JHIサマリー日本語版トップ

レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

欧州連合/欧州経済地域の医原性伝播リスクの高い医療従事者および患者集団における B 型肝炎および C 型肝炎

Hepatitis B and C among healthcare workers and patient groups at increased risk of iatrogenic transmission in the European Union/European Economic Area

L. Tavoschi*, L. Mason, U. Petriti, E. Bunge, I. Veldhuijzen, E. Duffell
*European Centre for Disease Prevention and Control, Sweden

Journal of Hospital Infection (2019)102, 359-368


欧州連合/欧州経済地域(EU/EEA)では、およそ 900 万人の人々が B 型肝炎ウイルス(HBV)または C 型肝炎ウイルス(HCV)に慢性的に感染しており、その多くが診断されていない。的を絞った積極的症例探索イニシアチブが必要とされる。欧州では HBV/HCV の医原性伝播が関連しているが、感染リスクのある人々は、しばしば見過ごされる。本研究の目的は、医原性伝播による HBV/HCV 感染症の高リスク集団(医療従事者も含む)を特定することと、罹患率および有病率を推定することである。2017 年 2 月に、PubMed および Embase により、HBV/HCV、発生、集団のサブグループの用語を組み合わせた文字列で系統的検索を実施した。検索されたすべての文献を選別し、対象とした論文の質的評価を行った。既定の一連の変数を抽出し、興味深い集団、ウイルス、アウトカムについて詳細な要約表を作成した。38 件の論文を対象とし、4 件は HBV、23 件はHCV、11 件は両方に関して報告されており、血液透析患者、糖尿病患者、ヒト由来物質レシピエント、医学的/歯科的手技を受けた患者、および医療従事者における有病率または罹患率の推定を報告した 70 件の調査が示されている。HBV の推定は 0.4%から 11.7%、HCV の推定は 0.7%から 90%超と大きな差があり、大部分が一般集団よりも高かった。検索した研究数が限られ、研究の多くは比較的古く、複数のリスク因子を有する集団に焦点が置かれているにもかかわらず、今回の結果は、EU/EEA における積極的症例探索の対象集団として、HBV/HCV の医原性伝播リスクのより高い集団を考慮することの重要性を強調するものである。地域の疫学的データおよび地域の背景に沿った個々のリスク評価により、検査の提案を行うべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
HBV/HCV の感染者の疫学情報は、患者母集団により大きく変化する場合がある。たとえば肝臓病や糖尿病による腎不全、麻薬中毒患者などの患者背景があると当然リスクは増大する。疫学調査の際の情報収集の仕方が課題である。

病院における抗菌薬適正使用支援プログラムの経済的影響:文献のシステマティックレビュー

The economic impact of antimicrobial stewardship programmes in hospitals: a systematic literature review

C. Huebner*, S. Flessa, N-O. Huebner
*University of Greifswald, Germany

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 369-376


背景
抗菌薬適正使用支援プログラム(ASP)には、臨床現場での合理的な感染症治療における持続可能な管理を可能にする対策も含まれる。ASP 導入の成功には、病院管理を含む、さまざまな医療従事者の各領域間での綿密な連携が必要である。これまで、ASP は、臨床‐薬理学的見地および感染症の観点から主に評価されてきた。

目的
ASP の経済的影響において決定的に重要なパラメーターを特定し、評価すること。

方法
ASP と関連する医療経済研究のピアレビュー論文の系統的検索を実施した。主要評価項目は、薬剤費の節減および病院の収益減少の軽減とした。

結果および結論
計 16 件の研究がすべての選択基準に合致した。公表済みの臨床試験によるエビデンスの大部分で、抗菌薬の直接経費減少により節減が確認された。ASP がもたらす収益効果を、入院期間および再入院率の減少によって立証する研究もある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
ASP により適正な抗菌薬療法が行われた結果、処方総量が増加することはありえる。一方で合併症や患者予後については、集中治療を受けている場合感染症の影響なのかそれ以外の疾患の関係で予後が変化しているのか識別しづらいこともある。

長期ケア施設における感染予防・制御プログラムの効果および中核要素:システマティックレビュー

Effectiveness and core components of infection prevention and control programmes in long-term care facilities: a systematic review

M.H. Lee*, G.A. Lee, S.H. Lee, Y-H. Park
*Seoul National University, Republic of Korea

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 377-393


背景
感染予防・制御(IPC)は、医療環境における医療関連感染症の予防策である。長期ケア施設での IPC プログラムの効果に関するエビデンスは限られている。

目的
高齢者向け長期ケア施設における IPC プログラムの効果および構成要素をレビューし、分析すること。

方法
長期ケア施設での IPC 介入について評価した英語論文で、過去 10 年間(2007 年から 2016 年)に公表されたものを、電子データベース(PubMed、EMBASE、CINAHL、Cochrane CENTRAL)により系統的に検索した。IPC 活動の改善を図るための世界保健機関(WHO)マニュアルに従い、IPC プログラムの構成要素を分析した。Cochrane バイアスリスクツールおよび非無作為化研究用のバイアスリスク評価ツールを用いて、2 名の評価者が独立して研究の質を評価した。

結果
17 件の研究が適格基準に合致し、17 件のうち 10 件は無作為化試験(58.8%)、7 件は非無作為化試験で、これらの研究の目的は、IPC プログラムが、感染症の転帰と医療従事者の実践成果の両方、またはいずれか一方に及ぼす影響について評価することであった。対象とした研究のうち、WHO の中核要素のすべてを実施した研究はなかった。医療関連感染症の脅威を緩和するために、教育、モニタリング、およびフィードバックによる行動変容策が、功を奏する介入であると報告されている。概して、WHO 多面的対策の 4 つ以上の要素を用いた研究で、感染症発生率を有意に低減するとの報告があった。

結論
長期ケア施設における医療関連感染症の制御を目的とした、教育、モニタリング、フィードバック、および WHO 多面的対策の 4 つ以上の要素を用いた IPC 介入の効果に関する複数のエビデンスがある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
長期ケア施設における医療関連感染症の制御であっても包括的な感染対策が必要なことは間違いない。

救急部の手指衛生遵守の改善を目的とした介入:システマティックレビュー

Interventions to improve hand hygiene compliance in emergency departments: a systematic review

H-J. Seo*, K-Y. Sohng, S.O. Chang, S.K. Chaung, J.S. Won, M-J. Choi*
*Chosun University, Gwangju, South Korea

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 394-406


救急部における手技はリスクや侵襲性が高いことが多いので、この部門では手指衛生の問題は重要である。これまで、救急部での手指衛生に関する包括的レビューはなかった。本研究の目的は、救急部における手指衛生遵守率、手指衛生遵守率に影響する因子、および手指衛生遵守の改善のための介入策について検討することである。電子データベースを用いて、1948 年から 2018 年 1 月までに公表された研究を検索した。データベースは、ovidMEDLINE、ovidEMBASE、Cochrane Library、CINAHL、Koreamed、Kmbase を使用した。すべての研究デザインを含めた。2 名の評価者が独立してデータを抽出し、信頼性および妥当性のあるツールを用いてバイアスリスクを評価した。ナラティブ統合を実施した。24 件の研究(横断調査 12 件、介入研究 12 件)を対象とした。レビューした介入研究 12 件のうち、50%を上回る手指衛生遵守率を報告した研究は 33%(4 件)のみであった。手指衛生遵守に影響した因子は、医療従事者の職種、手指衛生の表示、救急部の混雑状況、手指衛生遵守への積極的な態度、患者の場所、手指衛生監査、およびシフトの種類であった。研究のほぼすべてで(83.3%)、手指衛生遵守の改善を図るために多面的または 2 通りの介入が適用された。教育、モニタリングとフィードバック提供、キャンペーン、動機づけなどさまざまな対策が、手指衛生遵守を効果的に改善した。レビューの結果は、救急部において手指衛生遵守の改善の余地があることを示している。どの介入策が手指衛生遵守の改善にもっとも効果的かつ持続可能であるかを明らかにするために、今後の無作為化対照試験が必要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
1948 年から 2018 年の間で検索条件に合った 24 報の論文についてのレビューである。手指衛生遵守率に影響した因子には、救急部の混雑状況など直接の介入が困難な因子も含まれていたが、自施設でのリスクアセスメントを行う上で、役立つと思われた。

介入の情報提供を目的とした、手指衛生行動に影響を与える因子の指標に関する心理測定的評価

Psychometric evaluation of a measure of factors influencing hand hygiene behaviour to inform intervention

S. Lydon*, C. Greally, O. Tujjar, K. Reddy, K. Lambe, C. Madden, C. Walsh, S. Fox, P. O’Connor
*National University of Ireland Galway, Ireland

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 407-412


背景
手指衛生手技はシンプルであるが、関連する行動は複雑で、容易に理解、説明、変容がなされない。「何を」(達成しなければならない基準)だけではなく、「どのように」(いかにして基準を達成すべきかの指針)についても、医療管理者および医療従事者の指針となるデータを提供するための実践ツールが必要である。

目的
本研究の目的は、手指衛生行動の実践に影響を与える因子に対する姿勢を評価するための妥当性のある質問票を作成することである。この質問票は、医療従事者により記入、管理、分析が容易にでき、適切な介入策が特定される。確証的因子分析により構成妥当性の評価、自己報告による手指衛生行動との比較により予測妥当性の評価、部門単位での手指衛生行動の直接観察により収束的妥当性の評価を実施した。

方法
能力・機会・動機づけ‐行動モデルを用いて、25 項目の質問票を作成し、アイルランドの集中治療室(ICU)の職員に配布した。2 つの ICU で手指衛生行動の直接観察を実施した。

結果
計 292 の調査回答(回答率 41.0%)を分析の対象とした。確証的因子分析により、17 項目の質問が採用された。重回帰分析では、能力・機会・動機づけを含むモデルが、自己報告による行動意思の有意な予測因子であることが示された(F[3,209] = 22.58、P < 0.001)。とはいえ、機会因子は、回帰モデルに有意に寄与しないことが確認された。

結論
能力・機会・動機づけ‐行動モデルを用いた手指衛生質問票は、信頼できる妥当なツールであり、特定の医療部門のニーズに合致した手指衛生介入の策定および評価に資するデータを提供する。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
COM-B モデル(能力・機会・動機づけ‐行動モデル)を用いた手指衛生についての医療者の意識調査の論文である。COM-B モデルは、行動と、能力、機会、動機付けとの関連性を調べるためのモデルである。「患者に触れる前」、「清潔操作の前」の手指衛生において自己評価と観察による評価の差が顕著だったことは今後の対応策に役立つと思われ、自施設での評価に使用できるモデルであると思われた。

手指衛生モニタリング技術に対する医療従事者の態度

Healthcare workers’ attitudes towards hand-hygiene monitoring technology

C. Tarantini*, P. Brouqui, R. Wilson, K. Griffiths, P. Patouraux, P. Peretti-Watel
* IHU-Méditerranée Infection, France

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 413-418


背景
RFID を用いた自動手指衛生モニタリング技術を感染症病棟に導入して、医療従事者の実践の検討、および手指衛生の向上を試みた。

目的
この革新的モニタリングデバイスに対する医療従事者の態度を評価して、実践の変更に対する抵抗を予想し、将来における実施を促進すること。

方法
詳細な面接およびエスノグラフィーの手法。

結果
医療従事者の観点からは、患者への感染症の伝播を予防する上での RFID 技術の有用性は認識している一方で、RFID の電磁波に関するリスク、ならびに上司による管理についての懸念が表明された。全体的に、医療従事者の意見は、技術と調査を用いて自分たちの実践を変更することに対する熱意を特徴とする肯定的な考えと、こうした技術と調査に対する強い批判を特徴とする否定的な考えとの間で揺れていた。このような批判には、手指衛生モニタリング技術が医療従事者の実践の背景にある意味を分かりにくくさせるという非難などが含まれていた。医療従事者は、彼らが組み込まれている地域および国という背景においてこの技術を認識していた。医療従事者の観点からは、第一に技術というものはプロジェクトチームにとって最も大きな利益をもたらすものである。したがって医療従事者は、自分たちとプロジェクトチームとの間に利益および目的の違いがあると認め、主張している。このことは、これら 2 群間における専門家としての規範と価値感の葛藤を象徴的に示している。医療従事者が示した抵抗感は、実践の上に現れるとともに、言葉としても表現された。

結論
革新的技術の開発は、RFID をめぐる医療従事者の態度に対処するように行うべきである。医療従事者に対して、これらの技術の性質についての知識を提供することが極めて重要であるが、こうしたモニタリングシステムに関する一部の批判はより構造上の理由に基づいたものである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
RFID による手指衛生モニタリングなど、これまでの人が観察する方法とは異なる技術を用いたモニタリングが導入されつつある。実施者による評価は知ることができるが、モニタリングされる側の考え、行動については知る機会が限られていることから、興味深い研究であると言える。

擦式アルコール製剤の代替としてのオゾン水

Ozonized water as an alternative to alcohol-based hand disinfection

H.J. Breidablik*, D.E. Lysebo, L. Johannessen, Å. Skare, J.R. Andersen, O.T. Kleiven
* Førde Hospital Trust, Førde, Norway

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 419-424


背景
手指衛生は、微生物伝播の予防において重要な役割を担っている。オゾン(O3)は反応性の高い気体であり、細菌、ウイルス、および原生動物に対して広域の抗微生物活性を有する。オゾンは小型発生器により局所的に簡単に生成でき、水道水に溶解させると、周囲の空気中で通常の酸素(O2)に速やかに移行する。

目的
オゾンを溶解させた水道水と擦式アルコール製剤について、細菌で汚染させた手指の汚染除去能を比較すること。

方法
看護学生30 名を対象にクロスオーバー研究を実施した。参加者の手指を大腸菌(Escherichia coli : ATCC 25922)で人工的に汚染させ、次いでオゾンを溶解させた水道水(0.8または4 ppm)または標準的な擦式アルコール製剤(Antibac、アルコール85%)3 mL で消毒させた。手指に一時的に付着した微生物の培養を行い、コロニー形成単位(cfu)/mL を計数した。試験手順は、European Standard EN 1500:2013 を改変して用いた。

結果
汚染させたすべての手指で、消毒前の cfu は 30,000/mL を超えていた。細菌数(cfu/mL)の平均(SD)は、両手の手指を合わせて、オゾン水を用いた後は 1,017(1,391)、擦式アルコール製剤を用いた後は 2,337(4,664)であった。中央値(範囲)は、それぞれ 500(0 ~ 6,700)および 250(0 ~ 16,000)であった(差は非有意)。擦式アルコール製剤により参加者の 20%が有害な皮膚反応(灼熱感/乾燥)を報告したのに対し、オゾン水では有害な感覚の報告はなかった。

結論
オゾンを溶解させた水道水は、E. coli に対する有効な消毒剤であり、従来の擦式アルコール製剤の代替として、医療施設および公共区域の両方で用いることができると考えられる。オゾン水は、皮膚の問題を有する人にとっては特に価値あるものとなる可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
オゾン水による手指や物品の消毒は、現在医療現場において第 1 選択の方策ではない。日本では 2000 年前後にオゾン水による消毒効果について報告が多数あり、現在でも実用的に使用している施設もそれなりにあるようである。今後、本研究のような英文のエビデンスが蓄積すれば、その使用頻度も増加するのかもしれない。一方でオゾン発生器による健康被害なども報告されており、注意が必要である。

長期ケア施設における医療関連感染症と抗菌薬使用(HALT3研究):イタリアの現状の概観

Healthcare-associated infections and antimicrobial use in long-term care facilities (HALT3): an overview of the Italian situation

M.F. Furmenti*, P. Rossello, S. Bianco, E. Olivero, R. Thomas, I.N. Emelurumonye, C.M. Zotti; HALT3 Italian Collaborating Group
*University of Turin, Turin, Italy

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 425-430


背景
長期ケア施設における医療関連感染症と抗菌薬使用に対する認識が高まりつつある。2017 年、イタリアにおいて第 3 回全国点有病率調査が、第 3 回 Healthcare-Associated Infections in European Long-Term Care Facilities(HALT3)研究の一環として実施された。

目的
HALT3 研究の結果を報告し、長期ケア施設の入居者集団、実施された優れた行動、感染症の有病率および抗菌薬使用の実施率について分析を行うこと。

方法
本調査は点有病率調査としてデザインされ、2017 年 4 月から 6 月に実施された。実施施設に居住入居している入居者全員を対象とした。すべての施設に対して、施設に関する質問票、全入居者の入居リスト、ならびに活動性感染症の徴候/症状を有する入居者および/または抗菌薬投与を受けている入居者に関する質問票に記入して回答するよう求めた。

結果
全体で、418 施設が本研究に参加した。入居者 24,132 例が適格とされ、ほとんどが 85 歳超で、失見当識および失禁を有していた。医療関連感染症の有病率は 3.9%で、施設の 50%は感染制御の専門トレーニングを受けたスタッフを有していると報告した。感染症の 26.4%のみが微生物学検査用サンプルによって確認されており、分離された微生物の 26.9%は少なくとも 1 クラスの抗菌薬に対する耐性を示した。全体で、入居者1,022 例が少なくとも 1 種類の抗菌薬を投与されており、セファロスポリン系薬が最も多く処方されていた。

結論
本研究において、実施されていた感染制御および抗菌薬管理の方策の数はこれまでの研究と比べてかなり多かったことが示された。このことは、医療関連感染症有病率、抗菌薬使用、および抗菌薬耐性の低減につながる可能性がある。これらの側面についてモニタリングを行うために、さらなる研究が必要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
長期療養施設における医療関連感染症はその現状すらよく分かっていないことから、非常に懸念されている。しかし本研究では参加した施設の半数に感染制御の専門家を有し、医療関連感染症の有病率も3.9%と一般的な病院における有病率よりも低かった。しかしこれらはあくまでもイタリアの研究であり、日本でどうなのかは調べてみないと分からない。点有病率調査は比較的労力の少ない調査法であり、日本でも試してみる価値はあるのではないだろうか。

ウクライナ、キエフの急性期病院における医療関連感染有病率および抗菌薬耐性率

Prevalence of healthcare-associated infections and antimicrobial resistance in acute care hospitals in Kyiv, Ukraine

A. Salmanov*, S. Vozianov, V. Kryzhevsky, O. Litus, A. Drozdova, I. Vlasenko
*Shupyk National Medical Academy of Postgraduate Education, Kyiv, Ukraine

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 431-437


背景
医療関連感染(HAI)は患者ケアにおいて最もよく見られる有害事象の 1 つであり、かなりの罹患率および死亡率の原因となっている。

目的
ウクライナ、キエフの急性期病院における現在の HAI 有病率および抗菌薬耐性率に関する初の推定値を得ること。

方法
2014 年 1 月から 2016 年 12 月に、キエフの急性期病院 5 施設において前向きサーベイランスを実施した。HAI の定義は、米国疾病対策センターの全米医療安全ネットワークに従った。

結果
53,884 例の患者のうち、3,753 例(7%)の HAI が認められた。最も報告頻度の高い HAI は気道感染症(肺炎 19.4%、下気道感染症 4.1%)、手術部位感染(19.6%)、尿路感染(17.5%)、血流感染(10.6%)であった。入院中の死亡は HAI 症例のうち 7.2%で報告された。HAI から最も高い頻度で分離された微生物は、大腸菌(Escherichia coli)(15.9%)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(14.8%)、腸球菌属(Enterococcus spp.)(10.2%)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(8.9%)、クレブシエラ属菌(Klebsiella spp.)(8.9%)であった。黄色ブドウ球菌の 28.2%でメチシリン耐性が報告され、腸球菌の 14.2%はバンコマイシンに耐性を示した。全体としては、すべての腸内細菌科細菌(Enterobacteriaceae)の 35.1%は第 3 世代セファロスポリンに耐性を示し、最も高い耐性率は肺炎桿菌(K. pneumoniae)(53.8%)および大腸菌(32.1%)で見られた。

結論
病院における感染管理の優先事項には、手術部位感染、肺炎、血流感染および尿路感染の予防が含まれるべきである。これらの結果は、急性期病院における感染予防管理に関する必須要件を明らかにするのに役立つ可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
キエフといえばウクライナの首都であり、特にバレエが有名な美しき古都です。そんなところにも耐性菌の蔓延(腸球菌の 14.2%が VRE で、肺炎桿菌の 53.8%が第 3 世代セファロスポリン耐性!)が押し寄せています。残念なことです。

偽陽性の血液培養を標的とした病院内の介入が経済的結果と臨床転帰に与える影響を評価するモデル

Model to evaluate the impact of hospital-based interventions targeting false-positive blood cultures on economic and clinical outcomes

B.P. Geisler*, N. Jilg, R.G. Patton, J.B. Pietzsch
*Wing Tech Inc., Menlo Park, USA

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 438-444


背景
血液培養汚染は入院期間(LOS)を延長させ、不必要な抗菌薬療法や入院後合併症を引き起こす。

目的
追加の LOS の程度、病院と社会に与える損失、ならびに血液培養汚染に起因する患者への悪影響を数値化すること。

方法
敗血症と適合する症状のある入院患者を含めて、後向きマッチング生存分析を実施した。主要な LOSのデータ、修正デルファイ・プロセス、公表された情報源に基づき、血液培養汚染の費用、入院後合併症、潜在的な費用削減額を算出した。費用分析によって標準的治療と血液培養汚染を減少させるための介入を比較し、典型的な病院および米国全体にもたらす年間の経済的・臨床的結果を推定した。

結果
血液培養汚染がみられた患者では、LOS は平均で 2.35 日延長した(P = 0.0076)。血液培養汚染を回避することで、費用が 6,463 ドル削減される可能性があった(4,818 ドルは入院患者のケアに由来し[このうち 53%は LOS の短縮による]、26%は抗菌薬使用の減少に由来する)。250 ~ 400 床の典型的な病院において、採血専門技師を雇用することによって、年間で 130 万ドル削減され 24 例の入院後合併症(クロストリジウム・ディフィシル[Clostridium difficile]感染症 2 症例を含む)を防ぐ可能性があった。また、臨床効果のエビデンスに基づくと、研究された「採血時初期血液分離装置」を使用すると、年間で 190 万ドルを削減し 34 例の入院後合併症(C. difficile 感染症 3 症例を含む)を防ぐ可能性があった。米国全体では、それぞれの方法により 69,300 例および 102,900 例の入院後合併症(C. difficile 感染症 6,000 症例および 8,900 症例を含む)を防ぎ、50 億ドルおよび 75 億ドル削減される可能性があった。

結論
偽陽性の血液培養に関連する費用および臨床的負担は極めて大きいが、採血専門技師とこの血液分離装置の使用を含めた介入を利用することにより、これらを削減できる可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
血液培養「偽」陽性は、一般的に頻度は 0.6% 〜 6%とされ、不要な抗菌薬投与や余分な検査による入院期間の延長が発生し、経済的損失を増やすこととなる。これまでに偽陽性を減らすために、適切な皮膚消毒、滅菌済みの血液採取キット、血液培養専門の採血チームによる試みがなされてきた。さらに偽陽性を減らすために導入されたのが「採血時初期血分離装置」である。この装置を使用して血液培養を実施することで、コストダウンと入院期間短縮が図れる。

監訳注:「採血時初期血液分離装置」(initial specimen diversion device)は、血液培養のための血液採取時に混入する皮膚常在菌で汚染された初期の1 〜 2 mLの血液を、この装置内で分離した後、以後の汚染のない血液を血液培養ボトルに分注できるようにした装置である。

ロシアにおけるカンジダ・オーリス(Candida auris)の出現★★

Emergence of Candida auris in Russia

N.E. Barantsevich*, O.E. Orlova, E.V. Shlyakhto, E.M. Johnson, N. Woodford, C. Lass-Floerl, I.V. Churkina, S.D. Mitrokhin, A.S. Shkoda, E.P. Barantsevich
*Almazov National Medical Research Centre, Russia

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 445-448


本稿では、モスクワの病院 1 施設の集中治療室におけるカンジダ・オーリス(Candida auris)感染症の出現について報告する。2016 年から 2017 年にかけて49 症例が診断を受け、リスク因子と抗真菌感受性について記述が行われた。適切な抗真菌薬療法を受けなかった患者の血流感染症 19 件において、30 日全死因死亡率は 42.1%であった。内部転写スペーサーおよび D1/D2 領域,ならびに ERG11 遺伝子における K143R 置換を対象とした系統樹解析から、調査対象とされた C. auris 株は南アジア起源であることが示された。このロシアにおける C. auris 感染症の初の一連の症例報告は、このカンジダ種が急速に拡散していること、また国際的なサーベイランスおよび制御策が必要であることを示している。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
カンジダ・オーリスは、2005 年日本で発見された真菌性新興病原体である。院内感染と強く関連しており、2016 年 6 月 24 日米国 CDC は本菌が患者から検出されないか注意深く監視するように警告を発し、全世界が注目した。本菌はフルコナゾール耐性のみならず多剤耐性であり、カンジダ血症をおこすため死亡率も高く、アウトブレイクすると感染対策上非常に厄介な真菌である。また、通常の生化学的性状による同定は不可能で、遺伝子もしくは質量分析による同定が必要である。現時点では日本での本菌によるアウトブレイクは報告されていないが、引き続き警戒する必要がある。

末梢静脈カテーテル関連血流感染症を予防するための多面的教育介入の結果★★

Results of a multi-faceted educational intervention to prevent peripheral venous catheter-associated bloodstream infections

M. Garcia-Gasalla*, M. Arrizabalaga-Asenjo, C. Collado-Giner, L. Ventayol-Aguiló, A. Socias-Mir, A. Rodríguez-Rodríguez, M.-C. Pérez-Seco, A. Payeras-Cifré
*Hospital Son Llátzer, Palma de Mallorca, Spain

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 449-453


末梢静脈カテーテル関連血流感染症は、入院の長期化、合併症および医療費増加をもたらす。スペインの大学病院 1 施設において、感染予防策が末梢静脈カテーテル関連血流感染症の発生率に及ぼす影響を評価した。2015 年に積極的サーベイランスプログラムを開始し、これにより末梢静脈カテーテル関連血流感染症の発生率比が高い(1,000 患者日あたり 0.48)ことが明らかになった。看護師、医療スタッフおよび患者を対象としたバンドルを実施し、カテーテル感染症チームを立ち上げた。この介入により、末梢静脈カテーテル関連血流感染症の発生率低下が達成され、2016 年の 0.34 から、2017 年には 0.29、2018 年には 0.17 となった。発生率の低下はグラム陰性菌による末梢静脈カテーテル関連血流感染症で最も大きかった(2015 年に 67.6%、2018 年に 35.3%)。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
末梢静脈カテーテル関連血流感染症(PVC-BSI)は、中心静脈カテーテル関連血流感染症(CVC-BSI)ほど、これまであまり注目されていなかった。本論文は PVC-BSI に注目し、サーベイランスを開始したところ、発生率が高いことが判明し、カテーテル感染症対策チームの組織と複合的対策バンドルを作成し、複合的な感染対策を実施した。バンドルは、①挿入手技前の手指衛生の遵守、②皮膚消毒をアルコール含有 2%クロルヘキシジングルコン酸塩に変更、③適切なカテーテルの選択、④消毒剤でごしごし擦ることによるポートへのアクセスと滅菌デバイスのみをポートにアクセスすること、⑤毎シフト毎に挿入部の観察を透明ドレッシング剤上から実施、⑥不要なカテは抜去し、毎日カテーテル治療の必要性を評価、であった。また 6 日以上の挿入が必要な場合は、PICC またはミッドラインカテーテルを選択した。、対策チームは、看護師 2 名、細菌検査技師 1 名、集中治療医 1名、内科医 2 名で構成され、看護師や看護助手のバンドル教育を実施し、その結果効果的に発生率を低下させることができた。

多剤耐性菌による院内感染の社会経済的影響:定性的研究

The socio-economic impact of multidrug-resistant nosocomial infections: a qualitative study

Y. Mo*, I. Low, S.K. Tambyah, P.A. Tambyah
*University Medicine Cluster, National University Hospital, Singapore

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 454-460


医療関連感染(HCAI)の負担は、従来、臨床転帰および経済的結果を用いて評価されてきた。HCAI の影響をよりよく理解するため、多剤耐性菌に起因する HCAI に感染した 18 例の患者または患者の介護者に、半構造化面接を実施した。ほとんどの患者は HCAI と抗菌薬耐性について誤解しており、彼らの医療提供者の肯定的見解にもかかわらず、HCAI に対する強い否定的な感情につながっていた。HCAI によるトラウマへの対処を促進するためには、患者と医療提供者間の力の不均衡を背景としたコミュニケーションの問題に取り組む必要がある。患者の視点を取り入れた HCAI に対する包括的なアプローチは、政策立案者が患者の転帰改善のための解決策を生み出すのを助ける可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
HCAI に感染した患者とその家族に対する調査は、これまでなかなか行われてこなかった。HCAI を生じた状況、医療従事者の関わり、医療環境、文化的背景は様々であり、またそれを研究としてまとめる点にも課題があった。本検討は貴重な試みの一つであり、また本邦での研究を鑑みるうえでも非常に参考になるであろう。

検査室でのコクシジオイデス(Coccidioides)への曝露:非流行国で学んだ教訓★★

Laboratory exposure to Coccidioides: lessons learnt in a non-endemic country

L. Porte*, F. Valdivieso, D. Wilmes, P. Gaete, M.C. Díaz, L. Thompson, J.M. Munita, R. Alliende, C. Varela, V. Rickerts, T. Weitzel
*Laboratorio Clínico, Clínica Alemana de Santiago, Facultad de Medicina Clínica Alemana, Universidad del Desarrollo, Santiago, Chile

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 461-464


コクシジオイデス(Coccidioides)は主要な病原性真菌の 1 つであり、感染性の高い分節型分生子を介してヒトに感染し、生命を脅かす播種性感染症を含む相当な罹患率の原因となっている。感染用量が低いため、検査技師は作業中に感染する可能性がある。その結果、コクシジオイデス症は世界的に最も頻度が高い検査室感染の全身真菌症として報告されている。コクシジオイデス症の診断が疑われることの少ない非流行国においては、このリスクは増大する。今回我々は、チリの微生物検査室において、44 名がコクシジオイデス・ポサダシ(Coccidioides posadasii)に不用意に曝露を受けたこと、そして MALDI-TOFを用いて迅速に同定し、封じ込めの手段を講じたこと、ならびに非流行地域という状況で学んだ教訓について報告する。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
コクシジオイデスはバイオセーフティーレベル(BSL)3 に相当する。非流行国である本邦においても、微生物検査室で未同定のコクシジオイデスを培養してしまい、曝露を受けてしまうリスクは、本報告と同様に存在する。一方で、臨床医が渡航歴や病歴から、コクシジオイデス症を早期に疑って、微生物検査室に相談の連絡が入る例もある。監訳者も、「米国南西部から帰国後の胸部異常影の精査で、気管支肺胞洗浄液の採取前に微生物検査室に連絡が入り、最終的に本症と判明したものの、検査室での曝露を未然に防ぐことができた」例と、「難治性耳感染で来院したために、通常の扱いで培養検体が提出されてしまった」例を経験している。診療科にかかわらず、渡航と本症に関わる認識を高める工夫も必要であるといえる。

血液培養からの抗菌薬耐性遺伝子の検出:性能評価および抗菌薬療法に対する影響

Detection of antibiotic resistance genes from blood cultures: performance assessment and potential impact on antibiotic therapy management

G. Bianco*, M. Boattini, M. Iannaccone, F. Sidoti, R. Cavallo, C. Costa
*University Hospital Città della Salute e della Scienza di Torino, Italy

Journal of Hospital Infection (2019) 102, 465-469


遺伝子検査は、タイムリーな薬剤耐性の予測や、エンピリックに開始した抗菌薬の最適化を行うにあたり、妥当な一法となる可能性がある。本研究では、主要なカルバペネマーゼと基質特異性拡張型β - ラクタマーゼ(ESBL)の遺伝子、および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)特異的遺伝子と mec 遺伝子を血液培養から 3 時間未満で検出できる ELITe MGB アッセイの性能を評価した。遺伝子検査の結果と、従来の表現型に基づいた結果には、良好な一致が認められた。
診療記録の後向き分析により、ESBL 産生菌、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌、MRSAによる血流感染のおよそ 50%は、当初は無効な薬剤で治療されたことが明らかになった。全体として、もし遺伝子検査が用いられていれば、36.3%の患者は少なくとも 24 時間早く適切な治療を受けることができたであろう。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
ELITe MGB(ELITe InGenius)は、核酸抽出からマルチプレックスreal-timePCR、判定まで3 時間以内に行うことができるキットであり、海外では各種微生物および耐性遺伝子に特異的なセットが発売されている。近年、簡便に複数の微生物・耐性遺伝子を検出することができる遺伝子検査の導入の速度が速くなり、我々が持つ選択肢も確実に増加している。検査法それぞれの評価もさることながら、どのような場面で、どのように使用し、治療と感染対策の両面について、結果を現場でのマネジメントにいかにつなげていくかが、重要である。使用される状況は医療機関によっても異なるが、このような目的・方針のもとで、本キットが有力な手段となることに期待したい。

サイト内検索

Loading

アーカイブ

最新のコンテンツ

Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.