていた。1 報の研究はカテーテル関連尿路感染症(CAUTI)が 88%減少したと報告していた(F[1,20]= 7.25)。別の 1 報の研究は、CAUTI がフェーズ I の間に11.17 件から 10.53 件に減少し、フェーズ II の間に 0.39 件減少したと報告していた(χ2 = 254)。第 3 の研究は、患者週あたり UTI が減少したと報告していた(リスク比 0.39)。オンライントレーニングおよびカテーテル挿入およびケアシミュレーションを用いた 2 報の病院研究では、CAUTIがそれぞれ 33 件から 14 件、および 10.40 件から 0 件に減少した。看護スタッフの増員、地域の失禁専門看護師の関与およびカテーテル抜去リマインダー用ステッカーにより感染症が減少した。大腸菌菌血症の予防について検討した研究はなかった。

結論
研究間にみられた不均一性は、効果的なものとして推奨できる 1 つの介入がないことを意味している。フィードバックを単独で、または教育、監査、またはカテーテル抜去プロトコールを含めた多面的介入に組み込んで用いると、UTI の減少が促進されたため、著者らはフィードバックを検討すべきであると示唆する。多面的教育は効果的であると考えられる。カテーテル抜去プロトコール、スタッフ増員、および患者教育については、さらなる評価が必要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
英国における大腸菌菌血症が増加し、その 4分 の 3 が市中感染であり、85歳以上の高齢者での発生し、菌血症の約半数は尿路感染症で、死亡率は約 15%に達しており、決して看過できない状況がある。高齢者施設においてこの状況を防止するための方策について文献的レビューを実施したのが本論文であるが、現時点で大腸菌感染症減少のための効果的な定まった方策は見つからなかった。しかしながら、いかなる介入においても、フィードバックを必ず加えることが尿路感染症減少においては確かなようである。感染予防対策全般において言えることであるが、単一ではなく複数の多面的・多方面からの予防策の実施が必要であり、かつこれらを実行する現場へのフィードバックは行動変容を促す上では必須である。複合的な対策により大腸菌尿路感染症が減り、ひいては大腸菌菌血症が減少するものと考えられる。

ナーシングホーム入居者における尿道カテーテル留置と恥骨上カテーテル留置の比較:長期使用における最も安全な選択肢を明らかにする

Indwelling urethral versus suprapubic catheters in nursing home residents: determining the safest option for long-term use

K.E. Gibson*, S. Neill, E. Tuma, J. Meddings, L. Mody
*University of Michigan Medical School, USA

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 219-225


背景
感染性合併症の発生率について、長期ケア環境で用いられる 2 種類の一般的な尿路カテーテル、すなわち尿道留置カテーテルおよび恥骨上留置カテーテルの間でこれまで比較が行われたことはなかった。

目的
カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)の発生率および多剤耐性病原体(MDRO)保菌について、ナーシングホーム入居者を対象に尿道留置カテーテル留置および恥骨上留置カテーテルの間で比較を行うこと。

方法
参加者として、2010 年から 2013 年に実施された発表済みの、対象を絞った前向き感染症予防研究に登録された、カテーテルを留置されていたナーシングホーム入居者 418 例を組み入れた。入居者の年齢、性別、機能状態、併存疾患、ならびに感染症/抗菌薬使用および最近の入院に関する情報を、研究登録時、14 日目、およびその後最長 1 年間は 30 日ごとに入手した。各来院時に、微生物学的検査のためのサンプルを複数の解剖学的部位から採取した。Cox比例ハザードモデルにより、施設レベルのクラスタリングおよびその他の共変数を補正した。

結果
全体で、研究参加者 208 例が尿路カテーテルを留置されており、21,700 デバイス日に相当し、173 例(83%)が尿道カテーテル、35 例(17%)が恥骨上カテーテルであった。共変数の補正後、恥骨上カテーテル群のほうが CAUTI の発生率が低く(1,000 デバイス日あたり 6.6 対 8.8、P = 0.05)、入院した割合が半分で(ハザード比[HR]0.46、P < 0.01)、過去30日間に抗菌薬療法を受けた割合が 23%低かった(HR 0.77、P = 0.02)。カテーテル留置日数が 90 日以上の入居者では、分離された MDRO の平均数は恥骨上カテーテル群のほうが尿道カテーテル群より有意に多かった(0.57 対 0.44、P = 0.01)。シプロフロキサシン耐性グラム陰性桿菌の検出率は、両群ともに高かった。

結論
恥骨上カテーテルを留置されている入居者は CAUTI の発症が少なく、入院および抗菌薬使用が少ない可能性があるが、MDRO 保菌の割合が高い。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
米国では 160 万人のナーシングホームの入居者の約5 ~ 8%が、尿路カテーテルを留置しており、カテーテル留置により入居者の管理はしやすくなるが、一方で尿路感染症の増加とともに死亡率も増える。一般的にカテーテル留置後 1 週間以内に細菌が定着し、細菌によるバイオフォルムが形成され、後のカテーテル関連尿路感染症の原因となると同時に耐性菌の定着も増えることがわかっている。これまでの研究は急性期病院で実施されたものであり、本論文のようにナーシングホーム入居者における長期使用での知見は十分ではない。恥骨上留置カテーテルは、尿道留置カテーテルに較べ、尿路感染症と入院、抗菌薬使用が優位に減少することが明らかとなった。恥骨上留置カテーテルは日本においては長期留置することがまれではあるが、MDRO 定着との関連においては今後留意する必要があるだろう。

日本における薬剤耐性菌によるアウトブレイクの自動検出★★

Automated detection of outbreaks of antimicrobial-resistant bacteria in Japan

A. Tsutsui*, K. Yahara, A. Clark, K. Fujimoto, S. Kawakami, H. Chikumi, M. Iguchi, T. Yagi, M.A. Baker, T. O’Brien, J. Stelling
*National Institute of Infectious Diseases, Japan

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 226-233


背景
医療機関での薬剤耐性菌によるアウトブレイクは、可能な限り早期に検出・制御されねばならない。

目的
病院における薬剤耐性菌によるアウトブレイクの自動検出のための枠組み(フレームワーク)を構築すること。

方法
日本の厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)は、世界的に最大規模の薬剤耐性(AMR)サーベイランスプログラムの 1 つである。本研究のために、2011 年 から 2016 年について JANIS データベースから細菌に関するデータをすべて抽出した。微生物学的データの管理を目的としたフリーソフトウェアである WHONET、ならびに WHONET に組み込まれたクラスター検出のためのフリーツールである SaTScan を用いて、適格と判断した病院の 2015 年 から 2016 年までのデータを分析した。次いで、2011 年 から 2016 年のデータを用いて、日本全国の代表的な病院 10 施設を対象に手動で評価およびバリデーションを行った。

結果
病院 1,031 施設のデータを検討した。中規模病院(200 ~ 499 床)が 60%を占め、次いで大規模病院(500 床以上、24%)および小規模病院(200 床未満、16%)の順であった。大規模病院では、より多くのクラスターが検出された。ほとんどのクラスターは、5 例以下の患者であった。病院 10 施設の詳細な分析から、検出されたクラスターの約 80%は、感染制御スタッフによって認識されていなかったが、その理由は、関与していた菌種がルーチンのサーベイランス対象として優先される病原体リストに含まれていなかったためであった。病院 2 施設では、より耐性の株によるアウトブレイクが発生する前に、より感性の株によるクラスターが検出された。

結論
WHONET-SaTScan を使用すると、優先度の高い薬剤耐性病原体のリストには含まれないものの、耐性プロファイルを示す菌株が分離された患者について、疫学的に関係のあるクラスターを自動的に検出できる。より感受性の高い株によるクラスターが検出できれば、より耐性の株によるアウトブレイクが発生する前に、感染制御上、早期の介入の実施が可能になるであろう。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
JANIS データを活用したことによる、小さなクラスターの早期発見の有用性を報告した論文である。JANIS データからクラスターが読み取れることはかねてから判明していたが、それを感性の株も含め(市中感染と認識されやすい株も含め)、自動的に検出できる点で有用性が高い。現場の感染対策スタッフを補助する役割が期待できるであろう。一読をお勧めする。

知識を実践に応用する:バングラデシュにおける看護師の感染制御能力を高めるための多面的多施設介入

Transferring knowledge into practice: a multi-modal, multi-centre intervention for enhancing nurses’ infection control competency in Bangladesh

L. Ara, F. Bashar*, M.E.H. Tamal, N.K.A. Siddiquee, S.M.N. Mowla, S.A. Sarker
*Nutrition and Clinical Services Division, icddr,b, Mohakhali, Bangladesh

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 234-240


背景
看護師は、治療だけでなく患者のケアにおいても重要な役割を担っていることから、感染予防にとって鍵となると考えられる。

目的
バングラデシュにおいて、標準的な感染制御の実践における看護師の能力(コンピテンシー)と遵守を改善することを目指し、多面的な介入が果たす役割を評価することを目的とした。

方法
本研究は介入前後比較のアプローチを採用し、バングラデシュの病院 5 施設(2 施設は公立、2 施設は私立、1 施設は自治)において、3 つの期間(2012 年 から 2017 年)に実施した。各研究期間を 3 つのフェーズ、すなわち介入前、多面的介入、および介入後に分けた。統一したチェックリストによる直接観察法を用いて、看護師 642 名についてデータを収集した。

結果
多面的介入の実施後、手指衛生の全遵守率は、患者との接触前(1.3%から 50.2%、P < 0.000)および患者との接触後(2.8%から 59.6%、P < 0.000)の両方で有意に上昇した。顕著な改善が、手袋の使用(14.6%から 57.6%、P < 0.000)、無菌操作時における器具の無菌性の維持(34.9%から 86%、P < 0.000)、生物医学的廃棄物の分別(1.8%から 81.3%、P < 0.000)ならびに処置部位へのラベル付け(0%から 85.7%、P < 0.000)の遵守率でも達成された。さらに、針刺し切創の発生率が顕著に低下した(6.2%から 0.6%、P < 0.000)。

結論
看護師が標準的な感染制御を実践する際の遵守率を向上させる上で、多面的介入は非常に重要な役割を果たしうる。このような行動や作業内容に合わせた介入は、医療関連感染症の予防ならびに職業上の危険の低減にとって極めて重要であるが、2030 年までのユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に向けて、低資源国において繰り返し行われるべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本邦においてはいわば「あたりまえ」になっている感染対策上の基本的な手技が、他国では大きく事情が異なっていることに改めて驚かされる。看護師への多面的な介入が及ぼした効果の大きさからも、質的向上に重要なファクターについて考えさせられる論文である。質的なレベルを維持するための方策と介入について、今後の続報が待たれる。

サイト内検索

Loading

アーカイブ

最新のコンテンツ

Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.