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レーティング:[監訳者による格付け]
★★…是非読むことをお勧めする論文 ★…読むことをお勧めする論文

コロナウイルスの影響により一部、監修者のコメントおよびレーティングを未監修のまま掲載しておりますので、ご了承ください。

医療従事者における SARS-CoV-2 抗体の血清陽性率および関連因子:システマティックレビューとメタアナリシス

Seroprevalence of SARS-CoV-2 antibodies and associated factors in healthcare workers: a systematic review and meta-analysis

P. Galanis*, I. Vraka, D. Fragkou, A. Bilali, D. Kaitelidou
*National and Kapodistrian University of Athens, Greece

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 120-134

背景
医療従事者は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2(SARS-CoV-2)感染症の高リスク集団である。

目的
医療従事者の SARS-CoV-2 抗体の血清陽性率を明らかにするとともに、この血清陽性率と関連する因子を同定すること。

方法
今回のシステマティックレビューとメタアナリシスに、Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analysis ガイドラインを適用した。PubMed/MEDLINE、プレプリントサービス(medRχiv、bioRχiv)などのデータベースで、発端から 2020 年 8 月 24 日までの論文を検索した。

結果
医療従事者 127,480 名を含む研究 49 報が選択基準を満たした。医療従事者の SARS-CoV-2 抗体の全血清陽性率は推定で 8.7%(95%信頼区間 6.7 ~ 10.9%)であった。北米で実施された研究での血清陽性率(12.7%)は、欧州(8.5%)、アフリカ(8.2%)、アジア(4%)で実施された場合と比較して高かった。メタ回帰により、感度の高い抗体検査は血清陽性率の増加と関連することが示された。血清陽性率と関連する因子は以下の通りであった:男性であること、黒人・アジア系・ヒスパニック系の医療従事者、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療病棟に勤務、患者関連業務、最前線の医療従事者、看護補助者、個人防護具の不足、SARS-CoV-2 感染症の既往を自ら報告するという信念、PCR 検査の陽性歴、および COVID-19 の疑い例または確定例との家庭内接触。

結論
医療従事者における SARS-CoV-2 抗体陽性率は高い。SARS-CoV-2 感染症のリスクを低減させるためには、感染予防・制御策の遵守状況が優れていること、十分かつ適切な個人防護具、SARS-CoV-2 に 感染した医療従事者の早期発見・同定・隔離が不可欠である。

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監訳者コメント
SARS-CoV-2 抗体検査からハイリスク集団を検討した論文である。抗体陽性率が極めて高い地域では抗体陽性率が免疫の盾のバロメーターとなるが、そこまで至らない現状においてはワクチンが進むことで抗体検査が別の価値を持つこととなる。

成人の病院感染肺炎における肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)の同定

Identification of Streptococcus pneumoniae in hospital-acquired pneumonia in adults

J.A. Suaya*, M.A. Fletcher, L. Georgalis, A.G. Arguedas, J.M. McLaughlin, G. Ferreira , C. Theilacker, B.D. Gessner, T. Verstraeten
*Pfizer Inc., USA

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 146-157

病院感染肺炎は、市中感染肺炎よりも深刻で生命を脅かすことが多い。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)が市中感染肺炎に及ぼす影響は十分に理解されているが、病院感染肺炎への影響は不明である。本研究の目的は、病院感染肺炎エピソードにおける肺炎球菌の有病率に関して得た文献の概要を示すことである。18 歳以上の患者の病院感染肺炎の微生物学的特性に関して、2008 年から 2018 年に発表された査読論文を MEDLINE で検索した。病院感染肺炎エピソードでの肺炎球菌の有病率の統合推定値を、逆分散重み付けを行ったランダム効果メタアナリシスにより算出した。1,908 報のうち 47 報が選択基準を満たした。微生物学的に確定した病院感染肺炎エピソードの細菌検体の回収法には、気管支肺胞洗浄、検体保護ブラシ、気管内吸引痰、および血液培養が含まれた。すべての研究で培養が実施され、5 報では尿中抗原検出法も使用された(47 報中 5 報、10.6%)。微生物学的に確定した病院感染肺炎エピソードの 5.1%(95%信頼区間[CI]3.8 ~ 6.6%)で肺炎球菌が同定され(20 報)、人工呼吸器に関連する病院感染肺炎では 5.4%(95%CI 4.3 ~ 6.7%、29 報)、人工呼吸器に関連しない病院感染肺炎では 6.0%(95%CI 4.1 ~ 8.8%、6 報)で同定された。また、肺炎球菌は、集中治療室(ICU)で発生した病院感染肺炎の 5.3%(95%CI 4.5 ~ 6.3%、41報)、ICU 以外での病院感染肺炎の 5.6%(95%CI 3.3 ~ 9.5%、5 報)で同定された。肺炎球菌が同定される割合は、早発性の病院感染肺炎(10.3%[95%CI 8.3 ~ 12.8%]、16 報)の方が、遅発性の病院感染肺炎(3.3%[95%CI 2.5 ~ 4.4%]、16 報)よりも高かった。結論として、微生物学的に確定した病院感染肺炎エピソードの 5.1%で、培養により肺炎球菌が同定された。肺炎球菌によって生じる疾病負荷の一部として病院感染肺炎の重要性についてさらに研究する価値がある。

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監訳者コメント
基本的に肺炎球菌は院内伝播より市中伝播・獲得による病原体である。鼻腔内に一定期間保菌していることもあり、ハイリスク患者においては保菌状況調査なども入院後の肺炎の原因探索、予防にも貢献するかもしれない。

非凝縮性ガスの影響下での滅菌工程における化学的・生物学的・物理的インジケータの性能評価

Performance evaluation of chemical, biological and physical indicators in the process of sterilization under the effect of non-condensable gases

S.B. Rodrigues*, R.Q. de Souza, K.U. Graziano, G.S. Erzinger, O. Souza
*University of Joinville Region, Brazil

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 1-6

背景
非凝縮性ガスの存在に関するリスクはすでに確認されているとはいえ、ルーチンモニタリングについて各滅菌サイクルで実施するさらなる試験が必要とされている。

目的
滅菌工程でのモニタリングに使用される物理的・化学的・生物学的インジケータの性能評価を、滅菌器内の非凝縮性ガス集積検出器と比較して評価すること。

方法
2 通りの制御不良状況(チャンバー内漏出、ドアシール不良)において蒸気滅菌工程をモニタリングするために、化学的インジケータ(タイプ 2 Bowie-Dick Test、タイプ 5・タイプ 6 モデル)、内蔵型の生物学的インジケータ、物理的インジケータ(温度、圧力、熱の適格性、特許取得済みの気体集積検出器)を使用した。既知の気体量の存在(チャンバー内漏出は 0 ~ 30 L/分、ドアシール不良は 0 ~ 30%)により2 通りの制御不良状況を設定した。工程試験用具の使用および未使用で評価試験を実施した。

結果
両試験とも、Bowie-Dick Test の結果が製造業者のインジケータによって異なることが示された。工程試験用具を未使用での生物学的・物理的・化学的インジケータは、2 通りのシミュレーションにおいて少量の非凝縮性ガスを検出できなかった。

結論
気体集積検出器は、各サイクルにおける非凝縮性ガスの検出の選択肢とみなすことができる。

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監訳者コメント:
なし

世界的にアウトブレイクを引き起こすセラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)のクローンは蔓延しているか?

Is there a widespread clone of Serratia marcescens producing outbreaks worldwide?

C. Francés-Cuesta*, V. Sánchez-Hellín, B. Gomila, F. González-Candelas
*Institute for Integrative Systems Biology I2SysBio (CSIC-UV), Spain

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 7-14

背景
医療環境でセラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)がアウトブレイクを引き起こす頻度は高い。ハイスループットシークエンシングを用いて、S. marcescens のアウトブレイクを分析した研究はほとんどない。われわれは、Comunitat Valenciana(スペイン)の複数の病院の新生児集中治療室での 2 つのアウトブレイクおよび異なるリファレンスゲノム使用の影響に関する分析を報告する。

方法
培養した分離株の DNA を抽出し、Illumina NextSeq を用いてハイスループットシークエンシングにより配列を決定した。リードを 2 つのリファレンスゲノム(UMH9 株、Db11 株)にマッピングし、分離株の遺伝的特徴づけを十分に行うために、マッピングされていないゲノム断片を構築した。

結果
最初のアウトブレイク由来の分離株はUMH9 株リファレンスと一致し、米国で 3 年前に得られた類縁関係のない分離株であった。S. marcescens の標準リファレンスである Db11 株を、マッピングのリファレンスとして使用した場合、一致はみられなかった。UMH9 株が Comunitat Valenciana に広く拡散しているクローンであるか否かを調べるために、第 2 のアウトブレイクの分離株を、UMH9 株リファレンスにマッピングした。この分離株は UMH9 株と近縁関係になく、このアウトブレイクは、リードのマッピングに使用したリファレンスに関係なく、定義できると考えられる。

結論
アウトブレイクのゲノム解析におけるリファレンスの選択は、重要な決定事項である。初回のアウトブレイクの場合、リファレンスの選択が結果の解釈を大幅に変え、使用したリファレンスによってアウトブレイクを定義できたり、できなかったりした。ハイスループットシークエンシングは、強力な疫学的分析ツールであるが、それでも、結果の正確な解釈のために微生物学的および疫学的データを収集することが不可欠である。

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監訳者コメント
高速シークエンサーを用いての塩基配列決定に基づくセラチア菌の多型性解析の試みであり、今後に注目したい。

獲得型基質特異性拡張型β– ラクタマーゼ産生腸内細菌目細菌(Extended-spectrum β-lactamase-producing Enterobacterales)保菌者のスクリーニングのための迅速検査の性能とその所要時間への影響の評価

Evaluation of the performance of rapid tests for screening carriers of acquired ESBL-producing Enterobacterales and their impact on turnaround time

D.S. Blanc*, F. Poncet, B. Grandbastien, G. Greub, L. Senn, P. Nordmann
*Lausanne University Hospital and University of Lausanne, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 19-24

背景
基質特異性拡張型β– ラクタマーゼ(ESBL)産生腸内細菌目細菌は、院内感染による世界的な負担をきたしており、いくつかのガイドラインにより、リスク患者のスクリーニングによる保菌者の同定が推奨されている。

目的
迅速 ESBL 検査がスクリーニングの所要時間に及ぼす影響を評価すること。

方法
大腸菌(Escherichia coli)以外の ESBL 産生腸内細菌目細菌を同定するために、直腸スワブを培養と相乗作用試験により分析した。発色酵素基質培地で増殖させたコロニーで迅速 ESBL NP 試験および NG CTX-M MULTI 試験を実施した。ゴールドスタンダードとして PCR および ESBL の遺伝子シークエンシングの結果を用いた。

結果
分析した 473 のスワブ検体のうち 75 検体(15.9%)で、大腸菌以外の ESBL 産生腸内細菌目細菌が増殖し、分離株 89 株を得た。相乗作用試験、迅速 ESBL NP 試験、NG CTX-M MULTI 試験の感度は、それぞれ 0.97(95%信頼区間[CI]0.88 ~ 0.99)、0.81(95%CI 0.69 ~ 0.89) 、0.90(95%CI 0.80 ~ 0.96)、特異度は、それぞれ 0.92(95%CI 0.73 ~ 0.99)、0.85(95%CI 0.64 ~ 0.95)、0.96(95%CI 0.78 ~ 1.00)であった。473 の直腸スワブ検体を相乗作用試験、迅速 ESBL NP 試験、NG CTX-M MULTI 試験を用いて検討することにより、ESBL スクリーニングの性能を算出した。それぞれの試験の感度は 0.96(95%CI 0.86 ~ 0.99)、0.81(95%CI 0.68 ~ 0.90)、0.91(95%CI 0.79 ~ 0.97)、特異度は 1.00(95%CI 0.98 ~ 1.00)、0.99(95%CI 0.98 ~ 1.00)、1.00(95%CI 0.99 ~ 1.00)、陽性適中率は 0.96(95%CI 0.86 ~ 0.99)、0.94(95%CI 0.81 ~ 0.98)、1.00(95%CI 0.91 ~ 1.00)、陰性適中率は 1.00(95%CI 0.98 ~ 1.00)、0.98(95%CI 0.96 ~ 0.99)、0.99(95%CI 0.97 ~ 1.00)であった。大腸菌以外の ESBL 産生腸内細菌目細菌が認められなかった場合、平均所要時間は 30 時間であり、これが同定された場合、相乗作用試験、迅速 ESBL NP 試験、NG CTX-M MULTI 試験の平均所要時間は、それぞれ 74.7 時間、38.0 時間、36.7 時間であった。

結論
ESBL 産生腸内細菌目細菌を保有する患者を同定するために、2 つの迅速 ESBL 試験は良好な性能を示し、スクリーニングプロトコルの所要時間の短縮がみられた。

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監訳者コメント
β– ラクタマーゼのうち気質特異性が拡張しているタイプを保菌している耐性菌の場合、治療薬の選択肢が異なる。このため検査室で迅速簡易同定ができれば、抗菌薬療法の適正化が図りやすくなる。

パーキンソン病のαシヌクレインシードは蒸気滅菌に対してプリオンを超える強い耐性を示す

Alpha-synuclein seeds of Parkinson’s disease show high prion-exceeding resistance to steam sterilization

P. Pinder*, A. Thomzig, W.J. Schulz-Schaeffer, M. Beekes
*Robert Koch Institute, Germany

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 25-32

背景
折り畳み異常の凝集したαシヌクレイン(αSyn)の大脳沈着は、パーキンソン病の神経病理学的特徴である。パーキンソン病の病理学的に凝集したαSyn 株は、自己鋳型複製能を有するタンパク質性の核(“シード”)として“プリオン様の”様式で作用する。このことは、ヒト間で医原的に伝播するパーキンソン病のαSyn シードによって、レシピエントに病理学的または臨床的に有害なαSyn の作用が惹起される可能性があるという懸念を提起している。医療器具を再処理する際の効果的な汚染除去により、そのようなリスクが著しく低減されるであろう。多くの医療器材再処理ガイドラインにおいて、病原体不活性化の重要な手順として 134°C での蒸気滅菌が推奨されており、蒸気滅菌に最大の耐性を示すと長年考えられている自己増殖性の生物学的因子であるプリオンに対する有効性も示されている。

方法
本研究では、パーキンソン病患者由来の脳組織ホモジネートのαSyn シード活性について、134°C での蒸気滅菌後の低下を特異的なリアルタイムquaking induced conversion 法により分析した。

結果
終点滴定により、パーキンソン病患者の乾熱滅菌された尾状核組織の 50% seeding dose は約 1010/g と算出された。5 分間の蒸気滅菌により、この滴定量はわずか
2.25 ± 0.15 log10 減少し、滅菌時間を 90 分に延長しても、さらなる不活性化が得られなかった。これらの結果により、パーキンソン病のαSyn 株は、シード活性を有する疾患関連の生物学的因子であり、蒸気滅菌に対してプリオンよりも耐性が強いことが示される。

結論
パーキンソン病のαSyn シードは顕著な熱耐性を示すため、医療器材を再処理する場合は、シード活性によるαSyn 凝集によって起こりうる汚染を確実に除去あるいは不活性化することの妥当性が十分に確認されている洗浄法および消毒法が必要である。

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監訳者コメント
なし

病室の空気サンプル中のインフルエンザウイルス検出

Detection of influenza virus in air samples of patient rooms

A. Chamseddine*, N. Soudani, Z. Kanafani, I. Alameddine, G. Dbaibo, H. Zaraket, M. El-Fadel
*American University of Beirut, Lebanon

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 33-42

背景
病院環境や医療施設でのエアロゾルを介するインフルエンザウイルスおよび RS ウイルスの伝播と拡散について理解することは、予防策の開発に向けて重要である。

方法
2017 年 から 2018 年のインフルエンザシーズン中に、インフルエンザまたは RS ウイルス感染症の確定患者を登録した。病室の空気サンプルを患者の頭部に近い位置
(0.30 m)と頭部から離れた位置(2.20 m)で採取した。空気サンプル中のウイルス粒子の検出と定量のために、リアルタイム PCR を用いた。検出されたウイルスの感染の確定にはプラークアッセイを用いた。

結果
検査でインフルエンザが確定した 29 例の病室から 51 個の空気サンプルを採取し、そのサンプルの 51%がA 型インフルエンザウイルス陽性であった。 A 型インフルエンザウイルス陽性患者の 65%が排菌者(少なくとも 1 個の空気サンプルが陽性)で、これは非排菌者と比較して院内伝播リスクが高いことを反映している。A 型インフルエンザウイルス陽性の空気サンプルの大半(61.5%)が、患者の頭部から 0.3 m で採取されたが、残りのこのウイルス陽性の空気サンプルは、患者の頭部から 2.2 m で採取された。空気サンプルの A 型インフルエンザウイルス陽性率は、患者の頭部からの距離、入院後のサンプル採取日により影響を受けた。RS ウイルス感染症患者の登録は 3 例のみで、いずれの患者も排菌者ではなかった。

結論
インフルエンザウイルスは病室の 1 m を超える範囲でエアロゾル化される可能性あり、これは感染制御策により安全とみなされる距離である。エアロゾル化されたウイルス粒子の感染が及ぶ範囲を明らかにするために、さらなる研究が必要である。

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監訳者コメント
なし

病院の水道設備から出現した Elizabethkingia anophelis(エリザベトキンギア・アノフェリス)の優勢株が呼吸器ケアセンターにおいて 3 年間のアウトブレイクを引き起こした

A dominant strain of Elizabethkingia anophelis emerged from a hospital water system to cause a thre-year outbreak in a respiratory care center

Y-L. Lee*, K-M. Liu, H-L. Chang, J-S. Lin, F-Y. Kung, C-M. Ho, K-H. Lin, Y-T. Chen
*Changhua Christian Hospital, Taiwan

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 43-51

背景
Elizabethkingia 属菌は至る所に存在する細菌であるが、ヒト感染症を引き起こすことはまれである。2015 年から 2018 年に台湾の 3 次病院 1 施設の呼吸器ケアセンターにおいて Elizabethkingia anophelis(エリザベトキンギア・アノフェリス)菌血症のアウトブレイク 1 件が認められた。

方法
アウトブレイク調査のために臨床および環境分離株を採取した。伝播の機序を明らかにするため、パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)および全ゲノムシークエンシングを実施した。

結果
3 年間のアウトブレイクは 26 例の E. anophelis 菌血症患者を含み、発生率は 2010 年から 2014 年までと比較して本アウトブレイク期間中に有意に上昇した(P < 0.05)。PFGE 解析によると、アウトブレイク期間中の 26 の臨床分離株はすべて 1 つのクラスターに属していた。対照的に、過去の比較株において PFGE パターンは不均一であった。病院の水道水は Elizabethkingia 属菌によって重度に汚染されており(18/34、52.9%)、そのうち 5 株の E. anophelis はアウトブレイククラスターに属していた(5/18、27.8%)。無生物表面の調査に関しては、栄養管およびバッグの 2 カ所と痰吸引レギュレーターの 2 カ所を含む 3.4%(4/117)の場所で E. anophelis の良好な増殖が明らかになった。4 つの分離株はすべてアウトブレイククローンに属していた。全ゲノムシークエンシング解析によると、アウトブレイク株は現在世界的に知られている E. anophelis 株と明白な関連性はなかった。その後、水源管理および環境消毒を目的とした具体的な感染制御戦略を実行し、本アウトブレイクは 2018 年半ばに終息した。

結論
3 年間のアウトブレイクより E. anophelis の特定菌株が同定された。優勢および院内伝播の機序の解明は、対応する感染制御策の開発とアウトブレイク制御に不可欠である。

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監訳者コメント
なし

整形外科の現場での個人防護具(PPE)をカスタマイズするという解決策:Stryker Flyte T5 PPE システムの改良

Custom solution for personal protective equipment (PPE) in the orthopaedic setting: retrofitting Stryker Flyte T5 PPE system

J.P. Gibbons*, J. Hayes, C.J. Skerritt, J.M. O’Byrne, C.J. Green
*National Orthopaedic Hospital, Cappagh, Ireland

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 55-63

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは病院資源、とりわけ適切な個人防護具(PPE)の在庫(特にフェイスマスクおよび呼吸器保護マスク)に対する圧迫が強まりつつあることを示した。整形外科手術領域ではヘルメット、フードおよび手術用ガウンから成る「スペーススーツ」を着用している外科医はよく見られる光景である。

本研究では著者らは呼吸器飛沫によるウイルス拡散からの防御に関して、外科医用の再利用可能な PPE システムとしての可能性を評価するため、2 つの異なるスペーススーツシステムに改良を加え HEPA フィルタを送風機の吸気口に組み込んだ。試験は 2 つの異なるスペーススーツシステムの送風機の吸気口を改良したものとしていないものとを着用させたマネキンにおいて、上流と下流でパーティクルカウンタを用いて行った。

1 層の HEPA フィルタを用い、ヘルメットの中の送風機の吸気口の大きさに合わせてカットし吸込口を密封すると、使用者の口元で下流の粒子を 99.5%を超えて減少させる可能性があることを結果は示している。これは呼吸器保護マスクと同等である。HEPA フィルタの素材は比較的安価で繰り返し使用できるので、呼吸器飛沫が拡散するウイルス性のパンデミック時に、使い捨ておよび再滅菌さえされた呼吸器保護マスクの実現可能な代替物となる。

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監訳者コメント
なし

クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)の臨床分離株の全ゲノムシークエンシングにより分子疫学および従来の臨床診断検査との相違が明らかになる

Whole-genome sequencing of clinical Clostridioides difficile isolates reveals molecular epidemiology and discrepancies with conventional laboratory diagnostic testing

K. McLean*, J.-M. Balada-Llasat, A. Waalkes, P. Pancholi, S.J. Salipante
*University of Washington Department of Laboratory Medicine, USA

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 64-71

背景
クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)感染症の臨床的負担の重さは、感染患者の迅速で高感度な同定が期待される。しかし、有効な診断は難しいままである。現在の最良の診療ガイドラインは有症状者に対する分子スクリーニングと毒素の直接検出ベースのスクリーニング、またはそのいずれかを推奨しているが、これまでの研究は現存の臨床試験法の一致性と性能に疑問を呈している。

目的
C. difficile 臨床分離株のゲノム特性および表現型特性を、C. difficile 感染患者と無症状保菌者の両方における臨床検査結果とより良く関連付けること。

方法
単一医療機関の入院患者集団から採取した C. difficile の臨床分離株に関して全ゲノムシークエンシングにより、分子疫学および毒素産生性遺伝子の内容の検討を可能にした。ゲノム所見は臨床検査結果と比較し、複数の診断の相違を特定した。

結果
毒素産生性培養は「参照基準」と考えられ、毒素産生性遺伝子の内容の予測において完全な感度と特異度を示した。一方で、Simplexa C. difficile Direct Assay(特異度 100%、感度 88%)、Gene Xpert CD/Epi Assay(特異度 86%、感度 83%)、Quick Check Complete Tox A/B(特異度 100%、感度 30%)に関しては性能の低さが認められた。ゲノム解析は C. difficile 株における毒素遺伝子配列のばらつき、感染患者由来と保菌者由来の分離株の間のゲノム系統学的同等性、環境由来の珍しい C. difficile 系統の保菌者を追加的に明らかにしただけでなく、病原体伝播イベントを追跡する機会ももたらした。

結論
これらの結果は、臨床の便検査のアプローチの性能のばらつきだけでなく、全ゲノムシークエンシングが従来の検査アルゴリズムの代替として診断的有用性がある可能性を浮き彫りにしている。

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監訳者コメント
なし

全ゲノムシークエンシングにより調査したアイルランドにおける Pantone-Valentine 型ロイコシジン陽性市中獲得型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の複数の別々のアウトブレイク

Multiple distinct outbreaks of Panton-Valentine leucocidin-positive community-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus in Ireland investigated by whole-genome sequencing

B.A. McManus*, B.K. Aloba, M.R. Earls, G.I. Brennan, B. O’Connell, S. Monecke, R. Ehricht, A.C. Shore, D.C. Coleman
*Dublin Dental University Hospital, University of Dublin, Ireland

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 72-80

背景
Pantone-Valentine 型ロイコシジン(PVL)陽性市中獲得型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(community-associated meticillin-resistant Staphylococcus aureus;CA-MRSA)は感染症のアウトブレイクとの関連性が高まっている。

目的
全ゲノムシークエンシング(WGS)を用いて PVL 陽性 CA-MRSA の複数のアウトブレイクの疑いを調査すること。

方法
アウトブレイクの疑いに関連する 46 の分離株(アイルランドの別々の病院 3 施設[H1-H3]の 36 人由来のものと H2 に関連する別々の家族を含む別々のインシデント由来のもの)を whole-genome multi-locus sequence typingにより調査した。

結果
H1 の分離株の 8/10 および H2 の分離株の 6/6である PVL-陽性 t008 ST8-MRSA-IVa 分離株から成る 2 つのクラスター(CH1 と CH2)が特定された。各クラスター内では隣接する分離株の対立遺伝子の差異は 5 以下で分かれていたが、クラスター間の対立遺伝子の差異は 73 以上と特定され、2 つの独立したアウトブレイクであることを示した。H3 の産科病棟由来の分離株は、4 つの PVL 陰性 t4667 ST5-MRSA-V 分離株から成る CH3-SCI と 14 の PVL 陽性 t002 ST5-MRSA-IVc 分離株から成る CH3-SCII の 2 つのクラスターを形成した。クラスター内では隣接する分離株の対立遺伝子の差異は 24 以下で分かれていたのに対し、両方のクラスターは 1,822 の対立遺伝子の差異で分かれており、2 つの別々の H3 アウトブレイクであることを示した。H2 に関連する 2 つの別々の家族である FC1(N = 4)と FC2(N = 7)由来の 8 つの PVL 陽性 t127 ST1-MRSA-V+fus 分離株と 3 つの PVL 陰性 t267 ST97-MRSA-V+fus 分離株は、3 つの別々のクラスター(FC1[t127]、FC2[t127]、FC2[t267])を形成した。クラスター内の隣接する分離株は近縁関係にあり、対立遺伝子の差異は 7 以下を示した。家族内の伝播は明らかであったが、クラスター間で 48 以上の対立遺伝子の差異が検出されたことで家族間の伝播はないことが示された。

結論
PVL 陽性 CA-MRSA の医療現場への高頻度の移入、伝播およびアウトブレイクとの関連性は、現在も続く深刻な懸念である。WGS はそのようなアウトブレイクを確定的に解明するうえで識別力が高く有益な方法である。

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監訳者コメント
近年 WGS のような先進的な分子手法が著しく発達し低コスト化している。その恩恵でSARS-CoV-2 の変異株の検出など一時代前では考えられなかったような事象が現実のものとなっている。一方で、科学的に判明する事実に対して、感染対策上どのように対応するのが適切なのか分からないといった現象が発生している。分子疫学的な知見の蓄積と並行して実世界における適用可能な対応についても検討していかなければならない。

尿培養に関する診断支援プログラム:多施設共同コホートにおける抗菌薬処方への影響

Diagnostic stewardship programme for urine culture: impact on antimicrobial prescription in a multi-centre cohort

A.L.H. Lee*, E.C.M. Leung, M.K.P. Lee, R.W.M. Lai
*Prince of Wales Hospital, Hong Kong

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 81-89

背景
尿培養を真正尿路感染症(UTI)の患者に限定すると、無症候性細菌尿に対する過剰な抗菌薬処方を減少させられる。

目的
尿培養に関する診断支援が抗菌薬使用量へ及ぼす影響を評価すること。

方法
本準研究は総合病院 2 施設と地域の診療所 10 施設を対象とした。介入前(対照)期間(2018 年 11 月 25 日から 2019 年 2 月 2 日)では、すべての尿検体の顕微鏡検査および培養結果が報告された。介入後(研究)期間(2019 年 11 月 25 日から 2020 年 2 月 2 日)では、尿培養は次の基準(顕微鏡検査での白血球または細菌の存在、産科・泌尿器科・小児科・腫瘍または腎移植病棟からの患者、「妊娠」・「泌尿器科的処置」・「腎移植」または「好中球減少」とラベルされた検体、尿管尿、腎瘻尿または恥骨上尿のうち 1 つ以上を満たした場合に限り処理され報告された。これらの基準を満たさなかった尿検体に関しては、顕微鏡検査結果および却下のコメントが報告された。

結果
本介入期間に計 12,282 件の尿検体が対象となった。このうち 4,757 件(38.7%)の検体はスクリーニング基準を満たさず、顕微鏡検査結果および却下のコメントが報告された。これらの報告されていない尿培養のうち 163件(3.4%)は有意な細菌の増殖を引き起こし、その大部分は大腸菌(Escherichia coli)(N = 58、35.6%)であった。すべての医療環境にわたる多変量ロジスティック回帰では、診断支援は抗菌薬使用量がより少ないこと(補正オッズ比 0.76、95%信頼区間[CI]0.70 ~ 0.83、P < 0.001)と独立して関連していた。診断支援は患者の死亡率に影響を及ぼさなかった(補正オッズ比 0.95、95%CI 0.89 ~ 1.01、P = 0.08)。尿培養が報告されていない患者で未治療の UTI から菌血症を発症した人はいなかった。

結論
尿培養に関する診断支援は無症候性細菌尿に対する過剰な抗菌薬処方を安全に減少させた。

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監訳者コメント
微生物検査においては不適切な検査が医療費の増大や不必要な抗菌薬の処方につながることから、「rejection criteria(検体拒否基準)」というものを設けるべきとされている。しかし検査室にとって、一旦提出された検体の再提出を命ずるのは敷居が高く、形式的なものになっている場合も多い。本研究が rejection criteria の運用を考えるきっかけになると良いだろう。

感染予防・制御の中核的要素の国レベルでの実行:世界的な状況分析

Implementation of the infection prevention and control core components at the national level: a global situational analysis

E. Tartari*, S. Tomczyk, D. Pires, B. Zayed, A.P. Coutinho Rehse, P. Kariyo, V. Stempliuk, W. Zingg, D. Pittet, B. Allegranzi
*Geneva University Hospitals, and Faculty of Medicine, Switzerland

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 94-103

背景
医療関連感染および抗菌薬耐性に立ち向かうため、またアウトブレイクの予防と対応をするため、感染予防・制御(IPC)の強化は必須である。

目的
世界保健機関(WHO)による IPC の中核的要素に基づいて国の IPC プログラムを世界的に評価すること。

方法
2017 年 6 月 1 日から 2018 年 11 月 30 日までの間に、WHOの「Clean Care is Safer Care(清潔なケアはより安全なケア)」というチャレンジに対し誓約した国々の IPC 担当者との半構造化面接に基づいて、多国間横断研究を実施した。結果および地域と国民所得水準の違いは記述統計学を用いて要約した。

結果
103 の適格国のうち 88 か国(85.4%)が参加し、22.7% は低所得経済国、19.3% は低中所得経済国、23.9%は高中所得経済国、34.1% は高所得経済国であった。国の IPC プログラムが存在したのは 62.5%であったが、専用の予算があったのは 26.1%のみであった。対象国のうち国のガイドラインを用意していたのは 67.0%であったが、実行戦略を有していたのは 36.4%のみ、またガイドラインの遵守が評価されていたのは 21.6%のみであった。大学の学部生の IPC カリキュラム、現職および大学院生の IPC トレーニングは、それぞれ 35.2%、54.5%、42%の国々で報告された。医療関連感染サーベイランスは 46.6%の国々で報告され、83.3%(高所得国)から 0%(低所得国)までの有意差があった(P < 0.001)。IPC の指標のモニタリングとフィードバックが報告されたのは 65.9%であった。すべての中核的要素を実施していたのは 12.5%の国々のみであった。

結論
ほとんどの国々は IPC プログラムおよびガイドラインを有していたが、適切な資金を投資しそれを実行とモニタリングに活用できない国々は多く、特に低所得国で顕著であった。すべての国々で中核的要素の実行を達成するためには、国レベルおよび世界的なレベルでの指導の支援が必要である。

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監訳者コメント
感染対策を進めるには組織の体制整備や幹部の支援が必要である。本論文は国家レベルの議論であるが、各々の医療機関に当てはめて考えることも可能であろう。

新生児集中治療室および小児病棟の医療従事者におけるオキサシリン耐性が境界値を示す黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の保菌

Borderline oxacillin-resistant Staphylococcus aureus carriage among healthcare workers at neonatal
intensive care unit and paediatric ward

M.M. Konstantinovski*, V. Bekker, M.E.M. Kraakman, M.L. Bruijning, C.J. van der Zwan, E. Lopriore, K.E. Veldkamp
*Leiden University Medical Center, Leiden, The Netherlands

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 104-108

背景
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(meticillin-resistant Staphylococcus aureus)の接触者追跡調査およびスクリーニング調査中に、新生児集中治療室(NICU)の医療従事者においてオキサシリン耐性が境界値を示す黄色ブドウ球菌(borderline oxacillin-resistant Staphylococcus aureus;BORSA)陽性のスクリーニング培養が 2 件発見された。本知見によりさらなる調査に至った。

目的
医療従事者間の直接伝播によるアウトブレイクの可能性を評価すること。

方法
発見後、感染制御チームが発足した。本チームは追加の感染制御策を開始し、新たな知見を評価した。すべての NICU および小児病棟の医療従事者は BORSA の保菌に関してスクリーニングを受け、患者は前向きに 7 週の BORSA のモニタリングを受けた。医療従事者間の直接伝播によるアウトブレイクの可能性を評価するため、増幅断片長多型および全ゲノムシークエンシング(WGS)を用いて BORSA 分離株を解析した。

結果
陽性の医療従事者はスクリーニングプログラムの結果を待つ間、臨床業務を禁止された。全体で NICU の 127 名および一般小児病棟の 77 名の医療従事者が BORSA の保菌に関してスクリーニングを受け、5 名の医療従事者が BORSA 陽性であった。72 例の患者が 7 週の間にスクリーニングを受け、患者 1 例あたり 1 件から 9 件までの計 138 件の培養が得られた。医療従事者から患者への拡散は起こらず、BORSA のスクリーニングプログラムは中止された。BORSA 株全 5 株の WGS 解析(コアゲノム multi-locus sequence typing)により NICU の 2 株の間の関連性が示された。

結論
7 週の間にスクリーニングにおいても臨床培養においても、BORSA 陽性の医療従事者から新生児への伝播は認められなかった。この脆弱な集団に対して将来エビデンスに基づいた適切な介入をデザインするために、さらなる警戒と経験が必要である。

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監訳者コメント
MRSA は通常 mecA 遺伝子がその原因遺伝子であるが、BORSA はβラクタマーゼの産生と PBP 遺伝子の変異の重複が原因となるらしい。日本ではまだほとんど知られていないが、知識としては知っておくと良いだろう。

パンデミック時における低温蒸気 2%ホルムアルデヒド滅菌処理を用いたマスクの汚染除去:再利用のための安全な代替法

Decontamination of filtering facepiece respirators using a low-temperature-steame-2%-formaldehyde sterilization process during a pandemic: a safe alternative for re-use

M. Garcia-Haro*, C. Bischofberger Valdés, J. Vicente-Guijarro, C. Díaz-Agero Pérez, M. Fabregate-Fuente, P. Moreno-Nunez, J.M. Aranaz-Andrés, on behalf of the COVID-19 Research Group of the Hospital Universitario Ramón y Cajal
*Hospital Universitario Ramón y Cajal, IRYCIS, Spain

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 113-119

背景
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、マスク供給の問題を引き起こしている。マスクの再利用により供給不足の影響を低減できる可能性があるが、効率的かつ安全な汚染除去方法が利用可能でなければならない。

目的
低温蒸気 2%ホルムアルデヒド滅菌が効果的かどうか、それによりマスクの性能が維持されるかどうか、また安全に再利用できるかどうかを明らかにすること。

方法
14 枚の未使用の FFP2、FFP3 および N95 マスク製品に対して、2 サイクルの汚染除去サイクルを実施した。第 2 サイクルの実施後、各製品の目視確認を行い、蓄積された残存ホルムアルデヒド濃度を EN 14180 の基準に基づいて分析した。1 サイクルおよび 2 サイクルの汚染除去サイクル実施後、各製品のフィット係数についてテストを行い、5 種類の製品について塩化ナトリウムエアロゾルを用いて透過テストを実施した。

結果
汚染除去により、14 種類の製品中 3 種類で物理的な変形が認められた。残存ホルムアルデヒド濃度は、すべて許容できる基準値未満であった。汚染除去の各サイクル実施後に、フィット係数の不規則な増減が認められた。塩化ナトリウムエアロゾルによる透過テストでは、3 種類の製品において、ベースライン時および 1 回および 2 回の汚染除去サイクル実施後のいずれにおいても市販時に表示されているマスク分類に対応して同等または優れた結果が得られ、2 種類の製品では濾過能力が低いことが示された。

結論
低温蒸気 2%ホルムアルデヒドを用いた 1 回および 2 回の汚染除去サイクルの実施により、テストしたほとんどのマスク(14 枚中 11 枚)で変形はみられず、分析対象としたいずれのマスクでもフィット性および濾過能は低下しなかった。残存ホルムアルデヒド濃度は、EN 14180 の基準範囲内であった。この再処理法は、個人防護具が不足する場合に使用できると考えられる。

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監訳者コメント
個人防護具の再利用に関する様々な報告が存在する。実際には滅菌法と滅菌対象の組み合わせによって結果がケースバイケースとなることも多く、実臨床への適用は慎重に行った方が良いだろう。

用手呼吸時に発生する一過性の治療用エアロゾルの環境内放出に関する in vitro 研究

An in vitro investigation into the release of fugitive medical aerosols into the environment during manual ventilation

M. Mac Giolla Eain*, M. Joyce, A. O’Sullivan, J.A. McGrath, R. MacLoughlin
*Aerogen, IDA Business Park, Ireland

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 135-141

背景
呼吸窮迫状態の患者に対する用手蘇生時に、患者に治療薬を送達するためにネブライザー療法を用いることがある。しかし、このような治療用エアロゾルを生成・送達するために用いられるデバイスは、使用する治療薬を周囲環境内に放出し、医療提供者に対して治療用エアロゾルへの望ましくない曝露をもたらす可能性がある。

目的
フィルターを使用した場合と使用しない場合の、用手蘇生バッグを用いたエアロゾルによる薬物送達時に環境内に放出される一過性の治療用エアロゾルの濃度を定量すること。

方法
時間依存性の一過性エアロゾル濃度を、医療提供者を模した位置に設置した空力学的粒子径測定器により測定した。2 種類のネブライザー、すなわち振動型メッシュ式ネブライザーおよびジェット式ネブライザーについて評価を行った。模擬患者肺に送達されたエアロゾル量についても定量した。

結果
用手蘇生バッグの排気口にフィルターを設置した場合、一過性の治療用エアロゾルには、2 種類いずれのネブライザーについても、周囲環境内への放出の減少がみられた。振動型メッシュ式ネブライザーにより、模擬成人患者に対して最大量のエアロゾルが送達された(18.44 ± 1.03%、ジェット式ネブライザーでは 3.64 ± 0.26%)。

結論
本結果は、用手蘇生バッグを用いてエアロゾル療法の実施時に放出される一過性の治療用エアロゾルに曝露される可能性、ならびにネブライザの種類によって患者の肺への送達量に大きなばらつきがある可能性を強調している。

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監訳者コメント
この十数年でエアロゾル療法が呼吸器疾患の治療の中心となっている。数種類の機器があり、振動型メッシュ式、ジェット式、圧力型定量吸入式、超音波式などに分類される。災害や感染症パンデミックなどの緊急事態の時には瀕死の患者に呼吸治療の代替法が必要となるが、そのひとつが用手蘇生バッグによる呼吸療法である。しかしながら、エアロゾル治療時には投与薬剤の一部が周囲環境へ放出されるという望ましくない事態が発生する。すなわち、ペンタミジンやリポソーム型シスプラチンなどの吸入治療により周囲の医療従事者へ気道過敏などの副作用が発生することがわかっているが、これらに関する研究はあまり多くない。本研究では蘇生バッグのフィルターの有用性が医療従事者保護の観点から述べられている。

カルバペネム耐性グラム陰性細菌感染症の早期発見および至適管理

Early identification and optimal management of carbapenem-resistant Gram-negative infection

J.P. Bedos*, G. Daikos, A.R. Dodgson, A. Pan, N. Petrosillo, H. Seifert, J. Vila, R. Ferrer, P. Wilson
*Intensive Care Unit, Centre Hospitalier De Versailles, France

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 158-167

背景
グラム陰性細菌のカルバペネム耐性は病院環境において重症感染症の原因となる。欧州において、カルバペネム耐性グラム陰性細菌による感染症に対する治療決定の指針となる統一的なスクリーニング方針や同意された基準セットは存在しない。

目的
カルバペネム耐性の専門家に対する調査に用いるための一連のコンセンサスステートメントを作成すること、および欧州全域および全専門科の中に存在し得る類似性と差異を明らかにすること。

方法
調査には 43 のステートメントが含まれ、その内容はカルバペネム耐性微生物に関する以下の 6 つの主要なトピックにわたっていた:微生物学的スクリーニング、診断、感染制御策の実施、抗菌薬適正使用支援、リソースの使用、影響を及ぼすための政策。

結果
調査に対して、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、スペイン、および英国から計 136 件の回答(66%が感染症専門家、18%が微生物学専門家、11%が集中治療専門家、4%がその他/不明)が得られた。43 項目のすべてのコンセンサスステートメントについて、一致度は高いか極めて高く、このことから、カルバペネム耐性微生物による感染症の早期発見および至適管理について良好な一致度が示された。

結論
著者らは以下の推奨事項を提案する:(1)カルバペネム耐性微生物の流行がみられる国/病院において医療システムを受診した可能性のある患者にはスクリーニングが必要である、(2)すべての施設において迅速診断ツールが利用可能となるべきである、(3)すべての施設が、カルバペネム耐性微生物に対する独自の制御方針を作成し、定期的に監査を受けるべきである、(4)カルバペネム使用の適切性および不適切性を判定するための明確な戦略が必要である、(5)優先的な資金援助を、カルバペネム耐性微生物による感染症の管理に割り当てるべきである、(6)カルバペネム耐性微生物の国家間伝播を低減するために国際的協力が必要である。

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監訳者コメント
薬剤耐性は、近年急激な増加により超過死亡率上昇や医療費高騰の原因となり、感染による合併症の増加は公衆衛生的にも重要な課題となっている。特にカルバペネム耐性グラム陰性菌は多剤耐性であるがために治療が困難となっている。日本でもすでにカルバペネム耐性菌は検出されており、急性期病院においては、海外で医療を受けたことのある患者の入院時のスクリーニングは必須である。そのための体制構築(どの検体をいつ採取し、どのような検査を実施し、その費用について)を急ぐ必要がある、さらに耐性菌の迅速検査には、遺伝子検査の導入について検討しなければならない。と同時に耐性菌患者が入院してきたときの感染対策のマニュアル作成と同時に現場でのシミュレーションが必要であろう。

パンデミック第 1 波時のフランスの医療従事者における COVID-19 ワクチン接種を受ける意思:横断調査★★

Intention to get vaccinations against COVID-19 in French healthcare workers during the first pandemic wave: a cross-sectional survey

A. Gagneux-Brunon*, M. Detoc, S. Bruel, B. Tardy, O. Rozaire, P. Frappe, E. Botelho-Nevers
*University Hospital of Saint-Etienne, France

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 168-173

背景
医療従事者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最前線にありCOVID-19 ワクチン接種の優先的な候補と見なされている。著者らの目的は、フランスの医療従事者における COVID-19 ワクチン接種に対する受容度を明らかにすることであった。

方法
2020 年 3 月 26 日から 7 月 2 日に、匿名調査を行った。主要評価項目は、COVID-19 ワクチンが利用可能であるなら、ワクチン接種を受ける意思の有無とした。

結果
医療従事者 2,047 名が調査に回答し、回答者の 74%は女性であった。回答者のうち、1.554 名(76.9%、95%信頼区間 75.1 ~ 78.9)が COVID-19 ワクチン接種を受容すると回答した。高齢、男性、COVID-19 に対する恐怖、個人が認識しているリスク、および前シーズン中のインフルエンザワクチン接種が、仮定上の COVID-19 ワクチン接種に対する受容度と関連した。看護師および看護助手は、医師と比べて、COVID-19 ワクチン接種に対する受容度が低かった。ワクチン接種に対するためらいは、COVID-19ワクチンに対する受容度の低下と関連した。前シーズン中のインフルエンザワクチン接種率は 57.3%であり、回答者の 54.6%は次のシーズンにはインフルエンザワクチン接種を受ける意思があると回答した。

結論
COVID-19 ワクチン接種を受ける意思を有する割合は医療従事者で 75%に達しており、職種によって差が認められた。COVID-19 パンデミックによる、インフルエンザワクチン接種の受容度に対する促進作用はなかった。

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監訳者コメント
COVID-19 のワクチンがようやく日本でも医療従事者を対象に開始され、高齢者へと対象者が拡大する予定である。フランスの医療従事者のワクチン接種の意志に関するアンケートである、このアンケートは 2020 年 3 月から 7 月にかけて実施されたものであるが、第一波がフランスを襲い 1 日4,000 ~ 7,000 例が新規感染者として報告された時期であり、第一回目のロックダウンの最中でもあった。一方、この時点でワクチン開発は開始されているものの現実的にはなっていない状況下での医療従事者へのアンケートであり、COVID-19 のワクチンがどんな製剤であるかも不明な時点である。さらにその副反応や効果について考えるデータがなく、加えてインフルエンザワクチンとの対比があることから、接種同意へポジティブに作用した可能性がある。

新生児における肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)による院内感染症:分子疫学研究

Nosocomial infection by Klebsiella pneumoniae among neonates: a molecular epidemiological study

K. Luo*, J. Tang, Y. Qu, X. Yang, L. Zhang, Z. Chen, L. Kuang, M. Su, D. Mu
*Sichuan University, West China Second Hospital, China

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 174-180

背景
新生児における肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)による院内感染症および肺炎桿菌の薬物耐性は、大きな懸念である。高病原性肺炎桿菌感染症は、世界的に次第に増加が認められている。カルバペネム耐性高病原性肺炎桿菌による感染症は、臨床治療にとって課題となっている。

目的
新生児集中治療室(NICU)内の院内感染症における肺炎桿菌株の薬物耐性の傾向にみられる変化について評価すること、カルバペネム耐性肺炎桿菌の薬物耐性遺伝子および病原性遺伝子の分析を行うこと、およびこれらのカルバペネム耐性肺炎桿菌株が高病原性肺炎桿菌であるかどうかを明らかにすること。

方法
2013 年から 2018 年に肺炎桿菌による院内感染症を有した新生児計 80 例を、後向きに検討した。肺炎桿菌株 80 株を対象に薬物感受性試験を実施し、このうちカルバペネム耐性肺炎桿菌株 12 株についてさらなる検討を行った。

結果
肺炎桿菌は、NICU における院内感染症の 26.9%を占めた。カルバペネム耐性肺炎桿菌株は15.0%を占めた。院内感染症の肺炎桿菌株 80 株のうち、カルバペネム耐性肺炎桿菌の割合は、2017 年では 33.3%、2018 年では 53.3%であった。カルバペネム耐性肺炎桿菌株 12 株のうち 1 株は、drawing test において陽性であった。カルバペネム耐性肺炎桿菌株 12 株は、以下の 4 つの完全ゲノム複数部位塩基配列型(complete genome sequence types)に分けられた:cgST1(N = 2)、cgST2(N = 1)、cgST3(N = 1)、および cgST4(N = 8)。カルバペネム耐性に関わる遺伝子のうち、cgST4 株は NDM-5 を、cgST2 株および cgST3 株は NDM-1を、そして cgST1 株は IMP-4 を保有していた。カルバペネム耐性肺炎桿菌株 12 株のうち、rmpA/rmpA2(高病原性肺炎桿菌との関連が高い)を保有している株はなかった。

結論
新生児におけるカルバペネム耐性肺炎桿菌による院内感染症は増加しつつあるが、本研究では、カルバペネム耐性肺炎桿菌株のうちに高病原性肺炎桿菌は認められなかった。

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監訳者コメント
肺炎桿菌(KP)は人体の消化管や上気道に存在し、主要な院内感染の起炎菌のひとつであり、ESBL 産生は最も多い薬剤耐性機構である。近年、ESBL 産生株に加え、カルバペネム耐性株の検出が増加している。カルバペネマーゼ遺伝子型は、KPC、NDM、IMP等があるが、国や地域毎にその遺伝子型が異なる。2017 年 3 月より感染症発生動向調査によりカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)の病原体サーベイランスが開始されているが、2018 年に日本で分離された CRE は1,684 株で IMP 型が 254 株(85.5%)を占め、うち KP は37.5%で、増加傾向にある。本論文は中国の NICU からの報告であるが、日本でも CRE のNICU でのアウトブレイクの報告があり、今後注意が必要であり、遺伝子検査を含めた耐性菌検出体制の充実が必要である。
参考:国立感染症研究所の病原微生物検出情報(IASR)のカルバペネム耐性腸内細菌科医最近の病原体サーベイランス、2018: https://www.niid.go.jp/niid/ja/cre-m/cre-iasrd/9124-475d01.html

医療環境内における SARS-CoV-2 の検出:英国の COVID-19 アウトブレイクの第一波時における多施設共同研究★★

Detection of SARS-CoV-2 within the healthcare environment: a multi-centre study conducted during the first wave of the COVID-19 outbreak in England

G. Moore*, H. Rickard, D. Stevenson, P. Aranega-Bou, J. Pitman, A. Crook, K. Davies, A. Spencer, C. Burton, L. Easterbrook, H.E. Love, S. Summers, S.R. Welch, N. Wand, K-A. Thompson, T. Pottage, K.S. Richards, J. Dunning, A. Bennett
*Public Health England, UK

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 189-196

背景
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS- CoV-2)が病院環境内でどのように拡散しているかを理解することは、スタッフの保護、効果的な感染制御策の実施、および院内伝播の予防において極めて重要である。

方法
入院患者周囲の空気中および環境表面上における SARS-CoV-2 の存在について、患者の呼吸器症状の有無にかかわらず、検討を行った。2019 年の新型コロナウイルスアウトブレイクの第一波時に、イングランドの病院 8 施設で環境サンプル採取を行った。サンプルについて、逆転写 PCR およびウイルス分離試験を用いて分析を行った。

結果
SARS-CoV-2 RNA は、環境表面 336 カ所中 30 カ所(8.9%)で検出された。サイクル閾値は、28.8 ~ 39.1 の範囲であり、2.2 × 105 ~ 59 ゲノムコピー/スワブに相当した。同時に測定した細菌数は低く、このことから全 8 病院において看護師および施設スタッフにより実施された清掃は効果的であったことが示唆される。SARS-CoV-2 RNA は、患者 4 例から 1 m 以内の距離で採取された空気サンプル 55 個中 4 個で検出された。すべての場合について、ウイルス RNA 濃度は低く、空気中10 未満~ 460 ゲノムコピー/m3 の範囲であった。感染性ウイルスは、分析した PCR 陽性サンプルのいずれからも回収されなかった。

結論
効果的な清掃により、媒介物(接触)伝播のリスクを低減できるが、表面の種類によっては SARS-CoV- 2 の生存、持続および/または拡散が促進される可能性がある。空気中におけるウイルス RNA の存在については低濃度か検出不能であったことから、エアロゾル発生手技および非エアロゾル発生手技に対する具体的な個人防護具の使用に関する現行のガイダンスが支持される。

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監訳者コメント
これまで COVID-19 の感染経路は飛沫感染と接触感染が主であることが一般的に受け入れられているが、空気感染の可能性を否定できておらず、特殊な環境下では発生することが報告されている。環境中のコロナウイルスの検出は、防護具を含む感染対策手順に影響するため大きな関心事である。本論文では適切な清拭消毒を含む環境整備により環境汚染を最小にすることができること、また患者周囲の空気中へのウイルスの浮遊量も少ないことが確認され、現状の飛沫・接触感染対策で十分であると結論づけている。しかしながら、感染性はエアロゾル発生の状況と曝露時間により大きく左右されるため、この結果のみで安心することはできない。

手指衛生のための電子リマインダーシステムに対する医療従事者の認識および受容★

Healthcare workers’ perceptions and acceptance of an electronic reminder system for hand hygiene

P.-O. Blomgren*, B. Lytsy, K. Hjelm, C.L. Swenne
*Uppsala University, Sweden

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 197-204

背景
医療関連感染症(HCAI)は、病的状態、死亡、および QOL に対して有害な影響を多大に及ぼす。スウェーデンにおいて、全入院患者の約 9%が HCAI に罹患している。手指衛生は、HCAI を低減する上で重要な役割を担っており、単独で最も重要な方策であると考えられている。病院組織は、HCAI を低減するために積極的に取り組んでいる。医療従事者に対してリマインドおよび/または通知を行う電子システムの導入は、手指衛生に関する認識を強め、その遵守を高める。しかし、そのようなシステムを実施することに対する個人の認識、および医療組織がどのように取り組んでいるかについて検討した研究は少ない。

目的
医療従事者を対象に、医療組織における感染予防に対する認識、ならびに手指衛生の改善を促す電子リマインダーシステムに対する認識と受容について検討すること。

方法
定性的記述式デザインを用いて、看護助手、看護師、および医師(N = 38)を含めた 8 つのフォーカスグループ面談においてデータを収集した。内容分析を実施し、計画的行動理論に基づいてデータを検討した。

結果
医療従事者は、病院組織からのフィードバックが欠けているという認識をもっており、電子リマインダーシステムによって手指衛生の遵守を強化することに対して前向きであった。電子リマインダーシステムは、経営側から管理のためのツールとして用いられるとスタッフにストレスをもたらす可能性があるため、個人レベルのデータを記録すべきではない。

結論
全体的に、電子リマインダーシステムに対しては肯定的な受容が認められ、回答者はこのシステムによって行動変容をもたらすことができるという認識をもっていた。しかし、このような考え方は、個々の道徳観念を保全するためにさらに改善すべきであり、グループレベルにおけるフィードバックにより用いる必要がある。

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監訳者コメント
スウェーデンからの報告である。全入院患者の約 9%が一度は院内感染を経験しており、エビデンスに基づき実施される対策の中で、手指衛生は中心的に役割を担い、単一で最も効果的に微生物の伝播を遮断することができる。WHO は組織と個人の両者における行動変容を必要としており、教育、訓練、動機付け、システム改善などの多様な因子が影響する。これまで電子システムを利用して手指衛生を促すリマインダー機能が手指衛生の遵守率を改善することがすでに判明しているが、結果のフィードバックを個別にすることは「監視されている」という意識を高め、手指衛生改善への態度がマイナスに影響する可能性が本研究で示唆された。一方で、直接監視できないためホーソン効果を回避できる利点もあり、今後は職業別、部署別などのグループ単位での結果報告あるいは匿名化された報告により、現場の職員の遵守率向上が期待できる。

空中浮遊インフルエンザウイルス検出のための簡便かつ信頼性の高い方法としての静電ワイプ

Electrostatic wipes as simple and reliable methods for influenza virus airborne detection

S. Marty-Quinternet*, L. Puget, A. Debernardi, R. Aubry, N. Magy-Bertrand, J.L. Prétet, C. Chirouze, K. Bouiller, Q. Lepiller
*Laboratoire de Virologie, France

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 15-18

商品化された静電ワイプでの院内ウイルス検出プロトコルの性能について、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルスの懸濁液を静電ワイプに含浸させ、プロトコルの回収効率・再現性・検出限界を測定することにより実験的に評価した。プロトコルは 4 log10 のウイルス遺伝子コピー数の検出に十分な感度であった。インフルエンザ RNA は、室温で少なくとも 4 日間、静電ワイプ上に安定していた。インフルエンザ感染患者の 32 病室の高所に静電ワイプを設置したところ、静電ワイプの 75%(24 病室)でインフルエンザ RNA が検出でき、静電ワイプは空中浮遊インフルエンザウイルス検出のための簡便かつ信頼性の高い方法であることが示唆される。

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監訳者コメント
インフルエンザの呼吸器感染症のエアロゾル感染は医療現場で取り扱われることはあまりなかったが、新型コロナウイルス感染症も含め再検討が必要だろう。空中浮遊ウイルスについては簡便で信頼性の高い採取方法がなかったが、静電ワイプがそのひとつとなりうる。

ノースウェスト・イングランドにおける股関節骨折患者の COVID-19 の院内伝播の低減を目的とした限定的な施策

Limited implementation of measures to reduce nosocomial spread of COVID-19 in hip-fracture patients in the North West of England

S. Mastan*, T. Cash, R.A. Malik, C.P. Charalambous, on behalf of the COVIDHipFracture Study Group
*Health Education North West, UK

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 90-93

股関節骨折患者は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けやすい。ノースウェスト・イングランドの病院の整形外科外傷部門 23 施設において、COVID-19 の院内伝播の制御を図る方法を決定するために、横断調査を実施した。スワブ陰性の確定前に 19 施設(87%)が患者を病棟に入院させており、バリアナーシング(注:スワブ陰性が確定するまで厳重な看護を行う)が行われたのは 9 施設(39%)のみであった。21 施設(91%)では、COVID-19 患者が手術される可能性のある手術室で大腿骨近位部骨折患者の手術が実施された。外傷病棟および COVID-19 汚染区域で働く医師の定期的なスクリーニングは、それぞれ 3 施設(13%)、5 施設(22%)で実施された。22 施設(96%)では、医師が外傷病棟と汚染区域間を自由に移動していた。

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監訳者コメント
股関節骨折は高齢者に多く、整形外科領域の COVID-19 対策も重要である。流行期においては厳重な対策を行う必要がある。

病棟の微生物的な空気の質に対するプラズマ処理装置の有効性:培養によるモニタリング

Effectiveness of a plasma treatment device on microbial air quality in a hospital ward, monitored by culture

M. Fennelly*, D.J. O’Connor, S. Hellebust, N. Murphy, C. Casey, J. Eustace, B.J. Plant, J.R. Sodeau, M.B. Prentice
*University College Cork, Ireland

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 109-112

本研究では、アイルランドのコーク大学病院の成人呼吸器病棟における 4 床の病室内での 14 日間の介入中の空中細菌および表面の細菌の数に対するプラズマ処理の有効性を分析した。落下菌測定法と表面スワブを用いて 100 リットルの空気サンプルを平日に連日 1 日 2 回、4 週間採取した。プラズマ処理は空中細菌と真菌に対して培養で検出できるほどの効果を示さなかった。しかし、培養ベースのサンプル採取は効果を検出するのに感度が不十分であるという可能性や、または今回の試験期間はプラズマ処理が複雑な環境に作用するには不十分であったという可能性を排除できない。

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監訳者コメント:
COVID-19 以降、様々な微生物でエアロゾルによる感染が再評価されてきている。本研究は病室の空気をエアーサンプリングにより回収して、浮遊細菌、真菌を培養して評価しているが、プラズマ処理による十分な効果が認めなかった。

アルコールを含まない手指消毒剤および他の四級アンモニウム消毒剤は迅速かつ効果的にSARS-CoV-2 を不活化する

Alcohol-free hand sanitizer and other quaternary ammonium disinfectants quickly and effectively inactivate SARS-CoV-2

B.H. Ogilvie*, A. Solis-Leal, J.B. Lopez, B.D. Poole, R.A. Robison, B.K. Berges
*Brigham Young University, USA

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 142-145

背景
SARS-CoV-2は現在の世界的なパンデミックである新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである。このウイルスは新しいため、消毒に対する感受性はほとんど分かっていない。

方法
我々は市販の四級アンモニウム化合物の消毒剤 3 剤と研究室で調製した 0.2%ベンザルコニウム塩化物液 1 剤を用いて SARS-CoV-2 に対する浮遊試験を実施した。

結果
土壌存在下の負荷または硬水で希釈した場合でも、4 剤のうち 3 剤は 15 秒の接触時間内に完全にウイルスを不活化した。

結論
四級アンモニウム化合物は迅速に SARS-CoV-2 を不活化するので、病院および市中での SARS-CoV-2 の伝播を制御するのに役立つ可能性がある。

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監訳者コメント
アルコールフリーの四級アンモニウム消毒剤でも SARS-CoV-2 を不活化でき、四級アンモニウム消毒剤がアルコールが使用できない人の手指衛生の選択肢のひとつとなりえる。

ブラジル、サンパウロ州内部の病院において手術部位感染症の発生率と関連する空間的および社会人口統計学的因子

Spatial and sociodemographic factors associated with surgical site infection rates in hospitals in inner São Paulo State, Brazil

A.G.M.L. Carvalho*, D.C. Limaylla, T.N. Vilches, G.B. de Almeida, G. Madalosso, D.B. de Assis, C.M.C.B. Fortaleza
*São Paulo State University, Brazil

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 181-184

低~中所得国では、手術部位感染症(SSI)の高い発生率がみられることが多い。SSI 発生率と関連する空間的および社会人口学的予測因子を評価するため、本研究ではブラジルのサンパウロ州内部に位置する病院 385 施設に関する政府サーベイランスデータを分析し、地域との相関を検討した。多変量モデルにおいて、SSI 発生率には州都からの距離と正の相関が認められ(100 kmごとの発生率比(IRR)1.19、95%信頼区間[CI]1.07 ~ 1.32)、非営利施設(IRR 0.95、95%CI 0.37 ~ 0.85)および私立施設(IRR 0.47、95%CI 0.31 ~ 0.71)のほうが、公立病院よりも低かった。地域との相関を検討した結果から、州都から遠距離に位置する病院を SSI 予防策の標的とする必要があることが強調された。

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監訳者コメント
低~中所得国における手術部位感染症(SSI)の発生率を空間的および社会人口学的に評価した研究である。ブラジルでのこの研究で州都から遠距離に位置する病院で SSI 発生率が高いことがわかり、対策を強化すべき標的が浮き彫りになっている。

COVID-19パンデミック時における熱ストレスと個人防護具:NHSシステムの医療従事者の業務遂行、安全および健康状態に及ぼす影響★★

Heat stress and PPE during COVID-19: impact on healthcare workers’ performance, safety and wellbeing in NHS settings

S.L. Davey*, B.J. Lee, T. Robbins, H. Randeva, C.D. Thake
*Coventry University, UK

Journal of Hospital Infection (2021) 108, 185-188

個人防護具(PPE)は熱ストレスを高め、これによりPPE 装着者のパフォーマンス、安全性および健康状態に悪影響を及ぼす可能性がある。このような見地から、英国において新型コロナウイルスパンデミック時に PPE 装着を義務付けられている医療従事者に対して調査票を配布して、認識されている熱ストレスのレベルとその結果について評価を試みた。回答者は、いくつかの熱関連疾患の症状を経験していること、また熱ストレスにより認知機能および身体機能の両方が低下することを報告した。回答者の大部分は、PPE の装着により自身の業務の遂行が困難になると述べた。これらの回答、およびその他の回答から、パンデミック時に医療従事者が PPE を装着する場合の回復力を改善するために、現行の業務実践に変更を加えることが急務であることが示唆される。

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監訳者コメント
PPE による熱ストレスによる着用者の認知機能、身体機能が低下を評価した研究である。PPE 着用者のパフォーマンスを向上させ、安全性を確保するためには PPE を着用する時間を制限したり、より涼しい作業環境を提供することは重要である。COVID-19 入院施設関係者には一読をお奨めしたい論文である。

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Reproduced from the Journal of Healthcare Infection, Volume 91, © 2015 The Healthcare Infection Society, with permission from Elsevier.
Although the translation was carried out with the permission of Elsevier, the translation has not been reviewed by Elsevier prior to posting online.