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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

コロナウイルスの影響により一部、監修者のコメントおよびレーティングを未監修のまま掲載しておりますので、ご了承ください。

成人における手術部位感染症予防の経済的利益:システマティックレビュー

The economic benefits of surgical site infection prevention in adults: a systematic review

A. McFarland*, J. Reilly, S. Manoukian, H. Mason
*Glasgow Caledonian University, UK

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 76-101

背景
手術部位感染症(SSI)は、入院期間延長、苦痛、障害、死亡という点で医療および患者にかなりの負担をもたらす。SSI リスクおよび関連する経済的負担は、予防ガイドラインの遵守により、最低限度額は明らかではないものの減少する可能性がある。

目的
あらゆる SSI の予防対策における費用対効果の推定に使用される方法を評価すること。

方法
施設で外科的治療を受けた成人患者における費用・利益に関して、英語で発表された経済的評価研究(経済的評価が含まれる研究)および分析が行われた研究を特定するために、PubMed、Medline、CINAHL、UK National Health Service Economic Evaluation Database で、開始時から 2020 年 1月までのデータベースを検索した。公表されている 2 つのチェックリストを用いてバイアスリスクを評価した。

結果
参加者 24,043 例を含む 32 報の研究を対象とした。ほとんどの研究で整形外科におけるSSI 予防について評価されていた。評価された主な方法は、抗菌薬予防投与、スクリーニング、治療、あるいはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)および手術創縫合部の除菌であった。費用分析から費用対効果分析、費用効用分析まで方法はさまざまであった。不均一性により結果の統合は不可能であった。すべての研究で、SSI 予防と関連する多少の経済的利益が報告されていたが、利益の指標が報告されていない研究もあり、研究の質は低~中程度であった。QOL に及ぼす SSI の影響に関して確認されたエビデンスは限られていた。

結論
SSI 予防の経済的利益に関する現時点でのエビデンスは限られている。SSI 予防における今後の投資決定について情報を提供するために、経済学的・疫学的に適切な方法を用いた頑健な研究がさらに必要とされる。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
血流感染などがバンドルの効果で低減されると、低減効果の不十分な領域の対策に目がいく。SSI は患者に重大な合併症による危機を招き、機能障害・在院日数の増加による経済的負担など様々な弊害をもたらす。先進国の多くでは出来高払い制度(米国の DRG-PPS や日本の DPC)を医療費抑制の一環として実施しており、収益性の観点ならびに医療の質や患者安全の観点から SSI の発生を抑制することが重要課題である。多施設間で評価比較することでさらなる改善が見込めるため、施設間比較の指標は大変重要である。

医療環境における抗菌剤コーティングによる耐性の淘汰

Selection of resistance by antimicrobial coatings in the healthcare setting

F. Pietsch*, A.J. O’Neill, A. Ivask, H. Jenssen, J. Inkinen, A. Kahru, M. Ahonen, F. Schreiber
*Federal Institute for Materials Research and Testing, Germany

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 115-125

抗菌性接触面は、現行の衛生手技をサポートするため、また、高まる抗菌剤の耐性の脅威への対処を補助するために医療環境に導入されている。とはいえ、抗菌性接触面によって、抗菌剤耐性の出現および拡散を助長しうる選択圧の可能性が懸念されている。本レビューでは、新規突然変異および遺伝子水平伝播による進化など異なるプロセスならびに抗菌性表面に散在する自然耐性菌の種選別により生じる抗菌性表面の耐性と関連するリスクを示す研究に焦点を置いた。また、実用化されている銅や銀、および抗菌ペプチドの有望な特性から、銅、銀、抗菌ペプチドを使用した抗菌性表面に注目した。入手可能なデータから、金属によりもたらされる交差耐性・共耐性および抗菌剤耐性の特性によって起こる耐性選択と、それに続く耐性剤増加の可能性が示された。しかしながら、医療関連環境での抗菌性接触面に対する耐性の出現について報告した橋渡し研究はまれであり、この環境において抗菌性表面が耐性選択を誘導するか否か、また、いかに誘導するかを評価する必要がある。このような研究では、コーティングに含まれる抗菌剤濃度、表面上のバイオフィルム発生、乾燥表面環境と関連する湿度など多数の変数について検討する必要があると考えられる。抗菌コーティングの有効性に関する現場試験では、その使用と関連する耐性選択のリスクをルーチンに評価すべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
抗菌剤処理を施した環境表面の効果がどれだけあるのかについては十分な検証が必要である。乾性バイオフィルム対策としても効果的なのかどうかなどについても検証が必要である。

内科および外科病棟における医療関連感染症の予防・制御策の経済分析:割引アプローチを用いたシステマティックレビュー

Economic analysis of healthcare-associated infection prevention and control interventions in medical and surgical units: systematic review using a discounting approach

E. Tchouaket Nguemeleu*, I. Beogo, D. Sia, K. Kilpatrick, C. Séguin, A. Baillot , M. Jabbour, N. Parisien, S. Robins, S. Boivin
*Université Du Québec en Outaouais, Canada

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 134-154

院内感染症または医療関連感染症(HCAI)は、世界的に見ても、患者と医療施設の両方に影響を及ぼす経済的負担と関連する。手指衛生、衛生状態・衛生設備、スクリーニング、基本的・追加的予防法に関する最善の臨床ケア実践は、経済的負担の低減を図るものである。COVID-19 のパンデミックから、これらの 4 つの最善の臨床ケア実践は、HCAI の拡散を抑える極めて重要な予防策であることが確認されている。本稿では、割引アプローチを用いたこれらの 4 つの最善の臨床ケア実践に関連する経済的評価のシステマティックレビューを実施した。2000 年から 2019 年に発表された論文を検索した。クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)関連下痢症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)、バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci)、カルバペネム耐性グラム陰性桿菌の感染予防・制御に関する経済的評価を対象とした。費用最小化、費用対効果、費用効用、費用便益、費用結果の分析により結果を検討した。論文の質について評価した。計 11,898 報の論文をスクリーニングし、7 報を対象とした。大半の研究(7 報中 4報)の質は、全体的に中程度の質であった。すべての研究で、最善の臨床ケア実践の費用対効果が確認されていた。最善の臨床ケア実践による年間の正味費用削減の平均は、252,847 ドル(2019 年カナダドル)から 1,691,823 ドルと幅があり、割引率(3%、8%)に依存した。最善の臨床ケア実践の増分便益費用比の平均は 2.48 ~ 7.66 であった。資源の有効利用と健康上の利益の最大化を図るために、感染制御に関する経済的評価にあたり、エビデンスに基づく医療方針決定を支援する継続的な研究を実施すべきである。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
医療費抑制の観点から、医療関連感染の予防の徹底が重要視されていれば効果的な対策が充実することになり歓迎される。

N95 および SN95 マスクの紫外線殺菌照射による汚染除去は、マスクの有効性および安全性を損なわない

Decontaminating N95 and SN95 masks with ultraviolet germicidal irradiation does not impair mask efficacy and safety

K. O’Hearn*, S. Gertsman, M. Sampson, R. Webster, A. Tsampalieros, R. Ng, J. Gibson, A.T. Lobos, N. Acharya, A. Agarwal, S. Boggs, G. Chamberlain, E. Staykov, L. Sikora h, J.D. McNally
*Children’s Hospital of Eastern Ontario Research Institute, Canada

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 163-175

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)アウトブレイクなどのパンデミック時、医療従事者におけるマスクの供給不足は公衆衛生上の深刻な問題である。本研究の目的は、N95 マスクの汚染除去のための紫外線殺菌照射の有効性に関する既存のデータを統合することである。N95 マスクの紫外線殺菌照射に関するシステマティックレビュー(PROSPERO CRD42020176156)を、Embase、Medline、Global Health、Google Scholar、WHO feed、MedRxiv を用いて実施した。2 名の評価者が独立して適格性を決定し、事前に設定した変数を抽出した。紫外線殺菌照射後の機能、汚染除去、マスク密着性に関して報告した original research を対象とした。13 報の研究が特定され、紫外線殺菌照射介入群 54、N95 モデル 58 から成る。紫外線殺菌照射後もマスクの認証基準は一貫して維持された。エアロゾル透過率の平均は、対照群では 1.19%(0.70 ~ 2.48%)、紫外線殺菌照射群では 1.14%(0.57 ~ 2.63%)であった。通気抵抗の平均は、対照群では 9.79 mmH2O(7.97 ~ 11.70 mmH2O)、紫外線殺菌照射群では 9.85 mmH2O(8.33 ~ 11.44 mmH2O)であった。累積線量 20,000 J/m2 超を使用した紫外線殺菌照射プロトコルによって、ウイルス量が 2 log 減少した。40,000 J/m2 超を使用した 7 報の紫外線殺菌照射群では、3 log 超の減少が観察された。密着性に及ぼす紫外線殺菌照射の影響が 2 報の研究で評価され(16,200 J/m2、32,400 J/m2)、密着性が損なわれるエビデンスは認められなかった。今回の結果から、この領域のさらなる研究(または、臨床環境への橋渡し研究)では、紫外線 C 波の累積線量を
40,000 J/m2 以上として、汚染除去後のマスクの適切な密着性を確認すべきであることが示唆される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
マスクは立体構造を呈しており素材の内部に侵入した SARS-CoV-2 まで不活化できているのかなどの検証が課題である。

英国の集中治療室(ICU)における 2016 年 5 月から 2017 年 4 月の血流感染症サーベイランス:疫学と生態学

Surveillance of bloodstream infections in intensive care units in England, May 2016–April 2017: epidemiology and ecology

S.M. Gerver*, M. Mihalkov, J.F. Bion, A.P.R. Wilson, D. Chudasama, A.P. Johnson, R. Hope, on behalf of the Infection in Critical Care Quality Improvement Oversight Group
*Public Health England, UK

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 1-9

背景
集中治療室(ICU)の患者における血流感染症(BSI)は、罹病率・死亡率・経済的損失の増加と関連する。多くの BSI が中心静脈カテーテル(CVC)と関連している。英国の ICU における BSI サーベイランスに着手するために、Infection in Critical Care Quality Improvement Programme が構築された。

方法
あらゆる血液培養陽性例、入院日数、CVC 留置日数について収集するために、2016 年 5 月 1 日にウェブベースのデータ収集システムを立ち上げた。英国国民保健サービス(National Health Service;NHS)トラストに、サーベイランスプログラムへの参加を依頼した。データを、Public Health England により保存されている抗菌薬耐性データセットおよび死亡率データとリンクさせた。

結果
2016 年 5 月 1 日から 2017 年 4 月 30 日にかけて、NHS トラストの 147 施設のうち57 施設の ICU 84 室(成人 ICU 72 室、小児 ICU 7 室、新生児 ICU 5 室)がデータを提供した。全体で 1,474 件の血液培養陽性例が報告され、もっともよく報告された微生物は、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(staphylococci)、大腸菌(Escherichia coli)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)であった。成人 ICU、小児 ICU、新生児 ICUそれぞれで、BSI の発生率は 1,000 患者ベッド日あたり 5.7、1.5、1.3 で、ICU 関連 CVC-BSI の発生率は 1,000 ICU-CVC 日あたり 2.3、1.0、1.5 であった。ICU のタイプ毎で、 BSI および CVC-BSI の発生率に大きな差があり、とくに成人 ICU で顕著であった(1,000 患者ベッド日あたり 0 ~ 44.0、1,000 ICU-CVC 日あたり 0 ~ 18.3)。

結論
ICU 関連 CVC-BSI の全発生率は、3 つの年齢層で 1,000 ICU-CVC 日あたり 2.5 未満であったが、ICU 間で大きな差が認められた。これによる改善の機会を特定するために、全国的な標準化サーベイランスシステムの重要性が強調される。データリンケージによって、耐性パターンおよび患者転帰に関する臨床的に重要な情報が、追加費用なしで参加トラストに提供された。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
コメントなし

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の不足に対応した呼吸用個人防護具の迅速な汚染除去のための乾熱およびマイクロ波発生蒸気のプロトコール

Dry heat and microwave-generated steam protocols for the rapid decontamination of respiratory personal protective equipment in response to COVID-19-related shortages

M.J. Pascoe*, A. Robertson, A. Crayford, E. Durand, J. Steer, A. Castelli, R. Wesgate, S.L. Evans, A. Porch, J-Y. Maillard
*Cardiff University, UK

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 10-19

背景
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミックと前例のない世界的な需要をきっかけに、臨床医は個人防護具を十分に入手する機会を必死で調達しようと努力している。マスクは SARS-CoV-2 への曝露から医療従事者を保護するために必要であるにもかかわらず、不足することがある。マスクの迅速な汚染除去と再利用は緊迫した調達状況の不安を取り除く可能性がある。

方法
本研究では 70°C の乾熱およびマイクロ波発生蒸気が FFP2/N95 型マスクと II 型サージカルフェイスマスクの再処理に適しているかを検討した。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)はエンベロープウイルスよりも化学的・物理的な処理に対して感受性が低いため、代替として用いた。

結果
70°C 乾熱 90 分の処理を行った黄色ブドウ球菌の生存は>4 log10 の減少が認められ、マイクロ波発生蒸気 90 秒では>6 log10 の減少が認められた。3 サイクルの再処理後、どの処理でも検査されたマスクの細菌または塩化ナトリウムのろ過効率に対する悪影響は認められなかった。しかし、再処理後に細菌ろ過能力が完全に失われたことが確認されたように、マイクロ波発生蒸気は検査された II 型サージカルマスクに不適合であった。一部の種類の金属製鼻クリップの周りに観察されたアークの発生のため、またクリップのマスクへの接着力の低下により、マイクロ波発生蒸気は一部の種類のマスクに不適合であることが認められた。

結論
それぞれの手法の利点と欠点を考慮して、医療分野での使用のための個人防護具およびフェイスマスクの再処理に関するワークフローを提案する。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
日本でも、2 月頃から PPE の不足が全国で問題となり、ビニールで作ったガウンや、N95マスクの再利用が行われる事態が生じた。厚生労働省が具体的な対応について通知を出しているので、この機会に再度確認しておきたい。

厚生労働省 2020 年 4 月 14 日通知「サージカルマスク、長袖ガウン、ゴーグル及びフェイスシールド、の例外的取扱いについて」
https://www.mhlw.go.jp/content/000622132.pdf

厚生労働省 2020 年 4 月 10 日通知「N95 マスクの例外的取扱いについて」

https://www.mhlw.go.jp/content/000621007.pdf

中国・武漢の医療スタッフにおける職業的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の伝播に関連する超因子

Super-factors associated with transmission of occupational COVID-19 infection among healthcare staff in Wuhan, China

Y. Wang*, W. Wu, Z. Cheng, X. Tan, Z. Yang, X. Zeng, B. Mei, Z. Ni, X. Wang
*Zhongnan Hospital of Wuhan University, China

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 25-34

背景
世界的に医療スタッフにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症例は多いが、感染に関連する主要因子はよく分かっていない。

目的
中国の医療スタッフにおいて COVID-19 感染を引き起こしている超因子を特定すること。

方法
2020 年 1 月 1 日から 2 月 30 日の間に横断研究を実施し、COVID-19 患者の看護と治療に携わった最前線の医療スタッフを登録した。感染群と非感染群の疫学・人口統計学的データを収集し比較した。影響因子間の計量社会学的なソーシャルリンクを確立するため、社会ネットワーク分析を用いた。

結果
計 92 名の医療スタッフが登録された。すべての参加者群において、ネットワークにより特定された超因子は医療用防護マスクまたはサージカルマスクを正しく装着することであった(次数中心性 572、近接中心性 25、媒介中心性 3.23)。勤務中に頬、鼻、口に触れることは感染群における超因子であった。これはネットワークにおける最も大きなノードであり、最も強い影響を及ぼした(次数中心性 370、近接中心性 29、媒介中心性 0.37)。自己防護スコアは非感染群において超因子であったが、感染群においては孤立因子であった(次数中心性 201、近接中心性 28、媒介中心性 5.64)。家族にとっては華南海鮮卸売市場への曝露歴および野生動物との接触歴が 2 つの孤立ノードであった。

結論
高い自己防護スコアは医療スタッフが COVID-19 に罹患するのを防ぐ主要因子であった。医療スタッフにおいて COVID-19 感染に関与する主要因子は、勤務中に頬、鼻、口に触れることであった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
「Super-factors」は、the core influencing factors と 説明されており、主要な関連因子、ノード(nodes)は本文では influencing factors と説明されており、関連因子と考えてよいと思われる。医療従事者にとって、マスクを正しく着用すること、手を自分の顔に近づけないことの重要性を再認識できた。

ペニシリンアレルギーの記録が抗菌薬の費用と入院期間に及ぼす影響:単一施設後向き観察コホート研究

Impact of penicillin allergy records on antibiotic costs and length of hospital stay: a single-centre observational retrospective cohort

N. Powell*, K. Honeyford, J. Sandoe
*Royal Cornwall Hospital Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 35-42

緒言
通常、ペニシリンアレルギーの記録がある患者は非ペニシリン系抗菌薬を処方され、健康上の転帰もより悪い。本研究ではペニシリンアレルギーの記録が抗菌薬治療の費用と患者の入院期間に及ぼす影響を調査した。

方法
750 床の英国の病院 1 施設において、2016 年 4 月から 2018 年 3 月の間に全身投与の抗菌薬を処方された患者が本研究に含まれた。以下のデータは患者ごとに抽出された(すなわち、年齢、性別、併存疾患、治療を受けた感染症、抗菌薬の使用量[1 日服用量]、入院期間、ペニシリンアレルギーの状態)。ペニシリンアレルギーが記録された患者と抗菌薬の総費用、総入院期間との間の関連性を明らかにするために、多変量対数線形モデリングを使用した。上記のモデルを用いて、ペニシリンアレルギーの記録を「削除する」患者の総費用と総入院日数の見込まれる削減を推定した。

結果
ペニシリンアレルギーの記録は入院患者の 14.3%に存在し、非ペニシリン系抗菌薬の処方の増加に関連していた。ペニシリンアレルギーの記録がない患者と比較すると抗菌薬の費用は 28.4%増え、入院期間は 5.5%長かった。ペニシリンアレルギーの記録がある患者の余分な抗菌薬の支出は 10,637 ポンド(抗菌薬の年間支出の 2.61%)、余分な入院日数は 3,522 日(年間入院日数の 3.87%)を占めた。自己申告のペニシリンアレルギーの記録がある患者のうち 50%の記録を削除することで抗菌薬の費用を推定 5,501 ポンド節減でき、余分な入院日数の短縮により 503,932 ポンド削減できる可能性がある。

結論
患者の自己申告のアレルギー記録を削除することにより、抗菌薬の費用を削減できる可能性があるが、余分な入院日数の削減が費用への最大の影響をもたらす。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本論文は、ペニシリンアレルギーの記載をやめる提案をしている。研究者らの予測では、「自己申告のペニシリンアレルギー」の記録を半分削除することで抗菌薬費用を 75 万円、入院関連で 7 千万円の削減になるとしている。「ペニシリンアレルギー」の定義を見直す必要はあるが、治療成績にもよい影響を与える可能性があると思われた。

患者と医療従事者のコホート隔離室での経験の認識:定性的研究★★

Perceptions of patients’ and healthcare workers’ experiences in cohort isolation units: a qualitative study

M. Eli*, K. Maman-Naor, P. Feder-Bubis, R. Nativ, A. Borer, I. Livshiz-Riven
*Clalit Community Healthcare Services, Israel

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 43-52

背景
カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)の治療選択肢が乏しいことを考慮して、入院患者における CPE の蔓延を抑制するために積極的な介入が実行されている。そのような選択肢の 1 つは、患者を指定された部屋にコホーティングする接触隔離である。

目的
CPE が原因のコホート隔離室での経験に関して、この部屋に入院した患者とその家族、ならびに同じ部屋で勤務した医療従事者の視点から述べること。

方法
定性的研究。大規模な 3 次病院 1 施設において対面の半構造化面接を実施した。15 名の医療従事者、3 例の患者および 6 人の家族を含む 24 人の参加者が面接を受けた。データはテーマ分析を用いてコード化された。

結果
コホート隔離室は恐れ、リスク、孤独感、不信感、不公平といった否定的な感情を引き起こし、また病院診療の治療に関する思い込みと食い違うという感覚も生んだ。コホート隔離室のインフラの乏しさはその場所での混雑の認識に反映された。さらに家族は、彼らを警戒状態に陥らせた医療従事者の一貫性のない防護行動に関して述べた。病院の感染制御室は、医療従事者にコホート隔離室に関する知識と期待される行動を伝え、更新させた。しかし、患者と家族はコホート隔離室の「理由と状況」に関する情報、指導および教育に対して不満を述べた。彼らは退院後の望ましい行動に関して一貫して指導を受けてはいなかった。医療従事者は後から振り返って、コホート隔離室は精神的、身体的および専門的な負担がかかると感じた。

結論
コホート隔離室は一時的な封じ込めの仕組みとして計画された。コホート隔離室をすべての関係者の様々なニーズに対応できる恒久的なシステムに発展させる必要がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
「医療従事者の一貫性のない防護行動」「退院後の望ましい行動に関して指導を受けてはいなかった」思い当たることしかない…。コホート隔離において、患者がどのように感じているか、改めて患者の身になって考え、患者に寄り添った目線で感染対策を策定する必要がある。

手術室における皮膚への細菌の再定着:様々な消毒プロトコール間の比較

Bacterial skin recolonization in the operating room: comparison between various antisepsis protocols

L. Rouquette*, O. Traore, S. Descamps, S. Boisgard, G. Villatte, R. Erivan
*Université Clermont Auvergne et associés, France

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 57-64

背景
手術部位感染症(SSI)は患者の皮膚の内因性細菌叢に大いに関係する。手術前後の消毒プロトコールは一般的な合意に従っていない。

目的
手術室における微生物の皮膚への再定着について経時的に定量的に評価し、消毒と皮膚の保護のプロトコールを比較すること。本研究の仮説は、ある 1 つのプロトコールが他のものより効果的だろうということであった。

方法
2019 年 1 月から 6 月の間に単一施設前向き介入研究を実施した。健康ボランティアが各プロトコールに無作為に割り付けられ、またボランティア自身の対照群としての役割を果たした。プロトコールは予定された整形外科手術よりも先に手術前のシャワーから開始され、機械的洗浄、主要な消毒薬の塗布(alcoholic BétadineTM 5%またはクロルヘキシジンアルコール 0.5%)、滅菌ドレーピング、その後、粘着ドレーピング(3MTM Steri-DrapeTM またはヨウ素含浸 3MTM Ioban2TM)が行われた。サンプル採取は手術室において 30 分間隔、ドレーピング後 90 分 までの拭き取りによって行った。培養は好気条件下と嫌気条件下で行った。定性的および定量的(cfu/mL)な細菌学は検査室で血液寒天培地を直接読み取って行った。

結果
30 例の被験者が含まれ、追跡調査不能となったり分析から除外された被験者はいなかった。処置前(T0)の細菌数は、シャワーからサンプル採取までの間隔が有意に短い(P = 0.03)にもかかわらず男性において有意に多かった(P < 0.0001)。喫煙(P = 0.85)、体格指数(P = 0.38)、脱毛(P = 0.50)は手術前の細菌数に有意に影響しなかった。すべてのプロトコールにおいて 90 分(T90)まで細菌数の平均値は有意に増加し、いずれか 1 つのプロトコールが有意に優れているということはなかった。BétadineTM と Ioban2TM 併用時の T90 の細菌数が最も少なく、クロルヘキシジン単独は最も多かったが、有意差はなかった。T0 の分離菌は健康な皮膚の主な共生生物であるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci)、小球菌(micrococci)、コリネ型細菌(coryneforms)であった。

結論
手術室での即時の殺菌作用においても、皮膚への再定着の予防においても、優位性を示したプロトコールはなかった。SSI のリスク管理に関する一般的に合意されたプロトコールを明らかにするため、さらなる研究が必要である。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
手術患者において、手術創部を洗浄・消毒した後の細菌再増殖について、プロトコール毎に差がないか検討した研究であるが、プロトコール同士で有意差は認めなかった。症例数も十分とはいえないが、プロトコールの内容というより、まずは市販されている石けんや消毒薬を用いて処置することそのものが重要であるということを示唆する結果と考えられる。

ドイツの病院において無菌操作前の手指衛生遵守率は上昇していない:全国的なサーベイランスシステムのデータによる 4 年にわたる縦断研究

No increase in compliance before aseptic procedures in German hospitals. A longitudinal study with data from the national surveillance system over four years

T.S. Kramer*, K. Bunte, C. Schröder, M. Behnke, J. Clausmeyer, C. Reichardt, P. Gastmeier, J. Walter
*Charité-Universitätsmedizin Berlin, Germany

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 71-75

背景
手指衛生は医療関連感染と病原体の伝播の予防において極めて重要な役割を果たしている。ドイツでは 2008 年に全国的なキャンペーンである「Aktion Saubere Hände(手指衛生行動)」が開始された。これは世界保健機関(WHO)の「清潔なケアはより安全なケア(Clean Care is Safer Care)」イニシアチブに基づく。手指衛生の遵守向上において、直接観察と結果のフィードバックは重要な要素である。直接観察した手指衛生遵守を文書化するための任意の全国的サーベイランスの電子的ツールが、2014 年に導入された。

目的
ドイツの病院において WHO のモデルである「手指衛生の5 つのタイミング」を実行後の、遵守率について記述し評価すること。

方法
訓練を受けた現地の職員が参加病院で WHO の推奨に従って直接観察を実施した。2015 年 1 月 1 日から 2018 年 12 月 31 日まで、年間で観察期間あたり 150 回以上の手指衛生の機会を報告した病棟を評価した。

結果
全体として、病院 525 施設の 3,337 病棟で観察された 1,485,622 回の手指衛生の機会が分析の対象となった。全体の遵守率は 72%(四分位範囲[IQR]61 ~ 82)から 76%(IQR 66 ~ 84)に上昇した。遵守率は WHO のモデルのタイミング 2 を除くすべての個別のタイミングで有意に上昇した。多変量ロジスティック回帰分析において、以下のパラメータ(集中治療室、看護師、2017 年または 2018 年に観察された機会、およびタイミング 2 を除くすべてのタイミング)は高い手指衛生遵守率に独立して関連していた。

結論
ドイツの病院において全体の遵守率は経時的に上昇した。「無菌操作前」の手指衛生遵守を向上させることは難しいと思われ、明確に取り組むべきである。根本的な原因を今後の調査の焦点とする必要がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
手指衛生の直接観察をやった者は「無菌操作前」の手指衛生がいかに難しいかを知っているだろう。「患者接触前」の手指衛生を行った後に、採血等を行う際に「もう一度」手指衛生を行うことを知らない職員は多く、また「室内に入った後で」もう一度手指衛生を行うためにはアルコールを持参するなどしなければならない。「無菌操作前」の手指衛生は、ある意味 5 つの瞬間のラスボスともいえる。

医療施設内環境のあり方が感染性疾患に対する安全性の意識および対処行動と関連する

Ways in which healthcare interior environments are associated with perceived safety against infectious diseases and coping behaviours

S. Bae*
*University of Missouri, USA

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 107-114

背景
グローバルパンデミックとなっているアウトブレイクの続発は恐怖の原因である。医療従事者、特に最前線でこの病原体と闘っている医療従事者は、患者の治療にあたっている際に感染するリスクがより高い。さらに、病院の環境内に存在する様々な媒介物は、感染性微生物を保有している可能性があるため、感染性疾患を獲得するリスクを高める場合がある。

目的
最良の医療実践を提供するために、医療従事者自身が安全であると、また感染症に対して防御されていると感じていることが極めて重要である。本研究の目的は、医療従事者の手指衛生行動および感染性疾患に対する認識に関する理解を、心理学的観点から深めることであった。

方法
3 つの医療部門において環境の特徴について観察し、また質問票を用いて、医療従事者における感染性疾患に対する安全性の意識ならびに医療従事者が用いている対処行動(例、回避および消毒)について明らかにした。

結果
本研究において、利用しやすい場所にある手指衛生ステーションの数が多いことが、医療従事者において手指衛生遵守率を高め、感染性疾患に対する安全性の意識を高めるようであることが明らかになった。手指衛生に関連する心理学的側面に関する現在の研究のギャップに対して、本研究では、医療従事者の対処行動が、医療従事者自身の汚染可能性の意識および感染可能性の意識によって予測できることが明らかにされた。

結論
本研究の結果は、注意して解釈すべきであり、学問的により厳密な研究が今後必要とされる。

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監訳者コメント
簡単な研究ではあるが発想が面白い。感染症の最前線で勤務するスタッフの精神心理状態については、今後も多面的な角度からの検証を行い支援していく必要がある。

隔離予防策の対象となった保菌者における多剤耐性菌に関連する「烙印」は限定的:探索的な定量的質問票研究

Limited multi-drug resistant organism related stigma in carriers exposed to isolation precautions: an exploratory quantitative questionnaire study

R. Wijnakker*, M.M.C. Lambregts, B. Rump, K.E. Veldkamp, R. Reis, L.G. Visser, M.G.J. de Boer
*Leiden University Medical Center, the Netherlands

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 126-133

背景
隔離予防策は、多剤耐性菌(MDRO)の伝播リスクを制御するために適用される。隔離予防策は、不安やうつ病などの有害作用と関連付けられている。本研究では、MDRO の保菌者における烙印について、またそうした烙印と、意識されたメンタルヘルスおよび経験された QOL との関連について定量化することを目的とした。

方法
入院中に 3 日以上の隔離予防策の対象となった MDRO 保菌者を対象に、定量的質問票研究を実施した。Consumer Quality Index 質問票(CQI)から抽出した項目を用いて、ケアに関する意識を評価した。烙印の評価スコアは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)に関して最近修正された Berger Stigma Scale を用いて算出した。メンタルヘルスは、RAND Mental Health Inventory を用いて測定した。Spearman の順位相関検定を用いて、烙印のスコアと RAND メンタルヘルススコアとの関連を評価した。

結果
組み入れた保菌者 41 例中 31 例(75.6%)が両方の質問票に回答した。経験された QOL は、CQI スコアによれば「良い(good)」であった。24%が、MDRO 保菌者であることについて医療従事者から適切な説明を受けていないと報告した。MDRO に関連する烙印は、31 例中 1 例(3.2%)で報告された。メンタルヘルスの不良は、31 例中 3 例(9.7%)で自己報告された。烙印のスコアと RAND メンタルヘルススコアとの間に相関は認められなかった(Spearman の相関係数 0.347)。

結論
本研究において、3 日以上の隔離予防策の対象となった MDRO 保菌者において烙印は報告されなかった。この結果は、MRSA に関連する烙印を検討した最近の 1 研究とは対照的であり、このことは、MRSA の場合は接触および空気感染に関する隔離プロトコールであるのに対して、他のほとんどの MDRO の場合は接触隔離のみであることから説明される可能性がある。また、まだ知られていない理由により、心理学的な影響の大きさが異なっている可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
2014 年に WHO は「薬剤耐性」を世界的な問題として緊急対応するよう宣言した。耐性菌が極めて少ないオランダからの報告であり、MRSA を「saerch and destroy」で MRSA を1%まで激減させた国での研究である。MRSA の場合は、接触感染隔離対策に、除菌及び空気感染対策を追加するために烙印による精神的・心理的弊害が報告されている、一方、MRSA 以外の耐性菌保菌においては接触感染対策のみのため、烙印は認められなかった。MRSA の多い日本とは状況が異なること、さらに民族や文化も違うため、得られた結果をそのまま日本に当てはめることは早計かもしれない。
訳者注:本論文の英語のStigma(スティグマ)とは汚名また烙印と日本語に訳されているが、差別や偏見を生み出すもととなる。本論文では「耐生菌保菌者」という烙印をおされることをStigmaとしている。

医療機器をより安全に:プラスチックおよびシリコンオイルが微生物バイオフィルム形成に及ぼす影響

Making medical devices safer: impact of plastic and silicone oil on microbial biofilm formation

M. Slettengren*, S. Mohanty, W. Kamolvit, J. van der Linden, A. Brauner
*Karolinska University Hospital, Sweden

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 155-162

背景
医療機器は、表面への微生物バイオフィルムの付着という課題に直面している。最終的に、バイオフィルムの付着は医療機器の機能を損ない、患者の感染リスクを高める可能性がある。しかし、バイオフィルムを防ぐ信頼できる方法は存在しない。

目的
新規の自動尿比重計に用いられた、シリコンオイルでコーティングしたポリプロピレンプラスチックについて、バイオフィルム形成に及ぼす影響を検討すること。また、シリコンオイルの粘度の影響について検討し、ポリプロピレンを、もう一つの一般的な医療用プラスチックであるポリスチレンと比較すること。

方法
基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生細菌および多剤耐性細菌、ならびにカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)を含む、一般的な病原体を対象に検討した。シリコンオイルを用いた場合に考え得る作用機序を明らかにするため、重要なバイオフィルム形成因子であるカーリー、セルロース、および1 型フィムブリエ(fim D)を欠損する、同系の大腸菌(Escherichia coli)株を用いた。ポリプロピレン製またはポリスチレン製の清潔な平底ウェルを、低度または中等度の粘度のシリコンオイルで前処置し、微生物を添加した。72 時間後、バイオフィルム形成についてクリスタルバイオレット法を用いて定量化した。

結果
シリコンオイルでコーティングしたポリプロピレンプラスチック表面では、オイルの粘度にかかわらず、検討したすべてのグラム陰性細菌およびグラム陽性細菌(ESBL 産生株および多剤耐性株を含め)、ならびに C. albicans のバイオフィルム形成が有意に阻害された。シリコンオイルは、細菌およびカンジダ菌の増殖に影響を及ぼさず、カーリー線毛がシリコンオイルの主な標的であることが分かった。オイルを用いないポリプロピレンプラスチックそのものは、ポリスチレンよりもバイオフィルム形成を防ぐ効果が高かった。

結論
本研究の結果から、細菌によるバイオフィルム形成を抑制するための新たな戦略が示唆され、これにより院内獲得感染症が低減し、また医療機器の機能不全を予防する可能性がある。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
医療機器の表面に付着した細菌・真菌により形成されたバイオフィルムは、これらの微生物に最適な増殖の場を付与し、これにより発生した感染症は抗菌薬治療による治癒を極めて困難にすることがわかっている。バイオフィルム形成防止のために、ハイドロゲルや銀ナノ粒子などが試されてきたがバイオフィルム形成を完璧に防止できるものはこれまで開発されていない。集中治療がおこなわれている患者の尿量測定は時々刻々と変化する腎機能の把握に重要であるが、現在は目視による尿量確認が日本で実施されている。この時間あたりの尿量を自動測定する機器が世界では販売されている。しかしながら、尿道留置カテーテルの挿入後より細菌がカテーテル内あるいは機器の回路内で増殖しバイオフィルム形成が起こり、その結果自動測定機器が正常に作動しないあるいは尿路感染症のリスクともなる。バイオフィルム予防にシリコンオイルによるコーティングとポリプロピレンによる材質は効果的なバイオフィルム形成防止となる可能性がこの実験により確認されている。

米国の入院患者の便検体におけるクロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)および多剤耐性医療関連病原体の存在★★

Presence of Clostridioides difficile and multidrug-resistant healthcare-associated pathogens in stool specimens from hospitalized patients in the USA

I.A. Tickler*, C.M. dela Cruz, A.E. Obradovich, R.V. Goering, S. Dewell, V.M. Le, F.C. Tenover, the Healthcare Associated Infections Consortium
*Cepheid, USA

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 179-185

背景
医療関連感染症は、依然として病的状態および死亡の主要な原因である。多くの医療関連感染症の病原体は、多剤耐性病原体(MDRO)を含め、消化管に定着する。

目的
便検体中に毒素産生性クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)が認められた患者と認められなかった患者において、MDRO 保菌の頻度を明らかにすること。

方法
米国の検査室 9 施設から得られた便検体を、C. difficile、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、およびカルバペネム耐性グラム陰性菌に対して選択的な培地を用いて培養を行った。検体と分離株について、PCR による検査も行った。細菌分離株に対して、感受性試験および遺伝子タイピングを実施した。

結果
便検体 363 個中 175 個において、27 の PCR リボタイプにわたる毒素産生性 C. difficile 分離株が回収された。C. difficile 陽性(TCD+)の便検体ではさらに 28 の微生物が回収され、これには 6 つのカルバペネム耐性グラム陰性菌(3.4%)(このうち 2 つ[1.1%]はカルバペネマーゼ産生菌)、19 の VRE(10.9%)、および 3 つのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)(1.7%)が含まれた。培養で毒素産生性 C. difficile 陰性(TCD-)の便検体では 26 の微生物が回収され、これには 4 つのカルバペネム耐性グラム陰性菌(2.1%)、20 の VRE(10.6%)、および 2 つの MRSA(1.1%)が含まれた。C. difficile を除いて、MDRO が回収された割合には TCD+と TCD-の検体の間で有意差はなかった。

結論
全体で、TCD+ の便検体の 15.4%および TCD- の便検体の 11.2% で、C. difficile 以外のMDRO が 1 つ以上認められ、このことから、複数の MDRO が患者の消化管(C. difficile を保有する消化管を含め)に存在する可能性が示唆される。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
本論文では C.difficile の有無にかかわらず、MDRO は 10 ~ 15%の入院患者が便中に保菌しており、米国での MDRO の今後の拡がりが懸念される。また、腸管が多剤耐性菌のリザーバーとなることが示されるとともに、CD と耐性菌の腸管保菌が将来の感染症発症の際の治療困難による重症化や死亡率を増加させる可能性があることも示唆している。

一般的な医療関連感染症病原体の消毒において、送達システムが低濃度の過酸化水素の効果に及ぼす影響

Influence of delivery system on the efficacy of low concentrations of hydrogen peroxide in the disinfection of common healthcare-associated infection pathogens

N.J. Amaeze*, M.U. Shareef, F.L. Henriquez, C.L. Williams, W.G. Mackay
*University of the West of Scotland, UK

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 189-195

緒言
医療関連感染症病原体が環境表面上で生存する能力についてはよく知られている。こうした病原体を低減または除去するために消毒が行われるが、消毒は依然として不十分なことがある。消毒効果を改善する可能性のある 1 つの方法は、過酸化水素による全室消毒である。

目的
一般的な医療関連感染症病原体に対する低濃度の過酸化水素の効果に送達システムが及ぼす影響を明らかにすること。

方法
SanoStatic(静電スプレー)とSanoFog(噴射式)について、消毒のための5%過酸化水素および微量の銀イオンの送達能の比較を行った。検査用の細菌播種は、バンコマイシン耐性腸球細菌科細菌(vancomycin-resistant Enterobacterales;VRE)、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase-producing Enterobacterales;CPE)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus;MRSA)、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)芽胞、ならびに枯草菌(Bacillus atropheus)および中等度好熱性細菌である Geobacillus stearothermophilus の芽胞市販ストリップ(訳注:滅菌のバイオロジカル・インジケーター)を用いた。

結果
SanoFog と SanoStatic は、本研究で報告する実験環境下で検討した場合は効果的であった。VRE、ESBL 産生肺炎桿菌、CPE および MRSA については、SanoFog および SanoStatic は同程度の性能であった。C. difficile については、SanoFog は C. difficile 芽胞の消毒については SanoStatic より効果的であった、と著者らは結論付けた。

結論
SanoFog と SanoStatic は細菌細胞に対して効果的であったが、本稿で報告した実験条件下で検討した結果に基づくと、SanoFog と SanoStatic を併用するという現行の実践が C. difficile 芽胞の消毒において効果的であろう。芽胞ストリップを用いた場合、植物細胞(VRE、ESBL 産生肺炎桿菌、CPE および MRSA)あるいは C. difficile 芽胞のいずれと比較しても同程度の結果は得られなかった。

サマリー原文(英語)はこちら

監訳者コメント
医療施設内感染の病原細菌が環境で長期生存することは良く知られており、適切な環境清掃が実施されてもしばしば残存していることが報告されている。本論文は過酸化水素の環境消毒の効果を用手法の静電スプレー式と自動噴霧式で比較したものである。噴霧式は閉鎖された病室内で噴霧するので手間がかからない半面、これらの噴霧された過酸化水素が空気の流れによりうまく室内の隅々まで環境表面に届いているのかは予測ができない。一方、静電スプレー式のものは、過酸化水素を吸入しないようマスクをしたうえで、直接環境にスプレーしてゆくものである。詳細は下記の URL を見て頂きたい。これらの装置のヒトへの安全性や消毒効果についてはさらなる検討が必要である。

(英国の Sanondaf という会社の製品:http://www.sanondaf.co.uk/disinfection-services/

地域の血液腫瘍内科における呼吸器のポイント・オブ・ケア検査(POCT)実施の影響

Impact of implementing respiratory point-of-care testing in a regional haemato-oncology unit

E.J. Goldstein*, R. Dhillon, C. McCullough, T. Inkster, R. Soutar, R.N. Gunson
*NHS Greater Glasgow and Clyde, UK

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 20-24

グラスゴーの地域の血液腫瘍内科における近年の RS ウイルスアウトブレイクを受けて、インフルエンザ A、インフルエンザ B、RS ウイルスの検出のための呼吸器のポイント・オブ・ケア検査(POCT)を実施した。POCT の実施前後に行った今回の記述的研究から、POCT により、結果を受け取るまでにかかる時間が短縮すること、外来患者の診断率が増加することが示唆される。POCT による所要時間(TAT)の短縮は、さらに抗ウイルス治療までの時間短縮、迅速な隔離、病院感染症の件数の減少につながると考えられる。

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監訳者コメント
血液腫瘍内科におけるインフルエンザウイルスと RS ウイルスに対する POCT 実施についての研究。いままで言われている POCT の長所、短所を追認する内容である。

陽圧換気ロビー室は保護隔離および感染源隔離に有効か?

Are positive-pressure ventilation lobby rooms effective for protective and source isolation?

T.T. Poovelikunnel*, A. Barakat, A. O’Hara, H.J. Humphreys, V. Newmann, A.F. Talento
*Beaumont Hospital, Ireland

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 53-56

隔離室の陽圧換気ロビーに供給される超高性能ろ過空気は、保護隔離および感染源隔離の二重の利点をもたらしている。本研究では、患者の保護隔離に対する陽圧換気ロビー室の使用中の有効性を明らかにした。調査された陽圧換気ロビーの空気サンプル 48 件のうち、アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)が検出されたのはサンプル 1 件(2%)のみであった。陽圧換気ロビー室の局所的モニタリングおよび遠隔モニタリングは患者と医療従事者の安全に不可欠である。遠隔および使用場所での工学的制御は継続的な換気のモニタリングに不可欠であるが、一続きとなっている隔離室の目視検査によってこれを補完すべきである。他の制御策とともに定期的な微生物学的モニタリングも検討すべきである。

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監訳者コメント
免疫不全患者の患者ケアを行っている施設では参考になる論文である。特に病棟の改築計画がある場合は読むことをお薦めする。

入院患者におけるペニシリンアレルギーの点有病率

Point prevalence of penicillin allergy in hospital inpatients

M. Baxter*, C. Bethune, R. Powell, M. Morgan
*Royal Devon and Exeter NHS Foundation Trust, UK

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 65-70

一般集団の 10%は、自分がβ-ラクタム系薬に対するアレルギーを有していると、信じているが、多くは誤っている。代替の広域スペクトルの抗菌薬は、薬剤費および耐性菌保菌の増加と関連している。入院患者を対象とした点有病率研究により、その施設で報告されたペニシリンアレルギーの有病率、報告されたアレルギーの性質、抗菌薬耐性の所見、およびその結果用いられた抗菌薬レジメンを明らかにした。評価した患者 583 例中、ペニシリンアレルギーの全有病率は 13.7%(95%信頼区間[CI]11 ~ 17%)であった。最も多く報告された有害反応は発疹であった(27.5%、95%CI 18 ~ 39%)。ペニシリンアレルギーの性質の詳細は、治療薬チャートに十分な記録がなかった。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)の検出率は、アレルギー集団のほうがペニシリンアレルギーに分類されなかった集団よりも有意に高かった(P = 0.0065)。この傾向は、バンコマイシン耐性腸球菌でも認められたが、有意性には達しなかった。本研究により、広域スペクトル抗菌薬の使用によると考えられるペニシリンアレルギーの患者において、耐性菌の検出率が高いことが示された。

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監訳者コメント
英国において、ペニシリンアレルギーを自己認識しているのは一般の 10%であるが、このうち本当にアレルギーなのは 10%未満である。本研究ではアレルギー集団では代替となる広域抗菌薬の使用により MRSA などの耐性菌の検出リスクが高くなることを報告している。日本は英国に比べるとペニシリン系薬の使用頻度が極めて少ないので、ペニシリンアレルギーを自認する人の割合はかなり低いと考えられるが、中途半端なアレルギー歴で、安易に広域抗菌薬を使用することを警鐘する点は参考になる。

高リスクの医療従事者および病院スタッフにおけるRT-PCR による SARS-CoV-2 陽性および血清陽性の動態

Dynamics of SARS-CoV-2 RT-PCR positivity and seroprevalence among high-risk healthcare workers and hospital staff

C. Martin*, I. Montesinos, N. Dauby, C. Gilles, H. Dahma, S. Van Den Wijngaert, S. De Wit, M. Delforge, N. Clumeck, O. Vandenberg
*Université Libre de Bruxelles, Belgium

Journal of Hospital Infection (2020) 106, 102-106

新型コロナウイルス感染症への曝露量が高い病棟で勤務しているスタッフを対象に、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)の保菌および血清陽性に関する 6 か月間の研究への参加を呼びかけた。1 日目および 15 日目の来院の結果から、新型コロナウイルス感染症の症例 41 例が、RT- PCR および/または血清検査により参加者 326 名において確認された(全感染率 12.6%)。サンプル採取時における合併症または症状の存在が、感染症のリスク因子であったが、医師/看護師としての勤務はリスク因子ではなかった。高リスク病棟において症状の有無にかかわらず普遍的スクリーニングを行うことにより、無症状で感染力を有する感染スタッフを同定することができ、7 日間の自己隔離をさせることが可能になる。

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監訳者コメント
スタッフへの PCR によるスクリーニングで、新型コロナウイルス感染症の無症状の感染者を同定し、隔離することの有用性はいくつかの研究でも報告されている。
本研究では PCR のみでは見逃しが多く、血清学的検査を合わせて実施すべきとしている。

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Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.